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特集2 訪問看護で必要な小児看護技術 【訪問看護ステーションあらいの紹介】 当ステーションは大阪府大阪狭山市にあり, 乳幼児から高齢者まで年齢を問わず,必要に応 じた訪問看護を提供している。 小児領域に関しては,認定看護師と小児に精 通したセラピストを中心にスタッフ全員で協働 しながら,医療的ケアが必要な子どもはもちろ ん,身体や心の発達にアンバランスのある子ど もたちにも,運動や道具を使い,遊びを通して 日常生活の過ごしやすさ,コミュニケーション の楽しさを家族と共に見いだす支援を行ってい る。さらに,子どもの得意な部分,苦手な部分 を評価し,発達課題を考慮しながら,その子に 合った成長発達を促していくための支援も行っ ている。家族への指導や,きょうだいを含めさ まざまな相談ができる身近な医療者をコンセプ トにして,在宅支援に取り組んでいる。 現在は,先天性の疾患や後遺的な障がい,発 達障がい,特殊なところでは血液疾患の家庭輸 注指導など,小児領域全般に対応している。気 管切開などの医療的ケアが必要な子どもたちも 含め,セラピストと連携しながら在宅での療養 支援を行っている。 気管切開の基本的な知識 小児在宅医療で扱う医療的ケアの中で,気管 切開の管理は頻度が高いものの一つである 1) 人工呼吸器の使用の有無,自発呼吸の有無,酸 素吸入の有無,運動機能問題の有無,またその 程度にも多様性があるため,個々に合わせたケ アが必要である。 気管切開の目的 気管切開とは,気道管理の方法の一つであ る。長期間にわたり人工呼吸器管理が必要な場 合や,気道分泌物が多く自力での排出が困難な 場合,上気道や上部気管の狭窄や閉塞により通 過障害がある場合など()に,気道確保と呼 吸管理を目的として気管を開窓する方法であ る。気管切開を受けた子どもでカニューレ抜去 が可能なのは30%で,残る70%は長期の在宅 気管切開管理が必要になる 2) と言われている。 カニューレの種類と特徴 気管切開をした大半の子どもが気管カニュー レを使用しており,材質(シリコン,ポリ塩化 ビニル製など),形(Ⅴ型フランジ,直型フラ ンジ,立体的フランジ,ロングなど),サイズ 気管切開 訪問看護ステーションあらい 管理者/小児救急看護認定看護師 新井茂登子 あらい・もとこ 整形外科,内科病棟・外科病 棟,救急外来勤務を経て,2004年大阪府の豊 能広域こども急病センターに従事。2012年小 児救急看護認定看護師の資格を取得。同年, 社会医療法人真美会中野こども病院へ就職。 2014年訪問看護ステーションあらいを開設し, 現在に至る。 当ステーションの シンボルマーク 上気道の問題 舌や喉の運動麻痺,声帯麻痺, 声帯付近の狭窄,喉の構造 の弱さ,咽頭腔を構成する 組織の形成異常や形態・位 置異常 など 気管の問題 気管の狭窄,気管の構造の弱 さ,気管手術後,腫瘍や炎症 の慢性化 など 人工呼吸器管理目的,気道分泌物による換気 障害,分泌物(貯留物)嚥下の問題 など 気管切開の適応となる病変や状況 その他 39 こどもと家族のケア vol.13_no.6

特集2 訪問看護で必要な小児看護技術 気管切開 · 2019-02-18 · 特集2訪問看護で必要な小児看護技術 【訪問看護ステーションあらいの紹介】

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Page 1: 特集2 訪問看護で必要な小児看護技術 気管切開 · 2019-02-18 · 特集2訪問看護で必要な小児看護技術 【訪問看護ステーションあらいの紹介】

特集2 訪問看護で必要な小児看護技術

【訪問看護ステーションあらいの紹介】

 当ステーションは大阪府大阪狭山市にあり,

乳幼児から高齢者まで年齢を問わず,必要に応

じた訪問看護を提供している。

 小児領域に関しては,認定看護師と小児に精

通したセラピストを中心にスタッフ全員で協働

しながら,医療的ケアが必要な子どもはもちろ

ん,身体や心の発達にアンバランスのある子ど

もたちにも,運動や道具を使い,遊びを通して

日常生活の過ごしやすさ,コミュニケーション

の楽しさを家族と共に見いだす支援を行ってい

る。さらに,子どもの得意な部分,苦手な部分

を評価し,発達課題を考慮しながら,その子に

合った成長発達を促していくための支援も行っ

ている。家族への指導や,きょうだいを含めさ

まざまな相談ができる身近な医療者をコンセプ

トにして,在宅支援に取り組んでいる。

 現在は,先天性の疾患や後遺的な障がい,発

達障がい,特殊なところでは血液疾患の家庭輸

注指導など,小児領域全般に対応している。気

管切開などの医療的ケアが必要な子どもたちも

含め,セラピストと連携しながら在宅での療養

支援を行っている。

気管切開の基本的な知識 小児在宅医療で扱う医療的ケアの中で,気管

切開の管理は頻度が高いものの一つである1)。

人工呼吸器の使用の有無,自発呼吸の有無,酸

素吸入の有無,運動機能問題の有無,またその

程度にも多様性があるため,個々に合わせたケ

アが必要である。

気管切開の目的 気管切開とは,気道管理の方法の一つであ

る。長期間にわたり人工呼吸器管理が必要な場

合や,気道分泌物が多く自力での排出が困難な

場合,上気道や上部気管の狭窄や閉塞により通

過障害がある場合など(図)に,気道確保と呼

吸管理を目的として気管を開窓する方法であ

る。気管切開を受けた子どもでカニューレ抜去

が可能なのは30%で,残る70%は長期の在宅

気管切開管理が必要になる2)と言われている。

カニューレの種類と特徴 気管切開をした大半の子どもが気管カニュー

レを使用しており,材質(シリコン,ポリ塩化

ビニル製など),形(Ⅴ型フランジ,直型フラ

ンジ,立体的フランジ,ロングなど),サイズ

気管切開の目的

気管切開 訪問看護ステーションあらい管理者/小児救急看護認定看護師

新井茂登子あらい・もとこ 整形外科,内科病棟・外科病棟,救急外来勤務を経て,2004年大阪府の豊能広域こども急病センターに従事。2012年小児救急看護認定看護師の資格を取得。同年,社会医療法人真美会中野こども病院へ就職。2014年訪問看護ステーションあらいを開設し,現在に至る。 当ステーションの

シンボルマーク

上気道の問題舌や喉の運動麻痺,声帯麻痺,声帯付近の狭窄,喉の構造の弱さ,咽頭腔を構成する組織の形成異常や形態・位置異常 など

気管の問題気管の狭窄,気管の構造の弱さ,気管手術後,腫瘍や炎症の慢性化 など

人工呼吸器管理目的,気道分泌物による換気障害,分泌物(貯留物)嚥下の問題 など

図 気管切開の適応となる病変や状況

その他

39こどもと家族のケア vol.13_no.6

Page 2: 特集2 訪問看護で必要な小児看護技術 気管切開 · 2019-02-18 · 特集2訪問看護で必要な小児看護技術 【訪問看護ステーションあらいの紹介】

(内径2.5mm ~),カフの有無,ラセン入り,

ラセンなしなど,種類はさまざまである。

 在宅で変更することはまれであるが,肉芽形

成などの問題が発生し,カニューレ変更すること

で改善する可能性が高い場合や,通常カニュー

レサイズは年齢から考慮されるため,成長と共に

種類やサイズ変更の必要性が高くなった場合に

は,訪問診療医の判断で変更されることがある。

 子どもは気管壁が脆弱であるため,一般的には

カフなしカニューレを使用することが多く,その

上基本的に細く短いので,詰まりやすく抜けやす

い。そのため,しっかりと固定しておく必要がある。

気管切開に伴う合併症 頻度が高い合併症は,吸引時の出血,カ

ニューレや固定ホルダーの接触による皮膚障

害,気道の乾燥,唾液の垂れ込み,気管切開孔

の肉芽,気管肉芽など,さまざまなことが起こ

り得る。まれではあるが,重篤なものとして気

管腕頭動脈瘻出血がある。また,気管カニュー

レの閉塞,事故抜去も呼吸不全へとつながるた

め,注意が必要である。

気管切開時に必要となる日常的ケア 気管切開することにより呼吸は安定するが,

日常的なケア,観察,処置が必要となる。日常

のケアとして,Yガーゼ,カニューレホルダー

の交換,入浴などのスキンケア時の介助,カ

ニューレホルダー周囲の皮膚のケア,吸引,加

湿,カニューレ交換などが必要となってくる。

頻度はそれぞれ異なるが,日常ケアの大半は保

護者が担うため,保護者の手技の獲得が必要で

あり,また日常的な観察・管理も必要不可欠と

なる。在宅では,吸引カテーテルの挿入長が分

かりやすいよう表記したり,物品をワゴンなど

にまとめ,ケアしやすいような工夫がなされて

いる(写真1)。

事例を基に考える気管切開をしている小児への

看護のコツ

事例紹介Aちゃん,6カ月

退院までの経過 胎児期から総肺静脈還流異常,高度肺静脈狭

窄の診断があり,出生直後には高度チアノーゼ

を認め挿管管理となり,その日のうちに修復術

が施行される。肺条件の改善は乏しく,胎児期

からの肺静脈狭窄による肺障害の問題が大きい

と考えられ,気管切開,人工呼吸器管理となる。

その後も肺静脈狭窄解除術を数回施行される。

今後再度狭窄が進行する可能性はあるが,状態

は安定してきているため,生後6カ月で退院,

外来フォローとなる。

在宅でのケアの実際 帰宅後から24時間酸素吸入,入浴時のみ人

工鼻を使用,それ以外は呼吸器を使用していた。

呼吸状態も安定しており,経過は順調であった。

気管切開に伴う合併症

気管切開時に必要となる日常的ケア

気管切開をしている小児への気管切開をしている小児への

退院までの経過

在宅でのケアの実際

気切用

口腔・鼻腔用

予備のカニューレ

ケアの物品をまとめたワゴン

ベッド柵

吸引器

吸引カテーテルの挿入長を

分かりやすく表記

写真1 在宅におけるケアをしやすくするための工夫

40 こどもと家族のケア vol.13_no.6

DTP
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