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産官学連携による外国人向け観光振興のための魅力地図制作プロジェクト 佐藤 優 ・鈴木 咲乃 ・田村 舞 ・中根 優芽 ・仲村 三樹 ・山波 向日葵 ・末繁 雄一 ** (東京都市大学 都市生活学部) 1.プロジェクトの背景と目的 2020 年の東京オリンピックを控え、海外からの観光客の誘致の ために取り組みが各地で展開されている。世田谷区では馬事公苑に て馬術競技が行われ、アメリカ選手団のキャンプ地にもなる予定で ある。世田谷区は三軒茶屋・下北沢・二子玉川などの集客市街地を 擁しているが、大部分は良好な住宅地であり、広域的に外国人観光 客にアピールするような取り組みはこれまでなされていない。以上 より、同地域の鉄道事業者である東京急行電鉄、世田谷区玉川支所、 まちづくりを学ぶ東京都市大学都市生活学部との産官学連携プロジ ェクトとして、外国人をターゲットとした世田谷区の魅力地図を作 成することとなった。 2.プロジェクトの概要 ・対象地:世田谷区玉川エリア ・成果物:地図とスポット情報が掲載された B4 カラー版印刷物 (日本語版と英語版の 2 種類) ・発行主体:東京急行電鉄 ・役割分担 東京都市大学:企画・取材先選定・取材・成果物デザイン 東急電鉄:取材サポート・成果物制作および発行 世田谷区:取材調整および取材協力 3.掲載スポット選定と取材 3-1.既存観光ガイド調査 掲載スポットを選定するにあたり、外国人向けの日本の旅行ガイ ドブックでは日本がどのように紹介されているのかを代表的なガイ ドブックである「Lonely Planet」を対象に調査した。事前の予想通 り、寺・神社などの日本の歴史や文化に関するスポットや築地市場 など日本ならではのスポットが多く掲載されていた。 3-2.掲載スポットの選定方針 前述の「Lonely Planet」の分析から、寺や神社など日本の歴史や 文化に関するスポットの掲載が多かったが、浅草など日本を代表す る観光地がすでにある中で、世田谷区内の寺や神社ばかりを取り上 げるのではなく、世田谷区ならではのスポットを取り上げることを 心がけた。また世田谷区玉川エリアには東急線 9 駅(駒沢大学駅、 桜新町駅、用賀駅、二子玉川駅、上野毛駅、等々力駅、尾山台駅、 九品仏駅、奥沢駅)があり、一部の駅周辺に偏ることのないように した。掲載スポットの選定において次の三段階の視点で候補を絞っ ていった。 ・第一段階:外国人だけでなく日本人にも紹介したいスポット、 英語表記があるスポット、駅から近いスポット ・第二段階: 9 駅に 1~2 スポットずつを原則とし、ジャンルは 「観光地」と「店舗」の割合を同等とする ・第三段階:選定スポットが掲載可能、かつ取材可能であること その結果、次の 16 スポットを選定した。 ・駒沢大学駅:駒沢オリンピック公園 ・桜新町駅 :タケノトおはぎ、 ・用賀駅 :おにぎりや On、「食と農」の博物館、藤の湯 ・二子玉川駅:二子玉川ライズ&二子玉川公園、鮎ラーメン ・上野毛駅 :五島美術館、玉川野毛町公園 ・等々力駅 :等々力渓谷&雪月花 ・尾山台駅 :鯛心、パティスリーASAKO IWAYANAGI ・九品仏駅 :九品仏淨眞寺、毛利豆腐店 ・奥沢駅 :奥澤神社、katakana 3-3.キャッチコピー考案 スポットの魅力を伝えるために、各スポットにキャッチコピーを つけた。印象に残りやすく、かつ学生企画らしいキャッチコピーを 考案するとともに、①最も伝えたいことを簡潔に表現すること、② 掲載スポットを知らない人にも伝わること、③英語に訳すことが可 能なことを意識した。 3-4.取材 実際に掲載することとなったスポットのうち、店舗 8 か所は実際 に取材し、観光スポットについては世田谷区から情報提供を受けた。 取材内容は、①店名、営業時間などの基本事項、②お店の成り立ち ③、お店のこだわりと、外国人客の来訪の有無の 3 点を基本とし、 それに加えて取材先に合わせて質問内容を工夫した。また、取材と 並行して、MAP に掲載する写真の撮影も学生が行った。 4.マップのデザイン 4-1.既存マップからデザインテイストと機能性を分析 世田谷区や東急電鉄が既に発行している街案内や地域紹介の冊子 を参考に、既存の地図の内容や物件の紹介の仕方を分析した。また マップのデザインやテイストの方向性を決めるために、世界中のマ ップを集めたグラフィックデザイン集や、書店で扱われている様々 なガイドブックを参考にマップのデザインの調査も行った。 4-2.マップのデザインコンセプト 既存マップの分析を踏まえて、マップのデザインコンセプトを検 討した。機能面では、次の二点に重点を置くこととした。 ①位置確認のできる地域全体の地図と紹介物件までの道のりがわか る地図であること ②持ち運びが便利であること 次にデザイン面では、このマップは「主に外国人観光客」が「世 田谷を訪れた時」に「歩きながら」見るものであり、世田谷の魅力 を知ってもらうため、世田谷を訪れるきっかけを作るにはどのよう に手にとってもらうかが第一に考える点であると考えた。そのため、 ユニークな体裁が必要であると考え、一般的なマップの体裁は避け ることにした。どこにユニークさを求めるかを検討する上で、対象 となる外国人の日本のへの興味関心とは何かを調査した。日本食、 E-C#$ -C*F$, $,* E-C#$ -C*F$, +D!".%$L . *, * . . .,. *, * . . 6

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産官学連携による外国人向け観光振興のための魅力地図制作プロジェクト佐藤 優*・鈴木 咲乃*・田村 舞*・中根 優芽*・仲村 三樹*・山波 向日葵*・末繁 雄一**(東京都市大学 都市生活学部)

1.プロジェクトの背景と目的2020 年の東京オリンピックを控え、海外からの観光客の誘致の

ために取り組みが各地で展開されている。世田谷区では馬事公苑にて馬術競技が行われ、アメリカ選手団のキャンプ地にもなる予定である。世田谷区は三軒茶屋・下北沢・二子玉川などの集客市街地を擁しているが、大部分は良好な住宅地であり、広域的に外国人観光客にアピールするような取り組みはこれまでなされていない。以上より、同地域の鉄道事業者である東京急行電鉄、世田谷区玉川支所、まちづくりを学ぶ東京都市大学都市生活学部との産官学連携プロジェクトとして、外国人をターゲットとした世田谷区の魅力地図を作成することとなった。

2.プロジェクトの概要・対象地:世田谷区玉川エリア・成果物:地図とスポット情報が掲載された B4 カラー版印刷物(日本語版と英語版の 2種類)・発行主体:東京急行電鉄・役割分担東京都市大学:企画・取材先選定・取材・成果物デザイン東急電鉄:取材サポート・成果物制作および発行世田谷区:取材調整および取材協力

3.掲載スポット選定と取材3-1.既存観光ガイド調査掲載スポットを選定するにあたり、外国人向けの日本の旅行ガイ

ドブックでは日本がどのように紹介されているのかを代表的なガイドブックである「Lonely Planet」を対象に調査した。事前の予想通り、寺・神社などの日本の歴史や文化に関するスポットや築地市場など日本ならではのスポットが多く掲載されていた。3-2.掲載スポットの選定方針前述の「Lonely Planet」の分析から、寺や神社など日本の歴史や

文化に関するスポットの掲載が多かったが、浅草など日本を代表する観光地がすでにある中で、世田谷区内の寺や神社ばかりを取り上げるのではなく、世田谷区ならではのスポットを取り上げることを心がけた。また世田谷区玉川エリアには東急線 9 駅(駒沢大学駅、桜新町駅、用賀駅、二子玉川駅、上野毛駅、等々力駅、尾山台駅、九品仏駅、奥沢駅)があり、一部の駅周辺に偏ることのないようにした。掲載スポットの選定において次の三段階の視点で候補を絞っていった。・第一段階:外国人だけでなく日本人にも紹介したいスポット、

英語表記があるスポット、駅から近いスポット・第二段階: 9 駅に 1~2 スポットずつを原則とし、ジャンルは

「観光地」と「店舗」の割合を同等とする・第三段階:選定スポットが掲載可能、かつ取材可能であること

その結果、次の 16 スポットを選定した。・駒沢大学駅:駒沢オリンピック公園・桜新町駅 :タケノトおはぎ、・用賀駅 :おにぎりや On、「食と農」の博物館、藤の湯・二子玉川駅:二子玉川ライズ&二子玉川公園、鮎ラーメン・上野毛駅 :五島美術館、玉川野毛町公園・等々力駅 :等々力渓谷&雪月花・尾山台駅 :鯛心、パティスリーASAKO IWAYANAGI・九品仏駅 :九品仏淨眞寺、毛利豆腐店・奥沢駅 :奥澤神社、katakana

3-3.キャッチコピー考案スポットの魅力を伝えるために、各スポットにキャッチコピーを

つけた。印象に残りやすく、かつ学生企画らしいキャッチコピーを考案するとともに、①最も伝えたいことを簡潔に表現すること、②掲載スポットを知らない人にも伝わること、③英語に訳すことが可能なことを意識した。3-4.取材実際に掲載することとなったスポットのうち、店舗 8か所は実際

に取材し、観光スポットについては世田谷区から情報提供を受けた。取材内容は、①店名、営業時間などの基本事項、②お店の成り立ち③、お店のこだわりと、外国人客の来訪の有無の 3 点を基本とし、それに加えて取材先に合わせて質問内容を工夫した。また、取材と並行して、MAP に掲載する写真の撮影も学生が行った。

4.マップのデザイン4-1.既存マップからデザインテイストと機能性を分析世田谷区や東急電鉄が既に発行している街案内や地域紹介の冊子

を参考に、既存の地図の内容や物件の紹介の仕方を分析した。またマップのデザインやテイストの方向性を決めるために、世界中のマップを集めたグラフィックデザイン集や、書店で扱われている様々なガイドブックを参考にマップのデザインの調査も行った。4-2.マップのデザインコンセプト既存マップの分析を踏まえて、マップのデザインコンセプトを検

討した。機能面では、次の二点に重点を置くこととした。①位置確認のできる地域全体の地図と紹介物件までの道のりがわかる地図であること②持ち運びが便利であること次にデザイン面では、このマップは「主に外国人観光客」が「世

田谷を訪れた時」に「歩きながら」見るものであり、世田谷の魅力を知ってもらうため、世田谷を訪れるきっかけを作るにはどのように手にとってもらうかが第一に考える点であると考えた。そのため、ユニークな体裁が必要であると考え、一般的なマップの体裁は避けることにした。どこにユニークさを求めるかを検討する上で、対象となる外国人の日本のへの興味関心とは何かを調査した。日本食、

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伝統工芸などが関心のものとして出たが、チームメンバーが留学していた経験もあり、留学先の外国人と折り紙で一緒に遊び、できた作品を棚に飾ってくれていたというエピソードより、地図としての使用後も楽しめ、日本文化を手軽に体験でき、お土産や思い出として自国に持って帰ってもらえる可能性がある、「折り鶴になるマップ」を考案した。折り目をデザインとして取り入れつつ、鶴の折り方も掲載するこ

とにした。マップの大きさは、折り鶴になる前、折り鶴になった際の大きさを様々なパターンで検討した結果、B3 サイズとし、切り取り線を設けて正方形の折り紙部分を切り離す形態を採用した(図 1)。

図 1. マップの体裁4-3.マップのレイアウトデザイン表面を掲載スポットの紹介記事、裏面をマップとすることにした。

折り鶴にした際、表に出てくる色やデザインが見栄えに影響するため、様々なマップのレイアウトを検討した。記事面のレイアウトは、表にして鶴を折ったときのデザイン性があり、形自体が折り紙のようなデザイン、一工夫されているのに見やすい、カラフルでリズミカルなものを目指し幾何学模様を採用した。マップ面のレイアウトは、折り目のデザインが入れやすい、全体の位置が確認しやすいものを目指し世田谷区玉川エリア全体が見えるレイアウトとした。

図 2. 表裏のレイアウトデザイン案4-4.マップのグラフィックデザインデザインの方向性を考えた際、手にとってもらえるデザインとは

いわゆる「ジャケ買い(CDや本などのジャケット(カバー)のデザインが気に入って買うこと)」と同じことではないかと考えた。「ジャケ買い」について調査を行ったところ、内容がわかりそうでわからない、ストーリーの一部始終や要素を簡潔に表している、表紙の印象で内容がイメージできる、という特徴が抽出できた。そのため、全体のデザインのテイストは、ビビットでカラフルなデザインの中にある日本らしさは、外国人からも日本人からも好まれそうで、「折り紙」という日本文化を匂わせるテイストである、「和風×ポップ」を目指した。マップ面のデザインに関して地図と折り鶴にした際の視認性の両立問題が生じた。地図としての機能と見やすいデザイン性だけではなく、具体的には、このマップの一番の特徴である「折り鶴」にした時の見栄えの美しさ考慮して折り鶴の左右の羽根と頭部と尻尾に 4色の鮮やかな色を配したが、色が濃すぎるとマップの

視認性が損なわれ、視認性を重視すると折り鶴にしたときの美しさやインパクトが損なわれ、そのバランスに苦心したが、マップの線の太さや色を調整して対応した。

図 3. 完成した SETAGAYA MAP [TAMAGAWA AREA]4-5.鶴の折り方動画の制作このマップを手に取った外国人は折

り鶴という日本伝統の遊びを体験したことがない可能性が高い。マップに折り方は掲載しているがそれだけでは不十分であると考え、メンバーの学生自らが鶴の折り方を説明する動画を撮影し、英語の字幕をつけて動画投稿サイトにアップロードし、URLに繋がるQRコードをマップに掲載した(図 4)。

5.成果完成したマップは、「世田谷の歩き方 SETAGAYA MAP

[TAMAGAWA AREA]」として英語版と日本語版の 2 種類が合計10,000 部ほど発行された。東急線各駅、東京および神奈川の東急系列全ホテル、世田谷区玉川総合支所管内の公共施設等に設置された。設置後、好評ですぐに無くなってしまい、追加で 5,000 部が発行された。また、手に取った人が Instagram などの SNS に掲載したり、この MAP を手に取った外国人が実際に掲載スポットへと足を運んでくれるなど大きな反響があった。本プロジェクトは、沿線価値を向上し乗降客を増やしたい鉄道会

社と、地域の活性化を図りたい自治体、地域貢献を通した実践的なまちづくり教育を行いたい大学という、産官学の三者の利害が一致しただけでなく、結果として地域社会にとっても有益となる、意義深いプロジェクトとなった。

図 4. 動画の QRコード

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