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石川県能登地方に分布する江戸キリシマ系ツツジの古木群に ついて 誌名 誌名 園芸学研究 ISSN ISSN 13472658 巻/号 巻/号 83 掲載ページ 掲載ページ p. 267-271 発行年月 発行年月 2009年7月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

石川県能登地方に分布する江戸キリシマ系ツツジの …園学研.(Hort. Res 目 (Japan)) 8 (3) : 267-271. 2009. 直二冨石川県能登地方に分布する江戸キリシマ系ツツジの古木群について

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石川県能登地方に分布する江戸キリシマ系ツツジの古木群について

誌名誌名 園芸学研究

ISSNISSN 13472658

巻/号巻/号 83

掲載ページ掲載ページ p. 267-271

発行年月発行年月 2009年7月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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園学研. (Hort. Res目 (Japan)) 8 (3) : 267-271. 2009. 直二冨

石川県能登地方に分布する江戸キリシマ系ツツジの古木群について

倉重祐こ 1・小林伸雄2*

l新潟県立植物園 956-0845 新潟県新潟市秋葉区金津

2島根大学生物資源科学部 690-8504 島根県松江市西川津町 1060

Investigation of Old Edo-Kirishima Azalea Specimens in the Noto District, Ishikawa Prefecture

Yuji Kurashigel and Nobuo Kobayashi

2* 1 Niigata Prefectural Botanical Garden, Kanadzu, Akiha,λTiigata 956-0845

2Faculty of L件。ndEnvironmental Science, Shimane Uniν'ersity, Matsue, Shimane 690-8504

Abstract

There are 286 Edo-kirishima azalea specimens, estimated to be over 100 years old, in private gardens in the northern part of the Noto district, in Ishikawa Prefecture. These azaleas a1'e called “Noto-kirishimatsutsuii" in Noto and used to attract tourism

as a source of 1'evitalization fo1' the area. Such a large numbe1' of old Edo-kirishima plants distributed over a wide a1'ea is

unknown in othe1' parts of Japan. According to the literature ofthe Edo巴ra,a rep1'esentative cultivar ofthe Edo-kirishima azalea

group, 'Hon-kirishima', existed in Noto before 1738 and was introduced from the Edo and Kansai districts. Based on our morphological studies, Edo-kirishima azaleas in Noto consisted of 7 cultivars of ιHon-kirishima三'Mino-kirishima三‘N討un-

kirishima' ,‘Yae-ki1'ishima',ヨhikizaki-kirishima',‘Beni-kirishima', and ‘Murasaki-kirishima' as well as 3 unidentified strains

of single, semi-hose in hose, and hose-irトhoseflowers of “Kera-sho". The results of RAPD analyses of ‘Hon主irishima'

demonstrated that th巴yhave the same band patterns among Noto but the clones differ from those found in Noto and Tsutsuji-

gaoka Park in Tatebayashi, Gunma Pr巴fecture

Key Words : DNA, Edo e1'a, Noto peninsula, RAPD, Rhododendron

キーワード:江戸時代,ツツジ属, DNA,能登半島, RAPD

緒両

ツツジの栽培は,江戸時代の寛文から延宝年中(1661~

1681)に流行しこの時代を中心に数多くの新品種が作出

された(伊藤, 1692,1695;水野, 1681).なかでも 1656年

に薩摩の霧島山から大阪を経由して江戸に移入された‘霧

島, (伊藤, 1733)はその濃赤の花色が高く評価された(伊

藤, 1692) 本邦初の園芸書である『花壇綱目~ (水野, 1681)

に掲載されたツツジ類 147品種のうち 15品種に,またツツ

ジ類のモノグラフである『錦繍枕~ (伊藤, 1692) には 337

品種のうち 19品種に“ 霧島"の名がつけられている.こ

のことから‘霧島'が江戸に移入されてから 25年の聞に多

数の‘霧島'に類似の品種が分化したと考えられる.

現在,‘二11原霧島'など,類似の形態を持つ常緑性ツツジ

(subg巴nusTsutsusi section Tsutsust)は江戸キリシマ品種群と

呼ばれる(赤羽ら, 1979) が,大正から昭和初期にかけて

クルメツツジやアザレアの台頭によって人気が衰え,商業

2008年 11月8日受付 2008年 12月25日受理.

本報告の一部は園芸学会平成 16年度秋季大会で発表した.* Corresponding author. E-mail: [email protected]

267

生産も減少した(倉重・小林, 2008). そのため,現在まで

残る古木と古品種は共に数少なく,古木群についても群馬

県立つつじが問公園や東京都の六義園など,関東を中心と

した庭閣でしか知られていなかった(小林ら, 2003).

石川県能登地方には,樹齢 100年以上と推定される江戸キ

リシマ品種群の古木 286個体が現存し,のとキリシマツツジ

連絡協議会によって保護育成が行われているが,これまで地

域外にはほとんど知られることはなかった.本報では能登地

方の江戸キリシマ古木群を紹介すると共に,その品種構成と

栽培史に関して若干の知見を得たので、報告する.

材料および方法

1. 分布と品種構成

能登地方(石川県七尾市,輪島市,珠洲市,羽咋郡志賀

町,鹿島郡中能登町,鳳珠郡穴水町ならびに能登町,第 1

図)における江戸キリシマ品種群の分布と品種名を明らか

にするために,地域の団体が行った調査記録(鳳至郡榔田

村盆友会, 1994) を参考として,推定樹齢 100年以上のキ

リシマツツジの所有者に対してキリシマツツジ古木の保有

状況に関するアンケート調査を2006年および2007年に行っ

た.それらの結果をもとに,特に大きな個体および花形や

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倉重祐二・小林伸雄

3. 古文献調査

能登地方の江戸キワシマ品種群の由来と移入経路を調査

するために,金沢市立玉川図書館近世資料館の協力を得て,

江戸時代に能登地方が属した加賀藩を中心としたツツジに

関する古文献調査を行った.

1. 分布と品種構成

アンケート調査および柳田村盆友会のキリシマツツジ古

木調査(鳳至郡柳田村盆友会, 1994) から,石川県能登地

方には推定樹齢 100年以上の江戸キワシマが 286個体存在

することが明らかとなった(第 l表).分けても珠洲市大谷

の樹高 4m,枝張 5.1mの‘本霧島'や能登町五十里の樹

高1.3m,校張 2.4mの‘紫霧島輪島市尊利地町の樹高

4.5m,枝張 6mの明赤色二重のけら性不明品種は地域を代

表する古木である(第 2図).また現存しないが, 1923年

度の天然記念物調査(石川県, 1924) で記録された輪島市

赤崎の個体は樹高 9m,校張 11mであったことが報告され

ている.市町村別の個体数をみると,能登IHJに99個体と最

も多く,次いで珠洲市の 65個体であり,中能登町に 7個体

および七尾市に 11個体ι半島の先端地域に多く分布する

傾向がある.花器の特徴はさまざまで,濃樟赤,明赤,明

紫赤および明赤紫の花色で,一重からがくが花弁化したこ

重までの花形があった.現地での調査では,ほとんどの個

体が!日家の裏庭に保存されていることが確認された.形態

調査から第2表に示した 7品種を同定し,また花色が明赤

色の品種名不詳の一重,不完全二重および二重の 3系統が

あることが明らかとなった.不明の 3系統は,形態から赤

羽ら(1979) による‘悶舎げら¥ ‘蓑げら'および‘八重

げら'に近い特徴を持つが,花形,花冠の大きさや開花期

が異なるため品種名不明とした(第3表)•

2. RAPD法による品種比較

RAPD分析の結果, OPK同 19および OPK-20の2種のプラ

イマーを用いた場合,つつじが関公園と能登地方の‘本霧

島'品種間では異なるバンドパターンが得られ,同一品種

のクローンではないことが明らかになった.また, これら

果孟士巾l'l

268

花色が特徴的な 49個体を選択し, 2006年および 2007年の

開花期を中心として,現地で花形と臼本園芸標準色票によ

る花色の調査を行い,赤羽ら(1979) の分類によって品種

を同定した.

2. RAPD法による品種比較

能登地方において最も古木の個体数が多く,広域に分布

する‘本霧島'11個体について RAPD法による品種比較を

行なった.採取後に凍結保存した新葉から改変 CTAB法

CKobayashiら, 1998) により全 DNAを抽出し, RAPD分

析に供試した. RAPD法の詳細な分析条件は Kobayashiら

(1995) に準じて行った. Kobayashiら(1995) の報告にお

いて,常緑性ツツジの品種同定において鮮明な多型バンド

が検出された2種のプライマーOPK-19C5'-CACAGGCGGA-

3') および OPK-20Cタ-GTGTCGCGAG-3') を用い,能登地

方内およびつつじが問公爵(群馬県館林市)の‘本霧島'

のバンドパターンを比較した.

第 1図本研究において調査を行った石川県能登地方の市町

村IR分

能登地方に現存する樹齢 100年以上の江戸キリシマの個体数と花器形態第 1表

明赤紫 9206明紫赤 9706明赤 0406濃澄赤 0707合計花色Z

個体数

花器形

態不明

七尾市輪島市珠洲市;:pj咋君s志賀町鹿島郡中能登町鳳珠郡穴水町鼠珠郡能登町

LAytiHコハ

0

0

5

ぺJ

J

重二

AU--ハリハリハリハり

ti

一重

今,ん吋

54勺ムハUAU

っ“戸コ

一重

nUAUAUAUAU1111

二重

U勺/勺fAUハリ今400

不完全二重

111111nunut-nu

一重

0

2

0

0

1

3

6

二重

0

2

5

つMO

o

r

o

不完全二重

日り勺/勺j

A

U

内ツ

一重

foAUペLfhur01dO6

今,ん吋

54

フω2

花形

1

1

1

5

3

7

o

n

y

--m、Jrhut-A斗・凸ツ

市町村名

80

Z 日本園芸植物標準色票による

2 13 2 24 4 12 15 23 i

i

l

286 計ム口

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園学研 (Hort.Res. (Japan)) 8 (3) : 267-271. 2009. 269

第2図 能登地方に現存あるいは現存した江戸キリシマ古木

A, B 珠洲市大谷に現存する‘本霧島'石川県天然記念物(樹高 4m,枝張 5.1m)

C:能登町五十里に現存する‘紫霧島'石川県天然記念物(樹高 1.3m,枝張 2.4m)

0:輪島市尊利地町に現存する明赤色二重のけら性不明品種(樹高 4.5m,枝張 6m)

の分析条件下において,能登地方の個体聞にはパンドパ

ターンの差異は見られなかった(第 3図)•

3. 古文献調査

能登地方における江戸キリシ7 の栽培の最も古い記録と

して,江戸幕府の行った全国産物調査の加賀藩領の記録,

『郡方産物帳羽咋郡鹿島郡.1 (著者不明,1738)に“きり し

満"の名がある.また,その移入経路については,加賀藩

の動植物を収録した『三国名物志.1(坂元, 1804-1818)に,

“石巌 キリシマ 人家植ユ東都ノ産上品関西ノ産ノ、下品

ナリ"とあることから,江戸ならびに関西から移入された

ことが明らかとなった.

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270 倉重祐二・小林伸雄

第2表能登地方に現存する江戸キリシマの花器形質と推定

品種名

花色Z 花器形質等

濃燈赤 0707 一重濃燈赤 0707 不完全二重濃燈赤 0707 不完全二重(がくは初め白色)濃澄赤 0707 二重明赤 0406 一重

明赤 0406 不完全二震明赤 0406 二重明赤 0406 一意,二季咲き

明紫赤 9706 一重明赤紫 9206 一重

Z B本園芸植物標準色禁による

推定品種名

本霧島蓑霧島二順霧島八重霧烏不明不明不明四季咲霧島

紅霧島紫霧島

第3表江戸キザシマのけら性品種と能登地方に現存する類

似個体の形質比較

品種名特徴的な形質

赤羽ら(1979)

.花冠は一重

・花冠は‘本霧島' より

もやや小さい田舎げら・花弁の先端がわずかに

尖る・‘本霧島'より 1週間

ほど早咲き

・花冠はがくが花弁化し

た不完全二重・花冠は‘本霧島' より

もやや小さい蓑げら

・花弁の先端がわずかに

尖る・‘本霧島'より 1週間

ほど早咲き

-花冠はがくが花弁化し

た二重・花色は緒朱紅色で,不

八重げら鮮明

・‘本霧島' よりも 10日

ほど遅咲き

能登産個体

・花冠は一重・花冠は‘本霧島' より

も明らかに大きい・花弁の先は尖らない

-開花は‘本霧島' とほ

ぼ同時期

-花冠はがくが花弁化し

た不完全二重・花冠は‘本霧島' より

も明らかに大きい・花弁の先は尖らない

-開花は‘本霧島' とほ

ぼ同時期

・花冠はがくが花弁化し

た二重・花色は明朱紅色で,鮮

・開花は‘本霧島' とほ

ぼ問時期

考察

1.能登への移入と現在の分布

現在の‘本霧島'とされる江戸時代の‘霧島, (宮津,

1940)は, 1656年に薩摩の霧島山から大阪を経由して江戸

に移入され(伊藤, 1733;菊間, 1735),江戸で品種が分化

し地方に広まったとされる(赤羽ら, 1979). これまで,

現在まで残る樹齢 100年以上の江戸キリシマの個体はほと

んど知られていなかった(赤羽ら, 1979)が,本研究によっ

て能登地方に 286個体もの多数の古木が存在することが明

らかとなった.

能登地方への移入時期については,郡方産物帳羽咋郡鹿

島郡(著者不明, 1738) に“きりし満"の名があることか

ら, 1738年以前に羽咋郡(現在の羽咋市,七尾市,羽咋郡

而タマ-OPK-19 I

M午71345678910111213

1M

1.600bp 1,200bp

¥1,000 bp

500bp

防引すー OPK-20I

M寸71111213 'M

h叩'叩'印

¥

500bp

第 3密 RAPD 法によるつつじが伺公園と能登地方の‘本霧

島'の多型の比較

矢印は出現あるいは欠損する特有バンドを示す

上.プライマー OPK-19(5'-CACAGGCGGA-3')

下:プライマー OPK-20C5'-GTGTCGCGAG-3')

M:分子量マーカー, 1:つつじが同公園 個体番号 1794,

2:つつじが同公園偲体番号 1582,3:能登町柳田A,

4:能登町秩吉 A,5:能登町秋吉 B,6:能登UIJ恋路A,

7:珠洲市若山A, 8:珠洲市大谷 A,9:穴水町上中 A,

10:穴水町上中 B,11・輪島市赤崎A, 12:輪島市赤崎B,

13 :能登町柳田植物公園 A

志賀町ならびに宝達志水町)には‘本霧島'が移入されて

いたことが分かる.また, ~三国名物志.] (坂元, 1804-1818)

からは,江戸以外にも関西からも移入されたことが明らか

となった.第 1表に示したように,江戸から最も離れた能

登半島の先端付近の市町村に現在の分布が集中しているこ

とは,都市部に比較して人家の移動や開発が少なかったこ

とや,能登に移入された後にニ次的に増殖されて広まった

ためとも考えられるが,陸路以外にも,江戸時代に大阪か

ら北臨,北海道を結ぶ重要な水運航路であった北前船など

によって輪送された可能性も考えられる.歴史的な庭冨な

どに群植されている例を除いて,広域の個人庭園にこれだ

け多数の江戸キリシマ品種群の古木が保存されているの

は,他所には見られない能登地方の特徴である.

江戸時代の圏芸の流行は江戸をはじめとして大阪の大都

市圏や園芸に熱心な肥後や伊勢などの地方都市であり,主

に武士や町民によって推進されてきたものであるが(中尾,

1986) ,地方でも閤芸品種を栽培,観賞する文化が存在した

ことは興味深い事実である.

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園学研 (I-Iort. Res. (Japan)) 8 (3) : 267-271. 2009. 271

2. 品種構成

花冠を中心とした形態の特徴から,能登地方には第 2表

に示した江戸キリシ77品種が存在することを確認した.

江戸キリシマ品種群には,‘本霧島'よりも不鮮明で暗色の

花弁を持つ“けら性"または“けら霧島"と呼ばれる系統

があり,花冠が一重の‘田舎げらがくが不完全に弁化し

た‘蓑げら'および二重の‘八重げら'の 3品種があると

される(赤羽ら, 1979;小松, 1918;野間, 1928). 能登地方

においても,けら性の一重,不完全二重,ニ重のそれぞれ

で複数の個体を確認した(第 3表).これらは,これまでに

記述された品種の花色,花器および葉の形態,開花期と合

致しないため別品種であると考えられたが,品種名を同定

することはできなかった.また,地域によって花冠裂片の

幅や花色に変異が認められたため,今後は各花形で複数の

系統を含むのかなどの詳細調査を行う予定である.

小松(1918),野間(1928)は一重で花色が鮮やかな緋色

を示す江戸キリシマ品種群の品種として‘本霧島'以外十こ

‘賞生霧島'および‘旧舎霧島'を分類している.現在では

これらの品種の存在確認ならびに詳細な特徴の把握は不可

能であるが,つつじが岡公園と能登地方の‘本霧島'では

異なる RAPDバンドパターンが得られたことから,分析個

体にこれらの複数品種を包含している可能性や‘本霧島'

が複数個体に由来する可能性などが考えられる.今後, こ

れらの品種の性状を明らかにするためには,能登および他

地域のより多くの江戸キリシマ品種と個体について,開花

期の詳細な形態調査を行うと同時に,詳細な品種間差異を

検出できる DNAマーカーを用いて分析し比較検討する

必要がある.

能登地方の江戸キリシマは半島の先端を中心に分布し,

現在同地域で“のとキリシマツツグ'と命名され,観光や

地域活性化に利用されている これらの品種は,九州、|の霧

島地域に由来する江戸キリシマ品種群で、あることは形態観

察の結果から明らかであるが,その{去播経路や品種発達,

ならびに多くの個体が維持管理されてきた理由について

は,今後の古文献の調査や他地域に残る古木との比較など

により明らかになるものと考えられる.

摘要

石川県能登地方には,江戸キリシマ品種群の樹齢 100年

以上と推定される古木が 能登半島の先端部の個人の庭園

を中心に 286個体が分布する.広域でこれだけ多数の江戸

キリシマが保存されているのは他所には見られない特徴で、

あり,地域で“のとキリシマツツグ'と命名され,観光や

地域活性化に利用されている.形態調査から,これらは‘本

霧島¥‘蓑霧島¥‘二順霧島¥‘八重霧島¥‘四季咲霧島

‘紅霧島¥‘紫霧島'の 7品種ならびに品種名不明の“けら

性"の一重,不完全二重,八重の品種不明の 3系統である

ことが確認された.古文献調査からは,能登地方に 1738年

以前に‘本霧島'が存在したこと,ならびに江戸および関

西から移入されたことが明らかとなった.また,能登地方

および群馬県館林市のつつじが向公園の‘本霧島'を孔ザD

法により比較した結果,能登地方内でのバンドパターンの

差異は見られなかったが,つつじが同公園とは同一品種の

クローンではないことが明らかになった.

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