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308 第8巻 特 殊 鋼 の参炭に 關 す る 基礎 的 研 究(第1報) の参 に及 の影 村上武次郎* 今非勇之溜* 参炭劑A(70%松炭+30%BaCO3),B(70%骸 炭+30%BaCo3)及びC(60%松 炭+%BaCO3+10%Na2C0 3)を用 ひ参 炭 温 度900°,950° 及 び1000°,滲 炭 時 間3,7及 び10時 間 な る種 々 の 條 件 でCr14%迄 のCr鋼 に参炭を行ひ ,滲炭 の深 ,重量增 加,析出 炭 化物 の種 類 及び 鱒 借 状況 に 及 ぼ す クロム の影 響 を研 究 し過 剰 滲 炭 層 生 成 の 條 件 を 決 定 した.又 大洲 田 に地鐵の結晶粒の大さ及び加熱によるこれが成長に及ぼすクロムの影響を調べた , (照和19年2月18日 婆 理) *棄 北帝國大輪金屬材 料 研究所

特殊鋼の参炭に 關する基礎的研究(第1報)2003/08/07  · +30%PaCO3+10%NaCO3) 時間滲炭したる場合に於ける滲炭の深さに及ぼすCr量 ミ滲炭温度の影響を示すもので圖に於て深さを示す桂の

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Page 1: 特殊鋼の参炭に 關する基礎的研究(第1報)2003/08/07  · +30%PaCO3+10%NaCO3) 時間滲炭したる場合に於ける滲炭の深さに及ぼすCr量 ミ滲炭温度の影響を示すもので圖に於て深さを示す桂の

308  研 究  第8巻

特 殊 鋼 の参炭に 關 す る 基礎 的 研 究(第1報)

鋼 の参 炭 に 及 ぼ す ク ロ ム の 影 響

村 上 武 次 郎*  今 非 勇 之 溜*

参炭劑A(70%松 炭+30%BaCO3),B(70%骸 炭+30%BaCo3)及 びC(60%松 炭+%BaCO3+10%Na2C03)を 用

ひ参 炭 温 度900°,950° 及 び1000°,滲 炭 時 間3,7及 び10時 間 な る種 々の 條 件でCr14%迄 のCr鋼 に参 炭 を 行 ひ,滲 炭 の深さ

,重量增 加,析 出 炭 化物 の種 類 及び 鱒 借 状況 に 及 ぼ す クロム の影 響 を研 究 し過 剰 滲炭 層生 成 の 條 件を 決 定した.又 大洲 田並

に地 鐵 の結 晶 粒 の 大 さ及 び 加 熱 に よ る これ が 成長 に及 ぼす ク ロム の 影 響 を 調 べ た,

(照 和19年2月18日 婆 理)

*棄 北帝國大輪金屬材 料 研究所

Page 2: 特殊鋼の参炭に 關する基礎的研究(第1報)2003/08/07  · +30%PaCO3+10%NaCO3) 時間滲炭したる場合に於ける滲炭の深さに及ぼすCr量 ミ滲炭温度の影響を示すもので圖に於て深さを示す桂の

第7號  特 殊鋤 滲炭に關する鞭 的研究(第1報)鏡 の灘 に及ぼすタ ロムの影響 309

Ⅰ.緒 書

滲炭は古 くか ら多 くの 學 者の研 究 の對 象 こなつ た もの

でその研究 報 告 も頗 る多 い.近 來 滲 炭劑 の種 類 も增加 し

研究の範 園 も廣 くな り各 種 の 方面 よ り研 究 が 進 め られ特

にその滲 炭機港 に就 いて{よ内 外 共 に今 猶 種 々論議 せ られ

て居 る.又或 る種 の鋼 に於 て は過剩 滲 炭 の 問題 が あ る.即

ち或 る組 成の特 殊 鋼 を滲 炭 する5或 る條 件の 下 に於 て1よ

表瀬滲炭 層 に多 量 の粒 状炭 化 物 が 集 績 し表 面 が脆 くな る

ので ある.こ れを避 け る 爲に は滲 炭能 力 の 弱 い滲 炭綱 を

使用す るか又 は か か る現 象の起 らない鋼 種 を 用 ふ る この

が必要 であ る.

滲炭能 力 を緩 和す る爲 には 滲 炭劑 にSiを 添 加 す る法(1)

Ai及 びMgを 添 加 す 研法(2)骸 炭の 使用 又は 鰹 浴 滲炭 に依

る法13714)等が提 出 せ られて 居 る.又 最 近 上 田満 西1氏(5)は

含Cr鋼 の緩和 滲 炭 に關 す る研究 を饗 表 せ られ た,

一方過 剰滲炭 の 起 らな い鋼 種の 研 究 には 先 づ 各添 如 元

素の滲炭 に對 す る影響 に就 い て研 究 す る必 要 が あ る.高

橋源助博 士(6)は欝 に 滲 炭 に及 ぼ す諸 元素 の 影響 を海 炭 重

量及び硬度 の上 か ら系 統 的 に研 究 せ られ た が 本 研 究 は こ

の過 剰炭層 を生 ず る滲 炭 條井 を決 定 す るナニめ 各種 の鋼

に就いて激 種 の固 形滲 炭劑 を用 ぴ滲 炭温 度,参 炭 時 鮒 を

愛へて,滲 炭重量,滲 炭 の 深 さ,炭 化物 の種 類 及び その 杯

出状 態等を研 究 し 各添加 元 素 の影 響 を 知 らん こ し六 の で

あ る.

Ⅱ ・ 試 料 の 作 製 と 滲 炭 方 濠

電 解鐵 ご金属Crご を適當 に配 合 しCr含有 量0・5,1,2,

3,4,6,8,10,12及 び14%を'有 ず る もの70Ogを 高周 波 電

氣纏 を以つ て翼 空 中 に於 て熔 解 し これ を鍛 造 並 に機 械仕

上をなし直徑8mm,長 さ15mmの 試 料 を 作 り アル コール

にて よ く洗滌,秤量 後 滲 炭 筒 に 入 れ そ の周圍 に下 記 の 滲

炭劑 を詰 め電 氣 抵抗爐 中 に於 て 加 熱 滲炭 し所 定 時 間の 後

徐冷 した。

滲炭條件 に就 い て は豫 め種 々の滲 炭劑 に就 いて 豫 備 試

験の後次 の如 く決定 じた.

滲 炭 剤:A.70%松 炭+30%BaCO3 B. 70%骸 炭+

30%BaCO3 C. 60%松 炭+30%BaCO3+

10%Na2CO3

滲炭温度;1)4100' 2)950° 3)1000°

( 1) E, G. Mahin, R.σ, SPeY)CfT, Trans. Amer, Soc. Stccl. Treat.,

15 (1929), 117.

(2) E. G, Mahin, R, J, Mocty, Trans. A mcr. Soc. Steel. Trcsr.,

28 (1930), 552,

(3) H. Sehcadcr, Siahl u. Eisen, 55、1936), 1203,

(4) H. Schrader, F. Bruh1, Slahiu. Eiscn, 60 (1940), 1051.

(5)上 田,神 鋼 、6 (1942), 22號,

(6)高 橋{源},鐵 と 鋼,8 (1931), 102。

滲炭時間:1)3時間2)7時 護:事〉10葛三陶

上記の各 試料をこれ等σ種々の條 物 下に 曇炭 したる

後徐冷 し,(1)滲炭に依る重量増 加を秤量 し12)難1・ 依

り試料の中央部 にて2個1σ圓柱に兩臓 し(3)斷而1二1綱

所に就いて滲炭の深 さを測微計にて測定し(4)結 晶粉度

を測定してCr添 加量 ご結品粒 隻の關係並に加熱による

結晶粒成長の模機 調べ(5)生 域炭仕物 に就いてその種

類の 柝出の状態を調べ必 つ石参炭に及ぼすCrの響 鞭

研究 した.

Ⅲ,實 験 結 果

(1)滲 炭 に依 る重 量增 加 に 及ほ すCrの 影 響

第1圖 及び 第2圖 は 各試料 に就 い て淵 度 及 び時 腿 を變

じて滲 炭 を 行 ひ 胆量增 加 を測 定 し九 る結 果 を綜 鳶圖 示 し

た もの で,第1圏 け滲炭劑A(70%松 炭+30%BaCO3)及

び参 炭劑B(70%骸 炭+1期%8aCO3)に 依 つ て一定 潟 間

(3,7及 び10時間)海 炭 し た る 場合 に 於 け るCr量 及 び参密

炭温度 の 影響 を示 した もの で あ る.又 第2圖 は同 様に一

定 温 度(900°,950° 及 び1000。)に 於 て滲 炭 した る場 合Cr

量 ご滲 炭 時 間 の 影 響 を示 した もので あ る.

これ 等 σ)結果 に依 つ て 訳 の 講 事實 が知1られ る,

(1)滲 炭 淵 度は 高 い程又 湊 炭時 間 は長 い程 海 炭 重量 の

增加 は大 で あ る.

(2)滲 沢劑Aの 方が1斜 是劑Bよ の も港 是能 カ か大 きい.

即 ち骸炭 よ り も木 炭 の 方 が滲 炭能 〃が大 き く,曲 線A-7,

A-2・A-3ごB一1,13-2,13-3を1・ し較 す る時1よ明 らか に 知 ら

れ る如 く7時間 乃至1u時 三網の に時 園滲 炭 に於 て又91}0.,以

上 の高灘 津 炭 に於 て その差 が 著 し く現{5れ 骸 環の 葉{}00。

に 於 け る ものXB'-3又 はB"一3)は 木 堤 の950° に 於け る

もの(A'ー2又 はA"一2)よ の も僅 か に滲 堤 鍋が 多い程 度 で

あ4),又第2鰻 に 見 る如 く同淵 度 の滲母炭に 於 て は骸 炭10

時ruの 濠 炭 量 は木 炭の7得間 滲 炭 に も劣 る位 で あ る(曲

線B"-2ごA'-2;B"-3ごAV-3/・ 又Cr6%以 上 の溶 炭 し

難 い 部 分 に於て 木 炭=43炭 この 鰍 よ明瞭 に表はれ しる.

(3)Cr量 の影響 は 滲 炭荊,滲 炭温 度,滲 炭 貼糊 の如 何

に 拘 らず滲炭量は4 %ま で はCr量ミ 共 に増 卸 し 特 に

Cr 2%以 上 に於 て增 加 の傾 向 強 く,Cr4%に 於 で最 大 こ

な 鱈 それ よ りCr6~8%迄 は 滲炭 鮭 は急 激 に減 少IJfそ

れ 以 上Cr量を增すミ 共 に滲 炭量 は漸 減 し,強 力 な る滲 炭

剤Aの 場 合 に於 て はCr12%迄 滲 炭 が 起 るがCr14%に

至 つ て 滲炭 量 は全 く微 量 ごな り,滲 炭劑Bの 場 合 に於 て

はCr1.2%に 於て 微 量 ミ な る.

(4)滲 炭 温 度 を 高 め るか又 は滲炭 時 閥 を長 くす る時 は

Cr量 の 高 い 試 料 迄 滲炭 可能ミ な る.

從 つ て 滲 淡 量 が 微 量 ごな るの は 滲炭 温 度 の 低 い30甲

に於 てはCr6~8%で,950° で は8~ l0%,1000° に於 て

はCr12%以 上 で あ る. 又 滲炭 温 度 は 周 じ で も滲炭 時 間

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310  研 究 第8巻

の長い時は滲炭が灘むに從ひ大洲田が安定ミなり且つそ

の量 を増 す爲に滲撰縫わ増加する.但 しCrh%に 於て

はCが 固溶して大洲旧になるにしても加熱の初めは全然

(2)滲 炭深さに及ぼすCrの 影響

以上の滲炭重量ミCr量 この關係は滲炭の深さの上か

らも観察せられる.第3圖 は滲炭劑Aに よるらので一だ

第1圖 滲炭の重 量 に 及ぼ ナCr量,温 葉及び 濠 炭劑 の影 響 第2圖  滲炭の重 量に及ぼすCr量,時 間及び滲炭剤の影響

第3圖  滲炭 の深 さに及 ぼ すCr量 轍び 温 度 の影 響

滲 炭劑A(70%木 炭+30%BよCO3)

4圖  滲 炭の 深 さに 及 ぼすCr量及

び濃度 の影 響

滲炭劑Bk70%骸 炭+30%BaCO3)

γ鐵 を生ぜず総ての温度範閥に於て α鐵であるから滲炭

速度遅 く重壁増加が少いのである.

滲炭劑C(60%松 炭十狗%BaCO3十10%N碗CO6)

にて滲炭せるものは試料表画に密に炭素が沈着 し滲炭に

よる重量の増加を正確に秤量 するこミは出來なかった.

第5岡  滲炭の深 さに及ぼすCr量及び時間 の影響 滲炭劑C(60%木 炭

+30%PaCO3+10%NaCO3)

時間滲炭 した る場合に於ける滲炭の深さに及ぼすCr量

ミ滲炭温度の影響を示すもので圖 に於て深さを示す桂の

影線を施せる部分は初柝炭化物 ご波來上又は波來土のみ

の部分である.こ れ等の滲炭深さは試片断面上3個 所以

上 に就いて測定 した値の平均値である.又Cr89%以 上に

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第7號  特殊 鋼の凄炭 に關 する基礎的研究(第1報)鋼 の滲炭 に及ぼすクロ ムの影響  311

於て柱 を示 さな い もの は 部 分 的 に の み塗 炭 せ る もの又 は

殆ミその滲 炭量 が 中 央部 切噺 面 で1さ鏡 験 し得 ざる程 度 の

ものであ る.又1000の,10時 間 滲炭 部 のCr0'5~4%の 部

に見る如 く桂 の 長 さ9mmに達 す るの は 直 径8mmの 試

料の中央部迄滲炭せちれて居るこミを示す吟のである.

浜柝鋼のC量 はCrの 増加ε共に少 くなるので影線を施

せる部分の長さがそのまま滲炭量 の比較を示すものでな

いが,第1圖 及び第2圖 に示す如 く滲炭重量に依つて示

されたCr量 並に温度の影響 ε大體同様な關係にあるこ

ミが知 られる,唯 滲炭深 さに依つて比較する時は時々不

規則が表はれる.その原因は結品粒の不均 一,試料表面状

況の差による粒状炭化物の分布状況又は滲炭剤の不均一

等のために滲炭が一・様に進行しないためであらう.

第4圖 及び第5圖 はそれぞれ滲炭劑R及 びCの 場合に

於ける滲炭深さに及ぼすCr母 及ひ温度の影響を示す.上

述の如く滲炭深さは部分により全 く均 一で ない爲に一断

面のみに就いて滲炭深さを比較 したのでは正確でないが

於 て は大 髄 滲 炭 深 さに依 つ て滲炭 能力0)大 小 を比 較 す る

こ ミが 出來 る もの で,第3~5圖 を比 較 して 上 述 σ如 く10

%Na2CO3Gi添 加 が著 し く滲炭 能 力 を 増 す こ ミが 知 ら

れ る.顯 微 鏡組 織 を 見 て も明 らかな こ.如く滲 炭劑Cが 最

強 力 で あ るが 上述 の如 く滲 炭 深 さには 寺々不規 則が 表 は

れ 特 に900° 滲 炭に 於C最 も多い.こ れ は 表 面 に炭 素 ミ炭

酸 ソーダ 及 び 炭 酸 バ リウ ムの 熔 融 混 合物 が硬 く不均 一 に

沈 若 す るに 依 る こ ミが一 原 因 で あ る.

(3)顯 微 鏡 組 織

(a)粒 歌炭化物の生成

各 試 料 を滲 炭 した る後 その噺 面 を鏡 検 した,そ の結 果

滲炭 暦 に現 はれ る網 状 以 外 の 初柝 炭 化 物 即 ち粒 状 炭 化物

は滲 炭劑co)芝 場合 に力全て 最 もよ く現 はれCr0'5%で 已 に

僅 少 乍 ら角 張 つ たFesCが 現 はれ る場 合 多 く,1%Crに

於 て は少 し くその 量 を増 し(寫 眞1)Cr量 を 増 す に つれ て

急 激 に増 加 しCr4~6%に 於て 最 大 壁に 達 す るが,Crl4

%に 至 る迄 多 くの場 合試 料 長 面 は球 状 炭 化物 の密 度 高 く

×100

篇 眞1 Cr1%

滲 炭劑C,9500,10時 間

×100

寫眞2 Cr1%

滲炭劑A,950°,10時 間

第3~5圖 に於で同一條件の下に 滲炭したる場合の 滲炭

深さを比較するミ滲炭剤Cの 場合は最 も深 く滲炭せ られ,

滲炭剤A及 びBの 場合に比して10%Na2CO3の 添加は

著しく滲炭能力を増すこミが知 られる.即 ち滲炭剤A及

びRの 場合にはCr8%以 上になるε部分的に滲炭せ ら

れるか又は殆ミ滲炭部分が鏡検し得 ざる程度であるが滲

炭劑Cの 場合に於ては第5圖 に見る如 くCr14%迄 殆ミ

全部輪状に滲炭せ られ明瞭に滲炭部分が鏡検せ られる.

滲炭量ミ滲炭深さの關係 に就いては高橋博士(7)の研究結

果に於τ示 された如 く滲炭量同一ならば滲炭温度の高い

75が深く滲炭せられるが,滲 炭時間が或る程度長 くなる

ミ誌滲炭量如何 に拘 らず滲炭淵.度の低い方が試料表面の

C量 が高い場合があるから滲炭深 さが直接滲炭量の多少

を示すものではないが滲炭の温度,時 間の等 しい ものに

(7)高橋(源),鍋 の 研 究,2 (1925), 781 14 (1927), 432.

×100

寫眞3 Cr4%

滲 炭劑A,950°,10時 間

×100

寫眞4 Cr4%

滲炭劑B,950°,10時 間

集積 暦を生ずる,Na2CO,を 含 まさる滲炭剤A及 びBの

場合に於 てはCr1%に 於ても球状炭化物は必ず現はれ

るごは限らないが滲炭剤Aの 場合に於ては微量乍ら大抵

の場合に現はれ(寫眞2),滲炭剤Bの 場合にはcr1%で は

950',7時 間 上の滲炭に於てのみ 粒状炭化物は極 く少

量現れろ.然 しこれ等雨滲炭剤の場合に於てもCr量 の增

加ミ共に急に粒状炭化物の量を増しCr3~4%に 於て最

大 ミな り(爲眞3~5)Na2CO3を 含 む場合 ミ大差なくなる

がCr6%以 上に於ては急にその量を減じ,滲炭剤Bの 場

合に於てはCr 8%以 上になるミ部分的に微量の炭化物

が現はれるか双 は殆ミ滲炭 しない.又滲炭剤Aの 場合に

於て もCr量8%以 上になるεCr量 の増加ミ 共に 滲炭

量は漸減し局部的に少量の炭 化物が表はれるに過ぎなく

なる.然 し高Cr鋼 に於ては共柝炭素量低 く,又現はれる

炭化物は非常に粒状化し易い爲に少量の部分的滲炭個所

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312  研 究  第8巻

に も大 抵 綱 状及 び 球 状炭 化物 が現1よれ る(寓 眞6~8).

大 洲 田 結 品 粒界 に現43れ る綱 状の 炭 化 物 もCrの 増 加

ご共 に 粒 状 化 し 易 くな のCr3~4%に 於 て も網 状 が所 々

切斷せ られ 粒 状 化せ んミ し て居 る.こ の 傾向 はCrの 増 加

(Fe Cr)3C, Cr3~9%に 於 て は η相 即 ち(Cr Fe),C3.Cf

9%以 上 に於 て は ε相即 ち(CrFe)4Cで あ るが 本研 究に

於 て も滲炭劑A又 はBに 依 つて 高Cr鋼 を 滲炭 せ る場合

に 部 分 的 に現 はれ る少 量 の炭 化物,又 は滲 炭 量の 多い場

×100

寫眞5 Cr4%,

滲炭劑C, 950°,

10時 間

×100

寫 眞6 Cr8%

滲炭劑,A,950°,10時 間

×100

寫眞7 Cr8%

滲炭劑B, 950°,10時 間

ご共に強くなる(寫眞1~8).又 滲炭温度及び滲炭時間は

Cr .量高 く滲炭量の少い易 合には後述の如く炭化物の種

類にも影響 ずるが主にその炭化物の量に關係するもので

あつて1炭 剤同一ならば球状炭化物の厳は滲炭時間長 く

滲炭温度高い程多い(寫翼4,9及 び10).又 極く表面の炭

化物の密度は滲炭温度の低い方が寧ろ大きい場合も相當

に見受けられ る.これは95MP,1000」 の兩温度の7~10時

間滲炭に於てよく見られる處である.即 ら滲炭剤及び塗

炭時間同一ならば100㌍ の方が950つ よりも滲炭量は多

いが極 く表面は9Fi0。塗炭に於ける方が1000'に 於ける

よりも炭化物が密に現はれるこミが多い.

尚低Cr試 料に於て炭化物の量の少い時は炭化物は球

状 こならず細長い長方形のものが多い.特に骸炭滲炭に

於ては炭化物結品の數が少 く長方形の大粒のものが現は

れる傾がある(寫眞1,4及 び9)・か くの如 く粒状炭化物の

生成は何れの温度に於ても滲炭剤Cの 如 き滲炭能力強き

滲炭剤を用ひた時に多く現はれ湾炭剤Bの 如き滲炭能力

弱きものを用ひた場合 に少い事實によりて考ふれば粒状

炭化物の生成は滲炭能力 ご炭素σ擴三散速度 εの關係に因

るのであつて滲人した炭素が内部に擴散するより憾 濠炭

能力大なれば粒状炭化物を生じ滲炭能力小で擴散速度大

なる時は粒状炭化物を生じないのであるご考へ られる.

φ)炭 化物の種類

第6圖 は著者の一人が初田氏(8)ご共要に決定したFe-Cr

-C系 合金の常/miに於ける構成圖である.これに依 るミ低

炭素Cr鋼 に現はれる炭化物はCr約3%迄 はθ相即ち

(8)村 上,初 田,鐡 と鋼,18 (1932), 399,

×100

爲 眞8 Cr8%

滲 炭劑C, 950°, 10時 間

×100

寫 眞9 Cr 4%

滲 炭劑B, 1000°, 10時 間

×100

寫 覧10 Cr 4%

滲 炭劑B, 900°, 10時 間

合に試料内部の微肝滲炭部分に現はれる炭化物 ご試料の

α量ミの關 係 は よ く この卿に 一 致 す るが滲炭 量 の卿

場合には 一 致 しな い・ 例 へ ば 今Cr14%鋼 に滲 炭するミ

第7圖Fe-Cr-C系平 衡 状 態 団(9}中 の太 い破 線矢 印(端

す如 く滲炭 が進 み,900~1000° に於 て は滲 炭 の進 むにつ

れ てC量 の 高 い大 洲 出 εな り界域F31)3 F4の 組 成 にな

る ご炭 化物 εを柝 出 し 滲 炭 後 冷 却 に際 して はPs に於

て ε,η及 び αを 同 時 に柝 出 す る ε考 へ られ る.即ちCr14

%鋼 に滲炭 するご滲炭量の増加ご共に多量の εミ少量の

ηミα鐵ミになる如 く考へ られるが事實は然らず多量の

η相を生ずるのである.即 ら滲炭時間の経過に從ひ初め

第6圖

に滲入 した炭素は ε相を生じて柝出 し,そ の 附近の大洲

田中のCr量 が低下する爲後に滲入し來 る炭素は低Cr豪

化物を生ずる.從 つて大洲田の組成は界域F3P3F4か

ら界域F2P2P3F3に 移り炭化物 ηを柝出して盆〓大

洲田中のCr量 を減ずる.滲炭剤Cの 如 く強力なる滲炭剤

(9)村 上,金 属 の 研 究,8 (1931), 341,(講 義).

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夢7聾  特殊鋼 の滲 炭 に關す る基礎的研究(第1報)銅 の滲炭 に及ぼ すクロムの影響  313

を用ふる時は多量の炭化物を柝出して次第に大洲田中の

Cr量を減少するため大洲田の組成は更に界域FlPlPa

F2面 に移つて炭化物 θを多く柝出す るに至 る.故 に滲

第7圖

%以 下に於ては内部はη相のみで ε相は見られず3%Cr

以下に於ては滲炭量の如何に拘 らず θ相のみでη相は見

られない.寫 眞11,'12はCr 14%の 試料を滲炭剤Cで

900つ に3時 間海炭せるものの 表面に近い 部分の組織を

示す ものである.寫眞11は 鱒化第二鐵の鹽酸溶液で腐蝕

せるもので試料表面は炭化物を以つて充されて居る事が

よく知 られる。これご全然同一部分を赤血鹽アルカリ溶

液で處理 した ものが寫眞12で表面の炭化物にはよく着色

するものミ全然 しないものミが存在 し内部に入るに從つ

てよく若色せられろ炭化物(η)の 存在するこミが知 られ

る.寫 眞13はCr8%試 料に於ける同標の状況を示 した

ものである.寫眞11,12に はよく現はれて居ないが,この

試料その他高Cr試 料にて表面 に炭化物の暦を生ずる場

合最 も表面の0の 暦ε次0)ηのFの 中間に赤血盤でも,ピ

クリン酸曹達煮沸でも薄 く褐色に着色せられ る別な炭化

物が微量存在する.これは古 く著者の一人(is)が報 告したσ複炭化物に相當するε考へ られるがその表はれる組成

×200

寫 眞11 Cr14%,滲 炭劑C, 90GO,3時 間

FeCl3, IIC1溶 液 腐 蝕

×200

寫 眞13 同前試料 を赤血 盛アル カリ溶液腐蝕

×300

寫 眞13 Cr8%,滲 炭 剤C,1000。,10時 問,上 はFeC13,HCI溶 液腐 蝕,下 は赤 血 アル カ リ溶 液腐 蝕・兩 者A部 が 一 致 す る

炭量多く試料の表面に多量の炭化物が柝出すろ場合には

Cr10%以 上0)高Cr%試 料に於て も表面に多くの θ相

を生じ,又Cr3~9%の 試料に於ては滲炭量の多い時は

内部にη相ε表面に多くの6桐 が生ずるのである.從 つ

て試料のCr の如何に拘らず表面に多量の粒状炭化物

を生じた場合(窮眞3,5,8)に はその大部分はθ相である.

Cr109b 上の試料に於てはかかる場合 その内部には主

にη相からなる網状,球 状又は暦状の炭化物を生じ最も

内部に至つてε相の綱状又は粒状物が見 られる.又Cr 8

範圍 が独いのミ微量の爲Cr鋼 のS曲 線α1)にはその影響

が現はれない.寫眞11,12の 試料に於ては寫眞には表はれ

て居ないが更に試料の内部に入るε赤血盤では着色 し難

い炭化物 εが主に結晶粒界に切れた綱状に又は結晶粒内

に粒状εなつτ存在するこミがよく鏡槍せられる.處 で

η相もCr量 が少 くFcを 多く固溶するミ赤血盤では着

(10)村 上,東 北 帝 大 理 科 報 告,7 (1918), 217.

(11)今 井,本 誌,8 (1944), 166,

Page 7: 特殊鋼の参炭に 關する基礎的研究(第1報)2003/08/07  · +30%PaCO3+10%NaCO3) 時間滲炭したる場合に於ける滲炭の深さに及ぼすCr量 ミ滲炭温度の影響を示すもので圖に於て深さを示す桂の

314  研 究  第8塗

色 し難 い の で上 記 試 料 表 面 の若 色 し難 い炭 化物 を直 ち に

θ相ミ は断 定 し難 い.併 しこれ を ピク リン酸 曹 達 で煮 沸

す るミ僅 か に着 色 す るの で 大體Crを 固 溶 せ る θ相 ε思

は れ る.更 に粒 状 炭 化物 が密 集 せ る試 料 の表 面 をDebye-

Schen-er でX一 線 富 興 を撮 影 す る ご θ相 の線 が獨 占的

に 強 く現 はれ る に因 つ て0相 の存 在 が籍1られ る.尚 念 の

爲 に全 種 類 の試 料 か ら厚 く割 つ た削 粉 を 取 り これ を上 記

滲 炭 剤Cを 以 つ て95〔° に於 て1(lp時間 滲 炭 し,こ れ を 細

か に砕 い て か ら鹽 酸 で處 理 して 炭 化物 を取 出 しDebye-

Scherrer法 でX一 線 寫 眞 を 撮影 した が 総 て の試 料 に於 て

θ相が 主 た る存 在 で あ るこ ごを確 め た.

(4)結 晶 粒 度 に就 い て

蘭 記 各試 料 に就 い て 滲 炭 部及 び内 部 の結 晶 粒("を 測 霊

した.第8圖は滲 炭 部 の 大洲田 結1箔粒 度 を示 し第9圖 は

第8圖  大 洲 田 結 晶 粒度

内 部 の 地鐵 結 晶 粒度 を示 す.こ れ に 依つ て見 る ご加 熱 時

間 及び 濃 度 岡 一 な るptは 大 洲 田並 に 地鐵 結 鼠粒 度 のcr

壁 に よ る影 響 は 多少 の 不規 則 は あ る けれ ε もCr12%迄

はCr駐 を増 す に從 つて 結 晶粒 度數 を増 す,即 ちcrの 添

加 は 結晶 粒 を微 細 化 す る.殊 に1~4%に 於 て その 作用 著

しい・ 又第9鋤 こ於 てCd4%試 料 がCr12%試 料 より

も地鐡 結 晶粒 の大 な るはCr 12%試 料 は 高温 度 に熱 す る

ミ γ相 を 生 じ 愛 態 に 際 して結晶 粒 が微細 化 す るけれミ

もCr14%試 料 は 高淵 度 に熱 して も γ相 を生ぜ ず 結晶

粒 の 微 網 化 す るこ ごが な い 爲 であ る.併 し第8園 に於 て

Cr22%試 料 ご14%試 料 の大 洲 餌結 晶 粒度 を 比較 す る 三

きは1000。 加 熱 の場 合 には 雨 者大 差 ない が9000加 熱 の

場 合 に 鯵Crl2%の 方 が大 な るは900° で1よ滲炭 が相 當

進 む迄γ相 を生 ぜ ず縞 職 の生長 が起 らない 爲 で あ る.

Ⅳ.総 括

(1)鋼 の 滲 炭 に 及ぼ すCrの影 響 を 見 る爲 に電 解鐵 にCrO.5,

.1,2,3,4,13,8,10,12及 び14%を 配 合 した る試 料 に

厩 い て種 々の 條 件 の下 に滲 炭 しその 重量增 加,滲 炭 深 さ

を測 定 し各 試 料 に現 は れ る炭 化物 の量 及 び種 類 を 調 べ又

Cr量 に よ る大 洲 田 並 に地鐵 結 晶粒 度 の 愛 化 を観 測 した .

(2)滲 炭温 度 は900°,950° 及び1000°,滲 炭 時間 は3時

鮒,7階 閥 及び10時間,滲 淡 荊 はA(70%松 炭 +30%Ba

CO .墨)B(7{)%骸 炭+30/Ba CO,)及 びC(6「}%松 炭+30

%BaCq十10%Na2Cq)の3種 類 に就 いて 實験 した.

(3)上 記 滲 炭劑A及 びBに 依 つ 滲炭 した る試料 に就

い て 滲炭 重 量 増 加晦 比 較 し,又3種 の 滲炭劑に よ る滲炭

灘の測 定から麺事實 を確跡.肌滲炭 剤C婦 ふ

る ごき は滲撰 後 試 料 面 に炭素 が 宿 善 し重量増 加 に依 つて

滲炭量 を正 確 に知 る こ ごが 出 來 な か つ た.

({)何 れの 場 舎 に於 て もCr4%滲 炭 量 は 最 大 εな

る.

(11)湾 炭劑Cを 用 ふ る時 はCr4%以 上 増 加 す るにつ

れ て徐 々に 滲 炭量 を減 ず るがCr14%に 至 る迄 如何 なる

滲 炭 條件 に於 て も表 面 の滲 炭量 は粗 當 に商 い.

(iii)滲 炭劑A又 はBに依 にる ごきはCr6%か ら滲炭 量

第9間  地 鐡 結晶 粒 度

は急 激 に減 少 し滲炭剤A

の 場 合 にか隻て はCr8%以

上 に な る ε部 分的 滲炭 を

免か れ ず.滲 炭 剤Bの 梯

合4.方{}て壱よCr8~10%以

上 に な る ε滲 炭 量極 めて

少 い.

(iv)滲 炭 能 力 は滲炭剤

Cが 最 も強 く言参炭劑Aが%

これ に次 ぎ,滲 炭劑Bは

最 も弱 い が こ れ 等 の 差

はCr3~4%の 滲炭 し易

い試 料 に於 て は少 く,cr

6%.以 上 の 滲 炭 し難 い試

料 に 於 て遙 か に明瞭 に表

は れ る.

(v)滲炭に依 る重量増加 ε滲炭の深 さεは必ずしも比

例 しない.結晶粒の大いさ表面附 近に於 や 粒状炭化物

の生成状況等が滲炭深 さに影響を及ぼす様である.

(vi)加 熱條件同一ならば大洲田並に地鐵結晶粒の大さ

はCr量 を增すに從つて小 ミなる.そ の微細化作用はCr

1~4%に於て著しく12%位 まで徐 々に微細 し14%に な

るミ却つて大きくなる.

(vii)粒 状炭化物暦は強力なる滲炭劑Cに 依つてはCr

(}95%で も少量現はれ滲炭剤Aに 依つてはCr1%以 土に

於て現なれ滲炭剤Bに 於てはCr1%で は殆3表 はれ.な

い,即 ち粒状炭化物暦の牛成は滲炭温度,滲炭時間に依る

よりも滲炭劑の種類に依 る方が大きい.從 つて粒状炭化

物暦は炭素の擴散速度よりも滲炭能力大なる場合に起り

擴散速度大で滲炭能力小なる場合には現はれ難いのであ

るミ考へ られる.

(viii),試料表面に現はれ る粒状炭化物の集積暦に於て

は試料のCr量 の如何に拘 らずその大部分(Cr3%以 下

に於ては全部)が(Fe Cr)3Cで ある。

終 りに臨みX線 寫眞撮影の勢をお願ひした大澤教授に

感謝の意 を表する.又熱心に研究に從事 された根本雷 佐

藤龍夫兩君の勞を深 く多 ざする.