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仏典童話集7 仏典童話集 羽の水 6 羽 はね の 水 みず ヒマラヤの山々のふもとに広がる大 だい 森しん 林りん のはしに、太い幹 みき の竹

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仏典童話集

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羽の水���������4

なくならない体�����10

こえかつぎニダイ����16

紙くずのたとえ�����22

高い石の塔�������28

二つの口のあらそい���34

母親さばき�������40

消えないともしび����46

山賊と少女�������52

すがすがしい顔�����58

目 次

二つの穴��������64

一わんのかゆ������70

草の日ひ

笠がさ

��������76

琴こと

の音ね

���������82

親の恩���������88

宝物のねうち������94

はとの王さま������100

いのちの不思議�����106

象とはどんな生きものか�112

もらえない火������118

あとがき��������124

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7 仏典童話集 羽の水 6

羽はね

の水み

 ヒマラヤの山々のふもとに広がる大だい

森しん

林りん

のはしに、太い幹みき

の竹ちく

林りん

があ

りました。そこには、たくさんの動どう

物ぶつ

たちが仲なか

良よ

くくらしていました。

 ある時のこと、竹林に激しい嵐あらしがおそい、竹と竹がすれ合って火が出

ました。火は風かぜ

にあおられて、みるみるもえ広がりました。ゴーゴーと

うずをまいてもえさかる炎ほのお

の下で、動物たちは逃に

げまどい、つぎつぎ命いのち

を落としていきました。

 この竹林に、一羽わ

のおうむが住んでいました。おうむは火事に気がつ

くと、だれよりも早く空に舞ま

いあがりました。

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9 仏典童話集 羽の水 8

「助たす

かった。よかった」

 でも、そのまま逃げ去さ

ることは、どうしてもできませんでした。この

ままでは、みんなやけ死んでしまう、なんとかして助けたい。おうむの

胸むね

は、早はや

鐘がね

のようになっていました。

「そうだ」

 おうむは思わず大おお

声ごえ

をあげると、矢や

のように飛と

び立っていきました。

 ふもとに小さな池いけ

がありました。おうむはそこに飛びこむと、羽に水

をふくませ、急いそ

いでもえさかる竹林の上へ飛びました。そして、羽をふ

るって水のしずくをふりかけると、すぐまた池へ引き返しました。なん

ども、なんども、おうむは死し

にものぐるいで、池と竹林のあいだを往おう

復ふく

しました。

 羽にふくませて運べる水など、わずかです。でも、たとえわずかでも、

火を消す力になるかも知れません。

 おうむの目は血ばしり、羽はつかれ、もうどこをどう飛んでいるのか

さえわからなくなりました。ただ心だけが、早く早くとせきたてていま

した。

 おうむはついに、つかれきって草むらに落ちてしまいました。もうど

んなにしても、羽はびくとも動きませんでした。

 その時、夢ゆめ

ともうつつとも知れない、ぼんやりとした頭あたまの中に、すき

通ったやさしい声が聞こえてきました。

「おまえが運んだあのわずかな水ぐらいで、火事を消せると思ったのか

ね」

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11 仏典童話集 羽の水 10

「いいえ」

 おうむは、言いました。

「それは、わたしにはわかりません。でも、みんなが死んでしまうと思

うと、そうするよりなかったのです」

 目には見えませんが、その声はなんだかうなずいたように、おうむに

は思えました。

 その時です。急きゅうに空いちめん黒雲がわき起こったかと思うと、はげし

い雨あめ

がザーザーとふり始めました。その雨で、火事は見るまに消えてし

まいました。

 おうむがふと気づくと、雨はすっかりあがって、青空が広がっていま

した。

(さっき、わたしに声をかけ

た方は、いったいだれだろう)

 おうむは、思いました。

(いつもやさしく、わたしを

見守ってくださっている、仏

さまにちがいない)

出典 『旧雑譬喩経』