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をめぐる 1. 保護基準の引き下げ 2. 「不正受給」 (?) キャンペーン 3. 頻発する餓死・孤立死 4. 生活保護訴訟に見る新動向 , わが 大きく している。 , について き, 「 , セーフティ・ネット」 するが, ,そ が大きく変 させられよう している。 革」 に まる 「 するこ による て, げ, ( ) , びく , それに い打ちをかけた 「リーマン・ショック」 により, 一 巻1・2 ( ) ( )

生活保護制度をめぐる近年の状況 - Chukyo U€¦ · とともに,制度の今後のあり方について,望まれる方向を示したいと考 える。 1.保護基準の引き下げ

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生活保護制度をめぐる近年の状況

長 尾 英 彦

は じ め に

1. 保護基準の引き下げ

2. 「不正受給」 (?) キャンペーン

3. 頻発する餓死・孤立死

4. 生活保護訴訟に見る新動向

お わ り に

は じ め に

現在, わが国の生活保護制度は大きく動揺している。 筆者は, 社会保

障について語るとき, 「生活保護は, 国民の最後のセーフティ・ネット」

と説明するが, 今, その機能が大きく変質させられようとしている。

「小泉構造改革」 に始まる 「自助・自立を強調することによる弱者切

り捨て, 福祉切り下げ, 国 (公) の責任の縮減」 の流れは, 長びく経済

不況, それに追い打ちをかけた 「リーマン・ショック」 により, 一層そ

中京法学��巻1・2号 (����年) �(�)

論 説

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の傾向を強めてきた。 「改革」 という名の 「改悪」。 その誤った方向は,

����(平成��) 年��月の総選挙における自民党の 「大勝利」 を受けて発

足した安倍晋三内閣の下で極めて顕著になりつつある(1)

安倍政権成立直後, 社会保障審議会生活保護部会は, 「生活扶助のあ

り方についての報告書」 を提出し, 政府はこれに基づき, 生活保護基準

引き下げの方針を打ち出した。 そして, 後述するように, 生活保護法の

改正 (改悪) 自体は国会閉会 (6月��日) に伴い廃案となったが, 基準

引き下げは当初の方針どおり本 (����) 年8月より実施されている。

生活保護 「不正受給」 のキャンペーンもかまびすしい。 ����(平成��)

年春, お笑いタレントの母親が生活保護を受給していたとの報道をきっ

かけに火がついたこの問題は, その事案のみに止まらず一気に拡大し,

その結果, 「生活保護制度自体が 『悪』 である」 とか, 「生活保護を受け

ているのはいかがわしい人間である」 というような見方が急速に広まっ

た感がある。 もちろん, 「不正受給」 は取り締まらなくてはならないが,

件のタレントの事案にしても, 少なくとも法律的に 「不正受給」 という

べきものであるのかどうか疑問である。 まるで, 「不正受給」 のスロー

ガンにより, これを口実に, 生活保護制度に 「悪」 のレッテル貼りをし

ようとでもするかのような動きである。

それほどまでに 「不正受給」 を攻撃しながら, 他方では, 「餓死, 孤

立 (孤独) 死, 貧困死」 の事件が全国で頻発している。 これも, 後述す

るように, たとえば以前から福岡県北九州市でこのような餓死・孤立死

(あるいは, 貧困ゆえの自殺) 事件が連続して発生し, 行政側の責任が

問われていたところであるが, ����(平成��) 年頃から, 札幌市白石区

の姉妹孤立死事件など, 類似の事件が全国規模で次々と発生するに至っ

た。 日本のような文明国で, こともあろうに餓死者が出るということ自

体, 生活保護制度 (ひいては, 社会保障制度) が有効に機能していない

ことの証左ではないであろうか。

本稿では, これらの状況の背後にある政治の矛盾・問題点を考察する

生活保護制度をめぐる近年の状況 (長尾)� (�)

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とともに, 制度の今後のあり方について, 望まれる方向を示したいと考

える。

1. 保護基準の引き下げ

冒頭で述べたとおり, 生活保護基準部会は本 (����) 年1月��日, 一

部の高齢世帯を除き, 軒なみ生活保護基準を引き下げる報告書案を提出

したが(2)

, そのわずか2日後の��日には, もう報告書をまとめるというス

ピード (拙速?) ぶりである。 もっとも, これについては, (自民党と

ともに政権与党を構成する) 公明党は, 大幅引き下げには難色を示した

ので(3)

, 調整に入ったが, 結局, ����年度からの3年間で���億円 (約8

%) 削減する方針で合意に達した。 この案によると, 受給世帯の��%で

受給額は減額となり, しかも, 子育て世帯を中心に減額される傾向となっ

ている。 もともと, 子どものいる世帯では受給額が増えるもの, という

従前の見方に呼応したものかどうかはともかくとして, たとえば, �代

夫婦と小・中学生の4人家族の場合の試算で, 現行の月���,���円が���,

���円と, 大幅な減額となる(4)

しかし, こうした流れが妥当なものか否か, は明白であろう。 世論調

査でも, インタビューでも, 「景気がよくなっていると感じるか」 との

問いに対してイエスと答える一般庶民はわずかである, との印象を筆者

は抱いている。 世間では, いわゆる 「アベノミクス」 を時代の寵児扱い

して, もてはやしてはいるが, 庶民の収入が急に増えるわけではない。

とくに, 子どものいる家庭といっても, その中でたとえば母子家庭につ

いて見れば, 「上昇」 の実感は得られていない。 「もらい過ぎ」 という認

識もないのである(5)

。 今回の 「切り下げ」 の方針が, こうした現場の声,

当事者の声に耳を傾けて行なわれたものでない(6)

, ということは, まずもっ

て問題である。

さらに, 今回の 「切り下げ」 の根拠として, 政府は 「(デフレのため)

中京法学�巻1・2号 (����年) �(�)

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物価が下がっている」 という説明をするが, これも疑問である。 価格が

下がっているのは, 専ら, いわゆる 「ぜいたく品」 であって, 食料品や

光熱費など, つまり生活必需品は必ずしも下がっていない(7)

, むしろ, 値

上がりの動きを示しているのではないか, と筆者は見る。 卑近なところ

でいえば, 「アベノミクス」 が進めた円安のために, 輸入に頼っている

石油, 小麦粉等が値上がりし, それにより関連品目 (パン等) が値上が

りしているのはその一例である。

しかも, 来 (����) 年4月から予定されている一般消費税の値上げに

ついて, 安倍首相は, 「景気の回復状況を見て判断する」 としてきたが,

先日 (9月��日), 「予定どおり値上げしていいのではないか」 との意向

を表明した(8)

。 もともと, 一般消費税は, 所得の低い層ほど負担が相対的

に重くなる 「逆進性」 をもった 「弱い者いじめ」 の批判の強い税である。

現在, 一般庶民に景気回復の実感が乏しいことは先述のとおりであるが,

わけても生活保護受給世帯としてみれば, 生活必需品は上がる, 消費税

は上がる, 受給費は下がる, と, 踏んだり蹴ったりではないか(9)

2. 「不正受給」 (?) キャンペーン

����(平成��) 年春, お笑いタレントの母親が生活保護を受給してい

る旨が世間の注目を浴びた。 タレント本人の会見によれば, 母親の受給

は��年くらい前からで, 受給開始当時のこのタレントの年収は���万円

未満。 収入が増えた5~6年前から母親への援助を開始し, これに伴い,

受給金額は減額されてきている, とのことであった(��)

筆者は, このタレントのことはほとんど知らないが, テレビ出演をす

るくらいの地位にあるのならば, 現時点ではそれ相応の収入があるので

あろう。 このタレントよりも所得の低い人であっても, おそらくは大部

分は生活保護を受給していないであろうと想像する。 とすれば, この件

について, 一般市民がある程度の違和感を覚えることはやむをえないと

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中京法学��巻1・2号 (����年) �(�)

毎日新聞2013 (平25) 年1月28日 朝刊1面

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ころではある。

しかし, すでに各方面から指摘されているとおり, この事案が (少な

くとも, 法律的な意味で) 「不正受給」 といえるかどうか, となると,

大きな疑問がある。 言うまでもないことであるが, 一口に 「扶養義務」

といっても, 親の (未成年の) 子に対するそれと異なり, 子の親に対す

る 「扶養」 は, まず子本人が 「その社会的地位を維持するための営み」

を行ない, その上でなお余裕があれば, その範囲で行なえばよいのであ

る。 しばしば誤解されるところであるが, 親族間の扶養は, それがなさ

れない (なされえない) ことが必ずしも生活保護受給の 「要件」 ではな

いし, ましてや, いくらくらい援助しなさい, などと命令できるもので

はない。 親族間には, 他人には判らない様々な事情がありうるからであ

る(��)

(付言するなら, 件のタレントは, 売れないころの受給申請も, 収入

が増えてきた時点での援助の開始も, 福祉事務所と相談しながらやって

きた, とのことである)。

したがって, 上述の事案が, それが道義的に見てどうか, 一般市民の

感覚から見てどうか, という問題はさておき, 法律上はそもそも 「不正

受給」 になどなりえないものである。

ところが, この問題に対しての一部マスコミ, 及びこれに何人かの政

治家が加わった 「バッシング」 は甚だ異常であった。 タイトルや見出し

に当然のごとく 「不正受給」 の文字が並び, 「生活保護制度はおかしな

制度である」 とか, 生活保護を受給している人が皆, いかがわしい人間

であるかのような発言, 内容構成が目白押しとなった。 上述の事案が

「不正受給」 といえるようなものではないにもかかわらず, である(��)

しかも, この事案に端を発した 「バッシング」 はさらに続いた。 受給

者が 「酒を飲んでいる」 とか 「パチンコをしているのを見た」 というよ

うな話まで取り上げて, 「不正受給」 のキャンペーンを拡大していった

のである。 もちろん, 筆者は, 受給した生活保護費を酒やパチンコに費

消することは決して好ましいことではないと考えるが, 他方, 貰ったも

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のは基本的に本人のものであるわけだし, 少なくとも法律上は違法にな

るはずはない。 これを 「不正受給」 というのは筋違いである(��)

ところが, 驚くべきことに, 兵庫県小野市では, 生活保護の受給者が

ギャンブル等による浪費をしているのを見かけたら市民に通報を求める,

という, 「福祉給付制度適正化条例」 を成立させ, 本 (����) 年4月1

日より施行されている(��)

(地元では 「パチンコ通報条例」 「パチンコ禁止

条例」 「密告条例」 などと呼ばれているようである)。 蓬莱務市長は,

「当然のこと。 市民の大多数も賛成している」 と述べているが(��)

, 真実か

どうか, 疑問であり, すでに兵庫県弁護士会をはじめ, 各方面から反発・

抗議が示されているところである(��)

。 そもそも, 市民同士を監視させるな

どということ自体, 極めて居心地の悪い, 感じの悪い社会であると思わ

れるし (蓬莱市長は, 「監視」 ではなくて 「見守り」 である, と言って

いるが), 現実にこの条例がどの程度実効性があるものなのかも疑わし

い(��)

。 また, パチンコをすることが不正受給と混同されたり, 受給資格の

あるはずの人が圧力を感じて申請をしにくくなったり, 悪意の通報によ

る人権侵害などの虞れはないのか(�)

このような一連の異常な 「バッシング」 は, 明らかに一定の政治的意

図をもって行なわれているものであることを注視しなくてはならない。

この点について, 尾藤廣喜弁護士は以下の3点を指摘している(�)

。 問題の

本質に関わると思われるので, 引用・紹介させていただく。

① 生活保護の利用自体を批判の対象とし, 生活保護の受給= 「悪」

のイメージを国民に植えつける,

② 生活保護利用者とワーキング・プアと言われる人たちや年金受給

者の対立をあおり, 経済的弱者同士を争わせることによって, 貧困

への不満を 「下向きの圧力」 によって解消しようとする,

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毎日新聞2012 (平24) 年5月25日 朝刊38面

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③ 「自助」 「自立」 を強調し, 国の責任で 「生存権」 を支える生活

保護制度を攻撃することにより, 社会保障全体の切り下げ, 解体を

画策する。

筆者が, 近年の動きを, 生活保護制度そのものを変質させようとして

いるもの, と怖れるのは, こうした諸点である。 これらは, つまるとこ

ろ, 政治の失敗を弱者を犠牲にすることによって隠蔽し, つじつま合わ

せをしようとするものではないのか。

3. 頻発する餓死・孤立死

これほどまでに 「不正受給」 問題をあげつらいながら, 他方では,

「餓死, 孤立死, 貧困死」 の事件が全国で頻発している。 後述するよう

に, 当初, 福岡県北九州市でこうした事件が連続して発生しており, 行

政側 (とくに, 福祉事務所の対応のあり方) の責任が問われていたとこ

ろであったが, ����(平成��) 年に入ってから, 全国規模で類似の事件

が発生する事態となり, 生活保護制度の運用の実際はいったいどうなっ

ているのか, と疑問が投げかけられている(��)

とりわけ, 同年1月に発覚した札幌市白石区の姉妹孤立死事件 (遺体

発見が1月��日) は悲惨を極めた。 姉 (��歳) は病死, 障害をもつ妹

(��歳) は凍死。 両親はすでに他界し, 頼れる人もなく, 姉は失業中で,

妹の障害年金 (2か月で約���,���円) で生活していた。 ガスも電気も

止められ, 冷蔵庫は空, という状態であった。 当然, 「それほど窮迫し

ていたのならば, なぜ生活保護を受給しなかったのか」 という疑問が生

ずる(��)

実は, この姉は3度にわたり白石区保護課に生活保護の相談に赴いて

いたのである。 しかし, 応対した職員は, 生活保護制度についての全般

的な説明はしたものの, 「能力・資産の活用」, 「懸命なる求職活動」 と

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生活保護制度をめぐる近年の状況 (長尾)�� (��)

北海道新聞2012 (平24) 年1月21日 夕刊

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北海道新聞2012 (平24) 年1月28日 朝刊

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いった申請要件について, さらに 「家賃が高すぎるのではないか」 とい

う点について教示し, 当面の食料がない, という訴えに対しては非常食

パン等を支給して, 結局, 申請用紙は交付せずに帰宅させているのであ

る。 事件後に会見した同課長は, この姉妹が, 「要保護状態にあった,

困窮していた, 懸命に求職活動をしていた, 活用可能な資産は無, 国保

は未加入」 といった状況にあることを知っていた, と述べているにもか

かわらず, である(��)

ここで指摘されるのが, 当時, 同課に置かれていたという同市作成の

「生活にお困りの方へ」 というシオリの問題である。 このシオリは, 「生

活保護は, 生活に困っている国民だれもが一定の条件で受けることがで

きます」 としながら, 「精一杯働いてください, 一生懸命に仕事を探し

てください, 生活費に当てることのできるものはすべて処分してくださ

い」 などと記した上, 「保護の要件ではありませんが, 扶養義務者から

の扶養をできるだけ受けてください」 と書かれている。 つまり, このシ

オリを見た市民が, 生活保護を受けることはとても大変なことだ, と思

うような内容になっていたといえる(��)

保護課は, 事件について, 「本人 (姉のこと) が申請の意思を示さな

かったので, どうすることもできなかった」 と弁明していたが, 実は,

姉はこのシオリを見, また, それに基づいた教示を受けることによって,

申請したかったにもかかわらず, その意思を挫かれたのではないか, と

いうふしがあるように筆者には思われてならないのである。

上述のように, 困窮状態にあることが把握されたのであれば, ともか

くも申請用紙を交付して申請の手続・方法を教示することが, 現場の職

員には求められるのではないか。 申請者が真に受給資格を有するか否か

は, その後の審査で明らかにすることができるからである。 筆者は以前,

社会保障行政分野における行政の情報提供・教示の重要性について論じ

たことがあったが(��)

, そこでは, 生活保護の領域の問題は必ずしも詳述し

生活保護制度をめぐる近年の状況 (長尾)�� (��)

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なかった。 先述した福岡県北九州市の事例について検討を加えるべきで

あったと省みるところである。 北九州市では, 3年連続で4件の餓死・

自殺事件が発生した(��)

(「小倉北餓死事件」 「門司餓死事件」 「八幡北餓死

事件」 「小倉北自殺事件」)。 ところが, 反面, 北九州市は福祉の 「��世

紀のモデル都市」 と呼ばれて評価されているのである。 このギャップを

どのように理解すればよいのか。

これらの事件は, 膨張する社会福祉予算の抑制のために, 受給申請に

訪れた市民にそもそも申請用紙を交付しない, いわゆる 「水際作戦」 と

いわれる実務, あるいは, いったん受給が開始されても, 些細な状況の

変化 (病状の回復等) を理由に保護を辞退させる (強制的に辞退させる)

といった違法行為の繰り返しの結果に外ならない。 これらは, 「北九州

市生活保護問題全国調査団」 の取り組みによる市民運動, いわゆる 「北

九州を揺るがした3日間」 によって改善の方向へむかった(��)

。 そして,

「小倉北自殺事件」 は司法の場において行政側の責任が認められ, 国家

賠償が命じられた(��)

4. 生活保護訴訟に見る新動向

違法に申請が妨げられたり, 強制的に保護を辞退させられるといった

ような場合に, 訴訟によってどのような救済が考えられるか。

不適切な教示によって申請ができなかった場合は, 実質的には権利侵

害であり, これに基づく国家賠償請求訴訟が提起できるはずであるが,

比較的近年になるまで, これが奏効した実例は, とくに生活保護の分野

においては乏しかったように見受けられる。 しかし, 近年, 原告 (市民)

の主張を認容する事例も見られるようになってきている。

京都地判平��.��.��判例時報����号���頁は, 友禅の仕事をしている

生活保護受給世帯が, 事業用資産として軽自動車の保有を認められてい

中京法学�巻1・2号 (����年) ��(��)

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たが, 福祉事務所長より事業における増収を指示され (「指示に従わな

い場合は保護の廃止・変更処分もありうる」 と告げられていた), 結局,

増収が達成できなかったとして件の軽自動車の処分を指示され, 「仕事

のためには車が必要」 と主張してこれに従わなかったため, 保護廃止処

分をされたという事案である。

判決は, まず, 生活保護法��条が保護の実施機関に権限を与えている

指導指示は 「あくまで, 被保護者の自由を尊重し, 必要最小限度に止ま

るものでなくてはなら」 ず (法��条2項), 「被保護者にとって実現が不

可能又は著しく困難な内容の指導指示をしても, 被保護者がこれに応じ

ることを期待することはできず, 被保護者の生活の維持向上その他法が

定める保護の目的が達成されないことは明らかであるから・・・・当該指導

指示は違法となる」 とした。 その上で, 「原告が, 当時置かれた状況の

下で, 友禅の内職の仕事・・・・で [指示通りに] 収入を増加させることは

到底期待できず, ・・・・同指示は違法な指導指示に当たり, 同指示の不履

行を理由とする本件廃止決定も違法である」 と結論づけて, 被告 (市)

に対し���万円余の賠償を命じた(��)

本件では, 事業において増収を図ることが可能であったか, 増収を図

る意思はあったか, という点が問題にされているのが, 類似の事例と異

なるように思われる (類似の事例では, 稼働能力の活用, すなわち, 働

けるはずだ, ということが問題にされることが多いように思われるので,

この点が特徴的である)。 本件の場合, 病気の妻をおいて外に働きに出

ることはできず, 車がなくなったら (取引先から) 仕事を回してもらえ

るかどうか危うい, 等の事情に鑑みれば, 本件指導指示の違法は明らか

と思われる。

さらに, さいたま地判平��.2.��賃金と社会保障����号��頁は, 白血

病の夫, 精神科に通院していた妻, 就労している長男, 中~高在学中の

次女による世帯に対して, ①生活保護受給申請をしたにもかかわらず申

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請として扱わず, ②受給開始決定後も, 住宅扶助費を支給せず, ③市外

への違法な転居指導をし, ④転居先自治体の福祉事務所長への移管通知

を怠り, ⑤転居後は生活保護を受給せずに生活することを強要して, 転

居先で受給申請することを禁止した, などの点について, 原告側が, 本

来ならば得られたはずの保護費分及び慰謝料等の損害賠償を求めた事案

である。

判決は, 生活保護実施機関が 「相談者に生活保護申請の意思があるこ

とを知り, 若しくは, 具体的に推知し得たのに申請の意思を確認せず」

又は 「誤解を与えるような発言をした結果, 申請することができなかっ

たときなど, 故意又は過失により申請権を侵害する行為をした場合には,

職務上の義務違反として, これによって生じた損害について賠償する責

任が認められる」 とした。 そして, 福祉事務所側に, 「就労による収入

をもっと増やし, 身内からの援助も求めなくては生活保護は申請できな

い」 と誤信させる発言があったと見られ, しかも, 申請の意思を確定的

に示した後も, 「あなたが働けばいいでしょう」 などと言って申請させ

なかったのは応答・審査義務に違反している, として, 原告の訴えを認

め, 約���万円の支払いを命じた。 本件も, 違法な指導指示を繰り返し

て申請を妨害した事案と認められ, 妥当な結論と思われる(��)

より直接的に, 行政側に支給を義務付ける判決は, 実現すれば最も実

効的な権利実現となるのであるが, 従来は, 現実には難しい, と考えら

れていた。 以前には, 「義務付け訴訟」 という訴訟類型が行政事件訴訟

法上に明定されていなかったこともある。 しかし, ����(平成��) 年の

行訴法の大改正により, 新たに 「義務付け訴訟」 が条文化された (3条

6項) ことも, 状況を後押ししているものと見ることができる。

那覇地判平��.8.�賃金と社会保障����号頁は, 那覇市の�歳代の

女性が生活保護を廃止された後, 再度の保護申請をしたところ, 年金担

中京法学�巻1・2号 (����年) ��(��)

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保貸付けを受けていたこと, 及び現在受給している年金からその返済を

していること等を理由に却下処分を受けたため, 却下処分の取消訴訟及

び保護開始の義務付け訴訟を提起したものである。 本件においては, ま

ず, 本訴の提起に併せて保護開始の仮の義務付けを申し立てたところ,

那覇地裁はこれを認めて仮の義務付け決定を出し (那覇地決平��.��.��

賃金と社会保障����/��号��頁), 市がこれを不服として即時抗告した

ものの, 福岡高裁はこれを棄却し, よって仮の義務付けが確定するに至

り, 全国の注目を集めていたものである(��)

。 従来, 難しいと考えられてい

た 「生活保護開始の義務付け」 訴訟での勝訴は 「全国初」 であった。

本訴判決は, 「本件申請当時, 原告は, 生活保護を受給することがで

きなければ, その生存が危うくされ, 社会通念上放置し難いと認められ

る程度に切迫した状況にあったというべきであり, 法4条3項にいう

『急迫した事由』 があったと認められる」 とした。 そして, 原告が上記

年金担保貸付けを受けたことは, 「社会通念上真にやむをえなかったと

いうべきであり, これをもって年金収入の活用を恣意的に忌避している

ということもできないから, 原告が法4条1項の要件を欠くということ

もできない」 として, 本件却下決定を違法とした(��)

東京地判平��.��.8賃金と社会保障����/��号�頁, 東京高判平��..

��賃金と社会保障���号��頁は, 「新宿ホームレス訴訟」 「新宿七夕訴訟」

などと呼ばれるものである。 新宿区内でホームレス状態にあった男性の

生活保護申請に対し, 区福祉事務所長が 「稼働能力不活用」 (法4条1

項) を理由に申請を却下したので, 却下処分の取消, 生活保護開始決定

の義務付け, 生活保護費の支給を求めて提訴した (なお, 本訴の提起と

併せて仮の義務付けの申立ても行なったが, これは平成��[����] 年8

月��日に却下決定が下され, 確定している)。

本件は, 「稼働能力活用要件」 の解釈が正面から争われた事案である。

類似の事案で著名なものに, 名古屋におけるいわゆる 「林訴訟」 (「笹島

生活保護制度をめぐる近年の状況 (長尾)�� (��)

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ホームレス訴訟」 などと呼ばれる) があるが, この事案では, 病気のた

めに就労困難な原告に対して 「稼働能力の活用」 を強要した行政のあり

方が批判されたが, 結局, 原告の敗訴に終わった(��)

本件では, 判決は, 「・・・・当該生活困窮者が, その具体的な稼働能力

を前提として, それを活用する意思を有しているときには, 当該生活困

窮者の具体的な環境の下において, その意思のみに基づいて直ちにその

稼働能力を活用する就労の場を得ることができると認めることができな

い限り, なお当該生活困窮者はその利用し得る能力を, その最低限度の

生活の維持のために活用しているものであって, 稼働能力の活用要件を

充足するということができると解するのが相当である」 とし, 「法は不

可能を強いることはできない」 という法格言を示して, 同要件の充足を

肯定した(��)

。 そもそも, ホームレス状態のままでは, 満足に就職活動もで

きないことは常識的に考えても明らかであり, そのような状態のまま

「稼働能力の活用」 を求めることなど, 「不可能を強いる」 に等しい。 本

判決の解釈は極めて妥当であるというべきである。

大津地判平��.3.6賃金と社会保障����/��号��頁は, 「長浜市 (滋賀

県) 稼働能力裁判」 と呼ばれ, やはり, 生活保護申請却下をめぐり 「稼

働能力活用要件」 の解釈が争われたものである (原告はこれ以外にも,

様々な違法な 「水際作戦」 にあっていたり, 知人に借りたアパートに住

んでいることを問題視されたりしているようであるが, ここでは省略す

る)。 原告は健康上不安を抱えており, その関係で求職活動が制限され

るのであるが, 市側にはそれが 「やる気の無さ」 と映ったようである。

判決は, 稼働能力を活用する意思の有無の判断について, 「保護申請

者の行う就職活動の状況から, 当該保護申請者が就労して稼働能力を活

用するとの真正な意思を有していると認められるのであれば, そのこと

をもって足りるというべきである」 と述べ(��)

, 原告はこの意思を有してい

た, と認め, 却下処分を取り消し, 保護開始決定を義務付けた。 前項と

中京法学��巻1・2号 (���年) ��(��)

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同趣旨と考えられ, この方向が今後確立することが望まれる。

お わ り に

以上のとおり, 多くの論点について言及しようとしたため, 時間の制

約との関係で検討の不十分な点が多く残ったが, 現状とその問題点につ

いてある程度記すことができたのではないかと思われる。

「生活保護法改正 (改悪) 案」 とともに, いったん廃案となっていた

「生活困窮者自立支援法案」 が, ��月��日, 再び国会に提出された。 困

窮者を支援すること自体は悪いことではないが, 同法案に対しても多く

の疑問・懸念が寄せられている。 最大の問題は, 同法案が, 個々の困窮

者が 「健康で文化的な生活」 を現実に営めているかどうかに関心がなく,

「自立」 (それも, 専ら 「経済的自立」) のみを (やたらに?) 強調して

いる点である(��)

。 本来, 生活保護制度で救済されるべき人を, その生活を

安定させるという前提なくして, できるだけ制度を利用することをなく

す (利用させなくする) ようにしようという意図が明らかである。

わが国の政治の動きは年々保守化, 右傾化しているように見受けられ

る。 財政状況も率直に言って厳しい。 その中で, 憲法��条の生存権保障

を脅かすような社会保障の切り下げを阻止するための動き, 国民的な運

動を私たちは創っていかなくてはならない。 本稿では, 生活保護の問題

を中心に扱ったが, これは, 決して 「 (受給者という) あの人たち」 の

問題ではなく, 「私たち」 の問題であることを認識すべきである(��)

。 その

上で, 社会的・経済的弱者とされる層はもちろんのこと, 良心的・良識

な層と連帯して, また, 理解のある裁判例などを足がかりとして, 政治

の誤った方向を正していくことが必要になってくるのではないか。

生活保護制度をめぐる近年の状況 (長尾)�� (��)

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[註]

(1) 井上英夫 「安倍政権の狙うもの 自助・自立論 社会保障の到達点を否定」

赤旗����年1月8日朝刊2面

(2) 毎日新聞����年1月��日夕刊1面 「社保審が水準検証 政府 生活保護費

引き下げ方針」, 同1月��日朝刊4面 「生活保護引き下げへ 減額ありき

の政府方針」 など参照。

(3) 毎日新聞����年1月��日夕刊1面 「生活保護 最大1割減 厚労省提案

自民が了承」

(4) 毎日新聞����年1月��日朝刊1面 「生活保護�.�%引き下げ3年で 最大

月2万円減」, 同2面 「一般低所得者に影響」 など参照。

1月��日に閣議決定された見直し案については, 社会・援護局保護課

「資料 生活扶助基準等の見直しについて」 賃金と社会保障���号�頁以

下など参照。

(5) 毎日新聞����年1月��日朝刊��面 「生活保護見直し シングルマザー不

安 実感ない 『もらい過ぎ』」 など参照。 なお, これに関連して, 「保護費

引き下げが招く子育て層 『貧困スパイラル』」 週刊東洋経済����年2月��

日号��頁を併せて参照。

(6) 尾藤廣喜 「社会保障解体を導く生活保護基準 『引き下げ』」 世界����年

3月号��頁 [����頁]。

(7) 宇都宮健児 「弱者を切り捨てる安倍政権」 週刊金曜日����年3月��日号

(���号) 9頁

デフレを理由に保護基準を引き下げてよいのか, という問題については,

池田和彦 「消費者物価指数と生活保護基準」 賃金と社会保障���号�頁,

���号4頁, 同 「『ナショナル・ミニマム』 とは何か」 同���号4頁が興

味深い。

(8) 毎日新聞����年9月��日夕刊など参照。 なお, 本稿脱稿後であるが, ��

月1日, 安倍内閣は値上げの方向を正式に決定した。 ��月2日朝刊各紙参

照。

(9) 全国の受給者が行政に対し提起した不服審査請求が1万件を超えている。

「生活保護基準引き下げに対する集団一斉審査請求始まる」 賃金と社会保

障��号�頁, 赤旗����年��月��日朝刊1面 「生活保護引き下げに反撃

これでは生きられない 不服審査請求1万件超」 参照。

(��) 毎日新聞����年5月�日朝刊��面 「河本準一さん 笑えない話 母が生活

保護, 波紋」, 同夕刊��面 「母に生活保護 『むちゃくちゃ甘かった』」 など

参照。 なお, 母親は4月に受給を辞退している。

中京法学�巻1・2号 (����年) ��(��)

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(��) 尾藤廣喜・前掲 (註6) 論文�����頁

(��) 同前

(��) 水島宏明 「無自覚なマスコミが増産する生活保護の 『スティグマ』」 賃

金と社会保障����号��頁, 同 「生活保護バッシングとBPOを批判する」

創���年��月号�頁など参照。 しかし, この件については, 「生活保護制

度について私たちに考えさせる機会となった」 と前向きに捉える見解もあ

る。 大竹文雄 「生活保護制度の行方」 中央公論���年7月号��頁など参照。

(��) 中日新聞���年3月��日朝刊��面 「兵庫・小野市で条例成立 生活保護

費 賭け事禁止 見つけた市民 通報して」 など参照

(��) 「ギャンブル浪費で通報」 AERA���年3月��日号��頁

(��) 「密告社会がもたらす恐怖」 サンデー毎日���年4月��日号��頁, 安

田浩一 「小野市 『適正化条例』 と民意」 賃金と社会保障����号4頁など参

照。

(��) 「『受給者です』 って名札つけとるわけやないし, 誰が受給者かわから

ん」, 「通報して逆恨みされたらバカらしい」, 「お客さまですから通報する

のは・・・」 (パチンコ店店員) などのコメント参照。 週刊ポスト���年4月

�日号�������頁。

(��) 前掲 (註��) 「密告社会がもたらす恐怖」 参照。 必要なのは 「監視」 で

はなくて 「寄りそい」 「指導」 であるはずだが, そのためのケースワーカー

拡充の問題は置きざりにされている。 毎日新聞���年1月�日朝刊��面

「生活保護見直し―― 『ケースワーカー拡充』 置き去り 人手不足 民間

頼み」 参照。 また, ギャンブル依存症なら, 適切な治療こそが必要なはず

である (前掲 [註��] 中日新聞���年3月��日, 小久保哲郎弁護士コメン

ト)。 これに関連して, 民主党政権下のものであるが, 受給者の自立・就

労を支援するため, 働いて得た収入の一部を積み立てさせる (将来, 収入

が増えて, 保護から抜けるときに受け取れる) という制度 (就労収入積立

制度 [仮称]) が検討されたことがある。 朝日新聞���(平��) 年4月7

日朝刊1面 「生活保護に収入積立制 政権検討 自立・就労を支援」 参照。

(�) 尾藤廣喜・前掲 (註6) 論文����頁

(�) これらの事件は多くの文献で取り上げられているが, とりわけ, 全国

「餓死」 「孤立死」 問題調査団 [編] 『「餓死・孤立死」 の頻発を見よ!』

(あけび書房, ���), 今野晴貴 『生活保護――知られざる恐怖の現場』

(ちくま新書, ���) [�頁以下] など参照。

(��) 同前 『「餓死・孤立死」 の頻発を見よ!』 ��頁以下参照

(��) 同前 [�頁]

(��) 同前 [�頁]

生活保護制度をめぐる近年の状況 (長尾)�� (��)

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(��) 拙稿 「行政による情報提供 社会保障行政分野を中心に」 中京法学��巻

3・4合併号 (����) 1頁以下参照

(��) 北九州市の一連の事件の経緯・内容については, 藤藪貴治×尾藤廣喜

『生活保護 「ヤミの北九州方式」 を糾す』 (あけび書房, ����) に詳しい。

(��) 同前���頁以下参照

(��) 福岡地 (小倉支) 判平��.�.�賃金と社会保障����号��頁。 市は控訴せ

ず, 本判決が確定し, 市に対し慰謝料等���万円の支払いを命じた。 但,

違法行為と自殺との因果関係は認めなかった。 本判決の解説・評釈として,

田た

篭ごもり

亮博 「生活保護打ち切りによる小倉北自殺事件判決について」 賃金と

社会保障����号4頁, 村田悠輔 「口頭による生活保護申請と行政の助言・

教示義務, および保護辞退届による保護廃止処分の違法性」 同��頁など参

照。

(�) 評釈として, 今川奈緒 「違法な指導指示に基づく生活保護廃止処分の違

法性と国家賠償請求の可否」 賃金と社会保障����/�号��頁参照

(�) 本訴訟に関連する文献として, 吉廣慶子 「三郷市生活保護裁判の勝訴報

告」 賃金と社会保障���号��頁, 村田悠輔 「口頭による生活保護申請と行

政の 『水際作戦』 による申請権侵害の国家賠償請求訴訟による救済」 同��

頁, 木下秀雄 「生活保護における行政の助言教示義務と市民の申請権」 同

���号��頁, 吉永純 「生活保護申請と面接の在り方」 同��頁など参照。

申請書の交付拒否等の違法行為に対する損害賠償も, 徒前はなかなか認

容されなかった。 口頭による申請の有効性をめぐる事件 (大阪市生野区福

祉事務所事件) で, 一審・大阪地判平��.�.�賃金と社会保障��号��頁

は損害賠償請求を認容したが, 控訴審・大阪高判平��.��.�賃金と社会保

障����号�頁は逆転で請求を棄却した。

(��) 仮の義務付けが認められた点について, 大井琢 「全国初の生活保護に関

する執行停止・仮の義務付け」 賃金と社会保障���/��号��頁参照

(��) 評釈として, 大井琢 「生活保護開始義務付け訴訟で初の勝訴」 賃金と社

会保障����号��頁参照。

同種の事案で, 恩給担保貸付を受けていたことを理由とする生活保護申

請却下処分の取消請求を認容したものとして, 大津地判平��.��.�賃金と

社会保障���号��頁, 大阪高判平��.�.��同���号��頁。 一審判決に関す

るものとして, 黒田啓介 「恩給担保貸付を理由とした保護却下処分を生活

保護法四条三項の 『急迫した事由』 を認めて取り消した事案」 同���号��

頁。 二審判決に関するものとして, 同 「『急迫した事由』 の調査の一般義

務化と年金担保貸付問題への回答としての判決の読み方」 同���号��頁。

(��) 名古屋地判平8.��.��判例時報����号��頁, 名古屋高判平..判例時

中京法学�巻1・2号 (����年) ��(��)

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報����号��頁, 最3小判平��.�.��賃金と社会保障����号��頁。 一審では

原告が勝訴したが, 控訴審で逆転し, 最高裁も原審を維持した。 「林訴訟」

の分析については, 阿部和光 『生活保護の法的課題』 (成文堂, ���) ���

頁以下に詳しい。

(��) 本訴訟に関連する文献として, 戸舘圭之 「新宿七夕訴訟東京地裁判決弁

護団報告」 賃金と社会保障����/��号4頁, 笹沼弘志 「生活保護法におけ

る稼働能力活用要件の解釈」 同��頁。 控訴審判決の評釈として, 菊池馨実・

季刊社会保障研究��巻2号 (���) ��頁など参照。

(��) 本訴訟に関連する文献として, 高橋陽一 「長浜市生活保護稼働能力裁判

の報告」 賃金と社会保障����/�号4頁, 吉永純 「生活保護申請時におけ

る稼働能力活用要件の在り方」 同��頁など参照。

(��) 森川清 「生活困窮者自立支援法は, 生活困窮者を支援するのか」 賃金と

社会保障���号4頁 [9頁]。 同法案は, 同�頁以下に掲載。

(��) 生活保護基準は, 生活を支える様々な制度の 「物差し」 になっており,

その切り下げは, 生活保護受給者のみでなく, 多くの市民に影響を与える。

吉永純 「生活保護基準額の引き下げによって影響・被害を受ける制度概要」

賃金と社会保障����号��頁, 赤旗���年�月��日朝刊1面 「生活保護基準

下げ ��制度に連動 帯広市民�利用」 など参照。

生活保護制度をめぐる近年の状況 (長尾)�� (��)