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路地裏で女神と出会うのは間違っているだろ
うか
ユキシア
【注意事項】
このPDFファイルは「ハーメルン」で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、「ハーメルン」の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
【あらすじ】
迷宮都市オラリオの路地裏で一人の少年は女神と出会った。女神アグライアは少年
に告げる。
───「私の眷属になりなさい」
その一言から始まった。少年の物語。
何を思い、どう行動するのか?
これは路地裏で住んでいた一人の少年、ミクロ・イヤロスの英雄譚。
目 次
────────────
第一話
1
────────────
第二話
10
────────────
第三話
20
────────────
第四話
36
────────────
第五話
45
────────────
第六話
60
────────────
第七話
81
────────────
第八話
96
────────────
第九話
108
────────────
第十話
123
───────────
第11話
135
───────────
第12話
146
───────────
第13話
161
───────────
第14話
174
───────────
第15話
185
───────────
第16話
195
───────────
第17話
208
───────────
第18話
219
───────────
第19話
237
───────────
第20話
252
──────────
第二十一話
262
──────────
第二十二話
271
──────────
第二十三話
283
──────────
第二十四話
298
──────────
第二十五話
312
──────────
第二十六話
327
──────────
第二十七話
338
──────────
第二十八話
352
──────────
第二十九話
363
───────────
第三十話
378
───────────
第31話
388
───────────
第32話
395
───────────
第33話
407
───────────
第34話
420
───────────
第35話
437
───────────
第36話
447
───────────
第37話
461
───────────
第38話
470
───────────
第39話
484
───────────
第40話
495
──────────
第四十一話
506
──────────
第四十二話
516
──────────
第四十三話
531
──────────
第四十四話
545
──────────
第四十五話
554
──────────
第四十六話
566
──────────
第四十七話
580
──────────
第四十八話
590
──────────
第四十九話
600
───────────
第五十話
613
───────────
第51話
623
───────────
第52話
634
───────────
第53話
643
───────────
第54話
652
───────────
第55話
666
───────────
第56話
679
───────────
第57話
689
───────────
第58話
703
───────────
第59話
713
─────────
登場人物紹介
732
─────────
New01話
748
─────────
New02話
759
─────────
New03話
772
─────────
New04話
783
─────────
New05話
792
─────────
New06話
803
─────────
New07話
822
─────────
New08話
833
─────────
New09話
851
─────────
New10話
863
─────────
New11話
881
─────────
New12話
893
─────────
New13話
905
─────────
New14話
918
─────────
New15話
932
─────────
New16話
948
─────────
New17話
962
─────────
New18話
981
─────────
New19話
989
─────────
New20話
1000
─────────
New21話
1010
─────────
New22話
1019
─────────
New23話
1028
─────────
New24話
1038
─────────
New25話
1050
─────────
New26話
1062
─────────
New27話
1077
─────────
New28話
1086
─────────
New29話
1099
─────────
New30話
1112
─────────
New31話
1124
─────────
New32話
1136
─────────
New33話
1147
─────────
New34話
1162
─────────
New35話
1178
─────────
New36話
1189
─────────
New37話
1208
─────────
New38話
1221
─────────
New39話
1231
─────────
New40話
1243
─────────
New41話
1263
─────────
New42話
1277
─────────
New43話
1290
─────────
New44話
1301
─────────
New45話
1309
─────────
New46話
1319
─────────
New47話
1330
─────────
New48話
1341
─────────
New49話
1355
─────────
New50話
1364
─────────
New51話
1374
─────────
New52話
1385
─────────
New53話
1395
─────────
New54話
1406
─────────
New55話
1416
─────────
New56話
1428
─────────
New57話
1436
─────────
New58話
1447
─────────
New59話
1460
─────────
New60話
1477
─────────
New61話
1502
─────────
New62話
1512
─────────
New63話
1521
─────────
New64話
1533
─────────
New65話
1541
─────────
New66話
1550
─────────
New67話
1558
─────────
New68話
1568
─────────
New69話
1578
─────────
New70話
1587
─────────
New71話
1602
─────────
New72話
1610
─────────
New73話
1621
─────────
New74話
1630
─────────
New75話
1642
─────────
New76話
1654
─────────
New77話
1669
─────────
New78話
1678
─────────
New79話
1686
─────────
New80話
1698
─────────
New81話
1711
─────────
New82話
1722
─────────
New83話
1731
─────────
New84話
1739
─────────
New85話
1747
─────────
New86話
1756
─────────
New87話
1767
─────────
New88話
1778
─────────
New89話
1791
─────────
New90話
1805
─────────
New91話
1815
─────────
New92話
1825
─────────
New93話
1838
─────────
New94話
1850
─────────
New95話
1865
────────
登場人物紹介2
1878
───────
Three01話
1890
───────
Three02話
1902
───────
Three03話
1914
───────
Three04話
1925
───────
Three05話
1933
───────
Three06話
1942
───────
Three07話
1951
───────
Three08話
1960
───────
Three09話
1966
───────
Three10話
1974
───────
Three11話
1980
───────
Three12話
1990
───────
Three13話
2000
───────
Three14話
2010
───────
Three15話
2020
───────
Three16話
2029
───────
Three17話
2036
───────
Three18話
2044
───────
Three19話
2051
───────
Three20話
2058
───────
Three21話
2068
───────
Three22話
2080
───────
Three23話
2089
───────
Three24話
2097
───────
Three25話
2104
───────
Three26話
2113
───────
Three27話
2124
───────
Three28話
2133
───────
Three29話
2139
───────
Three30話
2148
───────
Three31話
2157
───────
Three32話
2167
───────
Three33話
2177
───────
Three34話
2189
───────
Three35話
2200
───────
Three36話
2208
───────
Three37話
2219
───────
Three38話
2228
───────
Three39話
2238
───────
Three40話
2243
第一話
迷宮都市オラリオ。
世界唯一の迷宮都市で広大な都市の中央には天を衝く白亜の摩天楼。迷
宮
ダンジョン
摩天楼施設『バベル』を中心にして────つまり都市の名称通り
を起点にして
────このオラリオは栄えていた。
その特性からオラリオには数多くの冒険者が存在し、その冒険者が向かうダンジョン
にはまだ見ぬ『未知』が眠っている。
未知という名の興奮、巨万の富、輝かしい栄誉、そして権威。
その全てがこの都市には揃っている。
しかし、その迷宮都市オラリオの薄汚い路地裏には世界に、都市に、自分に絶望して
壊れた者達もいる。
「このクソガキがッ!!」
路地裏で数人の中年冒険者が白髪の一人の少年を殴り、少年は壁に叩きつけられる。
「…………」
少年は痛みを感じていないのか、もしくはそんなのどうでもいいかのようにただ睨む
1
ように自分を殴った冒険者を見る。
「オラッ!」
「ガハッ!」
腹を蹴られて蹲る少年の顔を冒険者は蹴って倒す。
「おい、その辺にしとかねえと死ぬぞ、コイツ」
「……それもそうだな、まぁ、こんなガキが死んだところでどうもしねえがな」
ゲスの笑みを浮かばせながら去って行く冒険者達。
しばらく経ってから少年は蹴られた腹を押さえながらその場から消える。
今日はまだマシだったと思いながら少年は食べ物を求めてゴミを漁る。
この都市の冒険者は血の気が多い為か、先ほどの冒険者達はストレス発散の為に少年
をいたぶって楽しんでいた。
だけど、少年はそんなことどうでもよかった。
今更そんなことに気にしても意味がないと理解しているからだ。
どうせ、この薄汚い路地裏で自分の人生は終わるのだからと。
飢えて死ぬか?
冒険者に嬲り殺されるか?
そうなる前に自殺でもするか?
2 第一話
どうせそうやって自分は死ぬのだと少年は既に理解している。
「いっそのこと……全部壊れちまえばいいんだ……」
世界も都市も種族も何もかも全てが壊れてしまえばいい。
少年は自虐的な笑みを浮かばせながらそんなことを口走った。
言っても意味がないことと理解しながらも言わずにいられなかった。
「物騒なことを言う子がいるわね」
その時だった。
少年の前に一人の女神が現れたのは。
白い長髪の女神。女性から見ても羨ましがるようなプロポーションにその瞳は少年
の心を見透かしているかのような眼力。
そんな女神が少年の前に現れた。
「私の名前はアグライア。最近この世界に降りてきた女神よ」
アグライアと名乗る女神は少年に近寄って至近距離で少年の顔を覗き込む。
「………?」
いきなり顔を覗き込まれた少年は困惑するが、アグライアは一笑して離れる。
「私がこの世界に降りてきたのは【ファミリア】を作ろうと思ったからよ。そして、私は
貴方と出会ったわ」
3
アグライアは少年に告げる。
「私の眷属になりなさい」
その一言が全ての始まりだった。
少年───ミクロ・イヤロスと女神アグライア。
小さな路地裏で一人の少年と女神は出会った。
神の力
アルカナム
恩恵ファルナ
神が下界で許されている『
』によって下界の子に『
』を与えてその神の眷
属にする。
経験値
エクセリア
神聖文字
ヒエログリフ
眷属の積み重ねた『
』を神は抽出して『
』に変えて背中に刻み込む。
そのことにより、人を超越した身体能力、魔法と奇跡。
神が人に開く神に至る道。
神の恩恵
ス
テ
イ
タ
ス
それが【
】。
恩恵ファルナ
そして、その『
』を刻まれた眷属こそが【ファミリア】の誕生。
4 第一話
本拠ホーム
「さぁ、今日からここが私達の
よ」
女神アグライアに連行に等しい形で連れてこられた少年、ミクロは連れてこられた
本拠ホーム
を見渡す。
本拠ホーム
人気のない道にある物置部屋に近い
。
綺麗に片付けられてはいるが元がぼろいせいか、少なくとも普通の宿がどれだけいい
本拠ホーム
かと思う程ぼろい
だった。
だけど、路地裏で雑魚寝していたミクロにとってはこれでも贅沢と言える程だった。
「私の神友がくれた物置部屋よ」
アグライアはそう言ってベッドに座る。
「それじゃ、早速『恩恵』を刻むからここにうつ伏せになってちょうだい」
ポンポンとベッドにうつ伏せになるように促すアグライアだが、ミクロは首を横に
振った。
「俺は……あんたの眷属になるなんて言っていない」
無理矢理連れてきたんだろうが。と愚痴を溢すミクロ。
「そもそも何で俺なんかを眷属にするんだ?」
亜
人
デミ・ヒューマン
このオラリオでは魔法に秀でたエルフや力自慢のドワーフなど数多くの
が存
在している。
5
人間
ヒューマン
ミクロは
。それも体格が優れている訳でもない、ボロボロの体にやせ細った体
躯。
人間
ヒューマン
そんなミクロを選ぶぐらいならまだ身なりがいい他の
を選んだ方がマシのはず
だ。
だけど、アグライアが最初に選んだのはミクロだった。
「貴方はこの世界に……いいえ、自分自身にさえ絶望し、壊れている。私たち女神にとっ
てそれは慈悲の対象。そして何より勿体ないと私が思ったからよ」
「勿体ない………?」
慈悲の対象には理解出来たミクロだが、アグライアは何を思ってミクロのことを勿体
ないと思ったのかはわからなかった。
すると、アグライアは時間を見て立ち上がる。
「そろそろいいかしら。来なさい、私が言った意味を知ってからでも遅くはないでしょ
う?」
本拠ホーム
笑みを浮かばせながらミクロの手を握るアグライアは
を出てメインストリート
に向かう。
しばらく走り、階段を駆けるアグライアとミクロ。
「後ろに振り向きなさい」
6 第一話
階段を登り切ってそう言うアグライア。
ミクロは言葉通りに後ろに振り返る。
そこには夕日と都市オラリオが一望できる景色だった。
「………」
無言でその景色を眺めるミクロ。
そのミクロにアグライアは声をかけた。
「きっと貴方はあの路地裏で長く住み着いたせいか、路地裏こそが世界だと思い込んで
しまっていたのね。でも、それじゃ勿体ないじゃない。だって、世界はこんなにも華や
かで、美しいのだから」
アグライアは語る。
「私が下界の降りてきたのは家族を作ってこの世界を共に堪能する為。だからこそ、私
は貴方に声をかけた。出会いは偶然だけど、この景色を見せて絶望する必要なんてない
と知って欲しかったから」
アグライアはミクロと向き合う。
「もう一度言うわ、ミクロ・イヤロス。私の眷属になりなさい。私と一緒にこの世界を堪
能しましょう」
微笑みながらミクロに手を差しだすアグライア。
7
ミクロは何度もアグライアの顔と差し出された手を見ながら恐る恐ると手を伸ばす。
ミクロに家族はいない。
物心ついた時からずっと路地裏で生活していた。
唯一知っていること言ったら自分の名前がミクロ・イヤロスという事実だけ。
周囲から存在していないかのように扱われ、冒険者からはストレス発散の道具として
扱われてきた。
泥水をすすったり、腐りかけた食べ物を食べる生活をしていた。
自分を捨てた両親、自分を無視する者に、自分をいたぶって楽しんでいる冒険者に。
ミクロは絶望して、気が付けば自分が何なのかわからなくなった。
人間
ヒューマン
わかっているのは自分はミクロ・イヤロスという名前で
という種族だということ
だけ。
だけど、そんなミクロは出会った。
目の前にいる女神アグライアに。
絶望しかなかったミクロを導く一筋の光をアグライアはミクロに与えた。
たった一筋の光でもミクロにとってはそれは眩しすぎる程の輝き。
ミクロは差し出されたアグライアの手を握った。
「ミクロ・イヤロス。貴方は私の初めての眷属。今日からよろしくね」
8 第一話
握ってきたミクロの手を微笑みながら握るアグライア。
ミクロは今日という日を決して忘れないだろう。
女神アグライアと出会ったことを。
この都市の光景を。
女神アグライアの言葉を。
そして、【アグライア・ファミリア】の誕生の瞬間を。
9
第二話
ダンジョンを運営管理する『ギルド』に申請して【アグライア・ファミリア】は正式
に結成された。そして、女神アグライアの眷属となったミクロ・イヤロスはダンジョン
の一階層に潜っていた。
『ギィッ!』
『ギャッ!』
一階層にいるゴブリンに向かって駆けるミクロはナイフを持ってゴブリンを斬りつ
ける。
斬りかかったゴブリンは倒れたがもう一体いるゴブリンの頭目がけて投げナイフを
投擲。
倒したゴブリンから魔石を取り出して投げナイフを拾って次の獲物を探すべき下へ
と目指す。
【ファミリア】結成から数日。体格が小さいミクロは剣よりも小回りの利くナイフと投
擲用に投げナイフを買ってダンジョンに潜っていた。
自分の主神であるアグライアが神友に借金してまで自分の装備を買ってくれた。
10 第二話
ミクロは少しでも早く借金を返そうとモンスターと出会っては倒して魔石を回収す
るという作業を繰り返している。
ダンジョンは下に行けば行くほど敵が強くなるが、それに伴って取得できる魔石の純
度は高まり、『ドロップアイテム』も希少な品として高価格で換金できる。
ミクロは一階層で試した後さっさと下に降りた方が効率がいいと思っていたが主神
であるアグライアが三階層より下に行くことを禁じている為三階層で留まる。
「・・・・・・・帰るか」
三階層に到達していたミクロは魔石を拾い終えて地上を目指す。
モンスターを倒しながら地上に出たミクロはギルドで換金を行った後、担当アドバイ
本拠ホーム
ザーに報告後、自分の
へと帰宅した。
「お帰りなさい」
「……ただいま」
本拠ホーム
に帰ると主神が声をかけてきた為ミクロも返事をした。
「大丈夫なの?怪我はしなかったかしら?」
「問題ない・・・・」
心配そうにミクロの体をぺたぺた触るアグライアにミクロは呆れるように息を吐い
た。
11
「怪我には慣れてるから問題はない」
路地裏では散々痛めつけられたミクロにとって怪我なんて大したことはなかった。
それより稼げなかったことの方が問題だった。
アグライアはミクロの頭を軽く叩く。
「怪我に慣れているからといって怪我をしてもいい問題じゃないのよ。ミクロが怪我を
していないか私は心配なのだから。無理せず生きてちゃんと帰って来てちょうだい」
子供を諭すように言うアグライアにミクロは了解とだけ告げて今日の稼ぎを報告し
た。
一五〇〇ヴァリスの稼ぎをアグライアに手渡すミクロ。
「ありがとう、ミクロ」
アグライアはミクロの頭を撫でる。
ミクロはアグライアの気が済むまで撫でられる。
それにどういう意味があるのかはわからないミクロだが、主神であるアグライアがこ
れで満足しているのでミクロは大人しく撫でられている。
それから夕飯を食べながらミクロはダンジョンでどのように戦ったのかを詳細に報
告。
夕飯の片づけを終えてアグライアはミクロに言う。
12 第二話
「それじゃ、【ステイタス】の更新をするわよ」
上着を脱いでベッドでうつ伏せになるミクロの上を跨るアグライアは指先を斬る。
神聖文字
ヒエログリフ
眷属であるミクロの背中に刻まれている【
】を塗り替え付け足して能力を向
上させる。
ミクロ・イヤロス
Lv.1
力:I12↓I16
耐久:I14↓I20
器用:I21↓I31
敏捷:I19↓I28
魔力:I1↓I3
基本アビリティである『力』『耐久』『器用』『敏捷』『魔力』。
アグライアは毎日ミクロの【ステイタス】の更新を行っている。
ほんの少しでも生きて帰って来れる可能性を上げる為に自分が出来ることと言った
らこれぐらいしかないと思ったからだ。
順調に伸びている【ステイタス】を更新していくアグライアはちゃんと成長している
ことに喜ぶ。
13
やっぱり、これはどうにかしたいわね・・・・。
アビリティの下の項目に視線を向けるアグライア。
呪詛カース
《
》
【マッドプネウマ】
・対象者の精神汚染。
・使用中一時的ステイタス低下。
・詠唱式【壊れ果てるまで狂い続けろ】
・解除式【狂い留まれ】
《スキル》
破壊衝動
カタストロフィ
【
】
損傷ダメージ
・一定以上の
により発動。
損傷ダメージ
・
を負う度、全アビリティ能力超高補正。
・破壊対象が消えない限り効果持続。
呪詛カース
。『魔法』と同じく詠唱を引き鉄にして放たれる。炎や雷、能力補助などを始めとし
た通常魔法とは一線を画する。
それこそ『呪い』というべき効果を発揮する。
支障
デメリット
混乱、金縛りなど戦闘において致命的な
を負わせる。
14 第二話
何より厄介なのは防ぐ手立てと治す術が限られているということ。
呪詛カース
その
をミクロは発現させていた。
破壊衝動
カタストロフィ
そして、スキル【
】。呪詛カース
どちらも破壊を目的とした
とスキル。
【ステイタス】に表れる程の辛い思いをミクロはしてきたのだとそう思わされるばかり。
あの路地裏でミクロはどんな生活を送ってきたのかはこの【ステイタス】を見てアグ
ライアは悟った。
そして、決めた。
この子
ミ
ク
ロ
例え何があろうと
の支えになってあげようと。
「はい。もういいわよ」
【ステイタス】の更新が終わり、写した紙をミクロに見せるがミクロは特に表情を変える
ことなくこんなものかと納得した。
恩恵ファルナ
呪詛カース
ミクロは『
』を刻まれる際に
とスキルのことは知らされていた。
だが、主神であるアグライアの指示で使用するつもりはなかった。
「ミクロ。今日はもう寝ましょう。明日もダンジョンに向かうのでしょう?」
「わかった」
ソファへ寝ころぶとすぐに寝息を立てるミクロ。
15
アグライアは同じベッドで寝ようと思っていたが、路地裏生活が長かったミクロに
とってベッドは逆に寝づらかったらしい。
「明日はミアハのところへと行ってみようかしら」
自分の神友の一人である【ミアハ・ファミリア】主神のミアハに会ってミクロのこと
を相談でもしようかと考えていると気が付けばアグライアは深い眠りに落ちていた。
「と、いうわけなのよ、ミアハ」本
拠ホーム
翌日。アグライアはミクロが
を出た後、【ミアハ・ファミリア】の主神ミアハにミ
クロのことについて相談に来ていた。
「うむ。それは深刻な問題だな」
長身でしなやかな体格で群青色の髪の男神ミアハ。
施薬院の【ファミリア】で都市で中堅の規模と力を持つ【ファミリア】の主神であり、
無自覚で女性を誑し込む神でもある。
16 第二話
「そなたに【ファミリア】ができたのは私も嬉しいがまさか数日で子の相談に乗るとは。
よほどそなたは子を気に入っているのだな」
「当然よ。なんだって私の初めての眷属よ……って、話をすり替えないでちょうだい、ミ
アハ」
さりげなく話をすり替えようとしたミアハに頬を膨らませるがミアハは笑みを浮か
ばせたまま謝罪した。
「すまぬ、そなたの怒った顔が美しくてな、つい」
天界で会って以来碌に顔を合わせなかったミアハとアグライアは互いにこうして
ゆっくりと会話するのは久しぶりであった。
「まったく、変わらないわね。ミアハ」
呆れるように息を吐くアグライア。
「さて、それでは話を戻すとしよう。ミクロと申したな?そなたの子は」
「ええ、ミクロ・イヤロスよ」
先ほどまでのアグライアの話を聞いたミアハは目を瞑り、しばらく考えた後でアグラ
イアに言う。
「アグライアよ。私の子とパーティを組むという案はどうだろうか?」
「ええ、それはこちらも助かるけど、理由を聞いてもいいかしら?」
17
一人ではなく数人でダンジョンに行くことで一人で背負う負担が小さくなる。
人数も多いければ余裕も持てるようになってモンスターの対処も変化する。
冒険者にとってパーティを組むというのは常識だ。
「なに、単純な話だ。ミクロはアグライアと出会うまで一人だったのであろう?なら、人
を知り、世界を知ればおのずと答えは見つかると私は思う」
「……外からあの子の心を治そうというわけ?確かにいい案だろうけど上手く行くのか
しら?」
「それは実際に試してから考えよう」
ミアハの案に大丈夫なのかと不安を抱くアグライアにミアハは落ち着いた様子でア
グライアを落ち着かせる。
すると、ミアハとアグライアがいる部屋のドアをノック音が聞こえた。
「……失礼します、ミアハ様」
犬
人
シアンスロープ
部屋に入ってきたのは眠たげな表情をした
の女の子。
「おお、ナァーザ。よいところに来てくれた」
犬
人
シアンスロープ
「その
の子はミアハの眷属なの?」
「ああ、名をナァーザと言う。アグライア、先ほどの話だがナァーザとそなたの子でパー
ティを組ませようではないか」
18 第二話
話が全く見えてこないナァーザは首を傾げるがすぐにミアハとアグライアが説明を
する。
「お願いできないかしら?」
「私からも頼む、ナァーザ。神友のアグライアの頼みを無下にはできぬ」
「……私で良ければ」
二人の神に頼まれて了承するナァーザにミアハとアグライアは良かったと安堵する。
19
第三話
犬
人
シアンスロープ
【ミアハ・ファミリア】の
のナァーザと【アグライア・ファミリア】のミクロはそ
れぞれの主神の命により、二人でダンジョンに潜っていた。
ナァーザはLv.1でも後半の方で【ステイタス】も当然ミクロより高い為、ナァー
ザは内心で少し得意げに笑っていた。
派閥は違えど新人であるミクロに先輩として指導しようと考えていた。
ナァーザの使用武器は弓でミクロはナイフと投げナイフ。
遠距離でサポートしつつ指導しようとナァーザは考えていた。
『ギィャ!』
『ギャギャ!』
ダンジョン五階層で襲いかかってくるゴブリン、コボルト、ダンジョン・リザードを
ミクロは的確に急所を狙って倒していた。
それはもうナァーザの援護が必要ないほどに。
だけど、ミクロの戦い方が普通じゃなかった。
倒せるモンスターは素早く倒して、危ない攻撃は躱すものの、自らモンスターの口に
20 第三話
腕を喰いつかせて動きを封じてから倒していた。
自分を傷つけながらモンスターを倒していた。
下手をすれば腕を噛み千切られてもおかしくないそんな行動をミクロはずっと行っ
ていた。
時には投げナイフで牽制や蹴りなども放つが戦い方が危なすぎる。
でも、ナァーザが一番気になるのはそこじゃなかった。
モンスターを倒すにしろ、何らかの反応はある。
それが新人なら当然だ。
だけど、ミクロは返り血を浴びても顔色どころか眉一つ動かさずにモンスターを葬っ
ていた。ただ作業をこなすかのようにモンスターを倒していた。
「…………」
そんなミクロがナァーザは少し薄気味悪くなった。
ミクロのことはミクロの主神であるアグライアからだいたいは聞いていたけどここ
までとはナァーザは思ってなかった。
次第にミクロの手によってモンスターは倒されて、休憩を取ることにした。
「……どうしてあんな戦い方をしてるの?」
「効率がいいから」
21
昼食を取りながらナァーザはミクロの戦い方を尋ねるとミクロは素っ気なく答えた。
「わざわざ攻撃を躱すより、ワザと喰らって動きを封じた方が確実に倒せる」
「…………」
問題ないかのように答えるミクロにナァーザは何も言えなかった。
少なくともナァーザはそんな戦い方はしない。いや、したくもなかった。
それを平然とやってのけるミクロはやはりおかしい。
正直、ナァーザはあまり関わり合いになりたくなかったが主神であるミアハに。
『ミクロと仲良くしてやりなさい。ナァーザの方が年上なのだから』
そう言われていた。
それからナァーザは昼食を取りながらもミクロに質問した。
「ナイフの扱い方はどうやって覚えたの?」
「俺をいたぶって楽しんでいた冒険者の中にナイフで斬りつけてくる奴もいたからいつ
のまにか体が覚えていた。体術も同じ。あいつらは死なない程度に痛めつけるのが上
手かった」
「…………」
聞くんじゃなかったとナァーザは後悔した。
だけど、聞けば聞くほどミクロは悲惨な生活をしているんだなとも思ってしまった
22 第三話
ナァーザ。
「………」
「………」
なんて声をかければいいのかわからなくなったナァーザ。
互いに無言になるミクロとナァーザ。
静かなダンジョンの中で昼食を食べているミクロの粗食音だけが響く。
どうしようと悩むナァーザ。
そのことを気にも止めずに淡々と昼食を食べ続けるミクロ。
「わ、私に何か質問ある・・・?」
精一杯思考を働かせて尋ねるナァーザ。
ミクロは視線を一度ナァーザに向けるがすぐに元に戻す。
「ない」
一言でナァーザの言葉を一蹴した。
それを聞いたナァーザの尻尾は怒りを表しているかのように逆立つ。
せっかく考えて聞いているのに素っ気なく答えるミクロにナァーザは苛立ちを感じ
ていた。
「好きな食べ物は何?」
23
「喰えれば何でも」
「好きな本は?」
「本なんて読んだことない」
「お勧めのお店ってある?」
「知らん」
「ゴブリンとコボルトどっちが可愛い?」
「興味ない」
「ミアハ様ってイケメンだよね」
「さぁ?」
「ポーション飲む?」
「飲む」
全然会話が続かなく全て一言で片づけられてしまう。
会話を繋げようとする気がないのか、面倒なのかはナァーザはわからなかった。
それでもナァーザは頑張ってミクロと仲良くなろうと質問した。
「アグライア様のことどう思ってる?」
「………」
そこで初めてミクロに変化があった。
24 第三話
悩んでいるかのように見えるその表情。
ナァーザはその答えを待っているとしばらくしてミクロが口を開いた。
「………わからない。ただ俺には眩しい女神だと思う」
絞り出したかのように答えるミクロにナァーザはほくそ笑む。
そして理解した。
ミクロ・イヤロスは自分以外との関わり方がわからないだけなのだと。
手を伸ばしてミクロの頭を撫でるナァーザ。
「続き…しようか?」
コクリと頷くミクロ。
昼食が終えた二人は装備を整えてもう一度モンスターと戦う。
モンスターに向かっていくミクロの背後からナァーザは弓矢を構えて矢を放った。
連携が取れているわけではなかったが、ナァーザは今はこれでいいと思いながら次の
矢をモンスターに放つ。
25
ミクロとナァーザはダンジョンから地上に戻った時はすでに夕日が沈みかけていた。
随分長く潜っていたのだとナァーザは思いながらまずは二人でギルドへと向かい換
金を行った。
二人で一日潜って二一〇〇〇ヴァリス。
本拠ホーム
一人一〇五〇〇ヴァリス分けて二人は自分達の
へと向かう。
報酬に尻尾を揺らすナァーザの隣をミクロは平然と歩いているとミクロとナァーザ
の正面にいきなり中年の冒険者達が現れた。
「よぉ、クソガキ。最近見ねえと思ったら冒険者になってたんだな」
ミクロとナァーザの前に現れたのは以前より路地裏でミクロを痛めつけていた中年
の冒険者達だった。
「それも女連れとは…羨ましいな、おい」
ニヤニヤと笑みを浮かべたままナァーザに視線を向ける冒険者にナァーザは嫌悪感
を抱きながら睨む。
「何か用?」
ミクロは冒険者達にそう尋ねると冒険者達は気に入らないかのように舌打ちする。
26 第三話
面ツラ
「チッ、相変わらず気に入らねえガキだ。まぁいい、少し
を貸せよ。安心しろ、殺しは
しねえのはお前も知ってんだろ?」
その言葉にナァーザは嫌でも気付いた。
この冒険者達はミクロを痛めつけるつもりだと。
どうにかここから離れようと思ったナァーザはミクロの手を握ってさっさと逃げよ
うと試みたがそうなる前にミクロが首を縦に振った。
「わかった。でも、こいつは関係ないから帰らせてもいいか?」
「……ミクロ!?」
ナァーザだけでも帰らせようとするミクロに冒険者達はゲズの笑みを浮かばせる。
「ああいいぜ。俺達も女を痛めつけるのは心が痛むからな」
どの口が言うか。とナァーザは内心でそう思った。
相手の冒険者達は見たところナァーザと同じLv.1だけど、ナァーザ一人で数人を
相手にすることはできない。
そんなナァーザを無視するかのようにミクロを囲んでどこかへ連れて行こうとする
冒険者達。
ミクロは一度振り返ってナァーザに告げた。
「すぐ終わるから」
27
それだけ言ってミクロは冒険者達にどこかへと連れていかれた。
「助けないと……」
ナァーザの行動は早かった。
自分の【ファミリア】に助けを求めようと駆け出すナァーザ。
「無事で…いて…」
そう願いながら走り出すナァーザ。
一方で中年の冒険者に連れて行かれたミクロは人気のない路地裏へと来ていた。
「オラッ!」
そして、待ち侘びていたかのように早速ミクロに殴りかかる冒険者。
ミクロを中心に囲むかのように円を作る冒険者達は殴る、蹴るなどで次々ミクロに暴
行を加える。
それに対してミクロは悲鳴一つ上げずにただ殴られ、蹴られている。
下手に痛がれば冒険者達は余計に楽しんでしまうのを知っているからだ。
大人しく殴られ、蹴られていれば次第に飽きてくることもミクロは知っていた。
ミクロは殴られ、蹴られながらもナァーザを逃がすことができて良かったと思ってい
る。
万が一にナァーザに何かあれば【ミアハ・ファミリア】に迷惑がかかる。
28 第三話
中堅の実力を持つ【ミアハ・ファミリア】。その主神と神友同士のアグライアにまで何
らかの被害が出るかもしれない。
だからこそ安堵した。
ナァーザを無事で帰すことができて。
「へへっ!本当に泣き声一つ叫ばねえな、ガキ!」
「ああ、相変わらずいい感じにストレス発散出来るぜ!」
ミクロを殴り飛ばす冒険者達はミクロに暴行を加えることに楽しくなってきていた。
だけど、それはすぐに終わりを告げた。
ドクン、と心臓が跳ねるように鳴った。
殴られて動きを止めるミクロを訝しむ冒険者達。
心臓が鳴ると今度はミクロの全身に巡るようにある感情がミクロを支配した。
─────壊したい。
その衝動がミクロを支配した。
「何止まってんだ!?クソガキ!」
動きを止めたミクロに苛立った冒険者はミクロを殴ろうと接近すると同時にミクロ
の拳が冒険者の腹に入り冒険者を壁へと叩きつけた。
「──────へっ?」
29
その光景に呆ける冒険者達。
冒険者になってまだ数日のミクロがだいの大人を壁へと叩きつけた。
今までミクロを痛めつけてきた冒険者達はミクロの初めての反撃に驚くがミクロに
はそんなことどうでもよかった。
ただ、目の前の冒険者達を壊したい。
その感情が衝動に駆られるようにミクロは動き出した。
「このクソガキ、よくも!」
剣を持って斬りかかろうとする冒険者の剣をミクロは素手で掴む。
剣を握った手から血が流れるミクロは気にも止めていなかった。
今更この程度気に留めることもないのと、それ以上に目の前の冒険者を破壊したかっ
た。
ゴキリと鈍い音が路地裏に鳴り響く。
「ウギャアアアアアアアアアアアッッ!」
足を折られて悲鳴を上げる冒険者を無視してまだ壊れていない冒険者に視線を向け
る。
「なんなんだ・・・なんなんだ、テメエは!?」
怒鳴り声を出す冒険者達は知らなかった。
30 第三話
呪詛カース
ミクロが恩恵を刻まれて『
』と『スキル』を持っていたことを。
その『スキル』が今、発動していることに。
破壊衝動
カタストロフィ
─────『
』。
損傷ダメージ
損傷ダメージ
ミクロが持つスキルで一定以上の
により発動するこのスキルは
を負う度、全
てのアビリティ能力が超高補正される。
そして、破壊する対象が消えない限り効果は続く。
「・・・・うああああああああっ!」
逃げようと逃亡を図る冒険者にミクロは投げナイフを投擲する。
「ひぐっ!?」
逃亡を図ろうとした冒険者の足にミクロの投げナイフは刺さり、刺された冒険者はそ
の場へ倒れてしまう。
その冒険者に近づいたミクロは腕を取って小指を握って────折った。
「あがっ!?」
小指に続けて薬指、中指、人差し指、親指と順番に指の骨を折っていくミクロは折り
終わると今度は反対側の指を折り始める。
この光景に先にやられた冒険者達は恐怖に震えて動けなかった。
表情一つ変えずに壊しておくミクロ。
31
そのミクロに指を折られた冒険者は泣きながら命乞いをした。
「た……頼む………もう二度と……しねえ……俺達が悪かったから………もう、やめて
くれ……殺さないでくれ……」
このままだと嬲り殺されると思った冒険者にミクロは答える。
「大丈夫。殺さない程度に壊す方法はお前達が教えてくれた」
そう言って冒険者のポケットからポーションを取り出したミクロはそれを冒険者に
飲ませて折れた指を元に戻す。
そして、もう一度同じように小指から折り始める。
「────────ッッ!!」
絶望しかなかった。
終わることがない拷問に近いそれに絶望以外何も感じなかった。
指を折り、今度は手を折って、腕を折る。それが終われば今度は足の骨を指から折っ
て行き大腿骨まで折るとまたポーションを飲ませる。
ポーションを飲むことを拒もうとしても無理矢理の口の中に入れられて手足の骨が
元に戻る。それを確認したらまた折る。
ボキ、パキ、ゴキと路地裏に響く鈍い音。
骨を折られている冒険者はもうどの骨を折られているのかさえわからなかった。
32 第三話
「さて、次はどこを壊そうか……」
手足の骨を折り終えたミクロは今度は肋骨に手を当てて折ろうと力を入れる。
「やめなさい」
折ろうとしようとした瞬間にミクロの腕を掴んできた一人のエルフがいた。
「それ以上の非道は私が許しません」
ミクロは視線をエルフのエンブレムに向ける。
剣と翼のエンブレムを見てミクロはエルフが【アストレア・ファミリア】に所属して
いるエルフだと理解した。
だけど、ミクロはわからなかった。
何故関係のないこのエルフはわざわざ止めに来たのか?
普通なら関わらないように無視するはずなのにわざわざ割り込んできた。
「………」
少し考えてミクロは納得したかのように頷くと近くに倒れている冒険者の仲間をエ
ルフに渡した。
「やる」
「………?」
その行動と言葉の意味が理解できないエルフは首を傾げる。
33
「お前も痛めつけにきたんだろ?こいつあげるから」
「…………ッ!?」
その一言で理解したエルフはミクロの頬を叩いた。
ミクロは痛めつける獲物が欲しいと思ってエルフに冒険者を渡した。
それなのに何故頬を叩かれたのか理解できなかった。
「貴方は・・・自分が言っていることを理解しているのかッ!?」
怒鳴るエルフに首を傾げるミクロはますます理解出来なかった。
「獲物が気に入らなかったのか?」
「違う……」
「もしかしたら金が欲しいのか?」
「違う………ッ」
「装備品でも狙っていたのか?」
「違う!」
何が欲しいのかと思ってエルフに問いかけるミクロだが全て否定された。
エルフの言葉が理解できないミクロは首を傾げる。
「じゃ、何でここに来た?邪魔するならどこか行ってくれ。お前に迷惑はかけないから」
それだけを告げてもう一度壊そうと冒険者に振り向くミクロ。
34 第三話
「──ッ!?」
だが、後ろか襲ってきた衝撃にミクロの意識は遠くなり、気を失ってしまう。
ミクロの意識を絶たせたエルフに冒険者達は近寄る。
「た、助かったぜ、ありがとうな、エルフの嬢ちゃん」
「貴方方もすぐにここから消えなさい。事情はどうであれ今の私は少々気が立ってい
る」
殺気を冒険者に当てるエルフに腰を引かせてすぐに去って行く冒険者達。
「ちょっとリオン!いきなり飛び出さないでよ!?」
「すみません、アリーゼ」
擦れ違うかのように路地裏へとやってきた少女、アリーゼにリオンは謝罪する。
「まったくもう!……ってこの子誰?リオンが助けたの?」
気を失っているミクロを指すアリーゼにリオンはどう説明しようかと考える。
「被害者であり……加害者でもあります……」
「何よ、それ?まぁいいわ、見たところ冒険者みたいだしギルドへ連れて行けばどこに所
属しているかはわかるでしょう」
「そうですね」
リオンはミクロを背負って同じ【ファミリア】のアリーゼと共にギルドへと歩き出す。
35
第四話
「なるほど、事情は理解出来ました。神アグライア」
路地裏から出てギルドへと向かっていた【アストレア・ファミリア】所属のリューと
アリーゼはミクロの主神であるアグライアと【ミアハ・ファミリア】のナァーザとその
仲間達と遭遇した。
それからミクロを【ミアハ・ファミリア】に連れて行き、ナァーザが手当てをしてい
る間にリューは路地裏で起きた出来事をアグライアに報告した。
アグライアもミクロのことについてリューとアリーゼに説明するとリューは納得す
るように頷いていた。
「私の子を助けてくれたことには礼を言うわ。ありがとう。でも、この子には悪気はな
いのよ」
「わかっています。事情が事情ですから主神であるアストレア様には簡潔にしか報告致
しません」
「助かるわ」
路地裏で起きた出来事を出来る限り秘密にすることを約束したアグライアは安堵す
36 第四話
る。
まさか、数日でもう事件を起こすとは意外に目が離せられないミクロに今後のことを
考えると少し苦労するなと思ったアグライアだった。
「……アグライア様、終わりました……」
「ありがとう、ナァーザ。貴女ももう休みなさい」
「でも……」
「貴女が責任を感じることはないわ。貴女が教えてくれなかったらミクロはもっと酷い
めにあっていたのだから」
ミクロと離れたナァーザは自分の【ファミリア】とアグライアにミクロが冒険者達に
連れて行かれたことを伝える為に街中を必死に駆け出していた。
今でもミクロの手当てをしてくれたことにアグライアは感謝こそして恨んではいな
かった。
「………はい」
頭を下げて自室へと行くナァーザを見送った後、アグライアは寝ているミクロの部屋
へと足を運ぶ。
寝息を立てているミクロの頬を優しく撫でるアグライアは運が良かったと思った。
『スキル』が発動したミクロよりLv.の高いリューとアリーゼに発見されたことに。
37
あのままだとミクロは冒険者達の原型を留めることなく破壊を続けていたかもしれ
ない。
そうなればどうなっていたかと思うと寒気が襲った。
ミクロの主神である自分がしっかりしないといけないはずなのにミクロに大変な目
に遭わせてしまった。
「主神……失格ね………」
まだまだ自分には足りない物が多い。
そう自覚させられたアグライア。
「神アグライア。貴女に一つ頼みたいことがあります」
「何?私に出来ることで良ければだけど」
アグライアに頼みごとをしようと声をかけるリューにアグライアはミクロを助けて
くれた恩を少しでも返そうとそれに応えた。
「この少年、ミクロ・イヤロスを私に鍛えさせて欲しい」
リューのその言葉にアグライアとアリーゼは一驚するがアリーゼはすぐにリューの
肩を掴む。
「ちょっとリオン!あんた何言ってるの!?」
他派閥であるミクロをリューは鍛えたという申し出に驚くアグライアはその真意を
38 第四話
リューに問いかけた。
「彼を見て放っておけないとそう確信しました。だから彼を鍛えたい」
神に嘘はつけない。
リューの言葉は紛れもない本物で本気でミクロを鍛えたいという気迫をアグライア
は感じた。
「あんたって本当に生真面目なんだから……」
「すみません、アリーゼ」
生真面目なリューに呆れるように息を吐くアリーゼ。だが、すぐに笑みを浮かばせ
た。
「まあいいわ。あんたがそこまで言うなら私は何も言わないわ」
「ありがとうございます、アリーゼ」
友人であるアリーゼに礼を言うリューにアグライアは腕を組んで思案した。
正直、リューの申し出はありがたかった。
主神であるアグライアでは出来ることは限られているし、常に共に行動できるわけで
はない。それに素人同然のミクロを鍛えてくれるというのならダンジョンでの生存率
も高くなる。リューとアリーゼの主神が正義と秩序を司る女神アストレアだ。
信用も出来る。
39
ただ、面白くなかった。
自分の初めてできた子が他の子に染められると思うとアグライアは面白くなかった。
「…………わかったわ。ミクロのことをお願いね」
面白くなかったが許可はした。
自分の我儘で今回のことがまた起きたらアグライアは今以上に後悔するだろうし、少
しでもミクロには普通の幸せを味わってほしかった。
ミクロの為にアグライアは渋々にリューの申し出を許可した。
「ありがとうございます、では今日はこれで」
「失礼します。アグライア様」
リューとアリーゼはその場を去って行くとアグライアは疲れたかのように椅子に座
るとミアハが茶を持ってきた。
「随分と落ち込んでいるではないか、アグライア」
「それは落ち込みもするわよ。自分がこんなにも不甲斐無いと思わされるなんて」
茶を受け取るアグライアにミアハはいつもと変わらずに微笑む。
「私も初めはそうであった。これからミクロと共に知って行けばよい」
「………そのミクロも今の子に取られそうなのよね」
むぅ、と唇を尖らせるアグライアにミアハは一笑する。
40 第四話
「典雅と優美を司るそなたがヤキモチとは。子を得てそなたも変わったものだ」
神界では見たことにないアグライアの新しい一面を知ったミアハ。
その本人であるアグライアは自覚はなかったが、アグライアにとってミクロは自分に
は欠かせれない存在になっていた。
路地裏で出会ったミクロ。
女神としても個人的にもアグライアはミクロを放っておくことができなかった。
だからこそ、声をかけて眷属にした。
数日とはいえミクロと一緒に過ごしただけで依存と言える程アグライアはミクロを
愛している。
子として、眷属として見捨てるつもりはないのだが、だからといって自分以外の誰か
にミクロが染められると思うと面白くなかった。
「この気持ちをミアハにぶつけても構わないかしら?」
「うむ。普通に断るぞ」神
友ミアハ
感情を目の前にいる
にぶつけようと愚痴をこぼすアグライア。
もちろんそんなことをするつもりはなかったのだが、それでも。
「やっぱり………面白くない………」
「生憎酒は持ち合わせてはないが茶なら付き合おう」
41
「………お願いするわ」
その夜、アグライアはやけ酒ならぬやけ茶をすることにした。
その次の日。
「私の名はリュー・リオン。今日から貴方を鍛えることにしました」
「ミクロ・イヤロス。話はアグライアから聞いた」
目を覚ましたミクロは主神であるアグライアからリューがミクロを鍛えるという話
がついていることを聞いていた。
「神々や目上にはしっかり敬語を使いなさい」
早速ミクロに注意するリューだが、ミクロは首を傾げた。
「敬語って何?」
「………」
まずは勉学から学ばせようと強く思ったリュー。
42 第四話
だけどその前に聞いておきたいことがあった。
「昨日のこと覚えていますか?」
「覚えてる」
なら話は早いとリューは率直にミクロに問いかける。
「何故あのようなことをなさっていたのですか?」
昨日の夜、ミクロは中年の冒険者達を痛めつけていた。
骨を何度も折るなどの非道な行為をリューは知っておかなければならなかった。
「壊したかった。目の前にいたあいつらを。ただそれだけ」
平然と何も問題ないかのように答えたミクロにリューは今までにない恐怖を感じた。
ダンジョンでモンスターと戦っている時や人と戦っている時とはまた違う恐怖を。
だけど、アグライアからミクロの事を聞いていたリューは怖気ずくことはなかった。
長い路地裏生活でミクロは何が正しいのか、何が悪いのかミクロは知らないのだ。
要は何も知らない無知なだけなのだとリューは気付いた。
なら、これから知って行けばいい、自分が教えて行けばいいとリューは思った。
「……わかりました。それでは参りましょうか」
「わかった、リュー」
まずは常識を教えて行こうとリューは動き出す。
43
だけど、リューは気付いていなかった。
自分の背後に親友であるアリーゼがついてきていることに。
「リオン。私は心配だわ。どこか抜けているあんたが何かを教えることなんてできるの
?」
アリーゼはリューがきちんと物事を教えられるかが心配で仕方がなかった。
44 第四話
第五話
リューがミクロを鍛え初めて約半年が経過していた。
リューはミクロに常識からマナー、作法、勉学、武器の扱い方や戦い方、ダンジョン
の知識など自分が知っていることをミクロに叩き込んだ。
そして、現在ミクロはダンジョン七階層でキラーアントの大群と戦っていた。
『ギィィ!』
襲いかかってくるキラーアントの攻撃をミクロは素早く回避。
すぐさまナイフで斬りかかる。
その光景をリューとアリーゼは少し離れたところで見ていた。
「凄いわね。普通ならパーティ組んで倒すんだけどソロでここまで来れるようになるな
んてね」
冒険者になって半年で七階層でキラーアントの大群と戦っていることに素直に称賛
するアリーゼだが、リューは首を横に振った。
「いえ、彼は既にソロで10階層でも通用する実力は持ち合わせています。今日は11
階層を目指す為の訓練です」
45
ミクロを鍛えたリューは既にミクロの実力が10階層で通用することを承知してい
た。
だけど、その事実を今知らされたアリーゼは驚きを隠せなかった。
「教えたことをすぐに会得する吸収力、それを使いこなす器用さ。彼には冒険者として
の才能があります」
現在の【ランクアップ】の世界最速はアイズ・ヴァレンシュタインの一年。
もしかしたらその記録を超すかもしれないと思った。
「だけど、彼は冒険者として大切なものが抜けている」
「恐怖・・・それと生の執着ね」
アリーゼの言葉に頷くリュー。
この半年間でミクロは確かにいい方向へと変わった。
だけど根本的なところはどうすることもできなかった。
ミクロは痛みに恐怖を感じない。
死ぬことに恐れがない。
冒険者にとってそれは致命的だった。
半年前みたいに自らを犠牲にして戦う危ない戦い方はしていないもののそれでも見
ているリュー達が心配するほど危なっかしい戦い方をしていた。
46 第五話
「まぁ、あんたが鍛えているんだからそう簡単には死にはしないわよ」
ミクロの根本を正すことができなかったリューをアリーゼは励ます。
「ありがとうございます、アリーゼ」
励まされたリューの表情に少し明るくなったのを見たアリーゼは笑う。
「リュー、終わった」
キラーアントの大群を倒してリューとアリーゼに駆け寄るミクロ。
腕に怪我をしていることを発見したリューはポーションを取り出してミクロに渡す。
「怪我をしたらすぐに治しなさい。もっと自分を大切にしなければ神アグライアが悲し
みます」
頷き、ポーションを受け取るミクロ。
ポーションを飲みけがを治すミクロにリューは安堵するように息を吐く。
「あらあら、随分とこの子に肩入れしてるわね、リオン」
親友のほんの僅かな変化に気付いたアリーゼは意地悪な笑みを浮かべる。
「な、何を言っているのですか!?アリーゼ!」
見抜かれたリューの気持ちにアリーゼはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべたまま。
「ううん、別にいいのよ。半年も付きっきりならそう思うのも無理はないわよね。ミク
ロは素直で可愛いもの。私はあんたを応援するわよ、リオン」
47
親指を立てて応援する親友にリューの顔は真っ赤になった。
「?」
何を話しているのかミクロは理解できなかったが、きっと何かあるのだろうと勝手に
納得していた。
頬を赤く染めながらリューはコホンと咳払いする。
「ミクロは弟、もしくは弟子だ。アリーゼが想像しているようなことではありません」
「ふ〜〜〜ん、まぁ、そういうことにしといてあげるわ」
笑みを浮かべたままそういうことにしておいたアリーゼは不意にミクロの肩に手を
置く。
「リオン。悪いけど明日一日この子を私に貸してちょうだい」
「それは構いませんが、ミクロはいいのですか?」
「問題ない」
首を縦に振って肯定するミクロ。
「あんたなら……きっと……」
ミクロの傍でアリーゼがぼそぼそと何かを言っていたが聞き取ることができなかっ
た。
本拠ホーム
帰り道にモンスターを倒しながら三人はそれぞれの
へと帰宅した。
48 第五話
「おかえりなさい」
「ただいま……戻りました」
まだ慣れない敬語を使うミクロにアグライアは微笑む。
「無理して敬語を使うことないわよ。私もそちらの方が嬉しいわ」
「わかった」
敬語で話すことを止めたミクロは早速【ステイタス】の更新をしながら今日の事と明
日アリーゼに一日付き合うことを話すとアグライアは不機嫌そうに頬を膨らませた。
「ふ〜〜ん、要はその子とデートに行くってことね」
「荷物持ちだと思う」
ミクロは何度かアリーゼと買い物に付き合ったことがあったが基本的荷物持ちだっ
た。
明日もそうだろうとミクロは思っていた。
だけど、例えそうだとしてもアグライアは面白くなかった。
ミクロはこの半年で確かに変わった。
きちんと成長していることにアグライアは嬉しかったし、鍛えてくれているリューに
は感謝もしている。
だけど、それとこれは別だ。
49
アグライアもミクロと買い物したり、何か食べに行ったりしたい。
嫉妬だということは理解しているが納得しろというのは別問題だ。
そうこう考えている間に更新中の【ステイタス】を見る。
ミクロ・イヤロス
Lv.1
力:D550
耐久:C612
器用:B778
敏捷:B745
魔力:D512
「………」
アグライアはミクロの【ステイタス】を見てミクロがこの半年でどれだけ努力してい
るのかはこの【ステイタス】を見て理解出来る。
ミクロがこの時点で既に【ランクアップ】出来る資格を手に入れた。
才能もあり、その才能に頼らずにミクロは努力し続けてきた結果。
後は偉業を成し遂げればミクロはLv.2になるとも確信できる。
だけど、まだ速すぎる。
50 第五話
これ以上加速的にミクロが成長すれば娯楽に飢えた神々がミクロを狙ってくる可能
性がある。幸い、アグライアは美の神でもある。
自分が動けばそう簡単にミクロに手は出さないだろうが、不安も生じる。
女好きである【ロキ・ファミリア】の主神のロキは恐らくは問題はないだろう。
むしろ、下手に関わった方が頭のキレるロキが何かを勘ぐられる可能性がある。
問題は【フレイヤ・ファミリア】の主神であるフレイヤだ。
もし、フレイヤがミクロを気に入ったら何が何でも手に入れようとしてくるだろう。
「まったく……どれだけ神は娯楽に飢えているのよ」
「何か言った?アグライア」
「何でもないわ」
ぼやくアグライアだが、自分もその神の一人だと思うと頭が痛くなった。
取りあえずはこのまま様子を見るしかないとアグライアは思い、【ステイタス】の更新
を終わらせる。
「さぁ、夕食にしましょう」
「わかった」
今はこの一時の日常を大切にしていこうとアグライアは思った。
51
「さぁ、次に行くわよ」
「了解」
アリーゼとの約束はミクロの予想通り荷物持ちだった。
次々買い物を済ませるとそれを全てミクロに持たせるアリーゼ。
人間
ヒューマン
一般の
より体格が優れず、小柄なミクロにとってはこの買い物は困難なものだっ
た。
そもそもミクロは何故こんなにも買う物があるかさえミクロには理解できなかった。
何十着も服なんてあっても邪魔なだけだろうとさえミクロは思った。
前にミクロはそのことをリューに言ったら。
『女には色々必要なのです。特にアリーゼは』
遠い目でそう言っていた。
それでもミクロは文句を言わずに荷物を抱えてアリーゼに付き添う。
「次はあそこよ」
52 第五話
摩天楼
バ
ベ
ル
を指すアリーゼに連れられミクロは【ヘファイストス・ファミリア】の武器・防
具が売られている4階へとやってきた。
展示されているどの武器・防具は数千万ヴァリスはする【ヘファイストス・ファミリ
ア】の武具。
アグライアから聞いていた通り高いんだなとミクロは納得した。
ミクロが現在使用しているナイフと投げナイフは【ゴブニュ・ファミリア】の武器。
主神であるアグライアが借金をしてまで買ってくれたナイフは下級冒険者が持つに
は十分すぎるほどの武器だった。
ここに来たということは装備を整える、もしくは変えるのだなとミクロは思った。
【アストレア・ファミリア】は都市でも名の知れた【ファミリア】。
ここぐらいの武具でないとダンジョン攻略は難しいのだなとミクロはそう考えてい
た。
アリーゼの選ぶ武具を今後の参考にしようと思っていると。
「さぁ、あんたの好きな武具を選びなさい」
突然アリーゼがそう言ってきた。
下級冒険者で日頃の生活費がやっとでここ最近になって少しは余裕が持てるように
なったからとはいえ、数千万ヴァリスもする武具なんてミクロには到底買えなかった。
53
「安心なさい。特別にこの私が買ってあげるから好きなのを選びなさい」
「どうして?」
率直な意見を言うミクロ。
懇意の中とはいえ他派閥でそれも下級冒険者に数千万ヴァリスもする武具を買って
やるなんて何かあるとしか思えなかった。
「いいから素直に私に甘えなさい!一生に一度しかないチャンスをこ・の・私が与えてあ
げてるんだから!」
大げさなと思いながらミクロはアリーゼの言葉通りその言葉に甘えることにした。
全身鎧
プレートアーマー
革
鎧
レザーアーマー
剣や槍はもちろん、
から
。
鍛冶の【ファミリア】だけあって様々な武具が展示されていた。
何にしようかと、自分にはどんなものがいいのかと悩んでいるとある物に目が留まっ
た。
革
鎧
レザーアーマー
それは
というより東洋の装束に近い。
全身が闇に紛れるのに相応しいかのように常闇の色をしていて、防御より動きやすさ
を重視しているように見えた。
そして、その隣には黒いフード。
その二つがミクロの目に留まった。
54 第五話
値札を見ると装束の方は三三〇〇万ヴァリスでフードの方は一二〇万ヴァリス。
制作者のところに椿・コルブランド。
「それがいいの?」
尋ねてくるアリーゼにミクロは頷いて肯定する。
「まぁ、あんたがいいのならいいけど」
頭に手を置きながらその二つを買うアリーゼは約束通りそれをミクロに渡した。
「さぁ、次は武器よ」
笑みを浮かばせながら今度は武器を選ぶように言われたミクロはもはや不気味さえ
覚えた。
何故こんな高い物を買ってくれるのかわからなかった。
ダンジョンではそんなにも金が手に入るのか?
もしくはこれをネタに何かしてくるのではないかとさえ覚えた。
疑心暗鬼になるミクロだが、何も言わず武器を選んでいると一つの鎖分銅を見つけた
ミクロはそれをアリーゼに言う。
「これがいい」
「鎖分銅……さっきといいあんたは何を基準で選んでいるのよ……」
呆れるように言うアリーゼだが、鎖分銅も買った。
55
摩天楼
バ
ベ
ル
高い武具を買ったアリーゼとミクロは
を出るとアリーゼはミクロを連れて人
気のないところへと連れて行くとアリーゼはミクロと向かい合う形でミクロに問いか
けた。
「ねぇ、あんたはリオンのことどう思っているの?」
「どう、とは?」
唐突に意味深な問いかけをするアリーゼにミクロは首を傾げる。
「好きか嫌いかとか、尊敬しているとかお姉さんみたいとかそんなのよ」
「……」
考えるミクロ。
この半年間ミクロはリューから色々なことを教わった。
始めは何故こんなことをするのだろうか?
それがリューにとって何の得になるのだろうか?
そんなリューをミクロは理解できなかった。
今でもそれが理解できない。
でも、ミクロはリューに感謝はしている。
今までにないことを聞いて、見て、触って、知ることができた。
それを教えてくれたリューにミクロは感謝している。
56 第五話
「………優しいエルフ?」
考え抜いてそう結論を出したミクロにアリーゼは深いため息を吐いた。
「・・・・まぁ今はそれでいいわ。じゃ、私からのお願い、いえ、命令を聞きなさい」
拒否権なしの命令。
先程の武具はその為かと納得したミクロにアリーゼはミクロに言った。
「私に万が一のことがあったらリオンをお願いね」
「どういう意味?」
その言葉の意味が理解できなかったミクロは問いかける。
「私達は冒険者。いつ死ぬかわからない職業でしょう?それに私の所属している【ファ
ミリア】と敵対している【ファミリア】は多いのよ」
その話はミクロは既に知っていた。
秩序安寧に尽力している【アストレア・ファミリア】に敵意を抱いている【ファミリ
ア】は多いとリューから聞いていた。
「もし、私に何かあったらリオンは責任を全部一人で背負おうとするからその時は私の
代わりにあんたがリオンを止めなさい」
「わかった」
「もちろん嫌とは……って返事が早いわよ」
57
即答するミクロに呆れるアリーゼは息を吐く。
「まぁ、私は死ぬつもりなんかこれっぽちもないけど。あんたは保険よ、保険。いいわ
ね、絶対に約束は守りなさいよ」
「わかった」
首を縦に振って肯定するミクロに満足そうに頷くアリーゼは腰に掛けている小太刀
をミクロに手渡す。
「私の愛刀『梅椿』。一応あんたに託すわ」
アリーゼは自身の愛刀である梅椿をミクロに託す。
不壊属性
デュランダル
「
の特性を持っているから壊れることはないけど無くしたりするんじゃないわ
よ?」
「わかった」
梅椿を受け取るミクロにアリーゼが何故自分の愛刀を渡したのかわからなかった。
そして、何故アリーゼは悔いはないかのように満足そうにしているのか。
まるで、もうすぐ自分が死ぬことがわかっているかのよう言うアリーゼがミクロは理
解できなかった。
それから数日後、【アストレア・ファミリア】の団員が一人を除いて全滅したという情
報を知ったミクロ。
58 第五話
それからミクロの前にリューは現れることはなかった。
59
第六話
「…………」本
拠ホーム
ミクロは
のソファに座りながらずっと考え事をしていた。
『私に万が一のことがあったらリオンをお願いね』
今は亡き、アリーゼが死ぬ前にミクロに言っていた言葉がミクロは理解できなかっ
た。
何で自分にそんなことを頼んだのか?
何でアリーゼは自分が死ぬことがわかっていたのか?
何でミクロに装備一式を買ってくれたのか?
何で自分の愛刀である梅椿をミクロに託したのか?
アリーゼの言葉が、行動がミクロはわからなかった。
アリーゼが所属していた【アストレア・ファミリア】が全滅したという話を聞いた時
にその中にエルフはいなかった。
生き残った一人はリューだとミクロは何故か確信が持てた。
あれからリューとも会えていない。
60 第六話
リューは今、何を思っているのか、どうしているのかさえわからない。