58
39 発展途上国における公衆衛生と経済発展: インド・タミルナードゥ州コヴァラム村における JICA 草の根プロジェクトの事例から 1 西 はじめに: 本稿は 2009 年から 2011 年に 2 年間にわたって行われた JICA (国際協力機構) 草の根技術支援プロジェクトの成果を報告し当該村の将来の経済発展の可能性 について論じるものである。前半は被差別カースト集落への集中的な UDDT (糞 尿分別型)トイレの設置から出現した新たなニーズについて論じ、後半では同 時並行して進められたリーダーシップ・トレイニングについて検証する。訓練 をうけ参加型調査方法を習得していった女性たちが自ら表明しはじめた村にお ける問題の認識と解決方法の提起についても論じていく。研修に参加した女性 たちが表明した「村の問題点」のなかでプロジェクト開始時点ではみられなかっ たジェンダー格差の問題について女性たちがトレイニングのなかで共通認識を つくりあげつつある点が注目される。 1 本稿のもととなった JICA 草の根技術協力事業「インド・タミルナードゥ州カーン チープラム郡コヴァラム村における自立的地域活性化プロジェクト」は 2009 年から 2011 年まで、JICA と駒澤大学仏教経済研究所による共同プロジェクトとしておこな われた。 実施中、JICA スタッフの方々と仏教経済研究所所長吉津宜英仏教学部教 授には様々な面でご支援を賜った。無事成功裏に終了することができたことを記し て謝辞としたい。プロジェクト詳細は JICA2011)参照。

発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 39-

発展途上国における公衆衛生と経済発展:インド・タミルナードゥ州コヴァラム村における

JICA草の根プロジェクトの事例から 1

西 村 祐 子

はじめに:

 本稿は2009年から2011年に2年間にわたって行われた JICA(国際協力機構)

草の根技術支援プロジェクトの成果を報告し当該村の将来の経済発展の可能性

について論じるものである。前半は被差別カースト集落への集中的なUDDT(糞

尿分別型)トイレの設置から出現した新たなニーズについて論じ、後半では同

時並行して進められたリーダーシップ・トレイニングについて検証する。訓練

をうけ参加型調査方法を習得していった女性たちが自ら表明しはじめた村にお

ける問題の認識と解決方法の提起についても論じていく。研修に参加した女性

たちが表明した「村の問題点」のなかでプロジェクト開始時点ではみられなかっ

たジェンダー格差の問題について女性たちがトレイニングのなかで共通認識を

つくりあげつつある点が注目される。

1 本稿のもととなった JICA 草の根技術協力事業「インド・タミルナードゥ州カーン

チープラム郡コヴァラム村における自立的地域活性化プロジェクト」は 2009年から

2011年まで、JICA と駒澤大学仏教経済研究所による共同プロジェクトとしておこな

われた。 実施中、JICA スタッフの方々と仏教経済研究所所長吉津宜英仏教学部教

授には様々な面でご支援を賜った。無事成功裏に終了することができたことを記し

て謝辞としたい。プロジェクト詳細は JICA(2011)参照。

Page 2: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 40-

西 村 祐 子

I.コヴァラム村プロジェクトの背景、現状、問題点

1-1.コヴァラム

 プロジェクトの行われたコヴァラム村はタミルナードゥ州カーンチープラム

郡に属し、人口は 6500人余りの人口を抱える漁業を主体とした村である。タ

ミルナードゥ州の州都チェンナイ市の南 40キロに位置し、チェンナイへの直

行バスで 1時間余りと通勤圏でもあるため、定職を得て都市部に通勤する人々

もおり、観光客を当て込んだ商店通りもある。美しいビーチがひろがり、イン

ドでもトップクラスのタージホテルがあり、表面的には住みやすい村にみえ

る。だが、村はおもに低所得層である漁師カーストと前不可触カースト(登録

カースト)2 が中心の貧しい村であり、彼らのなかには失業しているものも多

い。また、長年カーストと宗教によって分断され抗争が続き、村の発展は停滞し、

衛生状態も悪い。 大の人口はヒンドゥーの漁師カーストの集落であり、他に

2つのムスリム (イスラム) 系漁師カーストの集落、4つの登録カースト集落と

商業カーストなどの若干高いカーストに属する集落もあるが、外からの流入者

でありチェンナイなどに本宅を持ち本来の村人たちとの接触はほとんどない。

 本プロジェクトのおこなわれたコヴァラム村には低所得層のムスリムも含ま

れる。彼らは改宗前は前不可触カーストでもあったので漁師カーストからは

差別され、ヒンドゥーやクリスチャンである登録カーストのメンバーと同様

海での漁からは排斥されている。クリスチャンであってもムスリムであって

も低カーストであれば、労務者として網をひくことは許されても漁業組合のメ

ンバーにはなれず、独自に海で漁をするのは禁じられている。この為彼らが独

2 本稿でのカーストとはインドに存在する世襲職と内婚制に基づいた社会集団をさ

す。ヒンドゥー教における浄・不浄の概念にもとづく高カースト(バラモン)対低カー

スト(不可触民、アンタッチャブル)の世襲職業にもとづく差別が今日でも行政が保

護を与える前不可触民=登録カースト(Scheduled Caste)および登録部族民(Scheduled Tribes)として残存している。インド政府内務省統計によれば両者をあわせて人口の

24%強である (Government of India 2011)。

Page 3: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 41-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

自に漁をするのは川魚に限られている。インド洋沖地震と津波の被害の折には

川が氾濫し彼らの家の相当数が壊滅的な損害をうけたが、彼らに対しては海で

漁をする漁師ではないということで当初は援助の手はほとんど差し伸べられな

かった。津波被害以降ますます貧しくなったのがムスリムとクリスチャンの登

録カーストである一方、津波被害によって世界中から支援が寄せられたために

津波のショックによるトラウマもあり、漁師カーストの間では急激にアル中が

増えたという(Rajesh 2005)。南インド漁業組合(SIFFS)の事務局長サティシュ・

バブ氏によれば、漁船の数はすでに津波前でもだぶついており漁師が生活を保

障する職業ではなくなっていた。そこで SIFFS では保守的で漁業以外の職に

つこうとしない漁師カーストを動かし他の職種に移れる技術をつけさせること

を推進しようとしていた。だがそれが津波被害以降でもあまり成功していると

はいえないとサティシュ氏は語っていた 3。

 パンチャーヤット(村落議会)議長によれば、2007年の時点で人口 6500名余りの村で 250- 300名の若者男子が無業の状態であった。30代以上の青

年男子の失業率を加えるとさらに失業率は増え成人男子の 20パーセント以上

が失業中という。登録カーストの場合、男性の 80パーセント程度は日雇いで

労務作業に従事していると思われ、失業と就業の境目は曖昧なままであった。

漁師カーストの場合、漁業が定職とはいえるが、家族を十分にサポートできる

ほどの安定的な収入とはいえず、半失業のことも多い。あえて平均的な収入を

尋ねると、5人家族で一ヶ月 1500ルピー(2007年時点で約 3000円)程度と

いう答えがかえってきた。2007年当時であってもこの額で親子 5名が暮らす

のは困難であり、他に何らかの副収入がなければ生活は難しいであろうと思わ

れた。村内には 20を超える女性の互助組織があり、そのなかで小規模なビジ

ネスをおこない家計を助ける女性たちも多かった。貯蓄と低利小口融資に特化

しており銀行からグループで借金をしてビジネスをおこすことも可能ではあっ

たが適当なアドヴァイザーがいない状況では失敗して銀行に借金が残る。この

3 同氏との 2005年 3月ケーララ州トリヴァンドゥラム市におけるインタビューによる。

Page 4: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 42-

西 村 祐 子

為貸出停止をうける互助組織も少なくなかった。

1-2.CRDT(Coastal and Rural Development Trust)

 本プロジェクトで現地パートナーとして選択した NGO は CRDT(Coastal and

Rural Development Trust)であり、現在スイスの財団 Friends of India からの援助

をうけ村の子供たちの補習校と村落周辺の低カーストの女性たちの互助組織の

支援をしている。事務局長はラジュ・ナーラーヤナン氏であり、過去 20年以

上にわたりコヴァラム村でのボランティアとして女性互助組織のスタートや海

岸美化プログラム、雨水採取によるリサイクル活動などに取り組んできた 4。

2005年に完成した同トラストのセンターでは NGO として子供の夜間補習と

学校外活動を支え、カーストの区別なく連日 200名あまりの学童が補習に訪

れている。この NGO や 150名を超える女性互助組織会員を組織する運営力は

同氏の際立った能力であり、周辺地域での評価も高い。

 だが同トラストの特徴は事務局長が漁師カースト出身であるがターゲット

は登録カーストである点であり、同村内の漁師集団との軋轢がある点である。

軽食代として月 50ルピー(100円)を徴収するが補習料は無料である。4名

の補習教員を雇っている費用は同トラストの理事の寄付によって賄われてお

り、村内の登録カーストおよび漁師カースト内の女性層からは高い評価を得

ている。だが漁師カースト男性成員からは同トラストが自カースト集団に対

する利益の還元が十分でないと批判されている。また同トラストの女性互助

組織はコヴァラム村内よりも周辺部の登録カースト集落の組織化に特化して

おり同村内での女性互助組織との連携はあまりみられない。このような点か

らもコヴァラム村における男性漁師カーストとの間には軋轢も生じる可能性

が存在していた 5。

 実際本プロジェクト進行中、漁師集落内部のみにあらゆる権益を独占的に保

4 同氏を評価する新聞記事は以下の通り。

http://www.hinduonnet.com/thehindu/mag/2003/09/21/stories/2003092100370400.htm

Page 5: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 43-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

持しようとする傾向に反発している同氏から金銭を巻き上げようとする一部の

漁師グループが抗争を勃発させた。不当な容疑で逮捕され地元警察によって不

当に拷問される危険性があり、同氏はほぼ半年間の間逃亡生活を余儀なくされ

た。幸い裁判所は同氏の主張を全面的に認め一部の漁師グループからの申し立

てを却下したが、当時筆者らが目撃したのはカーストが自治組織として機能す

る半面警察機能をも担っている点であった。漁村である本村では漁師カースト

の自治組織が平時は自衛組織としても機能しており警察が介入することはめっ

たにできない。筆者が散見した異コミュニティ・異カースト間の軋轢と協力関

係の欠如の背景には Srinivas (1994) が述べるところの“ドミナントカースト”

6 である漁師カーストの圧力に対し屈服せざるを得ない少数派である登録カー

ストという構図が横たわっていた。後者をまとめられれば前者を数で優に上回

ることができるものの、組織的にまとまった漁師カーストの男性集団に対抗す

るにはあまりにまとまりを欠いている状況が続いていたのである。

 地元の登録カーストのなかには村内の酒場で起きた些細ないさかいをもとに

二十数年前におこった漁師カースト集団による登録カースト集落の焼き討ち

事件をい まだに記憶している人々が多かった。当時焼き討ちと殺りくを恐れ、

5 チェンナイ市のロータリークラブ支部によると、同支部が村に寄付した電気によ

る脱塩浄水機の稼働についても設置場所と利権について漁師カースト集団からの専

横的な申し入れによりスタートが暗礁に乗り上げた。2010年に、浄水機を設置する

場所を同カースト集落にするよう運動し、それが可決されるとさらに稼働作業員を

同カーストから調達するように主張した。また機器部品の交換のために浄水を有料

で販売することにしたロータリークラブに対して売上額は全額同カースト集落に「場

所使用料」として帰属すべきであると主張したという。

6 M. N. Srinivas (1994) によれば、ドミナントカーストとは必ずしも数が多いカース

トではなく、その地域で政治的に有力であるカーストで、儀礼的に高い地位を占め

るが地域政治や経済活動にあまり影響力をもたないバラモンなどのカーストと対比

させて論じている。本稿で扱っているコヴァラム村の場合全体的なカースト規範か

らすると漁師カーストは低位であるが同村では明らかにドミナントカーストといえ、

まとまりを欠く登録カーストや前不可触カーストであったムスリム集団らと対比さ

れる。これに対し商業資本をもち富裕層といえるチェッティヤールなどの集団は村

内に店や邸宅を持つものの地域政治にはほとんど関与していない。

Page 6: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 44-

西 村 祐 子

登録カースト集落の全員が山間部に避難し、危機を伝えるために集落のリー

ダーが河を泳いで駐屯していた近くの陸軍に連絡し騒乱を鎮圧してもらったと

いう。この事件の顛末においても地元警察が地元の人々から信頼されていない

ことは明らかであった。

1-3.タージホテルとの対立

 同村のいまひとつの問題は村にある著名な商業資本であるタージホテルと漁

師カーストとの対立である。公共の財産であるはずのビーチのかなりの部分を

囲い込み漁をできなくしたのは同ホテルであると漁師らは主張し、ホテルに対

して十分な補償を要求する。だが漁師カーストはビーチおよび海を自集団だけ

の権益ととらえておりホテルからの補償は自カーストのみに配分されるべきで

あると主張している。彼らがホテルの収益からの配分を自コミュニティへの権

益としてとらえ先鋭化してゆくに従ってホテル側は必要な対応策をとってき

た。漁師集落とは交渉せずほとんどのスタッフを村外から雇い入れ、村内から

の登用をさけている。調理手伝いや庭番・非常勤スタッフには登録カースト集

落からも雇い入れがあるが、本来は村民にもっと職を与えられるはずのタージ

ホテルの役割が十分に発揮されているとは言い難い。地元経済発展に貢献した

いというホテル側は、観光資源としての村の環境改善に協力することにはやぶ

さかではない。本プロジェクトによりヤングリーダーたちと同ホテルとの間に

環境改善や就業に役立つ協働関係をつくることも課題のひとつであった。

1-4.なぜ若者・女性グループからの「リーダー輩出」が必要か

 本プロジェクトの前におこなった登録カースト集落への子供の遊び場建設に

おいて明らかになったのが若者世代と女性グループの積極的な支持に対して中

高年男性層の保守性と協働性の欠如であった。遊び場が欲しいという要望に応

じて筆者らの活動グループは、まず村内の登録カースト集落でもっとも大きな

コーッタイコロニーに村ではじめての子供の遊び場を建設した 7。又、若者グ

ループの要請に応じてバレーボールコートも併設された 8。だが、建設が始ま

Page 7: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 45-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

ると実際に手伝ったのは女性と子供たちと一部の若者だけで中・高年層の男子

はほとんど支援をしなかった。また、あらゆるカーストの子供に遊び場を解放

することをコーッタイコロニーの長老たち及び若者集団が誓約したにもかかわ

らず、実際には当該集落の子供と若者にほぼ占有されていた。他カーストや他

部落の子供が遊ぶことには当該集落の男性層が難色を示した。

 さらに、中・高年男性リーダー層においては直接的な経済的援助にのみ関心

があり自コミュニティとしての資産であるそれぞれの人脈や社会関係資本など

無形の資本にはほとんど無関心であり、それらを活用する意欲に欠けていた。

初歩的な大工仕事や労務作業が可能であるにもかかわらず、簡単な技術指導す

ら受けることがなく、外部からの援助に依存するだけの生活に慣れ切っていた。

 他方、遊び場の自主的維持管理と塀による美化、憩いの場づくりを考えたの

は 30代でチェンナイに勤めているコータイコロニーに住む男性であった。こ

のプランは本プロジェクトが修了間際になった 2010年でも策定段階であった

ものの、若い世代が管理運営・美化などについて意見を交換している状況がみ

られた。これに対し、年長世代は互いに他のメンバーが主導権を取ろうとする

のを牽制することにのみ終始していた。若い世代のリーダーたちは自分たちの

利害が一致すれば共通のプロジェクトをおこなうことには前向きであるように

みうけられた。ヤングリーダーを各コミュニティからまんべんなくリクルート

し、彼らをコーホートとして連帯感をつくりだし、次世代、次々世代をみずか

ら育てられるマニュアルをつくりだしてゆけばコヴァラム村には経済的発展の

足がかりができてくるのではないかと思われた。そこで、本プロジェクトでは

ヤングリーダーを育てることを主眼としたスキームをつくることにした。リー

ダーとは実質的なプロジェクト企画、運営、フォローアップなどができる能力

を持つ者であり、その経験はワークショップを積み重ねつつ実際のプロジェク

7 同プロジェクトは JICA プロジェクトに先行し、駒澤大学学生有志による資金集め

によって 2007年 2月下旬に完成した。

8 同バレーボールコートは 2007年 8月に完成したが、このプロジェクトには近隣の

若者たちが参加して自らコートの整備を行った。

Page 8: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 46-

西 村 祐 子

トを遂行していく小さな成功体験を積み重ねることで得られる。

1-5.教育と社会資本(人脈)がもたらした若者世代での変化

 この 10年間、急速にアウトカーストの人々の間で教育が普及し大学にゆく

若者の数が増えてきている。だが他カーストに比べまだその絶対数は少ない。

また、教育機会を奪われている点では貧しい低カースト出身者のほうが深刻な

場合もあり、かつては貧困ゆえに学校からドロップアウトする若者の数は多く、

コヴァラム村でもその事例は多かった 9。今日漁師カーストのなかでも 20代、

30代の若者の中にもこのような学業からのドロップアウトは 20%程度は生じ

ている。だが、50代以上とそれ以下の世代には大きな違いがみられるのは公的・

私的な領域にまたがった情報量の差である。大きな変革をインド社会に草の根

レヴェルから与えられる可能性を秘めているのがインターネットを中心とする

情報革命だが、特にモバイルとインターネットの普及により若者世代は通信手

段と必要な情報を得られるより多くの機会を獲得しつつある。それらのチャン

スを利用可能なものにするためには訓練によってプロジェクト推進能力を得る

ことも必要である。 殊に女性リーダーを育てることは従来からあるジェンダー

差を縮めるためにも重要なことである。

1-5.女性グループの利点とリーダー養成の必要性

 一般に女性は互助組織などを通じて相互にお金を融通しあう組織をつくりや

すい。生産手段をもつ男性が協同組合やカーストベースの組織によって経済的

なイニシアチブをとるのに対し、貧困層・低カースト集団にあっては利害をと

りまとめ互助組織をつくるのがきわめて難しいとされる。だが生産手段をもた

ない女性たちのなかでも特に貧困層では互助組織が比較的つくりやすい。貯蓄

などを計画的に行い助け合う素地ができているからである(cf. Zubair 2005)。

9 資料コヴァラム村リーダーシップトレイニングマニュアルデータ 3.教育 6歳から 21歳までの子供の退学状況参照。

Page 9: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 47-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

グループで集い地域社会への貢献がしやすく集団によるトレイニングに前向き

に参加する素地がある。だが、トレイニングを受けるチャンスが少なく、参加

したくとも夫や集団の社会規範によって外にでて社交的にふるまうことを禁じ

られている場合も多い。その傾向は低カースト層に強く、登録カーストやムス

リム集団に多くみられる。コヴァラムでもその事例が多くみられ、村落会議の

議長に選ばれたムスリムの女性が一度も議会に出席せず夫が代理を務めている

ことも過去にあったほどである。このような女性たちにとってはカーストや宗

教の違いを超えたリーダーシップトレイニングに参加してもらい、まず他カー

ストの同世代との協働関係をつくることが重要な鍵となる。

 漁師カーストの場合、漁をするのが男性であり市場で魚を売るのが女性とい

う伝統的な分業体制が成立しており他カーストと異なり、女性が外にでて互助

サークルに参加したりトレイニングを受けたりすることについて夫や父親から

の異論が発せられることは少ない。だが、漁師カーストの女性たちが農業カー

スト(ヴェッラーラやナーダール)、そしてヒンドゥー、クリスチャン、ムス

リムすべてのコミュニティーに在籍する登録カーストの女性たちと連携を組む

ことができるかどうかは不明であった。そこで本プロジェクトでは自コミュニ

ティを超えた共通の利益のために社会的ネットワークをつくりだし協働する下

地をつくることがめざされた。そこでのキーワードは公衆衛生の向上による生

活レベルの向上とその周辺活動による就業チャンスの増大である。

1-6.公衆衛生の向上と環境の美化・就業の増大

 ファイブスターホテルとして名高いタージホテルの敷地内を除けばコヴァラ

ム村の衛生状態はあまりよいとはいえない。第一の問題は野外排泄の多さであ

り調査によれば漁師カースト集落の 75パーセント程度、登録カースト集落の

80から 90パーセント程度がトイレを自宅に持たず野外排泄をしていた。村の

経済は停滞しており積極的に公衆衛生を向上しようとする機運はみられなかっ

た。村の繁華街はバス停留所付近であり、モスクがあってムスリムが中小商店

を営んでいるが、大きな資本は村に住まない商業カースト(チェッティヤール)

Page 10: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 48-

西 村 祐 子

が握っている。村の唯一の商店街であるバス通りにも観光客の姿が稀なのは、

雑然としており不衛生なせいもあった。魚市場では氷を使わずに魚が並べられ

魚の破片などが散乱しており観光客をひきつけるような様子とはいえない。魚

市場から商店街にかけてのメインストリートはごみが散乱している。美しい

ビーチはあるもののごみが散乱し、売店も少ない。タージホテルは敷地を完全

に囲い込みそのなかを美しく整備しているものの、ホテルの敷地を一歩出ると

村の現実に遭遇してしまう。潜在的観光資源の美しいビーチやチェンナイに近

いという地理にもかかわらず住民はそれらの利点を生かしきれていない。公衆

衛生の問題も深刻であった。

1-7.野外排泄とトイレ需要の問題

 昨今のインド経済の発展による建設ブームにより風光明媚なコヴァラムビー

チ周辺の土地は都市富裕層や海外から帰国したインド人たちにより買い漁られ

る現象がおきている。2007年当時から、ビーチ周辺の下水や電気が通ってい

ない 50坪あまりの土地ですら 4000万円程度の高値で取引されているような

土地のバブル現象がおきていた。富裕層の流入人口が急激に増え建設ブームに

よって野外排泄できる場所すら急速に減っていく事態に直面してようやく男性

たちも女性たちのトイレのニーズに耳を傾けはじめていた。だが水洗トイレ

は高額なだけでなく海岸の村で地下水位が高い為井戸水を汚染する危険性が高

い。しかし野外排泄をやめない限り毎年数十トンにもおよぶ糞が地表に撒き散

らすバクテリアによって引き起こされる疾病を防ぐことはできない。

 WHO とユニセフの統計によれば世界の人口の 39パーセント、すなわち 26億人の人達が未だに極めて劣悪な公衆衛生の状況下で暮らしている。野外排泄

をしている人々の数は世界の人口の 25パーセントから 17パーセントに減っ

たとはいえ 11億人が依然として野外排泄をしていることになる 10。その 83

10 WHO とユニセフが共同で行っている水と衛生に関する報告サイトを参照(World Health Organization 2011)。

Page 11: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 49-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

パーセントが 13の国々に集中しているが、なかでもインドが 大で都市部で

は 60から 70%、地方では 75%程度がトイレのない生活を強いられていると

される。

 事前の戸別聞き取り調査によれば、コヴァラムでのトイレの普及率は村全体

で 20パーセント以下となっており、公衆衛生の低さと相まって様々な健康上

の弊害をもたらしていた。男性や子供は野原、川沿い、海辺などいたるところ

で排泄している。だが女性の場合年齢が上がるにつれ、オープンな場所での排

泄への羞恥心から茂みを探すようになり、しばしば何百メートルも先まで歩か

ねばならなくなっている。

 トイレがないことは男性よりも女性や身障者にとって大きな苦痛をもたらし

ている。トイレを我慢するために女性は消化器系の疾患にかかりやすくなる。

トイレの場所をもとめて体調がよくないにもかかわらず、長時間歩かねばなら

ない。藪で蛇にかまれ 悪の場合死に至ることもある。野外排泄場に同行して

くれた子供の話によると、コヴァラムでも 2年ほど前にそのような死亡事件

があったという。羞恥心から女性は夜遅くまたは朝早く人目につかない場所を

選ぶ為に強姦の危険にも晒されやすい。

 少なくともこれらが深刻な問題としてようやく女性ばかりではなく男性側に

おいても認識されはじめてきていた。しかし水洗トイレは高額であり、タンク

式であれば半年に一度程度のタンクの清掃というメンテナンスが必要で一層高

額となる。そして水洗は水自体が不足している村では現実的ではない。また海

岸で地下水位も高いため不用意に汚水を流したりピットを掘って糞尿を溜める

ことで地下水を汚染することも懸念された。

 つい 近まで数キロ先にある共同水道からの水を運ぶため、女性たちは毎日

数キロ歩いて飲み水を調達することが日課となっていた。村内にいくつか井戸

があるものの、井戸からでてくるのは飲料水として適しない水である。 近登

録カーストの集落に飲料水の蛇口ができたが、それでも一週間に 1時間しか水

がこない。漁師カーストの集落にはチェンナイ市の水道局によって近隣の村か

らひいた水が定期的に流れてくるようになったが十分とはいえず、水源の村と

Page 12: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 50-

西 村 祐 子

の間での交渉が難航している。ちなみに筆者らが集中的に UDDT トイレを設

置し全戸にトイレを配備した集落のナドゥコロニーには井戸がひとつもなく、

例年にない干ばつで 2009年の夏は水不足がきわめて深刻であった。

1-8.UDDTトイレ建設にいたるまでの経緯

 当該村のなかで特に本プロジェクトで支援されたのは漁師カースト集落よ

りも登録カーストの集落である。2004年 12月 26日におこったスマトラ沖地

震とそれにともなうインド洋津波はタミルナードゥ州だけでも 3000名が亡く

なった。この村のある海岸沿いにも津波が押し寄せ数十世帯が流され漁師の

ボートなども被害にあった。しかしその折に世界中からの支援の恩恵をうけ

たのは主に漁師カーストであり、海で漁をすることが許されていない登録カー

ストやムスリムの漁師たちはほとんどその恩恵をうけていない。彼らは沿岸か

らはいりこんだ河川で魚釣りをして生計をたてており、津波被害をうけたもの

のほとんど補償がなされていなかった。本村における団結力が強い漁師カース

ト集団の影でもっとも虐げられている集団への援助として本プロジェクトで

は UDDT トイレの設置を登録カースト集落からはじめることとした。実際登

録カースト集落はトイレの普及率がきわめて低く低カーストの村のなかでも登

録カーストの部落の場合 90パーセント近くがトイレをもっていなかった。人

口密集集落で外での排泄が病気を誘発しているだけでなく、土地の値上がりか

ら住居が立て込んできて用をたすことができる場も限られてきていた。そこ

で、2007年 2月、および 2008年 2月にチェンナイ市の NGO であるレイン・

ハーヴェストセンターの協力を得て、合計 12基の UDDT トイレを建設した。

UDDT トイレをあえて共同トイレとせず戸別に設置したのは公衆トイレは清

掃する専門従事者を必要とするので継続性という点で実際的でないこと、むし

ろ各家族がそれぞれのトイレが必要で家族単位でメインテナンスに努めるほう

が効果的であることという視点からの結論である。ピット式のトイレは水位が

高いこの村では使えず、下水設備がなく、水も貴重であるこの村では水洗トイ

レは実用的ではなかった。2009年のプロジェクト開始にあたって、すでに 28

Page 13: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 51-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

基の UDDT トイレは 3基を除いてすべて使用されており、使用者たちは満足

していた。だが、トイレ建設にあたっての問題点としてはコスト高が心配され

た。

II.なぜ UDDTトイレ(エコ・サントイレ)か

2-1.新たな環境哲学としてのエコサニテーションの戦略

 エコサントイレとは eco sanitation toilet の略であり糞尿分別型トイレ Urine

Diverted Dry Toilet(UDDT)の別名でもある。エコロジカルサニテーションは

新しい技術というよりは統合的なパラダイムをもつ哲学といってもよく、これ

まで汚物として処理されるのみであったものをリサイクルしてゆこうとする運

動である。経済的に持続可能な手法により再利用し環境改善に役立てようとす

るが、ユーザーのニーズと土地の事情に応じて汚水や排泄物を非集中型で処理

管理してゆく点ですぐれている (Esrey & Anderson 1998)。排泄物の農業への

肥料としての再利用は中国などでは紀元前 5世紀以前から知られており日本

や他のアジア諸国でもおこなわれてきた手法であるが、排泄物がもつバクテリ

アが死滅しないままで使用することに対する懸念があった。エコサニテーショ

ンの運動ではバクテリアなどの有害物質を取り除いて安全に再利用する手法が

さまざまに試みられている。エコサントイレもそのひとつである。

 2001年のデータによれば 93パーセントのタミルナードゥの地方にすむ世

帯ではトイレがない。さまざまな NGO や政府がトイレの問題を解決しようと

してトイレを建設などしてきたが人々のニーズにあっておらず、トイレの多く

は打ち捨てられ、依然として人々は野外排泄を続けている。われわれの観察

によればやはり 2010年時点でも 85パーセントから 90パーセントの人々がト

イレなしの生活をしているようであり、筆者らの観察によればトイレを使う訓

練や設置後のメインテナンスの簡単さなどをクリアーしないかぎり問題は解決

しないと思われた。それに対しエコサントイレを設置しリーダーシップトレイ

ニングや地域専門員によってクリーンアップキャンペーンなどを行った地域で

Page 14: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 52-

西 村 祐 子

は子供の疾病が少なくなっていた。本プロジェクトで全戸にトイレを設置した

ナードゥコロニーでは疾病が激減したが、コヴァラムに隣接するターユール

という集落ではプロジェクト終了時でも依然として腸チフスなどが蔓延してい

た。野外排泄には深刻な健康上・経済上の問題があるが、これらを関連づける

には人々が因果関係を実際に悟るまでにトイレを実際に使い、効果を認識する

という過程を経なければならないので時間がかかる。

 人糞はバクテリア、ウイルス、回虫などを含み、水、土、食物、はえ、洗っ

ていない手などを経由して下痢を引き起こす。下痢は腸チフスや疥癬、コレラ、

寄生虫、トラコーマなども引き起こす。世界中でトイレにアクセスできない

人々は 26億あまりと推定され、5歳以下の乳幼児の死因の第 1位が下痢、発

熱、腸チフスなどの野外排泄がもたらす病原菌によるものとみなされている。

インドでは 5歳以下の子供の死の 17パーセントが下痢とその合併症によって

もたらされている。そして下痢の 80%は糞尿と口腔からの雑菌感染によるも

のであり、それらが野外排泄によるものとされている。筆者らのタイユールで

の聞き取り調査によれば野外排泄が一般的である同地域では 1世帯で平均月に

2000ルピー(約 4000円)程度医療費がかかっていた。月に 6000とか 8000ルピーという場合もあったが、多くが子供の発熱、腸チフスなどで被害を蒙っ

ていた。子供の下痢、発熱による疾病は甚大な生活コスト高を招いている。女

子などが兄弟の看病のために学校を休まざるをえなかったり両親が子供の面倒

をみなければならず、仕事ができなかったりすることにもなる。それらが経済

的なチャンスを逸していることともなる。

 コヴァラム村では飲料水が不足しており水洗トイレは現実的ではない。また

海岸沿いで水位が高く、井戸水を汚す恐れがある。また、実際にピット式では

汚物があふれ出して使い物にならなくなったトイレもあり、汲み取り車がくる

ことがないため、現実的ではない。水汚染のタンク式でなく、土と灰を使った

有機肥料をつくるバイオトイレでなければならないのはそのためである。エコ

サントイレとよばれ、インドで普及している UDDT トイレが望ましいと考え

るが、使用法には細かな指導が必要である(紙をつかってはならない、生理用

Page 15: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 53-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

品をいれてはならない、灰や木の葉を使用後にいれる、など)。

 できた有機肥料の使い道を考えねばならない。エコサントイレの情報に従え

ば、尿の肥料としての利用価値は高く、排泄物は無臭の有機肥料となる。実際

現在の村で確認したところ、無臭であることが確かめられ、そのために UDDT

トイレに対する女性たちの人気が高まった。そこで、エコサントイレを設置し

た家庭に家庭菜園をつくり、環境美化をはかることを考えた。排泄物の処理に

はインド特有のタブーがつきまとい、差別の温床にもなっているところから、

教育効果も高いプロジェクトとなる。エコサントイレを利用してのリサイクル

の思想を学習し、道路をきれいにすることの保健衛生的重要性をヤングリー

ダーの講習のなかで指導することにより、普及活動を彼ら自身でおこなうこと

ができるようになる。登録カースト集落・漁師カースト集落・商店街をこの運

動によって美化することは経済効果を生みだすだけでなく健康維持に重要な意

味をもつ。村をきれいに整備し続けることが健康増進と結びついた経済発展に

繋がるという仕組みをヤングリーダーみずからがトレイニングのなかで認識し

自立的なまちづくりを主導してゆく。そこで自分たちで問題を発見し解決でき

る実力を蓄えることができるのではないだろうか。

2-2.タミルナードゥ州政府の衛生・環境対策について

 南インド 4州の識字率は全インド平均にくらべてきわめて高い。95%を超

えるケーララ州を筆頭にタミルナードゥ州は 74パーセントである。また、タ

ミルナードゥ州は人口増加度もインドのなかでもっとも低いケーララ州の次に

低く、11.1パーセントである(The Hindu 調べ)。北インドと比べれば南イン

ド 4州は高い教育水準である。だがケーララ州を除けば他州は衛生環境対策

に関しては北インドとほとんどかわらない。ことにタミルナードゥ州の公衆衛

生に対する無関心ぶりは明らかであった。「首都のデリー並」にトイレの普及

率が 60パーセント程度と低いタミルナードゥ州の州都チェンナイですら、依

然として下水などのインフラが整っていない場所もある。タミルナードゥ州の

クリシュナギリ郡にはユニセフがトイレ設置プログラムを開始するまでだだの

Page 16: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 54-

西 村 祐 子

一戸すらトイレを持たなかったと報道されている程で、州内でもばらつきがあ

る。

 州政府の無理解ぶりをよく示している事例として、2008年に実施された州

政権政党である DMK の党首カルナーニディによる州政府の低所得者層に対す

るカラーテレビ無償提供施策がある。カラーテレビをうけとる低所得世帯には

トイレがないにもかかわらず、選挙対策として州政府はトイレよりも高価なテ

レビを与える決定をし、トイレのない家々にそれを配った。州政府にたいして

NGO やメディアは猛反発し、州政府自体が宣言した 2008年の公衆衛生キャ

ンペーンをみずから帳消しにすることも意に介さないという事例でもあると論

じた。公立学校における衛生状態(特にトイレの衛生状態)がきわめて劣悪で

あることも指摘されながら州政府も自治体もほとんどまともな取り組みをみせ

ていない。

 また、グローバル化する経済が生み出す急激な土地の高騰の危険性について

州政府はほとんど無関心、無策であると思われる。コヴァラム村のビーチに近

いエリアが大量に別荘地として買収され、4千万円もするプロットがほぼ完売

している異常事態が生じている。 だがその場所には下水設備はおろか上水道

もなく、購入者が自前でそれらを整備せねばならない。これらの異常事態はイ

ンドの都市部における急激な経済成長による土地の値上がり、建設費の値上が

りに連動しており、従来土地の所有などにほとんど関心がなかった登録カース

トの人々のプロットや村所有のプロットなどが急速に土地業者によって買い占

められつつあり、居住空間を失った 貧層の人々がより劣悪な環境である都市

部のスラムに流入せざるを得ない危険性を抱えている。それを防ぐには村をあ

げての経済活性化と生活レベルの向上をはかるより手だてはない。

2-3.州政府の村落開発対策にたいする方針

 タミルナードゥ州の政治はこれまで 10年以上にわたって政権をとってきた

AIADMK にかわり、2006年にカルナーニディが率いる DMK が政権につい

た 11。だがどちらにせよ、選挙の人気取り的なパフォーマンス政策がめだって

Page 17: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 55-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

おり、隣接するケーララ州などと比べると活発な自治体活性化のための政策立

案がおこなわれているとはいいがたい。この点は後述する PRA 方式を利用し

たリーダーシップトレイニングの折に集められた参加者の感想でもあり、パ

ンチャーヤットの機能自体について議員たちすら知らないという事態が一般的

なようであった。リーダーシップトレイニングに参加してはじめてパンチャー

ヤットの予算がどのように使われているかを知り、何が問題でありどこから必

要な予算をもってくる必要があるかを理解したと参加者は述べている。また、

参加者によれば、州政府とパンチャーヤットの提携が進んでいるケーララ州を

訪れ人々の政治参加の意識の強さを目の当たりにしてショックすら受けたとい

う。

 州大臣はトイレのない集落に選挙対策としてカラーテレビを 3000台配った

としてメディアでも批判された。腐敗も多く、州政府が人々のニーズに早急に

答えているともいえない。インド洋沖津波の被害があった村などを訪れた折

に NGO の人々から聞かされたのは被害があって 2年以上たってもかつての村

がたっていた周辺に居住施設がつくられていないことであった。実際 2011年時点においても 2004年の津波被害者のための“ツナミ・ハウス”が建設途中

であることも珍しくなかった。貧困世帯がコンクリート製の家に住めるのは良

いが出来るまでに 4- 5年がかりである。それだけでなく出来た家にはトイ

レすらないという状況では野外排泄をなくすことはきわめて難しい。コヴァラ

ム村においても州政府がインド洋沖津波被害者のために建設している住民セン

ターは建設途中のまま野ざらしになり一部すでに朽ちている状況であった。

2-4.エコサントイレ設置集落としてのナードゥコロニーと女性たち

 本プロジェクトでエコサントイレを集中的に設置したのはコヴァラム村の登

録カースト集落のひとつ、ナードゥコロニーであった。ナードゥコロニーは漁

11 2011年 5月の地方選挙により、DMK はタミルナードゥ州で敗北し、カルナー二

ディに代わり再び AIADMK 出身のジャヤラリタが州大臣の地位についた (Wikipedia 2011)。

Page 18: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 56-

西 村 祐 子

師カーストの集落からはなれており、村内の 4つの登録カースト集落のひと

つである。登録カーストには前不可触カーストとしての差別が依然として強い。

本集落には 44世帯がおり約 132名が居住している。経済的には遅れており日

雇いに従事している。特に建設関連や庭仕事、配管、その他川や塩田関連の仕

事などが職種である。このマッピングにより家の数と衛生状況、水がどこにあ

るのかを住民は知ることになる。村には子供たちが学べる学校が近隣にある。

ひとつはタージ財団が経営するコミュニティカレッジであり他は村のなかにあ

る 8学年までの小学校・中学校で 500メーターしか離れていない。レンガ工

場があるが職人は外からやってくる。集落には 9つの飲料用水道の蛇口があ

るが、3つしか稼働していない。そして飲料水は週に 2回しかこない。飲料水

は極端にすくなくその他の生活用水もまったく足りていない。トイレは筆者ら

が JICA プロジェクト以前にたてたエコサントイレが 6つあり、タンク式のも

のとピット型のものが他に合計で 5つあった。ほとんどの人々が自宅に住ん

でおり、うち 12がコンクリートづくり、8つがタイル屋根の小屋、20件が藁

ぶきの小屋にすんでいる。このうちの数件が賃貸である。37名の女性中 12名が寡婦で 4名の男性がやもめである。4人の身障者と 1名の知的障害者がいる。

 小規模であるが他の集落と若干切り離されており全戸にトイレを設置するこ

とによって衛生状態と環境美化の効果が表れやすいであろうという予測によっ

て選定した。また本集落の女性たちがもっとも熱心にトイレ設置を希望したか

らでもある。トイレ設置プロジェクトにあたり、以下のような住民参加による

マップを作製してもらった。

 提携 NGO の専門スタッフがマップのつくりかたを指導し、参加した 10名

の住人たちに集落の問題点、特に野外排泄による汚染について自ら考えても

らった。

 上記に明らかなように、池の周囲が野外排泄場となっており、沼や池の水を

利用して排泄後に身体を洗浄するためにバクテリアが水を介して周囲を汚染し

やすい状況をつくっていた。エコサントイレ設置による公衆衛生の向上により

疾病が激減することは明白であると思われたが、当初は実勢コストの 12,000

Page 19: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 57-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

ルピーのうち 2000ルピーの負担を渋って設置したいという家があまりなかっ

た。2000ルピーを負担してまず設置したのは CRDT の掃除婦をしていた女性

の家であったが日本のコンクリート専門家による特注のコンクリートブロック

と竹筋をいれた厚いセメントの床による 6角形の特異なデザインの上質なト

イレが制作された。実勢コストの 3倍近くの費用がかかってしまったが広告

塔としての役割は果たした。これにはオーナーの女性が要望した小さな行水空

間が入口付近に設けられたこともあり、たちまち女性たちの要望が高まって需

要に供給が追い付かないほどになった。近隣の集落からの要望もあったが限ら

れた予算を振り向けてトイレを全戸に設置するという目的を達するためにナー

ドゥコロニーと近隣にある農村のプンゲーリにのみ限定した。簡易入浴場に石

の棚をセットする要望などが寄せられ、改良を重ねてゆくに従って集落の女性

たちの態度が一変し、入浴と排せつができるプライベート空間の快適さが浸透

していった。

池及び

マップづくり参加者

Page 20: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 58-

西 村 祐 子

III.プロジェクトで達成された目標

3-1.プロジェクト目標と達成度

 当初プロジェクトではコヴァラム村において自立的に衛生状態の改善と生計

向上活動ができる素地が作られることをめざしていた。それには住民の 80%以上が村の美化を認識し、80%以上が生計向上ができるとの感触を持つこと

が必要である。その成果を実感するため、聞き取り調査を実施した。生活レベ

ルがアップしたという声が聞き取り調査をおこなった対象集落(ナードゥコロ

ニー)ではほぼ 100パーセントに達した。また、実際に就職斡旋ネットワー

クをホテルと女性互助組織の間につくりあげたことにより、生計にプラスの効

果があると思われるグループや実際に就職して生計を向上させた世帯も出現し

た。これにはタージホテル関連でナードゥコロニーから女性に就業機会が提供

されたことも大きい。全戸にエコサントイレを設置したナードゥコロニーの場

合、水事情が極端に悪く井戸すらない状況であったが集落の女性たちが団結し

て筆者らと協議し、村と JICA 援助の折半によって井戸がまず掘られた。その

後さらに 1基が戸別住居に設置され、追加でパンチャーヤットがもうひとつ

の共同井戸を 1基追加し、少なくとも生活用水に関してはプロジェクト前と

は格段の差がついた。水脈を掘り当てるためにタージホテルが水脈士を派遣し

てくれ水脈を調査することができたことも協力体制を強めることとなった。

リーダーシップトレイニングの成果

 ナードゥコロニーの衛生状態は美化増進と並行して向上している。 トレイ

ニングをうけた 100名プラス 200世帯程度で衛生状態への積極的な取り組み

がみられた。プンゲーリおよびナードゥコロニーなどでトイレを利用したコン

ポスト取得と疾病減少により生計向上の希望がでてきた。ホテルとの関係改善

がなされ就業機会が増えた。プロジェクト策定時には、ヤングリーダーが育成

される、事業終了時までに第 2次コーホートまでのヤングリーダーが 40名以

上育成される、500名以上の住民がワークショップに参加する、ヤングリーダー

Page 21: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 59-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

が世帯調査を実施し、報告書にまとめることができる、といった効果を想定し

ていた。

 実際には修了書を取得した第二次コーホートまでのヤングリーダーは 70名を超え、セミナーにはコヴァラムで毎週 100名程度、プンゲーリでは毎回

100名以上、総参加数で 500名を優に超える人々が参加した。また筆者らが

雇用したエコサントイレ指導専門員 3名はエコサントイレ設置世帯調査を実

施、報告書を毎週まとめた。

 ナードゥコロニーではプロジェクト中にパンチャーヤット(村落議会)にア

ピールし予算をつけてもらい、JICA と共同で同集落初めての井戸を完成させ

た。水不足を解消するための給水栓も設置された。また、これまで家の外にで

ることが少なかったムスリムの女性たちも本トレイニングに加わった。若い登

録カースト出身の男女、他カーストの女性グループとの間には交流が生まれた。

 本プロジェクトでは、エコサントイレ・家庭菜園の導入および地域の緑化活

動により、対象世帯周辺において環境課題が解決されるようになる、エコサン

トイレが 30基以上建設される、エコサントイレ設置世帯の 80%以上が、同ト

イレを適正に利用し、満足する、家庭菜園が 40戸以上で設営される、といっ

たことを目標にした。

 プロジェクト終了後の聞き取り調査では、家庭菜園設置世帯の 80%以上が

同菜園を適正に利用し、満足していた。また、エコサントイレはプロジェクト

中に 42基建設され、筆者らが同地域で建設したエコサントイレは 2005年以

来で総計 85基を超えた。 今回のプロジェクトでのエコサントイレに限って

言えば、所有者らは 90%の世帯が満足し適正に使用しているといえる。

 ナードゥコロニーでは全戸がトイレをもち野外排泄がなくなり、疾病が激減

した。また周辺農村で本プロジェクトに中途で加えられたコヴァラム村の周辺

農村のひとつであるプンゲーリでは農村であることも影響して、全戸からエコ

サントイレの設置希望が寄せられた 12。

 プロジェクトを通じて近隣ホテルとヤングリーダーとの間に雇用につながる

関係が生まれることも期待された。本プロジェクトで訓練された女性互助組織

Page 22: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 60-

西 村 祐 子

のリーダーをはじめとする数名がホテルからの短期雇用の斡旋を請け負うこと

になり、さらにナードゥコロニーからは 2名の女性が定期雇用としてホテルの

キッチンでチャパティづくりの仕事を得た。また、ホテルとは関連しないが本

プロジェクト終了後にナードゥコロニーでのトイレ指導専門員の女性が CRDT

の運営する補習校に算数の補助教員として採用されるなど、目に見える雇用の

成果もみられる。

 本プロジェクトでは緊急課題であるトイレ設置をトレイニングの目的と組み

合わせつつ大きな公衆衛生と保健の問題として認識させた点ではある程度成功

をおさめた。だが漁村であるコヴァラム村は農村のプンゲーリと比較すると有

機肥料の重要性について十分に納得するには時間がかかるとおもわれる。当初

の目的ではエコサントイレによって出来た人糞による有機肥料(コンポスト)

の販売先は決められなかった。一部が近隣住民によって買い上げられた事例は

あるものの、販売促進に対する住民の訓練がまだ行き届いておらず、さらな

る訓練が必要であった。一方農村であるプンゲーリにおいては自らの畑で有機

肥料を用いるため、この問題は生じなかった。採取された尿をココナッツやバ

ナナなどの植物にかけて成長を促進することも積極的に行われていた。漁村で

あるコヴァラムの場合、これらが難しいという点で課題が残ってしまう結果と

なった。

 また、コヴァラムでは既存の女性組織を活用し、トレイニングセミナーでは

ムスリムの女性や登録カーストの若者グループを活性化し、既存の女性互助組

織と連携させることは達成できた。しかし結束が固く他のコミュニティに利権

を渡そうとしないコヴァラム村の成年男子漁師集団はこの動きに加わっていな

12 資金の問題があり、同村からの要望には応じきれない状況が続いている。コヴァ

ラム村全体からの要望もあり、本プロジェクト終了後の課題としてエコサントイレ

を出来るだけ安価に自力で制作できるようなモデルの造営が急務となった。筆者ら

と交流があるフィリピンのエコサン関連の NGO のCAPSではすでに 100ドル以下

の簡易モデルがあるものの、インドに応用するにはいくつかの障害があり今後の課

題となっている。

Page 23: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 61-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

い。今後彼らの勢力圏である魚市場のクリーンアップ作戦が女性互助組織やヤ

ングリーダーを中心に本格的に行われてゆけば彼らもこのプロジェクトの成果

を理解できるようになるという期待はあるものの、従来の漁師カーストの組織

を縦断する新たな組織づくりは難しいとも思われる。

 エコサントイレを設置するにあたり、プロジェクトでは過去の経験に鑑みて、

設置個所を拡散せずに集中して 1集落や 1区画に徹底させた。これは衛生面

での効果を認識させ、ピアプレッシャーを与える面でもよかったといえる。リー

ダーシップトレイニングでは女性互助組織を通じて成果が伝播しコヴァラム村

の商店街を中心とするクリーンアップキャンペーンに繋がっていった。しかし

トイレ建設にあたっては初期に前述したように、CRDT の事務局長のナーラー

ヤナン氏が村の紛争に巻き込まれ不在期間があり、現場で指示がいきわたりに

くく非効率であった。

 タージホテルにナードゥコロニーの登録カーストの女性 2名が就職できた

のが大きなインパクトをもって人々に受け入れられ、筆者らに対する信頼度は

増したといえる。この 2名がタージのキッチンで週 5日働けるようになって

彼らに対する周囲の目が変わり、ホテルとの対立ではなく交渉によって互恵的

な関係をつくろうとする機運がみられるようになった。登録カーストではこれ

まで漁師カーストの結束におびえていたのが女性や若いリーダーの出現により

教育がなくとも職がつくりだせるという可能性が芽生えてきたようにみえる。

それは補習教室で算数を教える補助教員としての登録カーストの女性の就職な

どにも表れている。

 ナードゥコロニーが全戸にトイレをもち、下痢などの疾病で病院にゆく人が

なくなった。病院通いや薬の購入、子供の病歴の報告が急に少なくなった。周

囲の村落からやってくる人々が増え、メディアの報道も増えた。本プロジェク

トの遂行中にメディアの取材は 4回に及び、ナードゥコロニーで取材をうけ

た女性たちはいずれも自信を深めていった。また、タージホテルが漁師グルー

プではなく登録カーストの若者世代や女性互助組織に目をむけるようになり、

彼らと交渉し、労働力需要を満たそうとするようになり、これが村との関係改

Page 24: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 62-

西 村 祐 子

善の契機となった。本プロジェクトでこれまでパートナーとしてありえなかっ

た男女の提携・交流関係が生まれた。トイレ専門員が違う村に住む若い登録カー

ストの男女、同じく登録カーストだが違う村出身の自動三輪の運転手や CRDT

の経理の女性、ムスリムの女性などが交流するようになった。

 またパンチャーヤットの議長であるジャナキラーマン氏は積極的にリーダー

シップトレイニングを評価し、パンチャーヤットのメンバーからも数名がトレ

イニングに参加し評価した。登録カーストの集落はこれまで漁師カーストに比

べて行政サービスから外されがちであったが、同議長は彼らと協働し、積極

的に自らの票田として活用しようとする姿勢をみせるようになってきた。ナー

ドゥコロニーに週 1回の水の供給を行える水道の建設や共同井戸 2基の建設

などにそれらが現れている。これらが「自分たちだけの利益」を主張し他のカー

ストには見向きもせず差別していた漁師カースト集団への対抗軸となり得る緩

やかなネットワークの基礎をつくりつつあると期待できる。本プロジェクトは

登録カーストやムスリムとして見下され村の政治から取り残され収奪されてき

た人々に女性と若者グループを中心としてエンパワーメントの機会を与えたと

いえる。

UDDTトイレ建設による村全体への影響

 チェンナイ地域での建設ブームによって原材料や労賃が急激に値上がりして

おり当初予想していた予算よりコストが増大する事態がおこった。一般的にお

こなわれているのはコンクリートブロックで壁をつくり、さらに便器をおく床

を強化したコンクリートパッドにすることであるが、1基つくるのには数日間

(4- 5日)熟練工と 2- 3名の非熟練労働者の労働が必要である。

 コストを下げるため当初は日本のコンクリート専門家などを投入し鉄骨を代

替する竹筋による手法なども試みた。だが、日本の高い水準にあわせて現地の

2倍のセメントの厚さになったりして結局コスト減には繋がらなかった。結局

コストを抑える 大の努力は地元の資材店との交渉力を発揮した CRDT のナ

ラヤナン氏による資材バルク買いと労働力の現地調達方式であった。

Page 25: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 63-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

 CRDT では本プロジェクトでエコサントイレの建設の管理運営にはかなり熟

達し、建設への自信を深めた。また、チェンナイからの職人の労働量は不均等

で工事に大幅な遅れを生じていたため、村内でこのトイレをつくれる若い職人

を育てることにも成功した。この職人の下に 2- 3名のアシスタントを育て

ることもできた。この結果村落でのトイレ建設は初期の遅れを取り戻しスムー

ズに運んだ。結果的に制作に要する価格は他の NGO による制作物より 30%程

度低下したが、本プロジェクトではその分で内部を若干拡大し女性たちに人気

のある行水場をつくったことでエコサントイレの需要が急激に増えた。以前の

標準モデルでは行水場所がなく不便であるという現地の女性たちの要望があっ

たからである。UDDT トイレをつくるにしたがい女性たちは小さな棚を要望し

たりちょっとした工夫で行水を快適にするようになった。それまで人目を気に

して川で行水をしてもサリーを着用したままだったりしたのが気兼ねなく行水

できるようになったことは大きな生活の質の向上だった。生理中の行水にも気

兼ねがいらず衛生的にも向上した生活が送れるようになったのである。

 集中的なトイレ設置集落となったナドゥコロニーでは女性たちによる 初の

イニシアチブがみられた。それは井戸堀りの要請だった。2009年は通常より

干ばつがひどく飲料水はもちろん生活用水にも事欠いている状況だった。近く

の共同井戸から生活用水を汲みにいってもその集落から歓迎されないことが続

いていた。生活用水にすら困る状況で、たとえトイレがあっても身体を洗うこ

とすらできないのはきわめて不便である。そこで筆者らと村のリーダー格の女

性たちとの間での約定ができた。すなわち筆者ら JICA プロジェクト側が井戸

づくりの素材を提供するかわりに彼らが労務費を出すというものである。これ

を聞いたコヴァラム村の議長は後にその労務費をパンチャーヤットから支出す

ることに賛成した。こうして女性たちのはじめてのイニシアチブは成功をおさ

めた。

Page 26: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 64-

西 村 祐 子

終わりに:ジェンダー格差の問題

 本プロジェクトの策定に際してコヴァラム村でのリーダーシップトレイニン

グを筆者らと交流があるマドゥライ市の NGO,ダーン財団にマニュアル策定

とトレイニングを委託した。そこで制作されたトレイニングマニュアルの翻訳

が添付資料である。トレイニングの一環として、参加者らは自らが住む地域の

マッピングを共同で行い、セミナーのなかではパンチャーヤットがもつ本来の

機能と役割についても学習した。そして必要と思われるプロジェクトに予算を

策定し、必要な資金をどこからどのように調達するかについても学んだ。その

過程で参加者からの意見聴取があり、日常生活で困っていることなどが浮き彫

りにされるかたちとなった。なかでも筆者らが注目したのは本プロジェクト策

定時にはほとんど想定していなかった各種の女性に関する問題の列挙である。

例えば、女性がビジネスに活かせるような技術を身につける機会が無い、ビジ

ネスを立ち上げる能力のある貧しい女性をバックアップできる十分な資金が無

い、家族(夫または父親など)の過度のアルコール摂取により健康状態と家庭

の経済状況が低下している、通りに充分な明かりがなく女性が夜間の外出に困

る、セクシャルハラスメントにより心理的問題を抱えている村人(女性)がいる、

政府の政策や法律を知らないため、望む結婚ができない、ダウリ(婚姻時の婿

方への婚資の支払い)の問題により婚期が遅くなっている、等のほか、コヴァ

ラム村にやってくる観光客が村の女性を性的対象としてみている、といったこ

とも挙げられた。さらに、女子を学校へ通わせない、公的行事での女性の参加

数が少なく、参加しても地位が低く留め置かれるといった問題も挙げられた。

 このプロセスにより、それまで個人のなかでのみ捉えられていた社会問題が

集団のなかで討議されまとまってリストアップされ、共有されることによって

より大きな主張として拡大してゆくことになる。本プロジェクトが終了する直

前にデリーから取材にやってきた One World South Asia のナイムール・ラーマ

ン氏らは、取材中、リーダーシップトレイニングを受けた女性グループに取材

を申し込んだ。パンチャーヤットの集会所に表れた彼らが一斉にこれらの問題

Page 27: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 65-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

点について口にし始め収拾がつかないほどになったとき、記者たちはそのエネ

ルギーに圧倒されてしまったと筆者らに述べた。それは彼らが意見の集約とプ

ロジェクト遂行への意思決定のプロセスを学んでゆくことも必要であることも

示している。リーダーシップトレイニングとしては第二段階に進むことを意味

しており、今後の課題として残されている。しかし修了書を手にした女性たち

が口ぐちに筆者に語ったのはリーダーシップトレイニングで外に出ることがで

きるようになり他の女性たちとの繋がりができて世界観が広がったこと、そし

て仲間で組織だって努力すればパンチャーヤットを動かして自分たちでコミュ

ニティが必要な資源を調達できるようになることであった。ナイムール・ラー

マン氏は取材後「彼らはともかく声を上げることを学んだが、まだ統率がと

れておらずこの中からリーダーをつくりだし自分たちの要望を整理して表明す

るやり方を学ばなければならない。数年たってから再び訪問してその成熟ぶり

を観察してみたい」と語った。今後の成熟のプロセスには必要に応じて第二段

階、第三段階のトレイニングが必要となると思われる。このプロジェクトの発

展形態としては、彼らがパンチャーヤットを説得してそのトレイニングをセミ

ナーなどの開催によって行うことができることが も望ましいであろう。議長

のジャナキ・ラーマン氏とヤングリーダーたちが協働し、漁師カーストの男性

グループへの有力なカウンターパート勢力になってゆくことに期待したい。

――――――

引用文献

Government of India 2010 ‘Scheduled Castes and Tribes Population,’ http://www.

censusindia.gov.in/Census_Data_2001/India_at_Glance/scst.aspx

JICA 2011 ‘プロジェクト基本情報 ,’

http://gwweb.jica.go.jp/km/ProjectView.nsf/3834e8008371f18049256caf000aeb

5e/7355cd87a74555f3492576100079e207?OpenDocument&ExpandSection=6Rajesh, Y. P. 2005 ‘Indian Fishermen drink more to drown their sorrow’, The Times,

Jan.21, http://www.timesofmalta.com/articles/view/20050121/local/indian-

Page 28: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 66-

西 村 祐 子

fi shermen-drink-more-to-drown-their-sorrow.101510Steven Esrey and Ingvar Andersson 1998 Ecological Sanitation: Closing the loop to

Urban waste management, SIDA Stockholm, Sweden.

Wikipedia 2011 ‘Tamil Nadu Legislative Election Assembly,’ http://en.wikipedia.

org/wiki/Tamil_Nadu_legislative_assembly_election,_2011Srinivas, M.N. 1994 The Dominant Caste and Other Essays, Oxford Univ. Press.

World Health Organization 2011 ‘WHO/UNICEF joint monitoring report 2010:

Progress on Sanitation and Drinking Water,’ http://www.who.int/water_

sanitation_health/monitoring/fast_facts/en/index.html

Zubair, M. 2005 Empowering Rural Women: An Approach to Empowering Women

through Credit Based Self Help Groups, Aakar Books.

Page 29: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 67-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

資料 1.コヴァラム村リーダーシップトレイニング用マニュアル 13

トレイニング実施によせて

 「計画をたてるということは、計画それ自体よりも重要である。」というイノ

ヴィスキー 博士の言葉がある。つまり、誰でも計画を立てることはできるけ

れど、どのようなやり方で、また何に基づいて計画をたてるか、といったこと

に重点をおくことが成功する計画の決め手となる。インドでは、村の計画はデ

リーの教養のある少数によってたてられてきた。今日状況は変わり、村人は彼

ら自身のための計画をたて実行する権利が与えられている。きちんとした教育

を受けているけれども実際の問題を知らない外部の人間よりも、村人こそが問

題を知っているはずだ。インドのパンチャーヤット法 243条は、各村のパン

チャーヤットは、村の抱える問題と村を発展させるために利用できる社会的、

経済的資源に基づいて、村人が独自の計画を作ることを認めるべきだ、と定め

ている。村パンチャーヤットの助力を受けて、コヴァラム村には独自の計画を

立てるという特権がある。この特権をいかし、コヴァラム村民全員が共に働き、

開発プランを成功できるよう願っている。

コヴァラム村パンチャーヤット議長

S. ジャナキラーマン

はじめに

 インド人は自国の開発プランを立てるのが非常に得意だ。国を発展させるた

め、私達は様々な五カ年計画を立ててきたが、村人の参加を計画に盛り込んだ

ことは一度もなかった。デリーの開発専門家が小さな村のためにせっかく資金

13 本マニュアルの原文はタミル語で、それを英語に翻訳してから和訳したものであ

る。オリジナルマニュアルの制作は筆者らプロジェクトチームによってトレイニン

グを委託された現地協力 NGO のダーン財団がおこなった。翻訳のプロセスに携わっ

た和田真理子氏に記して謝辞としたい。

Page 30: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 68-

西 村 祐 子

計画を立てても、大抵の計画は村には向いていない。マハトマ・ガンディーの

言葉にあるように、インドは村で成り立っている。つまり、計画は村から始め

られ、国全体に広がるべきものでなければならない。しかしながら、ほとんど

の計画はガンディーの考えとは反対に、中央政府によって、つまり国から施行

されてきた。中央政府によって作られた計画は、実行されても期待されたほど

の結果は出ないまま失敗に終わっていた。だが村人自身が作った計画であれば

それに全員が関わらねばならない。そうでないと村人が望む結果を得られるこ

とはないからだ。

 インドは広大で様々な村から成り立っている。各村は、それぞれ郡に属して

いるが、村ごとに異なった特色、資源、問題を抱えているので、村ごとに計画

を練る必要がある。これは郡のパンチャーヤットが各村に対して個別の計画を

持つ必要性があることを意味している。村のパンチャーヤットは、村民が計画

を実行し、村の発展に繋がるように手助けをする。

 この考えに基づき、ダーン財団は日本の JICA からの要請を受け、コヴァラ

ム村パンチャーヤットのメンバーと互助組織が共に計画を作り上げることがで

きるように過去 2年間、開発計画のための訓練を行ってきた。この計画にお

いては、村の問題を一番よく知る村人自身が計画を練ることになる。自分たち

の村がおかれている財政状況、どうやって、どこから資金を調達できるかを理

解すれば問題を明確にし、根本的な問題の解決をはかることができる。

 コヴァラム村パンチャーヤットで生み出されたこの計画は、非常にユニーク

だ。計画の各段階において村人の参加があり、パンチャーヤットへの関心があ

り、DHAN 財団のトレイナーも喜んでいる。これはとても良い試みで、他の

村のパンチャーヤットの手本となるであろう。計画は立てるだけでなく、貧し

い人や困っている人のために実行されなければならない。次の段階は村人によ

る計画を上手く実行に移すことだ。村人の発案によるプロジェクトの成功を心

より願っている。

ダーン財団

*    *    *

Page 31: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 69-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

コヴァラムパンチャーヤット―開発計画

目  次

1. プラニングとは

2. 村の開発プログラム:報告書要約

3. コヴァラム村パンチャーヤットの紹介

4. 村パンチャーヤット開発 基礎統計

5. コヴァラムパンチャーヤットの開発プラン 2010年~ 2011年6. 計画を実行するにあたって

7. 添付資料:参加者署名欄・マッピング(略)

1.プラニングとは

 「もし木を切るのに 30分間与えられたなら、鋸を研ぐのに 20分使うだろう。」

これはある外国の学者の言葉であるが、これは私たちが何か新しい行動を始め

るときに、計画をたてること(プラニング)の重要性を示している。この言葉

に従い私たちの村パンチャーヤットも今では開発プログラム成功させるために

は、プラニングが重要であると認識している。プラニングをするということは、

暗闇を歩く人に行く手を照らし出す星のようなものである。

 「私たちがどのように行動を起こすかは、行動それ自体よりも重要である。」

このガンディーの言葉に従うと、現在行われている村人たちによる開発プログ

ラムは、様々な段階でどのように準備をしたら効率よく村の発展に結びつくの

か、というところまで含めなければいけない。村のパンチャーヤットのメンバー

にとってプラニングするということは新しい考え方である。だがこれが成功す

れば他のパンチャーヤットの良い手本となり将来的も使うことができる。

 これまでは、村人は自分たちのパンチャーヤットの中だけで問題の議論をし

Page 32: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 70-

西 村 祐 子

ていたので解決策を見いだせなかった。しかし今では JICAの協力のもとコヴァ

ラムパンチャーヤットのメンバーと村の女性互助組織がリーダーシップトレイ

ニングを受け、村の問題に対処し解決策を見つけようとしている。これは喜ば

しい変化である。

 このリーダーシップトレイニングは、五つのステップから成る。第一段階で、

所属集団のニーズとそのニーズを担当するパンチャーヤットの部門について確

認する。第二段階でそれを解決する手法について訓練を受ける。第三段階では、

全ての参加者はケーララ州に出かける。ケーララ州は村民の参加型プログラム

の導入が既に成功しているところである。第四段階では、村パンチャーヤット

と村の女性互助組織のメンバーが、プログラムの実現に必要不可欠な数々の規

範と規則を学ぶ。そして 終段階では村パンチャーヤットのプラニングの過程

を学び、自分たちで村の問題を解決するための実際的な訓練を受ける。

プラニングとプラニングの過程における基本的な手法をもちいた調査

コヴァラム村におけるプラニングのための各世帯の調査

 プラニングするにあたり、問題を確認し、必要な基本的情報詳細と村人のニー

ズが調査されねばならない。この過程で集められた各世帯のデータはまとめら

れ、集計されて次回のプラニングの際に参照できるようコンピューターに保存

された。

・ 地区レベルでのプラニング

 女性互助組織が、地区レベルで村人の問題とニーズの収集に協力した。

 彼らが発見した住民たちのニーズと問題は 6項目に分類された。

1.貧困緩和 4.健康

2.教育 5.環境開発

3.女性のエンパワメント 6.チームワーク

Page 33: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 71-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

上記 6項目は詳細に話し合われ、計画は解決策を見つけるため包括的なやり

方で実施された。

・パンチャーヤットレベルでのニーズの取りまとめ

 コヴァラム村の人々が収集した地区レベルでのニーズと問題がまとめられ

た。ニーズの重要性に従い、どの資金を使うべきか話し合われた。

・論理的枠組みの構築

 それぞれのニーズや問題は目標を定めることによって解決できる。プログラ

ムを実施する際に生じる新たな問題を解決できるよう問題解決のための手法も

構成された。また、問題を解決しニーズを満たすには、どの問題がどれだけの

期間内で解決されるかということも考慮する必要がある。これを受けて、問題

解決能力と計画を迅速に実行に移す行動力のある村人がコミュニティリーダー

としてコヴァラム村の中から特定された。この論理的枠組みにより、コミュニ

ティーの問題は順調に解決され、期間を設定することにより達成度も計ること

ができる。さらにコヴァラムパンチャーヤットの開発プログラムの一つとして、

村の統計マッピングが本書として編集され、開発の索引書として発行された。

2.村の開発プログラム 報告書要約

 国では 5年ごとに 5カ年開発計画を作っている。この 5カ年計画に基づき、

たとえ私たちが開発プログラムの実施に直接かかわっていなくても、国のプロ

グラムは実施されている。同様に、地域やパンチャーヤットレベルで社会的、

経済的発展のために、村のパンチャーヤットレベルでのプラニングは重要であ

るとパンチャーヤット法 243条が言及している。しかしながら実際は、243条は意味のないものとなっている。というのも、多くのパンチャーヤットはプラ

ニングに関心がなく、プラニングの豊富な知識もないのが現状だからだ。村の

パンチャーヤットは政府によって与えられたプログラムのみ実行しているのが

Page 34: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 72-

西 村 祐 子

現状である。

 こうした問題に対して、コヴァラムパンチャーヤットでは、カーンチプラム

郡ティルッポールール地区で、ダーン財団の協力のもと村人自身が問題とニー

ズを調査しデータを集めた。集められたデータは 6項目に分類される。まず

コヴァラム村の基本情報が紹介されている。コヴァラム村パンチャーヤットの

歴史、メンバー、村の開発問題や NGO の情報、村とパンチャーヤット、地域

や土地のマッピングについても詳細に述べられている。2010年度のプラニン

グには多岐にわたるプログラム(6項目)が盛り込まれている。その中には実

行計画、どのプログラムがどの期間に実行できるか、必要な資金、資金をどう

集めるか、などが含まれ、計画の現状や、プログラムの責任者と目標に及ぶま

で明白に述べられている。このプログラムを実施するためには約 29,304,000ルピーを必要としている。この額だけを見るとプログラムを実行するのは不可

能にもみえる。しかしパンチャーヤットのメンバーと政府が共に働くことでプ

ログラムの実行は可能になるのである。

2010年度プログラムの実行に必要な資金(パーセント)

・貧困緩和 8.10%

・教育 10.2%

・女性のエンパワメント 1.8%

・ 保険福祉 71.3%

・ 環境開発 8.5%

・ チームワーク 0.01%

可能な資金調達源

・パンチャーヤット 0.05%

・州政府 83%

Page 35: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 73-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

・中央政府 13.3%

・NGO 0.04%・村民 0.09%

・銀行 3.41%

上記のように資金調達が計画されている。

 プログラムプラニングのプロセスを成功させるため、プログラムプラニング

と実行プロセスを要約した。これにより、村人が自身の問題とニーズの解決に

適した詳細を付け加え、目的達成のためのオリジナルプラニングを作ることが

できる。

3.コヴァラム村パンチャーヤットの紹介

 1997年 1月 7日 チェンガルパットゥ―MGR 地域は 2つの地域に分離さ

れた。無数の寺を持つカーンチプラム郡はその地域の首都の一つとなった。地

域の境は、西はティルバンナーマライとベロア地域、北はティルバールールと

チェンナイ、南はヴィルプラム、そして東はベンガル湾である。 区域の人口

は 2,415,010人で、(男 1230650人、女 1184360人)行政の便宜上、8つの集

団と 13の村パンチャーヤット連合に分けられた。この区域には 648の村パン

チャーヤットが存在する。人口の 3分の 1の人が農業を営み、主な農作物は

水田耕作による米である。同時に小さな地域では、サトウキビや小さな穀物を

育て生計をたてている。地域の主な収入は観光産業が発達しているところから

で、ヴェダンサンガル、ムトゥカドゥ、マーマッラプラム、コヴァラム、ティ

ルッポールール、ティルカズクンドラムなどからの収入である。

・ティルッポールール地区

 ティルッポールール地区はカーンチプラム郡の 13の村落パンチャーヤット

Page 36: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 74-

西 村 祐 子

連合のうちの一つである。就労人口の多くは農業か漁業をしている。コヴァラ

ム村とムトゥカドゥ村はこの地区の主な観光地である。

・コヴァラム・パンチャーヤット

 コヴァラム村パンチャーヤットはカーンチプラム郡、ティルッポールール地

区にあり、チェンナイからマーマッラプラム方面へ約 40キロの距離である。

この区では、ヒンドゥー、ムスリム、クリスチャンが共に生活している。村人

は日雇い労働者として漁業で生計をたてている。コヴァラムは、カーンチプラ

ム郡でも人気の観光スポットの一つでもあり、古い教会やドゥルガー女神の寺

を目にすることが出来る。コヴァラムには 9つの小さな部落がある。

1.クンドゥラカドゥコロニー 14

2.コヴァラム

3.アンサリ ナガル

4.ナチヤールクラム 15

5.セメンチェリ

6.セメンチェリ クッパム 16

7.ナードゥコロニー 17

8.カダイシコロニー 18

9.コーッタイコロニー 19

以下に村の名前の由来を紹介する。

14 訳者注:登録カースト集落

15 訳者注:ムスリムカースト集落

16 訳者注:漁師カースト集落

17 訳者注:登録カースト集落

18 訳者注:同上

19 訳者注:同上

Page 37: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 75-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

1. コヴァラム

コヴァラム村はコヴァラム域一帯で中心となる村である。この場所にはた

くさんの牛が生息し、塩も豊富にとれることから、コヴァラム村と呼ばれ

るようになった。昔、王がこの地へやってきて、コマラヴァリという王女

と結婚した。王妃の名前をとって、王様はこの村をコヴァラム村と名付け

たと言われる。

 

2. コヴァラムクッパン、コヴァラムコロニー

漁師のために新しく住居が建てられたコヴァラム村周辺の地域は、コヴァ

ラムクッパンやコヴァラムコロニーと呼ばれるようになった。

3. クンドゥラカドゥ

この地域はたくさんの丘と豊富な森に囲まれているので、カンデュラカドゥ

(Kandrakadu)と呼ばれるようになった。現在ではクンドゥラカドゥと呼ば

れている。

4. クンドゥラカドゥ コロニー

人口増加のため住居スペースがなくなり、クンドゥラカドゥ村の周辺に新

しく家屋が建てられたこの地域はクンドゥラカドゥコロニーと呼ばれてい

る。

5. アンサリナガル

昔この村の漁師が、海に箱が漂っているのを発見し、海から引き上げよう

としてムスリムに助けを求めた。引き上げた箱はドゥルガー女神にささげ

られた。その後、箱を動かそうとしてもどうにも動かないので、彼らはそ

の箱を何か神聖なものとして考えるようになった。箱にタミーン・アンサ

リと記されていたことからその後この場所はアンサリナガルと呼ばれるよ

うになった。

Page 38: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 76-

西 村 祐 子

6. ナチヤールクラム

この村には池に囲まれたナッチヤールアンマンと呼ばれる女神の寺がある。

ある者がこの村の習わしを聞くと、村人はナチヤールアンマンの寺を指差

した。その後この村はナチヤールクラムと呼ばれるようになった。

7. セメンチェリ

この地域の土壌は赤く、海の近くにあることから、この村はセメンチェリ(赤

い集落)と呼ばれている。

8. セメンチェリ クッパン

漁師が彼らのコミュニティーとして湖のある地域に住みつき始めたことか

らセマナチェリクッパン(漁師の集落)と呼ばれるようになった。

4.村パンチャーヤット開発 基礎統計

コヴァラムパンチャーヤットの基礎統計

村 総家庭数 総人口 男性 女性

クンドゥカドゥ 47 161 84 77クンドゥカドゥコロニー 89 364 177 187コヴァラム 75 286 135 151コヴァラムコロニー 228 815 393 422アンサリナガル 188 763 389 374ナチヤールクラム 196 716 352 364セメンチェリ 126 455 222 233セメンチェリクッパン 182 726 364 362コヴァラムクッパン 342 1282 640 642

合  計 1473 5568 2756 2812

1.社会/地域

1-1.人口

Page 39: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 77-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

村ヒンドゥー クリスチャン ムスリム その他 合計

No % No % No % No % No %クンドゥカドゥ 9 19.15 38 80.85 0 0 0 00.0 47 100クンドゥカドゥコロニー

84 94.38 4 4.49 1 1.12 0 00.0 89 100

コヴァラム 58 77.33 3 4 14 18.67 0 00.0 75 100コヴァラムコロニー

156 68.42 44 19.3 28 12.28 0 00.0 228 100

アンサリナガル 2 1.06 1 0.53 185 98.4 0 00.0 188 100ナチヤールクラム

178 90.82 7 3.57 11 5.61 0 00.0 196 100

セメンチェリ 114 90.48 1 0.79 11 8.72 0 00.0 126 100セメンチェリクッパン

181 99.45 1 0.55 0 0 0 00.0 182 100

コヴァラムクッパン

226 77.78 2 0.58 74 21.64 0 00.0 342 100

合 計 1048 71.15 101 6.86 324 22 0 00.0 1473 100

1-2.宗教

村COMMON BC MBC SC その他 合 計

No % No % No % No % No % No %クンドゥカドゥ 3 6.38 36 76.6 0 00.0 8 17.02 0 0.00 47 100クンドゥカドゥコロニー

5 5.62 9 10.11 28 31.46 47 52.81 0 0.00 89 100

コヴァラム 4 5.33 39 52 30 40 2 2.67 0 0.00 75 100コヴァラムコロニー

13 5.7 44 19.3 43 18.86 128 56.14 0 0.00 228 100

アンサリナガル 6 3.19 166 88.3 14 7.45 2 1.06 0 0.00 188 100ナチヤールクラム

1 0.51 46 23.47 33 16.84 116 59.18 0 0.00 196 100

セメンチェリ 7 5.56 64 50.79 53 42.06 1 0.79 1 0.79 126 100セメンチェリクッパン

1 0.55 6 3.3 174 95.6 1 0.55 0 0.00 182 100

コヴァラムクッパン

24 7.02 89 26.02 196 57.31 33 9.65 0 0.00 342 100

合  計 64 4.34 499 33.88 571 38.76 338 22.95 1 0.07 1473 100

1-3.社会的地位 20

Page 40: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 78-

西 村 祐 子

20 Common とは一般カースト、BC は Backward Castes(後進的カーストとして法的

に保留制度の恩恵を受けられる集団)、MBC は Most Backward Caste の略で後進カー

ストのなかでもとりわけて後進的とされている集団、SC は Scheduled Castes の略で本

論文にあるように登録カースト(前不可触民)集団のこと。

21 本統計でのグリーンカードとホワイトカードは世帯単位の収入が年間 15,000 ルピー(日本円で 3万円程度)以下の人々で、土地をもたない農業労務者、零細農民、

零細職工、職人、年金生活者、貧しい寡婦、身体障害者などが供与されているもの

である。グリーンカードは米、ホワイトカードは砂糖の配給カードである。

村名称 総世帯 総人口 世帯詳細

クンドゥカドゥ 47 161 3.43クンドゥカドゥコロニー 89 364 4.09コヴァラム 75 286 3.81コヴァラムコロニー 228 815 3.57アンサリナガル 188 763 4.06ナチヤールクラム 196 716 3.65セメンチェリ 126 455 3.61セメンチェリクッパン 182 726 3.99コヴァラムクッパン 342 1282 3.75

合  計 1473 5568 3.78

1-4. 世帯詳細

村グリーンカード ホワイトカード 無し 合計

No % No % No % No %クンドゥカドゥ 40 85.11 0 0 7 14.89 47 100クンドゥカドゥコロニー

79 88.76 1 1.12 9 10.11 89 100

コヴァラム 56 74.67 1 1.33 18 24 75 100コヴァラムコロニー

188 82.46 1 0.44 39 17.11 228 100

アンサリナガル 151 80.32 1 0.53 36 19.15 188 100ナチヤールクラム 141 71.94 0 0.00 55 28.06 196 100セメンチェリ 110 87.3 0 0.00 16 12.7 126 100セメンチェリクッパン

162 89.01 0 0.00 20 10.99 182 100

コヴァラムクッパン

315 92.11 0 0.00 27 7.89 342 100

合  計 1242 84.32 4 4 227 15.41 1473 100

2.経済

2-1.世帯配給カード詳細 21

Page 41: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 79-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

村 Rs.4000以下

Rs.4001~6000

Rs.600~8500

Rs.85~11000

Rs.11000以上

クンドゥラカドゥ 42 11 2 6 7クンドゥラカドゥコロニー 94 1 0 0 4コヴァラム 79 13 0 0 0コヴァラムコロニー 223 13 2 1 13アンサリナガル 196 20 0 0 0ナチヤールクラム 216 23 4 1 1セメンチェリ 120 31 1 0 1セメンチェリクッパン 198 16 2 1 0コヴァラムクッパン 329 39 3 3 8

合  計 1497 167 14 12 34

村 利用可 利用不可 合計

No % No % No %クンドゥラカドゥ 46 97.87 1 2.13 47 100クンドゥラカドゥコロニー 88 98.88 1 1.12 89 100コヴァラム 73 97.33 2 2.67 75 100コヴァラムコロニー 200 87.72 28 12.28 228 100アンサリナガル 182 96.81 6 3.19 188 100ナチヤールクラム 196 100 0 0 196 100セメンチェリ 124 98.41 2 1.59 126 100セメンチェリクッパン 182 100 0 0 182 100コヴァラムクッパン 335 97.95 7 2.05 342 100

合  計 1426 96.81 47 3.19 1473 100

2-4.電力供給状況

村 テレビ 冷蔵庫 自転車 バイク 携帯電話 台所用米粉砕機

クンドゥカドゥ 41 20 15 18 35 34 0クンドゥカドゥコロニー 77 11 17 16 70 54 1コヴァラム 70 12 12 18 57 37 3コヴァラムコロニー 192 26 21 35 123 83 1アンサリナガル 182 27 12 13 160 105 3ナチヤールクラム 189 33 20 29 157 118 5セメンチェリ 124 22 15 24 93 77 8セメンチェリクッパン 159 78 44 41 119 116 0コヴァラムクッパン 321 45 44 38 259 200 3

合  計 1355 274 200 232 1073 834 24

2-3.世帯所有物詳細

2-2.月収入

Page 42: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 80-

西 村 祐 子

3.教育

6歳~ 14歳までの教育状況

村 在学 退学

男子 女子 男子 女子

クンドゥラカドゥ 8 10 1 1クンドゥラカドゥコロニー 30 27 0 1コヴァラム 18 32 1 1コヴァラムコロニー 58 58 5 1アンサリナガル 85 53 6 7ナチヤールクラム 63 59 8 2セメンチェリ 40 32 0 3セメンチェリクッパン 56 65 0 0コヴァラムクッパン 100 110 2 7

合  計 458 446 23 23

6歳~ 21歳までの子供の退学状況

村 2005年以前 2005年以降

男子 女子 男子 女子

クンドゥカドゥ 20 20 0 0クンドゥカドゥコロニー 59 63 0 0コヴァラム 37 54 1 0コヴァラムコロニー 100 113 4 1アンサリナガル 142 127 0 0ナチヤールクラム 116 111 3 0セメンチェリ 69 65 0 0セメンチェリクッパン 84 93 8 14コヴァラムクッパン 196 197 0 2

合  計 823 843 16 17

Page 43: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 81-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

4.衛生状態

医療機関利用回数(過去半年)

村 5回以上 5回未満 合 計

No % No % No %クンドゥラカドゥ 6 12.77 41 87.23 47 100クンドゥラカドゥコロニー 1 1.12 88 98.88 89 100コヴァラム 23 30.67 52 69.33 75 100コヴァラムコロニー 81 35.53 146 64.47 228 100アンサリナガル 10 5.32 178 94.68 188 100ナチヤールクラム 20 10.2 176 89.8 196 100セメンチェリ 41 32.54 85 67.46 126 100セメンチェリクッパン 182 100 0 0 182 100コヴァラムクッパン 56 16.37 286 83.63 342 100

合  計 420 28.51 1053 71.49 1473 100

4-2.トイレ設備

村 所有しているが使わない

利用している 公共トイレ 野外排泄 合 計

No % No % No % No % No %クンドゥラカドゥ 4 8.51 35 74.47 0 0 8 17.02 47 100クンドゥラカドゥコロニー

5 5.62 16 17.98 0 0 68 76.4 89 100

コヴァラム 4 5.33 52 69.33 0 0 19 25.33 75 100コヴァラムコロニー 3 1.32 70 30.7 0 0 155 67.98 228 100アンサリナガル 6 3.19 102 54.26 0 2.13 76 40.43 188 100ナチヤールクラム 2 1.02 51 26.02 0 0 143 72.96 196 100セメンチェリ 1 0.79 45 35.71 0 0 80 63.49 126 100セメンチェリクッパン 3 1.65 102 56.04 0 0 77 42.31 182 100コヴァラムクッパン 18 5.26 128 37.43 0 0 196 57.31 342 100

合  計 46 3.12 601 40.8 0 0 822 55.8 1473 100

Page 44: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 82-

西 村 祐 子

5. コヴァラムパンチャーヤットの開発プラン

 以下はトレイニング参加者たちが議論してまとめた村全体のニーズにもとづ

く目標と状況分析およびその解決のための計画である。冒頭には大きな目標が

達成された場合に予期しうる成果が掲げられている。計画のなかにはどのよう

な行動(活動)をおこない、どこから予算が得られ、どの組織が関与すべきで

あるか、達成に要するとおもわれる期間などが分析されている。(財源、予算

などは仮定されたもので必ずしもそれらが得られると確定されたものではな

い。また、未定とされているのはグループ内での話し合いが終結できなかった

ものである)。

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期 間 計画責任者

毎年女性の

失業率が高

い。

200世帯 女性 村の

パンチャー

ヤット

コヴァラム

村近くのバ

ス停に市場

を作る。

30万ルピー 寄付 1年 パンチャー

ヤット連盟

(PLF) /SHG(女性互助組織)

女性がビジ

ネスに活か

せるような

技術を身に

つける機会

が無い。

750世帯 女性 村の

パンチャー

ヤット

健康食品や

冷たい飲み

物が作れる

よう訓練を

する。

5万ルピー SHG 8ヶ月 PLF

Page 45: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 83-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

ビジネスを

立ち上げ

る能力のあ

る貧しい女

性をバック

アップでき

る十分な資

金が無い。

100世帯 女性 村の

パンチャー

ヤット

小規模ビジ

ネスのため

のローンを

提供する。

20万ルピー

SHG から

のローン

6ヶ月 PLF パンチャー

ヤットレベ

ルで女性起

業家が増え

る。

過度のアル

コール摂取

により健康

状態と家庭

の経済状況

が低下して

いる。

500世帯 貧困世帯/

男性

村の

パンチャー

ヤット

アルコール

に依存して

いる村人へ

リハビリセ

ミナーを提

供する。

25,000ルピー

受益者 6ヶ月 パンチャー

ヤット

生活習慣が

改善され家

庭の収入が

安定し、家

庭環境が改

善する。

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

村人が保険

の必要性を

認識してい

ない。

1000世帯 全体 村の

パンチャー

ヤット

保険に関す

る知識を提

供する。

-- -- 1年 DHAN 財団

全村人が社

会保険を受

けられるよ

うになる。

村人が政府

の政策や構

想を知る機

会がない。

100世帯 未亡人、

老人、

障害者

村の

パンチャー

ヤット

政府の政策

や構想につ

いての情報

を得ること

ができる施

設を提供す

る。

-- -- 6ヶ月 パンチャー

ヤット

未亡人、老

人、障害者

が政府の政

策を知り、

実際に利用

できるよう

になる。

Page 46: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 84-

西 村 祐 子

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

学校に生徒

の遊び場が

充分に無い。

1000世帯 学生 村の

パンチャー

ヤット

学校に遊び

場を建設す

る。

20万ルピー

国会議員 /州議員

(開発資金)

2年 パンチャー

ヤット

遊び場を利

用した特別

カリキュラ

ムを通して

保険体育の

教育が発展

する。

コヴァラム

村の学校に

充分な教室

数が無い。

100世帯 未亡人、

老人、

障害者

村の

パンチャー

ヤット

教室を増築

する。

50万ルピー

Sarva Shiksha Abhian (SSA)

2年 パンチャー

ヤット、

保護者

インフラが

整備され、

より良い教

育環境にな

る。

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

読書不足に

より一般教

養が低下し

ている。

1000世帯 学生 コヴァラム村

パンチャー

ヤット

図書館を提

供する。

50万ルピー

AG, AMT 2年 パンチャー

ヤット

教科書だけ

でなく幅広

い分野の本

を読むこと

で学生が一

般教養をつ

ける。

スクールバ

スの運転が

安全でない。

500世帯 学生 コヴァラム村

パンチャー

ヤットと

近隣の村

通学時間帯

にスクール

バスの運行

を増やす。

-- -- 1年 パンチャー

ヤット

事故を避け、

学生が安全

に通学でき

るようにな

る。

Page 47: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 85-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

通りに充分

な明かりが

なく女性が

夜間の外出

に困る。

75世帯 女性 コヴァラム村 故障してい

るライトを

修理する。

10,000ルピー

パンチャー

ヤット連合

2ヶ月 パンチャー

ヤット

女性が夜中

安心して出

歩けるよう

になる。

セクシャル

ハラスメン

トにより心

理的問題を

抱えている

村人がいる。

50世帯 心理的問

題を抱え

ている村

コヴァラ

ム・カース

ト会議

女性が避難

できる場所

を提供する。

50万ルピー

州議員 2年 パンチャー

ヤット

セクシャル

ハラスメン

トの被害に

あう女性の

数が減る。

政府の政

策や法律

を知らな

いため、

望む結婚

ができな

い。

50世帯 若い女性 全コヴァ

ラムパン

チャーヤッ

結婚資金を

えるために

女性が仕事

を持ち、経

済的に自立

できるよう

機会を与え

る。

10,000ルピー

NGO 6ヶ月 ACDS/CRDS

女性が教

育を受け

ることに

より自身

が望む結

婚ができ

る。

Page 48: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 86-

西 村 祐 子

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

ダウリによ

り婚期が遅

くなってい

る。

300世帯 若い女性 コヴァラム村

パンチャー

ヤット全体

ダウリの重

荷を緩和さ

せるため充

分な教育を

受けさせる。

3,000ルピー

マリガー

テッィラ

ムプログ

ラム

1年 PLF 女性が結婚

しやすくな

る。

観光客がコ

ヴァラム村

の女性を性

的対象とし

てみている。

1400世帯 女性 観光客が宿

発する施設

での買春行

為を禁止す

る。

-- -- 6ヶ月 PLF 買春行為が

無くなり、

女性が夜中

も安心して

外を歩ける

ようになる。

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

女子を学校

へ通わせな

い。

500世帯 貧困世帯 コヴァラム村

パンチャー

ヤット全体

社会が女性

教育の重要

性を認知す

る。

5,000ルピー

NGO 1年 ACDS, CRDS, DHAN Foundation

女性教育が

向上する。

公的行事で

の女性の参

加数が少な

く、参加し

ても地位が

低い。

200世帯 女性 ヨナスクッ

パム、

アンサリナガ

男女平等の

考え方を認

識させる。

5,000ルピー

-- -- -- 全ての女性

が公的行事

に参加する

ようになる。

Page 49: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 87-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

夜間の緊急

事態に対応

できる適切

な医療機関

が無い。

1,473世帯 患者、妊

婦、子供

など全て

の人

コヴァラム村

パンチャー

ヤット全体

病院が 24時間対応す

る。

-- -- 1年 パンチャー

ヤット

医療機関を

改良し、死

亡数が減る。

村人の財政

負担が計減

される。

正式な訓練

を受けてい

ない医者が

治療を行っ

ている。

1,473世帯 村人全体 正式な訓練

を受けてい

ない医者は

治療を行え

ないように

取り締まる。

-- -- 1年 保健省 患者が質の

良い治療を

受けられる。

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

貧しい人が

きちんとし

た医療機関

を利用でき

ない。

5,000世帯 患者、

妊婦、

子供

コヴァラム村

パンチャー

ヤットと

近隣の村

貧しい人も

医療機関を

利用できる

よう WHOが警戒する。

-- -- 1年 パンチャー

ヤット

患者が質の

良い治療を

受ける。

過度のアル

コール摂取

が健康状態

を悪化させ

世帯に経済

的負担がか

かる。

300世帯 女性 コヴァラム

パンチャー

ヤット

許可無しに

アルコール

販売をして

いる店を取

り締まる。

-- -- 1年 PLF. パンチャー

ヤット

アルコール

摂取量が減

り、女性へ

の不当な扱

いも減る。

Page 50: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 88-

西 村 祐 子

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

汚染水によ

る病気が蔓

延している。

1,473世帯 全体 全コヴァラム

パンチャー

ヤット

月に一度

ウォタータ

ンクを洗浄

する。

1,000ルピー

パンチャー

ヤット

2ヶ月 パンチャー

ヤット

安全な飲み

水が供給さ

れる。

蚊の大量発

生による病

気が蔓延し

ている。

1,473世帯 全体 全コヴァラム

パンチャー

ヤット

防虫剤を使

用する。

1,000ルピー

パンチャー

ヤット

2ヶ月 パンチャー

ヤット

蚊の大量発

生による病

気が減少す

る。

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

池の水が汚

染されてい

る。

200世帯 全体 ナチヤールク

ラム村

ナチヤール

クラム 池を

きれいにす

る。

30万ルピー

NGERS22 1年間 パンチャー

ヤット

水源を清潔

に保ち、飲

めるように

する。

飲み水や料

理のための

安全な水が

家庭に供給

されていな

い。

200世帯 全体 アンサリ

ナガル

チェッティ

池をきれい

にする。

30万ルピー

NGERS 1年間 パンチャー

ヤット

池がきれい

になり安全

な飲料水が

利用できる。

22 NGERS は National Rural Employment Guarantee Scheme の略で中央政府による貧困

緩和対策特別事業のことである。

Page 51: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 89-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

家庭から通

りへ下水処

理されない

まま汚水が

流れ出して

いる。

100世帯 社会 コヴァラム村

とセンゲニ

アンマン寺

通り

マリヤンマ

ン寺とセン

ゲニアンマ

ン寺の間に

セメント製

の道を作る。

30万ルピー

AGAMT23 2年間 パンチャー

ヤット

排水設備が

整い、通り

が奇麗にな

る。

貧しい人た

ちが住める

適切な家が

ない。

150世帯 貧困世帯 全コヴァラ

ム村

パンチャー

ヤット

正式な訓練

を受けてい

ない医者は

治療を行え

ないように

取り締まる。

20万ルピー

KAIANGA住居設備

政策

2年間 パンチャー

ヤット

貧困世帯へ

適切な住宅

設備が供給

される。

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

適切なトイ

レ設備と衛

生設備がな

い。

550世帯 女性 アンサリナガ

ル、コヴァラ

ムクッパム

公共トイレ

を提供する。

30万ルピー

州議員

ファンド

3年間 パンチャー

ヤット

村全体が衛

生的になり、

病気が減少

する。

村の各世帯

に個別のト

イレ設備が

ない。

300世帯 女性 ヨナスクッ

パム / アンサ

リナガル

個別トイレ

を建設する。

15万ルピー

TOTAL HEALTH

PLAN(州政府)

2年間 パンチャー

ヤット

村全体が衛

生的になり、

病気が減少

する。

23 AGAMT は Anaithu Grama Anna Marumalarchi Thittam の略。2006年に発効したタ

ミルナードゥ州政府のパンチャーヤットラージ政策(地方自治法)にもとづき組織

された州による地域自治体事業への支援と財政援助を行う。

Page 52: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 90-

西 村 祐 子

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

村の役所が

うまく機能

しておらず

必要な証明

書の発行書

に時間がか

かりすぎる。

1,473世帯 学生 全パンチャー

ヤット

村の行政官

が監査する。

--(未定)

--(未定)

6ヶ月 パンチャー

ヤット

証明書がス

ムーズに発

行されるよ

うになり役

所の行政事

務がうまく

機能する。

村民が役人

に会う機会

がない。

1,473世帯 全体 全パンチャー

ヤット

年に一度州

議員と国会

議員に会う

機会を作る。

--(未定)

--(未定)

1年 政府の

リーダー

村民と政府

役人の関係

が発展する。

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

村民が村の

パンチャー

ヤットの働

きをよく知

らない。

1,000世帯 全体、

特に女性

全パンチャー

ヤット

全村人へ村

のミーティ

ングの情報

が行き渡る

ようにする。

1,000ルピー

未定 6ヶ月 パンチャー

ヤット

女性が村の

パンチャー

ヤットに参

加する。

女性が村パ

ンチャー

ヤットに参

加する率が

低い。

200世帯 女性 全パンチャー

ヤット

PLF が女性

の参加を促

進する。

1,000ルピー

未定 6ヶ月 パンチャー

ヤット

村のパン

チャーヤッ

トに参加す

る女性が増

える。

Page 53: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 91-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

教師の質が

低く、学生

が十分な教

育を受けら

れていない。

1,000世帯 全体、特

に女性

全パンチャー

ヤット

適さない教

師を移動さ

せ、新しく

質の高い教

師を雇う。

(未定) (未定) 1年 パンチャー

ヤット

学生の

進学率が上

がる。

学校に充分

な数の教師

がいない。

1,000世帯 社会全体 コヴァラム村

パンチャー

ヤット

正式な訓練

を受けてい

ない医者は

治療を行え

ないように

取り締まる。

(未定) (未定) 1年 パンチャー

ヤット

/保護者

教育の価値

が見直され、

学生の進学

率が上がる。

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

教師の質が

低く、学生

が十分な教

育を受けら

れていない。

1,000世帯 全体、特

に女性

全パンチャー

ヤット

適さない教

師を移動さ

せ、新しく

質の高い教

師を雇う。

(未定) (未定) 1年 パンチャー

ヤット

学生の

進学率が上

がる。

コヴァラム

村の学校に

充分な数の

教師がいな

い。

1,000世帯 社会全体 コヴァラム

パンチャー

ヤット

教師を雇う。(未定) (未定) 1年 パンチャー

ヤット

/保護者

教育の価値

が見直され、

学生の進学

率が上がる。

Page 54: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 92-

西 村 祐 子

成果:貧困緩和

目標:経済済発展

状  況 計  画

問 題 影響を受け

る世帯数

社会影響 影響を受け

る場所

行 動 資 金 財 源 期間 計画の

責任者

期待される

結果

学生が課外

活動に参加

していない。

500世帯 学生 コヴァラム

パンチャー

ヤット

学生に水泳

を習う場を

提供する。

--(未定)

--(未定)

1年 学校を運営

する教師

学生が高い

能力をつけ

る。

学生の英語

力が低い。

500世帯 社会全体コヴァラム

パンチャー

ヤット

英語で行わ

れる授業を

提供する。

--(未定)

--(未定)

3ヶ月 学校を運営

する教師

学生の英語

力が上昇

高齢者の識

字率が低く、

正しく意思

表示するこ

とが出来な

い。

500世帯 高齢者 カダイシコ

ロニー

高齢者に学

びの場を提

供する。

--(未定)

--(未定)

1年 パンチャー

ヤット

識字率が上

り向上、正

しく意思表

示できる。

Page 55: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 93-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

6.計画を実行するにあたって

 計画はインクで書かれたただの紙面上の言葉の羅列であってはならない。も

しそれで終わってしまったら、せっかく計画を練ったその努力も無駄になるだ

ろう。どのように計画を実行するか、これが計画を成功させる鍵となる。計画

を目にして、実行不可能だと思う人もいるかもしれない。しかし現在、村の開

発の重要性が認識され、資金はこれまで以上に割り当てられるようになってい

る。計画をたてて実行に移す、この作業に皆が力を合わせて取り組めば、計画

実現は不可能ではない。

1. 地方自治法法令 102条によれば、村の開発プログラムは、5つの開発グルー

プを形成している。そのうち農業、水関連、労働者、教育グループなどの

4つのグループはプロジェクトの実施に責任がある。

2. 毎月一度、上記 4つのグループはミーティングを行う。

3. 計画をたてる立案者は、計画を実行するにあたりプロジェクトオフィサー

となる。郡とブロックの開発オフィサーは計画がスムーズに進むよう定期

的にミーティングをする。

コヴァラム村パンチャーヤット発展計画

ファンド評価/財源詳細

分 野 資金合計 パンチャーヤット

州政府 中央政府 NGO 銀行 村民 分野資金

1 貧困緩和 2,375,000 1,350,000 1,000,000 25,000 8.10%

2 教育発展 3,000,000 1,000,000 2,000,000 10.20%

3 女性のエンパワーメント

524,000 10,000 503,000 11,000 1.80%

4 福 祉 20,902,000 2,000 20,300,000 600,000 71.30%

5 環 境 2,500,000 1,200,000 1,300,000 8.50%

6 調 整 3,000 2,000 1,000 0.01%

合 計 29,304,000 14,000 24,354,000 3,900,000 11,000 1,000,000 25,000 100.00%分野資金 (%) 0.05% 83.10% 13.30 % 0.04% 3.40% 0.09%

Page 56: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 94-

西 村 祐 子

4. 各国会議員は毎年二百万ルピーを支給される。州議員の場合は 120万ル

ピーが支給される。これらの資金は、開発目的で使用され、主に教育と公

衆衛生分野はこの資金によって行われる。

5. 計画を実現させるためには、政府の力だけに頼るべきではない。プロジェ

クト案を会社や NGO にも送り協力を呼びかけ、資金源とするべきである。

6. 計画を実行するにあたり必要な資金をローンできるような仕組みを作る。

7. あらゆる NGO の協力がなければ計画を実行することはできない。NGO と

の協力を重視し村の開発計画を進めるべきである。

8. 海外に住む人もプロジェクトを支援することができる。その場合、プロジェ

クト名は彼らにちなんで命名することもできる。

9. 水の供給や通りのライトの修復・補充などの作業は村人自身で取り組むこ

とが出来る問題である。村人が積極的に取り組むことにより、責任感が生

まれプロジェクトをより自分たちの問題として認識するようになる。さら

に村のパンチャーヤットは費用を削減することができる。

10. プロジェクトは民主主義の理念に基づき進められる。全ての村民に参加を

呼びかけ、村民が自らプロジェクトに関わる。これが村民の間にプロジェ

クト対する責任感を生み出し、成功に向けて村民の活発な参加が期待され

る。

11. 村の計画を実行しニーズを満たすため、政府からの資金援助は欠くことの

出来ない重要な要素である。

12. 村民の計画と政府の計画をリンクさせることで計画をスムーズに進めるこ

とできる。そのことを念頭におき、計画は村のパンチャーヤットで話し合

われるべきである。

 故障して動かなくなった車を皆で押すように、村人全員がプロジェクトに積

極的に関わり、政府を巻き込めば、計画を実現することができる。

Page 57: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 95-

発展途上国における公衆衛生と経済発展

参加者たちによる隣州ケーララの互助組織とパンチャーヤットの訪問旅行の様子

Page 58: 発展途上国における公衆衛生と経済発展:repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33061/rgs012...CRDT(Coastal and Rural Development Trust) 本プロジェクトで現地パートナーとして選択したNGO

- 96-

西 村 祐 子

リーダーシップセミナー(コヴァラム村、セメンチェリにおける参加者の様子)

黒い衣装をまとった。ムスリムの女性らの参加がみられる。ダーン財団の指導員

が目隠しをして他の参加者からの指示によって行動しつつ協働の重要さを認識さ

せている。