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神戸大学経済学部・神戸大学経済学部・神戸大学経済学部・神戸大学経済学部・経済統計経済統計経済統計経済統計学学学学
(第(第(第(第 7777回目)回目)回目)回目) 2015201520152015年年年年 11111111月月月月 12121212日日日日
担当担当担当担当 小塚匡文小塚匡文小塚匡文小塚匡文
7777.... 日本の財政日本の財政日本の財政日本の財政
<<<<7777....の内容>の内容>の内容>の内容>
� データでみる日本国の財政問題
� 財政政策の効果に関する諸研究
7777.1.1.1.1 中央財政と地方財政中央財政と地方財政中央財政と地方財政中央財政と地方財政
� 2015年度(平成 27年度)予算は総額 96.3兆円。その歳入のうち、36.9兆円・38.3%
が公債(国債)によって調達されている
� 公債は借金なので、返済をする必要がある
� 将来、返済のための資金(国債費)が無視できない額になるおそれあり(2015年度は
23.45兆円)
� 例えば、図 7-1をみると・・・
図図図図 7777----1111 一般会計に占める歳出割合一般会計に占める歳出割合一般会計に占める歳出割合一般会計に占める歳出割合
財務省「日本の財政関係資料(平成 22年度予算補足資料、平成 27年 3月発表分など)」
のデータより担当者作成
� 国債費の割合は 1980年代より増えていることがわかる。
� 70年代以前では割合が低い理由は、赤字国債(特例公債)を初めて発行したのは 1965
年であったため。ただし建設国債はそれ以前にも存在していたので、60年代の国債費
も 0ではない。
� 建設国債:インフラ整備のための公共事業費をまかなう公債
2
→後の世代に便益をもたらす
� 赤字国債:収入が不足しているときにその年の経常費をまかなう公債
→のちの世代に返済負担を残す
� 2000年には国債残高残高残高残高が 500兆円に(日本の GDPを上回る)⇒ 危機感↑
7777.2.2.2.2 日本の地方財政の現状日本の地方財政の現状日本の地方財政の現状日本の地方財政の現状
� 2014年 4月 5日時点で、市町村数は 1718、都道府県数は 47
※指定都市の行政区や北方領土の 6村は除く
� これら地方政府にも財政が存在
� 2015年度一般会計では、国の歳出が 96.3兆円、地方財政計画歳出が 85.3兆円
� 特に地方は警察・消防(典型的な公共財)・義務教育・福祉など、国民生活に重要な影
響を与える行政サービスを提供 → 重要!
� 地方も国と同様、債券(地方債)を発行して資金をまかなっている:
→2015年度(計画)で 7.6兆円 を計画(通常収支分・臨時財政対策債除く・東日本
大震災分含む)
7777.3.3.3.3 地方財政の改革地方財政の改革地方財政の改革地方財政の改革
� 地方は国と比べて余裕があるとされ、地方交付税交付金の削減・補助金の改革・地方
への権限移譲がすすめられた→三位一体改革三位一体改革三位一体改革三位一体改革
※地方交付税交付金:所得税・酒税・法人税・消費税・たばこ税のうち、地方に移す
分のこと。割合はあわせて約 3割
図図図図 7777----2222:歳入純決算額の構成比:歳入純決算額の構成比:歳入純決算額の構成比:歳入純決算額の構成比
総務省自治財政局財務調査課「地方財政統計年報・科目別歳入決算額」より作成
3
� 図 7-2より、2000年度から 2007年度の間に地方交付税交付金等が減少していること
がわかる。ただし 2011年度以降、震災復興のため再び増加している。
� 地方税は 2005年度から 2007年度にかけて増加しているが、この間に 3兆円分の税源
移譲が実施されている。
� 地方自治体による公共投資で、独自性が発揮されることなどが期待されている。
※なお宮崎(2009)では、1986年から 2001年までをサンプル期間として、国と地方の公
共支出の景気に対する効果を比較検証した結果、地方の場合はあまり効果がなかったこと
を示している。宮崎(2008)では、地方政府の公共投資は中央政府の景気対策に反応して
いないことも示している。
7777.4.4.4.4日本の財政の状況日本の財政の状況日本の財政の状況日本の財政の状況
� 図 7-3は、主要国の政府債務-GDP比率を示したものである
� 日本政府債務比率はギリシャのそれより高く、200%を超えている。
� ただし対外債務を差し引いた純債務でみると、若干低下するが、それでも高い。
� 歳出に占める社会保障費の割合の伸びは大きい(図図図図 7777----4444)
� 税収は減少傾向にあった。最近も少し増加しているに過ぎない(図図図図 7777----5555)
☞高齢化が進行する日本において、このような財政状況は持続できるのであろうか?
図図図図 7777----3333 主要国の政府債務-主要国の政府債務-主要国の政府債務-主要国の政府債務-GDPGDPGDPGDP比比比比
International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, April 2013より
担当者作成
4
図図図図 7777----4444 歳歳歳歳出出出出と社会保障費と社会保障費と社会保障費と社会保障費
(出所)厚生労働白書(2015年度版)より担当者作成
図図図図 7777----5555 税収の推移税収の推移税収の推移税収の推移
(出所)財務省「財政統計」より
5
7777.5.5.5.5 財政の持続可能性財政の持続可能性財政の持続可能性財政の持続可能性(研究紹介)(研究紹介)(研究紹介)(研究紹介)
� 図図図図 7777----3333に示されるように、日本の政府債務-GDP比率が増加の一途をたどっている。
� このような状況で、政府債務は維持可能なのか?
※ここでいう”政府債務は維持可能”とは、将来期間において政府債務-GDP比率が発散(≒
際限なく膨張)しないことを指す。→ 財政が破たんしないことと同義財政が破たんしないことと同義財政が破たんしないことと同義財政が破たんしないことと同義
� ここでプライマリーバランスプライマリーバランスプライマリーバランスプライマリーバランスというものに着目しよう
� プライマリーバランスとは、基礎的財政収支基礎的財政収支基礎的財政収支基礎的財政収支ともいい、次のように定義される:
税収-公債費を除く歳出税収-公債費を除く歳出税収-公債費を除く歳出税収-公債費を除く歳出 ((((※※※※公債費とは債券の償還・利払いに使う費用のこと)公債費とは債券の償還・利払いに使う費用のこと)公債費とは債券の償還・利払いに使う費用のこと)公債費とは債券の償還・利払いに使う費用のこと)
� Bohn(1998)では、政府債務の持続可能な条件として、
「政府債務政府債務政府債務政府債務----GDPGDPGDPGDP比率が増加したときに基礎的財政収支を改善(赤字縮小か黒字化)す比率が増加したときに基礎的財政収支を改善(赤字縮小か黒字化)す比率が増加したときに基礎的財政収支を改善(赤字縮小か黒字化)す比率が増加したときに基礎的財政収支を改善(赤字縮小か黒字化)す
ることることることること」としている。
“The positive response of the primary surplus to changes in debt also shows that U. S.
fiscal policy is satisfying an intertemporal budget constraint.”(Bohn 1998の要旨より)
� では日本について、どのような研究がなされているのか?
� 宮尾(2005):(2003年までのデータに基づくものであるが)財政赤字が長期的
に収束することを示唆する結果が一部で得られた(頑健ではない)。ただし強い
結果でないので、楽観はできない。
� 深尾(2012):もし債務比率のGDP比を安定化するならば、消費税率20%に相当
する税収(50兆円程度)、または支出削減が必要となる。またデフレ脱却により
利払い負担増加の危険性もある。
<結論>
� (経済学特有の話ではあるが)分析のアプローチによって結果が異なることが多く、
一致した見解は出ていない。
� しかし日本の政府債務-GDP比率が高く、かつ増加していることは事実であり、対策が
必要であることは確かである。
6
7.67.67.67.6 財政政策のマクロ経済への効果:(研究紹介)財政政策のマクロ経済への効果:(研究紹介)財政政策のマクロ経済への効果:(研究紹介)財政政策のマクロ経済への効果:(研究紹介)
そもそも、マクロの財政政策を行うことの意味は何であろうか?
� 政府支出、特に公共投資が増加すると、景気を引き上げる効果があるとされる
� 教科書的な例では、乗数効果がある
※乗数効果・・・1単位の政府支出増が所得に効果をもたらし、それが消費に影響を及ぼす。
さらにその消費の変化が所得に効果をもたらし・・・・というサイクルを通じ、1単位より
大きい所得の引き上げの効果をもたらすもの
� ただし井堀・土居(2007)では、1990年代の日本の財政政策についての統計的な実証
を行った諸研究をみると、政策の効果を支持するものと限定的であるとするものが混
在しており、一致した結果が得られていない、としている。
� また、投資を刺激する効果(クラウディング・イン)が期待される一方で、それとは
逆のクラウディング・アウトとよばれる、民間投資を減少させる効果がある。(IS-LM
モデルに従うと理解しやすい・後述)
� 例えば、畑農(2008)ではクラウディング・イン効果が、Fujiiその他(2013)では、
公共事業との関連が大きい一部の業種を除いて、クラウディング・アウトの効果があ
ることが示されている。
※乗数効果やクラウディング・アウトについては、この後のページにある、第7回講義の
補足資料を参照のこと。
<参考URL>
財務省のページ
http://www.zaisei.mof.go.jp/data/
7
<参考文献>
� 井堀利宏・土居丈朗(2007)「財政政策の評価」『経済制度の実証分析と設計 第3巻・
経済制度設計』第1章 勁草書房
� 畑農鋭矢(2008)「公共投資の民間投資誘発効果」『フィナンシャル・レビュー』第89
号
� 深尾光洋(2012)「日本の財政赤字の維持可能性」経済産業研究所(RIETI)Discussion
Paper Series 12-J-018 2012年6月
� 宮尾龍蔵(2005)「日本の経常収支黒字と財政収支赤字の持続可能性」『国民経済雑
誌』第191巻第1号 71-86頁
� 宮崎智視(2008)「地方政府の公共投資と財政政策」フィナンシャル・レビュー 2008
年 3月 118-136頁
� 宮崎智視(2009)「公共投資と景気動向」名古屋学院大学論集 社会科学編 第 45巻
第 3号 2009年 1月 51-62頁
� Bohn, H.(1998),”The Behavior of U.S. Public Debt and Deficits,” Quarterly Journal
of Economics, 113, pp.949-963.
� Fujii, Takao, Kazuki Hiraga and Masafumi Kozuka (2013), “Effects of public
investment on sectoral private investment: A factor augmented VAR approach,”
Journal of the Japanese and International Economies, 2013, 27, 35-47.
経済経済経済経済統計学(統計学(統計学(統計学(第第第第7回7回7回7回))))補足資料補足資料補足資料補足資料
2015年11月月月月12日担当担当担当担当 小塚匡文小塚匡文小塚匡文小塚匡文
補足1:乗数効果
(簡略化しています)
Y:産出,C:消費,I:投資,G:政府支出,T:税金,
とすると(閉鎖経済を仮定)以下の式が成立:
ここで係数 は
2
( )
( ) ( )21
10 L
L
TYCCC
GICY
−×+=
++=
10,0 10 <<> CC10 ,CC
(1)式について、本来、左辺は計画支出(在庫を考慮しない支出)だが・・・
計画支出と所得・産出は等しい状態を考えており、在庫は変化しないものとしている。
そのため、「所得=計画支出」として、(1)式のまま議論を進める
ここで、政府支出がΔGだけ増加すると、どうなるか?
3
�(1)式より、政府支出がΔG増加し、計画支出=
所得がΔG増加
�(2)式より、消費がC1×ΔG 増加
�(1)式より、計画支出=所得がC1×ΔG 増加
�(2)式より、消費がC1×C1×ΔG 増加
�(1)式より、計画支出=所得がC1×C1×ΔG 増加
�・・・(以下延々)
これらをまとめると、
4
LGC
GCGCGY
∆×+
∆×+∆×+∆=∆
3
1
2
11
となる。ここで両辺にC1をかけると
(3)から(4)を引くと、
が成立し、これは1より大きい
511
1
CG
Y
−=
∆
∆
( )
)3(1
1
2
11
2
11
LL
L
+++=∆
∆
+++∆=∆
CCG
Y
CCGY
)4(3
1
2
111 LLCCCG
YC ++=
∆
∆×
ここで、この1より大きい
を政府購入乗数(政府支出乗数)とよぶ
⇒1単位の政府支出により、所得・産出が1より大きく増加:財政政策の効果
6
G
Y
∆
∆
では、租税TがΔTだけ変化(ΔTが正ならば増税)すると・・・
�可処分所得(Y-T)は-ΔT変化(減少する)
�(2)式より消費がC1×(-ΔT) が変化
�(1)式より計画支出=所得がC1×(-ΔT) 変化
�(2)式より消費がC1×C1×(-ΔT)変化
�(1)式より、計画支出=所得がC1×C1×(-ΔT)変化
�(以下延々)
7
所得の変化分を足し合わせると、
となり、これを租税乗数という
�1単位の増税により、所得・産出は減少
�1単位の減税により、所得・産出は増加
8
1
1
1
12
11
1
1)(
C
C
T
Y
C
CCC
T
Y
−=
∆
∆−
−−=++−=
∆
∆L
補足2:クラウディング・アウト補足2:クラウディング・アウト補足2:クラウディング・アウト補足2:クラウディング・アウト
政府購入がΔGだけ増えた場合・・・
IS-LMモデルに従うと、IS曲線は右シフトし、仮に金利が一定であるとすれば
• 所得・生産は図7-6でY1からY’に移る。
• その場合、 だけ増加するはずだが・・・
※このC1は(2)式で登場したもの
• 実際にはLM曲線との交点(=均衡点)はAからB
へ移り、所得・生産はY2、金利はr2に移る
(図7-6参照)9
( )11 CGY −∆=∆
図7-6
10
IS1
LMr
Y
r1
Y1
IS2
Y2 Y’
A
Br2
ΔG
( )11 C
GY
−
∆=∆
つまり、所得・産出の増加分は、乗数効果よりも小さい!
• Yの増加によって貨幣需要は増加するが、貨
幣供給量は一定であるので、これに対応するため、金利は上昇する
• その結果金利金利金利金利が上昇し、投資は減少が上昇し、投資は減少が上昇し、投資は減少が上昇し、投資は減少するするするする
( クラウディング・アウト=押しのけ)
• そのため、前述の(1)式より、所得・産出も減少する
• そのため、所得・生産の増加分は、乗数効果から計算されるものよりも小さい
11