現代建築作品の模型写真における空間表現

奥山研究室　11_10995 笹岡 賢佑 (SASAOKA,Kensuke)

1. 序　　建築の模型は、建築の基本的な情報を伝える

図面やドローイングに対して、立体的情報を伴ったイ

メージを伝える重要な表現である。それらは模型材料の

素材感を統一し抽象化された建築の骨格が示されたもの

や、建築の詳細を模型材料の素材感の切り替えにより具

体化して示すものなど、建築家の独自の表現がなされて

いる。さらにそれらを写真に収めるフレームの範囲や視

点の位置といったの構図の選択により、模型表現の特徴

を効果的に表している。そこで本研究では、現代建築作

品の模型写真 1) を資料として、模型の表現形式と写真

の構図を検討することで、建築家の空間イメージの表現

手法の一端を明らかにすることを目的とする。

2. 模型の表現形式　　ここでは模型を建築模型と敷地

模型とに分けて捉え、建築模型における材質や色といっ

た素材感による違い（以下、差異表現）と敷地模型の

有無を合わせて模型の表現形式として検討した ( 図 2)。

まず、建築模型の差異表現については、部材単位での素

材感の違いにより建築の詳細を具体化して示す具体差異

化と、用途によるゾーニング、動線、室単位などに対し

て素材感を変えることで建築全体の領域的な構成を示す

抽象差異化、全て同じ素材感で統一された差異表現なし

の 3つに分類した。次に、敷地模型のあるものに関して、

素材感が建築模型と同調するか、異なるかを検討した。

これらの表現形式に対して、人や家具などの添景の有無

を合わせて検討すると、抽象差異化の約半数に添景が表

現されており、他の表現形式に対して高い割合を示した。

このことから、建築全体の領域的な構成を示す建築模型

では、人々の活動やその場の用途を規定する家具を配置

することで、領域ごとの性格の違いを表す傾向にあると

いえる。さらに、建築模型の内部空間を示す表現として

外皮の捨象表現を整理したところ、模型を分割する、ま

たは外壁や屋根をはずす分解と、外壁や屋根をアクリル

などの透過素材に置き換える透過に分類した (図３)。

3. 模型写真の構図

3-1. 模型写真のフレーミング 　模型写真のフレームに対

して模型が収まる範囲をフレーミングとして、その構図

を検討した。敷地模型あるいは建築模型をフレームから

切り取って撮影することで、模型が表現する世界のみを

示すものをフレームアウト、模型全体をフレーム内に収

めて撮影することで、対象化されたオブジェクトとして

模型を示すものをフレームインに大別した。さらに、フ

レームアウトについてはその被写内容が建築模型の全体

か部分かについても検討した（図 4）。

3-2. 模型写真のアングル　　次に、模型を撮影するアン

グルを、視点の高さから、真上から模型を見下ろすもの

( 真上 )、上部から撮影するもの ( ハイアングル )、下部

から撮影するもの ( ローアングル ) に大別し、さらに建

築模型に対する正対 ・非正対を検討した (図 5)。

①-a ②-a ③-a

①-b ②-b ③-b

①-c ②-c ③-c

建築模型の差異表現差異表現あり

a

b

c

①具体差異化

色や素材感を統一

②抽象差異化③差異表現なし

敷地模型あり

建築模型と同調

建築模型と異なる

敷地模型なし

91 (17）172

149321

156

10 (4)

253 (70)477

64 (31)189 (40)

71 (11)

224 (42)

81(18)

59 (11) 25 (12)

39 (12) 29 (15)

72 (13)

( ) 内は添景のあるもの

No.139 せんだいメディアテーク

ゾーニングを室単位で素材感を切り替える

部材単位で素材感を切り替える

図 5. 模型写真のアングル図 4. 模型写真のフレーミング図１. 分析例 図 2. 模型の表現形式

図 3. 外皮の捨象表現

なし外皮捨象あり分解 (★)　 透過 (☆)

ローアングル

正対

非正対

正対

非正対

ハイアングル

真上

模型をフレームにより切り取る

模型をフレーム内に収める

フレームアウト

フレームイン

建築模型全体

建築模型の部分

【建築模型の差異表現】模型による表現形式 模型写真の構図

差異なし

建築模型と同調【敷地模型における差異表現】

透過【外皮の捨象表現】

フレームアウト_建築模型全体【フレーミング】

【アングル】

ローアングル / 正対

251

22

97

78

29

273

175

81106

25 371

77

206

194

283

註１）

4.現代建築作品の模型写真にみる空間表現

　前章までに捉えた建築模型の差異表現を横軸に、模型

写真のフレーミングを縦軸にとり、敷地模型の表現と模

型写真のアングルとの対応を示したものが図 6である。

まずフレームアウトの建築模型全体を写すものでは、具

体差異化において、建築模型と敷地模型を同調とするも

のが　約８割と他の表現形式と比較して多くの資料がみ

られ、またアングルの内訳をみると、ハイアングルかつ

正対が相対的に多くみられた。ここから、フレームによ

り模型が表現する世界を切り取って示す場合、周辺敷地

を含めて具体的に素材感を表現し、建築が佇む全体的な

様相を示す傾向にあるといえる。また、フレームアウト

の建築模型の部分を写すものでは、差異表現のある模型

が多くみられた (50/73)。このことは建築空間の部分的

な特徴を断片化させてより強調する傾向といえる。フレー

ムインでは抽象差異化及び差異表現なしの割合が高く、

これらの敷地模型の有無を検討すると、抽象差異化には

敷地模型のないものが約 8割を占め、高い割合を示した。

また、これらのアングルの内訳に着目すると、敷地模型

のある場合はほとんどがハイアングルであるのに対して、

敷地模型のない場合は約半数がローアングルから撮影さ

れたものであった。ここから、写真のフレームにより模

型を対象化し即物的に示す場合、建築全体の構成がコン

セプチュアルな素材感の差異化により示され、周辺と切

り離されることで、抽象的な建築の構成が強調されるも

のと、素材感の統一により建築の持つ形のみが示され、

さらに低い視点により周辺から自立した建築の形が示さ

れるもの、また周辺と一体化した建築の有様が俯瞰的に

示されるものという特徴的な模型写真における空間表現

を見出した。

5.結　　以上、現代建築作品の模型写真における空間

表現を模型の表現形式と写真の構図から検討した。その

結果、建築が佇む全体的な様相を限定的に切り取って示

すもの、建築の抽象的な構成や形をオブジェクトとして

示すものという模型写真における空間イメージの表現の

特徴を見出した。このことは建築家の空間に対する異な

る認識を反映しているものと考えられる。

建築模型の差異表現

模型写真のフレーミング

フレームアウト

フレームイン

建築模型の部分

建築模型全体

あり ( 具体差異化 ) 181

189

73262

186

60あり ( 抽象差異化 )

図 6. 模型写真にみる空間表現

48-3 バークリー音楽の塔 / アントン・G・アブリル①-a, 建築模型の部分 , 正対 ,ﾛｰ

191-2 アメリカン・センター /ﾌﾗﾝｸ・ｹﾞｰﾘｰ①-b, 建築模型全体 , 非正対 , ロー

11 ホイットニー美術館 /OMA②-a,ﾌﾚｰﾑｲﾝ, 非正対 ,ﾛｰ,透過

10 スイス・リー・ネクスト / クリスチャン・ケレツ③-a,ﾌﾚｰﾑｲﾝ, 非正対 ,ﾛｰ, 分解

25 Rolex ラーニングセンター /SANAA③-a,ﾌﾚｰﾑｲﾝ, 非正対 , ハイ , 分解

正対 非正対

★: 分解

凡例

☆:透過●: 添景あり

251

9778

22ハイアングル

ローアングル

①-a ①-b ①-c ②-a ②-c ③-a ③-b ③-c②-b

18

5 5

9 9

11

1322

44

87 4

27

1315

246

31

1

1321

151

26

2

2827 7

2158 7

6

933

1

423

1

1

1

1

1

11

4

13

9 16

23 83 9

131 1

129-2●

190229-1229-2261-1266-2281-2286-338-2★●38-3★●38-4★●99★●229-3●

31-1175-2234-4257-3

31-2★35★●203★231-4★

285-1★84●118-1●

182-2191-4193-1

206-2266-1276-1

283★●68-1☆68-2☆

122130-3143-1168170201

212-3223235257-1287-1287-2

59★198-2★230-2★230-3★86-2☆78☆

718130-4

258-1265

140-1193-2230-4★

253★86-1☆

86-3☆97-1181-1211-1211-2232-1

237-3255-3263-1266-33★●

48-2●116-2●116-1★●

186233-2

244-2123-3★●

134-2165-1167-4182-1198-1231-1255-1

255-2192★131-1●132-1●167-1●167-3●

178241

181-2185-2233-319●

66-1244-1262-266-2★●

94140-2143-2191-34-2★●

47★●57★●48-3●56-2●

69183-2199-2210-1

210-243●193-3●193-4●

56-4106249-1249-2128-1☆●29-1●

107●

5-2147-1147-280-3★●80-4★●

231-3★6-2☆114-1☆108●

89-1101200-19★●42★●

8-132-15289-3135146-1189-1196216-1218

219-2252-1254-1260-240★●54-1●72-2●157-2●157-3●275-1●

32-27374-2★:40

28●72-1●82●133-2●

202663-163-2112-2254-292☆●115☆

27-146163-12★●

5-1★●39-2★●80-1★165-2☆

165-3★●6-1☆75-2●

2227-249★●97-2★●

162-2●

51-3☆●128-2☆●76-2●76-3●

80-2★●5-3★●56-1★●61-3●

61-1★●126-3★

51-2☆102-1●105-4

55★●76-1●76-4●

64137176205206-1

215-1231-2131-2●191-2●

134-1169191-1202

4-1113-1113-2119130-2174185207

233-1248-1248-2262273274277-1277-2

34177183-1214-1248-4261-3

269270271276-2282286-2

286-4132-2★●195★284●

123-1123-2184-1

214-2234-3248-3

285-2286148-1●

12016☆●

30-151-165124-2144152153158

208209228-3237-2245-1259199-1★

179188-2279-230-2★

79-2●157-1●

252-2252-3

87-1★●180●

14-237-15356-370-170-285104105-1109

213-2222-2247-124☆24●83●129●146-2●146-4●

114-2133-1136145146-3155156164-2164-3175-1160

213-1228-1228-223826890☆

95-1124-1187188-1

27228045●

197103●

1-11-2

67-2● 67-1●79-1●79-3●

166267

11☆●126-2★

189-2210-3118-3★●

148-1

226-2★

1374-193-1110112-1125-1125-2139148-2

194200-2212-1212-2212-4217-1219-1220-2221

224-1226-3230-1240260-115●111●275-2●

17-117-260243245-2245-3

246-1258-250-2★●54-2★62★149-1★●

149-2★●91☆●96-2☆

839-14450-177-177-277-389-2

100-2117142236238-2239251-1251-2

257-228825★●36★100-3★100-4★21☆23☆●

96-1☆12★●258★

100-1163-2164-1216-2225242-2250-1

250-2256279-110★●58★224-2★

71127162-141★●

98☆●

149-3

150

154

278281-1281-3★:159232-2234-2261-2

88●

37

207なし

86 58 24 10 26 67 74 66

444115

2161

29

29

17 15

7

６

219 5

8 1 15

162855

12 65

1980 年以降の「a+u」誌に掲載された 288の建築作品を示すカラーの模型写真計 477

枚を資料とした。

既往研究

大森真樹 , 坂本一成 , ほか :　建築作品の外観模型にみる構成表現 ,　日本建築学会大会学術

講演梗概集 ,　pp.375-376, 2003