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積雪地域における区画線の課題と提案について
佐藤 真一*1・平沼 雄基*2
1. はじめに
区画線は車両及び歩行者・自転車を適切に誘導し、円滑
な道路交通と安全を目的に設置され、適切な維持管理が求
められる。
しかし、尾花沢国道維持出張所管内においてコンクリー
ト舗装の溶融式区画線が1年も経たないうちに消える事態
が発生した。本来、耐摩耗性に優れる溶融式区画線が早期
に消える原因として、雪解け後の歩道には溶融式区画線が
写真1のとおり飛散している状況から、原因は除雪作業に
より区画線が削られたためと推測した。
本稿では、この問題を解決すべく行った対策と検証を整
理し、積雪地域における区画線の工法選定を提案するもの
である。
2. 当該地域の概要
2.1.管理区間の特性
尾花沢国道維持出張所の管理区間は以下のとおりである。
① 国道13号(東根市~尾花沢市) L=約36km (山形県を縦断する幹線道路)
② 国道47号(最上町) L=約25km (山形県を横断する幹線道路)
③ 東北中央自動車道(村山市~舟形町) (山形県を縦断する高規格幹線道路)L=約18km
いずれも、豪雪地域(尾花沢:最大積雪深2.2m、最
上:最大積雪深1.8m※H29実績)に位置し、多くの
交通量が見込まれる道路特性から、適切な除雪対応が求め
られる。
*1国土交通省 東北地方整備局 山形河川国道事務所 尾花沢国道維持出張所長
*2国土交通省 東北地方整備局 山形河川国道事務所 尾花沢国道維持出張所 係員
Co舗装
区画線
写真1 溶融式区画線の飛散状況
図1 除雪作業により区画線が削られるイメージ
図2 位置図
写真2 冬期状況(尾花沢市)
3. 区画線の種類及び特徴
今回の問題の究明にあたり、東北地方整備局(以下
「東北地整」とする)での区画線の運用について、現状
を整理する。
3.1.区画線の種類
東北地整で広く使われる区画線の種類には、①溶融式、
②常温型の水性ペイント式、③加熱型の水性ペイント式
の3タイプがある。
また、使い分けについては「設計施工マニュアル
(案)」に基づいており、表1のとおりであり、溶融式
は、文字・矢印といった路面標示、水性ペイント式は、
常温型が外側線、加熱型は境界線や中央線が代表的に使
用される。
コンクリート舗装面においては、境界線と中央線は、
溶融式を使用する扱いとなっている。
続いて、溶融式と水性ペイント式の特徴の違いについ
て説明していく。
3.2.区画線の特徴
3.2.1.溶融式の特徴
溶融式は、塗料を加熱(180℃前後)し、路面に溶着
させる塗装方法である。
塗布厚は東北地整の基準で1.0mm(土木工事共通特
記仕様書に記載)となる。※全国標準は1.5mm。
他の特徴については、下記のとおりとなる。
① 水性ペイント式より耐摩耗性が優れ、耐久性が高い。
② 塗布厚による、路面との凹凸で走行車へ体感的にも知らせる。
③ その反面、区画線の上を走行した場合、走行性が悪く感じる。
3.2.2.水性ペイント式の特徴
水性ペイント式は、路面に吹き付ける塗装方法である。
塗布厚は、常温型0.2mm以下、加熱型0.3mm以
下と、ほぼ0mmとなる。
他の特徴については、下記のとおりとなる。
① 溶融式と比較し、約半分の単価で、コスト面に優れる。
② 材料に大気汚染の原因物質である揮発性有機化合物がほとんど含まれていないため、環境面でも優
れる。
本稿においては、塗布厚の違いについて特に着目した。
4.検証方法の立案
前項で整理した区画線の特徴より、溶融式区画線が除
雪作業により削られるのは塗布厚の厚みにあると考えた。
そこで問題解決のための対策工の検討及び検証方法を
以下のとおり実施した。
表1 区画線の使用区分(設計施工マニュアル(案)抜粋)
図3 区画線使い分けイメージ
図4 溶融式の塗布イメージ
図5 水性ペイント式の塗布イメージ
(溶融式)
(ペイント式)
(ペイント式)
4.1.対策工の検討
◯ 対策工1 除雪回数の減少
尾花沢国道維持出張所管内は豪雪地域に位置し、積
雪も多いことから除雪回数が多い。除雪回数が多いほ
ど区画線への影響が大きいことから、除雪回数を減少
させる。
◯ 対策工2 塗布厚の薄い区画線の使用
溶融式区画線は塗布厚1.0mmあるため、除雪作
業時に雪と一緒に区画線も削られてしまう。そこで、
除雪作業でも削られにくくするため、塗布厚の薄い区
画線である常温型水性ペイント式区画線を使用する。
対策工1の除雪回数を減少する事は不可能であるた
め、対策工2の常温型水性ペイント式区画線を使用す
る。
当出張所が管理する道路は交通量の多い幹線道路であ
るため、除雪回数を減少する事は、道路のサービスレベ
ルを著しるしく低下させ、地域への影響が大きいことか
ら実施不可能である。
今回は、対策工2による検証を行う。
4.2.検証方法
検証方法は、第3項で整理した塗布厚の違いに基づき、
塗布厚 1.0mmの溶融式区画線と塗布厚 約0mmの常
温型水性ペイント式区画線を同一条件の場所に施工し、
施工1年経過直後の状態を目視及び輝度計測により比較
する。
検証は、試験施工として平成26年度から実施。
検証箇所:山形県尾花沢市芦沢地内(国道13号)
施工年時:平成26年6月施工
舗装種類:コンクリート舗装
検証箇所:山形県尾花沢市芦沢地内(国道13号)
施工年時:平成26年6月施工
舗装種類:コンクリート舗装
写真3 検証状況(溶融式)
写真4 検証状況(水性ペイント式)
図6 位置図
5.検証結果及び評価
5.1.検証結果
5.1.1目視施工ランク
溶融式は塗装が大きく消え、視認性が著しく減少。目
視施工ランクはEと判定。常温型水性ペイント式は、僅
かに消えかけている部分はあるものの、視認性は十分保
たれており、目視施工ランクはCと判定。
※1 目視施工ランクは区画線の残存状況に応じてA
~Eの5段階で評価。最も良好な状態がAである。
※2 区画線施工の判断基準は、D,Eランクで塗り替
えが必須。
Cランクは、現地調査での視認性や、予算の兼
ね合いに応じて、対応を検討。
5.1.2.輝度値
溶融式は54mcdの比べ、常温型水性ペイント式は
171mcdと差は約3倍となった。夜間に必要な輝度
値は100mcdとされており、溶融式では必要な輝度
値を満足しない。
5.2.評価
施工1年後の状況を比較すると、常温型水性ペイント
式は目視施工ランク及び輝度値ともに、溶融式より著し
く優位であり、区画線の塗り替えは、路面標示ガイドブ
ックに準拠すると翌年度以降に延ばすことが可能である。
6.工法選定の提案
今回起きた問題と検証結果を受け、積雪地域における
区画線の課題は、除雪の機会が多い場所での溶融式区画
線の選定は不向きであることと考える。
今後の区画線選定の在り方について下記のとおり提案
する。
① 積雪地域においては、水性ペイント式への移行 (ローカルルールの設定)
設計施工マニュアル(案)に基づき、路面標示などで
は溶融式が選定されるが、除雪で削られるため、早い塗
り替えサイクル且つ水性ペイント式より高いコストでの
塗り替えをしているのが現状である。
積雪地域においては、塗り替えサイクルや、コスト面
を考えて水性ペイント式とするローカルルールを設定し、
区画線の弾力的運用を図る。
② 溶融式の特徴を考慮した工法選定(事故対策) 溶融式は特徴として、塗布厚による路面との凹凸で走
行車に体感的に知らせる。近年行われている、速度抑制
のドットラインや高視認性区画線等の事故対策では従来
どおり溶融式が有効と考える。
7.さいごに
尾花沢国道維持出張所では、平成26年より続けてき
た検証結果より原則として水性ペイント式区画線を使用
しているが、視認性や保ちについて、問題が無く、苦情
も一切無いことから効果を感じている。
また、平成30年からは試行拡大し、山形河川国道事
務所としても、水性ペイント式区画線の移行を進めてい
る。
区画線の弾力的運用を図り、水性ペイント式への移行
が普及していくことで問題解決に繋げていきたい。
写真5 速度抑制ドットライン
写真6 水性ペイント式区画線 作業状況
表2 検証結果