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Title 発達障害のある小学生の子どもたちへの学生支援者によ る集団支援 ―他者との関わりを中心に― Author(s) 浦崎, 武; 武田, 喜乃恵; 崎濱, 朋子; 木下, 秀美 Citation 琉球大学教育学部障害児教育実践センター紀要 = The bulletin of the Research and Clinical Center for Handicapped Children(9): 137-146 Issue Date 2008-03-31 URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/5957 Rights

琉球大学教育学部障害児教育実践センター紀要 = …ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/20.500.12000/5957/1/No9p...1.エピソード1関わりのなかから発見する子

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Title 発達障害のある小学生の子どもたちへの学生支援者による集団支援 ―他者との関わりを中心に―

Author(s) 浦崎, 武; 武田, 喜乃恵; 崎濱, 朋子; 木下, 秀美

Citation琉球大学教育学部障害児教育実践センター紀要 = Thebulletin of the Research and Clinical Center for HandicappedChildren(9): 137-146

Issue Date 2008-03-31

URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/5957

Rights

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琉球大学教育学部障害児教育実践センター紀要

No.9,137-146,2007.

発達障害のある小学生の子どもたちへの学生支援者による集団支援

一他者との関わりを中心に-

浦崎武*武田喜乃恵*崎濱朋子*噸木下秀美*掌噸

ACaseStudyoftheGroupSupportforanElementarySchool

childrenwithDevelopmentalDisorderFromtheViewpointofa

supportinggroupofstudents

-FromTheViewpointofTheirEstablishingARelationshipwithOthers-

TakeshiURASAKr

TomokoSAKUHAMA**

KinoeTAKYUDA、

HidemiKINOSHITA*“

特別支援教育のスタートにより、ADHD、アスペルガー障害など発達障害のある子どもたち

の支援について様々な取り組みが学校および教育機関で行われている。琉球大学教育学部附属障

害児教育実践センターにおいても発達障害児を対象とした教育支援、発逮支援などの活動、実践

トータル支援活動を行っている。支援は典団支援と個別支援に大きく分けられている。今回は学

生支援者が中心となって行っている築団支援の成果について報告する。学生支援者は担当の子ど

もとユニットを形成し、そのユニット単位として遊び、レクレーション、造形的活動を主に行う

集団活動に参加する。複数のユニットを無理に一緒にしようとせずに自由な動きが形成できるよ

うなシステムで活動する。担当の支扱者に鐙られることにより集団のなかで脅かされずに他者と

関わる体験をし、お互いが楽しみを共有できるようにする。この活動は他者との関係性を育てて

社会性の発達を促進させるとともに、彼らが苦手とする社会適応のための素地を形成できるよう

に支援することを目的としている。そこで本研究では、集団支援活動における支援の特徴となる

エピソードを抽出して、その支援の効果を検討し、支授のあり方について考察した。その結果、

①子どもに寄り添い理解するために彼らの内的世界を知ること、②子どもたちと遊びをともに体

験するために子どもたちとの関係性を形成し世界を共有する接点を作ること、③活動の場に居ら

れる力、活動の成果を自分のものにするための自己感覚を育てること、④自己感覚を育てるため

に身体を動かす体感がともない、かつ主体性を引き出す楽しい活動を提供することが支援を行っ

ていくために必要な要素であると考えられた。

Iはじめに

特別支援教育のスタートにより、ADHD、ア

スペルガー障害など発達障害をもつ子どもたちの

支援について様々な取り組みが学校で行われてい

る。琉球大学教育学部附属障害児教育実践センター

においても発達障害児を対象とする発達支援、

「実践トータル支援活動」が2006年10月より始まつ

、FacultyofEducation,Uni・oftheRyukyus

,掌MiharaEleschool,OkinawaCity,Okinawa

Pref

事事。Guppynurseryschool

-137-

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琉球大学教育学部:障害児教育実践センター紀要第9号

もたちに寄り添いながら、彼らの不適応行動や身

体症状の予防と改善をめざし、さらなるより良い

関わり方や支援の方法を子どもたちやその集団支

援を通して学んでいく活動である。また、活動の

成果を支援のかたちとして実践研究としてまとめ

ることを通して、子どもたちから学んだことを再

び子どもたちに還元していていくことを目的とし

ている。

そこで本研究では、集団支援活動における支援

の特徴となるエピソードを抽出して、その支援の

成果を検討し、支援のあり方について考察するこ

とを目的とする。

た。支援は集団支援と個別支援に大きく分けられ、

個別支援を行った後に集団支援を行うプログラム

となっている。

個別支援、集団支援ともに子どもたちの興味・

関心に基づき支援を行っているため彼らは遊ぶこ

とを楽しみにして集団の場に参加してくる。特に

遊び、レクレーション、造形的活動を主に行う集

団支援活動においては学生たちの最初のミーティ

ングのなかで楽しむことを大切にすることを確認

して活動が始まることが多い。集団支援の場で楽

しむことは彼らが集団の場、将来的には、彼らに

とって大切な能力である社会の場に居られるため

の力(辻井,1999)を育むことをねらいとしてい

る。

社会性を育てるためには発達障害をもつ子ども

たちが他者との関係性を育てることが重要な課題

となってくる(浦崎,2005;浦崎2006)。そのた

めには高機能広汎性発達障害をもつWilliams.D

(1992)の自伝やBemporad(1979)が述べた自

閉症者たちの恐怖に満ちた内的世界を理解する必

要がある。内的世界を知らずに関わっていると様々

な2次障害が生じてくる。2次障害とは彼らの不

適切な行動に対する過剰な叱責や失敗による外傷

体験の形成、その外傷体験にともなう引きこもり

や不登校、恐怖や不安の増大によるストレスの解

消の問題としてのいじめや非行、ストレスが身体

化されたチックなどの神経症的症状、睡眠障害な

どである。このような2次的な問題は本人の性格

による影響もあるが、家庭環境や子どもたちへの

日頃の対応のあり方から生じてくることも多い。

障害児教育実践センターの集団支援の場では、彼

らの内的世界を理解し、彼らとより良い関係性を

形成し、彼らの個性あるいは障害からくる問題や

ストレスを軽減させ、2次的な問題に対応する支

援を心がけている。従って、支援においては担当

の支援者が子どもたちの護りとなり、集団のなか

で脅かされずに他者と関わる体験をし、お互いが

楽しみを共有できるようにする。そのような活動

を通して他者との関係性を育むことにより社会性

の発達を促進させるとともに、彼らが苦手とする

社会適応のための素地を形成できるように支援す

る。

実践トータル支援活動における集団支援は子ど

Ⅱ方法

1.手順

1)集団支援の活動のなかで子どもたちの行動

記録、および活動の様子を撮影する。場合によっ

ては大学院生の支援者(筆者武田、以下、リーダー

支援者)が関与しながら行動観察記録を行う。こ

こでは、学部学生支援者と子どもたちとの関係性

の様子、援助の効果を検討することが目的である

ため集団支援の取り組みのなかの自然な文脈を重

要視した記録を用いる。

2)複数のエピソード記録のなかから集団活動

の支援の効果として重要と思われるエピソードを

複数の支援者(筆者ら)が抽出する。その場合、

エピソードは学生支援者を中心とする支援および

それを支える担当の先生、子どもたちとの関係性

や支援のあり方に焦点を当てたものとする。エピ

ソードは行動の前後の文脈が分かるように行動観

察記録をそのまま利用する。

3)エピソードとして記述された行動について

前後の行動との関連性から推測される支援の効果

について分析する。

4)分析はエピソードごとに考察し、最後に総

合考察として学生たちによる集団支援の効果、今

後の課題について総合考察をする。

2.集団支援の構造と支援スタッフ

45分(18時45分~19時30分)を1セッションと

して月2回行っている。集団支援の前には個別支

援が行われており(18時~18時40分)、個別支援

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発達障害のある小学生の子どもたちへの学生支援者による集団支援

が終わり次第集団支援を行っている。個別支援は

個人の特徴に直接的に焦点を当てた支援であり、

子どもたちは場合によっては苦手な課題に向き合

わざるを得ないこともある。また、集団支援も全

体のなかの個人を意識した支援であり、彼らが苦

手とする集団活動のなかで安全な護りを保障し個

人が自分らしさを表現できる雰囲気を大切にして

いる。支援会場は縦横30メートルの大会議室を活

動ルームとして使用している。支援者は、集団支

援を主導するリーダーとして大学院生1人(武田)、

現職小学校教員2人(崎漬含む)、保育士2人、

大学教員1人(浦崎)の6人、学生支援者12人で

ある。学生支援者の大部分は前期に「障害児心理

検査法」、後期に「障害児臨床心理学」の識義の

受講者とそのOBで、講義と平行しながら実践支

援活動を行っている。集団支援活動ではひとりの

子どもに対してひとりの担当学生支援者がついて

いる。また、子どもたちの護りの必要性に応じて

個別支援の担当の先生が集団支援にも参加し、担

当ふたり体制で支援をする場合もある。

ずしも実際の診断に基づくものではなく、行動観

察や心理検査などの情報に基づく傾向を表してい

る)。

Ⅲ結果と考察

1.エピソード1関わりのなかから発見する子

どもがもつ特性を活かした支援

1)支援の記述

A児は活動中にしきりに「水が飲みたい」と訴

え落ち着きなく動き回っていた。あいにく水を飲

む場所がなかったのである。A児を-対一で関わっ

ている担当の学生支援者は、手で水をすくうよう

にして、「この水を飲もう」と、A児とその水を

飲むふりをした。それから周りにいた数人の子ど

もたちも一緒にみんなでごくごくと水を飲むふり

をしたり、水をかけ合うふりをしたりして遊んだ。

するとA児はその後「水を飲みたい」と言うことも

なく、落ち着いて活動に参加することができた。

この出来事から現実にできないことでもA児は

イメージで満足することができ、A児の対応には

イメージを使用することが可能な場合があるので

はないかと活動後の反省会において話をした。そ

れをさらに現場職員と大学院生との構成からなる

スタッフのケースカンファレンスで再検討し、A

児にとってその対応は効果的であることを全体の

学生支援者に伝えて、次回の活動に備えた。

また、別の日にA児が「喉が渇いた」と訴えて

いた。ある学生支援者が、以前「水飲みたい」と

訴えていたときの出来事を思い出し、手で水をす

くうようにし、「じゃあ今日はコーラ飲もうか」

とふたりで一緒にコーラを飲むふりをした。する

とA児は落ち着き、その後「喉が渇いた」と訴え

ることはなかった。

3.支援方針

学生支援者は担当の子どもとユニットを形成し

活動に参加する。バラバラに行動するたくさんの

ユニットを無理に一緒にしようとせずに独自の動

きが形成できるようにする。担当の支援者に護ら

れることにより、集団のなかで脅かされずに他者

と関わる体験をし、お互いが楽しみを共有できる

ようにする。そのような活動を通して他者との関

係性を育むことにより社会性の発達の促進、およ

び彼らが苦手とする社会適応のための素地を形成

できるように支援する。

4.支援対象児

集団支援は通常、幼稚園児1人、小学生10人、

中学生1人の計12名の参加により行われている。

今回、エピソードに登場する支援対象となる子ど

もはA児(小5,11歳女児、知的障害)、B児

(小4,10歳男児、ADHD)、C児(小3,9歳

男児、学習障害)、D児(小3,9歳男児、アス

ペルガー障害)、E児(小4,10歳男児、学習障

害)、F児(幼稚園、6歳男児、ADHD)、G児

(小6,12歳男児、自閉症)である(障害名は必

2)考察

A児の実態として衝動性と多動性が支援課題と

なっていた。信頼を寄せている学生に対して「水

が飲みたい」という要望を受け止めてもらいたい

という気持ちで要求をしたのであろう。学生支援

者もそのA児の期待に応えたいという気持ちで、

必死に手で水をすくい飲む振りをした。その場合、

予想できる対応としては「それは駄目です」、「い

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琉球大学教育学部:障害児教育実践センター紀要第9号

何を指摘されているかわからなかったのだと思う。

B児もそれ以上はつっこまず、また、ものすごい

早口で「だるまさんがころんだ」と遊びを進める。

途中でリーダー支援者が鬼を変わって交替で言っ

たりしながら進めていった。他の子と鬼を交替し、

今度はB児は走って止まる方の番になる。「だる

まさんがころんだ」のかけ声の間に猛ダッシュで

一気に鬼のところまで行き、タッチする。またB

児らしいなぁと思いながら見ていた。-通り鬼を

みんながやったので「次誰がやる~?」となって

いた時、B児がある人の名前を呼んだ。「○○先

生」誰しもが誰だろうという感じで回りを見てい

ると、B児が指をさしまた名前を呼んだ。指の先

にはたまたま今日来ていたB児の担任の先生がい

た。担任の先生が鬼をした。

けません」、「我慢しなさい」など禁止の発言によ

る対応が考えられるが、支援者はA児に対してとっ

さにその発言を避けていた。その禁止の発言をす

ることはA児と学生支援者との間で培ってきた関

係性が壊れてしまう可能性があったからであった。

おそらく、学生支援者が子どもたちとの関係性の

形成を意識して関わってきたことが、このような

自然発生的な水を飲む振りをする対応を可能にし

たと思われる。A児は実際に水を飲むことはでき

なかったが担当の学生支援者に自分の衝動を受け

止めてもらうことができた。これは「衝動の共有」

と言ってもよい衝動コントロールのあり方である。

共有したイメージを膨らませることによって衝動

を表現させて空想で満たすことができた。衝動を

表出させることで活動の間、「水が飲みたい」と

いう気持ちを受け止めることができ、苦手とする

待つという行為を可能にしたと考えられた。

その対応がうまくいったことを学生の反省会や

スタッフのミーティングで確認し、支援の対応の

あり方を共有していく。子どもたちの特性として

の衝動性に向きあい、遊びを通して支援者が受け

止め満たしていくことで、集団の場への適応へと

A児を導いていくことができた。A児にとって有

効な関わりのなかから発見できた個に応じた支援

といえる。

2)考察

B児の独特の行動がいたるところで出ている。

レクレーションを通して集団の場に入るのである

が集団活動が得意ではないB児は自己流の参加の

仕方をする。わざと早口で言ったり、みんなが想

像さえもしない、「心臓が動いた1胃が動いた!

腸が動いた!」と動きの細かいところを指摘する。

支援者はB児らしいところと感じながらも、腹が

たつという両方の気持ちをもって、その言動に関

わっている。そこで否定せずに「そこは見逃して

あげてよ」と言葉を返している。そこで、活動が

再スタートする。

B児の担任を鬼として指名することも予想のつ

かないことである。このような予想もつかない行

動が、学校現場の先生や保護者にイライラする気

持ちを作り出し、対応を混乱させてしまうと考え

られる。そこでたまたま見学に来ていたいつもイ

ライラさせられている担任の先生が鬼に指名され

る。B児の要求に担任の先生はこたえて鬼となる。

おそらく、B児のレクレーション活動のなかでの

振る舞いや要求に、学校生活のなかでの先生なら

ば応じてもらえなかったのかもしれない。しかし、

この集団の場ではその要求を満たしてもらい、集

団のなかでの取り組みに最後まで関わった楽しさ

を味わわせることができた。B児なりの集団で活

動する楽しさを得ることができた。日頃、満たさ

れない行為につきあっていきながら次の集団活動

2.エピソード2集団の場のなかで遊びを完結

させることの楽しさを味わわせる支援

1)支援の記述

“だるまさんがころんだ''をしたときのこと。B

児が最初に鬼をすることになった。「だるまさん

がころんだ」というかけ声をなんと言ったか分か

らないほど、早口で言う。まだみんなの準備がで

きていなかったのとあまりの早口で聞こえていな

かったので「B君、もう一回言って」ともう一回

言い直しになる。もう一度B児がすごい早口でか

け声を言う。そして、「心臓が動いた!胃が動い

た!腸が動いた!」と叫ぶ。それを言うのかとB

児らしいなという気持ちと、にくたらしいなぁと

いう気持ちでいた。そして、リーダー支援者が

「そこは見逃してあげてね」とお願いするように言っ

た。周りのみんなもそれに特に何か言うことはな

かった。多分、B児の発言に周りがついていけず

-140-

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発達障害のある小学生の子どもたちへの学生支援者による集団支援

への参加意欲を引き出していくことの繰り返しが、

集団の場で居られる能力を育てていくのであると

考えられる。ここで、彼の行動を否定し注意して

しまうことは、この活動の場へも参加できない状

況を作り出してしまうことにも繋がる。そのB児

に予想される行動の流れを、彼らの特性ととらえ

て腰を据えて関われる。

行機飛ばしを中断させずにしっかりとその遊びを

保証した対応をする。支援者スタッフは、今回の

活動の打ち合わせの時に集団の場に入れない子ど

もたちでも参加できる取り組みにすることを確認

しており、部屋から外へ出て遊ぶことも認められ

ていた。柔軟性のある支援方針により、みんなも

ひとつの部屋だけではなく、部屋から出て飛行機

を飛ばし始める。みんなが飛行機を飛ばすという

遊びを共有するかたちで自然と場を共有すること

が可能となり、C児に集団のなかに入るという苦

痛を味わわせずに集団に溶け込んでいる状況を作

り出すことができた。柔軟な支援方針は、集団の

場にいる怖さを体験させずに集団の場に居られる

体験を得ることを可能にしたと考えられた。

3.エピソード3柔軟性のある活動による集団

の場に居られるための支援

1)支援の記述

学生支援者たちが紙飛行機遊びの準備をしてい

ると、何人かの子どもたちが部屋に入って来て紙

飛行機を作り始めた。その中にあまりみんなと一

緒に活動に参加することのできないC児もいた。

C児は周りに抵抗感をもつこともなく興味を示し

たようで作り方の見本を見て作り始めた。集団支

援の事前ミーティングの時間になったので、子ど

もたちに外で作ってもらうように声をかけた。そ

の間C児は外の広場で紙飛行機作りをしていた.

集団支援が始まるといつも通りC児は部屋に入っ

てこなかったが、外で担当支援者と一緒に紙飛行

機を跳ばして遊んでいた。他のみんなが外に出て

きて飛行機を飛ばし始めると、C児もそのなかに

自然に混ざって遊んでいるように見えた。いつも

はみんなが来ると避けがちであったり、遊びを止

めてしまうこともあるが、飛行機遊びをとても楽

しんでいた。他の支援者にC児の飛行機を飛ばさ

せてあげたり、他の子どもが飛ばした飛行機を拾っ

てあげたり、自然な遊びのなかで交流する様子も

見られた。

4.エピソード4楽しみを共有できる他者との

体験に基づく支援

1)支援の記述

代表をひとり決めて、その代表を知らないもう

ひとりの選ばれた人が、代表を当てる"パチパチ

ゲーム''を行った。そのゲームは、みんなが円に

なって並び、当てる役割の人が外に出て、その人

が代表に近づいたらパチパチと大きく手を叩くゲー

ム(大きく手が叩かれたとき、近くに見つける代

表の人がいることになる)。ターゲットは、最初

は人だったけれど、3回目になると人ではなく、

ある子の靴下にすることになった。B児が探す人

になって、ある子の使用物だよということを示す

ために靴をぬがせたら、B児が「分かったこの臭

い靴」と言って、靴を蹴って確認しようとした。

みんなが「ブー(臭い靴ではない)」と間違いで

あることを応えたら、B児が大笑いした。その時、

みんなは何がおかしいのか分らなかったけれど、

ある2,3人の子どもは大笑いして転げまわって

いたことがあった。

2)考察

C児は飛行機作りに興味をもっていたようであ

り準備中にもかかわらず作り始める。少人数の子

どもたちもその側にいたようであるが、飛行機作

りへ夢中になったのであろうか、周りを気にする

素振りもなく取りかかった。周りの子どもたちは

活動が始まり部屋のなかに入っていったが、C児

はなかには入らなかった。その流れのなかで、担

当支援者はC児に活動が始まったからなかに入り

なさいと促すのではなく、一緒に活動の場の外で

紙飛行機を飛ばすことにした。興味をもった紙飛

2)考察

B児は授業中、みんなと違うポイントに反応し

て一人で大笑いするなどクラスでは異質さが際立っ

てしまっていて、周りの子どもたちが引いてしま

うことが多く、B児と一緒に遊んだり、おしゃべ

りをしたりするような友だちがいないということ

を本児の学校の先生は言っている。周りの友だち

-141-

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琉球大学教育学部:障害児教育実践センター紀要第9号

加していないE君のことが心配だから一緒にいて

あげているんだよね」と声をかけた。それを聞い

ていたE児はF児のその気持ちに応えるように側

に寄ってくる。たまたまF児が輪ゴムを手にかけ

ているのを見つけた先生がそこから遊びの糸口を

作れるかもしれないと思い、ゴム遊びを提案する

とF児がそれに乗ってきた。F児は得意そうに指

でくるくるとゴムを回し始めた。E児はできない

からとやろうとしなかったが、E児の担当の学生

支援者がE児のすぐ横に来て「どんなふうにやる

の?」と声をかけると、今までやろうとしなかっ

たE児が、学生支援者に見せてあげようと、指で

ゴムをくるくる回し始めた。その様子を見ていた

E児の担当の先生は、半年以上E児に寄り添いな

がら関わってきた学生支援者に対してE児が、信

頼を寄せ、「この学生支援者に見せてあげたい」と

いうE児の気持ちが感じられたと受け止めていた。

と笑いのポイントが違うということは、友だちと

の関係性を形成するための接点をもつことが上手

くできないということである。些細なことのよう

に思えてしまうのであるが笑いを共有するという

ことは興味を共有するということであり、他者と

の関係性を形成するための重要な土台としての問

題に関わってくる。参加していたB児の学校のコー

ディネーターである現職教員スタッフが「このゲー

ムのときのようにみんなで笑うことが学校ではみ

られない」という驚きはこの活動のなかには学校

にはない独特の何かが起きているということとし

て考えることができる。ここでの笑いの要因は定

かではないが、彼らが笑いを共有できる場を提供

するということは、活動の場が、社会性の基盤と

なる共有世界を作り出すきっかけを提供し続ける

場となっているという証であり、このことより子

どもたちへの重要な発達支援を行っていると考え

ることができる。

2)考察

集団活動に参加できないE児とF児の様子をE

児の担当の先生とF児の担当の先生、さらにE児

の担当の学生支援者が見守っている。E児の担当

の先生はE児が活動には加わっていない姿を見て、

どうにか遊びを共有しようと誘ってみるが動く気

配はない。そこで担当の先生は無理に誘わずに、

E児がこの場にいることの意味についてE児の立

場になって考えている。曇った表情でその場を離

れようとしないE児の姿に対して担当の先生はE

児が参加しようとしているができない姿としてと

らえ、E児の気持ちを受け止めた。一方、F児の

担当の先生はF児がE児の行動を模倣しているの

を見逃さずにとらえ、F児がE児に対して憧れの

気持ちをもっていることを思いだし、F児とE児

の関係性を意識した上で「F君は遊びに参加して

いないE君のことが心配だから一緒にいてあげて

いるのだよね」という言葉かけをする。それは活

動に加われないというE児のネガティブな状態に

対する肯定的な意味づけであり、E児を楽にして

あげられる言葉かけである。ここで見られた支援

は担当の先生が子どもの気持ちを汲み取った上で

の対応であり、子どもたちに寄り添い、彼らの行

為をポジティブに意味づけることで彼らの集団に

入れない状態やそれにともなう気持ちを支えたと

5.エピソード5担当ユニット制による1対1

の関係性の形成がもたらす子どもへの理解に基

づく支援

1)支援の記述

集団に参加しないで、むすっとした表情で小学

5年生のE児が立っていた。そして2,3メート

ル離れたところで幼稚園児のF児も参加せずに、

むすっとした表情。E児の担当の先生は、E児が

活動の部屋から出て行かずにここいるということ

は、遊びには参加していなくても彼なりに参加し

ようとしていることとしてとらえて関わった。最

初は遊びの中からできそうなことを見つけてきて

遊びに関われるような機会を作ったがなかなか乗っ

てこなかった。近くで遊んでいたB児は「一緒に

やろう」と何度か声をかけに行くが、それでも遊

びの輪の中に入ってこようとはせず、表情も曇っ

たままだった。そうこうしているとF児の担当の

先生が来て、参加していない2人の様子を見てい

て気がついた。F児がE児の方をチラッチラッと

様子をうかがうように見ており、E児が手を後ろ

にやれば、F児も同じように手を後ろにやり、む

すっとした表情も態度も同じよう。F児がE児に

対して憧れの気持ちをもっていることやとても大

好きなことを知っていたので、「F君は遊びに参

-142-

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発達障害のある小学生の子どもたちへの学生支援者による集団支援

考えられる。

さらに、F児の担当の先生が、F児が手にかけ

ている輪ゴムを使って、F児をゴムを回す遊びに

導く。F児はそれに乗ってきて楽しむことができ、

気持ちをほぐすことができた。そのことをきっか

けに同様にE児にも輪ゴムを使って働きかけるが、

E児はその遊びにも加わらない。F児の担当の先

生とF児は輪ゴムという媒介を用いて関わりを楽

しむことができたが、その媒介は、その時点では

E児には役立たなかったと言える。しかし、そこ

でE児の学生支援者がE児の側に寄り添いながら

「どんなふうにやるの(どんなふうにゴムで遊ぶ

の)」と声をかけたら、輪ゴムを使ってゴムを回

し始めた。このことは、E児の先生が、信頼を寄

せている学生支援者に対して、「この学生支援者

に見せてあげたい」というE児の気持ちが感じら

れたと受け止めたように、この場合は媒介として

輪ゴムではなく、E児とE児の担当の学生支援者

とのユニットによる関係性がE児の気持ちを引き

出させたと考えられた。

E児の担当の先生、F児の担当の先生、さらに

E児の担当の学生支援者が示したように集団に入

りたくても入れない子どもたちにきめ細かく寄り

添う姿勢が、彼らが他者と繋がる糸口を作り出し

ていくように考えられた。集団に交われない場面

においても人との繋がる体験ができることは、こ

の集団支援による担当ユニット制の成果と考えら

れた.

こると、そのとき初めて自分が何か変なことを言っ

たことに気づいたようで、恥ずかしそうに苦笑い

をし、どうしたらいいんだろうというような様子

だったが、学生支援者が「G、リンゴって言おう」

と言うと「リンゴ!」と言うことができた。そん

なふうにしばらくやっていると少しずつ落ち着い

てできるようになっていた。『フルーツバスケッ

ト』というかけ声の時にみんなが動くことに気が

ついたようで、そのときは自分から動くことがで

きるようになっていた。そしてまた鬼になった時

には、学生支援者が何も言わなくても、自ら『フ

ルーツバスケット!』とみんなの前で言うことが

できた。自分の言った言葉に反応してみんなが一

斉に動いたことに、G児はとても嬉しそうに、目

をキラキラとさせていた。ルールがわからず遊び

に参加していても、いつもはその場に馴染まない

ような行動や発言が目立っていたG児だったので、

その一連の様子はとても感動的だった。それまで

は場にそぐわない行動や勝ち負けだけを気にする

などの行動が多く、支援者はそれを見守る役割が

多かった。ルールにそって初めて遊ぶことができ

た。

2)考察

ルールが分らない状態で集団支援への参加が多

いG児は、その分からなさもあって集団活動に対

する不安も大きいように思われる。初めて鬼になっ

た時、学生支援者が「せ-の!」とお題を言う掛

け声をかけると、フルーツの名前を言わずに、

「せ-の!」という言葉をG児は繰り返して言っ

た。きっと、オウム返しをしたのだと考えられる。

それに対してみんなが笑った。そこでG児は自分

の発言に対する周囲の笑いが自分に向けられる驚

きの体験とともに異変を感じたと考えられる。す

ぐに学生支援者が寄り添って漣りになりながら、

学生支援者が「G、リンゴって言おう」と援助し、

遊びのルールに乗せていく。ちょっと安心感が出

てくると、G児は目覚めたように周りの言葉や動

きの変化に意識が向いていく。おそらく、自分の

発言で周囲を動かすことができることに新鮮な驚

きと喜びを感じていたと思われる。その遊びから

引き出される新鮮な感覚が、周囲の行動をしっか

りと見るということに繋がっていったと考えられ

6.エピソード6担当支援者の寄り添う援助に

より周囲の子どもたちとの関わりから学ぶこと

ができる支援

1)エピソードの記述

G児はルールを理解して遊びに参加することが

なかなかできない。フルーツバスケットをしたと

きもG児はルールがわかっていないようで、不安

そうにしていた。担当の学生支援者は「桃だよ。

G立って。行くよ!」などと具体的に声かけをし、

初めは担当の学生支援者にうながされて動いてい

た。初めて鬼になった時学生支援者が「せ-の!」

とお題を言う掛け声をかけると、フルーツの名前

を言わずに、「せ_の!」という言葉をG児は繰

り返して言った。それに対してみんなに笑いがお

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琉球大学教育学部:障害児教育実践センター紀要第9号

たりするのを「そこは見逃してあげてね」とその

行為は受け止めながらB児の独特のテンポを大事

にしている。エピソード1と2に共通して言える

ことは学生支援者が子どもたちとの関係性を大切

にして子どもたちに寄り添った関わりをもってい

るということである。寄り添うことにより子ども

の理解が深まり、理解に基づいて関わりをもつこ

とにより子どもの個性を活かした支援や遊びを最

後まで続けさせることを可能にするのであると考

えられる。また、今後の検討課題でもあるが、学

生のもっている指導者でも養育者でもなく、子ど

もでもない中立性が子どもたちの遊びのもつ開放

感と安心感を作り出しているようであり、その関

係性に護られることにより遊びやレクレーション

の支援効果を作り出していくように思われる。

た。そしてオウム返しではあるが、『フルーツバ

スケット』という自分が発したかけ声でみんなが

動くことに気づいていく。

自分の発言で周りが一斉に動くという体験は彼

の言葉がみんなの身体を動かし、それにともない

みんなの身体の動きに導かれるように自分の身体

も動いていく。それは身体の共鳴的な動きのよう

な関係性に基づく発達を促す動きでありG児の発

達的な支援へと結びついていくものだと考えられ

た。その発達的支援を支えているのは支援者であ

り、周囲を落ちついて見ることができる安心感を

与え、支援者がどのように言えば良いのか、動け

ば良いのかの指示を与えることにより、集団の動

きを意識し、G児が自分の力(言葉)で集団を動

かす力を体験した。集団の反応を意識することに

より、すなわち自分の力を使うことで適応しやす

い環境を作っていく力を身につけていく素地を形

成することに繋がる体験をしたのだと考えられた。

2.周囲の子どもたちとともに遊ぶことを通した

体験から自己感覚を育てる支援

教室で笑いを共有できずに浮いてしまうB児が

ともに笑いを共有できる仲間が存在し、それを引

き出す遊びがあって集団の場で衝動をコントロー

ルし、集中力を持続することができた(エピソー

ド4)ように、集団活動支援には興味・関心を引

き出す遊びがあり、それをともに楽しむ子どもた

ちが存在する。エピソード6においてG児はフルー

ツバスケットの活動のなかで自分の発言が集団の

子どもたちの笑いを作り出したこと、自分の発言

が集団の子どもたちを動かしたという体験をする。

また、その動きにつられるように自らも動く体験

をする。多くの他者の視線が自分自身に向かうな

かで、支援者を讃りに周囲の動きを意識しながら

遊ぶ体験をすることはG児の日常生活では味わえ

ない体験であったと考えられるだけに貴重である。

周囲の子どもたちがいて、そこから共有体験が生

まれ、その体験が嬉しさや喜び、新鮮な体験に繋

がっていく。集団活動を通して自分の働きかけに

よる他者の反応は、自分が自分として存在する感

覚を引き出していくと考えられた。

Ⅳ総合考察

1.子どもに寄り添うことによる子ども理解に基

づいた支援

学校の先生や家庭での親は注意の問題などのた

め、気がかりな子どもたちに声をかけるとき、何

らかの指示や意図をもっていることが多い。「○

○しましょうね」、「○○の時間だよ」、「○○しな

さい」、「COしたら良かったね」という言葉かけ

が増えてしまいがちである。ソーシャルスキルト

レーニングも基本的にはその場にあった適切な行

動を身につけてもらうためのものであり、その活

動にはトレーニングをする側の意図が含まれてい

る。

当センターにおける集団支援活動では、ソーシャ

ルスキルトレーニングとは異なる側面も大事にし

ている。まず、支援者から子どもたちの世界に触

れていく姿勢である。エピソードlでは、A児が

「水が飲みたい」という子どもの気持ちに寄り添っ

て一緒に水を飲むふりをして、その気持ちを満た

してあげている。エピソード2では、“だるまさ

んがころんだ"で鬼になったB児は「心臓が動い

た1胃が動いた1腸が動いた!」と叫んだり、も

のすごい早口で「だるまさんがころんだ」と言っ

3.脅かされずに集団の場に居られる力を育てる

支援

集団に入れない子どもがいても支援者のミーティ

ングでそのような子どもが自然に集団に入れるよ

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発達障害のある小学生の子どもたちへの学生支援者による集団支援

うな遊びを企画したり(エピソード3)、集団の

輪のなかに入れなくても、その場に居ることが活

動への参加であるととらえて、歩み寄って子ども

たちの不安や葛藤からくる気持ちを理解するよう

に努め支えてくれる支援者がいる(エピソード5)

ことで子どもたちは脅かされずに集団に居られる

体験をすることができる。支援者はできる限り子

どもの内的世界に歩み寄り彼らの気持ちに寄り添

い、彼らの行動を理解しようと努めることの重要

性が示唆された。

また、エピソード5のE児とF児が示した「F

児がE児の方をチラッチラッと様子をうかがうよ

うに見ており、E児が手を後ろにやれば、F児も

同じように手を後ろにやり、むすっとした表情も

態度も同じよう。F児がE児に対して憧れの気持

ちをもっていることやとても大好きなことを知っ

ていたので・・・」の場面は、子どもと子どもと

の関係性のなかにも自然なかたちで寄り添いが芽

生え、憧れの気持ちなどによる他者との同一化や

モデリングなどの学習機会も生じてくることが考

えられる。寄り添ってくれる支援者や子どもたち

同士の好意的な関係性が、脅かされずに他者と関

わるという体験を作り出し集団活動による支援を

実りあるものとすると考えられる。

を動かす体感のともない、かつ主体性、積極性を

引き出す楽しい活動を提供することが考えられる。

高機能広汎性発達障害児について辻井(1999)が

述べているように集団のなかで圧倒的な迫害的な

不安が生じ、脆弱や自己感覚が脅かされることが

集団でうまくやれない要因として考えられる。こ

のことは必ずしも高機能広汎性発達障害児に限っ

たことではなく、他の発達障害児であっても衝動

性や多動性、学習能力の偏りという障害ゆえに他

者との関係性がうまく形成できずに迫害的不安が

生じることはあると思われる。従って、支援者は

そのような子どもたちの内的世界を理解し、子ど

もたちと繋がり、子どもたちの不安を軽減させる

護りとなることは重要な基本支援方針と考える必

要がある。

その基本方針を前提に今後のめざすべき支援を

まとめて表現すると「子どもたちの内的世界に歩

み寄り、そして気持ちに寄り添い、他者との関係

性を育てて、共有世界を築き、身体を動かす体感

のともなう活動を通して、自己感覚を育てる支援」

ということになる。

この支援活動の積み重ねにより、達成感や充実

感を根付かせ、社会に適応していくための肯定的

な自己感覚(自己肯定感)や安定したアイデンティ

ティを築いていくのだと思われる。

4.内的世界に歩み寄り気持ちに寄り添い、他者

との関係性を育てて共有世界を築き、身体を動

かす体感のともなう活動を通して自己感覚を育

てる支援

エピソード1から6に示されるように集団支援

活動の成果として支援者が子どもたちから学んだ

支援のあり方は上記lから3に示した「子どもに

寄り添うことによる子ども理解に基づいた支援」、

「周囲の子どもたちとともに遊ぶことを通した体

験から自己感覚を育てる支援」、「脅かされずに集

団の場に居られる力を育てる支援」である。その

3つの支援を行っていくために必要な要素として、

①子どもに寄り添い理解するために彼らの内的世

界を知ること、②子どもたちと遊びをともに体験

するために子どもたちとの関係性を形成し世界を

共有する接点を作ること、③活動の場に居られる

力、活動の成果を自分のものにするための自己感

覚を育てること、④自己感覚を育てるために身体

Vおわりに

活動のなかでの遊びやレクレーションには活動

における最低限のきまりがあり、楽しみながら遊

びに含まれるルールを守っていくことがその都度、

繰り返えされていく。今回の実践研究報告では触

れることはできなかったが、このルールを守る取

り組みをこの活動のもつ楽しみや支援者のサポー

トのなかで体験することは、発達障害をもつ子ど

もたちが苦手とする集中力を高めること、衝動性

をコントロールすること、多動性を抑えることに

結びついていく効果が考えられる。それ以外にも

集団支援による活動にはさらに多くの彼らの社会

性を育てる要素が含まれていることが想定される。

今回、検討できなかったことや現段階では上手く

言語化できない効果について今後の検討課題とし

たい。今後も集団による支援活動をフィードバッ

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琉球大学教育学部:障害児教育実践センター紀要第9号

汎性発達障害(pp239-245).ブレーン出版.

浦崎武(2005):広汎性発達障害者の身体の外枠

作りと内枠作りによる心理療法一他者との関係

性の成立と発達的支援.琉球大学教育学部障害

児教育実践センター紀要,7,1-11.

浦崎武(2006):高機能広汎性発達障害をのある

小学生男子への重要な他者としての関係形成に

よる適応支援.琉球大学教育学部障害児教育

実践センター紀要,8,1-18.

Williams,,(1992):NobodyNowhere.、New

York:Avonbooks・河野万里子訳(1993):

クし、考えながら活動の取り組みや成果を積み上

げていくことが必要であることが本研究を通して

示唆された。

引用参考

Bemporad.』.R・(1979):Adultrecollectionsof

aformerlyautisticchildrenJournalof

AutismandDevelopmentalDisorders,9(2),

179-197.

辻井正次(1999):複合的大グループでの治療教

育例.杉山登志郎・辻井正次(編者)高機能広 自閉症だったわたしへ新潮社.

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