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1 簡便で経済的な自閉症マウスモデ ルの作成法とその利用 福井大学子どものこころの発達研究センター 特命助教 栃谷 史郎

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簡便で経済的な自閉症マウスモデルの作成法とその利用

福井大学子どものこころの発達研究センター

特命助教 栃谷 史郎

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自閉症スペクトラム障害①基本症状1.対人相互反応の質的障害⇐他者を認知すること自体の障害2.コミュニケーションの質的障害⇒言語の獲得過程3.常同行動

他に伴うことが多い症状:・概日リズム障害(短眠、宵っ張り)・多動・不安傾向・知覚過敏

発症率・68出生に1例(1.47%;2010年米国CDC調査)・年ごとに増加(環境要因?)・男女比は3:1

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自閉症スペクトラム障害②原因Hallmayer, 2011

・遺伝可能性(38%)・環境要因(58%)Sandin, 2014

・遺伝可能性(50%)⇒近年になって非遺伝的要因の重要性の認識

治療法・オキシトシンの点鼻スプレー⇒対人コミュニケ―ション障害の改善・SSRI⇒常同行動改善?・ラパマイシンなどmTOR阻害薬

・リスペリドン(リスパダール)⇒精神安定・メチルフェニデート(リタリン、コンサータ⇒多動軽減

⇒さらなる医薬の開発、評価の必要性

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既存の自閉症のモデル動物①―薬剤投与モデル1)バルプロ酸(ヒストンデアセチレースインヒビター)妊娠期曝露マウス・知覚過敏/多動/学習能力の低下/社会的相互作用の減少2)母体免疫不活化モデル(maternal immune activation model; MIA モデル)Poly i:c(2本鎖RNA)やリポ多糖(lipopolysaccharides)、白血病阻止因子(LIF)の妊娠期投与によりウイルス感染もしくは細菌感染を模す。・不安傾向/多動/超音波発声の発達障害・LIF投与マウスモデル(白血病阻止因子を用いた認知学習障害モデル動物とその作製方法;特許公開2004-180655)

⇒いずれも有効なモデルであるが作製は容易ではない

・我々の研究室の経験においては、バルプロ酸投与では仔の食殺、育児放棄が頻繁に起こる(最近の実験では10匹の妊娠マウスから41匹の仔が生れたが、生後4週まで生き残ったのは5匹)

・我々の研究室の経験においては母体免疫不活化モデルは必ずしも仔が自閉症様行動を示すとは限らなく、安定な結果が得られない

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既存の自閉症のモデル動物②―遺伝的改変マウス1)ヒト染色体15q11-q13相同部位の染色体重複モデルマウス・社会的相互作用の減少/超音波発声の発達遅延/固執化傾向

・染色体異常疾患のモデル動物、その作製方法およびそれを用いた治療剤の評価方法(特許公開2007-166966)2)CD38ノックアウトマウス・社会的相互作用の減少/多動/仔の養育放棄・CD38がオキシトシンの分泌を調節・CD38による自閉症の診断と治療(WO2008/059991)など多数

⇒いずれも有効なモデルマウス・入手作製が困難

・本来遺伝因子及び環境因子の複合的な要因から成るはずの自閉症の一部のサブポピュレーションのモデルとしてしか成立しない可能性

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新技術の特徴

• 社会的行動異常、常同行動など自閉症様の行動を呈する自閉症モデルマウス

• 安価な試薬を用いた簡便な再現性の良い自閉症モデルマウスの作成方法

• 社会的行動異常など前記モデルマウスの自閉症様行動実験指標の緩和を指標にした医薬の評価方法、スクリーニング方法

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薬剤A

妊娠期曝露マウス薬剤B

妊娠期曝露マウス

社会的行動異常 あり あり

常同行動 なし あり

睡眠障害(概日リズム障害)

ややあり(明期活動低下の可能性)

あり(暗期活動低下)

多動傾向(新奇環境下)

ややあり あり

不安傾向 あり あり

本技術により作成されたモデルマウスの行動の特徴

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想定される用途

• 自閉症スペクトラム障害の発症機序の研究

• 自閉症スペクトラム障害の様々な症状を緩和する医薬の評価とスクリーニング

• 社会的行動の基礎となる神経ネットワークに関する研究や社会的行動の基礎となる神経ネットワークの刺激法の開発

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実用化に向けた課題

• 本技術により作成された自閉症モデルマウスについては、自閉症の3主徴のうち社会的行動の障害、常同行動を呈すことは確認している。ただし、残りのコミュニケーションの質的障害(言語の獲得過程の障害)の有無については検討できていない。

• 今後、マウスの超音波発声について実験データを取得し、本技術で作成したモデルマウスがコミュニケーションの質的障害を呈すか否かを検討する。

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企業への期待

• 自閉症の主徴緩和に有望な候補医薬を持つ企業との共同研究を希望する。発症率が年々増加しつつある自閉症に対する医薬を開発中の製薬企業においては本技術により作成された自閉症モデルマウスを用いた候補医薬のスクリーニングが有効であると考えられる。

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本技術に関する知的財産権

• 発明の名称 :自閉症スペクトル障害モデル動物ならびにその作製方法および用途

• 出願番号 :特願2014-142334

• 出願人 :福井大学

• 発明者 :栃谷 史郎

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お問い合わせ先

福井大学

産学官連携本部 知的財産部 漆崎 行乃利

(総合戦略部門 研究推進課)

TEL 0776-27-9725

FAX 0776-27-9727

e-mail [email protected]