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アプリケーションノート 含量均一性試験、分析、同定 著者 Julia Griffen Agilent Technologies, Inc. 概要 このアプリケーションノートではインタクト医薬品剤中0.5 % w/w まれるワルファリンを、透過 ラマン分光 (TRS) いて測定時間 20 定量する研究について説明します 1 TRS によりサン プルの前処理なしで 2 つの形態のワルファリンを区別して定量できます。従来のクロマトグラフィー技法 では、溶媒和によって形態情報破壊されてしまうためこのような分析はできませんTRS 使用ると、含量均一性試験結晶多形分析において、固形経口剤型医薬品高速かつ自動非破壊定 バルク分析可能になります塩形態不純物むワルファリン錠剤透過型 ラマン分光による定量分析

塩形態不純物を含むワルファリン錠剤の ラマン分光 …...1,700 cm–1 の領域で API と重なる強いラマ ン活性色素が存在するためです。本研究の限

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Page 1: 塩形態不純物を含むワルファリン錠剤の ラマン分光 …...1,700 cm–1 の領域で API と重なる強いラマ ン活性色素が存在するためです。本研究の限

アプリケーションノート

含量均一性試験、分析、同定

著者

Julia Griffen Agilent Technologies, Inc.

概要

このアプリケーションノートでは、インタクト医薬品剤中に 0.5 % w/w で含まれるワルファリンを、透過型ラマン分光 (TRS) を用いて測定時間 20 秒で定量する研究について説明します1。TRS により、サンプルの前処理なしで 2 つの形態のワルファリンを区別して定量できます。従来のクロマトグラフィー技法では、溶媒和によって形態情報が破壊されてしまうため、このような分析はできません。TRS を使用すると、含量均一性試験や結晶多形分析において、固形経口剤型の医薬品の高速かつ自動の非破壊定量バルク分析が可能になります。

塩形態不純物を含むワルファリン錠剤の 透過型ラマン分光による定量分析

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はじめに

高純度のワルファリンには、アモルファスナトリウム塩 (WS) および結晶クラスレート (WSC) 形態があります。クラスレート形態は保管中にアモルファスナトリウム塩に解離することがありますが、この変化は HPLC では区別できません (両方の形態が分析結果に影響します)。製剤中の医薬品有効成分 (API) の個々の形態を定量することは、製品の重要品質特性の 1 つになります。両方の形態を即座に定量するメソッドが、非破壊で、溶媒を使用

せず、廃液も生成せず、人的および材料の点から見てリソースも少なくて済むものであれば、有益です。このアプリケーションノートでは、含量均一性試験における非常に少ない含量 (1 mg、0.5 % w/w) のワルファリンの測定と、この微量における 2 つの塩形態の区別の実行可能性を検証します。

実験方法

図 1 は、高純度のワルファリン形態のラマンスペクトルを示しています。2 つの形態のスペクトルは非常によく似ています。以下の波数において、スペクトルのピーク位置と強度に微かな差が存在します。

• 680 cm-1

• 818 cm-1

• 1,030 cm-1

• 1,420 cm-1

• 1,460 cm-1

• 1,635 cm-1

図 1. ワルファリンナトリウムおよびワルファリンナトリウムクラスレートの透過型ラマンスペクトルと、算出されたスペクトル値の差

200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,6000

5

10

15

X: 1030

波数 (cm-1)

データ

X: 680

X: 1420

X: 1460 X: 1635X: 818

ワルファリンナトリウムワルファリンクラスレートスペクトルの差

×10–3

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濃度を正確に予測するために、製剤中のすべてのばらつき (成分および物理的要因) に対応する実験計画法 (DoE) のプロセスに従ったキャリブレーションを使用します。図 2 に示すように、使用した主な変数は色素 (ラマンへの強い寄与)、ワルファリン形態 (0.35~ 0.71 % w/w)、ラクトースでした。19 種類のキャリブレーションサンプルを用意し、各種類 N = 7 錠で打錠しました。

錠剤を Beam Enhancer 測定トレイに配置し (図 3 参照)、Agilent TRS100 透過型ラマン定量分析システムでスキャンしました。サンプルの取り込みは、650 mW のレーザー出力 (830 nm) で、20 秒の積算時間と設定しました。

Beam Enhancer は、錠剤から反射したレーザー光を再利用します。その結果として、大量のレーザー光がサンプルを浸透し、Enhancer がない場合よりも高い透過型ラマン強度が得られます2。

結果は 3 回の測定から取得し、399 個のスペクトルを得ました (19 サンプル × 7 錠剤 × 3 回スキャン)。

ワルファリン API

賦形剤

ナトリウムクラスレート50:50

図 2. DoE 中心立方体デザイン、19 サンプル

図 3. Beam Enhancer トレイアセンブリー

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結果と考察

図 4 に、生成されたキャリブレーションスペクトルを示します。

キャリブレーションスペクトルにベースライン補正と正規化補正を適用し、ワルファリンの塩濃度変化による明確なスペクトル差を観察しました。図 5 に、約 680 cm–1 での対象のワルファリンのピークを示します。

×106

Da

ta

Wavenumber (cm–1)

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800

図 4. キャリブレーションサンプル 399 個の TRS スペクトルと、モデルの生成で使用したスペクトル範囲

図 5. ワルファリン塩濃度に従って色分けした (低濃度の青から高濃度の赤まで) 399 個すべてのキャリブレーションスペクトルを示すスペクトル領域の拡大図。 A) 681 cm–1 のピークは、ワルファリンナトリウムクラスレートの濃度におけるスペクトル変化を示しています。 B) 679 cm–1 のピークは、ワルファリンナトリウムの濃度におけるスペクトル変化を示しています。

×10–4

データ

波数 (cm–1)

0

1

2

3

4

5

6

7

672 674 676 678 680 682 684 686 688

Aワルファリンナトリウムクラスレート

×10–4

データ

波数 (cm–1)

0

1

2

3

4

5

6

7

672 674 676 678 680 682 684 686 688

Bワルファリンナトリウム

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図 6 に、キャリブレーションスペクトルを用いて生成したケモメトリック部分最小二乗法 (PLS) モデルを示します。最適なモデルパラメーターでは、スペクトル範囲 500~ 850 および 950~ 1,750 cm–1 にわたって一次導関数、正規化、および平均中心化処理を使用しました。モデル性能は、R2 = 0.99 で、さらに RMSEC と CV の両方が 0.019 となっており、良好な特性を示しています。RMSEC と CV は、キャリブレーション誤差 ±0.019 % w/w を示しており、これは公称濃度で正規化したときのモデル誤差が 4 % であるということです。

図 6. ケモメトリック PLS キャリブレーションモデル

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

0

0.2

0.4

0.6

測定値

予測値

ワルファリンクラスレート

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

0

0.2

0.4

0.6

測定値

予測値

ワルファリンナトリウム

4 つの潜在的変数RMSEC = 0.019

RMSECV = 0.019

R2 (CV) = 0.994

4 つの潜在的変数RMSEC = 0.018

RMSECV = 0.018

R2 (CV) = 0.996

近似1:1

サンプル 1 サンプル 2 サンプル 3 サンプル 4 サンプル 5

サンプル 6 サンプル 7 サンプル 8 サンプル 9 サンプル 10

サンプル 11サンプル 12サンプル 13サンプル 14サンプル 15

サンプル 16サンプル 17サンプル 18サンプル 19

A

B

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モデルは製品サンプルおよびプラセボサンプルを使用して検証しました。これらには、ワルファリンナトリウムクラスレートが含まれ、ワルファリンナトリウムは含まれていないという予測でした (図 7)。RMSEP の結果は予測誤差 ±0.026 % w/w を示しています。これは公称濃度で正規化したときの予測誤差が 5 % であるということです。

結論

このアプリケーションノートでは、インタクト錠剤全量中のワルファリンナトリウム塩の違いを区別するだけではなく、ごく微量の含量 (1 mg、0.5 % w/w) においてそれぞれを定量する方法についても説明しました。

この製剤は特に分析が困難でした。その理由は、生産材料のバッチ間で変動し、1,400~1,700 cm–1 の領域で API と重なる強いラマン活性色素が存在するためです。本研究の限界は、複数の塩形態を含むサンプルを使用したモデルの外部バリデーションです。この点については、さらなる検討が必要です。

また TRS を使用した 0.5 % w/w のワルファリン定量法について説明していますが、これは医薬品の含量均一性の QC ラボ試験に適用できます。さらに、この手法は、錠剤中の 2 つの形態を定量して、薬物形態の効能について検証する際にも適用できます。その他、WSC から WS への分解を調べる安定性試験にも適用できます。

図 7. 製品バッチとプラセボサンプルを予測する、バリデーションサンプル

0

0.2

0.4

0.6

予測値

ワルファリンクラスレート

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

0

0.2

0.4

0.6

測定値

測定値0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

予測値

ワルファリンナトリウム

4 つの潜在的変数

RMSEC = 0.019

RMSECV = 0.019

RMSEP = 0.026

1:1

バッチ 1

バッチ 2

バッチ 3

バッチ 4

プラセボ

4 つの潜在的変数

RMSEC = 0.019

RMSECV = 0.019

RMSEP = 0.026

A

B

参考文献

1. Griffen, J. A.; Owen, A. W.; Matousek, P. Quantifying low levels (<0.5% w/w) of warfarin sodium salts in oral solid dose forms using Transmission Raman spectroscopy, J. Pharm.Biomed.Anal.2018, 155, 276-283.

2. Matousek, P. Raman signal enhancement in deep spectroscopy of turbid media.Appl.Spectrosc.2007, 61, 845–854.

【お問い合わせ先】

Agilent ラマン製品に関する販売およびサポートは、 ジャパンマシナリー株式会社に委託しております。お問い合わせはジャパンマシナリー株式会社まで お願いいたします。

ジャパンマシナリー株式会社

電話番号: 03-3730-4891

お問い合わせフォーム: https://www.japanmachinery.com/contact/

本製品は一般的な実験用途での使用を想定しており、 医薬品医療機器等法に基づく登録を行っておりません。 本文書に記載の情報、説明、製品仕様等は予告なしに 変更されることがあります。

アジレント・テクノロジー株式会社 © Agilent Technologies, Inc. 2019Printed in Japan, May 13, 20195994-0904JAJP