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焦電結晶いた投影型電子顕微鏡 203 線分析進歩 46 Adv. X-ray. Chem. Anal., Japan 46, pp.203-206 (2015) 焦電結晶いた投影型電子顕微鏡 大谷一誓今宿 晋河合 潤 Projection Type Electron Microscope Using Pyroelectric Crystal Issei OHTANI, Susumu IMASHUKU and Jun KAWAI Department of Materials Science and Engineering, Kyoto University Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan (Received 24 December 2014, Revised 26 January 2015, Accepted 29 January 2015) Applying an electron beam generated extensively from the tip of the needle stood on pyroelectric crystal, we developed a projection type electron microscope. By electron beam bombardment to a copper mesh and TEM grids, we acquired enlarged projection images on a fluorescent screen set behind the mesh and TEM grids. [Key words] Pyroelectric crystal, Projection type electron microscope, Portable electron microscope 焦電結晶上てたタングステン先端から発生する電子線試料照射試料後方設置した 蛍光板試料拡大像投影する小型装置製作した銅製金網TEM 観察用グリッドを試料として実験ったところ試料拡大投影像ることができたキーワード焦電結晶投影型電子顕微鏡小型電子顕微鏡 焦電結晶とはキュリー温度以下結晶内 正負電荷重心一致しておらず自発 分極する強誘電体結晶である分極加熱 減少冷却時増加この分極変化よって結晶表面帯電するが大気中では気体 分子によって結晶表面電荷られちに解消される一方Pa 以下空中では気体分子減少するため帯電数分 間維持されるこの帯電によってじた電場よって浮遊電子加速される加速された遊電子気体分子などに衝突すると二次電子この二次電子電場によって加速され気体分子などに衝突するとたに二次電 発生するこの過程されることで 電子なだれが電子線発生するこの利用してBrownridge 焦電結晶である 硝酸セシウムCsNO3単結晶真空中温度 変化させじた電子線金箔照射すること X 発生することを報告した 1Geuther らは z 軸方向さが 10 mm である 2 つのタン タルリチウムLiTaO3単結晶対向配置真空中温度変化させることで 200 keV 以上X 発生させることに成功した 2X 線発生 装置だけでなくイオンビーム発生装置 3小型カソードルミネッセンス装置 4小型電子 プローブマイクロアナライザEPMA4-8京都大学工学研究科材料工学専攻 京都市左京区吉田本町 606-8501 連絡先kawai.jun.3[email protected]

焦電結晶を用いた投影型電子顕微鏡 Projection Type Electron ...ル幅 19 µm,バー幅 6 µm,Gilder社と75/100ダブ ルメッシュの100メッシュ部分,ピッチ

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焦電結晶を用いた投影型電子顕微鏡

203X線分析の進歩 46Adv. X-ray. Chem. Anal., Japan 46, pp.203-206 (2015)

焦電結晶を用いた投影型電子顕微鏡

大谷一誓,今宿 晋,河合 潤

Projection Type Electron Microscope Using Pyroelectric Crystal

Issei OHTANI, Susumu IMASHUKU and Jun KAWAI

Department of Materials Science and Engineering, Kyoto UniversitySakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan

(Received 24 December 2014, Revised 26 January 2015, Accepted 29 January 2015)

   Applying an electron beam generated extensively from the tip of the needle stood on pyroelectric crystal, we developed a projection type electron microscope. By electron beam bombardment to a copper mesh and TEM grids, we acquired enlarged projection images on a fluorescent screen set behind the mesh and TEM grids. [Key words] Pyroelectric crystal, Projection type electron microscope, Portable electron microscope

 焦電結晶上に立てたタングステン製の針の先端から発生する電子線を試料に照射し,試料後方に設置した

蛍光板に試料の拡大像を投影する小型装置を製作した.銅製の金網と TEM観察用グリッドを試料として用い

て実験を行ったところ,試料の拡大投影像を得ることができた.

[キーワード]焦電結晶,投影型電子顕微鏡,小型電子顕微鏡

 焦電結晶とは,キュリー温度以下で結晶内

部の正負の電荷の重心が一致しておらず,自発

分極を有する強誘電体結晶である.分極は加熱

時に減少,冷却時に増加し,この分極の変化に

よって結晶表面が帯電するが,大気中では気体

分子によって結晶表面の電荷が持ち去られ,帯

電は直ちに解消される.一方,数 Pa以下の真

空中では気体分子が減少するため,帯電が数分

間維持される.この帯電によって生じた電場に

よって,浮遊電子が加速される.加速された浮

遊電子が気体分子などに衝突すると二次電子が

生じ,この二次電子も電場によって加速され,

再び気体分子などに衝突すると,新たに二次電

子が発生する.この過程が繰り返されることで

電子なだれが生じ,電子線が発生する.この現

象を利用して,Brownridgeは焦電結晶である

硝酸セシウム(CsNO3)単結晶を真空中で温度

変化させ,生じた電子線を金箔に照射すること

で,X線が発生することを報告した 1).Geuther

らは z軸方向の長さが 10 mmである 2つのタン

タル酸リチウム(LiTaO3)単結晶を対向配置し,

真空中で温度変化させることで 200 keV以上の

X線を発生させることに成功した 2).X線発生

装置だけでなく,イオンビーム発生装置 3)や,

小型カソードルミネッセンス装置 4),小型電子

線プローブマイクロアナライザ(EPMA)4-8)に

京都大学工学研究科材料工学専攻 京都市左京区吉田本町 〒 606-8501 連絡先:[email protected]

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焦電結晶を用いた投影型電子顕微鏡

204 X線分析の進歩 46

焦電結晶を用いた投影型電子顕微鏡

205X線分析の進歩 46

ついての研究などにも焦電結晶が利用されてい

る.当研究室では過去に,対向配置した 2つの

焦電結晶の一方に真鍮板を貼り付け,真空中で

2つの焦電結晶を温度変化させることで,真鍮

由来の高強度の Cuと Znの特性 X線を得られ

る,手のひらサイズの X線管を製作した 9).こ

の X線管の原理が,電子線を試料に照射し,得

られた特性 X線から試料の構成元素を分析す

る EPMAと同様であることに注目して,焦電

結晶を電子線源として用いた持ち運び可能な小

型 EPMAを製作した 5,6).角柱状の焦電結晶を

用いると,焦電結晶の帯電面から電子線が発生

するため,試料以外の場所,例えば,ステンレ

ス製真空容器の内壁や,真鍮製の試料台などに

も電子線が照射され,ステンレスや真鍮由来の

Fe,Cr,Ni,Cuおよび Znなどが検出されていた.

そこで,焦電結晶の帯電面に導電性の針を立

て,針を固定する金属製の台の表面に絶縁性の

真空グリースを塗布して針の先端のみを帯電さ

せ,針の先端を試料に近づけることで,電子線

のスポットサイズを 300 µmにすることに成功

した 6,7).この改良によって,試料の元素のみ

を検出することが可能になった.焦電結晶上に

導電性の針を立てた際に発生する電子線は,針

の先端から広がるように発生していると考えら

れる.真空中での焦電結晶の温度変化に伴って

発生する電子線を,一部分が銅板で覆われたフィ

ルムに照射し,銅板の像をフィルム上に焼き付

ける,といった報告は既にされているが,この

像は銅板とほぼ同じ大きさであった 10).我々は,

導電性の針の先端から発生する電子線を試料に

照射し,その後方に蛍光板を設置すれば,試料

の拡大像が蛍光板に投影されると考えた.本研

究では,試料の拡大投影像を取得するための持

ち運び可能な小型装置を製作したので報告する.

 Fig.1に本研究に用いた装置の模式図を示す.

焦電結晶として 6×6×5 mmの LiTaO3単結晶

を,導電性の針として先端を電解研磨した長

さ 5 mmのタングステン製の針を用いた.6×6

×3 mmの針固定台(銅製)の側面にネジ穴を

開け,上面に開けた直径 1 mmの穴にタングス

テン針を立て,ネジで横から固定した.銀ペー

ストを用いて,この針固定台を LiTaO3単結晶

の −z面に貼り付けた.針固定台の表面には真

空用グリースを塗布し,台表面の帯電を防止

した.LiTaO3単結晶の +z面にはペルチェ素

子を接着した.本研究の試料には,銅製の金

網(ピッチ 250 µm,ホール幅 150 µm,バー幅 100

µm)および二種類の銅製の TEM観察用グリッ

ド(G1000HS,1000メッシュ,ピッチ 25 µm,ホー

Fig.1 Schematic view of the projection type electron microscope: (FS) fluorescent screen, (S) sample, (TN) tungsten needle, (PEC) pyroelectric crystal, (PD) Peltier device, (NH) needle holder, (VG) vacuum grease, (SH) sample holder, (VP) view port, (DC) digital camera, (PS) power supply, and (RP) rotary pump.

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焦電結晶を用いた投影型電子顕微鏡

204 X線分析の進歩 46

焦電結晶を用いた投影型電子顕微鏡

205X線分析の進歩 46

ル幅 19 µm,バー幅 6 µm,Gilder社と 75/100ダブ

ルメッシュの 100メッシュ部分,ピッチ 230 µm,

ホール幅 200 µm,バー幅 30 µm,日新 EM社)を

用いた.Cu,Alを添加した ZnSを Ti板上に塗

布して製作した蛍光板と,焦電結晶を接着した

ペルチェ素子を,直径 12.5 mmの 2本の銅製の

棒の底面に銀ペーストを用いて接着し,真空継

手を溶接したフランジを用いて試料と蛍光板が

対向するように NW25クイックカップリングに

取り付け,試料室として利用した.真空度は 1

Fig.2 SEM images of (a) copper wire gauge, (b) TEM grid (1000 mesh) and (c) TEM grid (100 mesh) (Enlarged) and projection images of (d) copper wire gauge, (e) TEM grid (1000 mesh) and (f)TEM grid (100 mesh) measured by the device shown in Fig.1.

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焦電結晶を用いた投影型電子顕微鏡

206 X線分析の進歩 46

Paとした.試料および 2本の銅製の棒は接地

した.銅製の金網を試料に用いた際のタングス

テン針の先端と試料の距離は 3 mm,タングス

テン針の先端と蛍光板の距離は 55 mm,TEM

観察用グリッド(1000メッシュ)を試料に用い

た際のタングステン針の先端と試料の距離は 1

mm,タングステン針の先端と蛍光板の距離は

40 mm,TEM観察用グリッド(100メッシュ)

を試料に用いた際のタングステン針の先端と試

料の距離は 1 mm,タングステン針の先端と蛍

光板の距離は 30 mmとした.LiTaO3単結晶を

ペルチェ素子を用いて 100 ℃で 2分間加熱した

後,1分間かけて −10℃まで冷却し,冷却中に

発生した電子線が試料および試料後方に設置さ

れた蛍光板に照射された際の蛍光板の発光の様

子を,ガラス製のビューポートを通じてデジタ

ルカメラで撮影した.

 Fig.2(a)(b)(c)に銅製の金網と 2種類の TEM

観察用グリッドの SEM像を,(d)(e)(f)に本装

置を用いて得られた拡大投影像を示す.本装置

を用いて試料の拡大投影像が得られた.拡大投

影像は蛍光板上の像の縦横比が 1:1になるよう

に補正をかけてある.Fig.2(d)(f)において,蛍

光板がない位置で発光が見られるのは,蛍光

板での発光がクイックカップリングの内壁で

反射しているためである.銅製の金網の拡大

投影像の倍率は約 16倍,TEM観察用グリッド

(1000メッシュ)の拡大投影像の倍率は約 24倍,

TEM観察用グリッド(100メッシュ)の拡大

投影像の倍率は約 15倍であった.また,タン

グステン針と試料の距離,タングステン針と蛍

光板の距離を変えて実験を行ったところ,タン

グステン針と試料の距離を短くするほど,タン

グステン針と蛍光板の距離を長くするほど,拡

大投影像の倍率は高くなった.今回の研究に用

いた装置で得られた拡大投影像の最大倍率は約

50倍であり,この時のタングステン針の先端と

試料の距離は 1 mm,タングステン針の先端と

蛍光板の距離は 55 mmであった.導電性の針,

試料および蛍光板の幾何配置を最適化や電子レ

ンズの導入により拡大投影像の倍率は向上する

と考えられる.さらに,より z軸長の長い焦電

結晶を用いることで,薄膜試料の透過電子像の

取得も期待できる.また,本装置は当研究室で

過去に開発した小型 EPMAとほぼ同様の構造

をもつ 4-8).そのため,簡単な装置の組み換え

で本装置を用いた試料の形状観察と小型 EPMA

を用いた試料の元素分析を行うことができる.

焦電結晶上に針を立てずに同様の実験をしたと

ころ,投影像は得られないため,針は必須であ

ることは確認した.

参考文献

1) J.D. Brownridge: Nature, 358, 287 (1992).

2) J.A. Geuther, Y. Danon: J. Appl. Phys., 97, 104916

(2005).

3) J.D. Brownridge, S.M. Shafroth: J. Appl. Phys., 79,

3364 (2001).

4) 今宿 晋,大谷一誓,河合 潤:鉄と鋼,100, 905

(2014).

5) S. Imashuku, A. Imanishi, J. Kawai: Anal. Chem., 83,

8363 (2011).

6) 今西 朗,今宿 晋,河合 潤:X線分析の進歩,44, 155 (2013).

7) S. Imashuku, A. Imanishi, J.Kawai: Rev. Sci. Instrum., 84, 073111 (2013).

8) 大谷一誓,今宿 晋,河合 潤:X線分析の進歩,45, 191 (2014).

9) 弘 栄介,山本 孝,河合 潤:X線分析の進歩,41, 195 (2010).

10) N. V. Kukhtarev, T. V. Kukhtareva, G. Stargell, J.

C.Wang: J. Appl. Phys., 106, 014111 (2009).