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環境省「専門家会議」で議論されなかった<がん以外の疾患>
吉田由布子
「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク、
放射線被ばくと健康管理のあり方に関する
市民・専門家委員会
緊急セミナー:切迫する放射線被ばくの健診対策 2015.1.7
「チェルノブイリ事故の健康影響」科学報告WHO IPHECA予備的調査の結果 (1996)
• 1990年初頭、旧ソ連保健省の要請により、WHOは支援のための国際プログラムを開発 (当時のWHO事務局長は日本の中嶋宏氏)
• The International Program on the Health Effects of the Chernobyl Accident (IPHECA)5つのプロジェクト
1)甲状腺がんを含む子どもの甲状腺疾患(甲状腺プロジェクト)
2)白血病と関連の血液疾患(血液学プロジェクト)
3)胎内被ばくによる脳の損傷(子宮内での脳の損傷プロジェクト)
4)疫学登録の管理(疫学登録プロジェクト) 5)ベラルーシでの口腔衛生
WHO(IPHECAプロジェクト)による調査:
ベラルーシの子どもたちの健康状態(p69)
子どもたちの健康状態(%)
健康状態 分類の定義
汚染地域 (Cs137で 555kBq/m2以上)
非汚染の 対照地域
ゴメリ州 モギリョフ州 ビテブスク州
Ⅰ 基本的に健康 11.80 12.20 56.10
Ⅱ 機能的障害、 慢性疾患のリスク 55.60 68.20 37.80
Ⅲ 慢性疾患に罹患(補償の対象によってグループ分け)
32.20 19.10 5.60
Ⅳ&Ⅴ 0.60 0.50 0.50
汚染地域と非汚染地域の子どもの疾病構造の比較(p69)
子ども1000人あたりの数 汚染地域 非汚染地域
病気の分類 ゴメリ州 モギリョフ州 ビテブスク州
1 感染症および寄生虫症 14.1 65.59 149.02
2 悪性新生物 2.49 4.05 2.81
3 内分泌疾患 133.81 191.9 23.43
4 精神の障害 8.29 17.41 2.81
5 神経系及び感覚器疾患 191.01 117.41 55.3
6 循環器系疾患 32.66 34.41 30.93
7 呼吸器系疾患 486.98 364.37 779.76
8 消化器系疾患 390.98 446.56 60.92
9 泌尿器系疾患 11.11 12.15 5.62
10 先天異常 23.38 6.48 1.87
11 症状、兆候、病気と定義された状態
92.19 46.15 6.56
1000人あたりの小児の罹患率:ベラルーシ(p149)
(汚染地域、非汚染地域、国平均、国際平均との比較)
№ 疾病分類
統一データバンクより (1992-1993年) 国家登録
(国の平均)
標準書による小児罹患率の平均統計データ、1992年 ゴメリ州 ビテブスク州
1 新生物(がんなど) 2.5 2.8 2.0 0.8
2 内分泌疾患 133.8 23.4 48.8 14.6
3 血液と造血器疾患 102.0 60.0 29.0 5.1
4 精神の障害 8.3 2.8 10.9 6.7
5 神経系と感覚器疾患 191.0 53.3 48.8 48.4
6 循環器疾患 32.7 30.9 19.4 3.7
7 呼吸器疾患 487.0 779.8 235.6 680.6
8 消化器疾患 391.0 60.9 104.4 39.8
9 泌尿器疾患 11.1 5.6 15.8 6.8
10 皮膚と皮下組織疾患 86.5 75.0 12.4 41.2
汚染地域(555kBq/m2以上)に居住、またはそこから 移住した子どもの、事故翌年から6年間の 健康状態の分布の変動(ベラルーシ)
1987 88 89 90 91 1992
1 健康 66.6 60.1 54.1 29.3 23.7 18.4
2 機能的障害、
慢性疾患のリスク 23.4 27.8 31.2 50.7 51.5 47.9
3 慢性疾患 10 12.1 14.7 20 24.8 33.7
0
10
20
30
40
50
60
70%
子どもの健康状態分布の経時的変化
子どもの健康状態の分布(%)とその経時的変化 (ゴメリ州、事故時0-14歳、その後に生まれて被ばくした子どもも含む)(p149の表より図作成)
健康 慢性疾患のリスク
慢性疾患
ウクライナ:25周年の2つの報告書
<編集>
A.セルジューク(ウクライナ医学アカデミー会長)
V.ベベシュコ(ウクライナ放射線医学センター)
D.バズィカ(同上)
山下俊一(長崎大学) (2011年刊)
ウクライナにおける25年の研究成果をまとめたもの。住民の健康について、がん以外では、たとえば以下のような報告が収録されている。
免疫影響/甲状腺と代謝/気管支・肺/感覚器官/小児期に被ばくした人の甲状腺および生殖系/認知機能への影響・・・など
ウクライナ政府報告書(ナショナルレポート)の科学的基盤といえる研究報告
チェルノブイリ事故の健康影響:四半世紀の結果
チェルノブイリ25周年・ウクライナ政府報告書
事故で被ばくした子どもたち:30km圏から避難 した子どもと汚染地域に住んでいる子ども
初期の5年(1986-91 年):子どもたちに最も典型的であったのは、さまざまな器官や系統の機能的障害であった。
87-90年には次のような訴えが増えた。 疲れ(82.0%)、虚弱(71.7%)、刺激感(65.9%)、 頭痛(52.2%)、めまい(40.3%)、睡眠障害(29.6%)、胃腸の不快感(52.8%)、心臓の不快感(26.4%)など。
多くの子どもは甲状腺、免疫、呼吸器、消化器の疾患に進行するリスクがあることがわかり、これは1989年―1990年に具体的となった。
8
事故で被ばくした子どもたち:その後の10年
次の5 年(92-96 年):子どもたちには、機能障
害から慢性の身体的疾患への変化が観察された。甲状腺の被ばく量の高い子どもほど健康状態は悪かった。
次の5年(97-2001 年):30km圏から避難した子
どもと汚染地域にすむ子どもの両方で、健康な子どもの減少というはっきりした傾向が観察された。
9
子どもたちの健康状態の全般的特徴
発症の若年齢化、多系統・複数の器官にわたる病変、治療に対して比較的抵抗性があり、経過が長引き再発する。
これらの集団は小児期全体を通して、低い健康レベルが続いている。
17-18歳の時、チェルノブイリ30kmゾーンからの避難者の76.6%、汚染地域住民の66.7%に慢性的な身体疾患が現れた。
10
汚染地域の少女・女性たちの健康
• 甲状腺機能障害、自己免疫疾患、免疫能の低下、生殖器の病気、月経・ホルモンバランスの乱れ、妊娠時の合併症などが増加、死産率や周生期死亡率も増加した。 (Zhilenko 1999, ウクライナ・ナショナルレポート 2001, Lychak 2006, Bandazhevsky 2001)
• 思春期に被ばくした女性は、ホルモンの問題が生じやすく、生殖の健康に問題を生じるリスクが高い。婦人科系疾患の多発が特徴的で、背景には内分泌系のかく乱がある。
(Yagovdik 1998, Cheban 2003, Lychak2006, Baleva 2006)
11
ロシア・汚染地域の少女たちの 性ホルモンレベルの乱れ 前思春期 思春期
0
1
2
3
4
5
6 汚染 地域
0
5
10
15
20
25非汚染 地域 非汚染
地域
汚染地域
Lichak, 2011 より作成
国際会議 “チェルノブイリの子どもたち -健康影響と心理社会的リハビリテーション”
チェルノブイリ事故後の健康影響のなかでも、子どもの健康だけを対象に開かれた国際会議。
2003年6月、ウクライナのキエフで開催
主催は、国連人道問題調整事務所(OCHA)、世界保健機関(WHO)、国連開発計画(UNDP)、ウクライナのNGO「チェルノブイリの医師たち」。
IAEA、UNSCEAR、ICRP、ユニセフ、ウクラ
イナ保健省および緊急事態省なども協力機関となっている。
国際会議「チェルノブイリの子どもたち」 決議文より
• 確率的影響―事故時に子どもあるいは未成年層の、
ガンを含む甲状腺の腫瘍の増加は放射線誘発性の病理である。汚染地域の子どもたちに他の腫瘍の増加がみられているが、この理由については不明でさらなる調査が必要である。
• 非確率的(確定的)影響―汚染地域に住む子どもと未
成年層にガン以外の甲状腺疾患(自己免疫性甲状腺炎、甲状腺機能低下症)の増加が認められた。また放射線の影響下にある子どもたちの間では、免疫、内分泌および神経系の調節障害が認められた。 14
(続き)
その他の健康影響
相対的にクリーンな地域に比べ放射能汚染地域では事故から17年間に次のことが観察された。
出生率は低く、死産による周生期死亡率、乳児死亡率が高く、特に先天異常による死亡率が高い。
子どもたちの発病率は全体的に増加している。特に神経、精神、内分泌、胃腸、呼吸器、心臓・循環器系の病気が増加しており、疾病障害者となった子どもの数は増加している。
被害を受けた子どもたちの健康状態の悪化は、放射線と非放射線の両方の要素、同時に、被災3カ国における社会経済的危機による生活の質の悪化と結びついている。
15
(続き)
被ばくの様態別に見ると次のような特徴がある
• 事故処理作業者の子ども:神経系の病気、精神障害、先天的疾患、稀な遺伝的異常の増加が見られる。
• 事故時に胎内で被ばくした子ども:慢性的な身体的疾患、甲状腺疾患、精神および行動の異常、ガンを発生するリスクが高い。
• 事故時に子どもで放射性ヨウ素131とセシウム137を複合的に被ばくした人:甲状腺の腫瘍および非腫瘍性の疾患を発生するリスクが最も高い。
• 将来、甲状腺疾患の増加が予測され、それは被災者の一般的な健康状態の悪化をもたらすであろう。特に、事故時に子どもであった女性では生殖健康の悪化に大きく影響するであろうと予想される。
• 放射能汚染地域に住んで被ばくしている人々は、先天異常および遺伝的疾患の子孫を産むリスクが高くなっている。
原爆被ばく者も、非がん疾患が被ばく量と共に有意に増加(放影研 成人健康調査第8報では7疾患)
子宮筋腫(P<0.0001 ) がん以外の甲状腺疾患(P<0.0001 )
慢性肝疾患と肝硬変(P=0.001) 白内障(P=0.026)
男性の腎・尿管結石は有意な線量効果(P=0.07) 緑内障は逆相関(P=0.025 )
原爆被爆者成人健康調査第8報(続き) (1958-1998年健診の解析) Radiation Research 161:622-32, 2004
高血圧症(P=0.028)
40歳未満で被爆した人の 心筋梗塞(P=0.049)
第8報要旨 1958-1998年の成人健康調査受診者 約1万人の長期
データを用いて、がん以外の疾患の発生率と被ばく量との関係を調査。 甲状腺疾患(P < 0.0001)、慢性肝疾患および肝硬変(P = 0.001)、子宮筋腫(P < 0.00001)、白内障(P = 0.026)で有意な正の線量反応、緑内障(P = 0.025)で負の線形線量反応、高血圧症(P = 0.028)と40歳未満で被爆した人の心筋梗塞(P = 0.049)で有意な二次線量反応を認めた。
腎・尿管結石での有意な線量効果は男性でのみ認められた(性差検定 P = 0.007)。 喫煙や飲酒で調整しても上記の結果は変わらなかった。
白内障、緑内障、高血圧症、男性の腎・尿管結石での放射線影響は新しい知見である。これらの結果は、がん以外の疾患の発現における放射線被曝の影響を十分に明らかにするため、高齢化している被爆者の追跡調査を続けることの必要性を立証するものである。
結果は、喫煙や飲酒で 調整しても変わらず
各群の線量区分が500mSv刻み(0 の次は1~ 490mSv
群)であるため、低線量部分は不明であるが、非がんの5疾患はLNT型を示すなど、重要な知見
原爆被爆者とチェルノブイリ事故被災者(ウクライナ)の 支援対象疾病
チェルノブイリ(ウクライナ)の疾患リストは、アワープラネットTV入手資料による
チェルノブイリでは、幅広い健診内容で 子どもたちの健康を守ろうとしている
ウクライナ:チェルノブイリ事故により被災した小児と未成年の健康診断の手引き (OurPlanetTvで日本語版を発行)
ロシア:放射線の影響を受けた子どもを診る医師のための診療・治療・予防などについてのガイドブック