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放射線診療における インフォームドコンセントを考える 獨協医科大学 放射線医学講座 RIセンター [email protected] リスクコミュニケーションに関する参考図書: 平川秀幸ら「リスクコミュニケーション論」 大阪大学出版会 吉川 肇子 「健康リスク・コミュニケーションの手引き」ナカニシヤ出版 平成24年度放射線等安全取扱講習会 平成24年度医療安全講習会 H240620

放射線診療における インフォームドコンセントを考える · 家、政策決定者、消費者、事業者、研究者、な ど関係者の間で、リスクに関する情報、意見を

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放射線診療における インフォームドコンセントを考える

獨協医科大学 放射線医学講座 同 RIセンター

楫 靖 [email protected]

リスクコミュニケーションに関する参考図書: 平川秀幸ら「リスクコミュニケーション論」 大阪大学出版会 吉川 肇子 「健康リスク・コミュニケーションの手引き」ナカニシヤ出版

平成24年度放射線等安全取扱講習会 平成24年度医療安全講習会

H240620

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(原発事故に関する)被ばくのリスクの伝え方: 講演をする中で感じたこと

• 医師になって、初めて行った「病状説明と方針決定の相談」(インフォームドコンセント)

• 初めて行った「学会発表」

知識を勉強しても、十分な感じがしない しっかり伝えることができた気がしない 何を質問されるか、不安 答えられるか、心配

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対応の基本

• 何を心配しているかを的確に捉える • 必要なことを回答する • 批評家にならない、教育者にならない • 知らないことは正直に知らないという • 可能な限り書面で質問をもらう • 事前シミュレーションをする

患者さんとのコミュニケーションと同じ

福島原発災害チャリティー講演会 2011/03/27 京都医療科学大 大野和子先生より借用

借用スライド (医療従事者の)

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内閣官房

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「リスクコミュニケーション」

本日のタイトル 「放射線診療における

インフォームドコンセントを考える」 ?

インフォームドコンセントは、 リスクコミュニケーションの中の 一つである

リスクコミニュケーションを知ることで、 インフォームドコンセントにも役立てることができます 臨床場面に置き換えて考えてみてください

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リスクコミュニケーションを大別 • ケアコミュニケーション

– 例)インフォームドコンセント – 直面するリスクに対して個人でどのように行動するか、判断するかを手助けするためのコミュニケーション

• コンセンサスコミュニケーション – 合意形成 – 地域、集団、組織で意志決定をするときの手助けをするコミュニケーション

• クライシスコミュニケーション – リスクが顕在化してしまった状態 – 市民が元通りの生活に戻るためにはどのような支援が必要か

リスクコミュニケーション:「相手の判断や行動を手助けする」という 考え方に立って行う。できるだけその人なりの判断をしてもらうが、 それが良い方向に働くように手助けする。

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リスクコミュニケーション について考える (リスコミと略す人も)

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例)日本の食品安全行政における リスクアナリシス

リスク評価機関 食品安全委員会 (科学者)

リスク管理機関 農水省 厚労省 (企業、自治体、国、、)

社会 消費者、生産者、食品業界、 学会、一般研究者、、、

どの程度の悪影響が どのくらいの確率で起きるか 科学的に見積もる

科学的評価の結果のみならず、 費用対効果、実行可能性、 社会的影響などの側面を考慮して、 総合的判断、実施

リスクコミュニケーション 意見交換会 パブリックコメント

「双方向性」

伝達のみ 「リスクメッセージ」

① ②

①②③

サイエンス 科学

ポリシー 政策

政策的に規制 (リスクマネジメント)

を行う方法

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リスクコミュニケーション • 「リスク評価」や「リスク管理」の過程で、専門家、政策決定者、消費者、事業者、研究者、など関係者の間で、リスクに関する情報、意見を交換し(双方向性)、問題や行為に関する理解を深め、皆が受け入れられる解決策を模索する話し合い。納得するまで共に考える。合意形成が得られたかよりも、プロセスが大事。

参加者が「このような考え方があるのか」、と知ることも大事 自分の見方を相対化できる 受け止め方の違いを容認

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専門家が示す客観的なリスクと 非専門家が認知するリスクのずれ

リスク = 重篤度 ×確率

リスク = 重篤度 ×確率 リスク=

なぜ、認知がずれるのか? → 次スライド

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ヒューリスティックス〔heuristics, 経験則〕

• 意志決定に際して、複雑な問題を解決するために

用いている、簡便な解法や法則

• 判断に至る時間が短いが、心理的偏りを生じる

• 例として、「良い」「悪い」という単一の感情的概念

による処理(感情ヒューリスティックス)

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エンドポイントの考え方 一番避けたいものを取り上げ、その確率を求めて評価する。リスク用語で「エンドポイント」と呼ぶ。

一般と専門家のエンドポイントの考え方の違い → 主観的価値観の違い

道路拡張に伴う立ち退き: ①立ち退かなければならないという損害←→代替地の確保・広い住環境

②先祖代々の土地を守れない、生まれ育った記憶が消える 代わりになるものがない

どのような価値観を持ち、何を守りたいかを理解しながら合意形成

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認知的不協和

①たばこが好き ②たばこにより癌を発生する可能性

①を「たばこを吸わない」にすれば、②と不協和にならない

どうしてもたばこをやめたくない人 ②を修正し、「喫煙者でも長寿の人がいる」「肺癌の原因はたばこよりストレスだ」「癌より交通事故死が多い」

→たばこを吸うことを正当化

「自身の中で矛盾する認知を同時に抱えたとき、不快感」 → これを解消するために、自身の態度や行動を変更

例)イソップ物語: 酸っぱいブドウ

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リスク:どのように対応? 複雑な要因があるときの意志決定に際し、全ての要因を真剣に考えることは、とても大変である

ヒューリスティックスを用いて、まず白・黒を決める

そして、白にしたら、認知的不協和にならないように合理的な理由を見つけようとする

このような問題に対する一つの解決策として 全ての人が専門家のように知識を持ち、あらゆる場面で科学的な判断ができるスキルを身につける → 無理

Page 15: 放射線診療における インフォームドコンセントを考える · 家、政策決定者、消費者、事業者、研究者、な ど関係者の間で、リスクに関する情報、意見を

信 頼 複雑な要因が絡まっているリスク問題を、いろいろな人の価値観を考慮した上で、公平に判断できる代表者に意志決定を任せる

「あなたなら任せられる」「あなたは信頼できる人だ」「任せたい」 リスクコミュニケーションの目標「信頼を醸成」

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リスクの専門家の要件

1)科学的知識 2)コミュニケーション能力 3)信頼を醸成する力 (任せたいと思ってもらえる)

今回の原発事故に関する

を考えてみる 「放射線の専門家」 物理、原子力、測定、 公衆衛生、放射線診断、 放射線治療、、、 様々なバックグラウンド

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必要なコミュニケーション能力 ①自分の考えを相手に伝える能力(科学的知

識を正確に伝える)

②相手の考えを受け取る能力

③自分の感情を相手に伝える能力

④相手の感情を受け取る能力

⑤第三者的視点に立ってみる能力 医療関係者、特に医師に必須の能力 ふだんやっていること

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リスクの専門家の要件

1)科学的知識 2)コミュニケーション能力 3)信頼を醸成する力 (任せたいと思ってもらえる)

これも、医療関係者、特に医師に必須の能力 インフォームドコンセント取得のときに、やっているはず

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日本の食品安全行政における リスクアナリシス

リスク評価機関 食品安全委員会 (科学者)

リスク管理機関 農水省 厚労省 (企業、自治体、国、、)

社会 消費者、生産者、食品業界、 学会、一般研究者、、、

どの程度の悪影響が どのくらいの確率で起きるか 科学的に見積もる

科学的評価の結果のみならず、 費用対効果、実行可能性、 社会的影響などの側面を考慮 して、総合的判断、実施

リスクコミュニケーション 意見交換会 パブリックコメント

「双方向性」

科学で白黒 決めて欲しい (過度な期待)

科学者が 言ったから (隠れ蓑)

科学で全て 分かるわけで はない (プレッシャー)

プロセスが重要

サイエンス ポリシー

区別必要

放射線に関する 有識者会議 (有坂教授・楫) 栃木県

県民・市民団体の方々

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インフォームドコンセントに 当てはめてみると

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例)日本の食品安全行政における リスクアナリシス

リスク評価機関 食品安全委員会 (科学者)

リスク管理機関 農水省 厚労省 (企業、自治体、国、、)

社会 消費者、生産者、食品業界、 学会、一般研究者、、、

どの程度の悪影響が どのくらいの確率で起きるか 科学的に見積もる

科学的評価の結果のみならず、 費用対効果、実行可能性、 社会的影響などの側面を考慮して、 総合的判断、実施

リスクコミュニケーション 意見交換会 パブリックコメント

「双方向性」

伝達のみ 「リスクメッセージ」

① ②

①②③

サイエンス 科学

ポリシー 政策

政策的に規制 (リスクマネジメント)

を行う方法

主治医?

ガイドライン・文献 他科医師 医療スタッフ? 主治医?

患者さん・家族 医療スタッフ?

自分自身が どちらの立場で しゃべっているか 明確に区別する

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放射線を用いた診療に インフォームドコンセントは必要か

• 放射線治療

• IVR (カテーテル検査→治療)

• 画像診断 – 単純X線写真 – 消化管透視検査 – MRI – 超音波検査 – CT – 核医学検査(PET含む)

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インフォームドコンセントの内容 • 起こりうる副作用、障害を前もって話し、同意を得る

• 放射線治療 被ばくの話 • IVR 被ばくの話

• 画像検査は? 被ばくの話必要?

常に必要

放射線を使うことは伝えるが 副作用・障害について前もって話す必要なし →尋ねられたら丁寧に説明

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尋ねられたら答えることができる様にしておくこと

• 医療被ばく(患者被ばく)には線量限度なし → 線量限度を設けると、診断・治療の有効性を減らす危険あり

その前提として、

被ばくリスク < 放射線診療によって受ける利益 (正当化)

画質(診断能)を保った上で、できるだけ被ばく線量を低くする(最適化) 診断参考レベル (ICRPから出された目標→目安の値) X

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放射線を用いた検査の被ばく線量

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「患者さんに説明する際のポイント」

神田玲子(放射線医学研究所放射線防護センター):Innervision, 25(6): 54-57, 2010.

以下のスライドに出てくる図や文は、この文献から引用

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①なぜ検査が必要か

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①なぜ放射線検査が必要か

• 病気の発見、治療に不可欠 • 検査を受けないことで生じるリスク

– 不安、不適切な治療、状態の悪化、、 • 代替方法の有無

– あるかないか – 検査の能力はどの程度か

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①なぜ検査が必要か ②放射線検査の線量はどのくらいか

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②放射線検査の線量はどのくらいか • 「放射線」=「とても危ない」 ではない • 「放射線の影響は線量に依存する」

– 量の多い少ないによって、影響の出方が変化する • 単位について、細かく説明しなくてもよい • 検査で用いる放射線の量は、“日常的なレベル”であることがわかればよい

例を出す: 飛行機でニューヨークまで往復したらときに受ける放射線と(0.2mSv・・)より小さいとか、私たちが1年間に浴びる自然放射線(2.4mSv/年間・・・)の1/20以下ですよ。等

診断参考レベルの数値を参考に

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①なぜ検査が必要か ②放射線検査の線量はどのくらいか

③放射線はどのくらい広がるか

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③放射線はどのくらい広がるか • 撮影部位のみを検討対象とする

– 頭部CTを受けた後、不妊が心配 – 歯科でX線写真を撮った後、胎児への影響が心配

• 放射線の照射部位を実際よりかなり広く考えている

• 放射線と放射性物質を混同している – 写真を撮るときのみ放射線を出す(とても短い時間) – 部屋の中に居るとき、ずっと放射線を浴びているわけではない

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生殖腺防護は不要

医療放射線防護の常識・非常識 –インナービジョン-

胸部X線検査で、生殖腺防護具は不合理

最近の技術 現状と防護の最適化を考えて説明する

写真を撮りおわったら もう放射線は浴びない 放射性物質が 舞っている わけではない

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①なぜ検査が必要か ②放射線検査の線量はどのくらいか

③放射線はどのくらい広がるか

④放射線検査の健康影響はどのくらいか

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④放射線検査の健康影響はどのくらいか

• 影響の程度は「量」による • 一度に浴びるときと、同じ量を分割して浴びるときでは、分割したほうが影響が弱くなる

• 確率的影響:線量に応じて影響が出る確率が変化する(リスクがどのくらい増加するか)

→ 発がん・遺伝的影響 • 確定的影響:ある値を超えて初めて影響がでる → 不妊、白内障、皮膚炎、、、

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LNT仮説 ?

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低線量被ばく 「わからない」をわかっていますか?

LNT仮説で、100mSv未満の健康影響はわからない →「何が起こるかわからない」という意味ではない 「被ばくをした人のほうが、していない人よりもがんの発生が 多いかどうかわからない。調べても差が無い」の意味 そうすると、 「少なくとも100mSvで見られる影響よりひどくはない (がん死亡の割合が多くなることはない)」と言える

一度に浴びた場合

確率的影響

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がんによる死亡率

30 %

放射線量(mSv) 100

被ばく 無し

被ばく あり

0 50

* ?

100mSv未満の健康影響はわからない 「被ばくをした人のほうが、していない人よりもがんの 死亡が多いかどうかわからない。調べても差が無い」

「少なくとも100mSvで見られる影響よりも 大きくなることはない。」と言える。

一度に浴びた場合

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しきい値のある影響

機能保たれる

機能保たれる

機能喪失

たとえば 肝臓

肝細胞

確定的影響

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LNT仮説 リンパ球が減る

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④放射線検査の健康影響はどのくらいか

• 放射線の影響ない状態でも、疾患は一定の割合で生じている – 小児がん 0.3% – 奇形 3%

• これらは1-100mSvまでの線量が加わっても数値に大きな変化がない。

– 初期自然流産 15% – 不妊1割

患者さんが不安や疑問を感じている点がはっきりしている場合は、 説明のポイントを絞って、的確に不安や疑問について答える。

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• 放射線検査による発がん心配 – 今回検査を避けても、癌のリスクが大きく下がるわけではない。

– 他の発がんリスクについて注意することで,十分相殺できる程度

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最も重視したいものは何ですか?

「健康」 全体的なリスクのバランスを

考えて行動することが大事です

がん研究センターHPより

全体的なリスクのバランスを 考えて行動

「○○より、被ばくのリスクは 低いので心配の必要ない」→効果なし 被ばくのリスク分が避けることが できないなら、他の要因を減らし、 全体のリスクが上昇しないように工夫

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①なぜ検査が必要か ②放射線検査の線量はどのくらいか

③放射線はどのくらい広がるか

④放射線検査の健康影響はどのくらいか

⑤正当化の判断内容

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⑤正当化の判断内容

• 今回の検査によって生じるリスクを患者に伝えるだけでなく、メリットと併せて医師が判断した結果である 「心配する必要はない」という判断 を伝える。

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「被ばく」 放射線を浴びることだが、 放射線の影響がでること、と勘違いしている人が居る。 検査により、疾患が無かった → 「リスクばかり増えて、何も良いことは無か

った」 「リスクだけが残った」わけではない、メリットも説明する

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患者さんが、最初に不安や疑問を口にする相手は「看護師」であることが多い この段階で適切なフォロー、医師や医療関係者との情報共有が、患者さんの不安軽減に重要

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検査の放射線、大丈夫ですかと聞かれたとき

(検査で受ける線量を説明) ○○の△分の1という少量で、健康影響が 出てくる量ではありませんよ 本来の病気の診療に必要な検査ですからね (立ち向かう相手は本来の病気) どのような点が気になりますか?

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検査の放射線、大丈夫ですかと聞かれたとき

身体的不調を感じていない

確率的影響が 心配

確定的影響が 心配

漠然とした 不安

身体的不調を 感じている

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• 前スライドの内容を理解した上で、患者さん個人の事情を考慮した対応が必要

• 「マニュアル的対応」は避ける → 理解し、自分の言葉で、目の前の患者さんにわかりやすい言葉で、情報を提供する

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全世界の 放射線に関する 研究や統計資料

UNSCER 原子放射線の影響に関する 国連科学委員会 報告書

ICRP 国際放射線防護委員会 勧告書

IAEA 国際原子力機関 防護・管理基準

各国 国内規則 障害防止法など

「学術論文」として 発表された内容が すぐ人間に応用できる わけではないし、質も様々である。真偽が 確定したものではない。 ←内容チェック必要

重要!

科学的情報を検討し評価 国連総会で報告 報告書を公刊

原子力平和利用

防護の考え方 数値基準を 検討・勧告

サイエンス

ポリシー

ポリシー

ポリシー

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本日のまとめ • リスクコミュニケーションの基礎知識を紹介した

• リスクコミュニケーションはインフォームドコンセン

トと似ている

• 放射線検査に関して、いつ尋ねられても大丈夫

と言えるように、「サイエンス」と「ポリシー」を区

別して考える

• インフォームドコンセントを側面からサポートする

看護師、診療放射線技師の役割は大きい

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ご清聴ありがとうございました

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幼少時のCTで発がんリスク上昇、英国で18万人を追跡調査。 CTスキャンを多数回にわたって受けた子どもは、後に血液がん、脳腫瘍、骨髄がんを発症するリスクが最大3倍になる可能性があるとする調査論文が、7日の英医学専門誌「ランセット(The Lancet)」に掲載された。 研究チームは、英国の1985年から2002年までの診療記録から、幼少期から青年期(22歳未満)までの間にCTスキャンを受けた経験がある人を選び出し調査を行った。 対象者18万人弱のうち、1985年から2008年の間に白血病(血液や骨髄のがん)を発症した人数は74人、脳腫瘍は135人だった。 研究チームの計算によると、累計30ミリグレイ(mGy)の放射線を照射された人は、5ミリグレイ未満の人と比べて後に白血病を発症するリスクが3倍高かった。脳腫瘍のリスクは、累計50~74ミリグレイの放射線を浴びた人で3倍になった。 調査では、CTスキャンを受けたことがない子どもたちが持つ発がんリスクとの比較は行っていない。 ピアース氏は「機器を改善して、CTの放射線量を減らすことが最優先の課題。放射線学会だ

けではなく、機器の製造メーカーも共に取り組むべきだ」と述べている。「電離放射線を使用しない超音波やMRI(磁気共鳴映像法)などの代替診断法を採用することも、状況によっては適切な場合がある」 (c)AFP (一部省略)

THE LANCET Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of leukaemia and brain tumours: a retrospective cohort study

あなたが想定している 目の前の人はどんな方

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論文中の代表的な英国の吸収線量(高いほうの値)赤色骨髄5mGy,脳50mGyとして,小児白血病と脳腫瘍を計算する. (1) 小児白血病 ・日本の小児白血病の発生率は3-4人/10万人 (小児白血病;Abstract for Hobutu Seminar 2009原 純一、大阪市立総合医療センター小児医療センター血液腫瘍科) ・赤色骨髄の吸収線量が5mGyのCT検査を行ったときは過剰相対リスクから、 4人×(1+(5×0.036))=4×1.18=4.72 10万人中 4人ぐらいが5人にふえるかどうか(1回のCT検査で) (2) 脳腫瘍 ・成人のデーターだが,3.5人/10万人 がん研究センター (http://ganjoho.jp/public/cancer/data/brain_adult.html) アメリカの小児脳腫瘍のデーター4.3人/10万人というデータあり. ・脳の吸収線量50mGyのCT検査を行った際の過剰相対リスクから 3.5人×(1+(50×0.023))=3.5×2.15=7.525 ・10万人に3.5人が4人ぐらいに増える計算になる(1回のCT検査で)

あなたが想定している 目の前の人はどんな方

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(3) 以上を踏まえて,この論文の正当性が証明されたとしても大切な事は ・小児のCT検査の白血病または脳腫瘍のリスク推定に,従来のLSS調査を基盤として求められたLNT仮説からの値でリスクを推定すると,過小評価する恐れがある事. ・検査ではCTを用いる事の正当性を十分に吟味して選択する事 ・特に小児のCTでは,代替え手段を含めて検討したうえで,合理的に達成可能な被ばく低減方法を検討する事が重要