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両生類甲状腺刺激ホルモンの
分泌調節機構に関する研究
Studies on regulatory mechanisms of thyroid-stimulating hormone secretion in amphibians
2004年 3月
早稲田大学大学院理工学研究科
生命理工学専攻 内分泌学研究
岡田 令子
目次
第1章 はじめに 1
第2章 ウシガエル TSHβをコードする cDNA のクロ
ーニング
2-1 序論 10
2-2 材料と方法 12
2-3 結果 16
2-4 考察 22
第3章 ウシガエル TSH の RIA による測定系の開発
3-1 序論 25
3-2 材料と方法 26
3-3 結果 32
3-4 考察 39
第 4 章 ウシガエル下垂体細胞からの TSH 放出におよ
ぼす視床下部因子の影響およびウシガエル幼生下垂体
中の TSH 含量の変態にともなう変化
4-1 序論 41
4-2 材料と方法 43
4-3 結果 45
4-4 考察 53
第 5 章 下垂体からの TSH 放出におよぼす視床下部抽
出物の効果
5-1 序論 58
5-2 材料と方法 60
5-3 結果 61
5-4 考察 65
第6章 ウシガエル下垂体細胞からの TSH 放出におよ
ぼす甲状腺ホルモンの影響
6-1 序論 67
6-2 材料と方法 69
6-3 結果 70
6-4 考察 74
第 7 章 本論文の要約と今後の展望 76
謝辞 83
参考文献 84
履歴書および研究業績
1
第 1 章 はじめに
両生類、特に無尾目に属する動物は変態期にほとんどすべての
器官、組織が新生、退縮、再構築されて、体が大きく変化する。
例えば尾の退縮、後肢および前肢の発達、消化器官のつくりかえ
および消化酵素の変化、皮膚の変化、鰓の退縮と肺の発達などが
あげられる。このような両生類の変態は主として甲状腺ホルモン、
副腎皮質ホルモン、プロラクチン(PRL)の3種のホルモンの制
御下にあることが知られている(Kikuyama et al., 1993a)。すな
わち甲状腺ホルモンは成体器官を新たにつくり出し、幼生器官を
消滅させ、あるいはつくりかえることにより変態を進行させる。
副腎皮質ホルモンは甲状腺ホルモンの作用を強化する。副腎皮質
ホルモンは甲状腺ホルモン受容体の発現を高める(Suzuki and
Kikuyama, 1983)、甲状腺ホルモンとヘテロ二量体をつくるレチ
ノイド X 受容体の発現を高める(Iwamuro and Tata, 1995)、ま
たサイロキシン(T4)からより活性の高いトリヨードサイロニン
(T3)への変換酵素の活性を増強させる(Galton, 1990)はたら
きがあることが指摘されている。一方 PRL は、前変態期には幼生
器官の発達を促し、変態期に入ると甲状腺ホルモンに拮抗し変態
の急激な進行にブレーキをかけることが知られている(Kikuyama
et al., 1993a)。アフリカツメガエルの変態期に T3によってひき
2
起こされる形態形成と細胞死は、PRL によって阻害される(Tata et
al., 1991)、T3による甲状腺ホルモン受容体(αおよびβ型)mRNA
の発現の急激な増大が、PRL により妨げられる(Baker and Tata,
1992)という報告がある。
変態が甲状腺ホルモンによってひきおこされることを示唆する
はじめての報告は、Gudernatsch(1912)によってなされた。
ウマから取り出したいろいろな臓器をカエル(Rana temporaria
と Rana esculenta)のオタマジャクシに食べさせたところ、甲状
腺を食べたオタマジャクシが対照に比べて数週間も早く変態が完
了して子ガエルになったという報告である。更に甲状腺を除去す
ると変態がおこらず、甲状腺があっても脳下垂体を除去すると変
態がおこらないことが明らかにされた(Allen, 1938)。甲状腺を
除去したオタマジャクシに甲状腺ホルモンを投与し、正常なオタ
マジャクシと同じような変態の変化を再現するには、当初は比較
的低濃度のホルモンにさらし、徐々にホルモン濃度を高め、前肢
が出現したら更にホルモン濃度を高める必要があることが Etkin
(1968)によって報告され、正常なオタマジャクシの体内の甲状
腺ホルモン濃度は幼生の成長期には比較的低く、変態の進行にと
もなって徐々に高まり、尾の退縮時に一挙に高まるものと推測さ
れた。その後甲状腺ホルモンの放射免疫測定(RIA)法が開発され、
この推測は実証された(Leloup and Buscaglia, 1977; Miyauchi et
al., 1977; Regard et al., 1978; Mondou and Kaltenbach,
1979)。変態のステージングはアフリカツメガエルの場合
3
Nieuwkoop と Faber (1956)によって、その他の無尾両生類は
Taylor と Kollros(1946)によって決められたものに従うのが常
であるが、Etkin(1968)によるおおまかな分類もよく用いられ
る。すなわち甲状腺ホルモンなしでも到達できる段階までを前変
態期(premetamorphosis)、甲状腺ホルモンによって前肢が出現
する段階までを変態始動期(prometamorphosis)、尾を失って幼
若ガエルになるまでの期間を変態最盛期(climax)とする分類法
である(表1)。
生物活性を持つ甲状腺ホルモンには T4 と T3 の 2 種類があり、
T3は T4に比べると約 10 倍も活性が高い。細胞核に存在する甲状
腺ホルモン受容体に対する親和性も T3 の方が T4 よりも高い。ウ
シガエル(Kistler et al., 1977)、アフリカツメガエル(Robinson
et al., 1977)、ヒキガエル(Kikuyama et al., 1983)のオタマ
ジャクシの尾の吸収を引き起こす効果も、T3 の方が T4 よりも数
倍高いことが知られている。T3 は甲状腺でも作られるが、T4 に比
べてわずかであり、末梢組織で T4 が脱ヨウ素化を受けて生成され
るものが主である。これらのことから T4 は T3 の前駆体とみなさ
れている。実際、T4 から T3 への変換は 5’-脱ヨウ素化酵素によっ
て触媒されるが、この反応を阻害すると変態最盛期における変化
が抑制されることがわかっている(Buscaglia et al., 1985)。彼
らは体内での甲状腺ホルモンの生合成と分泌を過塩素酸によって
阻害したアフリカツメガエルの幼生を用いた。このようなオタマ
ジャクシでは、T4 または T3 を外部から加えることによって再び
4
変態が引き起こされた。T4 の脱ヨウ素化は、脱ヨウ素化酵素の強
力な阻害剤であるイオパノ酸によって阻害される。アフリカツメ
ガエル幼生をイオパノ酸を含む水の中に浸して T3 または T4 を加
えると、T3 によって引き起こされる変態は完了する一方で、T4 に
よって引き起こされる変態は阻害され、幼生のまま大きくなった。
甲状腺ホルモンの生物活性の第一段階として、標的細胞の核に
結合することが知られている。Yoshizato と Frieden(1975)に
よって両生類の組織に関してはじめて甲状腺ホルモンの核内受容
体が存在することが報告された。彼らはウシガエル幼生の尾鰭の
細胞の T3 核内受容体の結合能が変態期に増大することを確かめ、
これは体内の甲状腺ホルモンレベルが次第に上昇した結果である
可能性があると結論付けた。
その後 Moriya ら(1984)により、幼生型の赤血球の核内の数
多くの T3結合部位が、変態の同じ時期に 4倍上昇すると報告され
た。さらに前変態期の幼生を T3 処理すると、T3 の結合サイトの
数と Kd 値が両方上昇した。同様の結果が Galton(1984)によ
っても得られた。これらの発見は、自発的な変態期間中の T3 結合
サイトの増加は、変態最盛期の開始点付近で起こる内因性の甲状
腺ホルモンの増大によって引き起こされることを示唆している。
これまでに調べられた限り、すべての脊椎動物の甲状腺ホルモ
ン受容体には異なる 2 つの遺伝子に由来するサブタイプ(α、β)
がある。Yaoita ら(1990)により、アフリカツメガエルの甲状
腺ホルモン受容体αおよびβをコードする cDNA がクローニングさ
5
れた。さらに Yaoita と Brown(1990)により、アフリカツメガ
エル幼生の甲状腺ホルモン受容体の遺伝子発現の変動が調べられ
た。甲状腺ホルモン受容体αの mRNA 発現レベルは、前変態期を
通じて上昇して、変態始動期に最高値に達し、変態最盛期が終わ
ると減少した。一方、甲状腺ホルモン受容体β mRNA は変態始動
期の間は非常に低いままで、血中甲状腺ホルモン濃度の上昇と同
時に、変態最盛期に最高値に達する。このことより、内因性の甲
状腺ホルモンにより、甲状腺ホルモン受容体β遺伝子の発現が調節
されていることが示唆された。実際に、変態始動期の幼生を T3 で
処理すると、甲状腺ホルモン受容体β mRNA の発現が著しく増大
することがわかっている。この反応は転写によるもので(Kanamori
and Brown, 1992)、甲状腺ホルモン受容体βは両生類ではじめて
同定された甲状腺ホルモンの直接応答遺伝子である。アフリカツ
メガエルの甲状腺ホルモン受容体βには数種の異なる分子が予想さ
れているが、それぞれの量の変動に関してはまだよくわかってい
ない。甲状腺ホルモンと甲状腺ホルモン受容体の複合体は遺伝子
の特定の領域(甲状腺ホルモン応答配列;TRE)にはたらきその
発現を制御する。甲状腺ホルモン受容体は TRE 上に甲状腺ホルモ
ン受容体のホモ二量体あるいは甲状腺ホルモン受容体とレチノイ
ド X 受 容 体 の ヘ テ ロ 二 量 体 と し て 結 合 し 、 機 能 す る
(Puzianowska-Kuznicka et al., 1996)。
甲状腺ホルモンの分泌は、下垂体前葉から分泌される甲状腺刺
激ホルモン(TSH)による制御をうけている。両生類 TSH の存在
6
は、正常なオタマジャクシと下垂体除去手術を行ったオタマジャ
クシで甲状腺機能に差があるということ(Kaye, 1961)、また、
前変態期および変態最盛期のアフリカツメガエル幼生の下垂体抽
出物が甲状腺の 131I の取り込みにおよぼす効果(Dodd and Dodd,
1976)から、間接的に確かめられた。下垂体除去による変態の停
止が、哺乳類 TSH 処理により回復する(Dodd and Dodd, 1976)
こと、ウシ TSH に対する抗血清を用いてウシガエル幼生の内因性
の TSHを免疫的に中和すると変態が阻害される(Eddy and Lipner,
1976)ことから、両生類の TSH は哺乳類 TSH に近いものとみな
されてきた。
これまでに数多くの研究者により、両生類の下垂体に存在する
TSH 細胞の同定が試みられてきた(Holmes and Ball, 1974 参照)。
免疫組織化学の技術の発達により、両生類下垂体の TSH 産生細胞
の同定が可能になった(Doerr-Schott, 1980)。哺乳類 TSH βサ
ブユニットに対する抗体を用いて、Xenopus laevis (Moriceau-
Hay et al., 1982)、Bufo melanostictus (Kar and Naik, 1986)、
Bufo calamita、Rana perezi (Garcia-Navarro et al., 1988)、Hyla
nigrescens (Yamashita et al., 1991) 、 Rana catesbeiana
(Tanaka et al., 1991)といった両生類の TSH 産生細胞の個体発
生の研究がなされてきた。Rana catesbeiana では、αサブユニッ
トおよび TSH βサブユニットに免疫陽性の細胞は、Shumway
(1940)のステージ 24 でαサブユニットの免疫陽性細胞の出現
と同時に出現した。また TSHβ免疫陽性細胞は変態の進行に伴っ
7
て数が増大した(Tanaka et al., 1991)。
ところで、両生類の下垂体ホルモンの中で、TSH は唯一物理化
学的な性質の詳細が不明なホルモンである。その理由は十分な量
の高純度の TSH 標品が未だ得られていないことである。高純度の
標品が得られないのは、下垂体中の TSH 含量が非常に少ないこと、
物理化学的な性質がよく似ている上に下垂体中に大量に存在する
生殖腺刺激ホルモンからの分離が困難であるためと考えられる。
ウシガエル TSH の精製は Sakai(1992)によってなされ、N 末
端のアミノ酸配列がわかっている。しかし十分量の TSH 標品が得
られていないため、ウシガエル TSH に対する特異的な抗体が作製
されず、TSH の放射免疫測定(RIA)法が確立されていなかった。
そのため、内因性 TSH の変態期における動態も不明であり、また
その放出因子の同定も不可能であった。他の種では TSH の単離す
ら試みられていない状況が続いた。
両生類の下垂体-甲状腺系は視床下部による調節を受けていると
考えられる。視床下部後部の原基を取り除き脳と下垂体を切り離
す(Hanaoka, 1967)、下垂体原基を別の場所に埋め込む(Etkin and
Lehrer, 1960)、あるいは下垂体柄を切断する(Etkin and Sussman,
1961)方法で下垂体と脳の連絡を切断した両生類の幼生は、変態
が完了しないことが知られている。ただし、これには例外があっ
て、ヒキガエルでは下垂体原基を他所から移植したり後部視床下
部原基をとりのぞいたりして下垂体の脳との接触を妨げても、正
常な動物に比べてややおくれるものの変態は完了する(Kikuyama
8
et al., 1993b)。
TSH は甲状腺からの甲状腺ホルモン放出を引き起こす、主たる
下垂体ホルモンであると考えられている。しかし両生類 TSHの RIA
による測定系が開発されていないことから、両生類の下垂体から
の TSH 放出を調節する視床下部ホルモン(群)の同定はなされて
いない。そのかわりに間接的な指標(変態の促進、テスト物質を
投与した後の血中甲状腺ホルモンレベルの変化、テスト物質存在
下で培養した下垂体の培養液で培養した甲状腺からの甲状腺ホル
モン放出量の変化など)に基づく研究が試みられてきた。
哺乳類では、TSH の合成・分泌は主として視床下部ホルモンで
ある甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)により促進される
ことが知られる。両生類以外の脊椎動物では、TRH よりもむしろ
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)による TSH 放出活性
が知られている。このことから哺乳類とそれ以外の脊椎動物の TSH
分泌調節機構が大きく異なっていると考えられる。また哺乳類で
は、甲状腺ホルモンが下垂体にはたらき TSH の合成・分泌を抑制
するとともに視床下部にはたらき TRH の合成を抑制するという、
ネガティヴフィードバックによる調節が知られている(Scanlon
and Toft, 2000)。
本論文では両生類 TSH の RIA 系の確立と TSH 分泌を制御する
因子に関して述べる。
表1 Xenopus laevisおよびRana pipiens幼生の変態ステージの比較(Dodd, M.H.I. and Dodd, J.M.: Biology of Metamorphosis. In "Phisiology of the Amphibia" (1976)よ
り改変
判断に用いる主な特徴
NFステージ(a)
TKステージ(b)
判断に用いる主な特徴
(c)
初期胚
1-48
I-II
甲状腺濾胞が認められる
49-50
III甲状腺1個あたり濾胞が13個
51
IV後肢の長さが直径の1.5倍
52
後肢の水かきの発達
V甲状腺1個あたり濾胞が20個
53
VI
後肢長が2 mmになる
54
VIIVIII IX X
後肢の先端全部に切れ込みが生じる
後肢長が3 mmになる
55
後肢の発達
XI甲状腺立方上皮
56-
XII
56+
XIII
57
XIV
57+
XV XVII
総排出口を被う袋が最大となる
前肢が出る
58
XVII+
総排出口を被う袋の退縮開始
59
最高の幼生長 尾長/体長 > 2.0
XVIII
総排出口を被う袋が消失
咽頭の退縮が始まる
59+
体長が緩やかに減少
60
XIX
口器は幼生型
鰓が狭まる
61
尾長は減少しない
尾鰭の退縮
尾の退縮が始まるが、泳ぎには使われる
62
尾長/体長 2.0または > 2.0
XX片側前肢が出る
尾の急激な吸収が開始
幼生のキチン質の口器が消失
口幅が鼻孔をよぎる線まで広がる
尾の退縮開始
XXI
鰓の吸収開始
口幅が目の前端まで広がる
尾はもはや泳ぎには使われなくなる
63
尾長/体長 1.5
63+
尾長/体長 1.1
XXII
口幅が目の中心まで広がる
64
尾長/体長 0.3
XXIII
口幅が目の後端まで広がる
65
尾の残痕がみられる
XXIV
皮下にかすかに鼓膜の輪が認められる
尾の残痕が緩やかに吸収
66
成体の形態
XXV
尾が完全に消失
(a) NieuwkoopとFaber (1956)によるステージ
(b) TaylorとKollros (1946)によるステージ
(c) Etkin (1968)による分類
Xenopus laevis
共通の特徴
Rana pipiens
前変態期
(Premetamorphosis)
変態始動期
(Prometamorphosis)
変態最盛期
(Climax)
前変態期
(Premetamorphosis)
変態始動期
(Prometamorphosis)
変態最盛期
(Climax)
10
第2章 ウシガエル TSHβをコードするcDNA のクローニング
2-1 序論
第 1章でもふれたように、両生類 TSH はこれまで十分な量の精
製された標品が得られておらず、抗体の作製、RIA による測定法
の開発がなされていなかった。そのため内因性 TSH に関するデー
タは今まで得られていない。このような状況のもとで、変態期の
幼生の下垂体中での TSH mRNA の発現レベルに関する情報は、こ
のギャップを埋めるのに相応しいと考えられる。
TSH はαとβの 2 つのサブユニットからなる糖タンパク質ホルモ
ンである。αサブユニットは TSH に特有ではなく、他の下垂体糖
タンパク質ホルモンである黄体形成ホルモン(LH)、濾胞刺激ホ
ルモン(FSH)および胎盤性生殖腺刺激ホルモンである絨毛性ゴ
ナドトロピンの 4 種のホルモンに共通である。それぞれのホルモ
ンに特異的な生物活性は、ホルモンによりアミノ酸配列が異なっ
ているβサブユニットにより発揮される。これまで知られている脊
椎動物の TSH では、αサブユニットに 2 個、βサブユニットに 1
個の糖鎖が付加する。糖鎖は、マンノース、フコース、N-アセチ
ルグルコサミン、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、シ
アル酸などから成っていて、TSH の安定性や生物活性に関係する
ものと考えられている(Cohen et al., 2000)。哺乳類での研究で、
11
TSHβのみでは生物活性はなく、αサブユニットとβサブユニットの
結合が TSH の生物活性の発現に必須であることがわかっている。
一般に TSH 産生細胞においてαサブユニットがβサブユニットに比
べ多量に合成されていることから、βサブユニットの合成が TSH
産生を規定しているものと考えられる(Cohen et al., 2000)。
本研究ではウシガエル下垂体前葉 cDNA ライブラリーより TSH
βサブユニットをコードする cDNA のクローニングを行った。さ
らに得られた cDNA をプローブとして用いて、変態期のウシガエ
ル幼生の下垂体中での TSHβ mRNA レベルの変動を、ノーザンブ
ロット解析によって調べた。
12
2-2 材料と方法
逆転写 PCR(RT-PCR)による部分的ウシガエル TSHβ cDNA の増
幅
ウシガエル下垂体よりトータル RNA(約 3 µg)を抽出した。逆
転写酵素 Superscript II(Life Technologies, NY, USA)を用いて
逆転写反応を行った。他の種の TSHβに保存的な配列に基づき縮
退プライマーを設計した。PCRは0.2 mM 濃度の各dNTP、50 pmol
のそれぞれの合成した縮退プライマー(プライマー1、5’-
TGCCTI(A/G)CCAT(C/T)ACIAC(C/T)(A/G)T(C/T)TG-3’、プラ
イマー2、5’-G(C/T)C(A/T)GT(A/G)TT(A/G)CAI(G/T)T(G/T)
(C/T)CACACTI(A/G)CAGCT-3’)、0.5 ユニットの Ex-Taq(タカ
ラバイオ、滋賀)を含む 20 µl の反応液中で行った。PCR の反応
は始めに 94˚C 2 分間の変性を行い、94˚C 20 秒間の変性、42˚C
20 秒間のアニーリング、60˚C 1 分間の伸長反応を 30 回繰り返
して行った。増幅した cDNA をサブクローニングした T ベクター
pT7-blue (Novagen, WI, USA)をコンピテントセル JM109(タ
カラバイオ)へ形質転換し、塩基配列解析を行った。
cDNA ライブラリーの構築とウシガエル TSHβ cDNA のスクリー
ニング
ウシガエル下垂体前葉より RNA 抽出試薬 ISOGEN(日本ジーン、
東京)によりトータル RNA を抽出し、Oligotex-dT30 super(タ
13
カラバイオ)を用いてポリ(A)+ RNA を精製した。逆転写反応によ
りポリ(A)+ RNA から cDNA を合成した。EcoRI/NotI アダプター
を結合させた後、EcoRI-digested λZAPII (Stratagene, CA, USA)
と結合し、Gigapack III extracts (Stratagene)を用いてパッケー
ジングを行った。
210 bp の PCR 産物を BcaBEST Labeling Kit(タカラバイオ)
を用いてランダムプライム法(Feinberg and Vogelstein, 1983)
によって[α-32P]dCTP でラベルし、ウシガエル下垂体前葉 cDNA
ライブラリーからスクリーニングするプローブとして用いた。
cDNA ライブラリーは 0.7% アガロースを含む LB プレート(直
径 140 mm)に1×104 pfuになるようにまいた。膜転写後、cDNA
を変性させてから cDNA を膜上に固定した。膜を 6×標準クエン
酸含有生理食塩水(SSC)、0.2% (w/v) ウシ血清アルブミン
(BSA)、0.4% (w/v) フィコール 400、0.4% (w/v) ポリビニ
ルピロリドン、1% (w/v) ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)からな
るハイブリダイゼーション液に入れて 60˚C で 2 時間プレハイブ
リダイズした。32P でラベルした部分的ウシガエル TSHβ cDNA を
ハイブリダイゼーション液に加えて、60˚C で 16 時間ハイブリダ
イズした。膜を 2×SSC/0.1% SDS で室温で 1 回洗浄し、0.1
×SSC/0.1% SDSに入れて60˚Cで 30分間の洗浄を2回行った。
Imaging plate(富士フイルム、東京)に 20 分間露光した後、
BAS2000II(富士フイルム)で解析した。陽性のシグナルが出た
プラークから in vivo エキシジョンによってプラスミドを得た。
14
DNA の塩基配列解析
cDNA の 塩 基 配 列 は 蛍 光 ラ ベ ル し た プ ラ イ マ ー 、
Thermosequenase cycle Sequencing kit (Amersham
Biosciences, Uppsala, Sweden)、dNA sequencer Model 4000L
(LI-COR, NE, USA)を用いてサイクルシークエンス法によって解析
した。
ノーザンブロット解析
ウシガエルの器官(精巣、腎臓、肝臓、腸、視床下部、脳、下
垂体中後葉、下垂体前葉)から全 RNA を抽出した。10 µg の全 RNA
を 10% アガロース、2.2 M ホルムアルデヒドを含む変性ゲルで
電気泳動により分離し、ナイロン膜に転写した。RNA を紫外線照
射により膜に固定した。
変態期のウシガエル幼生と成体の下垂体前葉で発現している
TSHβ RNA 量を測定した。Taylor と Korllos(1946)のステージ
(TK ステージ)XII、XVII、XIX、XX、XXII、XXIV の幼生の下垂体
前葉より全 RNA を抽出してサンプルとした。幼生は 20 匹分、成
体は 1 匹分の全 RNA を 1 サンプルとして用いた。全 RNA を定量
し、3µg の RNA を電気泳動して膜に転写し、紫外線照射により固
定した。
膜を 1×SSC 中で3分間煮沸した後、ハイブリダイゼーション
液に入れて 60˚C で 2 時間プレハイブリダイズした。32P でラベル
した部分的ウシガエル TSHβ cDNA をハイブリダイゼーション液
15
に加えて、60˚C で 16 時間ハイブリダイズした。膜を 2×
SSC/0.1% SDS で室温で 1回洗浄し、0.1×SSC/0.1% SDS に入
れて 60˚C で 30 分間の洗浄を 2 回行った。Imaging plate に 20
分間露光した後、BAS2000II で解析した。結果は FUJIX Bio-
Imaging Analyzer BAStation (富士フイルム)で解析した。TSHβ
mRNA 発現量はβ-アクチン発現量で標準化し、ステージ XII の発
現レベルを 1 とした相対値で表した。分散分析(ANOVA)を行
った後、Scheffe の検定により統計的な解析を行った。p 値が 0.05
未満の場合に有意差ありとみなした。
16
2-3 結果
ウシガエル TSHβ cDNA の単離
ウシガエル下垂体前葉 cDNA ライブラリーより、部分的ウシガ
エル TSHβ cDNA をプローブとして、スクリーニングにより全長
ウシガエル TSHβ cDNA を得た。塩基配列の解析をしたところ、
得られた cDNA はウシガエル TSHβの全長をコードする配列を含
む 930 bp より成っていた。塩基配列より推定されるアミノ酸配
列を図 1 に示した。推定されるアミノ酸配列の中にはシグナルペ
プチド配列と成熟した TSHβ分子の配列が含まれていた。ウシガ
エル、哺乳類、ニワトリ、アフリカツメガエル、魚類の TSHβの
配列を比較したものを図2に示した。ウシガエル TSHβアミノ酸
配列との相同性は、ウシ 51.9%、ヒト 55.4%、マウス 51.2%、
ニワトリ 50.0%、アフリカツメガエル 61.4%、ヨーロッパウナ
ギ 39.5%、ニジマス 43.5%であった。
ノーザンブロット解析
ウシガエル TSHβ mRNA が下垂体前葉に特異的に発現している
かどうかを確かめるため、ウシガエルの様々な器官を使ってノー
ザンブロット解析を行った。TSHβ mRNA はおよそ 1.0 kb の長さ
で、下垂体前葉にのみ特異的に発現していた(図3A)。精巣、腎
臓、肝臓、腸、視床下部、脳、下垂体中・後葉では TSHβ mRNA
17
の発現は見られなかった。一方、同じ膜を用いて、β-アクチン mRNA
の発現レベルを調べたところ、すべての器官に、ほぼ同程度の発
現が確認された(図3B)。
ウシガエル幼生(ステージ XII~XXIV)と成体の下垂体前葉にお
ける TSHβ mRNA の発現量をノーザンブロット解析により測定し
た。電気泳動した全 RNA 量とノーザンブロット解析で得られるバ
ンドの濃さは比例した。下垂体中の TSHβ mRNA 発現量は変態始
動期(ステージ XII~XIX)から上昇を始め、変態始動期の終盤(ス
テージ XIX)に最高値に達した。この値はステージ XII に比べると
およそ2倍高かった。変態最盛期の前半から中盤(ステージ XX~
XXII)まで高い発現量が保たれ、変態最盛期終盤(ステージ XXIV)
で下降を示した。一方、成体下垂体での TSHβ mRNA 発現量は著
しく低かった(図4)。
1 CCAGGATGACATCTATATTCATGGTGTCCTTTCTCCTTTGCTTTGCTTATGGGCATGCTA 60
1 M T S I F M V S F L L C F A Y G H A 18
61 CTTTTCTATGTATGCTGACTGAATATACCATGTACGTGGAGATGGAAGAGTGTAGTCACT 120
19 T F L C M L T E Y T M Y V E M E E C S H 38
121 GCATTGCCATCAACACAACAATATGTTCTGGATACTGCTCAACTAAGGATCCTAATATGA 180
39 C I A I N T T I C S G Y C S T K D P N M 58
181 AGGGAAATTTACCGGAGGCCAAACTGAATCAGAACATTTGTACGTACAATGACTACATTC 240
59 K G N L P E A K L N Q N I C T Y N D Y I 78
241 TCAAGACGGTTTCAATTCCCAGTTGCCCAGTGCATGTCAATCCACACTATACCTATCCTG 300
79 L K T V S I P S C P V H V N P H Y T Y P 98
301 TAGCACTGAGTTGTAGGTGTGACAAATGTAACACAGGCTATATTGACTGTGTACAGGATA 360
99 V A L S C R C D K C N T G Y I D C V Q D 118
361 GTATTGAGTCTAATTACTGTACAAAGCCAAGGAAGCCGAAGGATTTCTTCTACAATTATG 420
119 S I E S N Y C T K P R K P K D F F Y N Y 138
421 CCAAAAAATTCATTGGCCATAAATTTAAGTAAACCTGTTGTAATGGAACACTGCATGATC 480
139 A K K F I G H K F K * 148
481 CAGCATGTCTCTGCAACGCAGATGCCATGAAGTGCCTAACATACCCTCTGCTTGCCAAAT 540
541 GTAGCTCCAGGAAGTCCCCACATCTGGGCCATATACAGAGACCCATCTTTACAAGCTTGT 600
601 TGTTCCAGATCAACTCGCAGCAATTTTCAGCATCTGCATTTTTTGGAGCACCCTAGGTTC 660
661 AAGAACTTCAGGATATGTGTCAACAGCTGATGGTTCCTGCCGTTGCATATTCTTGCTGGT 720
721 TTATACAGGTTTACTTTAACAGATTTCAAAAAAATATATCTAGGTTTGCATTTGTTTAGA 780
781 GAAGCAGATAAGTTTGAAATATTATTTTAATTAGTTATACAGTTTCACTGTTTAAAAACA 840
841 TTAGATAAAATATACTGTTTTAACGTTCCTTTTACTGCAGAAAATTGAACTAAAATCAAT 900
901 ATCTATAATCAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA 930
図1 ウシガエルTSH βサブユニットのcDNA塩基配列。推定されるアミノ酸
配列を下段に表した。アスタリスクは終止コドンを示している。下線を引いた
部位はシグナルペプチド配列である。
18
1 MTSIFMVSFLLCFAYGHATFLCMLTEYTMYVEMEECSHCIAINTTICSGYCSTKDPNMKG 60 1 MTATFLMSMIFGLACGQAMSFCIPTEYMMHVERKECAYCLTINTTVCAGYCMTRDVNGKL 60 1 MTALFLMSMLFGLACGQAMSFCIPTEYTMHIERRECAYCLTINTTICAGYCMTRDINGKL 60 1 MSAAVLLSVLFALACGQAASFCIPTEYTMYVDRRECAYCLTINTTICAGYCMTRDINGKL 60 1 MSPFFMMSLLFGLTFGQTASVCAPSEYTIHVEKRECAYCLAINTTICAGFCMTRDSNGKK 60 1 -----GTSLLFCMAIGQAVSVCFLTEYTMYVEKKECAYCLAINTTICSGYCMTKDPNLKE 55 1 MRVVLLASAVLCLLAGQVLSICSPVDYTLYVEKPECDFCVAINTTICMGFCYSLDPNVVG 60 1 MELSVAMYGLLCLLFSQAVPMCVPTDYTLYEERRECDFCVAINTTICMGFCYSRDSNMKE 60
61 NLPEAKLNQNICTYNDYILKTVSIPSCPVHVNPHYTYPVALSCRCDKCNTGYIDCVQDSI 120 61 FLPKYALSQDVCTYRDFMYKTAEIPGCPRHVTPYFSYPVAISCKCGKCNTDYSDCIHEAI 120 61 FLPKYALSQDVCTYRDFIYRTVEIPGCPLHVAPYFSYPVALSCKCGKCNTDYSDCIHEAI 120 61 FLPKYALSQDVCTYRDFIYRTVEIPGCPHHVTPYFSFPVAVSCKCGKCNTDNSDCIHEAV 120 61 LLLKSALSQNVCTYKEMFYQTALIPGCPHHTIPYYSYPVAISCKCGKCNTDYSDCVHEKV 120 56 GLPKMLMSQKACSYKEYIHRTVTIPGCPMHVNPLFSYPVAISCECDKCNTGFTDCIQDTI 115 61 PAVKRLVVQRGCTYQAVEYRTAELPGCPPHVDPRFSYPVALHCTCRACDPARDECTHRA- 119 61 LAGPRFLIQRGCTYDQVEYRTVILPGCPLHANPLFTYPVALSCHCGTCNTDSDECAHKAS 120
121 ESN-Y-CTKPRKPKDFFYNYAKKFIGHKFK 148 121 KTN-Y-CTKPQKSYMVGFSI 138 121 KTN-Y-CTKPQKSYLVGFSV 138 121 RTN-Y-CTKPQSFYLGGFSV 138 121 RTN-Y-CTKPQKLCNM 134 116 KIN-Y-CTKPFEPQYLGFSNYIQ 136 120 SADGDRCSKPLLLHMHAYPGQSNYIQT 147 121 SGDGARCSKPLRHIYPYPGLNSYIHP 147
BullfrogBovineHumanMouseChickenXenopusEuropean eelRainbow trout
BullfrogBovineHumanMouseChickenXenopusEuropean eelRainbow trout
BullfrogBovineHumanMouseChickenXenopusEuropean eelRainbow trout
図2 脊椎動物TSH βサブユニットのアミノ酸配列の比較。すべての種の
TSHβで共通のアミノ酸残基は白抜き文字で表した。5種以上で共通のアミ
ノ酸残基は網かけ文字で表した。相同性を最も高くするために、ギャップ
を挿入した。ウシ(Maurer et al., 1984)、ヒト(Sairam and Li, 1977)、
マウス(Gurr et al., 1983)、ニワトリ(Gregory and Porter, 1977)、
アフリカツメガエル(Buckbinder and Brown, 1993)、ヨーロッパウナギ
(Salmon et al., 1993)、およびニジマス(Ito et al., 1993)の配列を示し
た。
19
図3(A) ウシガエルTSHβ mRNAのノーザンブロット解析。ウシガエルの
色々な器官から全RNAを抽出し、10 µgを2.2 Mホルムアルデヒドを含む
1% アガロースゲルで電気泳動した。リボソームRNA (28Sと18S)および
1 kbのサイズを示した。 (B) ウシガエルβ-アクチン mRNAのノーザンブ
ロット解析。TSHβ mRNAの発現を調べた同一の膜にβ-actinプローブを加
えて解析した。レーン1、下垂体前葉;レーン2、下垂体中・後葉;レー
ン3、脳;レーン4、視床下部;レーン5、腸;レーン6、肝臓;レーン
7、精巣;レーン8、腎臓。
20
TK stage
A
図4(A)変態期間中のウシガエル幼生および成体の下垂体前葉での
TSHβ mRNAレベルの変動。TKステージXII-XXIVの幼生と成体のウシ
ガエルの下垂体前葉より全RNAを抽出した。幼生の場合は20個の下垂
体の全RNAをまとめて1例とした。成体は下垂体1個を1例とした。全
RNAを定量し、3 µgのRNAを電気泳動した。TSHβ mRNAのバンドの
濃さはウシガエルβ-アクチンmRNAにより標準化し、ステージXIIの値
を1とした相対値で表した。棒グラフは平均値±SEM(n=7)を表して
いる。同じ文字を付したデータ間では5%レベルの差がみられない
(ANOVAおよびScheffe's test)。 (B)TSHβおよびβ-アクチン mRNA
のノーザンブロットの代表的なバンド。レーン1、ステージXII;レー
ン2、ステージXVII;レーン3、ステージXIX;レーン4、ステージ
XX;レーン5、ステージXXII;レーン6、ステージXXIV:レーン7、
成体。
B
21
TK stage
A
図4(A)変態期間中のウシガエル幼生および成体の下垂体前葉での
TSHβ mRNAレベルの変動。TKステージXII-XXIVの幼生と成体のウシ
ガエルの下垂体前葉より全RNAを抽出した。幼生の場合は20個の下垂
体の全RNAをまとめて1例とした。成体は下垂体1個を1例とした。全
RNAを定量し、3 µgのRNAを電気泳動した。TSHβ mRNAのバンドの
濃さはウシガエルβ-アクチンmRNAにより標準化し、ステージXIIの値
を1とした相対値で表した。棒グラフは平均値±SEM(n=7)を表して
いる。同じ文字を付したデータ間では5%レベルの差がみられない
(ANOVAおよびScheffe's test)。 (B)TSHβおよびβ-アクチン mRNA
のノーザンブロットの代表的なバンド。レーン1、ステージXII;レー
ン2、ステージXVII;レーン3、ステージXIX;レーン4、ステージ
XX;レーン5、ステージXXII;レーン6、ステージXXIV:レーン7、
成体。
B
21
22
2-4 考察
以前に筆者の所属する研究室で、ウシガエル下垂体より TSH を
単離する試みがなされ、その結果高度に精製された TSH βサブユ
ニットが得られていた。得られた TSH βサブユニットは極少量の
ため抗血清の作製にはいたらなかったが、その部分的なアミノ酸
配列が決定されていた(Sakai, 1992)。N 末端 10 残基のアミノ
酸配列は FLCMLTEYTM であり、この研究で得られた TSHβ cDNA
の塩基配列より推定されるアミノ酸配列の 20~29 番目の配列と
一致した。このことからアミノ酸配列のうち 1~19 番目はウシガ
エル TSHβのシグナルペプチド配列であると考えられる。またウ
シガエルと他種の脊椎動物の TSHβのアミノ酸配列を比較したと
ころ、ウシガエル TSHβ配列はアフリカツメガエルのものと最も
相同性が高かった。また魚類よりはむしろ四足動物との相同性が
高く、他の下垂体ホルモンと同様の傾向を示した。
アフリカツメガエルでは Buckbinder と Brown (1993)により
TSH βサブユニットをコードする cDNA が単離された。アフリカ
ツメガエル幼生の下垂体では、TSHβ mRNA レベルは変態始動期
に上昇し、変態始動期のおわり(Nieuwkoop と Faber のステージ
58/59)と変態最盛期前半(ステージ 61)に最高値を示し、そ
の後は大幅に減少した。アフリカツメガエル幼生の血漿中の甲状
腺ホルモン濃度は、変態始動期前半(ステージ 60-62)に上昇し
23
その後減少する(Leloup and Buscaglia, 1977)。
変態期のウシガエル TSHβ mRNA 発現レベルの変動はアフリカ
ツメガエルとはやや異なっていた。ウシガエル幼生では、TSHβ
mRNA レベルは変態始動期に上昇し、変態始動期の終わり(ステ
ージ XIX)には最高値に達した。その高い発現レベルは変態最盛
期の前半から中盤(ステージ XX-XXII)まで保たれ、変態最盛期終
盤(ステージ XXIV)に下降した。血中の甲状腺ホルモンも TSHβ
mRNA 発現レベルと同様、実際変態最盛期終盤まで高い濃度が保
たれる傾向がある(Miyauchi et al., 1977; Regard et al., 1978;
Mondou and Kaltenbach, 1979; Suzuki and Suzuki, 1981)。ア
フリカツメガエルとウシガエルの TSHβ mRNA 発現レベルの変動
のパターンの違いは、変態を完了するのに必要な時間の違いによ
るものと考えられる。ウシガエルでの尾の吸収はアフリカツメガ
エルに比べてよりゆっくりと起こる。これはウシガエルでは変態
抑制作用を有する PRL の血液中レベルが変態最盛期後半に高いレ
ベルを示していること(Yamamoto and Kikuyama, 1982)と無
関係ではないと思われる。
この研究では、ウシガエル幼生の TSH αサブユニット mRNA の
発現レベルの変動に関する研究は行わなかった。TSH はαとβの 2
つのサブユニットからなっている。ウシガエルの TSH αサブユニ
ットのアミノ酸配列は FSH および LH のものと共通である
(Hayashi et al., 1992a)。更にαサブユニットは PRL の分泌顆粒
中にも含まれることが知られている(Tanaka et al., 1992)。TSH
24
産生細胞中ではαサブユニットは過剰に産生され、βサブユニット
の合成が TSH の産生を規定しているという哺乳類での研究もある。
そのため、αサブユニット mRNA レベルは TSH の合成を正確に反
映していないと考えられる。
25
第3章 ウシガエル TSH の RIA による測定系の開発
3-1 序論
哺乳類では多くの種の TSH が得られていて、RIA や免疫放射定
量測定法による高感度な測定系が確立されている。また魚類およ
び爬虫類 TSH の RIA による測定系も開発されている。哺乳類 TSH
の合成・分泌は主として視床下部ホルモンである TRH によって促
進される一方、甲状腺ホルモンのネガティヴフィードバック機構
により抑制されることが知られている。しかし、哺乳類以外の脊
椎動物では、TSH の放出を TRH が制御しているという考え方には
否定的である。
両生類 TSH の高度に精製された十分量の標品は、RIA のための
抗体を作製するために不可欠である。両生類では第 1 章でのべた
理由で、これまで TSH 抗体が得られなかった。
本研究では、ウシガエル TSHβの配列に基づいて合成したペプ
チドとそのペプチドに対する抗血清を用いてウシガエル TSH の
RIA による測定系の開発を目ざした。
26
3-2 材料と方法
抗ウシガエル TSHβ血清の作製
ウシガエル TSHβ cDNA 配列(第 2 章参照)から推定されるアミノ
酸配列のうち、TSHβの C 末端 24 残基の配列(図1)のペプチド
を合成した(American Peptide, CA, USA)。テンガイヘモシアニ
ン(Pierce, IL, USA)を合成した TSHβの N 末端のシステイン残
基に m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester を用い
て付加し、ウサギに免疫した。免疫は 100 µg のヘモシアニンを
付加した TSHβ C 末端ペプチドを 100 µl の生理食塩水に溶かし、
等量の Freud’s complete adjuvant (Dibco, MI, USA)を加えて乳
化したものを、ネンブタールで麻酔したウサギの膝下リンパ節に
注射した。1 回目の免疫の 2 週間後から、ウサギの背側の皮下に
2 週間おきに各 100 µg を 4 回注射した。最後の注射の 2 週間後
に頸動脈より全採血を行った。遠心により得られた血清を-80˚C
で保存した。
TSH 細胞の免疫染色
ウシガエル下垂体を Bouin 液中で 24 時間固定し、脱水後パラ
フィンに包埋し、6 µm の厚さに切り出した。切片を抗ウシガエ
ル TSHβ C 末端ペプチド(希釈率 1:2000)と室温で 24 時間反
応させた。隣接する切片をヒト TSHβ抗血清(#AFP55741789,
27
National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney
Diseases, MD, USA, 希釈率 1:1000)で染色した。切片をビオ
チン化ブタ抗ウサギ免疫グロブリン(1:500; ダコ・サイトメー
ション、京都)と 1 時間反応させ、ペルオキシダーゼでラベルさ
れたストレプトアビジン(1:500; ダコ・サイトメーション)と
1時間反応させた。その後 20 mg のジアミノベンジジン、0.005%
H2O2を含む 100 ml の 0.05 M Tris-HCl バッファー(pH 7.6)中
に入れて発色反応を行った。ウシガエル TSHβ抗血清の染色の特
異性は、あらかじめ抗原とインキュベートした抗血清で隣接切片
を染色することで確認した。
TSH の RIA
合成したウシガエル TSHβ C 末端ペプチドのヨード化は
Yamamoto ら(1996, 2000)の方法に従って行った。RIA は二
抗体法によって行った。ウシガエル TSHβ C 末端ペプチド抗血清
は 100 µl の希釈した抗血清、100 µl のラベルしたペプチド (約
20,000 cpm)、300 ml の 1% BSA-リン酸緩衝生理食塩水(PBS)
(0.14 M NaCl, 1% BSA, 0.1% NaN3を含む 0.01 M リン酸バッ
ファー、pH 7.5)の反応液中でラジオリガンドとの特異的な結合率
が 35%になる最終希釈倍率 1:20,000 で使用した。実験を通じて
この希釈倍率で行った。RIA は使い捨てのポリスチレンチューブ
(8×50 mm)中で行った。標準品およびサンプルは 1% BSA-PBS
で正確に希釈し、100 µl をチューブ中の 1% BSA-PBS200 µl に
28
加えた。抗血清は 0.05 M エチレンジアミン四酢酸(EDTA)-PBS
(0.14 M NaCl, 0.05 M EDTA, 0.1% NaN3を含む 0.01 M リン酸
バッファー、pH 7.5)で 1:4,000 に希釈して 1%の正常ウサギ血
清を加えた。各チューブに 100 µl の希釈した抗血清、100 µl の
1% BSA-PBS で希釈したラジオリガンドを加え、室温で 24 時間
インキュベートした。その後 0.32% ポリエチレングリコール
6000 を含む 0.05 M EDTA-PBS で 1:50 に希釈したヤギ抗ウサ
ギ IgG を 200 µl 加えて、更に室温で 24 時間インキュベートした。
その後各チューブを 4˚C、3,500 rpm で 30 分間遠心して、上清
を吸引して取り除いた。それぞれの沈殿の放射活性を Aloka Auto
Well Gamma System 600 (Aloka、東京)で測定した。測定値は
TSH (TSHβ全長+αサブユニット)の重量(ng または pg)に換算
して表した。下垂体ホモジェネートや下垂体培養液中に含まれる
TSH と推定される物質が本 RIA の系でスタンダードカーブに平行
で直線的な阻害曲線を現出するかどうかも Bliss(1952)の方法
によって検討した。尚下垂体細胞培養法および RIA のための下垂
体ホモジェネートの調製法は、4-2 で詳しく述べる。RIA の特異
性を確かめるため、ウシガエルの下垂体ホルモンである PRL
(Yamamoto and Kikuyama, 1981)、成長ホルモン(GH;
Kobayashi et al., 1989)、LH (Hayashi et al., 1992b)、FSH
(Hayashi et al., 1992c)および糖タンパク質ホルモンのαサブユ
ニット(Hayashi et al., 1992a)の交叉反応を調べた。
29
TSH 免疫陽性物質の免疫沈降
解離した下垂体細胞(7×104 細胞/ウェル)を以前に述べた方法
(Oguchi et al., 1996)で 70%メディウム 199(M199;日水
製薬、東京)中で 24 時間培養した。遠心後上清を 12 本のチュー
ブに分けた。それぞれ 3 本のチューブに 1% BSA-PBS、正常ウサ
ギ血清、ウサギ抗ウシガエルαサブユニット血清(Tanaka et al.,
1992)、またはウサギ抗ウシガエル TSHβを 4% (v/v)濃度になる
ように加え、4˚C で 48 時間インキュベートした。その後 100 ml
の Protein A Sepharose 4 Fast Flow (Amersham Biosciences)
を加えて室温で 1 時間反応させた。4˚C、5,000 rpm で 2 分間遠
心後、上清を TSH の RIA で測定した。
甲状腺の器官培養
TK ステージ XIV のウシガエル幼生の下顎から剣状軟骨の一部と
ともに甲状腺を取り出した。200 µl の 70% M199 に入れて 5%
CO2 の存在下で 23˚C で 1 時間プレインキュベートした。その後
甲状腺を様々な濃度の TSH(ウシガエル下垂体細胞培養液に由来
するもの)またはウシ TSH (Sigma, MO, USA)を含む M199 中
に移し、24 時間インキュベートした。培養液を回収し遠心後、上
清に含まれる T4 を RIA で測定した。測定値は平均値±SEM で、
ng/ml で表した。
30
T4の RIA
T4 の RIA による測定はウサギ抗 L サイロキシン-BSA 血清
(Sigma)に添付されていた説明書に従い、二抗体法で行った。100
µl の希釈した抗血清(1:1000)、100 µl の希釈した L-[125I]T4
(230,000 cpm; Perkin-Elmer Life Science, MA, USA)、100 µl
の 1% BSA-PBS (pH 7.5)および 100 µl の 0.01 M PBS (0.14 M
NaCl および 0.1% NaN3 を含む 0.01 M リン酸バッファー、pH
7.5)からなる反応液中で、T4 抗血清と 125I T4 との結合率が 22%
になるように、T4抗血清は希釈倍率 1:4000 で用いた。T4標準品
(98-12,500 pg/100 µl; Sigma)と培養液のサンプルは 1%
BSA-PBS で正確に希釈し、100 µl の 2% 正常ウサギ血清-T4希釈
液 (0.05% 8-amino-1-naphthalen-sulfonic acid ammonium salt、
2% 正常ウサギ血清を含む 0.075 M バルビタールナトリウム、pH
8.6)を入れたチューブに加えた。抗血清は 0.01 M PBS (pH 7.4)
で 1:1,000(最終希釈倍率 1:4000)に希釈した。ラジオリガン
ドは 2% 正常ウサギ血清-T4希釈液 (pH 8.6)で希釈した。100 µl
の希釈した抗血清および 100 µl の希釈したラジオリガンドをそれ
ぞれのチューブに加えてよく攪拌した。37˚C で 1 時間インキュ
ベートした後、200 µl の 0.05 M EDTA-PBS (pH 7.6)で 1:10 に
希釈したヤギ抗ウサギ IgG と 500 µl の 6% ポリエチレングリコ
ール 8000 を含む 0.01 M PBS (pH 7.4)を加えた。ボルテックス
ミキサーにより攪拌し、4˚C で 3,500 rpm で 15 分間遠心した。
上清を取り除き、沈殿の放射活性を Aloka Auto Well Gamma
31
System 600(Aloka)で測定した。RIA の感度は 100 pg T4/チ
ューブであった。
32
3-3 結果
ウシガエル TSHβ C 末端ペプチドに対する抗血清は、主として
下垂体の腹側に分布した細胞と反応した(図 2A)。染色された細
胞はヒト TSHβに対する抗体によって染色されたものと一致した
(図 2B)。十分量の抗原によりあらかじめ吸収したウシガエル
TSHβ C 末端ペプチド抗血清には、どの細胞も反応しなかった。
得られた抗血清と合成したウシガエル TSHβ C 末端ペプチドを
用いて、特異的で高感度な TSH の RIA 法による測定法を開発した。
この RIA の感度は標準品ゼロの場合の反応値の平均値から標準偏
差の 2 倍離れているような反応値を与える標準品量で表され、反
応液 100 µl あたり平均 0.75±0.07 ng (TSHβ+αサブユニット
に換算した値) であった。測定精度は、50%阻害されるのに必要
な標準品の量を 10 回調べたところ、アッセイ間の変動係数が
7.6%であった。また再現性については 488 pg の C 末端ペプチド
標準品(TSHβ+αサブユニットに換算すると 4.57 ng)を用いて
繰り返し測定を行ったところ、アッセイ内の変動係数が 5.3%で
あった。ウシガエル成体および幼生の下垂体抽出物および下垂体
細胞を 24 時間培養した培養液を段階希釈したものによる阻害曲
線は、標準曲線に平行になった(図 3)。
表 1 に見られるように、免疫沈降により下垂体細胞培養液に含
まれる TSH 免疫陽性物質は抗αサブユニット抗血清および TSHβ
33
抗血清のいずれによっても完全に取り除かれた。正常ウサギ血清
で処理したものでは TSH 免疫陽性物質はほとんど全て上清に残っ
た。図 4には下垂体細胞培養液に含まれる TSH 免疫陽性物質とウ
シ TSH の in vitro でのウシガエル幼生の甲状腺からの T4 放出効
果を示している。どちらの TSH も甲状腺からの T4 放出を濃度依
存的に促進した。ウシガエル TSH の T4 放出効果は、ウシのもの
に比べてかなり高い活性を示した。
ウシガエル下垂体培養液、幼生および成体ウシガエル下垂体の
ホモジェネートはともに標準曲線と平行な阻害曲線を示した。
1 F-CIPTEYTMHIERRECAYCLTINTTICAGYCMTRDINGKLFLPKYALSQ 49 1 F-CIPTEYMMHVERKECAYCLTINTTVCAGYCMTRDVNGKLFLPKYALSQ 49 1 FLCMLTEYTMYVEMEECSHCIAINTTICSGYCSTKDPNMKGNLPEAKLNQ 50
50 DVCTYRDFIYRTVEIPGCPLHVAPYFSYPVALSCKCGKCNTDYSDCIHEA 99 50 DVCTYRDFMYKTAEIPGCPRHVTPYFSYPVAISCKCGKCNTDYSDCIHEA 99 51 NICTYNDYILKTVSIPSCPVHVNPHYTYPVALSCRCDKCNTGYIDCVQDS 100
100 IKTNYCTKPQKSYLVGFSV 118 100 IKTNYCTKPQKSYMVGFSI 118 101 IESNYCTKPRKPKDFFYNYAKKFIGHKFK 129
HumanBovineBullfrog
HumanBovineBullfrog
HumanBovineBullfrog
図1 成熟したTSH βサブユニットのアミノ酸配列の比較。相同性を
高めるためにギャップを挿入した。3種のTSHβで共通のアミノ酸残
基は白抜き文字で、2種で共通の場合は網かけで表した。下線の引か
れたウシガエルTSHβのC末端の部分を合成し、抗原、RIAのラジオリ
ガンドおよび標準品として用いた。
34
図2 ウシガエル下垂体前葉のTSH産生細胞の免疫染色。ウシガエル下垂
体前葉の隣接切片3枚をウシガエルTSHβ抗血清(A)、ヒトTSHβ抗血清
(B)、およびウシガエルTSHβ C末端合成ペプチドにより吸収したウシ
ガエルTSHβ抗血清(C)で染色した。ウシガエルTSHβ抗血清、ヒト
TSHβ抗血清でともに染色された細胞の代表的なものを矢印で示した。
Bar = 30 mm。
35
図3 ウシガエル(幼生および成体)下垂体抽出物、ウシガエル(成
体)下垂体細胞の培養液、下垂体糖タンパク質共通αサブユニット、
LH、FSH、PRLおよびGHによる125I-TSHβ(106-129)
の置換。ウシガエル
TSH標準品(TSHβ C末端ペプチド)の重量はngのTSH(TSH βサブ
ユニットとαサブユニットの全長の合算)に換算して表した。
ng TSH (α-subunit + β-subunit)/tube
36
0 10 30 90100 300 9000
50
100
150
200
TSH (ng/ml)ウシ ウシガエル
aa
ab
c
bc
c
d
図4 ウシTSHおよび下垂体細胞培養液に含まれるウシガエルTSH免
疫陽性物質が、前変態期のウシガエル幼生の甲状腺からのT4放出にお
よぼす効果。値は平均値±SEM (n=10)。同じ文字を付したグループ
間では、5%レベルの有意差が認められない(ANOVAおよび
Scheffe's test)。
37
38
表 1. ウシガエル下垂体細胞培養液を正常ウサギ血清、抗αサブユニ
ット血清および抗 TSH βサブユニット血清により免疫沈降した後の上
清に含まれている TSH免疫陽性物質の濃度。
処理 TSH
(ng/ml medium)
コントロールに対する%
なし 32.40 ± 0.77 100
正常ウサギ血清 31.30 ± 3.15 97
抗αサブユニット血清 ND* 0
抗 TSH βサブユニット血清 ND 0
*検出不能
39
3-4 考察
免疫組織化学的な研究の結果より、ウシガエル TSHβの C 末端
ペプチドに対する抗血清がウシガエル下垂体の TSH 細胞を特異的
に認識することが明らかになった。この抗血清を用いて両生類 TSH
の RIA を開発した。下垂体からはαとβの 2 つのサブユニットから
なる TSH が放出されると予想される。TSHβ C 末端ペプチド標準
品とウシガエル下垂体ホモジェネートや下垂体細胞培養液の阻害
曲線が平行になったことから、この RIA によりウシガエル下垂体
や下垂体培養液中の TSH 様物質を測定することが可能になったと
考えた。更に RIA によって検出される物質が真の(αおよびβサブ
ユニットの結合したかたちの)TSH であるかどうかを下垂体培養
液を用いて確かめた。下垂体細胞培養液中の TSH 免疫陽性物質が、
ウシガエル糖タンパク質ホルモンαサブユニットに対する抗血清に
より完全に沈降したことは、培養液中では TSH βサブユニットが
単独では存在せず、αサブユニットとβサブユニットが結合した形
で存在していることを示している。また TSH 免疫陽性物質を含む
下垂体細胞培養液が in vitro での甲状腺からの T4放出を希釈度に
応じて顕著に高めたことは、下垂体より放出された RIA で検出さ
れる物質が主として活性を持った物質(αおよびβサブユニット結
合型)であることを示している。尚下垂体ホモジェネート中の RIA
測定可能な物質中には、αおよびβサブユニット結合型とα、βサブ
40
ユニット単独のかたちのものが共存していると考えられる。以上
のことから、今回開発した RIA により生物活性をもつ真のウシガ
エル TSH を測定できると結論づけた。
41
第 4 章 ウシガエル下垂体細胞からの TSH放出におよぼす視床下部因子の影響およびウシガエル幼生下垂体中の TSH 含量の変態にともなう変化
4-1 序論
哺乳類では TSH は視床下部ホルモンの TRH によって放出促進
される。また、下垂体からの成長ホルモン放出を抑制する因子と
して視床下部から単離されたソマトスタチン(SRIH)により、TSH
の基礎放出および TRH により引き起こされた放出が抑制されるこ
とも報告されている(Scanlon and Toft, 2000)。哺乳類以外の
脊椎動物では TRH 以外の物質にも TSH 放出活性があることが知
られている。魚類では TRH、サケ成長ホルモン放出ホルモン、サ
ケ生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)および CRH ファミ
リーペプチド(ヒツジ CRH; oCRH、コイユーロテンシン I、ソー
ヴァジン)が TSH 放出を促進することがサケ(Oncorhynchus
kisutch)の研究でわかっている(Larsen et al., 1998)。爬虫類
では、カメ(Chrysemys picta bellii および Trachemys script
elagans)の下垂体培養細胞からの TSH 免疫陽性物質の放出は
oCRH により促進される(Denver and Licht, 1989a)という報告
42
がある。
両生類 TSH に関しては、直接測定する手段がなかったため、
oCRH、TRH(脊椎動物で共通のアミノ酸配列を示す)、哺乳類型
の生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(mGnRH;両生類の脳には
mGnRH が存在する。他にニワトリ GnRH II 型を含む)といった視
床下部因子による TSH 放出活性を、間接的に明らかにする試みが
なされてきた。これらのペプチドにより、甲状腺からの甲状腺ホ
ルモンの放出を刺激する下垂体因子が放出されることが両生類で
も示された(Darras and Kühn, 1982; Denver, 1988; Jacobs et
al., 1988; Jacobs and Kühn, 1992)。興味あることに、TRH は
成体のカエルの下垂体からの T4 放出物質の放出を引き起こすが、
幼生下垂体には効果がなかった(Denver and Licht, 1989b)。し
かし、上記の報告の中では、実際に測定しているのは TSH ではな
くて甲状腺ホルモンのレベルであり、これらのペプチドに反応し
て放出される甲状腺ホルモン放出活性をもつ下垂体因子が真の
TSH であるという証明はなされていなかった。
本研究では新しく開発したウシガエル TSH の RIA(第3章参照)
による測定系により、下垂体細胞からの TSH 放出におよぼす既知
の視床下部ホルモンの影響を、TSH を直接測定することにより明
らかにした。また変態にともなって RIAで検出可能な下垂体中 TSH
含量がどのような変化を示すかも明らかにした。
43
4-2 材料と方法
下垂体細胞培養
ウシガエル成体および幼生の下垂体前葉細胞は、以前に述べら
れている方法(Oguchi et al., 1996)に従い解離させた。体重約
600 g のウシガエル成体と TK ステージ XVII-XXII のウシガエル幼
生を大内(三郷、埼玉)より入手し、実験室の環境下で 1 週間飼
育した。断頭して下垂体前葉を取り出し、細かく切ってから 0.2%
コラゲナーゼ (248 U/mg; 和光純薬、大阪)と 0.5% デオキシリ
ボヌクレアーゼ I (Sigma)を含む 70% M199(日水製薬)中に移
した。100 g で 5 分間遠心した後、上清を取り除いた。完全に解
離した細胞を 0.1% BSA を含む 70% M199 に懸濁し、一部をと
って細胞数を数えた。350,000 細胞/ml になるように懸濁液を調
製し、96 穴プレート(旭テクノグラス、東京)の 1ウェルに 70,000
細胞が含まれる 200 µl の懸濁液をまいた。5% CO2 の存在下で
23˚C で 24 時間プレインキュベートした。その後メディウムを除
き、oCRH(ペプチド研究所、大阪)、ウシガエル CRH(fCRH;当
研究室で最近得られたウシガエル CRH 前駆体 cDNA の塩基配列に
基づいて作製した合成品)、TRH(ペプチド研究所)、mGnRH(ペ
プチド研究所)、SRIH(ペプチド研究所)またはウシガエル副腎皮
質刺激ホルモン(fACTH;1994 年に Aida らにより単離されたウ
シガエルプロオピオメラノコルチン cDNA の配列から推定される
44
アミノ酸配列に基づき合成したもの)を加えた 0.1% BSA を含む
70% M199 に交換し、5% CO2の存在下で 23˚C でインキュベー
トした。上清を回収して遠心後、RIA により TSH 量を測定した。
測定値は 10,000 細胞あたりの TSH 放出量(αサブユニット+β
サブユニットに換算)を平均値±SEM で表した。TSH の RIA は第
3 章で述べた方法で行った。得られた測定値は ANOVA と
Scheffe’s testまたはF testと t testにより検定した。p値が0.05
未満の場合に有意差ありとみなした。
下垂体抽出物に含まれる TSH 量の測定
変態期の各段階のウシガエル幼生および成体から下垂体を取り
出し、1匹分に対して 800 µl の蒸留水を加えてガラスホモジェナ
イザーですりつぶした。抽出液をマイクロチューブに集めて
15,000 rpm で 10 分間遠心し、上清を回収した。得られた上清
を RIA による TSH 量測定、およびタンパク質の定量に用いた。タ
ンパク質定量は BCA Protein Assay Kit(Pierce)を用い、添付の
説明書に従って行った。得られた測定値は ANOVA と Scheffe’s
test より検定した。p 値が 0.05 未満の場合に有意差ありとみな
した。
45
4-3 結果
解離したウシガエル成体下垂体細胞から 10-7 M の oCRH、TRH
または mGnRH の存在下で 24 時間の間に放出される TSH 量を調
べた。図 1 に見られるように、oCRH が際立った TSH 放出効果を
示した。oCRH の TSH 放出効果は 8 時間後から明らかになった。
一方 TRH と mGnRH の効果は 24 時間後に明らかになったが、TSH
放出促進効果は oCRH に比べるとかなり弱かった。色々な濃度の
oCRH、TRH、mGnRH を加えて解離した下垂体細胞を 24 時間培
養し、TSH 放出におよぼす効果を調べた結果を図 2 に示した。
oCRH 、TRH および mGnRH は下垂体細胞からの TSH 放出を濃度
依存的に促進した。最も高い濃度(10-7 M)の oCRH により、TSH
の放出はコントロールと比較しておよそ 8 倍増大した。同じ濃度
の TRH、mGnRH はコントロールの値の約 2 倍の TSH 放出効果を
示した。
図 3 に示されているように、成体の下垂体細胞は oCRH、TRH
および mGnRH のいずれのホルモンにも反応して TSH 放出が促進
されるのに対し、幼生の下垂体細胞は oCRH には反応して TSH 放
出が促進したが、TRH および mGnRH による効果は見られなかっ
た。何もホルモンを加えない時の下垂体細胞からの TSH 放出量は、
成体よりも幼生の細胞の方が高かった。
fACTH 処理によっては、成体下垂体細胞からの TSH 放出が影
46
響を受けることはなかった(図 4)。成体の下垂体細胞からの TSH
放出におよぼす SRIH の効果を調べた(図 5)。SRIH は TSH の基
礎的な放出には効果をおよぼさなかったが、fCRH により促進され
た TSH の放出を濃度依存的に抑制した。
変態期間のウシガエル下垂体抽出物中の TSH 含量の変動を図 6
に示した。下垂体中に含まれる TSH 量は、変態始動期(ステージ
XVI-XVIII)から上昇を始め、変態最盛期(ステージ XX-XXV)を
通じて高く、変態が完了すると減少した。成体では更に低い値を
示した。
0
500
1000
1500
2000
2500
3000 コントロールCRHGnRHTRH
**
**
**
**
50 10 15 20 25培養時間(時間)
図1 10-7 M oCRH、TRHおよびmGnRH存在下での成体ウシガエル下
垂体細胞からのTSH放出量の変化。データは平均値±SEMで表した
(n=7)。コントロール値との間に有意差があるものは*p < 0.05また
は**p < 0.01で示した。
47
100
200
300
400
500
600700 TRH
a
b
cc
A
B0
1000
2000
3000
0
CRH
aab
bc
c
0
200
400
600
800
1000
1200 GnRH
a
bb
b
C
0 10-9 10-8 10-7濃度 (M)
2500
1500
500
図2 種々の濃度のoCRH、TRHおよびmGnRHが成体ウシガエル下垂
体細胞からのTSH放出におよぼす効果。細胞(1ウェルあたり7×
1 04個)は24時間培養した。データは平均値±SEMで表した
(n=7)。同じ文字を付したグループ間では5%レベルの有意差が認
められなかった(ANOVAおよびScheffe's test)。
48
コントロールGnRH
A
0
200
400
600
800
1000
幼生 成体
コントロールTRH
コントロールCRH
0
200
400
600
800
10000
5001000
1500
20002500
3000
3500
4000
B
C
*
*
*
*
下垂体細胞
図3 幼生および成体ウシガエル下垂体細胞からのTSH放出におよぼ
す10-7 M oCRH、TRHおよびmGnRHの効果。細胞(1ウェルあたり7
×104個)は24時間培養した。データは平均値±SEMで表した
(n=8)。コントロール値との間に有意差があるものは*p < 0.05で示
した(F testおよびt test)。
49
0
50
100
150
200
250
300
350
400
TSH
(pg/
1000
0 ce
lls)
ACTH濃度(M)0 10-9 10-8 10-7 10-610-10
a
a
a
a a
a
図4 成体ウシガエル下垂体前葉細胞からのTSH放出におよぼすfACTH
の効果。細胞(1ウェルあたり7×104個)は24時間培養した。データは
平均値±SEMで表した(n=7)。同じ文字を付したグループ間では5%レ
ベルの有意差が認められなかった(ANOVAおよびScheffe’s test)。
50
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
4500
5000
0 10-7 10-6 10-5 0 10-7 10-6 10-5
TSH
(pg/
1000
0 ce
lls)
SRIH濃度(M)
培養液のみ
10-7 M CRH
a a a a
b
ad
c
d
図5 成体ウシガエル下垂体細胞からのTSH基礎放出および10-7 M fCRH
により引き起こされたTSH放出におよぼすSRIHの効果。細胞(1ウェル
あたり7×104個)は24時間培養した。データは平均値±SEMで表した
(n=7)。同じ文字が付されたグループ間では有意差が認められなかった
(ANOVAおよびScheffe’s test)。
51
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
XIII XVI XVIII XX XXIII XXIV XXV 幼若 成体
TSH
(pg/µ
g pr
otei
n)
TKステージ
図6 変態期間中のウシガエル幼生および成体の下垂体前葉に含まれ
るTSH量の変動。TKステージXII-XXIVの幼生と成体のウシガエルの下
垂体前葉抽出物を作製し、RIAによりTSH量を測定した。TSH量は下垂
体のタンパク質1 µgあたりの量で表した。データは平均値±SEM
(n=10)を表している。同じ文字を付したデータ間では5%レベルの差
がみられない(ANOVAおよびScheffe's test)
abab
ac
cd
d
d
cd
b
e
52
53
4-4 考察
両生類下垂体からの TSH 放出を制御する視床下部因子(群)を
同定するための研究は、過去 30 年間続けられてきた(Denver,
1996; Dodd and Dodd, 1976; Kikuyama et al., 1993a;
Kaltenbach, 1996; Shi, 1999 参照)。両生類 TSH の RIA による
測定法が未確立であったため、間接的な判定基準による研究が多
くの研究者によりなされてきた。例えば、変態の促進、視床下部
ホルモンを投与した後の血中甲状腺ホルモンの上昇、視床下部ホ
ルモンの存在下で下垂体を培養した培養液で甲状腺を培養した時
の甲状腺ホルモン放出量などである。
当初は両生類の TSH 放出ホルモンは TRH であるとみなされて
いた。しかし、多くの研究で TRH を様々な種の両生類の幼生に投
与しても変態が促進されないことが示された(Norris, 1983参照)。
甲状腺からの T4 放出を促進する因子も、幼生の下垂体では TRH
によっては放出されないことも明らかになった(Denver and Licht,
1989b)。一方両生類での TRH による TSH 放出効果は成体の Rana
ridibunda (Darras and Kühn, 1982)や成体の Rana pipiens、 Hyla
regilla または Xenopus laevis (Denver, 1988)で報告された。形
態学的な研究では、成体の Rana perezi に TRH を注射すると、TSH
分泌が引き起こされる(下垂体 TSH 細胞での分泌顆粒が減少し、
小胞体とゴルジ装置の発達が見られる)可能性が示された
54
(Castaño et al., 1992)。
TRH 以外にも GnRH と CRH が両生類の TSH 放出作用をもつの
ではないかという報告がなされてきた。すなわち哺乳類 GnRH を
アカガエル(Rana ridibunda、Rana esculenta および Rana
temporaria)の静脈に注射すると、血漿中の T3 と T4 のレベルが
上昇する(Jacobs et al., 1988)こと、試験管内で、Rana pipiens
の甲状腺に GnRH を加えて培養した下垂体の培養液を加えると、
T4 放出量は大幅に増加する(Denver, 1988)ことなどである。
しかし、LH や FSH にも活性は低いが甲状腺より甲状腺ホルモン
を放出させる活性があることがウシガエルで報告されている
(Sakai et al., 1991)ので、GnRH が LH や FSH を放出させそれ
が T4 放出を促した可能性も否定できない。一方、ウシガエルの下
垂体細胞に CRH を加えて培養した培養液を成体の Rana pipiens
の甲状腺に加えると、強い T4放出効果を示す(Denver and Licht
1989b; Boorse and Denver, 2002)こと、また oCRH を Rana
perezi、Bufo arenarum および Ambystom atigrinum の幼生に
注射すると、変態が促進される(Gancedo et al., 1992; Miranda et
al., 2000)こと、血漿中の甲状腺ホルモンレベルが上昇する
(Denver, 1993; Gancedo et al., 1992)ことなどが報告されて
いる。また、抗 CRH 様ペプチドをウシガエルの幼生に注射する
(Denver, 1993)か CRH の拮抗剤であるα-helical CRH9-41 を
Scaphiopus hammondii の幼生に注射する(Denver, 1997)と
変態の進行が遅くなることも報告されており、CRH に TSH 放出活
55
性がある可能性は高いと考えられるに至った。
それ以外の下等脊椎動物でも、一般的に CRH が TSH 放出を刺
激する因子であるとされている。魚類では、サケ(Oncorhynchus
kisutch)の TSH の RIA が開発され(Moriyama et al., 1997)、
この系を用いてサケの TSH 放出が TRH、サケ成長ホルモン放出ホ
ルモン、サケ GnRH および CRH ファミリーペプチド(oCRH、コ
イユーロテンシン I およびソーヴァジン)といった様々な視床下
部ペプチドにより調節されることが示された(Larsen et al.,
1998)。カメ(Chrysemys picta bellii と Trachemys scripta
elagans)では、下垂体培養細胞からの TSH 免疫陽性物質の放出
が oCRH により高められたという報告(Denver and Licht, 1989a,
1991)がなされている。鳥類では TSH の RIA 系が確立していな
いが、αサブユニットおよび LH 免疫陽性物質を測定し、αサブユ
ニットの量から LH に結合していると見られるαサブユニット量を
差し引くという方法でニワトリの TSH 量を見積もっている(Geris
et al., 1996, 2003)。測定されるαサブユニットと結合している
FSH は LH に比べて 1/4 以下であり、そのためこの計算法では FSH
は無視している。その結果、試験管内(Geris et al., 1996)でも
生体内(Geris et al., 2003)でも oCRH が TSH レベルを上昇さ
せた。しかしこの方法ではフリーのαサブユニットの存在が十分検
討されていないので、データが真の TSH 量を示しているかどうか
は定かでない。
本研究によって、両生類でははじめて CRH が下垂体より TSH
56
の放出を顕著に促進することの直接的な証拠が得られたことにな
る。成体下垂体に対して GnRH や TRH は弱い TSH 放出促進効果
を示したが、予想されていたように、TRH と GnRH は幼生の下垂
体には TSH 放出効果をひき起こさなかった。このことは、幼生で
は TSH 細胞に TRH や GnRH に対する受容体がない、あるいはも
ともと TRH や GnRH は TSH 以外の下垂体細胞にはたらいて他の
因子を放出させ、それが成体では間接的に TSH を放出させるが幼
生ではそのような因子が放出されない、などの可能性が考えられ
る。はっきりした結論を得るためには、これらの因子の受容体の
面からの研究が必要とされる。また CRH は下垂体からの ACTH 放
出を促進すると考えられるが、下垂体細胞に ACTH を加えて培養
しても TSH 放出は促進されなかった。このことから、CRH は少な
くとも ACTH は介さずに作用し、TSH 細胞に直接的にはたらく可
能性が高いと言える。さらに哺乳類で TSH の基礎放出および TRH
により引き起こされた放出を抑えることが知られている SRIH は、
ウシガエル TSH の基礎放出には効果がないものの、CRH により引
き起こされた TSH 放出は抑制することがわかった。なおこの時用
いた CRH はウシガエル由来の CRH(fCRH)であったが、fCRH と
oCRH の TSH 放出効果はほぼ同じであった。両生類の TSH の基礎
放出は哺乳類と比べて低く、そのため SRIH による基礎放出抑制が
見られなかったと考えられる。
これらの結果と他の研究者による報告から、両生類の TSH 放出
ホルモンは CRH である可能性が高いと結論づけた。
57
ウシガエルの下垂体前葉に含まれる TSH 量は、変態始動期から
変態の進行に伴って増大し、変態最盛期では高い値が保たれ、変
態が完了すると減少することが明らかになった。下垂体中 TSH 含
量の変動は、第 2 章で明らかにされた TSHβ mRNA レベルの変動
にやや遅れておこることがわかった。また両生類の変態期間中の
血中甲状腺ホルモンレベルは変態最盛期に上昇することが知られ
ているが、その変動は変態最盛期に TSH の合成・放出が増大する
ことによると考えられる。また TSH 放出下垂体細胞の TSH の基
礎的な放出量は、幼生の方が成体よりもおよそ 3 倍高かった。こ
れは幼生と成体の下垂体では TSH 産生細胞の密度が異なること、
TSH 細胞から TSH を自動的に放出する能力が異なることが理由と
して考えられる。
58
第 5 章 下垂体からの TSH 放出におよぼす視床下部抽出物の効果
5-1 序論
視床下部による下垂体からの TSH 分泌調節機構は、両生類では
未だに明らかにされていない。哺乳類において TSH の合成・放出
を刺激する視床下部因子としては pGlu-His-Pro-NH2 の構造をもつ
TRH が知られている。TRH は 1969 年に Burgus らおよび Schally
らにより、ヒツジおよびブタの視床下部よりそれぞれ抽出精製・
構造決定された。TRH は哺乳類では TSH の合成・放出を刺激する
一方、PRL の合成・放出も促進することが知られている。また成
長ホルモンの放出を抑制する因子として単離精製された SRIH が、
TSH の放出を抑制することも知られている(Vale et al., 1974)。
しかし前章で明らかになったように、成体ウシガエルの TSH 放
出促進効果は TRH よりもはるかに CRH の方が高く、幼生では CRH
による TSH 放出がみられた一方で、TRH は効果を示さなかった。
このことから両生類の TSH 放出刺激ホルモンは TRH よりもむし
ろ CRH である可能性が高いと考えられる。また他の下等脊椎動物
の研究でも、CRH が TSH 放出を促進することが証明されたり示唆
されたりしている(Denver and Licht, 1989a, 1991; Geris et al.,
59
1996, 2003; Larsen et al., 1998)。逆に哺乳類 TSH の放出には
CRH は関与していないとされている。このことから哺乳類と哺乳
類以外の脊椎動物では、TSH 放出制御機構が異なっていることが
予想される。本研究では両生類の内因性 TSH 放出因子をさぐるた
めの第一歩として、ウシガエルの視床下部抽出物の下垂体細胞か
らの TSH 放出におよぼす影響について調べた。
60
5-2 材料と方法
視床下部塩酸抽出物の作製
ウシガエル幼生(TK ステージ XVII~XXII)または成体それぞれ
200 匹から視床下部を摘出し、氷冷した 0.1 N 塩酸 50 ml を加
えてガラスホモジェナイザーですりつぶしたものを 4˚C、15,000
g で 1 時間遠心して、上清を回収した。沈殿には冷 0.1 N 塩酸 50
ml を加えて再びすりつぶし、4˚C、15,000 g で 1 時間遠心し、
上清を回収した。2 回の上清を合わせて、1 N NaOH により中和
した後で 4˚ C、15,000 g で 1 時間遠心した。遠心後上清を凍結
乾燥した。
下垂体細胞の培養
ウシガエル成体および幼生(TK ステージ XVII~XXII)の下垂体
細胞の培養は、4-2 で述べた方法で行った。培養液に加えるテス
ト物質として、凍結乾燥したウシガエル視床下部抽出物、α-helical
CRH9-41 (Novabiochem, Läufelfingen, Switzerland)を用いた。
細胞培養液中に放出された TSH 量の測定は 3-2 と同様の方法で行
った。得られた測定値は ANOVA と Scheffe’s test または F test
と t test により検定した。p 値が 0.05 未満の場合に有意差あり
とみなした。
61
5-3 結果
1 ウェルあたり 1 個分のウシガエル幼生視床下部抽出物の存在
下で、解離したウシガエル成体下垂体細胞から 24 時間の間に放
出される TSH 量を調べた。図 1 に見られるように、4 時間後から
視床下部抽出物の効果が明らかになり、24 時間後には TSH 放出
がコントロール値のおよそ 9 倍増大した。また成体、幼生どちら
の視床下部抽出物も、成体、幼生両方の下垂体細胞に対して TSH
放出促進効果を示した(図 2)。
幼生の視床下部抽出物による TSH 放出効果は、CRH の拮抗剤で
あるα-helical CRH9-41を加えることで抑制された(図3)。
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
0 5 10 15 20 25培養時間(時間)
TSH
(pg/
1000
0 ce
lls) コントロール
視床下部抽出物
*
**
**
**
図1 1ウェルあたり1個分に相当するウシガエル幼生視床下部塩酸抽
出物存在下で、成体下垂体細胞から24時間の間に放出されるTSH量。
データは平均値±SEMで表した(n=7)。コントロール値との間に有意差
が認められるものは、*p < 0.05または**p < 0.01で示した(F testお
よびt test)。
62
* *
*
*
幼生 成体下垂体細胞
コントロール幼生視床下部抽出物
コントロール成体視床下部抽出物
A
B
TSH
(pg/
1000
0 ce
lls)
0
500
1000
1500
2000
2500
0
500
1000
1500
2000
TSH
(pg/
1000
0 ce
lls)
図2 幼生および成体のウシガエル下垂体細胞からのTSH放出におよぼ
す1ウェルあたり1個分に相当する幼生(A)または成体(B)の視床下
部抽出物の効果。下垂体細胞(1ウェルあたり7×104個)は24時間培
養した。データは平均値±SEMで表した(n=5)。コントロール値と有意
差が認められるものは、*p < 0.05で示した(F testおよびt test)。
63
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
TSH
(pg/
1000
0 ce
lls)
fCRH (10-7 M) コントロール 視床下部抽出物(1個分/ウェル)
2x10-60
5x10-5
α-helical CRH9-41 (M)
図3 1ウェルあたり1個分相当のウシガエル幼生視床下部酸抽出物
または10-7 M fCRHにより引き起こされた、成体下垂体細胞からの
TSH放出におよぼすCRH拮抗剤α-helical CRH9-41の効果。下垂体細胞
(1ウェルあたり7×104個)は24時間培養した。データは平均値
±SEMで表した(n=6)。同じ文字を付したグループ間では、5%レベ
ルの有意差がみられない(ANOVAおよびScheffe’s test)。
a
bc
d
e
a
64
65
5-4 考察
本研究ではウシガエル視床下部抽出物が TSH 放出におよぼす効
果について調べた。ウシガエル幼生および成体の視床下部の酸抽
出物を幼生または成体の下垂体細胞に加えて培養し、培養液中に
放出される TSH を測定した。幼生、成体どちらの視床下部抽出物
も幼生、成体両方の下垂体細胞からの TSH 放出促進効果を示した。
視床下部の体積は成体の方が幼生よりも極めて大きいにも拘わら
ず、視床下部抽出物 1個分が示す TSH 放出効果は、幼生の視床下
部抽出物の方が成体視床下部抽出物よりも強かった。これは、幼
生と成体の視床下部では、TSH 分泌を促進または抑制するホルモ
ンの産生の割合と量が異なることが原因であると考えられる。
視床下部抽出物処理により下垂体細胞からの TSH 放出量が増大
したことから、ウシガエル視床下部中には下垂体からの TSH 放出
を促進する因子が含まれていることが明らかになった。第 4 章で
両生類では CRH が強い TSH 放出活性を有していることが明らか
になった。そこで CRH の拮抗物質α-helical CRH9-41 によりどの程
度放出活性が低下するかをしらべた結果、α-helical CRH9-41 によ
り視床下部抽出物の活性がある程度低下することがわかり、視床
下部に含まれる TSH 放出因子(群)による活性の一部は CRH に
由来することが示唆された。しかしかなりの高濃度のα-helical
CRH9-41 を加えた場合でも、TSH 放出効果は完全には抑えられな
66
かった。このことは視床下部には CRH 以外の TSH 放出刺激因子
が存在する可能性を示している。それは、前章で成体下垂体から
の TSH 放出効果が明らかになった TRH や GnRH の他にも、未知
の視床下部因子が存在する可能性が考えられる。また、SRIH やそ
の他の TSH 放出を抑制する因子も含まれている可能性もある。今
後は、下垂体細胞からの TSH 放出を指標として、各種カラムを用
いたクロマトグラフィーにより視床下部抽出物がから TSH 放出を
促進/抑制する物質の単離・同定を進めていく必要がある。
67
第 6 章 ウシガエル下垂体細胞からの TSH放出におよぼす甲状腺ホルモンの影響
6-1 序論
血中に分泌された甲状腺ホルモンが下垂体にはたらいて TSH の
合成や分泌を抑制するネガティヴフィードバックによる調節機構
は、哺乳類でよく研究されている(Spira and Gordon, 1986;
Shpnik et al., 1989)。T3と T3核受容体の複合体は TSH αサブユ
ニットおよびβサブユニットの遺伝子の特定の領域に働きかけてそ
の発現を調節する。T3 により調節をうける遺伝子上に関して、甲
状腺ホルモン応答配列(TRE)をその遺伝子上に同定することが
試みられているが、TSH 遺伝子でも TRE の解析がすすめられてい
る。TRE はヒトαサブユニット遺伝子において転写開始点の上流-
22~-7 bpの間で TATAボックスのすぐ下流に存在し(Chatterjee
et al., 1989)、ヒト TSH βサブユニット遺伝子では転写開始点の
下流+1~+37 bp の部位に存在する(Bodenner et al., 1991)こ
とが示された。しかしながら、TSH 遺伝子の発現が抑制される機
構の詳細に関しては、今のところ明らかにされていない。
哺乳類以外では、爬虫類のカメ(Pseudemys scripta elegans)
の基礎的な TSH 放出と TRH または oCRH により引き起こされた
68
TSH免疫陽性物質の放出がT3およびT4により抑えられる(Denver
and Licht, 1988)こと、魚類ではサケに T3を注射すると血漿中
TSH 濃度が減少すること(Moriyama et al., 1997)が報告され
ている。
これまで RIA による TSH の測定系が確立していなかった両生類
では、下垂体から分泌される甲状腺からの T4 放出活性を持つ物質
の分泌を指標にして研究された。このような方法によってネガテ
ィヴフィードバックの存在を間接的に明らかにした報告がある。
すなわち、成体のカエル(Rana esculenta)の下垂体に T3または
T4 を加えて培養し、その培養液を甲状腺に加えて培養すると、T4
の放出量が減少すること(Jacobs and Kühn, 1992)が示された。
本研究では成体ウシガエル下垂体細胞からの TSH 放出におよぼ
す甲状腺ホルモンの効果を、TSH を RIA で測定することにより調
べ、甲状腺ホルモンが TSH 細胞にはたらいて TSH の分泌を制御
しているか否かの直接的証拠を得ようとして実験を行った。
69
6-2 材料と方法
成体および幼生(TK ステージ XII、XVII、XX、XXIV)のウシガ
エルの下垂体細胞培養は 4-2 と同様の方法で行った。甲状腺ホル
モン T3および T4は Sigma より購入したものを用いた。CRH は当
研究室で最近得られたウシガエル CRH(fCRH)前駆体 cDNA の
塩基配列に基づいて作製した合成品を用いた。培養液中に放出さ
れた TSH の RIA による測定は 2-2 と同様の方法で行った。
70
6-3 結果
成体ウシガエル下垂体細胞からの基礎的な TSH 放出には、T3ま
たは T4 は効果をおよぼさなかった(図 1)。一方、10-7 M fCRH
により引き起こされた TSH の放出は、T3 と T4 により濃度依存的
に抑制された(図 2)。
図3に変態の各段階のウシガエル幼生と成体の下垂体細胞から
の TSH 放出におよぼす T3 の効果を示した。変態始動期初期(ス
テージ XII)の幼生および成体の下垂体細胞からの基礎的な TSH
放出には T3 は効果を示さなかった。一方、変態最盛期(ステージ
XX および XXIV)には、TSH 基礎放出が T3により抑制された。
050
100150200250300350400
TSH
(pg/
1000
0 ce
lls)
甲状腺ホルモン濃度(M)0 10-9 10-8 10-7 10-6
450コントロールT4T3
図1 成体ウシガエル下垂体前葉細胞からのTSH放出におよぼすT4、
T3の影響。細胞(1ウェルあたり7×104個)は24時間インキュベー
トした。データは平均値±SEMで表した(n=7)。同じ文字を付した
グループ間では、5%レベルの有意差がみられない(ANOVAおよび
Scheffe’s test)。
a
a
a a aa
a a a
71
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
TSH
(pg/
1000
0 ce
lls)
0 10-9 10-8 10-7 10-6
甲状腺ホルモン濃度 (M)
コントロール10-7 M CRH10-7 M CRH+T410-7 M CRH+T3
図2 成体ウシガエル下垂体前葉細胞からの10-7 M fCRHによって引
き起こされたTSH放出におよぼすT3およびT4の効果。細胞(7×104
細胞/1ウェル)は24時間培養した。データは平均値±SEMで表した
(n=7)。同じ文字を付したグループ間では5%レベルの有意差が認
められなかった(ANOVAおよびScheffe’s test)。
a
bb
bc
bcd
adad ad
cd cd
72
図3 ウシガエル幼生および成体下垂体細胞からの基礎的なTSH放出にお
よぼすT3の効果。幼生または成体の下垂体細胞(1ウェルあたり7×104
細胞)は24時間インキュベートした。データは平均値±SEMで表した
(n=7)。同じ文字を付したグループ間では5%レベルの有意差が認めら
れなかった(ANOVAおよびScheffe’s test)。
0
500
1000
1500
TSH
(pg/
1000
0 ce
lls)
XII XX XXIV 成体
TKステージ
コントロール10-7 M T3
a a
ab
a
b
aa a
73
74
6-4 考察
これまでの両生類での甲状腺ホルモンによる TSH 放出調節に関
する研究として、下垂体培養液に含まれる甲状腺からの T4 分泌刺
激物質濃度を指標としたものがある(Jacobs and Kühn, 1992)。
試験管内で Rana esculenta の下垂体に TRH または mGnRH と T3
を加えて培養し、培養液を回収して甲状腺に加えて培養した。甲
状腺から分泌される T4 量は、下垂体に何も加えない場合は変化が
なかったが、TRH または mGnRH を加えて TSH としての生理活性
を持つ物質の放出を高めたものでは T3の抑制効果がみられた。
本研究では、下垂体細胞からの TSH 分泌におよぼす甲状腺ホル
モン T3 および T4 の効果を、下垂体細胞培養液に放出された TSH
量を直接測定することにより、甲状腺ホルモンが TSH の放出を抑
えるか否かを明確にしようとした。その結果、成体の下垂体細胞
では、基礎的な TSH 放出は T3、T4 によって抑えられないことが
確かめられた。これは TSH の基礎放出量が成体のカエルでは低い
ためであると考えられる。一方、fCRH により高められた成体ウシ
ガエル下垂体細胞からの TSH の分泌は、T3 および T4 により濃度
依存的に抑えられた。T3 は T4 より生物活性が高いことが知られ
ているが、TSH 放出抑制効果についても同様に T3 の方が T4 より
も強いことが明らかになった。
また、変態始動期の幼生では、TSH の基礎放出は T3によって抑
75
制されなかったが、変態最盛期の下垂体細胞からの TSH 放出は T3
により抑えられた。成体にくらべると、変態最盛期の下垂体細胞
からの基礎的な TSH 放出量は高まっており、そのために抑制効果
が顕著に出たのか、変態最盛期には下垂体 TSH 細胞に質的変化が
生じているのか、更に検討を要する。
76
第 7 章 本論文の要約と今後の展望
両生類の変態は主として甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンお
よびプロラクチンにより制御されている。なかでも変態時に最も
重要な役割を担っているとみなされている甲状腺ホルモンの分泌
は脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって制
御されている。それ故 TSH は、両生類の変態の鍵を握ると考えら
れる。しかしながらこれまでいくつかの研究室が両生類の TSH の
単離を試みたにも拘わらず、純化標品が得られないか、得られて
もごく少量で、放射免疫測定(RIA)法を確立するには十分でなかっ
た。そのため、このホルモンの変態期における動態も不明であり、
またその放出因子の同定も不可能であった。本研究では TSHの RIA
系の確立と TSH 分泌の制御因子の同定を目ざして研究を行った。
第1章では両生類 TSH の放出制御に関するこれまでの研究につ
いて述べた。さらに本研究の目的について述べた。すなわち、両
生類 TSH を直接的に測定することを可能にし、TSH 放出を制御し
ている視床下部因子を同定すること、その反応性が幼生と成体で
異なるかどうかを明らかにすること、甲状腺ホルモンによる負の
フィードバックが、甲状腺ホルモンレベルのいちじるしい上昇が
見られる変態期にも存在するか否かを明らかにすることなどであ
る。
77
第2章ではウシガエル TSH βサブユニットをコードする cDNA
のクローニングおよび変態期のウシガエル下垂体中での TSHβ
mRNA の発現量の変動について述べた。ウシガエル下垂体前葉よ
り抽出したトータル RNA から作製した cDNA ライブラリーより、
シグナルペプチドと成熟した TSHβの両方をコードする cDNA を
クローニングした。この cDNA 配列より推定されるアミノ酸配列
は他の脊椎動物の TSHβと 40~61%の相同性があること、得られ
たcDNAをプローブとして用いたノーザン解析によりTSHβ mRNA
が下垂体前葉に特異的に発現していることが確かめられたこと、
以前我々の研究室でごく少量得られた TSHβ標品を用いて決定さ
れた N 末端 10 残基の配列と cDNA より推定されるアミノ酸配列
が完全に一致していることから、得られた cDNA がウシガエル
TSHβをコードする cDNA であることを証明した。また変態期間の
ウシガエル幼生および成体の下垂体前葉で発現している TSHβ
mRNA をノーザン解析により定量した。TSHβ mRNA は変態始動
期でその発現量が上昇し、変態最盛期の終盤に低下すること、成
体では発現量が極めて低いことがわかった。両生類の血中甲状腺
ホルモン濃度は変態最盛期中盤に最高値に達することが知られて
いるが、TSHβ mRNA の変動もほぼ甲状腺ホルモン濃度の変動と
一致するという結果が得られた。なお、TSH はαとβの二つのサブ
ユニットが結合した形の糖タンパク質ホルモンであるが、αサブユ
ニットは他の下垂体ホルモン黄体形成ホルモンと濾胞刺激ホルモ
ンと共通であり、βサブユニットによってそれぞれのホルモンの性
78
質が特徴づけられていることから、βサブユニットに的をしぼって
研究を進めた。
第3章ではウシガエル TSH の RIA による測定系の確立について
述べた。前章で得られたウシガエル TSHβ cDNA より推定される
アミノ酸配列のうちその C 末端 24 残基の配列を持つペプチドを
合成し、ヘモシアニンをカップリングさせたものを抗原としてウ
サギに投与し抗血清を得た。この抗血清を用いて免疫組織化学的
にウシガエル下垂体切片を染色したところ、ヒト TSHβ抗血清が
認識する細胞と同一の細胞が染色された。合成した TSHβ C 末端
ペプチドおよび得られた抗血清を用いて、RIA による測定系を開
発した。ウシガエル幼生および成体の下垂体抽出物およびウシガ
エル成体下垂体細胞培養液をいくつかの段階に希釈したものを測
定すると、標準曲線に平行な濃度依存的な曲線が得られた。ウシ
ガエルの他の下垂体ホルモン(プロラクチン、成長ホルモン、黄
体形成ホルモン、濾胞刺激ホルモンおよびαサブユニット)はこの
測定系で反応しなかった。一方ウシガエル下垂体細胞培養液にウ
シガエル TSHβ抗血清、ウシガエルαサブユニット抗血清をそれぞ
れ別々に加えて免疫沈降を行った上清中には、TSH 免疫陽性物質
が含まれていなかった。このことから、下垂体細胞培養液に含ま
れる TSH 免疫陽性物質は、TSHβおよびαサブユニットが結合した
形で存在することが確かめられた。また下垂体細胞より培養液中
に放出された TSHβ免疫陽性物質はその濃度に応じてウシガエル
幼生の甲状腺からのサイロキシン(T4)分泌を促進することを明
79
らかにし、この RIA により生理活性を持つウシガエル TSH の測定
が可能であることを確かめた。さらにウシガエル TSH の T4 放出
促進効果は、ウシ TSH に比べてかなり高いことも明らかにした。
この RIA 系の確立により、今まで不可能であった両生類 TSH の直
接的な定量を可能にした。
第 4章では既知の視床下部因子が下垂体細胞からの TSH 放出に
およぼす効果について述べた。ウシガエル成体および幼生の下垂
体細胞に副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)、甲状腺刺激
ホルモン放出ホルモン(TRH)、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン
(GnRH)、ソマトスタチン(SRIH)および副腎皮質刺激ホルモン
(ACTH)を加えて培養し、培養液中に放出される TSH を RIA に
より測定した。成体下垂体細胞での TSH 放出は CRH、TRH、GnRH
により促進されること、特に CRH の効果が強いことがわかった。
また、CRH により引き起こされる TSH 放出は SRIH により抑えら
れることが明らかになった。一方、幼生の下垂体細胞からの TSH
分泌は CRH によって促進されるが、TRH および GnRH は効果を示
さなかった。これらの結果とこれまで間接的な方法により調べら
れてきた結果から、両生類の TSH 放出の促進的な調節に CRH が
関与していることが示唆された。また、ACTH による TSH の放出
効果が見られなかったことから、CRHによるTSH放出作用はACTH
を介さないことが示された。さらに変態期に下垂体中の TSH 含量
が変化することが明らかになった。ウシガエルの下垂体前葉に含
まれる TSH 量は、変態始動期から変態の進行に伴って増大し、変
80
態最盛期では高い値が保たれ、変態が完了すると減少した。下垂
体中 TSH 含量の変動は、第3章で明らかにされた TSHβ mRNA レ
ベルの変動にややおくれて、同様なパターンを示すことが確かめ
られた。
第 5章ではウシガエル視床下部抽出物が TSH 放出におよぼす効
果について述べた。ウシガエル幼生および成体の視床下部の酸抽
出物を幼生または成体の下垂体細胞に加えて培養し、培養液中に
放出される TSH を測定した。幼生、成体どちらの視床下部抽出物
も幼生、成体両方の下垂体細胞からの TSH 放出促進効果を示した。
幼生の視床下部抽出物の方が、成体視床下部抽出物よりも TSH 放
出促進効果が強かった。これらの結果より、ウシガエル視床下部
中には下垂体からの TSH 放出を促進する因子が含まれていること
が明らかになった。第4章で述べたように CRH が強い TSH 放出
活性を有していることから、視床下部抽出物中の主たる TSH 放出
活性は CRH 由来のものであるかどうかをさぐるための実験を行っ
た。すなわち CRH の拮抗物質α-helical CRH9-41 によりどの程度放
出活性が低下するかをしらべた。その結果α-helical CRH9-41 によ
り視床下部抽出物の活性がかなり低下するが完全には抑制されな
いことがわかり、視床下部に含まれる TSH 放出因子(群)のうち
の重要な因子として CRH の存在が明らかになった。
第 6章では甲状腺ホルモンによる TSH 分泌のネガティヴフィー
ドバックによる調節について述べた。ウシガエル幼生および成体
の下垂体細胞に甲状腺ホルモン T3 または T4 を加えて、TSH 放出
81
におよぼす影響を調べた。変態最盛期の幼生では TSH の基礎的な
分泌が T3 により抑制されるが、成体や変態始動期の幼生では効果
がみられなかった。幼生と成体の下垂体細胞の反応性の違いにつ
いては、変態最盛期幼生と成体および変態始動期の幼生との間で
下垂体に質的、量的な差があるためと考えられる。事実成体の下
垂体に CRH を加えて TSH 分泌量を高めた上で、T3、T4 による抑
制効果をしらべたところ、TSH の分泌はこれらのホルモンにより
抑制された。より生物活性の強い T3 の方が T4 より抑制効果は強
かった。
本研究により、ウシガエル TSH 分泌は視床下部ホルモン、特に
CRH により強く促進されることが明らかになった。視床下部には
CRH 以外にも未知の TSH 放出促進または抑制因子が含まれている
可能性がある。今後、本研究で調べたもの以外の視床下部ホルモ
ンによる下垂体細胞からの TSH 放出効果を調べる必要がある。さ
らに視床下部抽出物を各種カラムを用いて分離し、下垂体細胞か
らの TSH 分泌調節効果を指標として、TSH 放出を制御する因子
(群)を単離・同定する。TSH 放出におよぼす視床下部因子の効
果が幼生と成体の下垂体では異なることより、下垂体細胞が質的・
量的に変態により変化することが示唆された。幼生と成体の視床
下部では、TSH 放出調節因子およびその含有の比率が異なること
も考えられる。視床下部抽出物に対する下垂体の反応性や視床下
部 1 個あたりの(またはタンパク質量あたりの)TSH 放出活性を
82
考慮すると、視床下部抽出物からの TSH 放出制御因子の単離には、
材料として幼生の視床下部抽出物と成体の視床下部抽出物を両方
用いることが適当であると結論された。また、両生類 TSH の分泌
は甲状腺ホルモンによる負のフィードバック調節を受けているこ
とが明らかになったが、TSH 分泌量が低いと負のフィードバック
効果は顕著にあらわれないこともわかった。
今後の重要課題は視床下部中の主たる TSH 放出ホルモンの同定
およびそ(れら)の受容体の TSH 細胞における存在を証明するこ
とである。
83
謝辞
本研究を進めるにあたり、御指導を賜りました菊山榮教授に深
く感謝いたします。
本研究期間中御協力・御助言をくださった山本和俊先生、河村
孝介先生、静岡大学の田中滋康先生、群馬県立医療短大の林宏昭
先生、群馬大学の花岡陽一先生、自治医科大学の菊地元史先生に
厚く御礼申し上げます。
またたえず御助言と励ましのお言葉をいただいた東中川徹教授、
中村正久教授、加藤尚志教授に対して、心から感謝申し上げます。
最後に様々な面でサポートしてくださった菊山研究室の皆様に
心からお礼を申し上げます。
84
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