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1753 蛋白質 核酸 酵 素Vol.48No.12(2003) 特許権の効力は試験研究に 及ばないのか 石埜 正穂 特 許 と は縁 が 薄 い よ う に認 識 され て き た大 学 や 公 的 機 関の研 究が,さ まざ まな分野 で広 く特許化 されるよ うに な っ て い る.企 業 の技 術 開 発 者 以外 に は む しろ関 心 の低 い もの だ っ た特 許 が,公 的 な研 究 者 の 問 で も広 く市 民 権 を獲 得 し は じめ て い る.「 知 財 立 国 」 と い う国の 方 針 も あるので,こ れか らの日本の繁栄のためにも,知財意識 の 向上 は 好 ま しい こ と だ ろ う.そ の 反 面,特 許 に関 す る つ ま らな い 誤 解 が 一 人 歩 き して い る 様 子 も散 見 され,ま た有識者の不注意な発言によって,研 究の現場が混乱す る懸 念 さえ 出 て きた.知 財 立 国 を担 う研 究 者 の立 場 と し て,知 的財産に関してある程度正 しい認識をもっている こ とは必 要 と思 わ れ る. 本 稿 で 取 り上 げ る の は特 許 法69条の 問 題 で あ る.特 許 法69条1項 は,特 許権 の 効 力 が 及 ば な い範 囲 と して, 「特 許権 の効力 は,試 験又 は研究 の ため にす る特 許発 明 の実施 には,及 ばない」 と規定 している.一 般的 にこの 規 定 は,製 造 や 販 売 を伴 わ ず に試 験 また は研 究 を 行 な う か ぎ り,特 許 権 侵 害 に は な らな い とい う程 度 の 意 味 に解 され て い る.そ れ な ら ば,企 業 に よ る 商 業 目的 の研 究 は 特許権の侵害の対象だが,公 的研究機関による基礎的研 究 は,特 許 法69条1項 の 存 在 に よ っ て特 許 の侵 害 の 対 象外 になる,と いうふうに考えてよいのだろうか.否 で あ る.そ れ で は特 許 制 度 を根 本 か ら誤 解 して いる こ と に な る.現 実 に は,こ の69条1項 は,試 験 研 究 を 行 な う 主 体 が 公 的研 究 機 関 で あ ろ うが,企 業 で あ ろ うが,ま っ た く関係 な しに適用 され た り,さ れ なか った りす るの だ.実 際,基 礎 研 究 だ か ら特 許 の 効 力 が 及 ば ない とか, 商 業 目的 の研 究 だか ら効 力 が 及 ぶ と か の 表 現 は,特 許 法 の どこを探 して も見いだす ことがで きない. そ も そ も69条1項 は,「 発 明 の 保 護 及 び 利用 を 図 る こ とに よ り,発 明 を 奨励 し,も っ て産 業 の 発 達 に 寄 与 す る」 とい う特 許 法 の 崇 高 な 目的(特許 法1条)の た め に 設 け られ てい る.そ のた め,こ こで い う 「試 験又 は研 究」 とは,本 来 的 に,技 術 の 進 歩 を 目的 と した試 験,研 究 を 意味 してい る*1.つま り,も と も と69条1項 は,た と え ばAと い う発 明 を応用 してBと い う新 し い 発 明 を世 の 中 に も た らす こ とが で き れ ば,技 術 の 進 歩 を介 し産 業 の発 達 に役 立 つ,と い う趣 旨の もの なの だ. ●具体例による考察 法 律 論 ば か りで は 具 体 的 イ メ ー ジ を描 き に くい の で, 上 に述 べ た 内 容 が わ れ わ れ の 日々 の研 究 に どの よ う に反 映 され るか を,具 体 例 に よ って 示 す. ◆ ケ ー ス1:企 業Aが 企 業Bの 特 許 発 明 に 属 す る 胃酸 分 泌 抑 制 薬Cの 改 良 品 を 作 製 す べ く,胃 酸 分 泌 抑 制 薬Cを 自 ら製 造 し て 解 析 し た 場合 ◆ ケ ー ス2:大 学 の 研 究 者Dが 企 業Eの 特 許 発 明 に 属 す る 電 気 泳 動 装 置Fを 自 ら作 製 し,当 該 電 気 泳 動 装 置Fを 用 い て 実 験 デ ー タ を 出 した場合 ケ ー ス1に お い て は,企 業Aが 改 良 品 を つ くっ て, 医 薬 品 販 売 に お い て 企 業Bよ り優 位 に 立 と う と して い るわけであり,商業 目的で研究を行 なっているのは明 ら か で あ る.と こ ろ が,企 業Aに よ る 胃 酸 分 泌 抑 制 薬C の 製 造 や 解 析 は,69条1項 に よ り,特 許 の 効 力 の 範 囲 外 とな る(したが っ て 侵 害 で は な い).こ れ は,Cよ りも 効 果 が あ り副 作 用 の少 な い 薬 を世 の 中 に も た らす 新 しい 技術を世の中の人が望んでいるか らであ り,特許法はま さにこの期待に応えるためにあるからだ(ち なみに,企 業Aが そ の 胃酸 分 泌 抑 制 薬Cを 無 断 で 実 際 に 販 売 す れ ば,研 究という目的の範囲を超えてしまうので,侵 害 と な る). で は,ケ ー ス2は ど うで あ ろ うか.そ の研 究 が た とえ ば企 業 との 共 同 研 究 で あ れ ば特 許 を侵 害 す る が,純 粋 に 学 術 論 文 を書 くた め の 実験 で あ れ ば69条1項 に よ り侵 MasahoIshino,札 幌医科大学医学部衛生学講座 ・知 的 財 産管 理 部 門準 備 室 E-mail : [email protected]

特許権の効力は試験研究に 及ばないのか12).pdf*1特 許庁 編:工 業所有権法逐条解説 第16版,pp .208-211,発 明協会(2001) *2特 許法68条 より,特

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Page 1: 特許権の効力は試験研究に 及ばないのか12).pdf*1特 許庁 編:工 業所有権法逐条解説 第16版,pp .208-211,発 明協会(2001) *2特 許法68条 より,特

1753蛋 白 質 核 酸 酵 素Vol.48No.12(2003)

特許権の効力は試験研究に

及ばないのか

石埜正穂

特許とは縁が薄いように認識 されてきた大学や公的機

関の研究が,さ まざまな分野で広 く特許化 されるように

なっている.企 業の技術開発者以外 にはむしろ関心の低

いものだった特許が,公 的な研究者の問でも広 く市民権

を獲得 しはじめている.「 知財立国」という国の方針 も

あるので,こ れか らの日本の繁栄のためにも,知 財意識

の向上は好ましいことだろう.そ の反面,特 許に関する

つまらない誤解が一人歩 きしている様子も散見され,ま

た有識者の不注意な発言によって,研 究の現場が混乱す

る懸念 さえ出てきた.知 財立国を担 う研究者の立場とし

て,知 的財産に関してある程度正 しい認識をもっている

ことは必要と思われる.

本稿で取 り上げるのは特許法69条 の問題である.特

許法69条1項 は,特 許権の効力が及ばない範囲として,

「特許権の効力は,試 験又は研究のためにす る特許発明

の実施には,及 ばない」 と規定 している.一 般的にこの

規定は,製 造や販売を伴わずに試験 または研究を行なう

かぎり,特 許権侵害にはならないという程度の意味に解

されている.そ れならば,企 業による商業目的の研究は

特許権の侵害の対象だが,公 的研究機関による基礎的研

究は,特 許法69条1項 の存在によって特許の侵害の対

象外 になる,と いうふうに考えてよいのだろうか.否 で

ある.そ れでは特許制度を根本か ら誤解 していることに

なる.現 実には,こ の69条1項 は,試 験研究を行なう

主体が公的研究機関であろうが,企 業であろうが,ま っ

た く関係な しに適用 された り,さ れ なかった りするの

だ.実 際,基 礎研究だか ら特許の効力が及ばないとか,

商業目的の研究だか ら効力が及ぶとかの表現は,特 許法

のどこを探 しても見いだす ことがで きない.

そもそも69条1項 は,「 発明の保護及び利用 を図る

ことにより,発 明を奨励 し,も って産業の発達に寄与す

る」 という特許法の崇高な目的(特 許法1条)の ために設

けられている.そ のため,こ こでいう 「試験又は研究」

とは,本 来的に,技 術の進歩を目的とした試験,研 究を

意味 している*1.つ ま り,も ともと69条1項 は,た と

えばAと い う発明を応用 してBと いう新 しい発明を世

の中にもたらすことができれば,技 術の進歩 を介 し産業

の発達に役立つ,と いう趣旨の ものなのだ.

●具体例による考察

法律論ばか りでは具体的イメージを描きにくいので,

上に述べた内容がわれわれの 日々の研究にどのように反

映 されるかを,具 体例 によって示す.

◆ケース1:企 業Aが 企業Bの 特 許発明に属す る胃酸

分泌抑制薬Cの 改良 品を作製すべ く,胃

酸分泌抑 制薬Cを 自ら製造 して解析 した

場合

◆ケース2:大 学の研究者Dが 企業Eの 特許発明に属

す る電気泳動装置Fを 自ら作製 し,当 該

電気泳動装置Fを 用 いて実験 デー タを出

した場合

ケース1に おいては,企 業Aが 改良品をつ くって,

医薬品販売において企業Bよ り優位に立 とうとしてい

るわけであり,商 業 目的で研究を行 なっているのは明 ら

かである.と ころが,企 業Aに よる胃酸分泌抑制薬C

の製造や解析 は,69条1項 によ り,特 許の効力の範 囲

外 となる(し たがって侵害ではない).こ れは,Cよ りも

効果があ り副作用の少ない薬を世の中にもたらす新 しい

技術を世の中の人が望んでいるか らであ り,特 許法はま

さにこの期待に応えるためにあるからだ(ち なみに,企

業Aが その胃酸分泌抑制薬Cを 無断で実際に販売すれ

ば,研 究という目的の範囲を超えてしまうので,侵 害 と

なる).

では,ケ ース2は どうであろうか.そ の研究がた とえ

ば企業 との共同研究であれば特許 を侵害するが,純 粋に

学術論文 を書 くための実験であれ ば69条1項 により侵

MasahoIshino,札 幌 医科 大 学 医 学 部衛 生 学 講座 ・知 的 財 産管 理 部 門準 備 室 E-mail : [email protected]

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Page 2: 特許権の効力は試験研究に 及ばないのか12).pdf*1特 許庁 編:工 業所有権法逐条解説 第16版,pp .208-211,発 明協会(2001) *2特 許法68条 より,特

1754 蛋 白質 核 酸 酵素Vol.48No.12(2003)

害しないのだろうか.答 えは否である.こ のケースでは,

電気泳動装置Fそ の ものの改良実験ではな く,あ くま

でも“他の”実験 をするために電気泳動装置Fを 使用 し

ているにす ぎないという点にとくに留意 してほしい.こ

のようなケースまで69条1項 の対象にしていた ら,実

験に使用する試薬や機材(た とえば電気泳動装置F)を 販

売する業者は,す べて特許制度の恩恵を受けられないこ

とになって しまう.つ まり研究者Dは 電気泳動装置F

の販売数を減ずるというダメージを特許権者に与 えた と

いえる(研 究者Dの ような者が多数存在 したら,企 業E

の受けるダメー ジは図 り知れない).だ か ら,こ のケー

スにおける 「実験」は,69条1項 の対象 には な りえな

い.念 のため述べると,ケ ース2に おいて,も し研究の

内容が電気泳動装置Fそ のものの改良実験であれば,

結局ケース1に 相当することにな り,69条1項 の対象

として侵害 にな らない.し か しこの場合,研 究者Dが

電気 泳動装置Fの 不正 コピー品を無断で作製 し,そ れ

を彼の実験道具として使用 しているにす ぎない以上,原

理的には完全に特許侵害になる.こ こで注意すべ きなの

は,実 験が個人的な趣味に終始するなら別だが,仕 事 と

して(特 許用語的には 「業として」)行 なっているか ぎ

り,商 業 目的かどうかというようなことは,特 許法上関

係ないということである*2.

このことは,研 究者として とくに注意 しなければなら

ない問題である.な ぜなら,他 人の特許に属す る販売品

(たとえば生物試料やDNA)を 無断で自家作製 した り,

複製物をもらったりして使用する行為は,た とえその使

用が大学の実験室 レベルであったとしても,原 理的には

特許侵害にほかならないからだ.実 際にそのようなこと

を行なっていて問題になっていないとしたら,そ れはた

だ運よく訴えられていないだけか もしれない.知 財立国

として名乗 りをあげる以上は,日 本の研究者の知財意識

も,発 展途上国レベルか ら脱する必要がある.

●事件に基づく考察

以上の例を,実 際に世の中に起きている事件に即 して

判断 してみ よう.

少し前に,浜 松医大のモデル動物に関する事件の判決

があった*3.本 件は,浜 松医大お よび製薬会社3社 が共

同でモデル動物 を作製 して研究に使用 したところ,当 該

モデル動物が特許製品であるとして,国 および製薬会社

3社(被 告)が,米 国企業(原 告)か ら特許侵害訴訟を提起

された事件である.

本件では,被 告のマウスが特許品に該当す るか(争点

1),お よびこのマウスを使用 して実験することが69条

1項 に相当す るか(争 点2)な どが争点 となった.結 局の

ところ,そ もそ も被告のモデル動物が特許品に該当しな

いということで,侵 害は成立せず,予 備的な主張であっ

た争点2に 対しては,裁判上の判断が加 えられなかった.

それでは,も し被告実験動物が特許侵害品であったと

仮定すると,争 点2は どうなるのだろうか.結 論か ら述

べると,被 告が実際に特許品を無断で作製などして,自

らの実験データを得るためにその特許 品を使用 していた

ということであれば,ま ず問題な く特許侵害に該当す

る.つ まり,こ れは上記ケース1で はなく,ケ ース2に

相当する問題にすぎない.特 許権を侵害 した くなかった

ら,当 該モデル動物を買 うな り,作 製するための許可を

得 るなりすべ きなのである.ち なみに本件の場合は国立

*1特 許庁 編:工 業所 有 権 法逐 条 解 説 第16版,pp .208-211,発 明 協 会(2001)

*2特 許法68条 よ り,特 許権 の効 力 は 「業 と しての 実 施 」 に のみ 及 ぶ 。 そ の意 味 す る と ころ は,単 に個 人的 あ る い は家 庭 的 にす ぎない 実

施 を特 許権 の 及 ぶ 範 囲か ら除外 し よ うとい う程度 の もの で あ る[中 山信 弘:工 業所 有 権 法(上)第2版,pp.310-312,弘 文 堂(2000)].

米 国 の判 例 で は 「単 な る気 晴 らしか,閑 暇 に任 せ て好 奇 心 を満 足 させ る た めか,あ る い は純 粋 に哲 学 的 な探 求 」 に 特 許 権 の 効 力 が 及

ばな い と して お り[玉 井 克哉:21世 紀 の学術 研 究 と知 的財 産権,学 術 月報,56巻(1),pp.9-17(2003)],そ れ らが 日本 に お け る 「業 と

して」 で は ない もの に相 当す る と考 え られ る.た と え大 学 に お け る基礎 研 究 で あ っ て も,少 な く と も仕 事 と して 行 な っ て い る以 上,

「純粋 に哲 学 的 な探 求」と まで は言 いが たい[染 野 啓 子:「 試験.研 究 にお け る特 許発 明 の 実施 」,AIPPI,33巻3号,pp.138-143(1988)

;4号,pp.206-210(1988)].

*3東 京 地 裁 平成13年12月20日 判決 平成11年(ワ)第15238号

*4米 国 の研 究機 関 な どが,非 営 利 の研 究 で あ る こ とを 条件 に,無 償 で研 究材 料 を提 供 す る よ う な ケー ス が あ る(た と え ばATCCが 仲 介

す る細 胞 や ク ロー ン).こ の よ うな場 合,大 学 向 けの 提 供 を受 けた 研 究 者 が 企 業 との 共 同研 究 や受 託 研 究 で そ の研 究 材 料 を用 い た実

験 をす る と した ら,特 許権 侵 害 な どの問 題 が生 じて くる場 合 もあ りうる ので,気 を つ け な けれ ば な ら な い.し か し,そ れ は あ く まで

も契 約 上 の 問 題(つ ま り個 々の ライ セ ンス の 中身 の 問 題)で あ り,特 許法69条 の 問題 で は ない.

*5平 成11年4月16日 最 高 裁 判所 第 二小 法 廷 判 決 平 成10年(受)第153号 医 薬 品販 売差 止 請 求事 件

*6な お 同様 に,制 度 的 な趣 旨に鑑 みて,特 許 性 調 査(特 許 され た こ と自体 の 是非 の調 査)や 機 能 調査(明 細 書 の記 載 どお りに実 施 で き るか

どうか の 調査)を 目的 とす る試験 も,こ の69条1項 の 「試 験 研 究 」 に含 め るの が 妥 当 とい う考 え 方[染 野 啓 子 「試 験 ・研 究 にお け る

特 許 発 明 の実 施 」,AIPPI,33巻3号,pp.138-143(1988);4号,pp.206-210(1988)]が 広 く支持 され て い る.

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Page 3: 特許権の効力は試験研究に 及ばないのか12).pdf*1特 許庁 編:工 業所有権法逐条解説 第16版,pp .208-211,発 明協会(2001) *2特 許法68条 より,特

1755蛋 白質 核 酸 酵素Vol.48No.12(2003)

大学と企業の共同研究であったわけだが,前 述 したよう

に,研 究を仕事で行なっている以上,国 立大学の単独研

究であるか否かというようなことは,特 許法上侵害の成

立に何 ら影響 しない*4.一 方,特 許品であるモデル動物

を無断で作製 したとしても,そ の欠点を調べた り改良品

を作製するための実験であれば,上 記ケース1に 相 当

し,69条1項 の適用により特許侵害にならない.

● 「試験,研 究」の解釈の幅について

少 し専門的になるが,最 後に,後 発医薬品の製造等承

認準備行為についての最高裁判決*5に 触れてお く必要

がある.こ の判決は,い わゆるゾロ医薬(同 一の医薬品)

の,特 許存続期間満了前の薬事法に基づ く治験 目的の臨

床試験について,こ れを特許法69条1項 にいう 「試験

又 は研究のためにする特 許発明の実施」 とみなすべ き

か,そ うでないとするべ きかという激 しい争いの末に出

されたものである.治 験 目的の臨床試験 も,対 象薬を特

許権者に無断で製造 ・使用 している以上,特 許権侵害に

は変わ りがない.た だ,「 試験」という名のもとである

ので,69条1項 によって侵害 を免れ うるのではないか

というところが争点になった.試 験研究と称 して も,特

許品と同一物(ゾ ロ)の治験にす ぎなければ,「 技術の進

歩」に何 ら貢献 しないので,前 述のような69条1項 の

本来の趣旨にはそ ぐわない.し か し一方で,も し特許が

存続期間の満了まで治験 目的の臨床試験 を許さないこと

とすれば,後 発 メーカーは期間満了後に臨床試験を開始

しなければならないので,実 質的 に特許権者の独占期間

を延ばすに等 しいことになって しまう.特 許権者に不当

に(実際問題 として不当かどうかは別 として)長 い期間独

占権を与え続けると,技 術の進歩 を逆に阻むことになっ

て しまい,そ れはそれで満了期限 をわざわざ設けて技術

の普及をめざした特許制度の趣 旨に反する.最 高裁判決

は,後 者の考え方に基づいて,治 験 目的の臨床試験を特

別に69条1項 の 「試験」に該当 させることに した.こ

れは69条1項 のいわば拡張解釈であるが,こ のような

解釈を受け入れることによっても,ケ ース1,2で 示 した

ような典型 的な権利 関係 が覆 される ようなこ とはな

い*6.

最後の例は別としても,こ こで述べたようなことの多

くは,研 究生活 にとってごく身近 なことである.と くに,

知財の権利を主張 してい く以上,義 務のほ うについて

も,正 しい認識をもっているべ きであろう.著 作物の違

法 コピー問題についても同様である.

石 埜正 穂

略 歴:1988年 札 幌 医大 大 学 院 医 学 研 究科 博 士 課程 修了,

1988年 セ ン トル イス 大 学 分 子 ウ イル ス 学 研究 所 研究 員,

1991年 札 幌医大 附属 がん研究所 生化 学部門助 手を経 て,現

在 ,札 幌医大医学部衛生学 講座 講師 および札 幌医大 知的財産

管理部 門準 備室長,2002年 弁理士試験合格.研 究 テーマ:

ウイルス性下 痢症,細 胞内 シグナル 伝達機 構.関 心事 ・抱

負:知 財活 用を通 して地 方を元気に したい.

第19回 疲労研究会

日 時 平成15年9月18日(木)10:00~17:00

場 所 ツインメ ッセ静岡 北館 レセプションホール4階[静 岡市曲金3-1-10/Tel.054-285-3111(代)FAX054-283-4004]

シンポジウム 「くも膜下 出血.脳 出血発症 と過労をめ ぐって」座長:上 畑鉄之丞(聖 徳大)

休憩 ・休息効果か ら見た血圧変動― 自動車運転労働 を例 として(前 原直樹,労 働科 学研)/脳 動脈瘤 の破裂機序 と過労

について(新宮 正,寺 岡整形外科病院)/脳 動脈瘤の リスク要因および家族集積性(小 泉昭夫,京 大)/高 血圧性脳 出血

で死亡 した出版編 集者の労災認定事例(内 田 博,東 葛病 院内科)/く も膜下出血.脳 出血 と過労をめぐる裁判例の動 向

(上柳敏郎,東 京駿河台法律事務所)

参加方法 一般参加 に関する手続 きはあ りません.参 加費は年会費 として会誌代(「疲労 と休 養の科学」第19巻:平 成16年 発行)

を含めて5,000円 です.研 究会の当日,受 付にて申し受けます.お 問合せは下記事務局 までお 願いいた します。

事 務 局 〒160-8402東 京都新宿 区新宿6-1-1東 京医科大学衛生学公衆衛生学教室 疲労研究会事務局

E-mail : prey-med@@tokyo-med.ac.jp Tel. 03-3351-6141 (ext. 238) FAX 03-3353-0162

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