1692

剣狂わ転生漫遊記きセペチぎ三度目ダき二度目ゼヵシ剣鬼くき一度目ダ凡人くせろペガカぜききカハガく品ャ引用タ範囲ャ超んボ形ジ転載わ改変わ再配布わ販売ガボェスャ禁き小説タ作者ぎ

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  • 剣狂い転生漫遊記

    アキ山

  • 【注意事項】

     このPDFファイルは「ハーメルン」で掲載中の作品を自動的にP

    DF化したものです。

     小説の作者、「ハーメルン」の運営者に無断でPDFファイル及び作

    品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁

    じます。

      【あらすじ】

     一度目は凡人。

     二度目にして剣鬼。

     ならば、三度目は?

     これは数奇な運命によって三度人生を歩むことになった一人の男

    の記録である。

    (注) 今作の主人公はまともに見えるかもしれませんが、基本剣術狂

    です。

     2019年9月12日

     100話目投稿の際にご報告させていただいておりました、各話の

    章整理を行いました。

     今回から最新話には(NEW)の文字を添付いたしますので、そち

    らを参考にさせていただきたく存じます。

     読者様の皆様には今回の改編でご不便をお掛けするかもしれませ

    んが、何卒ご理解のほど、よろしくお願いします。 

  •   目   次  

    ブリテン編

    ────────────────────────

     日記1 

    1

    ────────────────────────

     日記2 

    18

    ────────────────────────

     日記3 

    31

    ────────────────────────

     日記4 

    41

    ────────────────────────

     日記5 

    59

    ────────────────────────

     日記6 

    71

    ────────────────────────

     日記7 

    81

    ────────────────────────

     日記8 

    90

    ────────────────────────

     日記9 

    100

    ───────────────────────

     日記10 

    110

    ───────────────────────

     日記11 

    119

    ───────────────────────

     日記12 

    130

    ────────────────

     終章『ブリテンの終焉』 

    151

    モル子日記(ブリテン外伝)

    ─────────

     【悲報】モル子日記【纏めたった】(1) 

    158

    ─────────

     【悲報】モル子日記【纏めたった】(2) 

    183

    ─────────

     【悲報】モル子日記【纏めたった】(3) 

    195

    ─────────

     【悲報】モル子日記【纏めたった】(4) 

    205

    ─────────

     【悲報】モル子日記【纏めたった】(5) 

    215

    ─────────

     【悲報】モル子日記【纏めたった】(6) 

    224

    ─────────

     【悲報】モル子日記【纏めたった】(7) 

    237

    ─────────

     【悲報】モル子日記【纏めたった】(8) 

    246

    ─────────

     【悲報】モル子日記【纏めたった】(9) 

    261

  • 冬木滞在記(1994)(第四次聖杯戦争

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)01 

    270

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)02 

    290

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)03 

    297

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)04 

    314

    ─────────────

      冬木滞在記(1994)05 

    327

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)06 

    354

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)07 

    367

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)08 

    379

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)09 

    391

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)10 

    400

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)11 

    418

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)12 

    433

    ──────────────

     冬木滞在記(1994)13 

    447

    ─────────────

      冬木滞在記(1994)14 

    470

    ───────────────

     冬木滞在記(1994)終 

    480

    ──────────────────

     転章前の小ネタ2編 

    498

    ニートリア・シリーズ(第四次・五次聖杯戦争 特異点ルルハワ)

     【ネタ】第四次聖杯戦争のセイバーが剣キチ世界のアルトリアなら

    ────────────────────────────

     

    506

    ──────────

     【ネタ】ニートリアさん、続き(前編) 

    518

    ──────────

     【ネタ】ニートリアさん、続き(中編) 

    534

    ──────────

     【ネタ】ニートリアさん、続き(後編) 

    548

    ──────────

     【ネタ】ニートリアのサバフェス旅行 

    571

    ────────

     【ネタ】ニートリアのサバフェス旅行(2) 

    584

  • ────────

     【ネタ】ニートリアのサバフェス旅行(3) 

    599

    ────────

     【ネタ】ニートリアのサバフェス旅行(4) 

    616

    異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら』(第五次聖杯戦争)

    ────

     異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら』 

    632

      異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(2)』 

    660

      異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(3)』 

    678

       異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(4)』 

    ────────────────────────────────────

    696

    ──

     異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(5)』 

    718

      異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(6)』 

    741

       異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(7)』 

    ────────────────────────────────────

    753

      異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(8)』 

    764

      異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(9)』 

    782

     異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら』(10) 

    798

     異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(11)』 

    812

       異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(12)』 

    ────────────────────────────────────

    835   異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(13)』 

    ────────────────────────────────────

    852   異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(14)』 

    ────────────────────────────────────

    868剣キチさん一家ルーマニア滞在記(ルーマニア聖杯大戦)

    ─────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(1) 

    881

    ─────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(2) 

    893

  • ─────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(3) 

    907

    ─────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(4) 

    920

    ─────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(5) 

    940

    ─────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(6) 

    951

    ─────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(7) 

    964

    ─────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(8) 

    979

    ─────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(9) 

    998

    ────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(10) 

    1012

    ────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(11) 

    1029

    ────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(12) 

    1048

    ────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(13) 

    1073

    ────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(14) 

    1088

    ────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(15) 

    1112

    ────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(16) 

    1136

    ────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(17) 

    1151

    ────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(18) 

    1168

    ────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(19) 

    1188

    ─────────

     剣キチさん一家ルーマニア滞在記(終) 

    1198

    ─────────────────

     閑話『騎士王の帰還』 

    1216

    小ネタ・短編

    ───────────────

     キャラクター・マテリアル 

    1229

    ────────────

     番外『剣キチ、カルデアに来る』 

    1233

    ───────────

     FGO『アズライールの霊廟にて』 

    1244

    ────────

     特別企画『カルデア・新年会IN剣キチ』 

    1254

    ────

     IF 剣キチ世界のランスロットが思い留まったら 

    1260

  • ───────

     100話達成記念『妖精郷の日々(拡大版)』 

    1266

    ────────────────────

     剣キチ小ネタ集 

    1286

    ────────────────

      剣キチ小ネタ集(2) 

    1300

    ───────────────

       剣キチ小ネタ集(3) 

    1313

    ───────

     小ネタ『暗黒剣キチ・リハビリ小話・上編』 

    1330

    ──────

      小ネタ『暗黒剣キチ・リハビリ小話・中編』 

    1342

    ───

       小ネタ『暗黒剣キチ・リハビリ小話・下編(前)』 

    1355

    剣キチが行く人理修復日記(FGO)─

    ───────────

     剣キチが行く人理修復日記(1) 

    1367

    ────────────

     剣キチが行く人理修復日記(2) 

    1379

    ────────────

     剣キチが行く人理修復日記(3) 

    1398

    ────────────

     剣キチが行く人理修復日記(4) 

    1410

    ────────────

     剣キチが行く人理修復日記(5) 

    1422

    ─────────────

     小ネタ 剣キチ召喚事情 IF 

    1437

    ────────────

     剣キチが行く人理修復日記(6) 

    1446

    ────────────

     剣キチが行く人理修復日記(7) 

    1455

    ───────────

      剣キチが行く人理修復日記(8) 

    1465

    ───────────

      剣キチが行く人理修復日記(9) 

    1479

    ──────────

      剣キチが行く人理修復日記(10) 

    1499

    ───────────

     剣キチが行く人理修復日記(11) 

    1513

    ──────────

      剣キチが行く人理修復日記(12) 

    1527

    ───────────

     剣キチが行く人理修復日記(13) 

    1542

    ───────────

     剣キチが行く人理修復日記(14) 

    1557

    ──────────

      剣キチが行く人理修復日記(15) 

    1572

    ─────────

       剣キチが行く人理修復日記(16) 

    1582

  • ───────────

     剣キチが行く人理修復日記(17) 

    1593

    ───────────

     剣キチが行く人理修復日記(18) 

    1604

    ───────────

     剣キチが行く人理修復日記(19) 

    1621

    ───────────

     剣キチが行く人理修復日記(20) 

    1642

    ──────────

      剣キチが行く人理修復日記(21) 

    1655

    ────────

     幕間の物語『ガウェイン・嫁取り再び』① 

    1666

    ─────

     幕間の物語『ガウェイン・嫁取り再び』②NEW 

    1675

  • ブリテン編

    日記1

      三度目人生記(6年4ヶ月22日目)

      誕生日の祝いに手帳とペンをお袋さんから貰ったので、文字の練習

    を兼ねて日記をつけようと思う。

     俺がこの国ブリテンに転生して早6年が経った。

     気がついたら金髪爆乳の美人さんの胸に抱かれていたのにはたま

    げたが、生まれ変わるのも2度目なので状況の判断や事実を受け入れ

    るのには苦労はなかった。

     しかし三度目の生を生きる事になるとは、我ながら数奇なものであ

    る。

     記憶の方も結構磨耗してるし、いい機会なので今一度思い返してみ

    るとしよう。

     1度目は現代日本の一般的なサラリーマン。

     就職した会社がブラックだった為に二十代にして過労死した。

     これについては仕方が無い。

     自己管理が出来ない己の責任だ。

     ただ、名前も顔も思い出せない両親に悪い事をしたな、と思うのみ

    である。

     そして2度目の生は近未来の上海。

     今度は犯罪結社の名も無い刺客(鉄砲玉)だった。

     名も無いというのは比喩でもなんでもなく、本当に無かったのだ。

     組織からは42という番号で呼ばれていたし。

     それで主なお仕事の方はというと、東洋の神秘『氣』を使った剣術

    でサイボーグ武術家の首を取るという、最初の生のブラック企業が天

    国に思えるようなステキ業務でした。

     いやぁ、我ながら良くやったもんである。

    暗器あんき

     対物ライフル並みの威力の投げ

    や、超音速でカッ飛んで来る戦

    1

  • 車砲さながらの少林寺拳法。

     達人が振るう高周波ソードやビームサーベル、オートマタの腹に仕

    込まれた機関銃の近距離掃射に果てはミサイルまで。

     こんなアホみたいな攻撃を全部刀一本で捌いてたんだからな。

     奥義が極まった頃になるとこちらも無茶苦茶になってきて、軽功術

    で宙を舞う羽を足場にしたり、ロケットランチャーの直撃にも耐える

    特殊合金製の戦車の装甲を刀で真っ二つにしたり。

     あと超音速で剣を振れるようにもなりました。

    戴天たいてん

     やっぱ『

    流剣法』パネェわ。

     16歳で組織に裏切られて死んだけど、『楽しかったか?』と問われ

    れば『楽しかった』と答えるだろう。

     使い捨ての道具だったから、剣の腕以外は何も無くて。

     最初は死にたくないって理由だったのに、いつの間にか馬鹿みたい

    にそれにのめり込んで。

     対サイボーグ用の一撃必殺の奥義もあったんだけど、使えば使うほ

    ど身体壊す仕様だったから、剣一本で勝てるようにってアホみたいに

    修行して。

     達人と殺り合う時のひり付くような感覚も、勝った時の自分が生き

    てるって実感も、相手の屍を見下ろして『自分の方が強い』って証明

    できた快感も、全部が麻薬みたいに気持ち良かった。

     で、気付けば斬った張ったに、頭の先までどっぷり浸った剣術狂の

    出来上がりって訳だ。

     仕事の時は鉄火場で剣を振り回して、休みの時はやっぱり修練で剣

    を振り回す。

     文字通り人生全部を剣に捧げたお蔭で、免許皆伝も貰ったし秘剣と

    呼ばれる絶技も開眼した。

     剣鬼だの魔剣士だのと妙な異名も付けられたが、死ぬ時は呆気ない

    もんだったわ。

     組織の追っ手である70人のサイボーグ武術家相手に繁華街のど

    真ん中で大立ち回りして、全員斬り捨てた時にはこっちも死にかけ

    だった。

    2

  •  最後は組織のナンバー2に上り詰めてた兄弟子に、一刀で首を刎ね

    られたんだよなぁ。

     うん、悔しい。

     サイボーグのクセに氣功を使うのには驚いたけど、動きも剣筋も全

    部見えてたんだよ。

     残像が残る程の高速の体捌きからの超音速刺突。

     あれって少し型は違ってたけど、竜牙徹穿だったよな。

     あれだったら秘剣を使えばカウンター取れたのに、肝心の身体が動

    かなかった。

     ま、終った事は仕方が無い。

     どんな理由があれ死んだ俺の負けなんだし、ここは心機一転新たな

    人生で更なる高みを目指そうじゃないか。

     そんな風に考えていた時期が俺にも有りました。

     なんと今回の生まれは王子様である。 

     鉄砲玉から王族とか、いくらなんでも落差ありすぎだろ。

     そんな今生の名前はアルガ・ペンドラゴン。

     さすが王族、妙にしゃちほこばっている。

     現在の俺の家族は親父殿であるウーサー・ペンドラゴンに金髪爆乳

    美人こと、母のイグレーヌ。

     あと一つ違いの姉ちゃんであるモルガンがいる。

     モルガン姉ちゃんだが、俺の事が大層お気に入りらしく四六時中

    ベッタリと引っ付いて来る。

     3歳から始めている戴天流の鍛錬にもついてきて、手製の木刀で物

    を斬ったり軽功術で落ち葉を足場に飛び回って見せると、滅茶苦茶喜

    ぶのだ。

     血筋的には姉だけど精神年齢的には妹か娘みたいなんで、こっちも

    ついつい可愛がってしまう。

     最近はこっちが氣功の技を見せたお返しに、姉ちゃんが魔術を見せ

    てくれるようになった。

     ちっちゃい手から火の玉や氷やらをポンポン出るのは楽しいんだ

    が、タマに制御をミスって怪我するので見守る際には注意が必要だ。

    3

  •  ちなみに、俺はその手の才能が全くないらしくお抱えの胡散臭い魔

    術師から『生まれ変わらないと無理』と太鼓判を押された。

     なんでも魔術回路なるものが全くないんだとか。

     これについては別段思うところは無いが、奴のドヤ顔が気に入らな

    かったので氣を込めて股間を蹴り上げておいた。

     泡を吹きながら痙攣する姿が何とも無様で、笑いを誘った事を記し

    ておこう。

     ざまぁ!!

     三度目人生記(6年5ヶ月12日目)

      不肖アルガ・ペンドラゴン、本日付けで家から勘当を食らいました。

     王子様生活終了、そして今日からただのアルガである。

     まあ、全然気にしてないんだけどね。

     そもそも、俺みたいな奴が王族とか絶対に無理があるし。

     だって、礼儀作法や帝王学を習う暇があったら、剣を振ってるほう

    が有意義だなんて思う人間だもの。

     こんな剣術キチが、どうやって国治めるんだって話である。

     とりあえずはこうなった経緯を記しておこう。

     事の起こりは8日前。

     魔術の才が砂粒ほども無い俺に対して、親父殿はその分を剣術に充

    てるようにと指示を出した。

     で、現れたのがご意見番みたいな老騎士さん。

     彼は『こうするのですぞ』って唐竹割りの見本見せてくれたのだが、

    これがまたショボい。

     蝿が止まるような太刀筋で大根切りのように振るわれる剣。

     虚実も刃の引きも、放つまでの体術も何も無しである。

     まあ、基礎の基礎なので取り敢えず振ってみろという意図があった

    のかもしれないが、そうだとしても酷過ぎた。

     ここで笑顔で分かったと言えればよかったのだが、生憎と俺は剣術

    に関しては妥協できないタイプだ。

     こちとら身体はガキでも、知識と技術は一つの流派を極めてますの

    4

  • で。

     それを生まれ変わった身体に一から詰め込もうって時に、こんな訓

    練をやらされては変なクセが付いてしまう。

     そういうワケで『独学でやるから教師は要らん』と言うと、これに

    親父殿と老騎士が猛反発。

     最初はオブラートに包んで意見を述べていたが、むこうがあまりに

    も意固地なのでつい本音をブチ撒けてしまったのだ。

     そのせいで親父殿と老騎士は激怒し、そこまで言うならば現役の騎

    士と戦って勝ってみろって言ってきた。

     今思えばトンでもない無茶振りなんだが、前世の経験で理不尽に慣

    れきった俺はそれで余計な口出しがされないなら、と快諾。

     勝負は一週間後、つまり昨日と相成ったわけだ。

     俺はこの一週間、負けられないという思いと共にいつも以上に鍛錬

    を重ねて、戴天流と氣功術の基礎を固めてきた。

     まあ、今回はそれが災いしてやりすぎてしまったわけだが。

     相手に出てきたのは現役バリバリの騎士。

     しかも一団を任されているエリートだそうな。

     刃引きしたロングソードを手に、チェインメイルの上に鋼鉄の胸当

    てを纏い兜を被った彼とは対照的に、俺は手製の木刀に動きやすい服

    で挑んだ。

     こちらとしてはこの身体に防具なんて動きを阻害するだけだし、武

    器だって自分が使い慣れている物を持ってきただけなんだが、相手は

    舐められてると捉えたようだ。

     まあ、自分は完全武装しているのに六歳のガキがそんな格好じゃ

    あ、そう取っても仕方ないかもしれん。

     怒りで顔を真っ赤にした騎士様は、開始の合図と同時に雄叫びを上

    げて突っ込んできた。

     明確に感じる闘志に加えて、肌に刺さるような煮えたぎる殺意。

     そんな物を久々に浴びたら、こちらも意識が鉄火場に立ち戻っても

    仕方が無い。

     気がついたら向かってくる唐竹に一刀を合わせ、相手の剣と胸当て

    5

  • を両断してたんだ。

     『木刀で鉄を斬れるか!』などと思うかもしれないが、このくらいは

    内家剣法家では当たり前である。

     『内勁(練り上げた氣の事)を込めて振るわば、布の帯は剃刀に、木

    の棒は鉄槌と変じる。そして鋼の刃が変じる先は、ただ因果律の破断

    のみ。それ即ち、形あるものすべからくを断ち切る、絶対不可避の破

    壊なり』なんて理があるくらいなのだ。

     因果律の破断までは俺も極めた事ないけれど、これでも一度は皆伝

    まで上り詰めた身だ。

     木刀で斬鉄くらいなら普通に出来る。

     というか、これ位できないと軍用パワードスーツやら戦闘用オート

    マタの相手なんて出来ません。

     こうして仕合は終ったわけだが、そのあと話はどんどん悪い方向に

    転がっていった。

     お袋さん付きの侍女長さんの話によると、そもそも今回の仕合は聞

    躾しつけ

    き分けの無い王子への

    という側面が強かったのに、それに俺が完勝

    したせいで親父殿と軍事顧問である老騎士の顔を潰してしまった。

     俺に負けた騎士も軍事方面の重臣の息子らしく、今回の件で軍部内

    で大きく名前を落としたそうだ。

     それに加えてこの歳で斬鉄なんてかましてしまった為に、俺が悪霊

    憑きではないのかというアホな噂も流れる始末。

     さらに追い討ちとして、あの胡散臭い魔術師が『親父とお袋さんの

    間に次に生まれる子が次の王になる』なんて笑える予言を残しやがっ

    たのだ。

     コレだけ条件が揃っていれば、こっから先はとんとん拍子である。

     あっと言う間に悪魔の子というレッテルを貼られた俺は、お袋さん

    と姉ちゃんの必死の抗議も空しく廃嫡、追放処分となった。

     追放用の馬車の御者を買って出た騎士が刺客に化けたところを見

    ると、魔術師の予言とやらも本当で長子である俺が邪魔になったんだ

    ろう。

     ま、刺客の方は相手が動く前に首を刎ねて、路銀に武器、ついでに

    6

  • 馬車もいただいたけど。

     さて、こっから先はどうするかねぇ。

     取りあえずは馬車と防具を金に替えて、諸国漫遊武者修行としゃれ

    込むとするか。

     あ、ねーちゃんとお袋さんには手紙を出すようにしようっと。

     三度目人生記(8年4ヶ月15日目)

      幻想種とかいうナゾい獣や山賊の妨害もなんのその。

     ブリテン島を横断し、ついにヨーロッパ本州に来たぜ!

     あれからしばらくブリテンをうろついていたのだが、刺客の防具は

    ともかく馬車の方は売れなかった。

     捨てるわけにもいかんので慣れないながらも乗ってきたのだが、そ

    の間に襲撃が多い事多い事。

     馬が呼び寄せるのか、はたまた俺が原因か。

     黒い獣やギリシャ神話のキマイラまんまの怪物、金色の刃物っぽい

    角を生やした馬に果てはドラゴンまで。

     出るわ出るわの怪物オンパレードである。

     闘っているうちにパクッた剣も木刀も折れてしまったので、最後に

    は奥の手である浸透勁『黒手裂震破』まで使わねばならなかった。

     まあ、おかげで食う肉には事欠かないし、ドラゴンを狩った時に名

    刀っぽい細身の剣を手に入れたからプラマイゼロとしておこう。

     そんなこんなでリアルモンハン体験をしながら放浪すること約二

    年。

     戦闘経験も積んだし剣の腕も上がった。

     身長だってグングン成長中である。

     魔物の肉って栄養価が高いのか、食えば食うほど身体がデカくなっ

    てるような気がする。

     なんかヤバい成分でも入っているかもと少々心配だが、前世で食っ

    た汚染物質塗れのネズミより危険って事は無いだろう。

     さて、上陸した場所はどうもフランスのようなのだが、この辺も

    やっぱり治安が悪い。

    7

  •  向こうの様に魔物がこんにちわすることが無いが、代わりに野盗が

    ポコポコ出てくる。

     ここの責任者には、住民の為にも安全強化に努めていただきたい。

     まあ、出てくる端から斬り殺しまくっている俺の言う台詞ではない

    が。

     三度目人生記(8年10ヶ月21日目)

      フランスの辺りをウロチョロしていると、泉の中から半透明の姉

    ちゃんに声をかけられた。

     聞けばこの姉ちゃんは湖の精で、養育している赤ん坊の薬の材料と

    して、馬車に積んでいる幻想種の素材を譲って欲しいとの事だった。

     こっちとしては役に立てばラッキー程度の認識で剥ぎ取っただけ

    なので、そういう事情ならば断る理由はない。

     好きなだけ持って行けぃっ! と言ったらガチに全部取られた。

     さすが精霊、ガキ相手でも容赦無しである。

     まあ、礼として黒い獣の皮で服を作ってもらえたけどね。

     3日ほどの製作期間を得て渡されたのは、黒の皮ズボンに同色のイ

    ンナー、そしてロングコートに指貫グラブと、前世の凶手時代そのま

    んまの格好である。

     どんな服が良いのかと問われて、思わず浮かべたのがそれだったか

    ら仕方がないだろう。

     精霊さん曰く、この服は魔術で作った礼装? だそうで、成長に合

    わせて大きくなるし並みの鎧よりも防御力は上。

     さらにはある程度なら自己再生するらしい。

     まるでファンタジーのようだ、と呟いた俺は悪くない。

     むこうはさらに聖剣とやらをくれるといったが、それはお断りして

    おいた。

     未熟な内に良い剣を持ったら、成長の邪魔にしかならん。

     だから俺も道端で拾ったナマクラをメインで使っているのである。

     ドラゴンから手に入れた方は、ここぞという時の奥の手なのだ。

     あと出発する時に、精霊さんは作った薬も分けてくれた。

    8

  •  まだ子供なんだから身体に気をつけて無茶はしないように、だそう

    だ。

     これでも中身はおっさんなんだが、なかなか世知辛いものである。

     前々世に見たコナン君って大変だったんだなぁ。

     三度目人生記(10年7ヶ月16日目)

      気付けば勘当を食らって四年が過ぎていた。

     ローマで飛び入りの剣闘士をしたり、オーガやオークといった本州

    特有の害獣を狩ったりと、根無し草の無頼漢も板に付いて来た頃合い

    だ。

     そんな折、姉ちゃんから魔術で手紙が届いた。

     なんでもお袋さんが妹を産んだそうな。

     それはめでたい話なのだが、問題はその後である。

     出産は無事に済んだのだが、親父殿の命令で生まれたばかりの赤ん

    坊を胡散臭い魔術師に預ける事になったらしい。

     それが理由でお袋さんが精神的に参っているので励まして欲しい

    との事。

     手紙を読み終えた俺はすぐさま最寄の港へと進路を変えた。

     7日ほどかけて実家に里帰りした俺は、この一年で磨き上げた氣殺

    法を使って正面から堂々と城に入ってやった。

     ちなみに、この氣殺法だが今生になってちょっと性能がおかしく

    なっているらしく、使っている間は完全に誰にも気付かれない。

     隠形術なのでそれが当たり前なんだが、真正面から殴っても認識さ

    れないってのはどうなのか?

     まあ便利だから使ってるけど、いつかは中国に足を伸ばして高名な

    武術家に聞く必要があるかもしれない。

     それは兎も角、お袋さんと姉ちゃんに久方ぶりに顔を合わせたのだ

    が、二人揃ってボロボロ泣かれたのには焦った。

     まだ子供の姉ちゃんはともかく、お袋さんまでそうなるとは予想も

    していなかったのだ。

     落ち着いたところで、こちらの成長に驚いたり旅の思い出を聞かせ

    9

  • たりと、親子三人で楽しい時間を過ごした。

     勘当されてからひたすらに斬った張ったの生活だったので、こう

    いった穏やかな時間は久しぶりだった。

     話題にするネタも尽きて話が止まると、お袋さんは赤ん坊(アルト

    リアというらしい)の心配を始めた。

     生まれたばかりの乳児があんな胡散臭い輩の手にある事を思えば、

    そりゃあ心配にもなるだろう。

     というワケで偵察役に立候補した俺は、氣殺法を活用して城内で調

    査を開始。

     親父や家臣の会話から赤ん坊が魔術師の私室にいる事を入手した

    ので、現地に直行することにした。

     生意気にも結界みたいなモノを張っていたので一刀で斬り捨てて

    内部に侵入すると、室内にもかかわらずうっそうと草花が生い茂る妙

    な空間の中に、ポツンとベビーベッドが置いてあるのを見つけた。

     ベッドまでの道行には妙な仕掛けが満載だったが、『意』を読む事を

    極意とする内家剣士には子供だましにもならない。

     邪魔するモノを片っ端から叩き斬ってベッドを覗き込むと、そこに

    は金髪の頭髪がまばらに生えた子ザルがいた。

     これがアルトリアとみて間違いないだろう。

     酷い感想だがそう見えたんだから仕方が無い。

     まあ、新生児なんだから親に似てる云々なんてまだ分からんわな。

     しかし、子ザル改め妹の気配が竜に似ているのはどういう了見なの

    か?

     気にはかかるがそれはそれ。

     妹の無事は確認できたのなら、今度はお袋さんに会わせてあげたい

    と思うのが人の情というものである。

     善は急げとばかりにアルトリアを抱き上げて出口に向かったとこ

    ろ、待っていたのはあの胡散臭い魔術師。

     『その子を連れて行ってもらっては困る』とか何とか言ってたが、そ

    んな事は知った事ではない。

     強行突破を図ろうとしたのだが、結果だけ述べると失敗した。

    10

  •  アルトリアは奪い返され、俺は脇腹に風穴が空く重傷を負わされて

    城から吹っ飛ばされた。

     メイン相棒のナマクラ君もヘシ折られたのに、こっちが出来たのは

    奴の左目を潰して右手を斬り落とすことだけ。

     悔しいが完全敗北だ。

     あんなペテン師如きにこの体たらく、マジに修行の密度を上げねば

    なるまい。

     あと、お袋さんと姉ちゃん。

     妹に会わせてやれなくてごめん。

     ◇

      妖精郷を模した工房の中で、主である花の魔術師マーリンは小さく

    唾を飲んだ。

     普段は飄々とした態度を崩さない彼がこれほどに警戒を露わにす

    る原因は、目の前にいる赤子を抱いた少年だ。

     アルガ・ペンドラゴン。

     いや、廃嫡された今ではただのアルガと呼ぶべきか。

     ウーサーと共にブリテンを救う理想の王を創り出すという計画に

    おいて、目の上のたん瘤というべき存在。

     4年前に起きた家臣との些細な衝突を利用して排除に成功したの

    だが、まさかこのような暴挙に出るとは思わなかった。

     剣の才があっても所詮は幼子と、千里眼を外した事に今更ながら歯

    噛みする。

    「アルガ。君がここにいる理由は問わないし、ボクの工房に無断で立

    ち入った事も咎めない。だから、その娘を返してくれないかな?」

     相手を刺激しない様に、出来るだけ優しくマーリンは言葉を紡ぐ。

     あの小僧の目的が分からない以上、理想の王になるべきアルトリア

    に手を出されては堪らない。

    「───妙な事を口にするな、ペテン師」

     言葉と共に口元を吊り上げるアルガ。

     そのこちらを嘲笑うような表情は、十やそこらの子供の浮かべるモ

    11

  • ノではない。 

    「この子は俺の妹だろ? だったら、『返せ』ってのは筋が違うと思う

    がな」

    「その子の養育はボクが任されている。これはウーサー王の指示なん

    だけど」

    「それは聞いた。けど、生まれてすぐに母親と引き離す事は無いだろ。

    言葉を話すとはいかなくても、首が座るまでは一緒にいさせてやれ

    よ」

    「それをボクに言われてもねぇ……」

    「今、養育を任されたって言ってたろうが。だったら、そのくらいの裁

    量はあるだろ」

     呆れたように言い放つアルガの言葉に、マーリンは内心で舌打ちを

    する。

     彼の言う通り、そのくらいの裁量は自身の内にある。

     だが、マーリンはアルトリアを純真無垢なまま養育する必要がある

    と感じていた。

     無私に徹し万民に愛を注ぐ理想の王。

     その実現の為には、たとえ母親の愛でも要らぬ影響を与える可能性

    は排したかったのだ。

    「悪いけどそれはできない。彼女はブリテンを救う理想の王として生

    まれ落ちた、その為に必要な教育というものがあるのさ」

    「母親の、家族の愛を与えないことがかよ?」

    「そうだよ。彼女は国民全てを愛さねばならない、それは只人には不

    可能なことだ。なら、そうでない彼女には誰もが与えられるようなモ

    ノは必要ない」 

     説き伏せようとするマーリンの言葉に返って来たのは、言葉ではな

    く刃を引き抜く鍔鳴りだった。

     途端に吹き付ける刃のような殺気。

     ここに来てマーリンは自身の説得が失敗に終わったのを悟った。

     マーリンは身の丈ほどの杖を手に油断なく相手を見据える。

     身に纏った黒ずくめの衣服は幻想種の皮を精霊が仕立てた一級の

    12

  • 耐魔装備だが、手にしたショートソードは錆の跡が滲む鈍らだ。

     相手が普通の子供であるならば一笑に伏すところだが、目の前にい

    るのは幼児だった頃ですら木剣で鉄を断ち切った怪童。

     見た目で侮れば怪我では済まないだろう。

    「こっちは穏便に済ませたいんだけどねぇ。言葉で解決する気は──

    ─ッ!?」

     無駄口は不要、とばかりに振るわれた少年の斬撃を既のところで杖

    で防ぐ。

     木が罅割れる乾いた音を耳にしながら、少年を振り払ったマーリン

    のコメカミから一筋の汗が流れ落ちる。

    (あのナマクラで一級の魔術礼装であるこの杖を半ばまで斬るとか

    ……!?)

     空中でトンボを切って音もなく着地したアルガは、調息と共に構え

    を取る。

     身の危険を感じたマーリンは杖の先から魔力を弾丸に変えて放っ

    た。

     空を裂く光弾は5つ。

     アルトリアの事が頭を掠めたが、それ以上に目の前の子供が危険と

    判断しての事だ。

     込める魔力を加減しなかったそれらは、着弾すれば鎧を纏った人間

    でも容易く粉砕する。

     いかに耐魔装備を纏っていたとしても、当たれば絶命は免れないだ

    ろう。

     だがしかし襲い掛かる無数の凶弾は、薄闇を踊る白刃の輝線に見当

    違いの方向へと導かれて不発に終わる。

     疾さ・威力に勝る魔力弾をいなす軽妙の技は、まぎれもなく戴天流

    剣法『波濤任櫂』。

     『軽きを以て重きを凌ぎ、遅きを以て速きを制す』

     これこそが四千年という時を費やして磨き抜かれた中国拳法の深

    奥『内家拳』の極意に他ならない。

    「シッ!」

    13

  •  鋭い呼気と共に野生の獣を上回る速度で躍りかかるアルガ。

     戴天流が一撃必殺の刺突技、貫光迅雷。

     内家氣功術の一つ、軽功術の妙による踏み込みと共に放たれる突き

    はまさに雷光の如し。

     練り上げられた内勁が込められた切っ先は、鈍らな外見とは裏腹に

    鎧の数倍の強度を持つマーリンの魔力障壁を容易く貫通する。

     咄嗟に身を捻ったお蔭で臓腑を抉られることは無かったが、花の魔

    術師の腹には一本の赤い線が刻まれた。

    「〜〜〜〜ッ!? 冗談じゃない!!」

     そう吐き捨てると、マーリンは杖を持つのとは逆の手に黄金に輝く

    剣を出現させる。

     湖の乙女のところで見た神造兵器のデッドコピー。

     威力は本物に比べるまでもないが、一般の剣とは一線を画す性能が

    ある。

     だが、その光刃すらも刃が噛み合った瞬間に流れるようにいなさ

    れ、今度は両腿を薄く斬られた。

     最早アルトリアの事など眼中に無いとばかりに、魔力による弾幕と

    剣からの衝撃波を放つマーリン。

     それらは工房に生えた植物や王国の政務に関する書類、アルトリア

    の寝床すらも破壊するが、肝心の少年を捉える事はできない。

     この時になってようやくマーリンは認識を改めた。

     目の前にいる者は断じて子供ではない。

     超一流、それこそ精霊すらも斬殺せしめるほどの剣士であること

    を。

     そうと分かれば容赦などする余裕はない。

     魔力を込めた杖で床を叩くと、周囲に張り巡らされた植物が一斉に

    ざわめき始める。

     ここはマーリンの魔術工房だ。

     使用目的の大半が息抜きとはいえ、侵入者迎撃用の罠など幾らでも

    用意している。

     現状におけるマーリンの優先度は一つ目は自身の生存、二つ目は襲

    14

  • い来るアルガの撃退、アルトリアの救出はその次に来る。

     言い方は悪いが、自身とウーサー、イグレーヌがいればアルトリア

    の代わりを作る事は可能なのだ。

     だがしかし、ここで自身が命を落とせば理想の王によるブリテン救

    済自体が露と消えてしまう。

     だからこそ、マーリンの攻撃には容赦はなかった。

     一方、アルガは突如として己を包囲した悪意に困惑しつつも、その

    対処に追われていた。

     周囲を取り巻く色とりどりの植物、それらが一斉に牙を向く。

     彼等の葉は鋭利な刃、伸びた茎は鋭い槍に、長く垂れ下がった蔦は

    空を切る鞭へ、そして種を蓄えて膨らんだ実は近づいたものを蜂の巣

    にするクレイモア地雷さながらのトラップに。

     放たれる魔術攻撃に加えてそれらを孤剣一つで捌き切る事は、さし

    ものアルガにも困難だ。

     致命の傷は逃れているものの、胸の中で眠るアルトリアを庇ってい

    る事もあって彼の身体は全身傷塗れになっていく。

     それでも少年の眼光は鋭さを失っていない。

     否、それどころかさらにギラギラと凶刃の如くその光を強めてい

    る。

    「カ…カカッ……!」

     吊り上がった口元から漏れ出したのは、笑い声か。

     襲い掛かってくる木を一刀の下に斬り捨てたアルガは、白刃で作り

    出した洞にアルトリアを隠すと軽功術によって風の速度でその場を

    離れる。

     そして自由を取り戻した手をたなびくコートのポケットに入れ、中

    に仕込んでいた物を地面に撒いた。

     瞬間、耳をつんざく爆音と共に紅蓮の炎が工房の天井を焦がす。

    「こんな場所で火をッ!! 正気かっ!?」

     半ば悲鳴のような声を上げ、慌てて消火を行おうとするマーリン。

     ここで彼は二つの事を失念していた。

     一つは、消火に手を取られて自身を護っていた弾幕が途絶えた事。

    15

  •  もう一つは工房の結界が破られるまで、アルガが城内にいるのに気

    づけなかった事だ。

     工房の主が立ち昇る炎に向けて杖を構えたその瞬間、物音一つ立て

    ずに背後の茂みから飛び出した少年はその首へと白刃を振るう。

    「〜〜〜〜〜ッ!?」

     完全に自分の虚を突いた襲撃に、声なき悲鳴と共に全力で足掻く

    マーリン。

     それが功を奏したのか、刃の軌道上に振り上げられた腕が割り込み

    持っていた杖ごと両断された。

     同時に限界を迎えたアルガの剣もまた、錆の跡が浮いた刀身の半ば

    から折れ飛んだ。

     鮮血と共にクルクルと宙を舞う己が手首と相手の凶刃。

     それを視界の隅に収めながらも襲撃者に向き直ろうとした瞬間、柔

    らかい物が潰れるような音が頭の中に響き、激痛と共に左目が闇に覆

    われる。

    「ぐあぁっ!?」

     漏れた苦鳴と共に目に刺さったモノを抜こうとすれば、残った目に

    映るのは自身に腕を掴まれながらもゾッとする様な眼光を浮かべる

    アルガの姿。

     そして掴まれたのと逆の腕が懐から新たな刃を取り出そうとして

    いるのが見えた瞬間、マーリンは持てる魔力の全てを使って少年を吹

    き飛ばした。

     残された視界を白に染める魔力光が収まった後には、進路上の物を

    全て吹き飛ばした上に壁に空いた大穴があった。

     命を脅かす脅威が去った事に脱力したマーリンは、部屋の隅の方か

    らか細い赤子の泣き声を耳にした。

     疲労困憊の身体に鞭を打って向かってみると、縦に掻っ捌かれた木

    の穴の中で泣き声をあげるアルトリアの姿があった。

    「よかった、運良く無事だったみたいだ。もう一度作るとなると、色々

    手間だからねぇ」

     割と最低な事を漏らしながら、マーリンはその場にへたり込む。 

    16

  •  あの小僧を呼び寄せたのはイグレーヌかモルガンだろうが、両名の

    処分を求めるのは難しいだろう。

     王であるウーサーはイグレーヌにぞっこんだし、かといってモルガ

    ンに責が及べばそのイグレーヌが黙っていない。

     アルガ追放やアルトリアの件がある所為で、ただでさえウーサーや

    自身に対するイグレーヌの心象は最悪なのだ。

     これ以上何かあれば、モルガンを伴って逃亡するか、最悪の場合は

    親子心中でもされかねない。

     そうなれば、ウーサーも使い物にならなくなるだろう。

     彼にはアルトリアがある程度成長するまで、国体を維持してもらわ

    ねばならないのだ。

     そういったトラブルは避けるべきだろう。

    「やれやれ……。これはボクが黙っているしかないかなぁ」

     深々と溜息を付くと、マーリンは断たれた手首を付け合わせて治癒

    魔術を始めるのだった。

       

    17

  • 日記2

      三度目人生記(10年8ヶ月12日目)

     

    入い

     不詳アルガ、これより修羅に

    る(訳 ちょっと山籠もりで修行し

    てくるから、心配しないでね)。

     城での顛末にこの一文を添えて姉ちゃんに手紙を返したら、今度は

    テレパシーで遠距離通話できるようにするから、ほとぼりが冷めたら

    帰って来いという返事を頂いた。

     あのペテン野郎に食らった傷は精霊さんに貰った薬を飲んだらす

    ぐに治りました。

     ありがとう、精霊さん。

     お蔭で鍛錬にも一層力が入ります。

     というワケで、現状の目標は肉体作り+基礎固め。

    六塵散魂無縫剣

    りくじんさんこんむほうけん

     それが終わったら前世の終盤で開眼した秘剣『

    』の

    再習得である。

     この『六塵散魂無縫剣』という技だが、ぶっちゃけるとアホみたい

    に疾い十連刺突である。

     どのくらい疾いかというと、突きが速過ぎて横薙ぎを放っているよ

    うに見えたり、5発目までが超音速で至近距離から撃たれた機関銃の

    弾を全部斬り落としたり、さらにその上で相手の首を刎ねるくらい

    だ。

     ちなみにこの技、速度だけじゃなくて精妙さも要求されるので、上

    記の剣速を保ったままで舞い散る花びらを狙い通りに両断するくら

    いでないと修得したとは言えません。

     さすが幻と言われた秘剣、ハードル高すぎである。

     前世で開眼したのって、サイバネ暗器使いとロシアンマフィアの軍

    事サイボーグに追い詰められた時だもんなぁ。袖

    しゅうせん

     あの時は、ホーミングで飛んでくる高性能

    (小型の仕込み弓矢

    だと思いねぇ)と二丁マシンガンの弾丸を全部捌いて、相手をぶった

    切ったっけか。

    18

  •  あれって使うと腕がガタガタになるんだが、切り札としては申し分

    ない。

     城の時に修得していたら、ペテン師の首刎ねられたと思う。

     では、秘剣修得を目指してベン・ネビス山に向かって出発だ!

     三度目人生記(11年8ヶ月8日目)

      ネビス山で山籠もりを初めてもうじき一年。

     我、未だ秘剣開眼ならず。

     いざ意識してみると本当に難しい。

     現状では音速を超えるのは最初の一撃のみで、精度の方も狙い通り

    に行くのは前半五発と散々である。

     これが『六塵散魂無縫剣』だなんて言ったら、前世の兄弟子である

    濤羅タオロー

    兄あにぃに大笑いされるわ。

     まあ、今生では俺もまだ十一歳。

     身体もまだまだ出来ていないのだから、今は基礎固めに重点を置い

    てこっちは気長にやっていこう。

     あとネビス山だが、山だけあって自然の宝庫。

     謎の生物だって盛り沢山である。

     というか、釣りをしていたら馬が釣れるとは思わなかった。

     懐きそうになかったので、その場で捌いて喰ったけど。

     顔見知りになった猟師さんに聞いた話では、シーホースというらし

    い。

     殺して喰ったと言ったら腰を抜かしてたなぁ。

     あと、ちょくちょく襲ってくるファハンとかいう一つ目一本足の巨

    人もウザい。

     最初は秘剣の練習台にしてたのだが、50を超えた頃から死体の処

    理も面倒になって来た。

     まあ、放っておいたらブラックハウンドが喰ってくれるんだけど

    な。

     近頃はあいつ等も学習したのか、死体を捨てに行ったら群れで待っ

    てる事があるし。

    19

  •  それと、拠点にしている小屋にブラウニーが来てくれるようになっ

    た。

     ヤロウの独身生活なので、家事を手伝ってくれるのは本当に助か

    る。

     彼等のお礼には焼き立てのパンやクリームなんかを供えるらしい

    のだが、パンどころか小麦もないので果物と蜂蜜で代用している。

     こんな剣術キチの餓鬼だが、見捨てないでくれるとありがたい。

     三度目人生記(12年6ヶ月12日目)

      山籠もり生活ももうじき二年である。

     この頃は成長期なのか身長の伸びがいい。

     測ってみたら、なんと170手前だった。

     やはり魔獣の肉を食ってるのがいいのだろうか。

     久しぶりに会ったお袋さん達もビックリしてたし。

     あと、姉ちゃんからのテレパシーを受ける魔術を掛けられました。

     おかげで事あるごとに姉ちゃんから着信があるし、寝る前には何が

    あったのかを報告するハメになってしまった。

     相変わらずのブラコンぶりに、弟はお姉様の将来が心配です。

     アルトリアについてだが、姉ちゃん情報ではエクターとかいう親父

    殿の部下に預けられたという。

     自分が養育するとか言っといて、なにやってんだよ、あのペテン師

    は。

     まあ、こっちも心配ではあるから、山を降りたら様子でも見に行っ

    てみるかな。

     あ、少し前にお隣さんができました。

     相手はギリー・ドゥーという黒髪の妖精さん。

     人間を襲ったりする妖精もいるが、彼は穏やかで気さくな性格の持

    ち主だ。

     初対面で何をやってるのかと問われたので、山籠もりと答えたら首

    を傾げられた。

     どうやらブリテンでは山に籠って修行を行うのはメジャーではな

    20

  • いらしい。

     その後お互いボッチである事で意気投合したのもあって、今では仕

    留めた獲物を交換したりする仲になった。

     いつまでここにいるかはわからないが、仲良くしていきたいもので

    ある。

     剣術の修行に関してだが、この頃は内家の神髄である氣功術を中心

    に強化している。

     酸性雨だのスモッグだのが毎度の如く襲い掛かるマッポー的な環

    境汚染だった前世とは違い、この世界の自然は素晴らしい。

     そのお蔭か、氣の巡りもとてもよくて軽功術や隠形なんかも前世よ

    り効果があがっているのだ。

     まあ、前の習慣そのままに電磁発勁を修得してしまった時は、鬱に

    なってしまったが。

     こんなサイバーのサの字もない世界でなんに使うねんって話であ

    る。

     使ったら代償で内臓痛めるのに無意味すぎる。

     あと、前世では時間の都合で習得を諦めた硬氣功も身に着ける事が

    出来た。

     これで服を抜けてくる攻撃もある程度は防ぐことが出来るはずだ。

     『六塵散魂無縫剣』に関しては、やっと二発目が音速を超えました。

     平行して秘剣の応用で、通常斬撃の音速越えも研究中である。

     しかし、あれだな。

     自分の食い扶持取る以外は、時間を全部修行に傾けられるっていい

    よね。

     山籠もり、サイコー!!

     三度目人生記(13年5ヶ月24日目)

      私アルガはこの度、人間社会に復帰いたしました!

     いやぁ、山暮らしが心地よすぎて危うく世捨て人になるところだっ

    た。

     姉ちゃんが呼び出してくれなかったら、仙人ルートまっしぐらであ

    21

  • る。

     というか、ヨーロッパ在住の仙人ってなんだよ。

     今回下山した目的だが、姉ちゃんの努力が実ってアルトリアを引き

    取ったエクターの住処がわかったのだ。

     というワケで、妹の様子を見に行くことにしたわけだ。

     前に喰ったシーホースとは別に川で釣ったケルピー(こっちはシバ

    キ倒して鞍を付けたら大人しくなった)に跨ること一週間。

     時には浮浪者に見られ、またある時には山賊団を撫で切りにし、ま

    たまたある時には海岸線で邪妖精ナックラヴィーの群と死闘を繰り

    広げた。

     いや、奴等自体はあんまり強くないんだけど、見た目がグロかった

    んだよ。

     片目しかない生皮を剥かれて筋肉剥き出しになったケンタウロス。

     こんな珍生物、なかなかお目に掛かれないと思うぞ。

     30匹くらい出て来たんで皆殺しにしたら、なんか漁村の人達から

    滅茶苦茶感謝された。

     魔獣肉の燻製と魚の干物を交換してくれたのは感謝である。

     そんな感じで七難八苦の末にエクターの住み家に着いた訳だが、そ

    の場所があまりにも貧層だった。

     普通の民家に物置小屋と馬小屋が一つづつ。

     あとは猫の額くらいの荒れ放題の牧草地。

     仮にも王女が暮らす場所なのに、これはないわ。

     親父殿の部下って事は騎士なんだろ。

     それなのに、なんでこんな町外れのあばら家に住んでんだよ。

     まあ、現状の俺の住み家である山小屋に比べたら全然マシだけど

    ね。

     そんな感じで唖然としていると、不審者に見られたのか木剣を手に

    した10歳くらいの坊やに威嚇されてしまった。

     二、三回噛んで放った名乗りからすると、エクターの倅らしい。

     その後ろに隠れて、おっかなびっくり様子を伺ってるのがアルトリ

    アなんだろう。

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  •  お袋さんや姉ちゃんそっくりの金髪幼女だから、一発でわかった

    わ。

     ここでアルトリアの兄である事を名乗っても良かったのだが、俺は

    あえてそうしなかった。

     目つきは死ぬほど悪いが俺も顔自体はお袋さん似なので、信じても

    らえる可能性は高いと思う。

     けど、今回は様子を見に来ただけで連れ戻す気は無かったし、俺が

    迎えに来たと知れたら親父殿やペテン師がいらん事をする可能性が

    高い。

     あの胡散臭い男は兎も角、もう一方は長年顔を合わせていないとし

    ても親である。

     邪魔だからと斬り捨てる訳にもいくまい。

     お袋さんや姉ちゃんに会わせられないのは悪いと思うが、今は元気

    に育っていることが分かれば満足である。

     ただの通りすがりという事でケイ君(10歳)を誤魔化して、俺は

    その場を離れた。

     帰りにエクターと思わしき人物と会ったので、『妹を泣かせたら殺

    す』と殺気を叩き付けておいた。

     うん、あのおっさんがエクターで間違いないよな。

     俺を見て『王子……』って言ってたし。

     末妹の行方も分かったし、これからは修行ばっかりやってるわけに

    もいかなくなりそうだ。

     差し当たっては姉ちゃんに連絡して、アルトリアがお袋さん達と暮

    らせるようにせんとな。

     ん……俺?

     さすがに俺は無理だべ。

     廃嫡食らった上に絶賛勘当中の身だもん。

     ま、顔出しに忍び込むのが精々でしょうよ。

     三度目人生記(13年9ヶ月27日目)

      ようやっと帰って来た、我が愛しのホームグラウンドであるネビス

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  • 山。

     行きも大概だったが、帰りも帰りで酷かった。

     まず、とある湖を通りかかったところ、「唸る獣」とかいう怪物の襲

    撃に遭った。

     この化け物は頭と尾がヘビ、胴体は豹で尻はライオン、足は鹿とい

    うキメラだったのだが、なんと乗っていたケルピーを喰いやがったの

    だ。

     松風(その場のノリで命名)を失った事と徒歩で帰るダルさへの怒

    りから、下手人を『鳳凰吼鳴』『沙羅断緬』『貫光迅雷』という地獄の

    戴天流コンボで八つ裂きにしてしまった。

     それだけならまだ良かったのだが、今度は何故か近くにキャンプを

    張っていた騎士が襲ってきた。

     身の丈ほどの剛槍で全弾フルスイングしてくる男らしいスタイル

    だったが、内家拳の神髄はそういう輩に技で勝つことにある。

     必殺の威力が込もった突きを波濤任櫂で捌き、そのまま首を一閃。

     転がった兜の中から王冠を被った首が出て来たんだけど、大丈夫だ

    よね、きっと。

     他にも一夜の宿を貸してくれたのが鬼女のハッグで、シチューの具

    にされかかったり(逆に奴を頭から叩き込んでやったが)

     全長10メートルはありそうなワームに襲われたり。

     まったく、相変わらずブリテンは人外魔境である。

     ま、これからは今まで通りの山籠もりライフが待っているのだ。

     嫌な事は忘れて楽しく行こうじゃないか。

     乾燥フルーツや魚の干物をお土産に持って来たのだが、お隣のギ

    リーさんは喜んでくれるだろうか?

     三度目人生記(14年11ヶ月27日目)

      親父殿が死んだ。

     なんでも半年ほど前から病を患っていたらしい。

     六歳の時に別れて以来、結局一度も顔を合わせることは無かった

    が、今にして思えば少しは会っておけばよかったかもしれない。

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  •  それとは別に王が崩御したという事は次代の国王を擁立する必要

    があるのだが、拙い事に病に伏せってからの親父殿の諸侯への影響力

    は殆ど無い。

     力の有る家臣はブリテンから独立を宣言しており、今の王国は有っ

    て無いようなモノらしい。

     姉ちゃんも自身とお袋さんの身の安全の為に、ロット王とかいう王

    様に嫁ぐことになっていたのだ。

     しかし、この時期に親父殿が逝ったとなると、家臣の中からバカな

    ことを考える奴が現れないとも限らない。

     親父殿が死んだのなら勘当も無効だろうし、混乱が落ち着くまでは

    傍にいた方がいいだろう。

     最近空路は確保したので、ブリテンの城まで一日も掛かるまい。

     というわけで行くぞ! ワイバーンの庄之助君!!

      ◇

      夜の帳が降りる頃。

     かつての栄華の火が消えたブリテンの城を、モルガンは息を切らせ

    ながら走っていた。

     後ろには病でやつれてはいるものの、その美貌に陰りを見せない母

    のイグレーヌ。

     そして、彼女達を追う騎士や貴族たちが続く。

     国王である父ウーサーが病に伏せった時から、領地を持たない家臣

    たちは自分や母に野心や肉欲の籠った目を向ける事が多くなった。

     親子ほど年の違うロット王からの求婚を飲んだのも、そんな下種共

    から母と我が身を護る為だ。

     だが、まさか王が死んだその日に奴等が行動に移すとは、聡明なモ

    ルガンでも読めなかった。

     月の物が来ている所為で魔力も減衰している今、憎きマーリンに頭

    を下げて覚えた魔術も役に立たない。

     状況の悪さに目が眩みそうになりながらも謁見の間に飛び込もう

    25

  • とした彼女だったが、運命の神はそれを許そうとしなかった。

     あと一歩のところで手を引いていたイグレーヌが力尽きてしまっ

    たのだ。

    「おいたはそこまでですな、王女殿下」

     母に続いて床に倒れ伏したモルガンの前に、一人の貴族が立ちはだ

    かる。

     たしか宮廷貴族でもうだつの上がらない、中の下に位置していた男

    だ。

     父が力を失って大貴族たちが独立してからは、繰り上がった地位に

    モノを言わせてかなりあくどい事を行っていたと思う。

    「どういうつもりだ、貴様等……っ!?」

     体を起こして精一杯の怒りを込めて睨みつけるも、男の浮かべた嫌

    らしい笑みは消えようとしない。

    「分かりませんかな? 貴女は今宵私と結ばれるのです。そして、私

    は次の王となる」

     男の放った言葉をモルガンは理解できなかった。

     否。

     脳が理解を拒んだという方が正しいか。

    「……ッ! 血迷ったか!? 私はロット王と婚約しているのだぞ!!」

    「存じております。ですが、問題はありません。彼の王には貴女の代

    わりに我が家臣の娘を差し出しましょう」

    「そんな世迷言で彼の王が納得すると……っ!?」

    「しますとも。その時になれば私はブリテンの王ですからな。王同士

    の話となればあちらも無茶は申さぬでしょう。もし、それでも納得が

    いかぬというなら、賠償金でも更なる寵姫でも与えればよい」

     モルガンには目の前の男が理解できなかった。

     力も人心も失った斜陽の国で新たに王になったところで、待ってい

    るのは身の破滅だけなのに。

    「何故、この国の王位など……。この国は最早終わっているのだぞッ

    !!」

    「終わっているからこそ、ですな。このタイミングで王座を握れば、国

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  • 庫に残った資産全てを手にすることが出来る。国としては雀の涙で

    も、我らのような弱小貴族には一財産だ。それを懐に入れればこの国

    になど用はない。すべてをそのままに他の場所に立てばよいだけ。

    あとは貴女やイグレーヌ王妃のような、絶世の美女を好きにできると

    いう特典もある」

     あまりにも下劣な考えに、モルガンもイグレーヌも言葉を失った。

     目の前の男はこの国を立て直すわけではなく、我欲の為に王となっ

    てブリテンの全てを吸いつくすと言ったのだ。

    「下種め……っ!!」

    「いかにも」

     モルガンが放った精一杯の侮蔑も男は意にも解さなかった。

     そのまま彼女の細い腕を掴んで床に組み伏せる。

    「次代を担う王女の純潔、それを奪う事こそが夫としての証です。な

    らば、ここで貴方を抱く事が私達の婚姻の証になる」

     言葉と共に吹き付けられる生臭い息に、モルガンは湧き上がる吐き

    気を抑えた。

     男の拘束から必死に逃れようとするが、少女の力では圧し掛かった

    巨体はびくともしない。

     隣で上がった悲鳴に目を向ければ、母も数名の騎士に押さえつけら

    れていた。

    「私の配下となる者達ですから、彼等にも役得を与えてやらねばなり

    ますまい」

    「やめて! 母様は……母様はご病気なのです!!」

    「ならば尚の事ですよ。病が進んで肉が削げてしまっては抱く意味が

    無くなってしまう」

     悪意に満ちた言葉に、モルガンの視界が怒りで真っ赤に染まる。

     自爆覚悟で魔術を紡ごうとするが、それも察した男が首を締め上げ

    る事で封じられてしまう。

    「観念するのですな。さすれば、天国を見せて差し上げますよ」

     涙と苦しさで視界が霞む中、モルガンが思ったのは弟の事だった。

     強く、明るく、バイタリティの溢れる弟。

    27

  •  彼がここにいてくれたら。

     父やマーリンの策略などによって歪められずに、彼が王位を継いで

    いればこんな事にならなかったのに、と。

     己の矜持や想いが絶望に押し潰されそうになる中、モルガンは凛と

    いう音を聞いた。

     凌辱の場にそぐわない涼やかな音の後、彼女に圧し掛かっていた男

    の首がゴロリと落ちた。 

     赤い噴水を噴き出す前に後ろに放り投げられた男の身体に代わっ

    て現れたのは、全身黒ずくめの少年だ。

    「すまん、姉ちゃん。少し遅れた」

     自身と同じ金の髪を掻き上げながら、申し訳なさそうに碧の瞳を伏

    せる彼にモルガンの頬から先ほどとは別の涙が流れ落ちる。

    「あ……アルガ……」

     もつれる舌で弟の名を呼ぼうとした彼女の身体を柔らかく温かい

    ものが包み込む。

     目を向ければ自由を取り戻した母が後ろから抱きしめてくれてい

    た。

     視界の隅に頭を失った騎士の身体が映ることから、彼女も弟が助け

    てくれたのだろう。

    「二人とも、よく頑張ったな。もう大丈夫だから、安心してくれ」

     ゴツゴツと無骨な、それでいて温かい手に頭を撫でられてモルガン

    はささくれ立った心が落ち着いて行くのを感じた。

     後ろで彼の登場に動揺する不埒者達の声が響くと、頭を包んでいた

    心地よい感覚が消えてしまったが。

    「ちょっと待っててくれ。すぐに片づけてくるから」

     そう言い残して疾風のように姿を消す弟。

     そして間もなく灯りの届かない闇の中からけたたましい断末魔が

    響く。

     そこに至ってようやくモルガンは小さな笑みを口元に浮かべた。

     ああ……あの子は私を助けに来てくれた。

     やっぱり、私に必要なのは───

    28

  •  闇の中でその騎士は恐怖に体を震わせていた。

     手元すらわからない黒に染まった視界の届かぬ先から聞こえてく

    る断末魔。

     今倒れた犠牲者は、自分とどれだけ離れているのか?

     二十人はいた仲間はあとどれだけ残っているのか?

     そして、自分はいつまで無事でいられるのか?

     疑問が浮かんでは消える度に胸の鼓動は早まり頭は真っ白になっ

    ていく。

     ああ、まただ!

     甲高くも涼やかな音と共に響く断末魔、また一人やられた!!

     いったい自分の何が悪かったというのだ!

     近頃宮廷を牛耳っていた男の誘いに耳を傾けた事か?

     王妃に欲情していたことか?

     巻き上げた税をチョロまかしていた事か?

     それとも! それとも!! それとも!!!

    「ふざけんな! ふざけんな!! ふざけんなぁぁぁぁぁっ!!! 死にた

    くねえ! 俺は死にたくねえ!?」 

     過去の悪事が頭を巡る中、絶叫と共に騎士は手にした剣を我武者羅

    に振るう。

     自身の安全の寄る辺というべき腕の重みは、例の音と共に消え失せ

    た。

     ようやく闇に慣れた目が薄ぼんやりと見せるのは、根元から綺麗に

    断たれた愛剣の姿。

     目の前のあり得ない光景に我知らず顔が笑みを浮かべた瞬間、騎士

    の首は宙に舞った。

     母娘二人の悪夢のような夜は明けた。

     彼等の家族にして元王国の第一王子は、今回の企てに加担した逆臣

    120余名全てを斬殺した。

     人の姿が失せた城の内部は、その余韻を残す様にいたる所に血糊が

    ベッタリとこびり付いていた。

    屠ほふ

     僅か数十分で全ての敵を

    った少年は、回収していた姉と母の荷物

    29

  • 厩うまや

    を手に二人を

    へと連れて行った。

     そしてそこにあった王族用の馬車に荷を積み、二人に乗るように促

    した。

    「ねえ、アルガ。どこに行くつもりなの?」

    「城は姉ちゃん達にとって安全じゃなくなったし、取り敢えず落ち着

    ける場所にな」

    「それはどこなのですか?」

     母の問いに少年は、幼い頃に浮かべていた悪戯を仕掛ける時と同じ

    笑みをみせる。

    「ネビス山にある俺の家。ヤロウの一人暮らしだから少しばかり汚い

    けど、安全性は保障するぜ?」 

    「まあ」

    「そんな事言って、実は片付いてるんでしょ? 貴方って凝り性で几

    帳面なところがあるから」

     釣られて固かった表情を崩す母娘に、少年の笑みが少し苦い物に変

    わる。

    「期待されると困るんだが……。ま、精々失望されない様に掃除でも

    しましょうかね」

     そう言って猿のように軽い身のこなしで御者席に座るアルガ。

     母と姉が車の中に座るのを確認すると、彼は繋がれた駿馬に軽く鞭

    を入れる。

     ゆっくりと進み始める馬車の中、眠りに落ちた母の隣でモルガンは

    窓越しに見える黒いコートに包まれた背中をジッと見つめていた。

     その目に宿るのは情と欲が入り混じった妖艶な炎。

     もし御者席の彼が後ろを振り返っていたのなら、その瞳に見覚えが

    ある事に気づいただろう。

    「あの男はもういないし、王城も捨てた。……私達を隔てるモノは無

    いわ。フフ……フフフフッ……」

     朝の陽ざしが差しこむ室内に、鈴を転がすような声が響いていた。

        

     

    30

  • 日記3

      三度目人生記(15年2ヶ月8日目)

     衝撃の事実を聞いて少々混乱気味のアルガです。

     王城の騒ぎからはや二ヶ月あまり。

     姉ちゃんとお袋さんも山での生活に少しは慣れてきたようだ。

     正直、生粋のお嬢様の二人に本格的ネイチャーライフを体験させる

    のは気が引けたのだが、その辺は我慢していただきたい。

     俺を乗せてくれたワイバーンの庄之助だが、乗り捨てたにも拘らず

    こちらが山小屋についた頃には、元気にファハンの肉をブラックハウ

    ンドと取り合っていた。

     黒ワンコといいこいつといい、完全に俺のペット状態なんですが。

     ファハンの襲撃が止んだら、エサはどうすんべか……。

     次にお袋さんの病気に関してだけど、精霊さんの飲み薬を飲ませた

    らあっと言う間に治ってしまった。

     ビンの底に残った薬液を調べていた姉ちゃんが死ぬほど驚いてた

    んだが、そんなに高価なものだったのかアレ?

     これはお袋さんから言われた事なんだが、俺と姉ちゃんは親父殿・

    ウーサー=ペンドラゴンの子供ではないそうだ。

     俺達の本当の父親は、お袋さんの前の夫であるゴルロイスという公

    爵なんだと。

     この人はウーサーの家臣だったのだが、お袋さんに一目ぼれした奴

    とペテン師の策略にハマって、領土に攻め込まれて戦死。

     そんでもって残されたお袋さんは、生まれたばかりの俺と姉ちゃん

    の助命を条件にウーサーと再婚したらしい。

     マジかー。

     そう言えば、俺の自我が戻ったのって一歳の誕生日だったよなぁ。

     その時には本当の親父殿は鬼籍に入ってて、お袋さんも略奪された

    後だったって事かよ。

     つーかウーサーの奴、どう考えても最悪じゃねーか。

     あのおっさんがペテン師の策に乗って、ホイホイ俺を廃嫡したのも

    31

  • コレが原因だったんだな。

     そりゃあ、お袋さんも塩対応になるわけだ。

     お袋さん曰く、この話は現役の貴族の間ではけっこう有名な事らし

    い。

     欲望のままに臣下を陥れ、その妻を奪ったウーサーの人望は底値を

    割っており、ブリテン終了の大きな一因となってるそうな。

     ウーサーの名誉云々に関しては自業自得なんでどうでもいいけど、

    本件が姉ちゃんの婚姻に影響しないかが心配である。

      三度目人生記(15年3ヶ月15日目)

      城の動乱から三ヶ月。

     そろそろ姉ちゃん達をロット王のところに送らねばならない。

     出来ればその前に一文を添えたいところだが、こんな人外魔境に郵

    便屋など来るわけがない。

     かといって俺がメッセンジャーとして行くのも、残された二人が心

    配だから却下。

     状況はどうあれ先ずは動くしかないと判断した俺は、姉ちゃんにそ

    の事を伝えた。

     すると、彼女はネビス山の山頂で魔術の儀式を行いたいと言い出し

    た。

     なんでもお袋さんの実家に伝わるもので、婚姻前の女性の純潔を神

    に証明してもらうというモノだそうな。

     俺は剣を振るしか能が無いので、魔術の事などトンと分からぬ。

     しかし、それで姉ちゃんの結婚生活が明るい物になるのなら喜んで

    協力しよう。

     というワケで、ネビス山の山頂付近にある洞穴まで行ってきた。

     メンバーは俺達親子に加えて庄之助、そしてこの三年間子犬から育

    てたブラックハウンドのポチ・コロ・ゴンの三匹だ。

     お袋さんが言うには、この洞穴は女性しか入れないらしく、コロを

    除いた一人と三匹は入り口でお留守番だった。

    32

  •  なぜか群がってくるファハンやワーウルフ、ユニコーンモドキに巨

    大ビーバーなどを、ぶった斬っては庄之助達のおやつにして待つ事し

    ばし。 

     洞穴の天井をぶち抜く形で虹色の光が天に昇るのが見えた後、姉

    ちゃん達が戻ってきた。

     外からでも天井が崩れたのが分かったので、待っている間は本当に

    気が気じゃなかった。

     あともう少し出てくるのが遅れてたら、お袋さんの言いつけを破っ

    て突っ込んでいただろう。

     洞窟から出てきた姉ちゃんだが、儀式とやらの影響なのか少々容姿

    が変わっていた。

     明るい金色だった髪は銀に近いアッシュブロンドに、瞳の色は緑か

    ら金色へと変わり、肌もより白くなっていた。

     お袋さんも同様に変化していたので心配したのだが、本人からは問

    題ないとの返事。

     あと、一緒に入っていたコロは色が真っ白になったうえに身体が倍

    近く大きくなっていた。

     もはや虎レベルの猛獣である。

     本人達は大丈夫だというが、容姿に加えて気配まで変わっていて

    は、さすがに心配は拭えない。

     そんな俺の心情に気付いたのか、姉ちゃんはこちらに近づくと、ガ

    キの頃よくやったみたいに頬へ唇を落としてきた。

     唖然としながら何をするのかと問う俺に、いたずらな笑みと共に

    返って来たのは「身を護るお呪い」という言葉。

     ……なんか釈然としないが、まあいい。

     小難しい事はロット王の問題が終ってから考えよう。

     三度目人生記(15年5ヶ月11日目)

      この頃、身体の調子がすこぶる良い。

     特に氣の巡りは絶好調で、『六塵散魂無縫剣』は4発が超音速に達し

    た。

    33

  •  軽功術も快調で、某兄弟子が見せた残像分身も2体までならできる

    ようになりました。

     今ならば、前世でやったように特殊装甲製の戦車も両断できるかも

    しれない。

     突然ですが、この度ネビス山を完全下山する事に致しました。

     理由は嫁ぐ姉ちゃんに『家族と離れたくないから、ロット王に仕官

    してくれ』と強い調子で頼まれたから。

     個人的には、外戚な上に男を連れて嫁に行くってのは拙いと思う。

     しかし、姉ちゃんはアルトリアと別れ、親父(と思っていた男)を

    亡くしたばかりだ。

     加えて城での出来事を思えば、その願いを蔑ろにするわけにはいか

    ない。

     そんなワケで、荷物を纏めた俺達は一路ロット王の下へと出発した

    のだ。

     出発の際にお隣のギリーさんに使わない保存食を渡すと、代わりに

    手製の傷薬をくれた。

     しかし、『仲間になる日を待ってるよ』と笑顔で言�