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特許権侵害における 損害賠償額の適正な評価に向けて 特許庁 企画調査課

特許権侵害における 損害賠償額の適正な評価に向けて · 2019-04-16 · 損害額 = 不法⾏為がなかった場合の仮想的な利益状態 -不法⾏為により不利益を被った現実の利益状態

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特許権侵害における損害賠償額の適正な評価に向けて

特許庁 企画調査課

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⽬次

1. 背景・⽬的

2. 基本的な損害理論

3. 特許法102条について

4. 逸失利益の算定⼿法・考慮要素

5. 逸失利益の算定プロセス・考慮要素

6. 実施料相当の算定プロセス・考慮要素

7. 逸失利益と実施料相当の関係(重畳適⽤)

8. まとめ︓損害賠償額の適正な評価に向けて

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1.背景・⽬的

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特許権の活⽤によるイノベーション創出に向け、ビジネスの実態やニーズに即した、権利者及び実施者双⽅に納得感のある適切な損害賠償を実現することが必要

特許訴訟における損害賠償額の算定⼿法やその際の各考慮要素等について、訴訟の実態を踏まえ、紛争当事者が損害賠償額を適正に評価する(例えば、合理的な損害額算定の証拠を⽤意し主張⽴証する)際に有⽤な基礎資料・情報を提案する

中位値(百万円) 判決数

240.8 298

54.8 4

23.8 111

19.6 20

6.0 101

0.7 77447,266

45

6

30

34

313 

14 

10 

14 

139 

27 

32 

42 

16 

10 

12 

28 

20 

52 

28 

100 

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

中国

韓国

ドイツ

日本

英国

米国

1‐500万円未満 500‐1,000万円未満 1,000‐5,000万円未満 5,000万円‐1億円未満

1億円‐5億円未満 5億円‐10億円未満 10億円‐

(参考)各国における認容額毎の判例数

※⽶国では陪審制度によって⾼額の認容額が認められる場合がある(2012年〜2016年の認容額中位値は、陪審1070百万円程度に対して裁判官裁判68百万円程度)(調査対象︓2007年1⽉〜2017年11⽉)

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損害額 = 不法⾏為がなかった場合の仮想的な利益状態-不法⾏為により不利益を被った現実の利益状態

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2.基本的な損害理論

①⺠法第709条による損害賠償

②上記規定のみによる不都合性

差額説

特許権侵害による損害は、特許権の毀損そのものではなく、マーケットを媒介して損害が顕在化するという特殊な性格を持つ。

そのため、⼀般の不法⾏為法に委ねると因果関係や損害額の⽴証ができないおそれがある。

特許法102条による損害推定規定の創設

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3-1.特許法第102条 条⽂の確認

特許法102条

第2項特許権者⼜は専⽤実施権者が故意⼜は過失により⾃⼰の特許権⼜は専⽤実施権を侵害した者に対しその侵害により⾃⼰が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の⾏為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者⼜は専⽤実施権者が受けた損害の額と推定する。

第1項特許権者⼜は専⽤実施権者が故意⼜は過失により⾃⼰の特許権⼜は専⽤実施権を侵害した者に対しその侵害により⾃⼰が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の⾏為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量に特許権者⼜は専⽤実施権者がその侵害の⾏為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者⼜は専⽤実施権者の実施の能⼒に応じた額を超えない限度において、特許権者⼜は専⽤実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部⼜は⼀部に相当する数量を特許権者⼜は専⽤実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

第3項特許権者⼜は専⽤実施権者は、故意⼜は過失により⾃⼰の特許権⼜は専⽤実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき⾦銭に相当する額の⾦銭を、⾃⼰が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

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逸失利益

第1項 損害額=侵害者の譲渡数量×特許権者の単位数量当たりの利益

第2項損害額=侵害者が侵害⾏為により得た利益(侵害者の譲渡数量×侵害品の単位数量当たりの利益)

実施料相当第3項

損害額=実施料相当(侵害者の譲渡数量×権利者が単位数量当たり受けるべき⾦銭の額)

※第4項において、第3項の実施料相当を超える損害賠償の請求を妨げないことを規定

3-2.特許法102条による推定

②特許法第102条による推定

・当事者は、上記損害推定規定を選択的に主張することができる。・同規定は損害額の推定規定である。

損害の発⽣を推定するものではない。

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4-1.逸失利益の算定プロセス・算定⼿法(1)

害(

逸失利益)

特許法第102条第1項⼜は第2項に基づく⼿法(例)

「侵害者の販売数量」×「特許権者⼜は侵害者の単位あたり利益」

①侵害売上げを基礎とする⽅法

「侵害者の販売数量」 「特許権者⼜は侵害者の単位あたり利益」

②市場シェア法

「侵害者の販売数量」 「特許権者⼜は侵害者の単位あたり利益」 「侵害品がなかった場合、権利品を選択する割合(調査結果)」

③顧客アンケート調査法

⾮侵害の競合が存在、各製品が同質である場合

科学的なサンプリング⼿法が適⽤可能な場合

※特許権者の実施能⼒を超える部分や「販売することができない事情」(②③にて各前提を満たす場合には控除可能)の控除が必要

特許権者のシェア特許権者のシェア+⾮侵害競合のシェア

MS︓Market Share(市場シェア)

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4-2.逸失利益の算定プロセス・算定⼿法(2)

害(

逸失利益)

市場の状況やコスト構造が変化しない前提がある場合

分析に必要なデータが⼊⼿可能で、計量経済学のスキルを有する専⾨家の関与が可能な場合

「侵害期間の販売数量」× 「(侵害前の価格-侵害後の価格)」

④前後法

事情に応じて経済モデルを構築して推定

⑤計量経済学的⼿法

※「寄与率」については必要に応じていずれかの段階で考慮され得る。

特許法第102条第1項⼜は第2項以外の⼿法(例)

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5-1.逸失利益の算定プロセス・考慮要素(1)

市場における代替関係

逸失利益の前提として、権利品と侵害品が代替関係にあるといえる※特許法102条1項の「特許

権者が販売することができないとする事情」に関連

①商品間の代替性・⽤途・価格・数量の動き等・需要者の認識・⾏動

②地理的範囲と代替性・供給者の事業地域・商品の特性・輸送⼿段・費⽤等

③⾮侵害競合の存在

特許権者の能⼒

侵害がなかった場合に、⾃社実施能⼒の拡⼤が可能であったか※特許法102条1項の「特許

権者の実施の能⼒に応じた額を超えない限度」に関連

①⽣産設備②増産能⼒③流通体制④営業体制⑤資⾦調達の実現可能性

※ここでいう「能⼒」は、特許権者が侵害品の販売数量に対応する数量の被侵害製品の製造、販売を⾏う潜在的能⼒を有していること

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5-2.逸失利益の算定プロセス・考慮要素(2)

特許発明を実施していない部分に係る損害

対象特許を直接使⽤していないが、関連する部分について請求可能な場合がある

①完成品中に特許を使⽤する機能及び使⽤しない機能がある

②機能的に特許実施製品と密接に関連する⾮実施製品のセット販売

③特許実施品に係る派⽣製品(修理部分、スペアパーツ等)

寄与率

対象特許に関連する部分に特定すべき場合、考慮され得る※販売数量等に関する減額プロセスの

根拠理由と寄与率の根拠理由が同様である場合、⼆重減額となり得る点に留意

①対象製品の⼀部分のみが権利者の権利に係るものである場合

②対象製品に係る利益のうち特許権以外の要因が寄与する部分がある場合

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(参考)判例(特許法102条第1項による損害賠償請求・市場シェア法)

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平成27年(ワ)第22491号(東京地裁平成29年7⽉27⽇判決)オキサロール事件

乾癬の治療薬としての外⽤ビタミンD3製剤としては、上記各競合品、オキサロール軟膏、被告製品があり、いずれも薬効や作⽤機序の⾯でほぼ同等と解されており、医師も、これらを適宜選択して処⽅していること、被告製品が販売開始された後、オキサロール軟膏だけでなく、他の外⽤ビタミンD3製剤の売上⾼も減少したこと、上記各競合品が・・その販売⾼において外⽤ビタミンD3製剤の市場の合計41〜42%程度のシェアを有していたことが認められる。他⽅、いずれも医師の処⽅箋を必要とする薬品であり、消費者が⾃由に選択できるものではないこと、被告製品はオキサロール軟膏の後発医薬品であって、有効成分も同じであり、医師がオキサロール軟膏を処⽅した場合、処⽅箋の変更なしに患者が⾃由に購⼊できるのは被告製品だけであることが認められる。そうすると、オキサロール軟膏から被告製品に変更する場合と⽐較すると、上記各競合品から被告製品に変更するのは容易ではないというべきであって、上記各競合品が乾癬の治療薬としての外⽤ビタミンD3製剤の市場で42%程度のシェアを有していたとしても、被告製品が同シェアをそのまま代替したものとは到底認められない。以上の諸事情を総合的に考慮すると、被告製品は、上記各競合品のシェアを⼀定程度奪ったものとして、特許法102条1項本⽂による推定が覆滅される割合を10パーセントと認定するのが相当である。

被告らは、オキサロール軟膏には複数の競合品(ボンアルファ等)があるところ、・・被告製品は、上記各競合品のシェアをも奪ったものであるとし、かつ、上記各競合品は、乾癬の治療薬としての外⽤ビタミンD3製剤の市場において42%のシェアを有しているから、42%分について推定を覆滅すべきと主張。

オキサロール軟膏と被告製品とは、医師の処⽅でマキサカルシトールを有効成分とする軟膏が選択された後で競合しており、患者が薬局等でマキサカルシトールを有効成分とする軟膏を購⼊する際には、医師の処⽅箋に従って、必ずオキサロール軟膏か被告らの後発医薬品のどちらかが販売される。したがって、被告製品の販売数量分だけオキサロール軟膏の販売数量が減少すると主張。

被告の主張原告の主張

裁判所の判断

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(参考)判例(⺠法709条による損害賠償請求・前後法)

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(1)侵害⾏為と損害とに間に因果関係がある侵害⾏為と損害との間に相当の因果関係があり薬価を維持することにより得られる利益は新薬の創出を⾏ったものが得られる正当な利益である(2)賠償額を原告と医薬品メーカーの取引価格の下落分より算出①被告製品薬価の引き下げに伴い原告製品の販売価格が下落したことによる売り上げ減少が原告の逸失利益である。②医療業界では薬価の引き下げが頻繁に⽣じるため、薬価の変動に備えた正味仕切価格を製造販売元の販売価格として定めておくことが合理的であり、引き下げ額が合理的範囲を超えていない場合はその損害は相当因果関係の範囲内である。

(1)先発医薬品の薬価が維持されるとの期待は法的に保護された利益ではない。医薬品では、2年ごとに薬価が引き下げられることが原則であり、新薬については薬価の引き下げが⼀時的に猶予されているにすぎず、別の製造⽅法であれば後発品が参⼊できたことから、薬価が維持できたとは⾔えない。(2)賠償額を薬価⾃体の下落率(10.72%)より算出①薬価とは、原告から医薬メーカー、医薬品メーカーから医療機関等に販売する際の価格を直接決めるものではない。②販売価格の決定に薬価が念頭に置かれるとしても原告・医薬メーカー間で、⾃由に価格を決めることができ、薬価の下落を超える部分は原告が合意して減額したものであるから、被告らに賠償を求める理由はない。

原告の主な主張 被告の主な主張平成27年(ワ)第22491号(東京地裁平成29年7⽉27⽇判決)オキサロール事件

(1)原告は薬価収載されるまで現に薬価の維持という利益を得ており、被告の薬価収載がなければ原告の薬価は下落しなかったと認められることからその損害について賠償責任を負うべきである。新薬創出加算制度が現に存在し、所定の要件を満たす新薬が⼀律に加算を受けられることから被告の主張は採⽤できない。(2)医療機関の請求額には薬価の規制があるため、医薬品メーカーや販売代理店が販売する医薬品の価格は、薬価を基準に定められることから、被告製品の薬価収載によって原告製品の薬価が下落し、それに伴って原告・医薬品メーカー間の原告製品の取引価格が下落したと認められ、取引価格の下落分の全てが被告製品の薬価収載と因果関係のある損害である。

裁判所の判断

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(参考)判例(特許法102条2項による損害賠償請求)

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平成24年(ネ)第10015号(知財⾼判平成25年2⽉1⽇判決)紙おむつ処理容器事件知財⾼裁⼤合議判決

被告の主張Yは、特許法第102条第2項の適⽤のためには、特許権者が⽇本国内において特許発明を実施していることを要し、⽇本国内において特許発明を実施していることを要し、Xは⽇本国内で本件特許発明を実施していないから、同項を摘要することは出来ないと主張。

Xは、特許法第102条第2項の適⽤のためには、特許権者が⽇本国内において特許発明を実施していることは要件ではないとして、Yの利益の額をXの損害額と推定できると主張。

原告の主な主張

裁判所の判断①特許法第102条第2項は、損害額の⽴証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって、その効果も推定に過ぎないことからすれば、同項を適⽤するための要件を、殊更厳格なものとする合理的な理由はないというべきである。②特許法第102条第2項には、特許権者が当該特許発明の実施をしていることを要する旨の⽂⾔は存在しないことなどを総合すれば、特許法第102条第2項の適⽤に当たり、特許権者において、当該特許発明を実施していることを要件とするものではないというべき。③侵害者による特許権侵害⾏為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法第102条第2項の適⽤が認められると解すべきであり、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は、推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとするのが相当である。

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対象特許(技術)が完成品の需要を喚起したといえるか︖

対象特許(技術)を含む最⼩販売単位が特定可能か︖

対象特許(特許)が同単位の需要を喚起したといえるか︖

対象特許(技術)を含む部品等の価値が推定可能か︖

完成品価格Yes

YesYesNo

No 部品等の価値

最⼩販売単位の価格

その他の⽅法No

Yes

No

①仮想的交渉のレンジを推定する⽅法(各種要素を考慮して料率を決定)

②⽐較可能取引を参照する⽅法(各種要素を考慮して類似度を判断して決定)

ロイヤルティベースの推定 料率の推定交渉レンジ上限・下限に必要なデータ等が⼊⼿可能な場合など

OR⽐較対象となり得る取引が存在する場合(当事者の過去のライセンス契約、第三者間契約、業界平均等)など

実施料(⾦額⾃体)の推定販売単位当たりの実施料の推定(コストアプローチ(技術回避の費⽤)が適⽤可能な場合がある)

数量特定

6-1.実施料相当の算定プロセス・考慮要素(1)

※「寄与率」については必要に応じていずれかの段階で考慮され得る(ロイヤルティベース推定時に考慮された事情と同じ事情が料率の推定でも適⽤された場合、⼆重減額となり得る点に留意)

害(

実施料相当)

<考慮要素(例)>• ライセンス条件・

⽅針・期間• 対象特許の製品の特性• ビジネス上の関係• 収益性• 市場での状況・需要• 代替品に対する優位性• 費⽤節減効果• 使⽤頻度

※訴訟外の⼀般的なライセンス契約額を参照した場合、有効性など各種リスクが考慮されていない点に留意※業界平均を参照した場合、特許の価値の偏りによる過⼩・過⼤評価の可能性に留意

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6-2.実施料相当の算定プロセス・考慮要素(2)

• ⼀般的な(訴訟外の)ライセンス契約では、対象特許の無効化リスクや第三者侵害リスクが存在するため、実施料はそれらのリスクが割り引かれたものとなる。

• 他⽅、訴訟時点においては、すでに権利の有効性や侵害の事実があるため、⼀般的な(訴訟外の)ライセンス契約における実施料よりも⾼く算定することには、合理性があるといえる。

「通常」のライセンス契約での実施料と特許訴訟での実施料相当

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(参考)判例(「通常」のライセンス額と訴訟時の実施料相当額)

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被告各製品の売上の約10%①本件特許権の発明は、技術的観点から⾒て極めて評価の⾼いもの。②現⾏の特許法102条3項は、侵害を発⾒された場合に⽀払うべき実施料相当額が誠実にライセンスを受けた者と同じ実施料額では、事前にライセンスを申し込むというインセンティブが働かず、侵害⾏為を助⻑しかねないという批判を受けて⾒直しを図った規定。③実際、ライセンス契約では、被許諾者において、発明の実施品の販売数量の多寡にかかわらず⼀定⾦額(最低保証料)を⽀払わねばならず、⼀定の事由のあるときを除いて契約を解除できず、また、万⼀当該特許が無効とされた場合であっても⽀払済みのライセンス料の返還を求めることができないなどの制約を契約上負担させられるのが通常であるのに対して、特許権侵害の場合には、侵害者は、これらの契約上の制約を負わないという点だけを⾒ても、既にはるかに有利な⽴場に⽴つものである。

被告各製品の売上の15%①本件特許権は顕著な作⽤効果があり、極めて利⽤価値が⾼い。②被告がN社に販売しなければ、原告が販売できたはずであり、原告・被告間でライセンス交渉を仮定すると、原告はN社に対する販売を断念するに⾒合うだけの実施料(原告の仮想利益の5割以上)を要求したはず。

平成9年(ワ)第19789号(平成12年7⽉18⽇判決) ヒンジ事件

被告各製品の売上の1%①本件特許権の技術分野の通常実施料は2〜5%。②原告主張と同様の作⽤効果を有する製品は他にも多数市場に出まわっているので、被告がN社に販売しなければ、原告が販売できたはずとの理屈は成⽴せず、また、多額の実施料を⽀払って実施許諾を受ける必要性も存在しない。

原告の主な主張 被告の主な主張

裁判所の判断

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特許法第102条の損害推定

特許権者の実施能⼒

範囲内の部分 範囲外の部分

第1項⼜は第2項 ①請求可能 ②請求困難

第3項 ③請求可能 ④請求可能

17

①+③︓重畳適⽤困難 ①+④︓重畳適⽤可能

侵害者が権利者の実施能⼒では参⼊できない範囲(市場や販売能⼒)で事業を⾏う場合、異なる損害をそれぞれの⼿法で推定することとなり、経済合理性がある。

※重畳適⽤を可能とする場合の整理

7.逸失利益と実施料相当の関係(重畳適⽤)

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8. まとめ︓損害賠償額の適正な評価に向けて

より納得感がある合理的な損害賠償額の実現を期待

合理的な損害賠償額を算定するためには、

・ケースに応じた算定⼿法の選択逸失利益 ︓侵害売上を基礎とする⽅法、市場シェア法、前後法・・・実施料相当︓ロイヤルティベース×料率、⼜は、実施料⾃体の推定

・各考慮要素に関するデータ収集、算定への反映逸失利益 ︓市場における代替関係、特許権者の能⼒、寄与率・・・実施料相当︓ライセンス条件、特許製品の特性、市場の状況・・・

による、適切な主張・⽴証(証拠提出)が求められる※損害算定の専⾨家(damage expert)の活⽤も有⽤

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報告書は、全体版・要約版ともに、特許庁ウェブサイトに掲載しております。

【特許庁HP】[ホーム]-[資料・統計]-[刊⾏物・報告書]-[特許庁産業財産権制度問題調査研究について](「29年度研究テーマ⼀覧」の(11))https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/zaisanken.htm

【全体版(PDF)】

https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2017_11_zentai.pdf

【要約版(PDF)】

https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2017_11_youyaku.pdf

特許権侵害における損害賠償額の適正な評価に向けて

19

検 索特許庁 損害賠償額