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2014年年5⽉月24⽇日版
■特発性膜性増殖性⽷糸球体腎炎 (MPGN)の管理理 − MPGNの教科書的事項等 − C3 glomerulopathy (C3腎症) − 我々の特発性MPGNの管理理
NCKiDs (Nagoya City Kidney Disease Study Group)
MPGNの教科書的事項等
■ 膜性増殖性⽷糸球体腎炎 (membranoproliferative glomerulonephritis;MPGN) について● 1965年年にWestらが持続性低補体性腎炎として報告したことに始まる 病理理学的診断名である.mesangiocapilary glomerulonephritisとも 呼ばれる.
● 光顕的に、メサンギウム細胞増殖と基質の増加、⽷糸球体基底膜の肥厚 や⼆二重化(または棘形成)を特徴(基本像)とする.⽷糸球体病変は 通常、びまん性、全節性にみられ、増殖性変化が強い場合には分葉葉化 を呈する.
● MPGN には、特発性(⼀一次性)と膠原病やC型肝炎などの感染症等 に続発した⼆二次性のものがある.これらは光顕所⾒見見から区別すること は困難なことが多く、鑑別のためには臨臨床情報が⼤大きな役割を持つ.
■ ⼆二次性MPGNの原因疾患
● 感染性疾患:B型肝炎、C型肝炎、HIV感染、マイコプラズマ感染、 深部膿瘍、感染性⼼心内膜炎、シャント腎炎、マラリア、住⾎血吸⾍虫症など● ⾃自⼰己免疫性疾患:SLE、強⽪皮症、シェーグレン症候群、サルコイドー シス、⼤大動脈炎症候群など● 悪性腫瘍:⽩白⾎血病、リンパ腫、固形腫瘍など● 遺伝性疾患:α1アンチトリプシン⽋欠損症、補体⽋欠損症(C2、C3)など● パラプロテイン沈沈着症:クリオグロブリン⾎血症、軽鎖沈沈着症、重鎖 沈沈着症など● ⾎血栓性微⼩小⾎血管症:溶⾎血性尿尿毒症症候群、⾎血栓性⾎血⼩小板減少性紫斑病● その他:移植腎、妊娠腎、薬剤性(ヘロイン腎症など)
⾦金金⼦子佳賢ら. ⽇日腎会誌 52:899-‐‑‒902, 2010より改変
■ 特発性MPGNの分類● 電⼦子顕微鏡による⾼高電⼦子密度度沈沈着物(EDD)の存在様式により 以下の I〜~III型に分類される. I 型:内⽪皮下にEDDを認める II 型:基底膜内のlamina densa にEDDが帯状あるいはリボン状に 連続性に認められる III型:内⽪皮下と上⽪皮下の両⽅方にEDDを認める (I 型の亜型とも考えられている)
● MPGN II型は、dense deposit disease (DDD) と同義として、多く のテキストや⽂文献にその記載がある.しかし、1995年年のWHO分類 改訂では、MPGN II型は⼀一次性⽷糸球体腎炎から外され、代謝性⽷糸球体 病変の項⽬目にDDDとして分類されている.
■ MPGNの疫学● 本邦および北北⽶米、欧州での原発性⽷糸球体腎炎に占めるMPGNの 割合は5%と以下とされ、多くはない.
● 本邦および海外のいずれでもMPGNは、20歳以下の若若年年者に多く、 病型別では、I 型が70%程度度で最も多く、II 型、III 型は少ない.
Comprehensive Clinical Nephrology 9th ed, 2011⽥田熊淑男ら. ⽇日本臨臨床 62:1849-‐‑‒1855, 2004⼤大井洋之ら. ⽇日腎会誌 29:1413-‐‑‒1419, 1987
■ MPGNの症状● 偶然の検尿尿で発⾒見見される例例から⾁肉眼的⾎血尿尿を伴い急性腎炎様の発症を するものまで様々である.臨臨床症状とMPGNの病型は関連せず、症状 から病型を推定することは困難とされる.
● 学校検尿尿が普及している本邦では無症候性の尿尿異異常で発⾒見見される例例が 海外の報告に⽐比し多い. ⻑⾧長⾕谷川ら* Alchiら
nephrotic syndrome 19.0% 40-‐‑‒70% acute nephritic syndrome 10.3% 20-‐‑‒30% asymptomatic proteinuria and hematuria 70.7% 20-‐‑‒30% recurrent episodes of gross hematuria -‐‑‒ 10-‐‑‒20% *I 型についての検討
Alchi B, et al. Pediatr Nephrol 25:1409-‐‑‒1418, 2010 ⻑⾧長⾕谷川理理ら. ⽇日腎会誌 47:107-‐‑‒112, 2005
■ MPGNの最近の傾向● 本邦での発⾒見見契機は、学校検尿尿普及後は、chance proteinuria and/or hematuriaが有意に増加しており、急性腎炎症候群として 発症する例例は有意に減少している.
● 1980年年代と90年年代を⽐比較すると、90年年代に発症した症例例にネフロ ーゼ症候群を呈する例例が有意に少なく、蛋⽩白尿尿からみた臨臨床像は軽症 化している.
● 本疾患の発⽣生頻度度⾃自体も最近では有意に減少している.
⻑⾧長⾕谷川理理ら. ⽇日腎会誌 47:107-‐‑‒112, 2005Kawamura T, et al. Clin Exp Nephrol 17:248–254, 2013
■ MPGN I型の特徴● MPGNの中では最も多い.10才代の⼩小児に多い● 持続性低補体⾎血症がみられる(C3低下、C4正常〜~低下) ● 補体の古典経路路の活性化が関与● C3 nephritic factor (C3NeF) が30ー40%に陽性● 光顕所⾒見見では、基本病像のほかに管内増殖性病変や半⽉月体形成などの 管外性病変もしばしばみられる.● 蛍光抗体法では、C3 が係蹄壁に沿って顆粒粒状に、ときにfringe状に 強く染⾊色される. メサンギウム領領域にC3の染⾊色が⾒見見られることもある. その他、C1q、C4、IgG、IgM、稀にIgAの沈沈着をみることもある.● 電顕所⾒見見では、内⽪皮下のEDDとメサンギウム細胞の基底膜と内⽪皮細胞 の間へ侵⼊入(mesangial interposition)が特徴● ネフローゼを伴う症例例では、10年年後の腎⽣生存率率率は約40%と予後不不良良 (NSのない場合の腎⽣生存率率率は85%)● 腎移植後の原病再発は20ー30%にみられる
Alchi B, et al. Pediatr Nephrol 25:1409-‐‑‒1418, 2010Brenner & Rector's the kidney 9th ed, 2012⾦金金⼦子佳賢ら. ⽇日腎会誌 52:899-‐‑‒902, 2010
■ MPGN II型の特徴● 持続性低補体⾎血症がみられる(C3低下、C4正常) ● 補体の副経路路の活性化が関与● ⼩小児に多い● C3NeFは70ー80%に陽性 ● 光顕所⾒見見は I 型と類似● 蛍光抗体法では、⽷糸球体係蹄壁に沿いC3の著明な沈沈着を認め、しばしば メサンギウム領領域にまで沈沈着部位は広がる.C1q、C4、免疫グロブリン の沈沈着はないか、あってもわずか● 電顕所⾒見見では、⽷糸球体基底膜内に帯状あるいはリボン状にEDDの沈沈着を 連続性に認める.EDDは、尿尿細管やボウマン囊基底膜にも⾒見見られる● 10年年で50%は末期腎不不全となり予後不不良良● 腎移植後の原病再発は80ー90%
Alchi B. et al. Pediatr Nephrol 25:1409-‐‑‒1418, 2010Brenner & Rector's the kidney 9th ed, 2012⾦金金⼦子佳賢ら. ⽇日腎会誌 52:899-‐‑‒902, 2010
■ C3 nephritic factor (C3NeF)について ● C3NeF は、補体副経路路の C3転換酵素 (C3bBb、後述) に対する ⾃自⼰己抗体 (IgGクラス) である.● この抗体はC3bBbと結合すると、C3bBbの解離離・崩壊を防ぎ、酵素 活性を安定化させる.また、C3bBbに結合したC3NeFは、H因⼦子や I因⼦子の働きを阻害する.以上によりC3bBbの働きは強められ、C3は 持続的に活性化を受ける.● 補体系とC3NeF の関係は上記のようであるが、MPGNの病態とC3NeF との関連という点では多くの疑問が残っている.C3NeF活性と腎症状や低補体との関連は明らかにはなっていない.
● 補体制御蛋⽩白異異常とC3NeFが同時に存在したMPGN例例の報告もある.● 現在、国内で測定可能な施設はない.
北北村 肇. 補体学⼊入⾨門−基礎から臨臨床・測定法まで−, 学際企画, 2010⼤大井洋之,他. 補体への招待, メジカルビュー社, 2011Nicolas C. et al. Pediatr Nephrol 29:85-‐‑‒94, 2014Leroy V. et al. Pediatr Nephrol 26:419-‐‑‒424, 2011
■ MPGNの治療療● KDIGOのガイドライン(2012) 成⼈人および⼩小児のネフローゼ症候群を呈するもので、腎機能の持続 的低下が認められる場合には、経⼝口シク⼝口ホスファミド(CPM) またはMMFに加えて少量量の隔⽇日または連⽇日のステ⼝口イドを6カ⽉月以内 に限って投与することが望ましい(推奨グレード:2D) ⽷糸球体腎炎のためのKDIGO診療療ガイドライン, 東京医学社, 2013
● ネフローゼを呈し腎機能は保たれている⼩小児の特発性MPGNを 対象に⾏行行われたステロイド療療法のRCT(80例例を2群に分けた)が ある。プレドニゾロン40mg/m2の隔⽇日投与群(平均41ヵ⽉月間投与) はプラセボ群と⽐比較し有意に腎機能が保持された. Tarshish P, et al. Pediatr Nephrol 6:123-‐‑‒130, 1992
● そのほか、mPSLパルス+PSL、MMF、CPM、CyA、TAC、 ACEI/ARB、⾎血漿交換、エクリズマブなどの投与例例の報告がある.
■ 本邦におけるMPGNの治療療および予後に関する報告松村ら. ⽇日児腎誌 21:100-‐‑‒105, 2008● 1973年年1⽉月より2006年年12⽉月● 特発性MPGN 60例例(I型 50例例、II型 7例例、III型 3例例)● ステロイドパルス+経⼝口PSL(隔⽇日)、または経⼝口PSL連⽇日→隔⽇日● 無症候性発症群48例例(平均観察期間15.1年年)は、83%が尿尿所⾒見見正常化、 腎病理理所⾒見見改善、補体正常化.腎不不全例例なし● 有症候性発症群12例例(平均観察期間9.9年年)は、4例例が末期腎不不全に 移⾏行行(この4例例は発症時にネフローゼ症候群の状態)
Kawasaki Y, et al. Arch Dis Child 86:21–25, 2002● 1970年年より1997年年● 特発性MPGN I 型52例例● ステロイドパルス+経⼝口PSL(連⽇日→隔⽇日)+抗⾎血⼩小板薬+抗凝固薬、 または上記に加えCPM● 無症候性発症群35例例と有症候性〃17例例を⽐比較.治療療強度度に差なし● 尿尿蛋⽩白の残存は有症候性発症群に有意に多く、また透析導⼊入は 有症候性発症群の5例例のみ
C3 glomerulopathy (C3腎症)
■ MPGNの新分類(C3 glomerulopathy)● 従来、MPGNは病理理組織学的に分類され、治療療・予後などが検討 されてきた.近年年、MPGNの中で、免疫グロブリン沈沈着を伴わずに 補体、特にC3 の沈沈着のみを呈する⼀一群が存在し、それらに補体 副経路路の異異常活性化が関与していることがわかってきた.
● このような知⾒見見に基づき、蛍光抗体法でC3のみの沈沈着がみられ、 補体副経路路の異異常活性化の関与が疑われるものをC3 glomerulopathy (C3腎症)と呼び、これをDDDとC3 glomerulonephritis に分類する ことが提唱されている.
Dʼ’Agati VD, et al. Kidney International 82:379-‐‑‒381, 2012Bomback AS, et al. Nat Rev Nephrol 8:634-‐‑‒642, 2012Pickering MC, et al. Kidney International 84:1079-‐‑‒1089, 2013
■ 補体副経路路活性化機構
北北村 肇. 補体学⼊入⾨門−基礎から臨臨床・測定法まで−, 学際企画, 2010
C3はH2Oと反応しC3(H2O) を形成 ↓
液層でB因⼦子と結合しC3(H2O)B複合体を形成
↓D因⼦子によりC3(H2O)Bbを形成
↓これがC3を分解してC3bを形成.C3bは、 − 液層や⾃自⼰己細胞上ではH因⼦子等の 作⽤用で不不活性化. − 細菌膜などの表⾯面では、B因⼦子が 結合しC3bB複合体となり、 次にD因⼦子の作⽤用によりC3bBb (C3転換酵素)を形成. C3bBbはC3を分解しC3bを形成し、 副経路路の増幅経路路ができる
↓C3bBbにC3bが結合したC3b2BbはC5転換酵素として作⽤用
↓後期経路路(膜侵襲経路路)へ
P : プロパジン
Sethi S, et al. N Engl J Med 366:1119-‐‑‒1131, 2012
■ 補体副経路路が関与したMPGNの病因
Dʼ’Agati VD, et al. Kidney International 82:379-‐‑‒381, 2012
■ MPGNの新分類
Pickering MC, et al. Kidney International 84:1079-‐‑‒1089, 2013
■ C3 glomerulopathy
我々の特発性MPGNの管理理
■ 本疾患の管理理が難しい点● MPGNの病因の⼀一つとして、補体副経路路の異異常活性化があることが わかってきた.これまでMPGNについて治療療や予後について検討さ れてきたものは、主に病理理組織学的分類に基づいている.ゆえに、 異異なった病因のものが混在した状態で検討された可能性があり、 過去の報告を今後の治療療⽅方針に反映させにくい.
● また、治療療⽅方針を考える際に、過去の検討はRCTが少なく、多くは ⼩小規模のケースシリーズである.● ⼀一⽅方、診断に眼を向けると、補体副経路路の異異常活性化についての 本邦の検査態勢は⼗十分ではない.ごく限られた項⽬目のみが検索索可能 であり、⼗十分な鑑別診断は困難である.● 上記のような理理由から、本疾患の診断、治療療は“⼿手探り”の状態に ならざるを得ない.治療療については、これまである程度度の経験が あるmPSLパルス療療法および経⼝口ステロイド療療法を中⼼心に考えて いく.
■ 実際の診療療⼿手順 <診断①>● 低補体⾎血症*の持続、⾎血尿尿+蛋⽩白尿尿パターン等で腎⽣生検が施⾏行行され (腎⽣生検の適応は当グループのプロトコール参照)、光顕所⾒見見で MPGNパターンを認めた場合、まず、膠原病や感染症など⼆二次性 のものがないかどうかを⼗十分に評価する. *C3値:50〜~60mg/dl以下を⽬目安
● 蛍光抗体法の所⾒見見も確認し、⼆二次性のものやそのほかの原発性⽷糸球体 性疾患が否定されれば、暫定的に“特発性MPGN”と診断する.
■ 実際の診療療⼿手順 <診断②>● 蛍光抗体法でC3腎症を疑わせる所⾒見見であれば、補体副経路路の異異常活性 化をきたす病態についても考慮するが、現在のところ検索索可能な項⽬目 は限られ、⼗十分な鑑別は困難である.また、検索索可能な項⽬目も結果 判明までにはある程度度の期間を要する. 参考:補体副経路路異異常活性化鑑別のための理理想的な検査項⽬目 -‐‑‒ CFH・CFI・CFB活性 -‐‑‒ CFH・CFI・CFB・CD46 (MCP)・C3・CFHR5 (complement factor H-‐‑‒ related protein5)等の遺伝⼦子解析 -‐‑‒ C3NeF、抗CFH抗体、抗CFI抗体
● 最終的には電顕でのEDDの有無やそのパターン等により病型 (診断) を 確定する(しかし、結果判明までには時間がかかるため、実際の治療療 は電顕の結果を待たずに光顕および蛍光抗体法の所⾒見見をもとに開始 する.その際、C3腎症が疑われる場合でも、初期治療療はステロイド 療療法を選択する).
■ 実際の診療療⼿手順 <治療療>● 原則的にはmPSLパルス療療法および経⼝口ステロイド療療法を中⼼心に 治療療を⾏行行う. ① nephrotic and/or nephritic: − mPSLパルス3クール(パルス休薬期間はPSL1mg/kg/⽇日投与)施⾏行行 − 4週⽬目はPSL1mg/kg/⽇日、連⽇日 − 5週⽬目以降降PSL同量量、隔⽇日へ減量量 − ジピリダモール5mg/kg/⽇日 併⽤用 − mPSLパルス療療法は、当グループのIgANまたはHSPNで⾏行行う⽅方法に 準ずる.
② asymptomatic proteinuria and/or hematuria: − PSL1mg/kg/⽇日、連⽇日、4週間 − 5週⽬目以降降PSL同量量、隔⽇日へ減量量 − ジピリダモール5mg/kg/⽇日 併⽤用
■ 実際の診療療⼿手順 <治療療開始後>● 治療療により、症状や検査データの改善がみられればそのまま治療療を 継続.PSLは適宜減量量へ.● 治療療に全く反応がないわけでないが、効果が不不⼗十分と思われる症例例、 またはPSL減量量により増悪する症例例やPSLがなかなか減量量できない 症例例には、mPSLパルスの追加や免疫抑制薬(MZ、CPM、MMF等) の併⽤用を考慮.● 治療療に全く反応がない症例例(特に典型的なDDDなど) は、補体制御 因⼦子のgeneticな異異常等を有している可能性がある.しかし、それら について⼗十分な検索索をするのは今のところ困難である. このような症例例では、進⾏行行性に腎機能障害がみられるものであれば ⾎血漿交換などの⾎血漿療療法は試みてもよいかもしれない。エクリズマブ も選択肢の⼀一つとなる可能性はあるが、現段階では積極的には使いに くい.● その他:ARB/ACEI は、症例例によっては併⽤用を考慮してもよい.