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札幌市及び周辺地域における
異年齢保育の実態調査 報告書
2009(平成 21)年3月 25 日
北海道大学大学院教育学研究科 乳幼児発達論研究グループ
吉田 行男 指導教員 陳 省仁 教授
- 目 次 -
第1章 調査目的と方法 ································ ························· 1
第1節 調査の目的 ································································ 1
第2節 調査の方法 ································································ 1
第2章 調査の結果と分析 ·························································· 2
第1節 調査の結果 ··································································· 2
1 異年齢保育に関する取り組みの有無 ···································· 2
2 異年齢保育に取り組んでいない園 ······································ 3 3 異年齢保育に取り組んだ動機 ············································ 6
4 異年齢保育に取り組んだ時期 ············································ 9
5 異年齢保育と同年齢保育の比重 ········································· 9
6 異年齢保育の頻度 ·························································· 10
7 異年齢保育のグループ構成 ··············································· 11
8 子どもの成長・発達についての良い効果 ······························ 11
9 子どもの成長・発達についての好ましくない結果 ··················· 16
10 これまでの取り組みのついての反省点 ································· 17
11 今後の取り組みの課題 ···················································· 22
第2節 調査結果の分析 ·························································· 25
1 子どもの成長・発達についての良い効果 ······························ 25
2 子どもの成長・発達についての好ましくない結果 ··················· 27 第3章 まとめ ········································································ 28
第1節 取り組みの有無、動機、頻度、構成について ······················ 28
第2節 子どもの成長・発達について ········································· 29
第3節 今後の課題 ································································ 30
おわりに ················································································· 30
- 1 -
第1章 調査の目的と方法 第1節 調査の目的 近年、保育需要の都市部での増大や地方での減少という条件的問題への対応
から、また、子育て環境の変化と子どもの育ちの危機的状況への対応として、
異年齢保育への関心が高まり、実践が広まりつつある。 その結果、保育現場では、当初から、異年齢保育が子どもの心の成長発達に
様々な良い効果があることを実感し、実践報告を中心とした研究もなされてき
た。 しかし、年齢別(のみ)の保育と比べて、異年齢保育が具体的になぜよいの
かについての実証的研究は、皆無と言ってよい。そこで、年令別保育と異年齢
保育双方の子どもの日常の行動観察をもとにした、実証的比較研究を行うこと
とした。また、その結果を補強・検証するため、多数の保育園の協力を得て、
なるべく現場の生の声・生の姿を反映し易い記述式を中心としたアンケートに
よる実態調査を実施した。 本報告では、設問の不備から、有意なデータを得られなかったものを除き、
①異年齢保育の取り組みの有無、②取り組んでいない理由等、③取り組んだ動
機、④その時期、⑤年齢別保育との比重、⑥頻度、⑦グループの構成、⑧子ど
もの成長・発達についての良い効果、⑨好ましくない結果、⑩取り組みの反省
点、⑪今後の課題について報告する。 第2節 調査の方法 (1) 対象 札幌市内の公立・私立認可保育園 187 園、及び札幌市周辺石狩支庁管内7
市町村内の公立・私立認可保育園 54 園の計 241 園を対象とした。 (2) 対象時期
2007(平成 19)年7月1日(グループ構成のみ4月1日)現在とした。 (3) 方法 調査方法は記名式で記述を主とするアンケート調査によった。調査票(回
答用紙と一体のもの)を郵送し、返送用封筒を用いて、郵送・一部FAXに
て回収した。
- 2 -
一部、不明の点について、後日電話による聞き取り調査をした。 (4) 集計
回収 124 園、回収率 51.5%であったが、無効回答7園を除く 117 園(48.5%)
の有効回答を分析対象とした。統計処理は Excel を用いた。記述式回答の資
料は、可能な限り原文によったが、重複した内容のものや具体事例は支障の
ない範囲で省略・簡潔化した(件数にはカウントした)。
第2章 調査の結果と分析
第1節 調査の結果 1 異年齢保育に関する取り組みの有無
調査対象 241 園中、有効回答は 117 園(48.5%)であった。そのうち、毎日
の生活小グループから、大集団による行事的色彩のものまでを含み、異年齢保
育に取り組んでいる保育園は、89 園(有効回答の 76.1%)あった(表 1)。 調査項目の大部分が、異年齢保育に取り組んでいる園に対するものであった
ため、取り組んでいない園は、回答に消極的になった可能性が考えられる。 また、逆に、異年齢保育に取り組んでいる園は、異年齢保育の意義を前向き
に捉えている園が多く、本調査に積極的に協力してくれたのではないかと推測
される。 調査結果では、調査対象 241 園中、89 園、全体の 36.9%以上の保育園が、
何らかの形態、・内容で異年齢保育に取り組んでいることが分かった。
(表 1) 異年齢保育に関する取り組みの有無
取り組みの有無 園 数 有効回答中の割合(%)
あり 89 76.1
なし 28 23.9
計 117 100.0
- 3 -
2 異年齢保育に取り組んでいない園について (1)異年齢保育に取り組んでいない理由 異年齢保育に取り組んでいない園は、有効回答 117 園中 28 園(23.9%)
あった。その理由について、24 園から 25 の記述式の回答を得た。その内容
は、表2の通りである。 a.年令別保育を重視するものが 12、b.異年齢間の関わりは、現状(自
由遊び時間等)で十分とするものが7、c.その他、異年齢保育の実施が条
件的に困難であったり、その意義等への認識不足等をあげたものが5、d)
年齢別クラス間の人数のバランス調整のため、一時異年齢保育クラスにした
が、バランスがとれた時点で年令別保育に戻したものが1であった。 c.を除き、多かれ少なかれ年令別保育が保育の基本であり、特に 現状以
上に異年齢間の関わりについて配慮する必要性を感じていないとするのが
大半である。
(表2)異年齢保育に取り組んでいない理由
理 由 の 内 容 数
a
[年齢別保育の重視] ① 同年齢の中で子どもたちが係わりながら育つことが望まし
い。 ② それぞれの年齢にあった成長発達をきめ細かく大事にみき
わめ育てていきたい為。 ③ 年齢の発達の節をしっかり超える。異年齢の時間もありま
すが、意図的に取り組んではいません。 ④ 将来的に学校の進学に向けて取り組んでいる。 ⑤ 開園当初より生活年齢保育を基本と考えて来ています。特
に障がい児保育に取り組みはじめた頃より、就学を見通した
発達課題の観点から同年齢保育が子どもに資するところが大
きいのではと考え保育しています。 ⑥ 年齢ごとの方が、おちついて過ごすことが出来るので、と、
保育士の方も保育しやすい。 ⑦ 小さな規模ですので 朝、夕、土曜保育の中で異年齢集団
はあります。同年齢の遊びこむことも、大切と考えるので。
12
- 4 -
⑧ 年齢別保育を中心にしている。 ⑨ 同年齢保育を基本としているから。 ⑩ 乳児専門園であるため、年齢に合わせた細やかな大人の関
わりが必要。そのためには、近い年齢のグループ分けが良い
と考える。 ⑪ 0、1才のみ入園の園のため、発達の差が大きいので ⑫ 同年齢の保育を基本にしながらの週1くらいの異年齢保育
だった。今はオープン保育という形で残っているが、異年齢を
主としたものではない。
b
[異年齢間の関わりは、現状で十分] ① 自由時間、行事で異年齢と係わりを持つ時間が充分ある。 ② 一日の中で、各所に3歳以上児が一緒になる時間があり、
育つところは育っていると思われる。 ③ 朝と夕方や、土曜日などは、異年齢で交流したり関わり合
えるので、特に必要だと考えていません。それ以外の時間は、
年齢別で発達の近い集団ですごすことを大事にしています。 ④ 新設園の為、朝夕の自由活動の中通常の保育の中で異年齢
との関わりを持ちながら過ごす事ができる為。 ⑤ 年齢別保育をしていますが、土曜日は異年齢保育を実施(縦
割り保育) ⑥ 今までずっと年齢別で保育していたので。でも外遊びや自
由あそびなど1日のうち半分は混合保育をしています。 ⑦ 乳児なので特に異年齢保育というのではなく、産休明けは
別として、日々0歳~1歳まで関わって過ごしています。
7
c
[その他] ① 乳児単独園のため。 ② 乳児専門園の為。 ③ 職員構成・入園児数・部屋等の環境構成などでうまく実施
できない為。 ④ 異年齢保育について学んだり、他園を見学したりしたこと
がなく、その保育のあり方や保育効果について認識が弱い。 ⑤ 園新設(平成16年4月)後保育士等の充実に努めている
5
- 5 -
が、未だ異年齢保育に取り組むには躊躇している状況にある。
d
[異年齢保育をやめた理由] 以前、年齢クラスの人数がアンバランスの時に調整するため
に異年齢にしたが、その後ちょうどよい人数になったため年齢
別に戻した。
1
(2)異年齢保育に対する関心の有無 現在、異年齢保育の取り組みはしていないが、異年齢保育に関心を持って
いる園は、16 園、ない園は9園、無回答が3園あった。 (3)将来取り組んでみたいと考えている園は6園、考えていない園は 12 園
であった。 (4)将来取り組みたい理由として、次の表の通り 11 園から記述式の回答を
得た。 a.どちらかというと理念的な理由によるものが7園、b.条件的な理由
で、やむを得ずというものが4園である。
(表3) 将来異年齢保育に取り組みたい理由
理 由 の 内 容 数
a
[理念的理由] ① 少子化の時代 大きな子の行動への憧れや小さな者への労
りなど学ぶ事が多いと考えます。 ② 子どもの成長、発達に良い効果をもたらすことの多い事を
姉妹園で見聞しているので。 ③ 異年齢保育は基本的に構成する子どもの数も小型数が望ま
しいと考えます。将来的には小さな集団のなかで幼児齢(2
~6歳)にある異年齢の子どもどうしが関わり合える関係が、
思いやり、やさしさ、生活的モデルの学び合いに貢献するか
もと考え、取り組むこともあるかも知れません。 ④ 1クラス 10 数名で複数担当の配置が可能なら異年齢保育
もやってみたい。 ⑤ 土曜日は、0歳以上は異年齢保育に近い保育をしている為
7
- 6 -
⑥ 乳児単独園のため当保育園では無理ですが、保育者として
の関心はあります。 ⑦ 現在も朝、夕の保育は縦割り保育ですが、平日の保育で異
年齢保育の姿を感じてみたい。乳幼児が多い中で可能なのでし
ょうか。
b
[条件的理由] ① 年齢クラスの人数のバランスが崩れた時にまた実施した
い。 ② 定員数、またその年に入園する年齢により、異年齢保育を
実施せざるを得ない年もあります。基本的には同年齢保育で
すが朝、夕のところでは交流保育をしています。 ③ 同年齢クラスの編成がむずかしくなり、異年齢クラスに取
り組むことになっていくと思う(とりくみたい、とりくみた
くないということに関係なく)。 ④ 取り組みたいというより将来取り組まざるをえない状況に
なると思います。何故なら年々入所園児が減少してきている
為、職員体制の部分で同年齢別保育が現実的には出来ない状
況になると考えています。
4
3 異年齢保育に取り組んだ動機 異年齢保育に取り組む動機、あるいはきっかけについて、表4の通り、記述
式の質問に対する回答を得た。 最も多かったのは、「子どもの成長・発達に良い効果を期待したから」が 80
園と大変多い。さらに、「採用している保育思想・方法論」に基づくもの4園、
及び「その他」の中の、理念型の9園を加えると 93 園になり、保育上の様々
の良い成果を期待する理念的動機が圧倒的に多い。 それに対して、「子どもの人数が少なくて、同年齢クラス編成が難しいから」
が 21 園ある。「待機児童を年齢に関係なく受け入れることができるから」の 13園、及び「その他」の条件型5園を合わせると、39 園になる。それに関連して、
前述2の(4)、将来異年齢保育に取り組みたい理由(表3)の中の、条件的理
由として、「年々入所園児が減少してきているため、同年齢保育が現実的にはで
きず、将来異年齢保育に取り組まざるを得なくなる」という趣旨の回答(b、
④)が複数あった。過疎地と都市部のそれぞれの社会的条件が動機やきっかけ
- 7 -
になっている場合が多いことも分かる。 しかし、表4の<条件型>の①にある、初めのきっかけは、条件的なものであ
っても、異年齢保育に合った保育を工夫するという積極姿勢に転換することに
よって、子どもに良い効果が得られたという実践経験は、貴重である。近年わ
が国において、異年齢保育の良さが注目され、実践が広がった経緯とも符合す
る。
(表4) 異年齢保育に取り組んだ動機 動機の内容 数
ア
子どもの成長・発達に良い効果を期待したから
80
イ
子どもの人数が少なくて、同年齢保育が難しいから
21
ウ
待機児童を年齢に関係なく受け入れることができるから
13
エ
[保育思想・方法論に基づいているもの]
① モンテッソーリの感覚の部分を取り入れている。
② モンテッソーリ教育を取り入れています。異年齢の子ども達
が一緒に生活するというのは、社会生活そのものです。子ども
達同士で伝え合い教え合い、大きい子が小さい子のお手本にな
り、小さい子は大きい子に憧れをもち、見て学びます。そして、
思いやり、協力する精神が生活の中で育ちます。 ③ モンテッソーリ教育を念頭におきながら子どもたちを成長さ
せたい。
④ モンテッソーリ教育法による子どもの主体性を育てるため。
4
- 8 -
オ
[その他のもの]
<理念型>
① 昔のように地域で異年齢のかかわりをもつことがむずかしく
なり大人が意図的に機会をつくる必要性を感じたため。 ② 子ども同士を比較しない。できる・できないという見方をし
ない為です。 ③ 障害のある子どもを受け入れています。保育園にはいろんな
子にいてほしいと思います。いろんな子がいる集団はたてわり
(異年齢)保育が自然であり、すごしやすい生活の場です。
④ 年齢に関係なく好きな友達を選択できる。家庭的雰囲気。
生活の場を同じくしている子ども達にとって、ごく自然の生活
のあり方を考えるから。
⑥ 少子化の時代に、兄弟関係を経験できない子が多く、取り入
れている。
⑦ 同年齢クラス編成にしているが、活動内容によっては人数が
多い方が良い場合もあるので。
⑧ 近年の子育て環境、子どもの育ちの危機への対応として①本
来の多様で豊かな人間関係(異年齢児・障害児等)と育ち合い
の場(特に人間性、社会性、養育性を養う場)としての環境づ
くり、②昼間の家庭としての落ち着いた家庭的雰囲気を大切に
する環境づくりに、生活の場を中心とした異年齢生活小グルー
プ保育は大変有効と考える。
⑨ E市立の保育園で、障害児保育を 1980 年からはじめる(当
初は1ケ園。そののち5ケ園全園でとり組んでいる)。異年齢集団
を母体としてやってきた。
<条件型>
① きっかけ、動機はイ・ウですが、3年前よりそのクラス編成
に合った保育内容に変えました(環境を通した保育)。そのこと
により、子どもによい効果が出ました。
14
- 9 -
② 開園時、乳児が多く保育室が不足し、3~5才児を2クラス
にしなければならなかった。
③ 各年齢のバランスがよくない年がある。
④ こどもが少なくなり、2クラス一緒にする必要にせまられた。
保育士の人数が2クラス用に配置され、園長からの指示による。
⑤ 職員の勤務体制による(時差出勤など)。
4 異年齢保育に取り組んだ時期 異年齢保育に取り組んだ時期について、無認可の時を含め大体何年頃かを、
聞いたところ、実施 89 園中 75 園の回答を得、表6の結果となった。 最も早い時期は、1960 年代後半が1園(1968 年)、1970 年代は微増、1980
年代から徐々に増え、2000 年代に入ってから急に増えていることが分かった。
(表6)異年齢保育に取り組んだ時期
時 期 数 時 期 数
1965 ~ 1969 1 1990 ~ 1994 8
1970 ~ 1974 3 1995 ~ 1999 11
1975 ~ 1979 5 2000 ~ 2004 19
1980 ~ 1989 11 2005以降 2 年間 13
1985 ~ 1989 4 計 75
5 異年齢保育と同年齢保育の比重 異年齢保育と同年齢保育の比重について、6つの選択肢から、1つ回答を
選んでもらったところ、表5の結果となった。 「異年齢保育を基本としている」園と、「どちらかというと異年齢保育にウ
ェイトを置いている」園を合わせると 39 園(89 園中 43.8%)である。それ
に対して「同年齢保育を基本としている」園と「どちらかというと同年齢保
育にウェイトを置いている」園を合わせると 29 園(89 園中 32.6%)になる。
依然多い印象を受ける。
- 10 -
(表5)異年齢保育と同年齢保育の比重
比 重 の 程 度 数
ア 異年齢保育を基本としている。 29
イ 同年齢保育を基本としている。 19
ウ どちらかというと異年齢保育にウェイトを置いている。 18
エ どちらかというと同年齢保育にウェイトを置いている。 10
オ 異年齢保育も同年齢保育も同等にウェイトを置いている。 13
カ その他 0
6 異年齢保育の頻度 異年齢保育の頻度(数は自己記述)については、表7の結果を得た。 毎日実施している園が、38 園(回答 86 園中 44.2%)で最も多く、次いで
多いのが、週3回実施している園の 12 園である。毎日を含め、週3回(週
の半分)以上実施している園を合計すると、64 園(同 74.4%)となり、圧
倒的多数を占める。 月に数回や年に9回位の実施では、イベント的な位置付けにならざるを得
ないように思われる。
(表7)異年齢保育の頻度
頻 度 数 頻 度 数
毎 日 38 1 1
1 3 1~2 1
2 6 月 2 1
3 12 2~3 2
3~4 3 3 2
4 9 年 9 1
週
5 2 そ の 他 0
- 11 -
7 異年齢保育のグループ構成 異年齢保育のグループ構成については、表8の結果を得た。 年齢では、3~5歳児によるものが 66 園(回答 82 園中 80.5%)と最も多
く、そのうち 21 人~30 人で構成されるものが 35 園と最も多い。 4~5歳児によるもの7園は、年齢のバランスを調整するための混合保育
的色彩が強いように思われる。 2~5歳児を対象としている園が9園ある。そのうち 11~20 人以内とい
う小集団で実施している園が2園、21~30 人以内の園が4園ある。 3つの年齢構成の各々にある 31 人以上のグループが計 20 園、特に 51 人
以上の 13 園は、行事的な取り組みと思われるが、生活や遊びの集団として
は、大きすぎると言えよう。
(表8)グループの年齢・人数構成 人 数 構 成 年齢
構成
総数 10 以内 11~ 20 21~ 30 31~ 40 41~ 50 51 以上 その他
3~5 66 3 10 35 5 1 10 2
4~5 7 1 5 1
2~5 9 2 4 3
8 子どもの成長・発達についての良い効果
異年齢保育に取り組んだ結果、子どもたちの成長・発達について、どのよ
うな良い結果が得られたかについて、調査した。 質問の「これまでの(異年齢保育の)取り組みの結果、子どもの成長・発
達についての良い効果はありましたか。」にたいして、「はい」が 84 園、「い
いえ」が 0 園であった。 次に「その効果とは、どのようなものですか。なるべく具体例を交えてお
答え下さい。」との記述式の回答(計 319、筆者分解・整理)を表9に整理し
た。 5つのカテゴリーに分けたが、これは、回答者のほとんどが「上の子にと
って」、「下の子にとって」、「友だち(人間)関係」という分類を自然に行っ
ており、保育現場での共通認識となっている現実を尊重したものである。
- 12 -
なお、表に記述するに当たっては、次のようにした。 ① 1~4位までの回答は、数が多く、ある程度分類化した。 ② 具体事例については、その趣旨を簡潔に文章化した。 ③ 回答の文章表現を可能な限り盛り込むことに努めたが、文末の「・・・
みられる」、「・・・ようだ」、「・・・に思う」、「・・・という例があった」
等は省略した。 ④ 過去形は現在形に統一した。
(1) 年上の子にとって 思いやりの心が育っている。年下の子をお世話したり、遊びや生活を伝承
している。年上の子に自覚・自信・自律心が育っている等が、112 あった。 (2) 年下の子にとって 上の子にあこがれ、模倣している。向上心が芽生え、挑戦し、発達が促さ
れる。自信・自立心を育てる等が、85 あった。 (3) 人間関係能力
擬似兄弟関係、愛着・愛情関係・信頼関係を築いている。葛藤を通して人
間関係・社会のルールを学んでいる等が、55 あった。 (4) 心の安定・癒し ほっとする居場所、家庭的な安心感が得られる。心が不安定な子や心に傷
を持っている子が心の安定を図り、また癒されている等が、35 あった。 (5) 障がい児保育その他の利点 障がい児保育、発達、危険回避、その他様々な利点について、32 あげられ
ていた。 (表9) 異年齢保育における、子どもの成長・発達についての良い効果
NO
分
類 子どもの成長・発達についての良い効果の内容 数
1
年
上
の
子
に
と
① 年上の子に思いやり、いたわりの心が育っている、発揮している。
年上の子が年下の子(特に年長児が3歳児や2歳児)に対して自然
に思いやる、いたわる、気づかう、かわいがる、優しく接する、手
伝う、手助けする、配慮する、援助する、注意する、面倒を見る、
お世話する、見守る、甘えさせる。関わりが上手だ。取り合いにな
るほどかまっている。
112
- 13 -
っ
て ② 年上の子が年下の子へ遊びを教えている。遊び・生活(技術、方法、
力の加減、ルール、生活習慣等)を伝承している。遊びに広がり、
深まりが出る。遊びに創意・工夫が見られる。 ③ 年上の子の自覚を促す、自信を持つ、自律心を育てている。年長
児が意欲的に活動に取り組んでいる、遊びをリードする。年長児の
自覚、リーダー意識が高まる。集団の中で発言するようになる。下
の子を見て自分の成長過程を感じられる。
2
年
下
の
子
に
と
っ
て
① 年下の子が年上の子にあこがれる、尊敬する、刺激を受ける、モ
デルにしている、よく見ている、模倣している、学んでいる。大き
くなりたいという気持ちを持つようになる。自分の成長のモデリン
グとしている。自分の力としている。年上の子にしてもらったよう
に年下の子にも接している。進級後も年上の子に倣い、年下の子に
接している。 ② 年下の子が年上の子にサポートしてもらい、できたことの喜びを
感じている。向上心が芽生え意欲を高めている。年下の子の発達が
促される。根気が生まれる。集中して遊べるようになる。遊びや食
事などに、挑戦しようとする姿がある。背伸びしてまねようとする。
チャレンジする。未満児でもいろんなこと(折紙、コマ等)ができ
るようになる。目標を持って挑戦している。行事への期待が高まる。
行事など前の年の上の子の姿を思い出し見通しが持てている。 ③ 自信を持つ。自立が早くなる。自立心を育てる。
85
3
人
間
関
係
能
力
① 新入園児を自然にお世話する。お互いに慕い合っている。兄弟姉
妹のような関係、時には親子のような関係が育っている。特に一人
っ子や一番下の子にとって擬似兄弟関係ができ、それを味わってい
る。お互いに寄り添い、お互いに気遣っている。成長を喜んでいる。
深い愛着・愛情関係を築いている。 ② 年齢差・お互いの違い・多様性を知り、認め合っている。個性が育
っている。お互いに良い姿、良くない姿を見合って成長している。
育ち合っている。助け合っている。過ごしやすい状況を自分たちで
考える。人と関わる楽しさを感じるようになる。自分の考えを持ち
前向きになる。人の気持ちを考えられるようになる。がまんする力
が育つ。個と集団の高まりが見られる。
55
- 14 -
③ 他の子を意識するようになる。仲間を大切にするようになる。異
年齢同士同化している。名前・親を互いに知っている。異年齢間の
交遊関係を広げ・深めている。信頼関係が育つ。力を合わせる。他者
に優しさ、素直さを持てる。 ④ 葛藤も含め、人間関係の大切さ、信頼関係や助け合いの大切さ、
子ども社会・社会のルールを学んでいる。トラブルの当事者双方を認
め、理解しつつ、仲裁している。ケンカの折り合いのつけ方を経験
する。他者と関わる力が育っている。譲り合う。コミュニケーショ
ン力や調整力を育てている。
4
心
の
安
定 ・ 癒
し
① 年上の子で、特に同年齢の中では発達がゆっくりで、自信を持て
ない子や自己中心などで友だちと関わる力が弱い子や葛藤のある子
が、年下の子に頼られることで、自信を持つようになったり、あり
のままでいられたり、ほっとする居場所になっている。そのことを
通して同年齢の仲間関係も良くなる。他者の強さ自分の弱さが見え
易い(自由で居られる)。異年齢のグループ・行動が息抜き、気分転
換になる。 ② 年上の子が年下の子を援助できた喜び、喜んでもらった喜びを感
じている。年下の子が年上の子に優しくお世話されることに喜びを
感じている。甘えている。お互いの思いが満たされる。兄弟、姉妹
等を同クラスにすると家庭の延長のような安心感が得られる。子ど
もの気持ちが安定する。 ③ 家庭環境などで精神的に不安定になっている年上の子が年下の子
をお世話することで、心の安定をはかっている。家庭環境や生育過
程で寂しさや心の傷を持っている年上の子が年下の子に心癒されて
いる。
35
5
障
が
い
児
に
と
っ
① [ 障がい児 ] ・ 障がい児が生きいきと活動する。自分のペースで過ごせる居
場所になる。 ・ 障がい児、障がい傾向の子が(小さな子の存在で)安心して
遊び、生活できる。 ・ 障がい児やいわゆる「気になる子」に発達の伸びが見られる。 ・ 障がい児のいないクラスの子が障がい児と関われる良い機会
32
- 15 -
て
・
そ
の
他 保
育
運
営
上
の
利
点 等
ともなっている。 ・ 統合保育に良い。障がい児をスムーズに受け入れられる。
② [ 発 達 ] ・ 同年齢で発達に差があったとしても、その子なりの発達が保
障される。 ・ 子どもに無理がない(自分の発達レベルでの活動や友達を選
択できる)。 ・ その子にあった関わり、その子なりの発達が保障される。 ・ 年齢にとらわれず、子どもの発達に応じた援助ができる。
③ [ 危険回避 ] ・ 年上の子が年下の子を気遣い、保育士に危険をすぐ知らせる
ので、危険の回避につながる。 ・ 特に年長は、年下の子が困っている時、声をかけ、介助した
り、保育士に知らせたりする。 ・ 怪我が少ない。 ・ ケンカ・トラブルが少ない。 ・ (0~2 歳までの異年齢小グループでは)かみつき、ひっかき
等が激減した。 ④ [その他]
・ 子どもが、クラス担任だけでなく、他の保育士とも関わること
ができる。 ・ 一人の子どもに複数の保育士が係わり、目と手をかけることが
できる。 ・ 子どもを急がせることがなくなる。 ・ 個人の意思を尊重することができる。 ・ 保育士同士の話し合いが多くなり、様々な見方が子どもへの固
定観念を取りのぞき、一人一人の成長の手助けができる。 ・ 保育士が他のクラスの保育士の保育を見られる。 ・ 親に子どもの行為の柔らかさを伝えるきっかけになる。 ・ 保護者もみんなで子どもたちの成長を見つめようという気持ち
になる。 ・ グループ分けによって少人数の保育ができる。
- 16 -
・ 落ち着いて生活できる。 ・ (異年齢小グループで生活時間帯を過ごすと)家庭的な生活が
できる。また、保育士と子どもとの信頼関係も深まる。 ・ 生活リズムが自然とでき、子どもたちが落ち着いて、安心して
過ごしている。 ・ 年長児が年少児の成長を具体的にイメージして言葉で保育士に
伝えられるようになる。 ・ いろんな取り組みが同年齢クラスの枠を超えて出来る。 ・ 手つなぎ、わらべ歌、集団遊びがすぐにできる。 ・ 小さい子が大きいこと手をつなぎ遠くまで散歩できる。 ・ 実のきょうだいの関わりが、他の子の手本になり、良い影響を
及ぼしている。 ・ 保育士より 年上の子の言うことを聞く。
9 子どもの成長・発達についての好ましくない結果
「これまでの取り組みで好ましくない結果が、なにかありましたか。」の
質問については、「はい」が 17 園、「いいえ」が 50 園あった。 次に、「その好ましくない結果とは、どのようなものですか。」との記述式
の回答を、表 19 に整理した。 (1) 年上の子にとって
・配慮不足の下では、負担や発達上の問題が出る。 年長児が下の子に合わせて我慢を強いられるような環境(常に下の子に合
わせたり、望ましい関係を強いたりする等)の下では、年長児に負担を強い
たり、発達上の問題が生ずるとする回答が 10 ある(1の①~④)。 研究会等で、異年齢保育についての反省点や実践が失敗する原因として、
必ずこの問題があげられている。 (2) 年下の子にとって
・年上の子の育ちに左右される 4、5歳児の育ちに左右される(2の①)。年上の子が、年下の子をかま
いすぎて、年下の子の意欲がなくなる(2の②)、年上の子の悪い影響を受
ける(2の③)との回答が9ある。 これらも、上記aと同様に異年齢保育に取り組む際、配慮が必要な点であ
る。
- 17 -
(表 10) 異年齢保育における子どもの成長・発達についての好ましくない結果
順 分
類 子どもの成長・発達についての好ましくない結果の内容 数
1
年
上
の
子
に
と
っ
て
① 年長児が下の子に合わせて我慢を強いられるような環境の中で
は、年下の子に支配的な態度をとってしまう。 ② 年長児の負担が少なからずある。年長児に我慢したり、負担に感
じてしまう子がいた。年長・年中クラスの子数名が縦割りの日(年
9回)に「行きたくない」と言っていた。 ③ 年下の子に合わせるため、年長児の刺激が足りないことがある。
絵本や紙芝居の選択も小さい子に合わせがちになり、年齢にふさわ
しいものが読めない。散歩も小さい子に合わせるため、遠くに行け
ない。大きい子の歩く力がつかない。 ④ 年長児が伸び悩む。年長児の競争心・向上心が育たない。高い技
術や集中心を必要とする遊びでは年長児のレベルが下がる。
10
2
年
下
の
子
に
と
っ
て
① 大きい子(4 ,5歳児)の育ちに左右される。 ② 年少児をかまいすぎる傾向がある。年少児が年長児にまかせすぎ
て意欲がなくなったことがある。 ③ 年下の子が、年上の子の良くないところをまねる。悪い言葉をお
もしろがって使う。年長児の乱暴な部分や危険な行動の影響を受
け、まねる。
9
※ この回答欄の記述中、反省・課題の回答に該当する内容のものは、その回答
とした。 10 これまでの取り組みについての反省点 異年齢保育のこれまでの取り組みについての反省点について。記述式で、
回答を得た。結果は、表 11 の通りである。 計画・内容・方法等に関するものが最も多く 28、次に保育士の配慮・体制
等に関するものが 24、グループ分け・環境等が 15、対保護者に関するもの
が5である(計 72、便宜上この4つに分類したが、互いに関連している。11.の課題も同様である)。
- 18 -
計画内容・方針等に関して、最も貴重と思われるものとして、○28 の「年令
別保育をできるだけ残そうとしたり、形だけ異年齢保育を取り入れても、子
どもたちの人間関係は深まらない。」との反省・指摘がある。 保育士の配慮等に関するものでは、①~④の保育士の思わくで(大きな子
への)押しつけになったことへの苦渋の反省が多くあげられている。保育研
修会等での実践報告の中で、反省点・失敗例として、必ずあげられる理由で
ある。 グループ分けや環境等では、やはりグループの規模やメンバー、担任の配
置についての反省点が多い。また、保護者の理解を得る努力は、欠かせない
点である。
(表 11) 取り組みについての反省点
順 分
類 取り組みについての反省点の内容 数
1
計 画 ・ 内 容
① カリキュラムの立て方。 ② 年間カリキュラム無しで行事に向けて取り組んでいたため、各年限
(ママ)のウエイトのかかり方、クラスの把握が充分でなかった。 ③ 実践経験をその後の保育計画に反映できているか、また年齢別の保
育計画との整合性や効果的な取り組みになっているかどうかの検証
が不十分に思われる。 ④ 生活の課題、年齢別の課題、両面の集団作りが明確になっていなか
った。 ⑤ 子どもの状況をみながらのグループの課題をはっきりさせての適
確な指導が難しい。 ⑥ 集団づくりの視点が甘くなる。 ⑦ 異年齢のグループ分けの時、同年齢の活動の時、その日によって構
成が変わると戸惑うこともある。子どもたちに解りやすい導入の仕
方、話が聞けるような場の設定になっているかと反省。 ⑧ 年齢に合った活動が入れにくく、取り組みが遅れてしまうことも多
かった。 ⑨ 年齢別活動、特に5歳児の継続した活動ができずらい。
28
- 19 -
・ 方 法 等
⑩ 年齢(特に年長児)で取り組む方が良いと思われることが、思うよ
うに進んでいかない。 ⑪ 月に1~2回なので、お祭り気分で「やりっぱなし保育」になりが
ち。 ⑫ 月2・3回の単発で、継続した取り組み、関わりになりにくかった。 ⑬ 職員配置や活動内容がマンネリ化しつつある。 ⑭ 保育士が都合のつく時は、同年齢で散歩に行ったり、絵本や紙芝居
を読んだりした方が良かった。 ⑮ 保育室全体が落ち着きなく、騒がしくなることがある。 ⑯ 食事の際に年長・年中児がざわつくと、年少児が集中して食べられ
ない。 ⑰ 兄弟姉妹や知人を除き、遊びは同年齢がほとんどである。 ⑱ コーナー遊びがまだ充実していない。 ⑲ 行事などの取り組みに問題を感じる。 ⑳ 保育内容の構成が難しい。
○21 最初、子どもの居場所が安定せず、不安を感じている子が多かった
(移動する時)。
○22 3歳児に環境に慣れるまで時間がかかる子が多い。
○23 「モンテッソーリの部屋」は年長児にあまり人気がない。
○24 異年齢保育の中で設定保育を行おうとすると、保育士にも子どもに
も無理がかかり、成長・発達に良いかどうか疑問が生じた。
○25 大きい子にあこがれる3歳児、早くに高い課題を与えないことも大
切である。
○26 1981 年、児童減少を理由に上司の命令で開始されたため、ねらい・
目標は後まわしとなった。
○27 年齢別保育とバランスよく行っていきたいが、現実的には保育室や
保育士(人件費)の関係から難しい。
○28 年齢別保育をできるだけ残そうとしたり、形だけ異年齢保育をとり入
れても、子どもたちの人間関係は深まらない。
- 20 -
2
保 育 士 の 配 慮
・ 研
修 等
① 保育士の思わくが強くなり、子どもへの押しつけになった。 ② 「大きいんだから」と大きい子に圧力をかけてしまうことがある ③ 年長だからとの意識が強すぎ、一人ひとりの成長の違いを理解して
いなかった。 ④ 子どもへの押しつけになってしまった。 ⑤ 子どもの今現在の心の成長と今後の見通しを持たないと子どもに
無理がかかる。 ⑥ 保育士の力量によって差が出る。 ⑦ 保育士の配慮が足りない状況があった。 ⑧ 子ども一人ひとりのサインを見落とした。 ⑨ 活動のレベルの標準と合わせるのが難しい。 ⑩ 小さい子ばかり気にかかり、大きい子と関わる時間を持てない時が
ある。 ⑪ 子どもの自主性の名のもとに、放任になりかねないことがある。 ⑫ チャレンジする気持ちなどを的確に誘導できない例もあった。 ⑬ 子どもの状況を見ながら、グループの課題をはっきりさせての的確
な指導が難しい。 ⑭「いつもとちがう」状態をすぐ受け入れられない子への配慮。 ⑮ 生活習慣やマナー等細やかに配慮が不足。 ⑯ 嫌がる子への言葉かけ。 ⑰ 年少児をかまい過ぎる傾向。 ⑱ こどもたちに解りやすい導入の仕方、話しが聞ける場になっている
か。 ⑲ 子ども同士が育ち合う関係をゆったり見守ることのできる保育士
の配慮(個々の子どもの把え方、必要に応じた声かけ、遊びの環境づ
くり)。 ⑳ 異年齢保育の意義を理解していない保育士(人的環境)がおり、カ
リキュラムや子どもへの働きかけの意識が低い。
○21 (同年齢)クラスと(異年齢)グループのそれぞれに担任が分散す
るため、子どもの個をしっかり把えていない面も出てくる。
○22 (保育士間の)打ち合わせの時間がなかなかとれない。
○23 記録が雑になってきている。
24
- 21 -
○24 一人一人が輝けるような保育内容や環境、人間関係を作っていこう
とする意識を職員にどう持たせるか、研修が不足していた。
3
グ
ル
ー
プ
分
け ・ 環
境
等
① 全体の人数が大きくなり過ぎると落ち着かずトラブルにつながり
やすい。 ② 1グループの年齢毎の人数と全体の人数とのバランスをとるのが
難しい。 ③ グループの人数が多い。 ④ その年の園児数によりグループ分けが難しい。 ⑤ グループ分けの際、保育士の思わくが強くなった(自由にするため
グループをつくらず、活動を合同にした)。 ⑥ グループ編成に友達関係、保護者の関係を考慮するあまり片寄りが
でてしまった。 ⑦ 3~5歳児のグループで3歳児が多い時は大変だった。 ⑧ 2歳児を異年齢グループに入れると、3歳児に手をかけれなかっ
た。また、環境構成も難しかった。 ⑨ 2歳高月齢児が異年齢クラスに入るため、春先は遠出の散歩に出ら
れない。 ⑩ 兄弟が一緒のグループに入っている事での問題点あり。 ⑪ グループの人数と担任の人数のバランスが難しい。 ⑫ 小グループ(20~21)だが1人担任は大変だ。 ⑬ 保育士の人数が足りないと落ち着ける環境が保障できない。 ⑭ グループ担任を持ち上がりにしていたが、人間関係の広がりがみら
れなかった(2005 年から年度ごとに新しいグループを作り直してい
る)。 ⑮ 年長の人数に対し年中・年少の人数が多く、圧倒されてしまう場面
が良く見られる。
15
4
対 保 護 者
① 親への説明不足があった。 ② 保護者の理解を得る努力が十分でなかった。 ③ 親に異年齢保育の良さが理解されていない。 ④ 保護者から不満の声が聞かれた時もあった。 ⑤ 親に対する責任がはっきりしない面もあった。
5
- 22 -
11 今後の取り組みの課題 異年齢保育の課題点についても、記述式の回答を得、表 12 に列記した。 計画・内容・方法等に関するものについては 38、保育士の配慮・研修等
に関するものが 31、グループ分け・環境等に関するものが 20、対保護者・
その他に関するものが9である(計 90)。 全体から、特に重要と思われるものを次の7点に整理する。
① 年齢幅で遊べる遊びの保障の工夫。 ② 実践の評価・反省を踏まえ、見通しを持った計画作り。 ③ 保育士を含む全ての職員間の共通認識の形成、情報交換、連絡。 ④ 保育士のレベルアップのための研修と新任保育士への継承作業。 ⑤ 子どもの現状に合った人的・物的環境構成。 ⑥ 乳児を含めた異年齢保育の実践。 ⑦ 保護者の理解・協力を得る取り組み。
(表 12)今後の課題 順 分
類 課 題 の 内 容 数
1
計
画
・
① 子どもの理解を深め、見通しを持った計画づくり。 ② 年間カリキュラムに基き保育を進めることで、同年齢保育
同様活動を充実させ、子どもたちの成長・発達を目指すこと。 ③ 同年齢保育を保障しながら、異年齢の良さを引き出すこと。 ④ 年長児に競争心・向上心を育てることと理解度のチェック
や個人に合った関わりを知るためにも、同年齢保育を必ず導
入すること。 ⑤ 横・縦のつながり、年齢の発達課題をどうクリアしていく
か。 ⑥ 同年齢保育と異年齢保育の兼ね合い、バランスをどうする
か。 ⑦ 年齢別活動を入れる時期、回数、場面、組み合わせ等をど
のようにしていくか。 ⑧ 実践評価・年間反省を踏まえ、見通しを持った計画をつくる
38
- 23 -
内
容 ・ 方
法
等
こと。 ⑨ 年齢別保育計画との整合性をはかり、検証すること。 ⑩ 一人ひとりの遊びのペースの尊重。 ⑪ 異年齢の活動の内容、レベルの設定についての見直し。 ⑫ 適確な判断による事前の十分な準備。 ⑬ 年齢幅で楽しめる遊び等遊びを保障する工夫。 ⑭ 2歳児の発達保障。 ⑮ 2歳児の移行のタイミング。 ⑯ 行事での異年齢グループの取り組みについて。 ⑰ 生活のメリハリをつけること。 ⑱ 生活習慣やマナーをしっかり身につけさせる関わり。 ⑲ 乳児と幼児の関わり・交流、情報交換。 ⑳ 静と動の動きを作ること。
○21 年齢クラスを離れることに不安を持つ子が早く慣れ、楽し
めるようにしてゆく。
○22 行事や季節でやりたい保育を中断しないこと。
○23 モンテッソーリの充実をはかりたい。
○24 異年齢クラス以前の乳児期の大人の関わり方を見直すこ
と(大人との関係ができている子は異年齢クラスでもとても
良い関係をつくることができるが、大人との関係ができてい
ない子は遊びをこわしてしまったり、単なる力関係の異年齢
活動になってしまうため)。
2
保
育
士
の
配
慮 ・ 研
修
等
① 保育士が個々の発達をしっかり把え、援助すること。 ② 自主性や意欲を育てるための保育の関わり方。 ③ 全体の子どもを把握し、一人ひとりを見るための保育士の
動きなどの工夫。 ④ 一人ひとりの子の発達の違いの一層の理解。 ⑤ 生活の課題、年齢別の課題、両面の集団作りを明確にする
ことを保育士集団が日常保育の中で整理していくこと。 ⑥ 絵本の選択など適切な配慮。 ⑦ 大人の都合による取り組みにならないようにする。 ⑧ 物の移動を極力スムーズにすること(安全面からも)。
31
- 24 -
⑨ 保育者同士が共通の意識を持って見守っていく。 ⑩ 職員間の情報交換と連携をより密にすること。 ⑪ そのための会議・時間の確保。 ⑫ 年齢集団・異年齢集団での経験が一人ひとりの子どもの成
長にどのように結びついているのかをゆっくり考えられるよ
うな保育士の余裕を生みだすこと。 ⑬ 各年齢の特徴をしっかり捉え、様々な生活経験を自然な形
で提供できるよう、保育士の力量を高めること。 ⑭ もっと異年齢保育の良さを知り、活用の仕方をさらに考え
る。 ⑮ 保育士間に異年齢保育の良さの理論付けを浸透させるこ
と。 ⑯ 経験の浅い保育士の育成、保育士の共通理解、レベルアッ
プのための研修が必要。 ⑰ 新しい保育士を含め、今までの取り組みの経緯の確認・継承
の作業。
3
グ
ル
ー
プ
分
け ・ 環
境
等
① 子どもの現状にあったシステムづくり。 ② 一人ひとりが成長できる人間関係が構築できるグループ編
成。 ③ 保育士と子どもの人数の適正な構成・配置。 ④ 人的保障があれば2歳児も縦割りに入れたい。 ⑤ 一人ひとりの子どもの発達に合わせた(異年齢に適した)
環境整備、構成の工夫、配慮、援助。 ⑥ 保育室の広さ、園舎の狭さなどの条件の克服。 ⑦ 担当が変わると把握が難しい。 ⑧ 担任の持ち上がり・クラス(グループ)替えの有無の問題(空
間等諸条件が絡む)。 ⑨充実したグループ保育に近づけて行きたい。 ⑩ 散歩時、不審者対策で保育士2人体制をとっているので少
人数での活動ができない。
20
- 25 -
4
対
保
護
者 ・ そ
の
他
① 異年齢保育の良さを親に理解してもらい、協力を得る取り
組み。 ② 保育士の人数の確保。 ③ 保育士の経験が必要のため、継続して働ける環境の確保。 ④ 子どもの人数と保育士の人数の関係で、最低基準より多い
保育士が必要となると人件費(経営的)に無理がかかる。 ⑤ 登園時間・担任配置・園舎の狭さの克服。 ⑥ 年長児にリーダー的な力を期待しているが、思うような発達が
確認できないでいる。 ⑦ 全面的な異年齢保育の導入。 ⑧ 各年齢のバランスがとれていれば、年齢別クラスでいいの
ではないかと思う。
9
第2節 調査結果の分析 1 子どもの成長・発達についての良い効果. (1) 年上の子にとって 前掲の表9(P .12~16)に照らし合わせて、簡潔にコメントしたい。
① 向社会性と養護性を育む 異年齢保育が、いかに年上の子どもたちに豊かな向社会性を育んでいる
か、彼らがいかに年下の子どもたちに養護性を発揮しているかが、様々な
言葉で表されている(表9№1の①、以下表と№を省略)。最も多い回答
である。 ② 遊び・生活を伝承している
年上の子が年下の子に、遊びや生活を伝承している姿と、年下の子と一
緒に仲良く遊ぶために創意・工夫を凝らし、遊びを発展させている様子が
分かる(1の②)。 ③ 自覚・自信・自立心を育む
年下の子との関わりが、年上の子の自覚を促し、自信を持たせ、自立心
を育てていることが分かる(1の③)。
- 26 -
(2) 年下の子にとって ・発達と自立を促す
年下の子どもたちが、年上の子にあこがれ、見倣い、サポートしてもら
って挑戦し、できた喜びを感じている。それによって発達が促され、向上
心・自立心を育んでいる様子が、かなり具体的に語られている(2の①~
③)。回答の中では、2番目に多い内容のものである。 (3) 人間関係能力について
① 愛情関係を育む 年上の子と年下の子が、本当のきょうだいのように、時には親子のよう
に慕い合い、愛着・愛情関係を築いている。このような姿は、異年齢保育
ならではのものであろう(3の①)、きょうだいが少ない子にとって貴重
な環境である。保護者が異年齢保育に期待する理由の大きな要素の一つで
ある。 ② 受容性と信頼関係を育む
異年齢の子どもたちの間には、多かれ少なかれ、発達の差があり、年齢
に特有の思考・行動パターンがある。多様で複雑な関係の中で、子どもた
ちは多くのことを学ぶ。特に、人間関係の基本である、他者を尊重し、受
け容れることや、信頼し合い助け合うことを、自然に身につけてゆく(3
の②・③)。 ③ 葛藤がコミュニケーション力を育む
日々接する身近な存在との関係は、葛藤も多い。しかし、人間は、その
葛藤を経験し、乗り越えて行くことで成長する。その中で人間関係のルー
ルを学び、そのための手段であるコミュニケーション力を育てて行く。異
年齢の多様で複雑な人間関係を通してこの様な力も育まれている(3の
④)。 (4) 心の安定・癒しをもたらす
同年齢の中では自信が持てなかったり、上手に関係をつくれないでいる子
や、家庭環境などで精神的に不安定になっている子がいる。そのような子ど
もたちが、異年齢の関わりを通して心の安定を図り、傷ついた心を癒してい
るという事実は注目に値する。家庭が本来有しているこのような機能を、異
年齢グループが持っていることが伺える(4)。 (5) 障がい児・その他について
① 障がい児保育に良い
- 27 -
「障がい児・障がい傾向の子・気になる子」等が、生きいきと安心して
遊び、生活している。また、発達が促されている(5の①)。 近年の異年齢保育の取り組みの流れの一つとして、障がい児保育への有
用性があったが、それとも合致する。 ② その子なりの発達が保障される
「子どもに無理がない」、「その子なりの発達が保証される」(5の②)
は、保育の基本であり、①に深く関係する。 ③ 危険回避に有効である
年上の子の年下の子への養護的関わりや協調的な関わりによって、危険
が回避されている。 また、ケンカ、トラブル、怪我が少ないこと(乳児の異年齢保育では、
かみつき・ひっかきが激減した)と合わせ(5の③)、子どもの安全は、
これもまた保育の基本である。 ④ その他保育上の利点が多い
その他保育運営上の様々の利点があげられている(5の④)。異年齢保
育が、いかに豊かで深い内容を持つものであるかを示している(5の④)。
2 子どもの成長・発達についての好ましくない結果
「好ましくない結果がなにかありましたか」の問いに、「いいえ」が 50 園、
「はい」が 17 園あった。この 17 園は、異年齢保育に取り組んでいる 89 園の
19.1%である。 保育士の配慮不足や取り組みの工夫の不足、全体の不適切な環境・体制の下
では、異年齢保育の十分な成果が期待されない。それどころか、様々な好まし
くない結果が生じる。
(1)年上の子にとって 「年長児が下の子に合わせて我慢を強いられるような環境の中では、年下
の子に支配的な態度をとってしまう。」(表 10、1、①)は、自らの実践を謙
虚に、冷静に分析しての回答であり、後進の実践者への警鐘となっている。
(2)年下の子にとって 上の子の自己満足や、保育士に誉められたいという動機である場合、また、
日常的な異年齢の関わりではなく、定期的な交流程度の取り組みである場合
に多く見られる。前述の「反省点」の回答にあった「年齢別保育をできるだ
- 28 -
け残そうとしたり、形だけ異年齢保育を取り入れても、子どもたちの人間関
係はふかまらない。」という自己分析が参考になる。 年上の子の悪い影響を受ける(2の③)について、悪い影響と捉えるべき
ものであるかどうかは、個々に吟味が必要であろうが、むしろ子どもの成
長・発達にとって大切なことが多い。これも前述の「良い効果」(表9)の
中に「お互いに良い姿、良くない姿を見合って成長している。」(3の②)と
の回答があったが、保育士の視点、園の保育観によって見方が分かれるよう
に思われる。
第3章 まとめ
第1節 取り組みの有無、動機、頻度、構成等
1 取り組の有無、動機
調査対象 241 園中有効回答 117 園(48.5%)、そのうち異年齢保育に取り組
んでいる園は、89 園(有効回答の 76.1%、調査対象の 36.9%)あった。 2007(平成 19)年7月1日現在、札幌市を含む石狩市庁管内の公立・私立
認可保育園の 1/3 以上の保育園が、何らかの形態・内容で異年齢保育に取り組
んでいることが分かった。 取り組みを始めた動機で、最も多かったのは「子どもの成長・発達に良い効
果を期待したから」と、「採用している保育思想・方法論」に基くもの、及び「そ
の他」の中の理念型を加えると、理念的理由が 93 園(複数回答 132 件中、70.5%)
と圧倒的に多い。 それに対して「子どもの人数が少なくて」や「待機児童」受け入れのため、
及び「その他」の条件型を合わせると、条件的理由が 39 園(同上、29.5%)
あった。 しかし、初めは条件的な動機ではあっても、積極的な取り組みを通して子ど
もに良い効果が得られたという貴重な証言があった。
2 頻度と構成 異年齢保育の取り組みの頻度で最も多かったのは、毎日の 38 園(回答 86 園
中 44.2%)である。毎日を含め週3回以上実践している園は 64 園となり、全
体の 74.4%を占めた。
- 29 -
グループ構成では、3~5歳児によるものが 66 園(回答 82 園中 80.5%)と
最も多く、そのうち 21~30 人で構成されるものが 35 園と最も多かった。 人数規模だけで見ると、31 人以上が計 22 園、そのうち 51 人以上のものが
13 園あった。
第2節 子どもの成長・発達について 1.良い効果 「これまでの(異年齢保育の)取り組みの結果、子どもの成長・発達につい
ての良い効果はありましたか。」の問いにたいして、「いいえ」の回答は、0園
であった。「良い効果」の具体的内容について、記述式で計 319 という多数の
回答が寄せられた。 調査結果の分析(P . 25~27 )で詳述したので、整理項目のみ列記する。
(1)年上の子にとって ① 向社会性と養護性を育む。②遊び・生活を伝承している。③自覚・自
信・自律心を育む。 (2)年下の子にとって
・発達と自立を促す。 (3)人間関係能力について ① 愛情関係を育む。②受容性と信頼関係を育む。③葛藤がコミュニケー
ション能力を育む。 (4)心の安定・癒しをもたらす。 (5)障がい児・その他について ① 障がい児保育に良い。②その子なりの発達が保障される。③危険回避
に有効である。④その他保育上の利点が多い。 2 好ましくない結果
「これまでの(異年齢保育の)取り組みで好ましくない結果が、なにかあ
りましたか。」の問いに対して、「はい」が 17 園あった。これは、異年齢保
育に取り組んでいる 89 園中 19.1%(2割近く)である・ 調査結果の分析(P . 27~28)で記述したので、整理項目のみをあげる。 (1)年上の子にとって 配慮不足の下では、負担や発達上の問題が出る。
- 30 -
(2)年下の子にとって 年上の子の育ちに左右される。
これらについては、保育士の配慮及び適切な環境・体制が必要であること、
また、好ましくない結果と見るかどうかは、保育観に左右されることに留
意すべきであろう。 第3節 今後の課題
各園では、これまでの取り組みの反省点を踏まえ、多くの課題(計 90)を上
げている。 前述(P . 22)の特に重要と思われる課題を整理した次の7点を再掲する。
① 年齢幅で遊べる遊びの工夫の保障。 ② 実践の評価・反省を踏まえ、見通しを持った計画作り。 ③ 保育士を含む全ての職員間の共通認識の形成、情報交換、連絡。 ④ 保育士のレベルアップのための研修と新任保育士への継承作業。 ⑤ 子どもの現状に合った人的・物的環境構成。 ⑥ 乳児を含めた異年齢保育の実践。 ⑦ 保護者の理解・協力を得る取り組み。
おわりに
限られた地域での実践ではあるが、当該地域での公立・私立認可保育園にお
ける異年齢保育の取り組みの実態が、概略明らかになったように思う。 とりわけ、異年齢保育が子どもたちの成長・発達に及ぼす影響については、
好ましくないと把えたものも含め、現場からの豊かで生きいきした証言が多数
報告された。また、反省や今後の課題が率直に述べられており、これから異年
齢保育に取り組もうとしている保育園や、今重い課題を抱えながら取り組んで
いる保育園にとっても、貴重な参考材料の一つとなり得るものと考える。 その趣旨から、この実態調査を研究資料の一つとしてまとめられた拙稿の「異
年齢保育と子どもの発達―年齢構成条件が異なる保育における相互交渉パター
ンの比較から」を参考文献の一つとして紹介したい。
- 31 -
[謝辞]
アンケート調査に当たりましては、日夜、保育現場にあってより良い保育の
実践のために真摯にご努力され多忙な中にある多くの保育園長、主任保育士等
の先生方のご協力をいただきました。ありがとうございました。 おかげ様で、本報告書と、その貴重なデータを用いた論文をまとめることが
できました。心より感謝申し上げます。 本報告や上記の拙稿について、ご批判ご助言等をお寄せいただけますなら、
幸いでございます。