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生食用食肉の取扱いマニュアル (第2版) 農林水産省 平成24年2月 初 版 平成23年7月15日 第2版 平成24年2月2日

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生食用食肉の取扱いマニュアル

(第2版)

農林水産省

平成24年2月

初 版 平成23年7月15日

第2版 平成24年2月2日

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目 次

Ⅰ 本マニュアルの趣旨 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1

Ⅱ 腸管出血性大腸菌及びサルモネラを正しく理解するために ・ ・ 2

Ⅲ 食品衛生管理を行う企業のための基本行動・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3

Ⅳ 本マニュアルの利用方法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5

Ⅴ. 守るべき基準

0.成分規格 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 10

1.加工基準 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 10

2.調理基準 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 23

3.保存基準 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 27

4.表示基準 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 28

Ⅵ. 食肉を取り扱う衛生管理の基本的な手順 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 31

食肉を扱う衛生管理の基本的な手順(手順 No1 から No10-3)

Ⅶ. チェックシート ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 51

1.始業前点検表 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 52

2.調理施設点検表 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 53

3.健康管理表 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 54

4.後片付け点検表 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 55

5.加熱加工記録表(加熱加工条件設定及び確認検査、加熱加工条件変更

設定及び検査、日常加熱加工記録) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 56

6.教育訓練記録票 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 59

Ⅷ. 参考資料 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 60

1.商品説明書(例示:牛エスニック料理(ユッケ風)) ・ ・ ・ ・ ・ ・ 62

2.従事者用ワンポイント掲示資料(例示:ポスター) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 63

3.法令関係資料 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 65

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Ⅰ. 本マニュアルの趣旨

本マニュアルは、生食用食肉(ユッケ、タルタルステーキ、牛刺、牛タタキ等調理

済み食品を含む)による食中毒の発生を防ぐためのものです。生食用食肉を取り扱う

流通業者、加工業者、スーパーマーケットや精肉店などの販売業者、生食用料理を提

供する焼き肉店、レストラン、居酒屋などの外食事業者を対象にしています。

食中毒は消費者の健康を損なうばかりでなく、原因と疑

われる食品の消費が大きく減り、当該食品を扱う産業が経

済的にダメージを受ける可能性もあります。食中毒の発生

を防ぐためには、生産、加工、流通、販売、消費のそれぞ

れの段階で食中毒を防ぐ適切な取組を行うことが大切で

す。特に、食肉を加熱せずに食べることは、食中毒発生の

可能性を大きく高めることになるので、その取扱いには細

心の注意が必要です。

本マニュアルでは、牛肉に腸管出血性大腸菌やサルモネラが

存在した場合にも、生食による食中毒の発生を防げるよう、生

食用食肉の受け入れから顧客に提供するまでの各段階におけ

る衛生管理方法とその基準を示しています。本マニュアルを積

極的に活用し、生食用食肉の新たな規格基準及び表示の基準

(Ⅷ.参考資料-3参照)に基づいて加工や調理を行い、消費

者に安全な生食用食肉を提供するようにしてください。

なお、今回、平成23年4月に発生したユッケの食中毒

事件を受けて、厚生労働省が平成 23 年 10 月に生食用食肉

の規格基準を設定したことを踏まえ、本マニュアルを改訂

しました。本マニュアルでは、その基準をわかりやすく解

説しています。今後も、厚生労働省が生食用食肉の規格基

準を見直し、新たな基準を設けた際は、本マニュアルも見

直していきます。

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Ⅱ. 腸管出血性大腸菌及びサルモネラを正しく理解するために

1.大腸菌とは 大腸菌は、人や家畜の大腸内や環境中に広く分布している微生物です。全ての種類が人

に毒性を示すわけではありませんが、いくつかの種類は、人に下痢等の病状を引き起こす

ため、病原性大腸菌と呼ばれています。病原性大腸菌には、腸管出血性大腸菌、腸管毒

素原性大腸菌など5つのタイプが知られています。

2.腸管出血性大腸菌とは 腸管出血性大腸菌O157 やO111 などは、食べた人に吐き気や下痢、腹痛といった典型

的な食中毒の症状を起こすだけでなく、ベロ毒素という毒素を出して、大腸の細胞を死滅さ

せて大量の血便を起こします。また、溶血性尿毒症症候群(HUS)という重い病気や脳症を

引き起こすこともあります。

3.サルモネラとは サルモネラは、食中毒の主な原因菌の一つです。牛、豚、鳥類などの腸管の中にいて、

乾燥や低温に強いことから、環境中でも長く生きることができます。人に感染すると、嘔吐、

下痢、発熱、脱水などの症状を示し、免疫力の低い幼児や高齢者では死亡することもあり

ます。

4.腸管出血性大腸菌やサルモネラが常在している部位について 牛の腸管の内容物から腸管出血性大腸菌やサルモネラが検出されることがあります。

そのため、牛をと殺解体する時は、食道と肛門を縛って、消化管の内容物がもれないように

してから、内臓を摘出するなど細心の注意を払って、枝肉及び内臓肉を汚染しないようにし

ています。それでも、牛枝肉が腸管出血性大腸菌によって汚染されている率は 0.2 ~ 5.2 %

程度、サルモネラによって汚染されている率は 4.0 % 程度(食品安全委員会の資料)といわれ

ています。

牛枝肉や内臓肉の生食(ユッケ等)が腸管出血性大腸菌やサルモネラ食中毒の原因と

なるのはそれらの肉の汚染によるものです。生肉の表面は、高い確率で汚染されているとい

う前提で取り扱うことがまず大切です。そして、食中毒予防の3原則(細菌を付けない、増や

さない、やっつける)を念頭に 本マニュアルに従い、腸管出血性大腸菌やサルモネラによる

食中毒を予防しましょう。

腸管出血性大腸菌 サルモネラ

(1mm の約 1000 分の 1の大きさ) (1mm の約 1000 分の 1の大きさ)

(細菌の電子顕微鏡写真提供:東京都健康安全研究センター)

2

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Ⅲ. 食品衛生管理を行う企業のための基本行動

食品を取り扱う事業者が、次の事項を守ることで、食中毒の発生やその経済的な損失を

防ぎ、顧客の満足や企業の継続的な発展が得ることができます。

1. 経営方針の明確化

経営者又は経営に係る管理責任者にとって、食品安全に関する経営方針を内外に明確に

することは、食品安全に取り組む意思表示となります。

具体的には、

(1) 自分たちの組織(以下「組織」という)の事業目的や理念を明らかにしてください。

(2) 食品安全に係る法令・規制を守るよう、従業員が理解する機会を設けてください。

(3) 経営者等は組織の食品安全に関する理念、目的、

規則等を全ての従業員に周知・徹底させてください。

2. 組織内の役割の明示

組織として、食品衛生の観点から、各担当部署では何を行うべきか、担当者の責任・権限

は何処までなのかを定めておくことは重要です。また、いざ食品安全に係る緊急事態が発生

した場合にも役立ちます。

3. コミュニケーションの向上

顧客に安全な食品を提供するためには、食品安全に関する情報を収集し、その情報を関

係者内で共有することが大切です。そのためには、常日頃から内外関係機関と良好な関係

を築き、内部での情報収集・共有・伝達方法を定めておくことが重要です。

4. 緊急事態への対応

経営者等は、食品安全に係る緊急事態が発生した際には、速やかな対応が必要です。事

故が事件に発展しないためには、緊急事態を想定した対応方針、情報の収集・伝達方法、

製品の回収手順等を明らかにし、日頃から訓練を行っておくことが必要です。

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5. 経営責任者の評価

経営者等が、食品の安全性向上への自らの取組を定期的に評価することは、組織が継

続的に事業活動を行っていくために必要です。

そのために、

(1) 経営者は、それぞれの組織がどの程度目標を

達成できているかを評価する基準を設定してください。

(2) 評価基準に基づいて、定期的に目標の達成度合いを

評価してください。

(3) 目標が達成しない場合は改善を行い、次のステップに

向け継続的に改善活動を行いましょう。

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Ⅳ. 本マニュアルの利用方法

1.自分の店舗や会社が、守るべき基準を確認しましょう! 7ページにある「生食用食肉を取り扱う事業者に適用される基準」に

したがい、上から順に「はい」又は「いいえ」で答えて、一番下に

示してあるのが、皆様が守るべき基準です。

2.守るべき基準をよく読んで、理解しましょう! 守るべき基準を、それぞれ加工基準、調理基準、保存基準、

表示基準の順に示しています。よく読んで、理解しましょう。

3.衛生管理の基本的な手順を守りましょう! 加工、調理の各工程に共通する衛生管理の基本的な手順を、「Ⅵ.食肉を扱う衛生管理

の基本的な手順」に示しました。これらを参考に、自分の店舗や会社に合った手順書を作成

して、適切に運用してください。

◎加熱加工の工程表(または標準手順書)について (Ⅶ.5.加熱加工記録表参照)

特に、加熱加工では、それぞれの施設で、受け入れる肉の

部位、鮮度、重量及び形状、湯の温度変化、加熱容器、加熱

時間、加熱温度などが異なります。こうしたことから、自らの

施設において、加工基準に合った加熱加工条件を設定する

必要があります。

本格的な加熱加工を始める前に、先ずは、自らの設定条

件が加熱加工基準を満たしているかを検査(「加熱条件の確

認検査」)し、確認する必要があります。一度確認されれば、

ロット毎に、毎回、肉塊の内部温度を直接測ったり、細菌検査

をする必要はありませんが、定期検査等による条件の確認が

求められます。

◎検査方法について

検査方法については、「加工基準の(4)加熱条件の

確認検査」、「手順書 No.9 検査手順」及び「参考

資料3・法令関係資料(生食用食肉の腸内細菌科菌群の

試験法について)」を参照ください。

なお、これら検査のうち細菌検査については、

最寄りの保健所に相談の上、信頼できる検査機関に

依頼することをお勧めします。

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4.記録を保存しましょう! (Ⅶ-5「加熱加工記録表、日常加熱加工表」参照)

① 設定した加熱加工条件

事前に加熱加工条件を設定します。 設定した条件で加工を行い、温度検査や細菌検

査を実施します。そして、加工基準が満たされたことが確認された条件の記録し、詳細を

保存します。

※ 加熱加工条件を変更する場合

一度設定した加熱加工条件を変更する場合は、最初に加熱加工条件を設定し

た時と同じ手順で、温度測定や細菌検査を行い、加工基準を満たしていることを

確認します。その記録をその都度保存します。

② 各種検査結果

①のために行った温度検査や細菌検査、その後の定期検査、日常検査などの結果を

1年間以上保存します。

③ 日々の加熱処理の記録

設定した加熱加工条件で、日々確実に加熱加工

しているかを示すため、加熱加工日時、肉の部位、

重量、形状、湯量、湯の温度、加熱時間、加熱方法等

を記録し、1年間以上保存します。

5.チェックシートで確認しましょう! チェックシートは、それぞれの工程で必要な項目が確実に

実施されたかを確認するために 活用してください。個々の事

業体で工程や施設・設備が異なっているので、各事業体に即

してチェック項目を加えたり削ったりして、自らに合ったものに

することが大切です。チェックした結果、改善すべき項目があ

れば、速やかに見直し、更なる衛生管理の向上を図ってくださ

い。

6.「参考資料」を活用しましょう! 巻末に各種参考資料を用意していますので、活用ください。

・ Ⅷ 参考-1:商品説明書

・ Ⅷ 参考-2:従事者用常用ワンポイント掲示資料

・ Ⅷ 参考-3:法令関係資料

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生食用食肉を取り扱う事業者に適用される基準

加熱加工する

はい

店頭販売する

加工基準表示基準保存基準

加工基準

調理基準表示基準保存基準

調理基準表示基準保存基準

表示基準保存基準 保存基準

調理する

いいえ

セントラルキッチン

等を有する外食チェーン店

加工卸売業 外食店そうざい店小売店

小売店 肉卸売業倉庫業運輸業

(業態の例)

調理する

はい

はいはい

いいえ

いいえいいえ

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Ⅴ. 守るべき基準

0.成分規格

1.加工基準

2.調理基準

3.保存基準

4.表示基準

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0.成分規格

(1)生食用食肉は、腸内細菌科菌群が陰性でなければならない。

(2)(1)に係る記録は、1年間保存しなければならない。

1.加工基準

この基準は、食肉の表面にいるかもしれない食中毒細菌(食中毒を引き起こす細菌)

を、一定の設備において一定の加熱方法により死滅させ、安全な生食用食肉とすること

を目的とするものです。

ただし、事業者によって設備、器具が異なることから、実際の加工条件は同じではあ

りません。事業者はあらかじめ施設における加工条件を自ら設定し、温度条件等を確か

めながら加熱後、食肉に特定の細菌がいるかどうか、試験を行います。試験の結果が、

すべて陰性であれば、加工基準を満たしたことになるので、設定した加熱加工条件の下

で、日々の業務を行うことができます。

(1)加工設備の管理

加工設備の管理において何より気をつけるべきなのは、交差汚染(材料とする食肉

からではなく、他の食肉等から器具や手指等を介して受ける細菌の汚染)を防止する

こと、および食中毒菌の増殖をおさえることです。

生食用食肉が、加工作業中に他の加熱用食肉等に付着した食中毒菌の汚染を受けな

いよう、以下のような設備、器具機材の専用化が求められます。

① 加工施設の専用化

・ 生食用食肉を加工する場所は、生食用加工専用設備として他の食肉設備と区別して

ください。

・ 生食用食肉を取り扱う場所では、加熱用牛肉、ブタ肉等を取り扱わないでください。

・ 時間帯によって他の加熱用食肉等の加工と使い分けることは禁じられています。

② 加工用器具(シンク、加工器具等)の専用化と洗浄・消毒の徹底

・ 加工用器具は、生食用食肉加工専用としてください。

・ 加工用器具の素材はステンレス製または洗浄・消毒し易い樹脂製

(不浸透、水の染み込まないもの)の素材を選ぶようにしてください。

・ 枝肉から部分肉に切り分ける作業の前後に、83 ℃ 以上の温湯

または蒸気等で、使用した器具や作業台などを洗浄・消毒してくだ

さい。洗浄と消毒を徹底することが汚染防止に有効です。

③ 施設内の衛生管理と温度管理

・ 生食用食肉の加工に従事する作業者の器具及び手洗い設備は、

他の食肉等の加工従事者が使用するものと分けてください。

・ 加工施設内の温度は、肉の温度を 10℃ 以下に抑えるように、

各自の施設に応じて温度を設定・管理してください。菌の増殖を

抑えるためには、温度の上昇を避けることが重要です。

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(2)加工従事者

生食用食肉の加工は、「食品衛生管理者」及び「認定生食用食肉取扱者」のみ行うこと

ができます。ただし、前記の者の監督下で行われる場合には、他の者が加工を行なっても

良いことになります。

① 「食品衛生管理者」とは

医師、歯科医師、薬剤師、獣医師、大学等で所定の課程を修め卒業した者など

食品衛生法第 48 条第 6 項第1号から 3 号までのいずれかに該当する者、同項

第 4 号に該当する者のうち食品衛生法施行令(昭和 28 年政令第 299 号)第 35 号

第 13 項に規定する食肉製品製造業(法第 48 条第7項に規定する製造業に限る)

に従事する者。食品衛生法で規定する食品衛生管理者と一部異なりますが、本マ

ニュアルでは以下同じとします。

② 「認定生食用食肉取扱者」とは

都道府県知事等が主催する生食用食肉(牛肉)の安全性確保に必要な知識を得る講

習を受講し、生食用食肉の取り扱いに適した知識を有したと認められた者

認定を得るための講習(標準)の内容

*生食用食肉(牛肉)の規格基準」(1時間)

*「生食用食肉(牛肉)の取扱いに係る留意事項(病原微生物の制御、加熱殺菌の

条件設定等)」(1時間)

*「食肉に関する衛生管理(腸管出血性大腸菌等のリスク、交差汚染防止対策

等)」(1時間)

ただし、加工を行なう施設の食品衛生責任者*は上記講習のうち「食肉に関する衛

生管理」の受講を省略することができます。

※食品衛生責任者

食品衛生法第50条の規定に基づいて、都道府県が条例で定めた管理運営

基準の中で、営業者に対し、施設又は部門ごとに食品衛生に関する責任者

(食品衛生責任者)の設置を義務付けています。

既に資格を持っている方もこの講習を積極的に受講し、知識を再確認しておく

ことをお勧めします。

注意

食品衛生管理者、認定生食用食肉取扱者が不在のとき、アルバイト従事者等他の従

業員が生食用食肉を加工又は調理してはいけません。

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(3)加工基準を守るための具体的な手順

① 原材料の確認

加熱加工に入る前に、使用する原材料(生食用食肉)の確認を行ってください。

まず、原料に添付された表示等を確認します。

<確認項目>

*と畜場名、と畜場所在地、と畜日、個体識別№

*部分肉を加工した加工施設名、加工者、加工者所在地、 枝肉から切り出さ

れた日時

*納入者の検査合格証明書

枝肉の細菌検査結果は以下の数値が一つの目安となります。

一般細菌数 300 個未満/cm2

糞便系大腸菌群陰性/cm2

さらに、以下の事項を確認してください。

・ 使用する原材料は枝肉または衛生的に切り出された部分肉であり、熟成されて

いない肉(と畜日からおおむね4日以内)であること。

肉温が 4℃以下、凍結されていないこと。

・ 複数の部分肉を受け入れる場合は、それらが同一ロット(同一の枝肉由来)で

あるかを確認します。

<ロットについて>

同一の枝肉に由来する部位で、同一の加熱条件で加熱処理が行われた場合、

同一ロットとみなすことができます。同一ロットの食肉は同じ状態のものと見

なされるので、加工条件を設定する際の検査は、一つの部位について検査す

ればよく、異なる部位ごとに検査する必要がなくなります。

② 加熱処理前に行なう作業 (写真1~写真4)

・ 使用する部分肉を一定の大きさに切り分け、肉塊とする(または柵取りす

る。)。

・ 肉塊または柵を衛生的な包装材に入れ真空パックする。この際、熱の

通りを良くするため十分脱気する。

加熱加工条件を設定する前処理の一例をご紹介します。自社の加工条件を決める

際の参考にしてください。

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<部分肉を加熱処理する場合の前処理>

写真1.衛生的に枝肉から切り

出された部分肉

写真2.包装パックを開けた状態

写真3.部分肉からブロック肉の切り分け

写真4.血管、脂肪分の除去

③ 加熱条件設定方法 (「生食用食肉の加熱加工条件の設定手順」参照)

ご自分の施設で、今後最もよく使う一つまたは複数の加熱条件(肉の種類や大きさ、

加熱器具、加熱方法等)を仮設定します。

その条件の下で、肉塊や湯の温度を測りながら、基準に従った加熱を行います。次

に、加熱処理した肉塊のうち生食用食肉について、自らまたは検査機関に依頼して細

菌検査を行います。検査の結果、全ての検体で腸内細菌科菌群の細菌がいないことが

確かめられれば、設定した条件が加工基準を満たしていることになります。15ページの

図を参照してください。

表示内容を確認します。

部分肉を更にブロック肉(とも三角、しん

しん、かめのこう、かぶり等)に切り分け、

余分な筋、血管、脂肪分を切除します。

筋、脂肪、血管、血液などが見られます。

部分肉を更にブロック肉に切り分ける時は、特に血

管を取り除くようにします。血管を通って、食中毒

菌が入り込むことがあるからです。また、余分な脂

肪分を除くことで、熱の通りが良くなり、加熱ムラ

を防ぐことができます。

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ア、加熱条件の設定

① 加熱処理に使用する器具(例: 10ℓ 寸胴鍋)と加熱方法(ガスコンロ等)を定めてく

ださい。次に、肉塊の量(例:部分肉 10kg、柵 2kg 等)、肉の部位(例:しんたま、うち

もも等)、形状(例:直立体)を設定してください。

② 加熱処理は、気密性のある衛生的な容器に入れ、密封し、

肉塊の表面から深さ 1cm 以上の部分までを 60℃で 2分間

以上加熱する方法、またはこれと同等以上の殺菌効果を有す

る方法で行います。その後、速やかに 4℃以下に冷却する

ことが必要です。

(参考)

厚生労働省は、基準の検討において、「250 ~ 300 g の肉塊(と殺

4 日以内のしんたま、またはうちもも部分の直立体)を、約 10 L の

湯(85 ℃ )で 10 分間の加熱殺菌後氷冷した場合に基準に達する。」

との目安を示しています。

(注意)

都道府県等は、加工基準に基づいた処理がなされるよう営業施設基準

の改正を、平成 24 年 10 月 1 日までに行うことになっています。

改正後は、許可条件の提示や各施設が改正後の要件に適合しているか

の確認検査が行われますので、その内容や時期については最寄りの保健所

等にお問い合わせください。

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生食用食肉の加熱加工条件の設定手順

加熱条件の設定 肉の部位、加熱方法などを設定

試 行 温度を測定しながら加熱

表面1cm 以上の部位、60℃ 2 分

サンプリング 25g ずつ 25 検体

細菌検査 腸内細菌科菌群陰性

再設定

陽性 陰性

業務開始 加熱条件を記録し、保存

定期検査 年に1回以上実施

25g ずつ25検体

陽性 陰性 腸内細菌科菌群陰性

再設定

通常検査 任意、1検体が25g、細菌検査

条件変更 継 続

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イ、試行(加熱条件の確認検査)(次ページの「肉塊の温度測定手順」参照)

① 処理の前に肉塊の温度を測定・記録してください。

② 加熱処理のための湯の温度は 80℃ 以上に設定することが有効です。

③ 肉塊温度を測定するには、金属センサー付きの温度測定器*を用いる方法が

適しています。センサーを肉表面から深さ 1cm 部分に刺し込み、内部の温度

を測定します。

④ センサーを刺し込んだ状態で、肉塊を食用多層収縮袋**に入れ、80℃以上の

湯に 2、3秒程度くぐらせます。すると、袋が収縮して肉塊に密着します。

⑤ 加熱容器に肉塊を投入(加熱開始)した時の湯温を測定、記録して下さい。

投入してから肉温が 60℃になるまでの加熱時間とその時点の湯温、

60℃に達して 1分間経過時の肉温と湯温、さらに 1分間経過時の肉温と湯温

をそれぞれ測定・記録します(下記参照)。

⑥ 加熱が終了したら、ただちに肉塊を氷水に投入し、急冷して肉温を 4℃以下

に下げます。

測定・記録する項目は以下のとおり。

(Ⅶ-5 加熱加工記録表をご利用ください。)

加熱開始時 肉の温度 ℃ 湯の温度 ℃

肉温度 60℃ 到達時

(開始時からの時間を記録)

肉の温度 60 ℃

加熱後 分

湯の温度 ℃

その1分後 肉の温度 ℃ 湯の温度 ℃

その1分後(計 2 分後) 肉の温度 ℃ 湯の温度 ℃

(参考)

*金属センサー付き温度測定器

様々なタイプが市販されていますが、金属製の食品用標準センサーが付属されてい

る防水型のものがお勧めです。デジタル表示が主流です。今回の場合、コードが長

いと使い勝手が良いようです。

**食用多層収縮袋

シュリンク袋、熱収縮袋のこと。レトルト食品など多くの食品や、物品の保

護に使用されています。多層収縮フィルムは熱をかけることで、フィルムが

物品(この場合肉塊)に密着し、物品を保護します。この袋を使用し、セン

サー及びリード線を取り付けたまま肉を密着させることができ、熱の伝達を

良くします。

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<肉塊の温度測定手順>

① 肉塊表面から深さ 1cm 部に温度センサーを

刺し込みます。

② 温度センサーを刺し込んだまま、肉塊を

食肉用多層収縮フィルム袋に入れます。

③ 袋のまま、80℃ 以上の湯の中に 2~3秒間入れます。

袋は収縮し、肉塊、センサー及びリード線と密着します。

温度表示パネル部が加熱容器から離れるよう温度センサーのリード線を

長くすると便利です。肉塊と袋の密着度が高まることで、湯からの熱の

伝わりがよくなります。

80℃ 以上の

湯の中に2~3

秒間入れる

シュリンク

された状態

袋は収縮し、

肉塊やリード

線と密着する

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④ 加温を開始する。

加温開始時間、肉塊温度、湯温を記録する。

⑤ 肉塊が 60℃ に達するまでの時間、

60℃ に達してから 1分後、2分後の

肉塊の温度、湯温、加温開始からの時間を記録する。

⑥ 熱終了後、直ちに氷水に入れ、肉塊温度が

4℃ 以下になるまで氷冷する。

(循環式の冷却装置を使用すると、冷却は早くなる。)

℃ ℃

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(4)加熱条件の確認検査

試行した加熱条件の下で、食中毒菌が死滅し、安全な生食用食肉に加工できているか

を確かめる必要があります。確認は、腸内細菌科菌群試験法により行います。

これは、専門の検査機関に依頼することをお勧めします。

試験の結果、全ての検体で陰性であれば、設定した加熱条件が加工基準を満たして

いたことになります。この方法で加熱加工した肉を生食用食肉として、販売することが

できます。

*腸内細菌科菌群の試験については、最寄りの保健所に相談の上、信頼できる

検査機関に依頼することをお勧めします。

以下に、この試験に必要な材料(検体)の取り方(サンプリング)について解説します。

① サンプリング方法

加熱処理された肉塊を切ると、以下写真5の状態になっています。

可食部を検査する必要があることから、表面下 1cm 以上の厚さで肉片を削ぎ

取ります。

このとき、加熱処理前の肉との交差汚染を防ぐため、使用する器具は専用のも

のを使い、器具や手指の消毒を十分に行ってください。

加熱処理した肉塊を1cm 以上の厚さで、6面を

切り落とす。

写真5.加熱処理後の肉の側面を切る

写真6.上面を切る。

厚さ1cm 以上で6面を切り取ります。ここから、25g ずつ 25 検体を取ります。

25 検体取る時に、偏りのないようにしてください。

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(参考)24 分割

25 検体を肉塊から偏りなく取るための方法として、24 分割の例を以下に

示しました。肉塊を大きく4分割し、左右の端はさらに4分割、中央部は

左右それぞれ 8分割します。

加熱後の肉塊を

4分割

(左端を4分割)(左中央部を8分割) (右中央部を8分割)(右端を4分割)

さらに、任意な位置から1検体を取り、25 検体にしましょう。

それぞれの検体の表面から 25g 取るようにしましょう。

<25g の目安>

25g の目安は、おおよそ以下のとおりです(肉の比重は 1.1~1.3 程度)。

3cm × 3cm× 3cm 5cm × 5cm × 1cm

せんじょう

サンプルを作る際にも、二次汚染を避けるため、使用する器具は全て加工専

用として、洗浄・消毒されたものを使用しましょう。

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② 検体輸送に当たっての注意

検体を輸送する際には、検体の温度管理、異物混入防止、微生物に汚染され

ないよう注意することが大変重要です。

具体的には、消毒した送付容器に検体を入れて、密栓し、容器の外側を消毒用

アルコール等で消毒するとよいでしょう。また、保冷剤を入れた容器に収めて冷

蔵状態で運搬しましょう。

③ 試験を依頼する場合

検査機関に依頼する場合は、事前に検査機関に相談して、採取方法、検査に必

要な肉の大きさ、輸送方法、輸送日時などを決めましょう。

厚生労働省が規定した試験方法では1検体について 25g の肉が必要とされて

いますが、検査機関によっては、それより多い 30g 程度が必要とされる場合も

あります。また、分割せずに1kg の肉塊そのものを求められる場合もあります。

送付する際には、検査依頼書などに検査に必要な情報(と殺日、採取日、

部位等)、検査項目(腸内細菌科菌群試験)、連絡先などを記入し、記載濡れ

がないことを確認して、荷物に添付します。

③ 腸内細菌科菌群試験

腸内細菌科菌群の試験方法の詳細は、Ⅷ―3法令関係資料参照、「生食用食肉

の腸内細菌科菌群の試験法について」を参照してください。

検査の結果、腸内細菌科菌群陰性であることが確認されたら、自ら設定した加

熱処理件に従って、加工処理を始めることができます。これ以後は、日々の加

工処理の条件を記録・保存してください。定期検査を除き、腸内細菌科菌群試験

を行う必要はありません。

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(5)その後の検査等

① 定期検査

加熱加工条件が決まり加熱加工処理を始めたら、1 年以内に最低1回、前述の加熱条

件の確認検査と同じ手順で、腸内細菌科菌群試験を行います。その際、加熱条件の確

認検査と同様に、「25 検体全てが腸内細菌科菌群陰性であること」が求められます。

定期検査は、それ以後も毎年1回行う必要があります。

② 通常検査

加熱加工条件が常に安定した条件で処理されているかを確かめるため、細菌検査をお

薦めします。この際、月に一度、数か月に一度など自らの期間を定めて、加熱処理した

肉塊(または柵)から、生食用食肉の可食部 25g の検体を1つ取り、自主的に細菌検査

を行っておくことを推奨します。

③ 加熱条件を変更したときの対応

肉塊の量、大きさ、部位や加熱加工方式、機械等何らかの変更をした際は、加熱条件

の確認検査として、変更した加熱条件が加工基準を満たしているかを確認するため、

腸内細菌科菌群試験を必ず実施するようにしてください。

④ 記録の保持

加熱加工処理条件を定めるまでの記録は全て1年以上保管してく

ださい。

各種検査結果の保存(腸内細菌科菌群の検査結果)

毎回の加熱加工記録

加熱加工条件を変更する際の記録も1年以上保管してください。

加熱条件が確認されたら標準手順書を作成し、いつも同じ条件で加熱加工ができるように

作業の手順を標準化しておきましょう。

注意

次の加工処理を行うことは、食中毒を防ぐために禁じられています。

◎テンダライズ処理

(刃を用いて、食肉の原形を保ったまま筋、及び繊維を短く切断す

る処理)

◎タンブリング処理(調味料を浸潤させる処理)

◎他の食肉の断片を結着させ成形(サイコロステーキ等)すること、

ミキシング、ポーションカットをすることなど病原微生物の汚染が

内部に拡大するような処理

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2.調理基準

この基準は、加工基準を満たした生食用食肉を安全に調理または調味し、消費者の

方々に販売、提供することを目的とするものです。調理基準を守る目的は、調理の不手

際による食中毒細菌(食中毒を引き起こす細菌)の二次汚染を防止することにあります。

以下に、守っていただきたい調理基準について、解説します。

この基準は、ユッケ、タルタルステーキ、牛刺しなどの料理を提供する焼き肉店、

レストラン、居酒屋ばかりでなく、生食用食肉やその料理を販売するスーパーマーケ

ット、精肉店、そうざい店などの施設に適用されます。

注)この中で「生食用食肉」とあるのは、全て加工基準を満たした加熱加工済みの

生食用食肉を指します。

調理:生食用食肉を、店頭販売または調理するため、細切、小分けする工程(調

味は行わない。)

調味:生食用食肉を、顧客へ生食料食肉料理として販売または提供するため、

細切し、小分けした後、味つけする工程。

<調理のみを行う施設>

調味せず、生食用食肉の肉塊をスライスしたり、ある大きさのブロックに切り分けて、

衛生的な包装材で包装し、店頭販売する精肉店、スーパー、そうざい店等

<調理と調味を行う施設>

生食用食肉を細切し、調味し、顧客へ提供する料理店、焼肉店等

(1) 調理施設の管理

調理施設の管理において気をつけるべきことは、交差汚染(他の食肉等から器具や

手指等を介して受ける細菌の汚染)を防止すること、及び食中毒細菌の増殖を抑える

ことです。

適切に加工された生食用食肉が、調理、調味の作業中に、他の食肉や容器等から食

中毒細菌の汚染を受けないよう、以下のような設備、器具機材の専用化が求められま

す。

① 調理場の専用化

・ 生食用食肉を調理する場合は、生食用食肉調理専用施設として、他の調理場と区別

してください。

・ 生食用食肉を取り扱う場所では、それ以外の食肉、食品等を取り扱わないでください。

・ 時間帯によって他の加熱用食肉等の調理、調味と使い分けることは禁じられていま

す。

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② 調理施設器具・機材の衛生保持

・ 調理器具はステンレス製または洗浄・消毒し易い樹脂製(不浸透性、水が染み込まな

いもの)素材の器具を使用してください。

・ シンクやまな板などの器具・機材も、生食用食肉の調理専用としてください。

・ 調理、調味の終了毎に、使用した器具を消毒済みのものと交換するか、83℃以上の

温湯または蒸気で洗浄・消毒してください。洗浄と消毒を徹底することが汚染防止に

有効です。

③ 施設内の衛生管理と温度管理

・ 生食用食肉を調理する場合、従事する者の手指が清潔に保たれるように洗浄消毒設

備を設ける必要があります。その施設は、加熱して食に供される食肉や他の食材の調

理従事者が使用するものと分けて設置してください。

・ 加工施設内の温度は、肉の温度を 10℃ 以下に抑えるように、各自の施設に応じて

温度を設定・管理してください。菌の増殖を抑えるためには、温度の上昇を避けること

が重要です。

・ 交差汚染を防止するため、作業処理終了ごとに加工施設内を消毒・殺菌してくださ

い。

(2)調理従事者

生食用食肉の調理は、加工基準で求められている要件を満たす食品衛生管理者、食品

衛生責任者及び「認定生食用食肉取扱者」のみ行うことができます。

ただし、前記の者の監督下で行われる場合は、他の者が調理してもよいことになります。

なお、調理のみを行う施設の食品衛生責任者については、加工基準で必要とされる従

事者資格を得るための講習会を受講する必要はありません。

(食品衛生管理者、食品衛生責任者、認定生食用食肉取扱者については、加工基準の

加工基準従事者の項を参照してください。)

注意

食品衛生管理者、認定生食用食肉取扱者が不在のとき、アルバイト従業員等他の従

事者が調理してはいけません。

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(3)調理基準を守るための具体的な事項

① 調理原材料の確認

調理、調味する前に、生食用食肉の確認を行ってください。

まずは、原料に添付された表示等を確認します。

<確認事項>

* 冷蔵または凍結された生食用食肉であること

* と畜名、と畜所在地、と畜日、個体識別番号

* 加熱加工した加工者、加工者所在地、枝肉から切り出された日時

* 加工日時

* 消費期限

* 検査合格証明書(腸内細菌科菌群が陰性であること)

* 「生食用」の旨及び注意表示の記載

さらに、以下の事項を確認してください。

・ 使用する原材料は、熟成されていない肉(と畜日からおおむね4日以内)のうち

に加熱加工されたものであること。

・ 肉温が冷蔵のものは 4℃ 以下、冷凍のものでは、-15 ℃以下であること。

② 調理のみを行う場合の手順

調味せず、生食用食肉として店頭販売する精肉店、スーパー、そうざい店等が対象で

す。

・ 凍結(-15℃ 以下)された生食用食肉は解凍してから、調理します。

・ 冷蔵または解凍済肉塊のラップ表面を流水で洗浄した後、包装ラップを

剥がします。(ページ13、写真1参照)

・ ラップを取った肉は、消毒済みのまな板(プラスチックまな板がよい)に乗せ、

1cm 以上の厚み(加熱処理により変色した部分)を、トリミングします。

(ページ13、写真2参照)

・ トリミング終了後、自社の商品規格に合わせ、調理・包装、表示ラベルを添付し、

4℃以下の状態に冷却する。その後すぐに販売するか、または冷蔵し、顧客の注文

に応じて切り分け、販売します。

注意

*凍結された生食用食肉を解凍する場合は冷蔵庫内または氷中

等低温下で行ってください。(室温での解凍は避けましょう。)

*表示は、ページ28の表示基準を参照してください。

*消費期限を忘れずに表示してください。

(消費期限は自社で設定した消費期限内に販売を終了するこ

とになります。概ね5日以内です。)

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③ 調理と調味を行う場合の手順

細切した後、調味し、顧客へ提供する料理店や焼肉店等の方々が対象です。

・ 凍結(-15℃ 以下)された生食用食肉は、予め解凍してから調理します。

・ 冷蔵または、解凍済肉塊のラップ表面を流水で洗浄した後、包装ラップを

剥がしてください。(ページ13、写真1参照)

・ ラップを取った肉は、消毒済みのまな板(プラスチックまな板がよい)に乗せ、

1cm 以上の厚み部分(加熱処理により変色した部分)を、トリミングします。

(ページ13、写真3参照)

・ トリミングした肉塊を注文量に応じて細切し、調味して速やかに顧客に提供する。

(4)製品の安全確認

① 記録の保持

調理記録は毎日記録し、1年間以上は保存しましょう。

調理記録や顧客の意見などを集計し、定期的に(自社でいつ行うかを決めておく)改

善すべきところや、よかった点を抽出し、作業の改善を行ないましょう。

② 日常検査

定期的に(毎月あるいは数カ月に1回など)、調理した品の腸内細菌科菌群試験を実

施することをお薦めします。

自社でできない場合は、最寄りの保健所に相談し、腸内細菌科菌群試験を実施して

おくことで、製品の衛生状態を確かめることができます。

注意

*凍結された加熱済肉塊を解凍する場合は必ず低温下で行ってくだ

さい。(室温での解凍は避けましょう。)

*細切した肉はその日のうちに消費し、翌日に持ち越さないでください。

*注文を受けてから調味し、直ちに顧客に提供してください。

決して作り置きしないでください。

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3.保存基準

(1) 加熱加工前の生食用食肉の保存

① 加熱加工する前の生食用食肉を一旦保存する時は、4℃以下で保存してください。

② 加熱加工する前の生食用食肉を冷凍で保存することは、禁止されています。

(2) 加熱加工後の生食用食肉の保存

加熱加工された生食用食肉は、冷蔵では 4℃ 以下で、冷凍では、-15℃ 以下

で保存しなければなりません。

冷蔵: 4℃ 以下

冷凍:-15℃ 以下

(3) 生食用食肉を保管する場合の容器・包装の注意

① 生食用食肉を保存する場合は、清潔かつ衛生的な容器包装に入れて、保存して

ください。

② 包装用プラスチック袋は使い切りとし、包装された生食用食肉を保存しておくス

テンレス容器やプラスチック容器等は、消毒を行って乾燥したものを使用してく

ださい。

(4) 保存する場合の注意

① 保存場所は温度が記録され、指定された温度を維持できる設備を使用します。

② 生食用食肉の保存庫内は常に清潔を保ち、整理整頓に心がけてください。血液

などで汚れたら直ちに清掃しましょう。

③ 設定温度が維持されるよう食肉等を入れ過ぎないようにしましょう。

④ 入庫日、銘柄、量などの表示を確認するとともに、入出庫の状況を記録し、在

庫管理を行ってください。先入れ先出しを心がけてください。

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4.表示基準

この基準は、食肉の生食による食中毒の発生防止を目的に食品衛生法に基づいて設定

されたものです。

(1) 容器包装に入れられていない牛の食肉(内臓を除く)で、生食用のものを販売

する場合

以下の事項を店舗(飲食店等)の見やすい場所に表示してください。

① 一般的に食肉を生で食べた場合、食中毒の可能性が高まります。

② 子供、高齢者その他食中毒に対する抵抗力の弱い者は食肉の生食を避けま

しょう。

特に、調理し調味して直接顧客に料理を提供する場合には、メニューや店内に

以下を表示し、注文を取るときには顧客に食中毒の可能性が高いことを説明する

ことが大事です。

なお、特定料理提供業者(ステーキハウス、すき焼き店、焼肉店等)が、

国産の生食用食肉を提供する場合は、個体識別番号の表示が必要です。

(注意表示例)

注意

・店頭での計り売りなど包装容器によらない販売の場合であっても、注意表示は

必要となります。

・飲食店等で生食用食肉を提供する場合でも、消費者からの求めに応じて情報を

提供できるよう、生食用食肉のと畜場や加工施設の名称など(2)の項目に

ついての記録を適切に保管することが望まれます。

・注意表示の大きさなどに規定はありませんが、消費者に見やすい大きさや色を

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選んでください。

(2)容器包装に入れられた牛の食肉(内臓を除く)で、生食用のものを販売する場合

次の項目の表示が必要となります。これらの記載事項は、生食用食肉の販売等に

関する必要事項です。

(表示例、国産品)

名 称 モモ肉(生食用)

原 材 料 名 牛肉(○○産)

内 容 量 ○○g

消 費 期 限 平成○○年○○月○○日

保 存 方 法 4℃以下で保存してください。

と 畜 場 ○○食肉センター(○○県)

加 工 施 設

(加熱殺菌)

○○食肉卸売市場(○○県)

加 工 者 ○○株式会社

○○県○○市1丁目1番地

その上で、さらに、

① 輸入品であれば原産国名、輸入者の表示が必要となります。

② 小売店で国産の生食用食肉を提供する場合は、個体識別番号の表示(一括表

示外)が必要です。

③ 下記の注意表示(例)を忘れずに食品に貼ってください。

(注意表示例)

* 生食用食肉の表示基準では、加工基準を満たす加熱処理を行った生食用

食肉にのみ表示が義務付けられています。しかしながら、枝肉から部分

肉にして加熱処理せずに流通させる場合にも、加熱処理前の生食用食肉

であることがわかるように表示することが望まれます。

一般に食肉の生食は、食中毒の原因となることがあるので、

体調が優れないときや、 子供、高齢者、妊娠中の女性など

抵抗力の弱い方々は、食べるのを控えてください。

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注意

・ 表示基準は、業者間で取引する場合にも適用されますので、容器包装または包

装の見やすい場所に、直接表示してください。

・ 表示が必要となる加工施設とは、生食用食肉の加工基準を満たした加工が行わ

れた施設です。また、加工施設の表示には、施設の所在する都道府県名を表示

する必要があります。

・ 加工者には、加工所の所在地と加工者氏名(法人の場合は名称)を表示する義

務があります。

・ 生食用である旨の記述では、「ユッケ用」、「牛刺用」、「牛タタキ用」などの記述

は認められません。

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