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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 1/85 1 内燃機関講義ノート (第 2 版) 埼玉工業大学工学部機械工学科 小西克享

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 1/85

1

内燃機関講義ノート

(第 2 版)

埼玉工業大学工学部機械工学科

小西克享

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 2/85

2

はじめに

内燃機関が誕生してまだ 200 年ほどである.この間,内燃機関は多くの発明に支えられて発展

を遂げてきた.最初は単なる工夫や改善が中心であったが,やがて,理論的な解析が可能となり,

技術開発は飛躍的に進歩したのである.初期の内燃機関の熱効率はわずか数%であり,熱効率を

向上させることが長い間,至上命題となってきた.しかし,20 世紀後半になると,熱効率の改

善はその副産物として,内燃機関から排出される有害な燃焼ガスの問題を深刻化させ,排気浄化

への対応が求められるようになった.さらには,有害とは見なされていなかった排ガス中に含ま

れる二酸化炭素は,地球温暖化をもたらす原因物質として重要視されるようになり,更なる技術

革新が必要となった.

このように,内燃機関は大きく変貌を遂げようとしている.今から数十年も経てば,ほとんど

の車が電気推進方式となり,エンジンは主に発電の手段として用いられているかも知れない.こ

れまでのガソリンエンジンとディーゼルエンジンに加えて,ハイブリッド化や燃料電池や燃料の

多様化など新しい技術が主流となっているかも知れない.技術の変化に常に関心を持つことがと

ても重要である.

本書は,工学部の機械系の学科に所属する学部生を対象として,半期 15 回程度の授業で,内

燃機関の歴史,熱力学の基礎,サイクルの概念,燃焼,排気浄化などを教育するために必要な事

項を講義ノートとしてまとめたものである.内燃機関の教科書は多数出版されており,それぞれ

特徴があるが,本書では式の導出過程をできる限り省略しないようにした点や最新の排ガス規制

を盛り込んだ点などに特徴を持たせた.

内容は今後とも加筆修正の予定である.内容に関して不明な点やお気付きの点があれば著者ま

でご連絡いただきたい.

平成 21 年 12 月 1 日

埼玉工業大学 工学部 機械工学科 小西克享

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 3/85

3

目次

第1章 総論

1.1 内燃機関の歴史 ・・・・・・・・・・・・・・ 6

1.2 外燃機関と内燃機関 ・・・・・・・・・・・・・・ 7

1.3 ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの比較 ・・・・・・・・・・・・・・ 8

1.4 4ストロークサイクルエンジンと2ストロークサイクルエンジンの比較 ・・・ 9

年表 ・・・・・・・・・・・・・・ 11

第 2 章 内燃機関の熱力学

2.1 熱力学の状態量 ・・・・・・・・・・・・・・ 12

2.2 理想気体の状態方程式の意味 ・・・・・・・・・・・・・・ 12

2.3 エネルギ ・・・・・・・・・・・・・・ 14

2.4 絶対仕事と工業仕事 ・・・・・・・・・・・・・・ 16

2.5 サイクルの形成 ・・・・・・・・・・・・・・ 18

2.6 熱力学的サイクル

2.6.1 熱力学的サイクルの意味 ・・・・・・・・・・・・・・ 19

2.6.2 熱力学的サイクルの種類 ・・・・・・・・・・・・・・ 20

2.6.3 熱力学的サイクルの3基本形 ・・・・・・・・・・・・・・ 20

2.6.4 熱量と仕事 ・・・・・・・・・・・・・・ 22

2.6.5 理論熱効率 ・・・・・・・・・・・・・・ 23

2.6.6 理論熱効率の比較 ・・・・・・・・・・・・・・ 27

2.6.7 理論空気サイクルと実際のサイクルの相違点 ・・・・・・・・・・・・・・ 29

2.6.8 燃料空気サイクル ・・・・・・・・・・・・・・ 29

2.7 実際のサイクル

2.7.1 燃料空気サイクルとの相違点 ・・・・・・・・・・・・・・ 30

2.7.2 サイクルの比較 ・・・・・・・・・・・・・・ 31

2.8 対数 P-V 線図 ・・・・・・・・・・・・・・ 33

第 3 章 出力と効率

3.1 出力と効率 ・・・・・・・・・・・・・・ 34

3.2 理論仕事,図示仕事,正味仕事 ・・・・・・・・・・・・・・ 34

3.3 平均有効圧力 ・・・・・・・・・・・・・・ 35

3.4 熱効率 ・・・・・・・・・・・・・・ 36

3.5 線図係数と機械効率 ・・・・・・・・・・・・・・ 36

3.6 燃料消費率 ・・・・・・・・・・・・・・ 36

3.7 熱勘定(Heat Balance) ・・・・・・・・・・・・・・ 37

3.8 体積効率と充填効率 ・・・・・・・・・・・・・・ 38

3.9 掃気効率,給気比,給気効率 ・・・・・・・・・・・・・・ 38

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 4/85

4

第 4 章 燃料および燃焼

4.1 石油の組成 ・・・・・・・・・・・・・・ 40

4.2 ガソリン ・・・・・・・・・・・・・・ 42

4.3 小型ディーゼルエンジン用燃料(軽油) ・・・・・・・・・・・・・・ 43

4.4 大型低速ディーゼル(重油) ・・・・・・・・・・・・・・ 43

4.5 燃焼反応 ・・・・・・・・・・・・・・ 44

第 5 章 給排気系統

5.1 ガス交換 ・・・・・・・・・・・・・・ 49

5.2 弁の開閉機構(動弁機構) ・・・・・・・・・・・・・・ 49

5.3 弁の開閉時期とバルブオーバーラップ ・・・・・・・・・・・・・・ 49

5.4 慣性効果 ・・・・・・・・・・・・・・ 50

5.5 2 ストロークエンジンの掃排気 ・・・・・・・・・・・・・・ 50

5.6 掃気ポンプ ・・・・・・・・・・・・・・ 51

5.7 過給 ・・・・・・・・・・・・・・ 52

第 6 章 ガソリンエンジン

6.1 燃焼の特徴 ・・・・・・・・・・・・・・ 56

6.2 ノック ・・・・・・・・・・・・・・ 56

6.3 混合気の形成 ・・・・・・・・・・・・・・ 57

6.4 点火装置 ・・・・・・・・・・・・・・ 59

6.5 点火時期の影響 ・・・・・・・・・・・・・・ 62

6.6 吸入スワール ・・・・・・・・・・・・・・ 62

第 7 章 ディーゼルエンジン

7.1 燃焼の特徴 ・・・・・・・・・・・・・・ 63

7.2 ディーゼルノック ・・・・・・・・・・・・・・ 63

7.3 燃料噴射系 ・・・・・・・・・・・・・・ 64

7.4 燃焼室形状 ・・・・・・・・・・・・・・ 66

第 8 章 冷却と潤滑

8.1 冷却(Cooling) ・・・・・・・・・・・・・・ 68

8.2 潤滑(lubrication) ・・・・・・・・・・・・・・ 69

第 9 章 排ガス浄化

9.1 排気ガス成分と有害性 ・・・・・・・・・・・・・・ 73

9.2 ガソリンエンジンの排気浄化対策 ・・・・・・・・・・・・・・ 74

9.3 ディーゼルエンジンの排気浄化対策 ・・・・・・・・・・・・・・ 75

9.4 排出ガス規制

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5

9.4.1 ガソリンエンジンの排気ガス規制 ・・・・・・・・・・・・・・ 76

9.4.2 自動車用ディーゼルエンジンの排気ガス規制 ・・・・・・・・・・・・・・ 77

9.4.3 舶用ディーゼルエンジンの排気ガス規制 ・・・・・・・・・・・・・・ 79

問題解答 ・・・・・・・・・・・・・・ 81

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第1章 総論 6/85

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第1章 総論

1.1 内燃機関の歴史(年表参照)

人間が他の動物と異なる点は種々考えられる.例えば,言語を持つ.道具を使う.などである.

しかし,程度の差はあるものの,音声でコミュニケーションを行う動物もいれば,サボテンのと

げで木に潜む虫を穿り出して捕食する小さな小鳥(フィンチ)の存在も報告されている.人間以

外の動物が絶対に行わない行為となるとかなり限定されることになる.ではその代表例は何か.

それが「火の利用」である.「火」は原始人にとっては脅威と恐怖の対象でしかなかったであろう.

古代人にとっては「神秘なもの」であり,それ故に崇拝の対象ともなった.中世では「火」に対

する好奇心から万物を構成する物質のひとつと考えたりもした.しかし,現代人は,「火」の危険

な一面を克服して有効に利用する術を会得した.「火」を利用した技術の一つが内燃機関と言える.

中世 14 世紀から 17 世紀にかけては幻想でしかない「錬金術」1)が多くの人々の関心を集めた.

1600 年代には荒唐無稽な「永久機関」2)のアイデアが多数出現した.1600 年代後半には非科学的

なフロジストン説 3)が唱えられた.蒸気機関が現れた 1700 年前後はまだ科学の分野ではようやく

元素が発見された頃であり,そのような状況の中で,熱機関が誕生しやがて内燃機関へと発展し

た歴史は興味深い.年表から明らかなように,熱機関の発達においては内燃機関よりも外燃機関

である蒸気機関が先行した.利用できる燃料が石炭中心の時代であったため,当時,外燃方式は

致し方ない燃焼方法であった.蒸気機関は機械の動力源として利用され,さらに蒸気船や蒸気機

関車を誕生させた.自動車への適用も模索されたが,始動性の悪さや比出力(排気量あたりの出

力)の低さから,新たな熱機関の出現を待つこととなった.内燃機関という発想が生まれるには

蒸気機関の誕生からさらに 100 年の歳月が必要であった.初期の内燃機関は気体燃料を用いたガ

スエンジンである.気体燃料は定置型エンジンには問題ないが,移動体に応用するには不便であ

る.石油精製技術の発達により液体燃料であるガソリンが利用できるようになると,気化器が発

明されガソリンエンジンへと発展した.

イギリスの産業革命以前は動力を人力や家畜の力に頼っていた.人間一人が出せる動力は

0.68PS4)=0.5kW 前後である.初期の熱機関は装置が重く大きい割には出力が小さく 1PS=

0.7355kW に達しない状態で,熱効率も数%と極めて低いものであった.技術者や人々の関心が比

出力の向上と熱効率の改善を中心とした性能の向上に向けられたことは当然と言える.現在の自

動車用エンジンには 200PS を超すものがあり,さらに舶用ディーゼルエンジンでは 60000kW を越

すものがある.現在の熱効率は自動車用ガソリンエンジンで約 30%,ディーゼルエンジンで約

40%となり,大型舶用ディーゼルエンジンでは 50%を越すまでに至っている.

人力: 0.3~0.7PS エンジン: 0.5PS/1 台(ルノアール,オットー)1860 年

↓ 220PS(2L,DOHC ターボ),

89640PS(12RTA96C)2004 年

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第1章 総論 7/85

7

0

10

20

30

40

50

60

1840 1880 1920 1960 2000

ガソリン

ディーゼル

舶用ディーゼル

年代

そもそも熱機関の誕生の歴史においては,ワットがやかんの蓋が蒸気で持ち上がるのを見て蒸

気の利用を思いついたように,自然現象の観察と自由な発想が原動力となったことは興味深い.

また,多くの技術がそうであるように,理論を実現すべく技術的な課題・難題の克服に非常に多

くの時間と努力が傾けられたことを理解しておく必要がある.熱機関は理論の塊ではなく,技術

の塊と言えるのである.これまでの人類の絶え間ない努力によってエンジンが改良され続け,比

出力や熱効率が大幅に向上したことは,産業における生産性を飛躍的に向上させただけでなく,

それまで不可能であったことまでも可能にする結果となった.熱機関の一種である内燃機関(エ

ンジン)は自動車を始めとする交通機関や発電などに用いられ,あらゆる産業を支える原動力と

もなっている.熱機関の性能向上という課題は今も昔も変わらない.希薄燃焼技術やガソリン直

噴エンジンなどの新技術が開発されたことは記憶に新しい.また,今日では環境に配慮した排ガ

ス浄化技術の開発も重要なテーマとなっている.

1) 金以外の物質を金に変える技術.錬金術の最終的な目標は不老不死の薬である「賢者の石」

を作ることにあったとされる.錬金術師にはパラケルススやニコラ・フラメルなどが実在したと

言われる.科学的には荒唐無稽であったが,元素の発見につながったと言われている.

現代では,元素は核融合反応で作り出されることがわかっている.核融合が起きるには途方も

ない高温が必要であり,陽子数が多くなるほどより高温が必要となる.例えば太陽では 6000K で

水素の核融合反応からヘリウムが生まれている.

2) 燃料を供給することなく動力を取り出せるエンジン

3) 物質は燃焼により散逸する「フロジストン」と燃えかすとなって残る「カルックス」からな

るとする説

4) 馬力という動力の単位は文字どおり馬の持つ力を実際に測定して得られたもので,熱機関の

動力を表すために考案されたものである.

1.2 外燃機関と内燃機関

シリンダに閉じ込めた気体を加熱すると,シリンダ内の気体が膨張してピストンを押し上げ,

おもりを持ち上げる(仕事を発生する)ことができる.これはエンジンが動力を発生する基本原

理であるが,熱量を外部から供給する場合に外燃機関と呼び,シリンダ内部で直接発生させる場

エンジン熱効率の変遷

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第1章 総論 8/85

8

合に内燃機関と呼ぶ.外燃機関ではシリンダ内の気体(作動流体)は蒸気か空気である.内燃機

関では作動流体は燃料と空気の混合気であり,作動流体そのものが燃焼して熱量を発生すること

になる.外燃機関と内燃機関には下表のような種類がある.

m

m

h

仕事 mghW 12 を発生

+Q 外部から与える=外燃機関

内部で発生(燃焼)させる=内燃機関熱量

気体膨張

外燃機関 内燃機関

蒸気機関

蒸気タービン

スターリングエンジン

往復動エンジン

(レシプロエンジン)

ロータリーエンジン

ガスタービン

ジェットエンジン

ロケットエンジン

1.3 ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの比較

世の中にある自動車や船舶のエンジンはほとんどがガソリンエンジンとディーゼルエンジンの

どちらかである.これらは似て非なるもの.主な相違点を次の表に示す.

ガソリンエンジン ディーゼルエンジン

燃料 ガソリン 軽油,重油

燃焼形態 予混合燃焼(火炎伝播燃焼)

ガソリン-空気混合気中を火炎が伝播

拡散燃焼

高温高圧空気中で軽油噴霧が燃焼

点火方式 火花点火 圧縮点火(自発点火,自己着火,自然発

火)

圧縮比 8~10 程度 16~21

熱効率 ~30% 40%(高速)~50%(舶用)

用語

エンジンで重要な用語は多数あるが,まず次のものを覚えよう.

① 上死点,下死点(図参照)

英語では上死点:Top Dead Center, TDC.下死点:Bottom Dead Center, BDC と呼ぶ.

火花点火機関(ガソリンエンジン他) 圧縮点火機関(ディーゼルエンジン) 焼玉機関

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9

② 圧縮比

1V :下死点におけるシリンダ容積

2V :上死点におけるシリンダ容積(すきま容積)

21 VVVS : 行程容積

圧縮比: 2

1

V

V

③ ストローク(行程)とは

上下死点間のピストンの移動もしくはその距離のこと.

1.4 4ストロークサイクルエンジンと2ストロークサイクルエンジンの比較

(1) エンジンの相違点

4ストロークサイクルエンジン 2ストロークサイクルエンジン

別称 4ストロークエンジン

4サイクルエンジン(注)

2ストロークエンジン

2サイクルエンジン

燃焼回数 軸 2 回転につき 1 回燃焼 軸 1 回転につき 1 回燃焼

行程

( ス ト ロ ー

ク)

吸入→圧縮→膨張(燃焼)→排気の4つ

圧縮

膨張(燃焼)

排気

吸入 2 回転

(テキスト図 1・3)

圧縮→膨張の2つ

膨張

掃気

圧縮

燃焼

1 回転

(テキスト図 1・4)

注意: 4サイクルエンジンという場合の「サイクル」という言葉は「熱力学的サイクル」と誤

解を招きやすいので注意が必要である.本来,4ストロークサイクルエンジンは 4 つのストロー

ク(行程)で1つの熱力学的サイクル(後述)を構成するエンジンと言う意味である.ストロー

ク(行程)があくまで主である.4サイクルエンジンは4ストロークサイクルエンジンの「スト

ローク」が省略されただけの言葉である.

(2) エンジンの動作

下死点

上死点

1V

2V

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第1章 総論 10/85

10

吸気弁 ①

排気弁

吸入行程

膨張行程

圧縮行程

排気行程

燃焼 1q

2q 放熱

ピストン 2 往復=4 行程

掃気(放熱)

膨張行程

圧縮行程

燃焼 1q

ピストン 1 往復=2 行程

2q

2 ストローク 4 ストローク

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1680 ホイヘンス,火薬機関(案)発表 1688 ドニ・パパン(仏)

ピストン型蒸気機関(案)発表 1705(12?) ニューコメン(英),熱効率 0.5% 1774(65?) ワット(英),熱効率 2%

1805 トレビシック,鉄道用蒸気機関 1805 リバーツ(スイス),火花点火式

1823(20?) ブラウン(英), 爆発真空エンジン

1824 カルノー(仏)

カルノーサイクル(論文)

1857 バルサンチ,マテウッチ(英)フリーピストンガスエンジン発明

1860(67?) ルノアール(仏)

2cycle,0.5PS,熱効率 4%1862 ロシャ(仏),4cycle 機関提唱

1867 オットー(独),ランゲン(独)フリーピストンガスエンジン, 0.5PS,熱効率 8%

1874 ブレイトン(米) 等圧燃焼機関,熱効率 8%

1876 オットー(独) 4cycle,熱効率 14(16?)%

1881 クラーク(英),2cycle 1891 デー(英),2cycle

1893 ディーゼル(独), 特許取得

1897 アウグスブルク社(MAN) 4cycle,熱効率 30%

1860 ルノアール(仏) 表面気化器でガソリン気化 熱効率 4%

1885 ダイムラー(独)

4cycle,15%,自動車用 1886 ベンツ(独)

4cycle 水冷ガソリン機関

スターリング機関 1816 スターリング(英)

1954 バンケル(独), 特許取得

1958 NSU 社,試作成功 1967 マツダ,コスモスポーツ

ガソリンエンジン

ガスエンジン

ディーゼルエンジン

ロータリーエンジン

外燃機関 内燃機関

1600

1700

1800

1900

3 万年前 火の利用 BC600 拝火教 BC500 四原素説

万物は水,土,空

気,火からなる 14~17 世紀 錬金術 17 世紀 永久機関 1600 後半 フロジストン説1600 後半 熱素説 1700 後 元素とガス発

見 1777 フロジストン説否定 1800 Dalton の原子論

紀元

エンジンの歴史紀元前 主要なもののみ

科学の歴史

蒸気機関

文献 1. 疋田 強,火の科学,培風館 2, 都筑卓司,マックスウェルの悪魔,講談社 3. 富塚 清,内燃機関の歴史,三栄書房 4. 樋口健二,自動車技術の辞典,朝倉出版 5. 金子靖雄,内燃機関基礎工学,山海堂 6. 村山正,常本秀幸,自動車エンジン工学,山海堂 7. 田坂英紀,佐藤忠教,内燃機関,森北出版

現代

埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第

2版) 第1章 総論

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 2 章 内燃機関の熱力学 12/85

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第 2 章 内燃機関の熱力学

内燃機関が動力を発生する仕組みは,「熱力学」と呼ばれる科学的経験法則によって説明するこ

とが出来る.熱力学はエネルギと状態量の変化に関する法則を体系化した学問である.ただし,

熱力学の諸法則(第 1 法則,第 2 法則など)は我々が地球上で体験した事実に基づくもので,経

験法則と呼ばれる.

熱力学は目に見えない事柄を扱うためか理解しがたく,また興味を持ちにくい教科でもある.

しかし,「サイクル」という熱力学的な発想が熱機関の発明をもたらし,その後の熱機関の発達と

熱力学の発展が密接に結びついた事実を考えれば,熱力学,特に熱力学的サイクルへの理解が内

燃機関を本当に理解する上で不可欠と言える.

2.1 熱力学の状態量

状態量とは温度,圧力,密度など物質もしくは系の状態を表す量のことである.状態量は系全

体の値を表す場合と,単位質量もしくは単位モル数あたりの値を表す場合があり,混同して使用

すると正確な理解の妨げとなるので注意が必要である.例えば,温度と圧力については常に系全

体の値が用いられるが,容積やエンタルピなどはしばしば単位質量もしくは単位モル数あたりの

値が用いられる.このため,状態量を表す記号は下表のように区別されることが多い.一般に系

全体の場合は大文字,単位質量もしくは単位モル数当りの場合は小文字で表す.

状態量 系全体 単位質量当り 単位モル数当り

記号 単位 記号 単位 記号 単位

温度 T K

圧力 P Pa

容積(体積) V m3 v(比容積) m3/kg v(モル容積) m3/mol

熱量 Q J q J/kg q J/mol

仕事 W J w J/kg w J/mol

内部エネルギ U J u(比内部エネルギ) J/kg u J/mol

エンタルピ H J h(比エンタルピ) J/kg h(モルエンタルピ) J/mol

エントロピ S J/K s(比エントロピ) J/kg/K s J/mol/K

注意: 単位質量当りもしくは単位モル数当りのどちらを用いるかはあまり大きな問題ではない.

ただし,化学反応計算では物性値の入手のしやすさから単位モル数当りが便利である.

2.2 理想気体の状態方程式の意味

理想気体の状態方程式は,次のように記述される.

系全体の式 単位質量もしくは単位モル数当りの式

nRTPV RTPv

ただし,n は系に含まれる気体の質量[kg]もしくはモル数[mol]である.R にガス定数[J/kg/K]もし

くはモルガス定数[J/mol/K]のいずれを用いるかで使い分ける.

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 2 章 内燃機関の熱力学 13/85

13

式から分かるように,状態方程式とは気体の圧力,容積,温度の関係を示すものであるが,こ

の方程式が持つ意味はそれだけではない.

① (等温変化では)圧力と体積は反比例する.

vPPPv

v 22

のとき2

2P

Pvv のとき

PPV

V 22

のとき VP2

2P

PVV のとき系全体

単位質量当り or

単位モル数当り

② 式の単位はエネルギである.

系全体

左辺: JNmmN/mm,N/mPa 3232 PVVP

右辺: JKJ/kg/KkgK,J/kg/K ,kg nRTTRn すなわち系全体のエネルギ[J]と

なる.

単位質量もしくは単位モル数当り

左辺:

J/molNm/mol/molmN/m

J/kgNm/kg/kgmN/m

/molm

/kgm,N/mPa

32

32

3

32 PvvP

右辺:

J/molKJ/mol/K

J/kgKJ/kg/KK,

J/mol/K

J/kg/KPvTR

すなわち単位質量もしくは単位モル数当りのエネルギ([J/kg] or

[J/mol])となる

③ PV は圧力 P [Pa]での理想気体 V [m3]の排除仕事[J]に等しい.

Pv は圧力 P [Pa]での理想気体 1kg もしくは 1mol の排除仕事[J/kg or J/mol]に等しい.

P P

P V

V [m3]の気体

を充填 V

P(V, P)

容積

袋は圧力 P の気体を体積 V だけ排除. 排除に要したエネルギ(排除仕事)は PV 線図上の面積で表される

充填後の袋

排除仕事 PVW

PV 線図

0

圧力

P

n [kg or mol]

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14

P P

P v

1 kg or mol

1mol の気体

を充填 v

P(v, P)

容積

袋は圧力 P の気体を体積 v だけ排除. 排除に要したエネルギ(排除仕事)は Pv 線図上の面積で表される

充填後の袋

排除仕事 Pvw

Pv 線図

0

圧力

P

注意: P-V 線図と P-v 線図

実際のエンジンのように作動流体の質量やモル数が変化する場合には,P-V線図が便利である.

また,変化しない場合,もしくは変化しないと仮定できる場合には P-v 線図が適している.

2.3 エネルギ

(1) エネルギの種類:

物体や系が保有するエネルギには表に示すようないくつかの種類がある.運動エネルギ(Kinetic

Energy, KE)や位置エネルギ(Potential Energy, PE)は力学的エネルギと呼ばれる.熱もエネルギ

である.(熱力学第1法則の意味)熱エネルギはエンタルピと呼ばれる.

高さ[m]

z

0 v

v=0 m

自然落下

mgz PE,0KE

0PE,2

1KE 2 mv

gzv 2PEKE 一定より

運動エネルギ,位置エネルギ

相対的な

基準位置 絶対零度 0

温度[K] エンタルピ

h=0J

T dTchT

p 0

力学的エネルギ 熱エネルギ

宇宙不変の基準

エンタルピは系の温度のみの関数である.エンタルピは熱的エネルギレベルを表すことになり,

Potential Energy の一種と言える.エンタルピ差=熱量となる.エンタルピは次式で定義される.

dTCnHT

p0

[J] | dTChT

p 0 [J/mol]

エネルギの種類 ① 力学的エネルギ

運動エネルギ 位置エネルギ 弾性エネルギ

② 熱エネルギ ③ 化学エネルギ ④ 電磁気学的エネルギ

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15

本来,系の持つ全エネルギは熱エネルギや力学的エネルギなどすべてのエネルギの総和である.

問題を扱う場合には,物体や系に含まれるエネルギのうち,必要なエネルギだけを考慮すれば

よい.例えば,運動する物体は運動エネルギと位置エネルギを持っており,理想状態ではこれら

2 つのエネルギの和は一定(エネルギ保存則)となることを考慮する.実際には物体や系には温

度があるため,力学的エネルギだけではなく熱エネルギも持っているわけであるが,問題を解く

際に温度が変化しないと仮定するために力学的エネルギだけ考慮すれば良いことになる.一方,

熱力学が扱う系(開いた系,閉じた系)の場合,運動するしないにかかわらず系の温度が変化す

るため,常に熱エネルギを考慮しなければならない.開いた系では熱エネルギだけでなく作動流

体が運動するため,力学的エネルギを含めた全エネルギを考えなければならない.一方,閉じた

系では作動流体の運動は無視できるため,熱エネルギのみを考慮すればよい.

(2) 内部エネルギと膨張仕事

エンタルピから排除仕事分を差し引いた値を内部エネルギと呼ぶ.内部エネルギは次式で定義

される.

PVUH [J] | Pvuh [J/mol]

内部エネルギは系の温度のみの関数である.等温変化では,系の圧力・容積が変化しても温度が

等しいため内部エネルギの値は同じである.

T

vdTCnU0

[J] | T

vdTCu0

[J/mol]

閉じた系で体積が変化できない場合,外部から与えられた熱量はすべて内部エネルギの増加量

となる.

dUdQ [J] | dudq [J/mol]

閉じた系で体積が変化できる場合,外部から熱量を与えると,一部が膨張仕事に変わり,残り

は内部エネルギの増加量となる.与えた熱量がすべて仕事に変換される訳ではないことに注意が

必要である.

12dWdUdQ [J] | 12dwdudq [J/mol]

この式を熱力学の第 1 法則(エネルギ式)という.

熱量が内部エネルギと仕事に変換される比率は状態変化の仕方によって異なる.単純な例とし

て,等温,等圧,等容変化の場合は以下の通りである.

12dw dUUU

dQ

012 dWdUUU

dQ

体積が変化しない閉じた系 体積が変化する閉じた系

dq

duuu 012 dw12dW

duuu dq

① 等温変化: 内部エネルギの変化は 0 であるため,すべての熱量が仕事に変換される.

系の持つ全エネルギ=熱エネルギ+力学的エネルギ+・・・

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16

dQdWdU ,0 [J] | dqdwdu ,0 [J/mol]

② 等圧変化: エネルギは,次のように配分される.

dQdWdQ

dU

1,

[J] | dqdw

dqdu

1

,

[J/mol]

ただし,比熱比v

p

C

C

③ 等容変化: 体積の変化しない閉じた系と同じ

0, dWdQdU [J] | 0, dwdqdu [J/mol]

2.4 絶対仕事と工業仕事

容積 V1V 2V

1

2

面積=絶対仕事 12W1P

2P

熱量 Q

12W

Q

12W

圧力

P

容積 V1V 2V

1

2

面積=工業仕事 tW

1P

2P

1

2

1H

2HtW

tW

圧力

P

シリンダとピストンからなる往復動エンジンでは,内部に閉じ込められた気体に熱量を与える

と気体が膨張してピストンを押すことにより膨張仕事を行う.このような閉じた系では,気体が

外部に対して行う仕事は絶対仕事と呼ばれる.

熱力学の第 1 法則の式を積分すると

1212

2

1

2

1

2

1

WUUQ

dWdUdQ

[J] |

1212

2

1

2

1

2

1

wuuq

dwdudq

[J/mol]

気体を膨張させるために外部から与えた熱量は膨張仕事を発生させるとともに,内部エネルギ

を増加させることになる.

絶対仕事は P-V 線図(P-v 線図)の圧力を積分することで求まる.

2

112 PdVW [J] |

2

112 Pdvw [J/mol]

ガスタービンでは連続的に作動流体がタービンブレードに力を与え,軸を回転させる.このよ

うな開いた系では,気体が外部に対して行う仕事は工業仕事と呼ばれる.

工業仕事は P-V 線図(P-v 線図)の圧力を積分することで求まる.

問題 1 等圧変化では dQdWdQ

dU

1,

となることを証明せよ.

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17

2

1VdPWt [J] |

2

1vdPwt [J/mol]

工業仕事は次のように理解することが出来る.

エネルギ保存の法則から,タービンが外部にする仕事(工業仕事)は入口と出口の作動流体のエ

ンタルピ差に等しい.

tWHH 21 [J] | twhh 21 [J/mol]

タービン入口 1 において作動流体の持つエンタルピは

1111 VPUH [J] | 1111 vPuh [J/mol]

タービン出口 2 において作動流体の持つエンタルピは

2222 VPUH [J] | 2222 vPuh [J/mol]

であるから

222111

222111

VPUUVPW

WVPUVPU

t

t

[J] | 222111

222111

vPuuvPw

wvPuvPu

t

t

[J/mol]

となる.一方,熱力学の第 1 法則において,断熱変化では

0dQ より 0dq より

0 dWdUdQ [J] 0 dwdudq [J/mol]

1 から 2 までの間で積分すると

2112

1212

2

1

2

1

0

0

UUW

WUU

dWdU

[J]

2112

1212

2

1

2

1

0

0

uuw

wuu

dwdu

[J/mol]

となるから,工業仕事は次のように表すことが出来る.

221211 VPWVPWt [J] | 221211 vPwvPwt [J/mol]

1111 vPVP はタービン入口 1 に投入された作動流体の持つエネルギの一部であり,作動流体を

入口から押し込むのに必要な仕事に等しい.これは正の仕事に変換できるエネルギである.

1212 wW は作動流体が1から2まで断熱変化する際にタービンブレードに与える絶対仕事であり,

入口出口間の内部エネルギ差に等しい. 2222 vPVP はタービン出口から作動流体を排出するのに

必要な負の仕事である.タービンが外部にする仕事はこれらの仕事の総和である.この仕事は P-V

線図(P-v 線図)では,

2

1VdPWt [J] |

2

1vdPwt [J/mol]

に一致する.

V 1V 2V

1

2

排除仕事

11VP 1P

2P

V 1V 2V

1

2

絶対仕事

12W 1P

2P

1V1V 2V

1

2

排除仕事

22VP 1P

2P+

+

V1V 2V

1

2

工業仕事

tW 1P

2P

+ + =

P

P

P

P

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18

2.5 サイクルの形成

シリンダとピストンを用いれば,内部の気体を膨張させることによりピストンを介して仕事を

取り出すことが出来る.しかし,ピストンの移動量には限界があるため,気体を無限に膨張させ

ることは出来ない.したがって,往復動エンジンでは気体の膨張によるピストンの移動が完了し

たら一旦ピストンを元に位置に戻し,再度膨張させるという熱力学的サイクルを繰り返し行い,

間欠的に仕事を取り出す必要がある.サイクルが外部にする仕事は膨張仕事分と圧縮仕事分の差

となる.熱機関が外部に仕事を発生するには,P-V 線図(P-v 線図)でサイクルの状態変化が閉曲

線を描く必要がある.

容積V1V 2V

1

2

1P

2P

膨張

圧縮

1 サイクルに外部に 取り出せる仕事

熱機関のサイクル

圧力

P

閉曲線の内部の面積がサイクルから取り出せる仕事を表す.周積分記号を用いるとサイクルの

仕事は以下のように定義できる.

PdVW

P-V 線図(P-v 線図)に示すように膨張した気体から熱量を奪えばピストンを押し戻すことが出来

るが,熱損失を無視できるとすると膨張過程と圧縮(収縮)過程の経路が同じとなり,膨張仕事

(正の仕事)と圧縮仕事(負の仕事)が等価となる.この場合,サイクルは外部に何も仕事をし

ないことになる.

また,冷却を行わずに力を加えてピストンを押し戻すと,圧力が元の状態より大きくなるため

膨張仕事(正の仕事)<圧縮仕事(負の仕事)

問題 2 次の P-V 線図における領域①および②は何を表すか?下のキーワードを関連付けて説

明せよ.

容積 V1V 2V

1

2①

断熱

容積 V 1V 2V

1

2

断熱

1P

2P

1P

2P

圧力

P

圧力

P

キーワード:「絶対仕事,工業仕事,膨張仕事,閉じた系,開いた系,往復動エンジン,ガス

タービン」

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19

となって,仕事を取り出すどころか逆に仕事を与えなければならなくなる.

容積 V 1V 2V

1

2

膨張仕事

012 W 1P

2P

供給 熱量 Q>0

12W

V 1V 2V

1

2

圧縮(収縮)仕事

021 W

1P

2P

冷却 熱量 Q<0

21W

熱量を奪う

V 1V 2V

1

2

外部になす仕事

02112 WWW

1P

2P+

Q

熱量を与える

Q 圧力

P P

P

加熱と冷却の組み合わせ

容積 V 1V 2V

1

2

膨張仕事

012 W 1P

2P

供給 熱量 Q>0

12W

V 1V 2V

1

2

圧縮仕事

023 W

1P

2P

21W

外力で押戻す

V 1V 2V

1

2

外部になす仕事

02312 WWW

1P

2P

3 3P

Q

熱量を与える

3 3P

+ -

圧力

P

P

P

加熱と押し戻しの組み合わせ

2.6 熱力学的サイクル

2.6.1 熱力学的サイクルの意味

サイクルが外部に仕事を発生するには,ピストンを元の位置に戻すための圧縮仕事を気体の膨

張で得られる膨張仕事より小さくしなければならない.そのためには膨張完了時に一気に放熱し

て気体の圧力を低下させれば良い.実際のエンジンでは,気体の膨脹時に発生する仕事をフライ

ホイールの回転エネルギに変換して蓄え,ピストンを押し戻す際の圧縮仕事に利用している.ま

た,膨張後に排気を行うことにより短時間のうちに気体から熱量を奪うように工夫している.

一方,サイクルが成立するためにはピストンが元の位置に戻った際に圧力がサイクルの初期状

態に戻らなければならない.そのためには,ピストンが 4 まで押し戻されたら熱量を供給して圧

力を 1 の状態まで回復させれば良い.このように,ピストンの上死点で熱供給を行い,下死点で

放熱し,膨張および圧縮の期間は断熱変化させることでサイクルは外部に対して仕事をすること

が可能となる.このようなサイクルを熱力学的サイクルと呼ぶ.熱力学的サイクルは上死点での

問題 3 気体を等温膨張させた後,ピストンを外力で押し戻して断熱圧縮するとき, 13 PP と

なることを証明せよ.

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20

圧力変化(状態変化)のさせ方によって,オットーサイクル,ディーゼルサイクル,サバテサイ

クルの3つの基本形に分類することが出来る.

容積 V1V 2V

1

2

外部にする仕事 1P

2P 4

4P

2Q33P

放熱

1Q加熱

圧力

P

これらの基本サイクルを考えるとき,実際のエンジンにおけるサイクルでは熱損失,物性値の

温度変化,種々の物理的な遅れなどのために複雑な状態変化を示し,理論的考察は困難である.

そこで,実際には存在しない理想的なサイクルを考えた方が考察しやすい.もっとも現象を単純

化したものは,作動流体を理想気体としての空気に置き換えた「理論空気サイクル」と呼ばれる.

また,「理論空気サイクル」の作動流体に燃料や残留ガスの物性を加味し,「実際のサイクル」に

近づけた「燃料空気サイクル」もある.

2.6.2 熱力学的サイクルの種類

各サイクルの主要な相違点は次表の通りである.

項目 理論空気サイクル 燃料空気サイクル 実際のサイクル

作動流体 理想気体(比熱一定)

大気の温度・圧力における

比熱・密度

新気(燃料空気混合気)

と残留ガス

新気(燃料空気混合気)

と残留ガス

燃焼 時間遅れを無視 時間遅れを無視 時間遅れを考慮

壁面熱損失 0 0 考慮する

ガス交換 下死点において行われる 下死点において行われる 時間遅れを考慮

2.6.3 熱力学的サイクルの3基本形

熱力学的サイクルの3つの基本形であるオットーサイクル,ディーゼルサイクル,サバテサイ

クルの P-V 線図および T-S 線図を下に示す.サイクルの特徴や相違点を十分理解することが必要

である.

注意: 熱力学的サイクルの P-V 線図には 4 つの状態変化の過程(サバテサイクルでは 5)が存

在するが,1つの過程がサイクルもしくは行程に対応すると勘違いしてはいけない.圧縮過程が

圧縮行程と一致するように,1つの過程がピストンの1ストローク(行程)に対応する場合もあ

れば,そうでない場合もある.シリンダ内の気体の状態変化が圧縮開始(番号 1)から始まって,

再び元の圧縮開始(番号 1)に戻る一連の変化をサイクルと呼ぶのである.状態変化の4過程を

4サイクルと勘違いし,これらを4サイクルエンジン(4ストロークエンジン)の基本サイクル

と考えるのは間違いである.

注意:圧縮始めの番号を 1 とする.

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21

容積 V 1V 2V

オットーサイクル

1

2

3

4

23Q

容積 V1V2V

ディーゼルサイクル

1

2 3

4

41Q

容積 V1V 2V

サバテサイクル

1

2

3

5

4 34Q

断熱膨張

23Q

23q

41Q 51Q

34W

12W

34W

12W 12W

45W

断熱膨張 断熱膨張

断熱圧縮

断熱圧縮 断熱圧縮

等容加熱

等圧加熱 等圧加熱

等容加熱

等容冷却 等容冷却 等容冷却

23W 34W

WW

W

圧力

P

圧力

P

圧力

P

サイクルの P-V 線図

エントロピ S

1

2

3

4

オットーサイクル

エントロピ S

1

2

3

4

ディーゼルサイクル

エントロピ S

1

2

3

5

サバテサイクル

4 等容

等容 等容

等圧

等容

等容

等圧

23Q

41Q

23Q

41Q

23Q

51Q

12W

34W

12W

34W

12W

45W

断熱

断熱

断熱

断熱

断熱

断熱

23W 34Q 34W

温度

T

温度

T

温度

T

サイクルの T-S 線図

T-S 図について

エントロピの定義より

TdSdQ [J] | Tdsdq [J/mol]

状態 a から b までの経路の積分

b

aTdSQ [J] |

b

aTdsq [J/mol]

は系に出入りする熱量を表す.

エントロピ S

1

2

3

4

T-S線図

エントロピ S

等容 23Q

1

2

3

4等容

41Q

排出熱量供給熱量

温度

T

温度

T

オットーサイクルでは供給熱量は

3

223 TdSQ [J] |

3

223 Tdsq [J/mol]

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22

排出熱量は,

4

1

1

441 TdSTdSQ [J] |

4

1

1

441 TdsTdsq [J/mol]

次式となる.

P-V 線図を描いた場合,4 サイクルも 2 サイクルも仕事を発生するための基本サイクルは同じで

あるが,4 ストロークでは,ピストンが一往復分(クランク軸 1 回転分)する間に排気⑥と吸気

①が行われる点が異なる.

容積 V1V 2V

4 ストロークエンジンの圧力と容積の関係

仕事面積 PdV

⑥ 0 1

2

3

4

23Q

41Q

エントロピ S①

③ ④

⑥ 1

2

3

4

23Q

41Q

容積 V1V 2V

2 ストロークエンジンの圧力と容積の関係

仕事面積 PdV

0 1

2

3

4

23Q

41Q

エントロピ S

③ ④

①1

2

3

4

23Q

41Q

4 ストロークエンジンの温度とエントロピの関係 2 ストロークエンジンの温度とエントロピの関係

2 ストローク 4 ストローク

W W

圧力

P

圧力

P

温度

T

温度

T

2.6.4 熱量と仕事

サイクルの各行程における熱の出入り(正=加熱,負=冷却)と仕事(正=膨張仕事,負=圧

縮仕事)は下表の通りである.

① オットーサイクル 表の各欄,上段は系全体,下段は単位質量もしくはモル数当り

の式

過程 熱量(>0 供給,<0 冷却) 仕事(>0 膨張仕事,<0 圧縮仕事)

1→2:断熱圧縮 012 Q

012 q

01

2

2

12112 PdVVPdUUW

01

2

2

12112 PdvPdvuuw

2→3:等容加熱 02323 UUQ

02323 uuq

03

223 VPdW

03

223 Pdvw

3→4:断熱膨張 034 Q

034 q

04

34334 PdVUUW

04

34334 Pdvuuw

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23

4→1:等容冷却 04141 UUQ

04141 uuq

01

441 PdVW

01

441 Pdvw

② ディーゼルサイクル

過程 熱量(>0 供給,<0 冷却) 仕事(>0 膨張仕事,<0 圧縮仕事)

1→2:断熱圧縮 012 Q

012 q

01

2

2

12112 PdVPdVUUW

01

2

2

12112 PdvPdvuuw

2→3:等圧加熱 232323 WUUQ

232323 wuuq

232

3

223 VVPPdVW

232

3

223 vvPPdvw

3→4:断熱膨張 034 Q

034 q

04

34334 PdVUUW

04

34334 Pdvuuw

4→1:等容冷却 04141 UUQ

04141 uuq

01

441 PdVW

01

441 Pdvw

③ サバテサイクル

過程 熱量(>0 供給,<0 冷却) 仕事(>0 膨張仕事,<0 圧縮仕事)

1→2:断熱圧縮 012 Q

012 q

01

2

2

12112 PdVPdVUUW

01

2

2

12112 PdvPdvuuw

2→3:等容加熱 2323 UUQ

2323 uuq

03

223 PdVW

03

223 Pdvw

3→4:等圧加熱 343434 WUUQ

343434 wuuq

343

4

334 VVPPdVW

343

4

334 vvPPdvw

4→5:断熱膨張 045 Q

045 q

05

45445 PdVUUW

05

45445 Pdvuuw

5→1:等容冷却 05151 UUQ

05151 uuq

01

551 PdVW

01

551 Pdvw

2.6.5 理論熱効率

理論熱効率は理論サイクルにおける出力(理論仕事)と入力(供給熱量)との比である.また,

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24

出力は供給熱量 11 qQ と排出熱量 22 qQ の差となるから,理論熱効率は次式のように定義できる.

1

21

1 Q

QQ

Q

Wth

1

21

1 q

qq

q

wth

理論仕事は P-V 線図(P-v 線図)上のサイクル内部の面積に等しい.基本サイクルの理論熱効率

は次の通りである.

① オットーサイクル

膨張仕事は 3→4 の過程,圧縮仕事は 1→2 の過程となる.

理論熱効率は 23

14

23

14

23

14

23

2143

23

1234

23

111TT

TT

TTnc

TTnc

UU

UU

UU

UUUU

Q

WW

Q

W

v

vth

もしくは 23

14

23

14

23

14

23

2143

23

1234

23

111TT

TT

TTc

TTc

uu

uu

uu

uuuu

q

ww

q

w

v

vth

断熱変化では

constTV 1 | constTv 1

また,

1423 VVandVV | 1423 vvandvv

だから 1

141

231

221

11 VTVTandVTVT |

114

123

122

111

vTvTandvTvT

変形すると

1

1

1

2

23

4

1223

1114

1

V

V

TT

TT

VTTVTT

1

1

1

2

23

4

1223

1114

1

v

v

TT

TT

vTTvTT

よって

1

11

th

オットーサイクルでは理論熱効率は圧縮比と比熱比の関数となることがわかる.

,fth

② ディーゼルサイクル

膨張仕事は 2→3→4 の過程,圧縮仕事は 1→2 の過程となる.

理論熱効率は

2323

14

2323

214323

2323

123423

23

1WUU

UU

WUU

UUUUW

WUU

WWW

Q

Wth

もしくは

2323

14

2323

214323

2323

123423

23

1wuu

uu

wuu

uuuuw

wuu

www

q

wth

3323322232 ,, nRTVPVPnRTVPPP | 3323322232 ,, RTvPvPRTvPPP

より

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25

2323223 TTnRVVPW | 2323223 TTRvvPw

よって

23

14

2323

14

1

1

TTRc

TTc

TTnRTTnc

TTnc

v

v

v

vth

23

14

2323

14

1

1

TTRc

TTc

TTRTTc

TTc

v

v

v

vth

Rcc vp より

23

14

23

14 11TT

TT

TTc

TTc

p

vth

1→2 の過程は断熱変化であるから 1

221

11 VTVT |

122

111

vTvT

よって,

1

1

1

2

2

1 1

V

V

T

T |

1

1

1

2

2

1 1

v

v

T

T

2→3 の過程は等圧変化であるから

3

3

2

2

V

T

V

T |

3

3

2

2

v

T

v

T

ここで,等圧膨張比(締切比)を

2

3

2

3

T

T

V

V |

2

3

2

3

T

T

v

v

と定義する.

3→4 の過程は断熱変化であるから 1

141

441

33 VTVTVT |

114

144

133

vTvTvT

より

11

1

1

2

1

2

3

1

1

3

3

4 1

V

V

V

V

V

V

T

T |

11

1

1

2

1

2

3

1

1

3

3

4 1

v

v

v

v

v

v

T

T

よって,

1

11

2

3

3

4

2

4 11

T

T

T

T

T

T

したがって,理論熱効率をさらに変形すると

1

111

1

11

1

1

11

11

2

3

2

1

2

4

T

T

T

T

T

T

th

ディーゼルサイクルでは理論熱効率は圧縮比,比熱比,等圧膨張比の関数となることがわかる.

,,fth

③ サバテサイクル

膨張仕事は 3→4→5 の過程,圧縮仕事は 1→2 の過程となる.

理論熱効率は

3424

15

3424

215434

343423

124534

3423

1WUU

UU

WUU

UUUUW

WUUUU

WWW

QQ

Wth

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26

もしくは

3424

15

3424

215434

343423

124534

3423

1wuu

uu

wuu

uuuuw

wuuuu

www

qq

wth

4434433343 ,, nRTVPVPnRTVPPP | 4434433343 ,, RTvPvPRTvPPP

より

3434334 TTnRVVPw | 3434334 TTRvvPw

3424

15

3424

15

11

1

TTTT

TT

TTnRTTnc

TTnc

v

vth

3424

15

3424

15

11

1

TTTT

TT

TTRTTc

TTc

v

vth

よって

11

1

111

3

43

2

32

1

51

3423

15

343424

15

T

TT

T

TT

T

TT

TTTT

TT

TTTTTT

TTth

1→2 の過程は断熱変化であるから 1

221

11 VTVT |

122

111

vTvT

よって,

11

1

2

112

TV

VTT | 1

1

1

2

112

Tv

vTT

2→3 の過程は等容変化であるから3

3

2

2

P

T

P

T .ここで,圧力比を

2

3

2

3

T

T

P

P と定義する.

3→4 の過程は等圧変化であるから

4

4

3

3

V

T

V

T |

4

4

3

3

v

T

v

T

ここで,等圧膨張比(締切比)を

3

4

3

4

T

T

V

V |

3

4

3

4

T

T

v

v

と定義する.

4→5 の過程は断熱変化であるから 1

151

551

44 VTVTVT |

115

155

144

vTvTvT

より 1

11

1

2

1

3

4

1

1

3

1

3

4

1

1

4

4

5 1

V

V

V

V

V

V

V

V

V

V

T

T

もしくは 1

11

1

2

1

3

4

1

1

3

1

3

4

1

1

4

4

5 1

v

v

v

v

v

v

v

v

v

v

T

T

よって

1

11

1

2

2

3

3

4

4

5

1

5 1

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

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27

11

11

2

2

33 TT

T

T

T

TT

よって

11

111

11

11

11

111

1

TT

Tth

サバテサイクルでは理論熱効率は圧縮比,比熱比,等圧膨張比(締切比),圧力比の関数となるこ

とがわかる.

,,,fth

2.6.6 理論熱効率の比較

3つの基本サイクルの理論熱効率を比較すると,次の表のようになる.表からわかるように,

オットーサイクルはサバテサイクルの等圧膨張比(締切比) 1 の場合に一致し,ディーゼルサ

イクルは圧力比 1 の場合に一致する.

オットーサイクル ディーゼルサイクル サバテサイクル

1

11

th 1

111

1

th 11

111

1

th

① 圧縮比および供給熱量が同じ場合

圧縮比が同じ場合,各サイクルの断熱圧縮過程(1→2)における状態変化は同一となる.圧縮

後,同じ供給熱量を与えると,膨張(燃焼)過程(オットー:2→3→4,ディーゼル:2→3’→4’,

サバテ:2→3”→4”→5)はおおよそ図のような変化となる.等容冷却過程(オットー:4→1,デ

ィーゼル:4’ →1,サバテ:5→1)では排出熱量 22 qQ は

11

1414142 T

P

PPncTTncUUQ vv

| 1

1

1414142 T

P

PPcTTcuuq vv

となる.排出熱量は P-V 線図(P-v 線図)の冷却過程における圧力差(オットー: 14 PP ,ディ

ーゼル: 1'4 PP ,サバテ: 15 PP )に比例するから,

ディーゼル>サバテ>オットー

となる.排出熱量の比較は T-S 線図(T-s 線図)の面積(オットー:1 4 b a,ディーゼル:1 4’ b’ a,

サバテ:1 5 b” a)からも確かめられる.

したがって,理論熱効率の式1

21

q

qqth

において,供給熱量 11 qQ は一定であるから,理論熱効

率の値は

オットー>サバテ>ディーゼル

となる.一般に,ディーゼルエンジンの方がガソリンエンジン(オットーエンジン)より燃費が

良いとされる常識に矛盾するように思えるが,これは圧縮比が異なるためである.(実際のエンジ

ンではディーゼルが 16 から 21 に対してガソリンでは約 10)

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 2 章 内燃機関の熱力学 28/85

28

容積 V1V 2V

オットー

1

2

3

5

lossQ

3” 3’

4”

4’

4

ディーゼル

サバテ

エントロピ S

1

2

3

4

温度

T

圧力

P

等容

等容

等圧

3”

4” 3’

4’ 5

a b b” b’

オットー

サバテ

ディーゼル

② 最高圧力および出力が同じ場合

出力が同じ場合,P-V 線図(P-v 線図)および T-S 線図(T-s 線図)においてサイクルが描く面

積が等しくなる.さらに最高圧力が等しい場合,次図のようになる.排出熱量は P-V 線図(P-v

線図)の等容冷却過程(オットー:4→1,ディーゼル:4’ →1)

における圧力差(オットー: 14 PP ,ディーゼル: 1'4 PP )に比例し,T-S 線図(T-s 線図)の面

積(オットー:1 4 b a,ディーゼル:1 4’ b’ a)からも確かめられるように

オットー>ディーゼル

となる.理論熱効率の値は

ディーゼル>オットー

となる.サバテサイクルはその中間となる.

前項でも説明したように,実際のエンジンでは圧縮比がディーゼルエンジンの方がガソリンエ

ンジンより大きい.すなわち,ディーゼルエンジンの方がガソリンエンジンより行程が長くなる

ために熱効率が高くなることが上記の説明からも理解できる.

問題 5 オットーサイクル,ディーゼルサイクル,サバテサイクルの理論熱効率と圧縮比の関

係をグラフで示せ.ただし,κ=1.4,ρ=2,λ=2 とする.圧縮比は 1 から 20 の範囲

とする.

問題 4 κ=1.4,ρ=2,λ=2 のとき,オットーサイクル,ディーゼルサイクル,サバテサイク

ルの理論熱効率の式を求めよ.

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 2 章 内燃機関の熱力学 29/85

29

容積 V1V2V

オットー

1

2

3

lossQ

3’

4’4

ディーゼル

エントロピ S

1

2

3

4

温度

T

圧力

P

等容

等容

等圧

3’

4’

a b’ b

オットー

ディーゼル 2’

2’

2.6.7 理論空気サイクルと実際のサイクルの相違点

理論空気サイクルは基本サイクルを理解する上では便利であるが,実際には存在しない(実現

できない)サイクルである.特に,P-V 線図および T-S 線図における各行程の状態変化は理論空気

サイクルと実際のサイクルでは大きく異なる.異なる原因は,実際にはありえない架空の条件ば

かりでサイクルを考えたことにある.

主な相違点は(テキストも参照)

① 作動流体の組成および温度によって物性値が変化する.(理想気体ではない)

② 流動抵抗が存在する.

③ 燃焼には物理的および化学的に遅れが生じるため,等圧もしくは等容の条件で熱の供給がで

きない.

(P-V 線図および T-S 線図における状態変化には時間的変化が反映できない.オットーサイクルの

等容加熱は状態変化の時間が 0 でないと実現できない)

④ 断熱できない.

⑤ 作動流体の漏れが存在する.

注意: 実際のエンジンでは理論空気サイクルにおけるオットーとディーゼルのようにサイクル

による明確な状態変化の特徴が現れないことに注意すべきである.

2.6.8 燃料空気サイクル

実際のサイクルにより近いサイクルとして燃料空気サイクルを考える.理論空気サイクルに対

して以下の点を考慮したものである.

① 作動ガスの組成

実際のエンジンでは,作動流体の組成および質量が行程内および行程間で異なる.

(ディーゼルでは筒内噴射した燃料の蒸発により,作動流体の組成および質量が行程内でも異な

る.)

そこで,燃料空気サイクルとしてのオットーサイクルでは作動流体を次のように考える.

吸入圧縮行程:空気+燃料+前サイクルでの残留燃焼ガス

膨張排気行程:燃焼ガス

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30

② 熱解離

燃焼によって発生する高温(1400℃以上)雰囲気下では,燃焼反応以外にも熱解離反応が

起きる.これらは吸熱反応のため場の温度を下げる働きがある.燃焼反応と熱解離反応の比

率は雰囲気の温度で異なり,温度が高いほど,熱解離反応が増える.詳しくは第 4 章参照の

こと.

③ 比熱の変化

作動流体は理想気体ではないため,実際には組成および温度によって比熱が変化する.

注意: 燃料空気サイクルは理論空気サイクルよりは実際のサイクルに近いものの,架空のサイ

クルであることには変わりない.

2.7 実際のサイクル

2.7.1 燃料空気サイクルとの相違点

実際のサイクルが燃料空気サイクルと異なる点は次の通りである.

V

理論空気サイクル

1

4

吸気:負圧

P

排気:大気圧以上

実際のサイクル

0

① 吸排気行程における流動抵抗

吸排気管内や吸排気弁回りをガスが流れる際の流動抵抗(空気抵抗)により,シリンダ内

の圧力が吸気行程では負圧(大気圧より低い圧力),排気行程では大気圧より高くなる.

② 燃焼速度

理論空気サイクルと燃料空気サイクルでは瞬間的に燃焼する(燃焼速度を無限大)と仮定

しているが,実際には燃焼速度は有限であるため,燃料が全部燃焼するには時間がかかる.

P-V 線図および T-S 線図は変化に必要な時間が繁栄されていないことに注意が必要である.

例えば,オットーサイクルの等容加熱は状態変化の時間が 0 でないと実現できない.

③ 不完全燃焼

完全燃焼は不可能であり,必ず燃え残り(未燃炭化水素,CO,C など)が発生する.

④ 熱移動

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31

a. 壁面熱損失

シリンダ壁面を断熱することは不可能であり,燃焼時に発生した熱が壁面を通して冷却液

に逃げることになる.

b. 熱交換

吸入行程では低温の新気と高温の残留ガスとの混合で新気が暖められる.また,シリンダ

壁面から新気への熱移動も発生する.

c. 気化熱

ガソリンの場合も,ディーゼルの場合も燃料は液体で供給される.燃料が気化するのに必

要な熱量分発熱量が低下する.

⑤ 作動流体の漏れが存在する.

弁やピストンリングから気体が漏れるため,シリンダ内の作動流体の質量が変化する.

2.7.2 サイクルの比較

① ガソリンエンジンとディーゼルエンジンのインジケータ線図および P-V 線図

ディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりストロークを長くすることにより圧縮比を高めて

いる.その結果,インジケータ線図(P-θ線図)からわかるように圧縮終わりの圧力および燃焼

最高圧力はディーゼルエンジンの方が高くなる.サイクルの状態変化の相違は P-V 線図に良く現

れている.ディーゼルエンジンはガソリンエンジンより強度が要求されるため,構造が丈夫で重

量も重くなる.

例題 どうして初期のエンジンは熱効率が低い?

内燃機関が考え出された最初の頃は,燃焼による熱の供給が緩慢である方が良いと考えられ

たため,等圧燃焼の実現を目指した.シリンダ内の圧力上昇が小さいことが,熱効率が小さい

原因であった.たとえば,ルノワール機関は当初内燃機関として画期的なものであったが,P-V

線図は下図のようなもので,熱効率は 3~4%ときわめて低かった.当然,人々の興味は高効率

のエンジンと移り,改良の歴史が始まることになる.

P

V

膨張

ルノワール機関(1860 年)の P-V 線図

2 サイクル無圧縮,熱効率 3~4%

点火

燃焼

排出 吸入

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32

0上死点

P

クランク角度

P

V

ディーゼルエンジン

180

ガソリンエンジン

ディーゼルエンジン

ガソリンエンジン

② 部分負荷時のインジケータ線図および P-V 線図

設計上の定格回転定格出力における負荷を全負荷(100%Load)と呼ぶ,それ以下の負荷を部分

負荷と呼ぶ.

0上死点

P

クランク角度

P

V

アイドリング

1/2 負荷

全負荷

180

0上死点

P

クランク角度

P

V

アイドリング

1/2 負荷

全負荷

180

アイドリング

1/2 負荷

全負荷

ガソリンエンジン

ディーゼルエンジン

ガソリンエンジンでは,部分負荷時には絞り弁で給気が絞られるため下死点でのシリンダ内圧

力が減少する.インジケータ線図(P-θ線図,ただし,θはクランク角度)からわかるように,

圧縮時の圧力上昇は負荷の減少に伴ってゆるやかとなる.ディーゼルエンジンでは,負荷調整は

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33

燃料噴射量で制御するため,部分負荷時でも圧縮時の圧力変化はほぼ同じである.

2.8 対数 P-V 線図

ポリトロープ変化の式

constPV n

において,両辺の対数をとると,

constVnP loglog

よって,

VxPy log,log

とおけば,

xnconsty

となる.したがって,縦軸に log P,横軸に log V を取ると,圧力と体積の関係は傾き-n の直線

で表される.n はポリトロープ指数で,理想気体の可逆断熱変化では比熱比κに等しく,n=κと

おける.このとき,κは断熱指数とも呼ばれる.そこで,通常の P-V 線図の代わりに対数 P-V 線

図(log P-log V 線図)を用いると,サイクルの圧縮・膨張過程が直線状に表示されるため,サイ

クルの良否を判断する上で都合が良い.

実際の2ストロークディーゼルサイクルの一例を図に示す.圧縮過程および膨張過程における

直線部分の傾きを計測すると,-κよりずれることになるが,これは作動流体が理想気体とは異

なることや気体の漏れが原因である.例えば,ピストンリングの磨耗や排気弁の弁座焼損などに

よるシリンダの気密性低下が発生すると,直線の傾きに変化が現れる.

log V

log

P

対数 P-V 線図 (logP-logV 線図)

膨張過程

V

P

P-V 線図

膨張過程

圧縮過程

圧縮過程

問題 6 理想気体を(V1, P1)の状態から①V2まで等温圧縮,

②V2まで等圧冷却,③P2まで等容加熱させると

き,対数 P-V 線図はどのように表されるか?図に

示せ.ただし,断熱指数は 1.4 とする.

x = log V

y =

log

P

log P-log V 線図

断熱圧縮

1V2

P2

P1

V1

x = log V

y =

log

P

log P-log V の関係

nPV =const

1

-n

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 3 章 出力と効率 34/85

34

第 3 章 出力と効率

3.1 出力と効率

(1) 軸トルク

トルク T は接線方向の力 F に腕の長さ r を掛けたものと定義される.

rFT [N m]

エンジンの役目は出力軸にトルク(回転力)T を発生させることであり,自動車ではこのトル

ク(軸トルクと呼ぶ)を車輪に伝達して走行する.r を車輪の半径とすれば,F は駆動力となり,

軸トルクが大きいほど大きな駆動力が得られことになる.

(2) 仕事率(エンジン出力)

単位時間当たりの仕事は仕事率(=エンジン出力)と呼ばれる.単位はワット[W],もしくは馬

力[PS].(1kW=1.4PS)

半径 r の軸の回転数が n [rpm]のとき,直線に換算すると 1s 間に接線力 F で60

2n

r 移動する仕

事をしたことになる.したがってエンジン出力 L は仕事率の定義より

602602 nTnrFL

となる.

F

r

T

F

r

T

602

nrs 間の移動距離1

3.2 理論仕事,図示仕事,正味仕事

(1) 理論仕事

熱力学的理論サイクル(理論空気サイクル,燃料空気サイクル)において P-V 線図の描く面積

として計算される仕事は,理論仕事と呼ばれる.実際には得ることの出来ない仕事である.

(2) 図示仕事

実際のサイクルにおける P-V 線図はエンジンのシリンダ内圧力の実測データから作成される

(指圧線図と呼ぶ).この P-V 線図の描く面積は実際にエンジン内の作動流体の行った仕事であり,

図示仕事と呼ばれる.

(3) 正味仕事

エンジンの出力軸で実際に計測される出力は,図示仕事よりさらに小さくなる.その原因は部

品同士(例えばピストンリングとシリンダライナ)の摩擦による損失(摩擦損失)である.この

仕事は P-V 線図に描くことは出来ない.

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35

注意:加速時には軸の回転エネルギも動力損失となるが,加速に必要なエネルギは減速時に回収

される.

仕事とエンジン出力の関係

1 サイクルの間にエンジンがする仕事(P-V 線図の描く面積)を W とし,エンジンの回転数を n

[rpm]とする.4 ストロークエンジンでは 2 回転に 1 回の割合,2 ストロークエンジンでは 1 回転

に 1 回の割合で仕事 W を発生するから,1 気筒あたりのエンジン出力は次のとおり

4 ストロークエンジン:12060

1

2

WnnWL

2 ストロークエンジン:6060

1 WnnWL

1 サイクルのエンジンストローク数を i とおくと

2430

orii

WnL

3.3 平均有効圧力

P-V 線図の描く面積を行程容積で割った値を平均有効圧力と呼ぶ.

Smm VPVVPPdVW 21

ただし. SV は行程容積

仕事の種類に対応して,理論平均有効圧力 mthP ,図示平均有効圧力 miP ,正味平均有効圧力 meP の

3 種類がある.

理論仕事 Smthth VPW

図示仕事 Smii VPW

正味仕事 Smee VPW

容積V1V2V

1

2

3

4

オットーサイクル

圧力

P

平均有効圧力

mP

面積等しい

W

W

平均有効圧力とエンジン出力の関係

エンジン出力は次のとおり

4 ストロークエンジン:120120

znVPWnL sm

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36

2 ストロークエンジン:6060

znVPWnL sm

1 サイクルのエンジンストローク数を i とおくと

i

znVPL sm

30

ここで,z はシリンダ数である. sVz はエンジンの総排気量となる.

3.4 熱効率

熱効率はエンジンがする仕事と供給熱量の比である.仕事の種類により次の 3 種類がある.

量理論サイクルの供給熱

理論仕事理論熱効率 th

thW

熱量実際のサイクルの供給

図示仕事図示熱効率 i

iW

BH

LWee

量単位時間当りの供給熱

エンジン出力

熱量実際のサイクルの供給

正味仕事正味熱効率

]W[

ただし,B は燃料消費量[g/s],H は燃料の発熱量[J/g].

3.5 線図係数と機械効率

mth

mi

smth

smi

th

i

P

P

VP

VP

W

W

th

ig

理論仕事

図示仕事線図係数

mi

me

smi

sme

i

e

P

P

VP

VP

W

W

i

em

図示仕事

正味仕事機械効率

3.6 燃料消費率

エンジンの単位出力[W]当りの燃料消費量[g/s]を燃料消費率(燃費率)と呼ぶ.

]W[

]g/s[g/W/s][

L

Bb

エンジン出力

燃料消費量燃料消費率

燃料の発熱量を H [J/g]とすると HBL e より熱効率は

HbHB

Le

1 となる.

参考1: 一般に「あの車は燃費が良い」と言う場合の「燃費」は正確には「走行燃費」のこと

で,燃料1ℓ当りの自動車の走行距離(単位は[km/ℓ])を表す.「走行燃費」はエンジン単体の性

問題 7 4 気筒 2000cm3 の 4 ストロークエンジンが回転数 5000rpm で正味トルク 180Nm を発生

するとき,正味平均有効圧力はいくらか?

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37

能を表すわけではない.同じエンジンでも車体重量の異なる車に搭載すると,走行燃費は異なっ

てくる.

参考2: 一般に排気量の大きなエンジンを搭載する車ほど走行燃費が悪いが,これはエンジン

の熱効率が悪くなるためではない.むしろ,排気量が大きくなるほどエンジンの熱効率は向上す

る.ではなぜ,走行燃費が悪くなるであろうか?それは,排気量の大きなエンジンを搭載する車

ほど車体重量が重くなり,エンジンに余計な仕事を強いるためである.このほか,一般には排気

量が大きいほど高級車であり,走行には無関係で余計な電装品が多くなるため,供給電力として

のエネルギをより多く必要とするからである.

3.7 熱勘定(Heat Balance)

燃料の燃焼によって供給された熱量のうち,動力として取り出せるのは約 30%であり,はるか

に多くのエネルギは利用されずに捨てられることになる.この排熱分は排気損失と冷却損失に分

けられるが,このようにエネルギ間の比率を示すことを熱勘定(ヒートバランス)と呼ぶ.すべ

てのエネルギの間にはエネルギ保存則が成り立たなければならない.

供給熱量(100%)

軸出力(30%):燃焼ガスの仕事

摩擦損失(5%):摩擦による動力損失

排気損失(30%):排気ガスのエネルギ

冷却損失(35%):冷却水へ逃げるエネルギ

参考: 断熱エンジン

ヒートバランスからわかるように,冷却水へ逃げるエネルギを減らすことが出来ればその分だ

問題 8 4 気筒 2000cm3 の 4 ストロークエンジンが回転数 5000rpm で正味トルク 180Nm を発生

するとき,燃料消費量は 7.65g/s であった.正味熱効率および正味燃料消費率はいくら

か?燃料の発熱量は 44kJ/g とする.

排気ガスタービン

燃焼室冷却損失

排気管冷却損失

供給熱量 排ガスエネルギ

冷却損失

排気損失

摩擦損失

軸出力

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38

け軸出力を増やすことが出来る.すなわち,熱効率を大きくすることが出来る.そこで,シリン

ダライナ,ピストン頭部,シリンダヘッドなど燃焼室周りに断熱材としてセラミックスを使用し

た(金属へのセラミックス溶射を含む)セラミックス・エンジンの開発が盛んに行われた時期が

ある.しかし今日に至るまで実用化されたものは見当たらない.その理由は以下のようなもので

ある.

① セラミックスを用いても,完全に断熱化することは出来ず,冷却損失を大幅に低減すること

は出来ない.

② 冷却損失が低減されても,逆に排気ガスの熱エネルギ(排熱)が増加し,冷却損失を減らし

た効果が相殺される.

③ セラミックスと金属の熱膨張率の差が大きすぎる.接合面の膨張差を吸収できないため,使

用中にセラミックスが割れてしまう.また,セラミックスの耐久性に製品のむらが非常に大きく,

品質保障が困難である.

④ セラミックスの加工性が悪く,製造コストが見合わない.

3.8 体積効率と充填効率

ガソリンエンジンでは 1 サイクルに燃焼させる燃料の量を大幅に変更することは容易ではない

ため,出力の調整は回転数で行っている.また,1 サイクルに燃焼させ得る燃料の量はシリンダ

の排気量でほぼ決まるが,厳密にはシリンダ内の新気の量に比例すると言える.吸排気時に前サ

イクルにおける燃焼ガスが排出され,新気がシリンダ内に充填される(ガス交換という)が,そ

の際,シリンダ内は完全に新気に置き換わるわけではなく,燃焼ガスの一部が残ったままとなる.

そこで,シリンダ内に吸入される新気の割合は重要な指標となる.この指標として 4 ストロー

クエンジンでは体積効率 v と充填効率 c が用いられる.

体積効率

s

i

s

iv M

M

V

V

気条件換算)行程体積相当質量(外

吸入新気質量

行程体積

積(外気条件換算)サイクルの吸入新気体

1

体積効率は静的に吸入し得る最大の新気量に対し,実際に吸入された新気量の割合を示す.分

子分母が外気条件に連動するため,外気条件が変わっても同じエンジンなら値が変化しない特徴

がある.

参考: 体積効率が低いと馬力の出ないエンジンとなる.ガソリンエンジンでは部分負荷時に体

積効率が低下する.

充填効率

o

dc M

M

質量(標準状態換算)行程体積相当乾燥空気

燥状態)吸入乾燥空気質量(乾

参考: 充填効率も体積効率と同じ意味であるが,外気条件が変わると値が変わる特徴がある.

標準状態の例: 一口に標準状態と言っても,実は 1 種類ではない.

① 物理学上の標準状態:1atm=1013.25Pa,, 0℃

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39

② 工学上の標準状態:1013.25Pa,, 20℃ ほか種々あり

③ 国際民間航空機関(ICAO)の ICAO 標準大気(1964 年)は,地上では 1013.25Pa, 15.0℃と定

められている.(出典:理科年表)

3.9 掃気効率,給気比,給気効率

2ストロークエンジンでは掃排気の過程がオーバーラップしているため,新気の一部が排気弁

から排出される現象(吹き抜けと呼ぶ)が起きる.そのため,体積効率や充填効率よりも新たな

指標が必要であり,以下の3つがある.

gg

nn

g

n

VM

VM

M

M

の標準状態体積

の標準状態体積

量,シリンダ内の全ガス質

質量,シリンダに残った新気掃気効率 s

掃気効率はシリンダ内の新気の割合を示す.

h

s

h

sd V

VM

M

M

行程体積,

の標準状態体積,

(外気条件),行程体積相当新気質量

量,サイクルの吸入新気質給気比 s1

給気比は体積効率に相当する.

s

nn

s

ntr VM

VM

M

M

の標準状態体積,

の標準状態体積

量,サイクルの吸入新気質

質量,シリンダに残った新気給気効率

s1

1 サイクル中に吸入された新気はすべてがシリンダ内に留まるわけではなく,吹き抜けにより

一部が排気される.給気効率は 1 サイクル中に吸入された新気の内,実際にシリンダに留まった

新気の割合を示すものである.

新気が吹き抜けると,新気をシリンダに送り込むのに必要なエネルギがその分損失となる.し

かし,吹き抜けがないと,シリンダ内に前サイクルの燃焼ガスが残留する結果となり,次のサイ

クルでの燃焼を阻害する原因となる.掃気効率および給気効率が 1 となることが理想ではあるが,

現実には難しい.

一方,NO の発生を抑制する効果を期待して,給気効率を1未満の適当な値に抑えることがあ

る.これは EGR(Exhaust Gas Recirculation,排気ガス再循環)の一種と捕らえることができるので,

内部 EGR と呼ばれる.

吹き抜け新気

シリンダ内の新気, nM

燃焼ガス

1サイクルの吸入新気

sM

2 ストロークエンジンの掃気効率

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40

第 4 章 燃料および燃焼

4.1 石油の組成

一般に内燃機関に用いられる燃料は原油を精製して作られる石油系燃料である.燃焼機器には

内燃機関を含め種々の形式があり,石油系燃料は各機器の燃焼方式に都合の良いように大別され

て製品化されている.ガソリンエンジンには文字通りガソリンというように,エンジンはそのタ

イプによって使用する燃料が決められている.仮にガソリンエンジンにディーゼルエンジンの燃

料である軽油や重油を使用しても,燃料の気化性の違いから正常に燃焼させることは出来ない.

(1) 炭化水素燃料の分類

油田やガス田から採掘される化石燃料(石油,天然ガスなど)は色々な構造を持つ炭素と水素

の化合物(炭化水素と呼ぶ)から成っている.炭化水素は化学構造の違いによって分類される.

(テキスト p.40 参照)

C

H

H H

H

C

H

H H

H

C

H

H

C

H

H

C

H

H

C

H

H H

H

C

H

H

C

H

H

C HH

C

H

H

C

H

H

C

C

C C

C

H

H

H H

H

H

C

C

C

C C

C

H H

H

H

H H

H H

H

H

メタン n-ブタン イソブタン エチレン ベンゼン シクロペンタン

異性体

(パラフィン) (パラフィン) (ISO-パラフィン) (オレフィン) (芳香族) (ナフテン)

(2) 代表的な炭化水素の特徴

① パラフィン系(化学式 CnH2n+2)

直鎖パラフィン系ガソリン:低オクタン価

炭化水素

鎖状炭化水素

C が H で飽和 パラフィン系

直鎖型

側鎖型

不飽和 オレフィン系

アセチレン系

アスファルト系

CnH2n+2

CnH2n+2

環状炭化水素 C が H で飽和

不飽和

ナフテン系

ベンゼン系

ナフタレン系

CnH2n

CnH2n-2

CnH2n-4

CnH2n

CnH2n-6

CnH2n-12

n-パラフィン

iso-パラフィン

問題 9 n-オクタン C8H18とイソオクタン(2,2,4-トリメチルペンタン)

(CH3) 3CCH2CH(CH3) 2 の化学構造式を示せ.

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41

側鎖パラフィン系ガソリン:高オクタン価(良質)

直鎖パラフィン系軽油:高セタン価(良質)

② オレフィン系(化学式 CnH2n)

二重結合1つを持つ炭化水素,天然石油には少量含有

③ ナフテン系(化学式 CnH2n)

シクロペンタン C5H10ほか.二重結合,三重結合を含まない安定な構造

ナフテン系ガソリンは直鎖パラフィン系より良質

④ 芳香族系(化学式 CnH2n -6)

二重結合3つの環状不飽和炭化水素.ベンゼンやトルエンなど.

高オクタン価で燃料として良質.

(3) 石油に含まれる元素の成分

主成分は炭化水素であるが,ほかに硫黄,酸素,窒素,微量の金属を含む.組成は産地によっ

て異なる.

炭化水素はパラフィン CnH2n+2,ナフテン(シクロパラフィン)CnH2n,芳香族 CnH2n -6 からなり,

炭素数は C4から C50まで広く分布する.オレフィンは原油中には存在せず,精製中に生成する.

名称 化学式 状態 状態

メタン CH4

気体

天然ガス エタン C2H6

プロパン C3H8 液化石油ガス

(LPG) ブタン C4H10

ペンタン C5H12

液体

ガソリン

灯油

ヘキサン C6H14

ヘプタン C7H16

オクタン C8H18

ノナン C9H20

デカン C10H22

ウンデカン C11H24

ドデカン C12H26

テトラデカン C14H30

ペンタデカン C15H32

ヘキサデカン C16H34 固体状

オクタデカン C18H38

アイコサン C20H42

n-パラフィン系

名称 化学式 状態

エチレン C2H4

気体 プロピレン C3H6

ブテン 1 C4H8

1 ペンテン C5H10

液体

1 ヘキセン C6H12

1 ヘプテン C7H14

1 オクテン C8H16

1 ノネン C9H18

オレフィン系

名称 化学式 状態

ベンゼン C6H6

液体

トルエン C7H8

エチルベンゼン C8H10

プロピルベンゼン C9H12

ブチルベンゼン C10H14

芳香族系

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42

元素 文献1 文献 2

C 79~88% 82~87%

H 9.5~14% 11.7~14.7%

S 0~4% 0.1~3.0%

O 0~3.3% 0~1.0%

N 0~1.1% 0~1.0%

金属 0~0.1%

(4) 石油蒸留

水は単一成分のため,蒸発し切るまで沸点は約 100℃で一定である.一方,石油は沸点の異な

る多数の成分からなるため沸点は一定せず,溜出(蒸発)に伴って上昇を続ける.沸点の低く,

揮発しやすい成分から順にガソリン,灯油,軽油,重油として製品化される.

0 50 100

100

200

300

400

沸点,℃

留出分,%

ガソリン 灯油 軽油

ジェット燃料

残油

500

600

4.2 ガソリン

ガソリンエンジン用燃料である.

(1) 気化性

燃料の気化性(蒸発のしやすさ)はエンジンの始動性(冷態始動,再始動)と加速性能に影響

する.

① 冷態始動性

低温での気化性不良は,エンジンが冷えた状態(冷態)でエンジンのかかりが悪くなる原

因となる.冷態始動性改善のため極端に低沸点留分を増やすと,ベーパーロックやパーコレ

ガソリン 灯油 軽油 重油 潤滑油

n パラフィン 25 10%

iso パラフィン 25 10%

ナフテン 50 30%

芳香族 無(微少) 少 50%

文献1:小川勝,燃料油及び燃焼,海文堂

文献2:小西誠一,燃料工学概論,裳華房

石油の蒸留曲線

神谷佳男,三訂 燃料と燃焼の化学,大日本図書

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43

ーションが発生する.

② ベーパーロック(蒸気閉塞,vapor lock)

エンジン暖機後にガソリン供給系路(ポンプ,配管,気化器)内部で,ガソリンが蒸発し,

燃料供給が阻害される現象.

③ パーコレーション(percolation)

再始動時,気化器内部でガソリンが沸騰し,吸気マニフォールド内に流れ込んで燃料過多とな

り,再始動できなくなる現象.

(2) アンチノック性

ガソリンエンジンでは,燃焼末期に未燃のガソリン-空気混合気が一挙に燃焼して圧力振動や

騒音を発生することがある.この現象をノック(knock)と言う.ノックが発生すると,熱伝達率

が大きくなるため,部品の末端部分を赤熱させ焼き付きを起こす原因となる.ノックの起こりや

すさ(ノック強度)は一定ではなく,ガソリンの組成によって異なる.ノックの起こりやすさの

指標がオクタン価である.

① オクタン価

n-ヘプタンを 0,iso-オクタン(2,2,4 トリメチルペンタン)を 100 とする.CFR エンジンと呼

ばれる専用の試験エンジンで供試ガソリンのノック強度を測定し,同じノック強度を示す n-

ヘプタンと iso オクタン混合物燃料の iso-オクタン体積割合%をオクタン価とする.値が大き

いほど,ノックが起こりにくい.

② 試験法

CFR エンジンによる試験法にはリサーチ法(F-1 法)とモータ法(F-2 法)がある.

リサーチ法=低速時,モータ法=高速時のアンチノック性

4.3 小型ディーゼルエンジン用燃料(軽油)

ディーゼルエンジンでは燃料が高温雰囲気にさらされたとき,点火源がなくても自然に火が点

く現象を利用するので,燃料の自発点火性(自己着火性)が重要な要素となる.燃料が噴射され

てから燃え始めるまでの時間(点火遅れ,着火遅れ)には燃料の蒸発と燃料蒸気の加熱に必要な

物理的遅れと,化学反応に必要な化学的遅れの 2 種類がある.後者の化学的遅れを表す指標をセ

タン価と呼ぶ.

(1) セタン価

αメチルナフタリンを 0,セタンを 100 とする.CFR ディーゼルエンジンと呼ばれる専用の試

験エンジンで供試燃料の点火遅れを測定し,同じ点火遅れを示すαメチルナフタリン-セタン混

合物燃料のセタン濃度の値をセタン価とする.値が大きいほど点火性(着火性)が良い.

(2) ディーゼル指数

点火性を示すもう一つの指標.試験エンジンでのテストが不要で簡便.

100

API][ GFADI

比重,アニリン点,

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44

アニリン点:供試燃料と同量のアニリンが完全に溶けあう温度 [F]

API 比重 5.131F60

5.141

重における供試燃料の比G

ディーゼル指数とセタン価の比較(西山善忠,燃料油・潤滑油,海文堂)

ディーゼル指数 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100セタン価 18 20 24 28 30 34 37 40 43 46 50 53 56 59 62 65 68 71 75 78 81

4.4 大型低速ディーゼル(重油)

次のように分類される.

(1) 直留重油

常圧および減圧蒸留した後の残油(直留残油)と軽油を混合したもの.混合割合により,A 重

油,B 重油,C 重油に分類される.

(2) 分解重油

直留残油をさらに高圧下で触媒を使って分解し,軽質分(分解ガソリン,分解軽油)を取り除

いた残油(分解残油)と軽油を混合したもの.

(3) 混合重油

直留重油と分解重油を混合したもの

4.5 燃焼反応

(1) 基本反応

石油中には各種の炭化水素や硫黄,窒素などが含まれるが,燃焼によって生じる高温雰囲気下

で種々の物質に分解され,さらに酸素との反応が起こる.燃焼反応の基本となる元素は C,H,S

であり,それらの素反応は石油の燃焼における基本反応となる.反応生成熱は発熱量と呼ばれる.

C + O2 = CO2 + 407 MJ/mol 発熱反応

C + ½O2 = CO + 123 MJ/mol 発熱反応

CO + ½O2 = CO2 + 284 MJ/mol 発熱反応

H2 + ½O2 = H2O + 286 MJ/mol 発熱反応

S + O2 = SO2 + 297 MJ/mol 発熱反応

参考: SO2 はさらに水蒸気と反応して,硫酸を生成し燃焼室を構成する金属を腐食する原因と

なる.

SO2 + H2O = H2SO4

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45

(2) 炭化水素燃料の燃焼反応

OH2

COO4

HC 222n

mn

mnm

発熱反応

(3) 低位発熱量と高位発熱量

水素の燃焼では燃焼生成物として H2O(水蒸気)が得られる.水蒸気(気体)は水(液体)よ

り蒸発潜熱(気化熱)に相当する分エンタルピが大きい.燃焼によって発生する熱(燃焼熱,発

熱量)を動力に変換する際,排気ガスの温度は 100℃以上であるから,H2O は水蒸気のまま排出

され,蒸発潜熱分は利用されずに捨てられることになる.そこで,水の蒸発潜熱分を含む発熱量

を高位発熱量,含まない発熱量を低位発熱量と呼ぶ.

注意: 高位と低位の区別は水素および水素を含む燃料の場合に問題となるのであり.水素を含

まない場合には関係ない.

反応前 H2, ½O2

反応後H2O

エン

タル

(=

エネ

ルギ

レベル)

高位発熱量

時間

低位発熱量

蒸発潜熱

定圧燃焼

(4) 熱解離反応

1400℃以上の雰囲気下では燃焼反応と熱解離反応が同時に起きる.燃焼反応と熱解離反応の比

率は雰囲気の温度で異なり,高温になるほど熱解離反応の割合が増加する.熱解離反応は吸熱反

応で場の温度を下げる働きがある.

燃焼反応: OH2

COO4

HC 222n

mn

mnm

発熱反応

熱解離反応: )kcal67580(kJ282940O2

1COCO 22 吸熱反応

問題 10 空気中で炭化水素 CmHn 1mol を燃焼する場合の化学反応式は,次式となることを示せ.

ただし,空気 1mol は酸素 0.21mol と窒素 0.79mol の混合気体とする.

222 N421

79OH

2CO

421

100HC

nm

nmAir

nmnm

問題 11 オクタン C8H18の燃焼における理論空燃比を求めよ.ただし,空気の酸素と窒素の体

積比は 21:79 とする.

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46

熱解離反応: )kcal57750(J241790O2

1HOH 222 k 吸熱反応

(5) 窒素酸化物の反応

1500℃以上の雰囲気下では,雰囲気中の窒素が酸化して一酸化窒素 NO が生成される.この生

成機構は拡大 Zeldovich 機構と呼ばれる.温度によって正反応と逆反応の反応速度が異なる.

H+NOOHN

O+NOON

N+NOON

f3

r3

f2

r2

f1

r1

2

2

k

k

k

k

k

k

拡大 Zeldovich 機構

NO はエンジンから排出されると空気中の酸素と容易に反応して二酸化窒素 NO2 となる.NO2

は光化学スモッグの原因物質であり,きわめて有害である.

(6) 混合比

① 空燃比,燃空比

空気と燃料の質量比を空燃比と呼び,その逆を燃空比と呼ぶ.

② 理論空気量,理論混合比

燃料が過不足なく完全燃焼するだけの酸素を含む空気量を理論空気量と呼ぶ.また,その場合,

燃料と空気の混合気を理論混合気(量論混合気)と呼ぶ.さらに,理論混合気の混合比を理論混

合比(量論混合比,量論比)と呼ぶ.理論混合比だけでは定義が不明確なため,理論燃空比,理

論空燃比と区別して使用することが望ましい.なお,テキストでは理論混合比を理論空燃比とし

ているが,正確ではない.

③ 当量比,空気過剰率

当量比φは燃料の濃さを表す数値として用いられ,下記のように色々な定義が出来る.当量比

の逆数は空気過剰率λと呼ばれる.

重量完全燃焼できる燃料の

料の重量実際の混合気が含む燃

実際の混合気の空燃比

理論空燃比

理論燃空比

実際の混合気の燃空比当量比

(7) 断熱火炎温度(理論燃焼温度)

周囲が断熱された容器内で燃焼する場合の火炎の温度は(定容燃焼における断熱火炎温度)は

発熱量+反応前の混合気の内部エネルギ=燃焼後の燃焼生成物の内部エネルギ

とおくことで計算できる.

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47

mol 単位での計算を紹介する.(テキストの解説は重量単位でわかりづらい.)

炭化水素 CmHn の化学反応式は

222 N421

79OH

2CO

421

100HC

nm

nmAir

nmnm

発熱量:Hu

初期温度を ti [℃]とすると,反応前の燃料 1mol と空気の内部エネルギはそれぞれ

dtcit

fv0 , , dtcn

mit

av

0,421

100(0℃基準)

となる.ここで,定圧比熱は温度によって変化する関数である.

反応後の温度を tb [℃]とすると,燃焼生成物の内部エネルギはそれぞれ,次のようになる.

CO2: dtcmbt

v0 CO, 2,

H2O: dtcn bt

v0 OH, 22,

N2: dtcn

mbt

v

0N, 2421

79(0℃基準)

よって,関係式は

dtcn

mdtcn

dtcmdtcn

mdtcHbbbii t

v

t

v

t

v

t

av

t

fvu

0N,

0OH,

0CO,

0,

0, 222 421

79

2421

100(0℃

基準)

を満たす tb [℃]が解となる.温度を仮定して上の式の等号が成立するか判定し,成立しないとき

は温度を修正して再度計算するという反復計算を行わないと解に到達しないので,解法のために

はコンピュータプログラミングが必要となる.

(8) 熱発生率

燃焼による単位クランク角度当りの熱発生量を熱発生率 [J/deg]という.熱発生率の時間的変化

(熱発生率パターン)は燃料の燃焼状態を知る上で重要な要素である.

熱力学第 1 法則より

PdVdTncPdVdUdQ v

クランク角度θに対する微分形は

d

dVP

d

dTnc

d

dVP

d

dU

d

dQv

理想気体の状態方程式は

nRTPV

両辺をθで微分すると

d

dVP

d

dPV

Rd

dTn

d

dTnR

d

dVP

d

dPV

1

代入すると

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48

d

dVP

d

dPV

d

dVP

d

dVP

d

dPV

d

dVP

d

dVP

d

dPV

cc

c

d

dVP

d

dVP

d

dPV

R

c

d

dQ

vp

vv

111

1

θを上死点基準のクランク角度とすると,ピストン変位は

22 sincos1rZ

となるので,シリンダ容積 V およびシリンダ容積の角度変化d

dVはθ

のみの関数となり,

c22

c sincos1 VArVAZV

22 sin

cos1sinAr

d

dV

と表される.ただし,ℓ:コンロッド長さ,r:クランク長さ, r :

連かん比,A:シリンダ断面積,Vc:すきま容積.

よって,燃焼圧力 P を計測すれば,圧力の角度変化d

dPが計算でき,さ

らに熱発生率d

dQが計算できる.

問題 12 θを上死点基準のクランク角度とすると,

ピストン変位は

22 sincos1rZ となり,

シリンダ容積の角度変化は

22 sin

cos1sinAr

d

dVとなることを証明せよ.

Z

r

Vc

θ

φ

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 5 章 給排気系統 49/85

49

第 5 章 給排気系統

5.1 ガス交換

エンジンが連続して動くにはサイクルごとに燃焼・膨張行程で生じた燃焼ガスをシリンダ外に

排出し,新気と置換する必要がある.この新気との置換をガス交換と呼ぶ.ガス交換は 4 ストロ

ークエンジンではピストンの動きに応じて,吸気弁および排気弁を開閉して行う.ガス交換では

燃焼ガスと新気が完全に置き換わることが理想であるが,実際には難しい.

5.2 弁の開閉機構(動弁機構)

弁の開閉には通常,カムが使用される.バルブの移動量の変化(揚程曲線,リフト曲線)はカ

ム形状によって決まる.カム形状の差から,接線カム,円弧カム,等速度カムに分類される.

カム軸の回転に伴い,カムに接するタペットが上下し,その動きがロッカーアームを介して弁

に伝えられる.

接線

円弧 円弧 円弧

接線カム 円弧カム 等加速度カム

5.3 弁の開閉時期とバルブオーバーラップ

どのカム形状を用いるにせよ,弁を瞬間的に開閉することは不可能であり,動き出してから全

開もしくは全閉となるまでには時間がかかる.このため,排気弁が完全に閉じてから吸気弁を開

き始めたのではガス交換が不十分となる.対策として排気弁が完全に閉じる前に吸気弁を開き始

める必要がある.排気行程から吸気行程に変わる上死点で排気弁と吸気弁が同時に開いている状

態をバルブオーバーラップ(弁の重合)と言う.オーバーラップ期間を決める際には,気体の圧

縮性により作動流体の流れがバルブのリフトに追従しない点も考慮しなければならない.

等加速度カム

円弧カム

接線カム

リフト曲線

リフ

ト量

角度

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50

排気弁

吸気弁

上死点 上死点上死点 下死点 下死点

0 -180 -360 +360+180クランク角度

吸気弁開

排気弁開

4 ストロークエンジンのバルブタイミング

膨張行程吸気行程 排気行程圧縮行程

オーバーラップオーバーラップ

吸気弁開

排気弁閉

排気弁開

吸気弁閉

吸気弁

排気弁

クランク軸回転方向

排気弁

吸気弁

上死点下死点 下死点

0 -180 +180クランク角度

掃気孔開

排気弁開

2 ストロークエンジンのバルブタイミング

膨張行程圧縮行程

オーバーラップオーバーラップ

掃気孔開

掃気孔開

排気弁閉 排気弁開

掃気孔閉

掃気孔

排気弁

クランク軸回転方向

排気弁開

5.4 慣性効果

吸気行程で吸気弁が開いた際に,シリンダ内に発生した負圧は圧力波となって吸気管内を管入

口方向へ伝播し,管入口で反射して正圧となり逆に吸気弁方向に伝播する.圧力波の伝播速度は

新気の温度における音速であり,圧力波が往復するのに要する時間は吸気管の長さに依存するこ

とになる.正の圧力波は吸気弁入り口の圧力を高める結果となり,新気のシリンダへの流入を促

進する効果がある.このことを慣性効果という.あるエンジン回転数と吸気管長さの組み合わせ

で慣性効果が得られ,体積効率が 1 以上となって過給したのと同じことになる.これを慣性過給

と呼ぶ.しかし,すべての回転数で慣性過給を期待することは困難である.

5.5 2 ストロークエンジンの掃排気

2 ストロークエンジンでは吸気と排気の行程がなく,ピストンが下死点に達した時点ですばや

くガス交換を行わなければならない.このため,2 ストロークエンジンではシリンダ下部に掃気

孔が設けられており,ピストンが下死点に達したとき,掃気孔を通って新気が供給される.掃気

孔から供給される新気もしくは給気方法を掃気と呼び,吸気と区別している.燃焼ガスは掃気孔

とは別の位置に設けられた排気孔から新気によって押し出される(横断掃気,反転掃気).排気孔

の代わりに排気弁を持つタイプ(ユニフロー掃気)もあり,大型舶用ディーゼルエンジンで採用

されている.

ユニフロー掃気ではシリンダ全周から接線方向に新気が流入し,シリンダ内で旋回流を形成する.

燃焼ガスは旋回しながらシリンダ上方の排気弁から押し出されため,排気孔の場合に比較してガ

ス交換がスムーズに行われる特徴がある.しかし,いずれの場合も 2 ストロークエンジンではガ

ス交換の時間が短いため,燃焼ガスを完全に排除することが出来ず残留ガスの影響を受けやすい.

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51

ユニフロー型 ループ掃気型横断掃気型

5.6 掃気ポンプ

4 ストロークエンジンでは,シリンダとピストンがポンプの役割をして燃焼ガスを押し出し,

引き続いて新気を吸い込むため,基本的に新気を加圧する必要はない.一方,2 ストロークエン

ジンでは,新気が燃焼ガスを押し出す役割を持つため,掃気圧力は排気圧力を上回る必要がある.

したがって,基本的に掃気時に新気の圧力を加圧し排気圧力よりも高める必要がある.

小型エンジンの場合,クランク室を密閉するとピストンによって室内が圧縮されることを利用

して加圧する方法があり,クランクケース掃気ポンプと呼ぶ.このほか,クランク軸から回転を

取り出し,ル

掃気ポンプ

自動弁

掃気孔

ーツブロワを駆動するルーツポンプもある.大型舶用ディーゼルエンジンでは後述の過給が一般

的である.

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52

5.7 過給

(1) 過給の原理

エンジン出力は平均有効圧力,排気量,回転数の積に比例する.高出力を得るために排気量を

増やせばエンジン重量も増加することになる.そこで,シリンダ内に加圧された新気を供給すれ

ば,エンジン重量を増加させずに加圧された分排気量を増したのと同じ効果を得ることができる.

加圧された新気を供給することを過給と呼ぶ.過給することにより比出力を上げることが出来る

ので,同一出力ならエンジン重量を低減することが出来る.

過給の特徴

ガソリン ディーゼル

過給されるもの 新気(燃料・空気混合気) 空気

ディーゼルエンジンでは,掃気自体に燃料は含まれないが掃気を過給することでシリンダ内に

より多くの酸素を充填することになり,燃焼できる燃料の量が増えるため,燃料噴射量を増やす

ことにより出力が増加できる.

注: エンジンを軽くするため排気量を減らしても,その分回転数を上げれば出力を同一に保つ

ことが出来るが,回転数上昇には限度があり熱効率の低下の原因ともなり有効とは言えない.

P2 P3P1

無過給状態 過給状態 無過給状態

シリンダ内圧力:P1=P3< P2

シリンダ容積:V1=V2< V3

排気量:VS1<VS2=VS3

1

1

22 SS V

PP

V

V1 V2 V3

過給することで,より大きな無過給エンジン相当の ① 新気を吸込できる. (ガソリン) ② 燃料を噴射できる. (ディーゼル)

VS1 VS2 VS3

(2) 過給方法

① 排気タービン過給機

排気ガスでタービンを回転させ,タービンに直結されたコンプレッサで空気を圧縮する方式の

過給機である.従来は大型エンジンの過給方法であったが,現在では小型エンジンも含め過給機

の主流となっている.応答性は若干劣るが,排ガスのエネルギを利用するのでエネルギ損失なし

に出力の増加が図れる.ただし,エンジンの熱効率を改善できるわけではない.

コンプレッサでは空気が圧縮される際の摩擦熱のため,断熱圧縮より余分に仕事が必要となる.

ポリとロープ指数は n となる.コンプレッサの性能は断熱温度効率 ad で表される. ad は断

熱時の圧縮仕事と実際の圧縮仕事の比で,断熱等エントロピー圧縮 1TTad による温度上昇と実

際の温度上昇 12 TT との比に等しい.ただし,吸入管内と吐出管内の空気温度を 1T , 2T とする.

12

12 '

TT

TTad

実際の圧縮仕事

断熱時の圧縮仕事

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53

タービン側コンプレッサ側

回転方向

回転

燃焼ガス 回転方向

空気

インペラ

排気タービン過給機

log V

log

P

log P-log V 線図

断熱変化

実際の変化

エントロピ S

1

2

T-S 線図

温度

T

1

2 2’

2’

T1

T2

T2’

断熱変化

実際の変化

コンプレッサ出入り口間の状態変化

P2 一定

P1 一定

摩擦熱

摩擦熱

300K での風量 (m3/s)

圧力比

断熱温度効率一定

回転数一定 サージング限界

コンプレッサの性能曲線は,断熱温度効率が一定となる風量と入口出口間の圧力比(P2/P1)の

関係を示し,タービンの性能曲線は排ガス膨張比に対する温度効率の関係を示す.いずれも,効

率が最大となる領域での運転する必要があり,エンジンにとって最適な過給機が採用される.

注)サージング:吸い込み空気量が極端に減少すると,インペラ内部に渦流を生じ激しい圧力振

動が誘起されるため,振動・騒音・回転変動などを引き起こす現象

排ガス膨張比 ター

ビン

断熱

温度

効率

タービン性能曲線

コンプレッサの性能曲線

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54

② 機械駆動式過給機

クランク軸の動力で直接容積型ポンプを駆動するもので,ルーツ式過給機と呼ばれるものが該

当する.過給機の応答性が良い反面,動力損失を伴うので走行燃費の低下を招く.

吸入

吐出

(3) 過給時の P-V 線図の比較

無過給の理論空気サイクルにおけるオットーサイクルが 0-1-2-3-4-1-0 とする.排気ガスタービ

ン過給時,タービンが流動抵抗となって排気圧力が増加するため,サイクルは

0”-0’-1’-2’-3’-4’-1’-1”-0”に変化する.吸排気過程が描く 0-0’-1’-0 はポンプ仕事であるが正の仕事と

なる.このエネルギは排気ガスとして捨てられるエネルギの一部でありエネルギを回収したこと

になる.圧縮膨張過程のする仕事とポンプ仕事の合計がサイクルのなす全仕事となり,熱効率は

若干向上する.

容積V1V2V

1’

2’

3’

4’

過給

圧力

P

2

3

4

10

0’

無過給

0”1”

排気タービン過給

(4) 過給が有効なエンジン

過給はもともと第 1 次世界大戦中に戦闘機の飛行性能向上を目的として,密度の低下する上空

で高出力を得る手段として考案されたものである 1).船舶では第 2 次世界大戦以後,それまでの

蒸気タービン船に変わってディーゼルエンジンが主流となるのに伴って高出力化の目的から一気

に普及した.舶用エンジンや発電用定置型エンジンでは長時間高負荷での運転が行われるため過

給に適しており,エンジンの小型化によりエンジン設置にかかるコストを低減できるメリットが

生じる.

自動車用エンジンでは定置型エンジンと異なり,エンジン自体の移動にも燃料の持つエネルギ

の一部が消費されることになる.高出力で軽量なエンジン,すなわち,出力当りのエンジン重量

ルーツ型過給機

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55

が小さいエンジンの方が走行燃費に有利となる.出力を向上できる過給はまさに打ってつけのよ

うに思える.実際,過給機付きエンジンを搭載した車種は多い.しかし,自動車用エンジンで過

給が有効に使われているかと言えば必ずしもそうではない.

自動車用の場合,市街地走行ではエンジンを高負荷で運転する機会が少ない.たとえば速度規

制や信号,交通渋滞などのため,エンジンは過給されているにもかかわらず新気の供給を制限(絞

って負圧にする)して回転数を下げているのである.もともと低負荷では過給の必要はないわけ

で,特に機械駆動式過給機の場合には過給に費やすエネルギ(燃料)は無駄である.これは窓を

開けてエアコンを掛けながら運転するようなものである.また,排気タービン過給機の場合は排

気ガスのエネルギを利用して駆動するため燃費は若干向上するが車体価格の増加分に見合うかど

うか疑わしい.市街地しか走行しないユーザーには過給はあまり意味がない.

自動車用エンジンで本当に過給が有効となるのは,高速道路走行,坂道登坂,急加速,高地走

行など高出力が要求される場合である.勾配の大きな登坂道路で前方の車を追い越したい場合に

は過給はきわめて有効となる.また,軽自動車の場合エンジンの出力が小さいため,搭乗者が多

くなると加速性能が十分とは言えない.同じ市街地走行でもエンジンが小さいほど高負荷運転の

必要性が増え,過給のメリットが生まれる.この意味から軽自動車のようにエンジンの排気量が

小さくなるほど過給の意味が大きくなる.

絞り弁

T/C

部分負荷時の運転

1) 富塚 清,内燃機関の歴史,三栄書房

問 13 ステップ状のバルブ開閉が不可能な理由を述べよ.

問 14 4 ストロークエンジンの場合,上死点での吸排気のバルブオーバーラップが大きくなる

と,どのような弊害が生じるか?

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 6 章 ガソリンエンジン 56/85

56

第 6 章 ガソリンエンジン

ガソリンエンジン(ガソリン機関)は使用する燃料であるガソリンにちなんだ名称である.点

火に電気火花を用いるので火花点火機関とも言う.

6.1 燃焼の特徴

シリンダ内には気化したガソリンと空気の可燃性予混合気が吸入される.混合気が電気火花で

点火されると電極近傍に発生した小さな火炎核が成長して火炎となり,燃焼室内部を伝播する.

(予混合気中を火炎が伝播する燃焼形態を予混合燃焼と呼ぶ.)

火炎伝播

点火プラグエンドガス

(未燃混合気)

自発点火

ピストン

6.2 ノック

(1) ノックの発生原因

点火プラグで発生した火炎(火炎核)が伝播して燃焼領域が増えるにつれて燃焼室内の温度は

上昇する.温度が燃料の自然発火温度を超えた場合,火炎が到達する前に未燃の燃料が一挙に燃

焼して急激な圧力変動を生じることがある.(この他,デトネーション説がある.)この現象が起

こると,コンコンコンと金属を叩くような音がするのでノック(knock)と呼ばれる.強いノック

が発生すると,ピストンやピストンリングのエッジ部分が赤熱されるため,放置すると焼損や焼

き付きを起こすためエンジンにとって有害である.ノックが発生する場合,インジケータ線図の

燃焼圧力に振動が認められるため,振動の程度によって容易にノックの強度がわかる.

0上死点

P

クランク角度

正常時

ノッキング発生時

+

インジケータ線図 (P-θ線図)

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 6 章 ガソリンエンジン 57/85

57

圧縮比が高くなると,圧縮後の温度が高くなるためノックを起こしやすくなる.エンジンにも

よるが,レギュラーガソリンでは圧縮比 9 程度が限界で,スポーツカー用エンジンのように高圧

縮比の場合,ハイオクガソリンを使用する必要がある.

(2) ノックの抑制

① 燃料

燃料は成分によってオクタン価が異なる.また,添加剤を加えることによってオクタン価を高

めることが可能である.添加剤としては鉛が最も良く,かつては四エチル鉛 Pb(C2H5)4 が用いられ

た.しかし,人体にとって猛毒であること,金属の腐食させること,触媒の活性を弱めることな

どの理由で現在は使用されていない.

現在は MTBE(CH3OC4H9)が加えられることがあるが,オクタン価の高い成分をブレンドしたもの

がハイオクガソリンとして販売される.

② 燃焼室形状

ノックを起こりにくくするには,燃焼を出来るだけ早く完了させることである.そのためには

燃焼室形状はパンケーキ型よりコンパクト型がよい.

燃焼室の耐ノック性を表す指標をメカニカルオクタン価という.値が小さいほど,耐ノック性

が高い燃焼室であることを示す.

メカニカルオクタン価

95 73

6.3 混合気の形成

(1) 気化器

電子制御ガソリン噴射方式が登場するまではガソリンを気化させる方法として最も一般的なも

のであった.

基本的には機械式のため電源を必要としないが,近年では電子制御方式の気化器も登場している.

ベンチュリ管内にノズルを設けガソリンを導いておくと,空気が流れる際ノズル出口が負圧(大

気圧より低い圧力)になるためガソリンが吸い出され,微粒化される.ベンチュリ管を用いるの

は空気流速を増やして負圧を大きくするのが目的である.ガソリン量は空気流速にほぼ比例する

ので,混合気の燃料濃度が常に一定に保たれる.ノズル先端に常にガソリンが供給されるように

フロートで液面が調整される.

問題 15 ハイオク仕様でないエンジンにハイオクガソリンを使用すると走行燃費が向上する

か?

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58

w1

P1 P0

w2

P2 P0 P2P0

Q Q

Q

燃料ポンプへ

フロート

燃料液面

Q 一定→w2>w1→P2<P1

チョーク弁

スロットル弁(絞り弁)

混合気

ガソリン

図で,圧力と流速の関係は

21101 2

1wPP ,

22202 2

1wPP

質量流量一定より

2211 ww

また,

21 ww

より

222122

211 2

1

2

1

2

1wwww

よって

21 PP

このように,ベンチュリーを用いるとより大きな負圧を得られる.

エンジン始動時にはエンジンが冷えているためにガソリンは供給されるものの気化が不十分と

なる.このとき混合気は燃料希薄となって燃焼出来なくなる.エンジン始動時にはガソリンを多

めに供給する必要がある.始動時にチョーク弁を閉じておくと,ピストンの吸い込み作用でベン

チュリ管に大きな負圧を発生する.ガソリンが大量に吸い出され,燃焼可能なガソリン濃度の混

合気が形成される仕組みである.このため,チョーク弁はエンジン始動時にのみ閉じられ,始動

後は全開となる.また,スロットル弁はエンジンに吸入される混合気流量を変更してエンジンの

出力を調整するためのものである.

(2) 燃料噴射

排気ガス浄化に現在最も一般的に用いられる三元触媒では混合気の空燃比を理論混合比から±

0.1 程度の狭い範囲に保たなければならない.この厳しい要求に答える目的から電子制御式燃料噴

射弁が開発された.この方式では各種のセンサからの情報に基づいて燃料噴射量を制御するフィ

ードバック制御方式が採用されている.最も重要な情報は排気ガス中の酸素濃度である.O2セン

サは混合気中に酸素が存在する場合に信号を出力するセンサで,排気管に取り付けられる.O2セ

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59

ンサが反応する場合は混合気が燃料希薄状態にあることを示しているため,燃料噴射を増やせば

よいことになる.しかしながら,O2センサでは燃料過濃側の状態を検出できないため,吸気の流

量・温度・圧力や回転数などの情報も合わせて必要となる.

燃料噴射弁は電磁弁方式でコントロールユニットからの信号によって噴射時間が制御される.

燃料は燃料ポンプによって常に 0.2MPa 程度に加圧されているため,噴射時間で噴射量を制御する

ことができる.燃料噴射弁はシリンダごとに設けられるのが通例で,負荷変動にきめ細かな対応

が可能となっている.

転換率,%

0

100

50

1.00 1.060.94

空気過剰率

理論混合比 希薄側過濃側

NO

HC

CO

3 元触媒の特性

加圧燃料 燃料ポンプ

燃料噴射弁

クランク軸

CPU

弁開閉時期制御信号

空気流量 温度 圧力

回転数

O2 センサ

新気

燃料タンク

6.4 点火装置

圧縮比が 8~10 程度と低いため,ピストンによる圧縮だけでは十分な高温が得られず,燃料に

点火することができない.そのため,コイルによって昇圧された電圧をスパークプラグの電極間

に印加した際に発生する電気火花を用いて点火する.

(1) 火花発生の原理

空気は絶縁体であるが,高電圧を印加すると絶縁破壊を起こして間隙(わずかに離れておいた

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60

2 つの電極)間に火花放電が起きる現象は良く知られている.自然界では雷がそれである.

暗闇で消費電力の大きな電気機器(通電中)のプラグを壁のコンセントから抜くとき,小さな

火花が内部で飛んで少し明るく見えることがある.電気回路には回路内の電流が急激に変化する

とき,その変化に逆らう性質がある.電流が急に遮断されるときには高圧の誘導電圧が発生して

ギャップ間に火花が飛ぶのである.(この火花は電子機器にノイズとなって影響する)

そこで,点火装置では電流遮断時に発生する誘導電圧を,点火コイル(トランスの一種)でさ

らに 10000V 前後に昇圧して点火プラグのギャップ間に火花放電を起こさせるようにしている.

(2) 誘導火花と容量火花

火花には性質の異なる誘導火花と容量火花がある.誘導火花はコイルに蓄えられた電磁エネル

ギが電流遮断時に遮断点に発生する火花で,容量火花はコンデンサに蓄えられた静電エネルギが

放出されて電極間隙に発生する火花で,放電時間が短く,高周波の振動放電となる.

実際の点火回路で発生する火花には先ず容量火花が発生し,引き続いて誘導火花が発生すると

言うふうに容量火花の成分と誘導火花の成分が含まれるため合成火花と呼ばれる注).

注) 熊谷清一郎「燃焼」岩波全書

開く

誘導火花

閉じる

容量火花

誘導火花と容量火花

(3) 点火装置基本回路

火花を発生させる基本回路は図のようなものである.一次側に電流が流れている状態で,コン

タクトブレーカーが動作して一次回路の電流を遮断すると誘導電流が点火コイルの一次側を流れ,

二次側には昇圧された電圧が発生して点火プラグの火花間隙間に火花放電が起きる.

実際の回路ではコンタクトブレーカーをシリンダの回転に同期させ,ディストリビュータを使

って一つの点火コイルでシリンダごとの点火プラグを順番に火花放電させるようになっている.

一次側 二次側

コンタクト ブレーカー

点火コイル

点火プラグ

ディストリビュータ

エンジン回転に連動

点火装置基本回路

(4) 点火率と点火エネルギ

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61

可燃性混合気に火花で点火するとき,火花の周りに出来た小さな火炎(火炎核)が燃焼を継続

できるまでに成長し,やがて燃焼室全体に火炎が伝播する.火花の持つエネルギ(点火エネルギ

と言う)が小さい場合には火炎核は消滅して燃焼を維持できない.点火エネルギが大きくなるに

つれて,点火できる場合と出来ない場合が生じる.点火エネルギが十分大きくなると,例外なく

点火可能となる.このように点火現象は統計的現象であり,火花発生回数に対して点火できた回

数の比率を点火率と呼ぶ.点火装置は混合気に確実に点火するため点火率 100%でなければなら

ないが,点火のために必要なエネルギは損失エネルギであり,少しでも小さい方が望ましい.図

は点火率と点火エネルギの関係を示すが,点火率 100%となる最小のエネルギを最小点火エネル

ギと呼ぶ.最小点火エネルギの値は混合気の燃料濃度で異なる.実験では最小で 0.2~0.3mJ 程度

注)であり,燃料希薄もしくは過濃になるほど大きくなる.実際の点火装置では確実性を期すため,

最小点火エネルギの数百倍のエネルギ 30~100mJ を与えている.

注)最小点火エネルギは電極形状や電極間核によっても異なる.

最小点火エネルギ点火

0

100

点火エネルギ

点火率と点火エネルギの関係

(5) 点火プラグ

点火プラグの重要な要素は熱価,電極間のすきま,電極の太さや形状などで

ある.

① 熱価

点火プラグは中心電極の温度が高すぎると熱面点火を起こし,低すぎるとカ

ーボンが付着し火花の発生を阻害するため,運転中 400~800℃の範囲になるよ

うにする必要がある.中心電極の冷却性能を現す尺度が熱価である.プラグの

熱価エンジン出力や構造などによって選択される.

② 電極間のすきま

電極間のすきまは火炎核の成長に影響し広いほうが有利となるが,放電電圧

が高まるため 1mm 前後が一般的である.逆に電極が接近しすぎると,放電電圧が低くなるが,火

炎核がすぐに消滅し燃焼が継続できなくなる.このときの距離を消炎距離と呼ぶ.

③ 電極の太さや形状

電極の太さは中心電極と接地電極の両方とも細いものの方が少ない点火エネルギで火炎核が確

実に成長することから燃焼に有利であるが,電極の消耗や耐久性に劣る欠点がある.放電電圧の

低減や点火率の向上を目指して,いろいろな断面形状の電極を持つ点火プラグが市販されている

問題 16 市販されている点火エネルギ増加装置を使用すると,ミスファイアがなくなり走行燃

費が向上するか?

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62

が,自動車メーカーは総合的に判断してもっともよい点火プラグを決定しており,指定と異なる

点火プラグに交換しても性能向上につながるとは言えない.

6.5 点火時期の影響

燃焼圧力の変化は点火時期に大きく影響を受ける.上死点で燃焼を開始し瞬間的に最高圧力に

到達することが理想であるが,実際には点火遅れがあり燃焼速度も有限であるため不可能である.

点火時期を早めることを進角と呼び,遅らすことを遅角と呼ぶ.進角・遅角による燃焼圧力の違

いは図のようになる.上死点より少し進角を行った場合に最高圧力が最大となるが,上死点前で

の圧力上昇がブレーキとなって返って熱効率が低下する.進角が大きすぎると最高圧力値は低下

し,熱効率はさらに低下する.遅角した場合も最高圧力値は低下し,熱効率が減少する.このよ

うに熱効率が最大となる点火時期が存在することになる.

0上死点

P

クランク角度

進角・遅角なし 遅角

進角(小)

進角(大)

+

インジケータ線図 (P-θ線図)

6.6 吸入スワール

新気の吸入時にシリンダ内に発生する混合気の流れ(吸入スワール)は燃焼に影響を及ぼすこ

とが知られている.吸気ポートの種類により,発生する吸入スワールの形態が異なるが,主に水

平スワールと縦スワールの 2 種類に大別される.

ダイレクトポート ヘリカルポート 2 バルブポート

水平スワール 水平スワール 縦スワール

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63

第 7 章 ディーゼルエンジン

ディーゼルエンジン(ディーゼル機関)は発明者のルドルフ・ディーゼルにちなんだ名称であ

る.圧縮して点火(着火)することから圧縮点火(着火)機関とも言う.

7.1 燃焼の特徴

シリンダ内には空気のみが吸入される.ピストンにより空気が圧縮され,高温の状態になった

時点でシリンダ内に燃料を噴射すると,形成された燃料噴霧に自然に火が点き燃焼を開始する.

自然に火が点く現象は,自発点火,自己着火,自然発火などと呼ばれる.燃料噴霧が燃える現象

は噴霧燃焼と呼ばれ,拡散燃焼の一種である.自発点火が起こる温度は燃料によりおおむね決ま

っており,その温度に達するようにディーゼルエンジンの圧縮比はガソリンエンジンの場合(通

常 8~10)よりも高く(通常 16~21)しなければならない.

注) 英語の「ignition」に相当する訳語として,「点火」,「着火」,「発火」の三つがある.一つの

現象を表す言葉が英語には一つしかないのに日本語には三つも存在するのは不思議であるが,そ

の理由は判然としない.一般に「点火」,「着火」は機械系の人が多用し,「発火」は化学系の人が

用いるようであるが,使い分けについては燃焼関係の研究者でも様々な意見がある.「点火」,「着

火」に対する一例を示す.

① 気体もしくは可燃性予混合気への ignition は「点火」,液体燃料や固体燃料への ignition は「着

火」とする.その意味で,ガソリンエンジンではガソリンと空気の混合気が燃えるから「点火」,

ディーゼルエンジンでは液体燃料噴霧が燃えるから「着火」を使う.

② 「点」は他動詞,「着」は自動詞と考え,「点火」は火をつける意味,「着火」は火がつく意味

に用いる.その意味で,ガソリンエンジンでは可燃性混合気に火を強制的につけるから「点火」,

ディーゼルエンジンでは液体燃料噴霧が自ら自然に燃えるから「着火」を使う.

①②のいずれもガソリンエンジンは「点火」,ディーゼルエンジンでは「着火」との結論になる

ことから,内燃機関の教科書でもそのように使い分けるものが多い.面白いのは,「圧縮点火」と

「圧縮着火」という用語があるのに,「圧縮発火」という用語が文献に見当たらないことである.

先に述べたように「発火」は化学的用語で,ディーゼルエンジンに関心のある化学系の人が少な

いからかも知れないが定かではない.一方,「自然発火」と言うのは火災でも問題になり化学系に

とって関心が高い現象である.

以上の説明に疑問点を指摘するのは容易である.液体燃料の燃焼では,実際には気化した燃料

と空気の可燃性予混合気に火が点くのであり,現象的には気体の燃焼と本質的に変わらない.辞

書を見ると,「点」には自動詞,他動詞両方の意味があり,「着」も同様であるから上記の①②の

使い分けはどちらも科学的論理的に正しいかと言われれば,疑問が残る.なによりも英語には一

語しかないことの意味は重要である.

7.2 ディーゼルノック

(1) ディーゼルノックの発生原因

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64

燃料噴射開始から燃焼が始まるまでには何らかの遅れ時間(点火遅れ,着火遅れ)が存在する

が,この遅れ時間が長くなると,点火直後にそれまでに気化した燃料と空気の混合気が一挙に燃

焼して急激な圧力上昇をもたらす.この現象をディーゼルノックと呼ぶ.

(2) ディーゼルノックの抑制

ディーゼルノックは燃料の性状に起因する要素が強い.通常,適切な燃料を使用すれば発生の

心配がないので,仮にディーゼルノックが起きたとすると,使用燃料のセタン価が不適切である

ことが原因である.粗悪な燃料が軽油に混入された可能性もある.ディーゼルノックに影響する

燃料の点火遅れ時間は燃焼場の温度によって変化するので,セタン価の低い燃料に対応するには

設計時点で高圧縮比とする必要がある.

7.3 燃料噴射系

ガソリンエンジンではガソリンと空気の混合気が燃焼するのと対照的に,ディーゼルエンジン

では噴射した燃料を高温高圧空気中で燃焼させる.噴射された燃料は微粒化されて集団(噴霧)

となって火炎(噴霧火炎)の中を運動(飛行)する.噴霧中の液滴は蒸発しながら直径を減少さ

せるとともに,急激に減速して行く.液滴の蒸発に影響する因子は初期直径,燃焼室温度などで

ある.初期直径が小さいほど,蒸発時間が短く貫通力も小さくなる.

液滴直径,噴霧角度,貫通力などは噴霧特性と呼ばれ,質量燃焼速度(単位時間に燃焼する燃

料の質量)に影響を与える因子として重要である.噴霧特性は燃料の粘度と噴射圧力によって異

なる.例えば,液滴の初期直径は噴射圧力が高圧になるほど小さくなる.

自由な空間で燃焼する噴霧火炎と異なり,エンジン燃焼室は限られた空間のため噴霧火炎が燃

焼室壁面に干渉しないように噴射方向や噴射系のスペックを決定する必要がある.とりわけ,重

油を燃料とする大型ディーゼルエンジンでは燃料の蒸発性が悪いため蒸発しきらないうちにピス

トンクラウンやシリンダライナに衝突することがあるので,噴射系スペックの最適化が常に問題

となる.一般に,微粒化の促進と飛行速度の急激な減少を期待して噴射圧力は高圧化の傾向にあ

り,噴射圧力は小型エンジンでは 20MPa,大型エンジンでは 100MPa を超えるものもある.

燃料蒸気液滴

拡散火炎

噴射ノズル

噴霧角

予混合火炎

周囲空気の流入

(1) 燃料噴射ポンプ

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65

燃料噴射系は燃料噴射ポンプと燃料噴射弁からなる. 注射器の原理で燃料を送り出すもので,

エンジンの回転に連動してシリンダ内をプランジャが往復運動し,間欠的な吐出が可能なように

工夫がなされている.

ボッシュ式燃料噴射ポンプがもっとも一般的で,その動作の仕組みは次の通りである.

燃料吐出

燃料供給 燃料排出

バレル

プランジャ

ラック

ピニオン

特徴

① エンジン負荷に関係なく,プランジャのストロークは一定.

② 部分負荷時にはラックを移動し,ラックと一体となったバレルを回転することにより吐出期

間を調整する.

(2) 燃料噴射弁

図の 3 種類がある.いずれも,燃料溜りの圧力が増加すると,ばねの押し付け力に逆らって針

弁が弁座から離れ噴孔から燃料が噴射される.多噴孔ホールノズルでは噴孔数分の独立噴霧が形

成され,ピントルノズルとスロットルノズルでは円錐状の単一噴霧が形成される.大型ディーゼ

ルエンジンでは多噴孔ホールノズルが用いられる.スロットルノズルでは針弁先端のテーパ部の

影響で針弁リフトが小さい内は噴孔開口面積を抑えることが出来る.初期噴射量を減らし,ディ

ーゼルノックの低減に効果がある.

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66

多噴孔ホールノズル ピントルノズル スロットルノズル

7.4 燃焼室形状

(1) 直接噴射式燃焼室

① 燃焼室形状

主にピストンクラウンに種々の形状の燃焼室(キャビティー)を設けたもので,燃料は燃焼室

に直接噴射される.

皿形 半球形 ハート形 ハート形 球形

② シリンダ内ガス流動

噴霧燃焼を促進したり,ガス交換を円滑に行う目的から,シリンダ内にスワールやスキッシュ

などのガス流動を利用することがある.スワールは吸気もしくは掃気時にシリンダ内に流れ込む

新気に接線方向の速度を与えることで実現する.スワールの強さは流入時の新気の速度に依存し,

ピストンクラウンのキャビティーの有無に関係がない.スキッシュはピストンが上死点に近づく

とき,ピストン外周部で圧縮された気体がキャビティーに流れ込むために発生する流れである.

スキッシュの強さや流れの様子はキャビティーの形状で異なり,ピストン頭部が平坦な場合には

発生しない.

スワール

スキッシュ

キャビティー

スワールの程度はスワール比で表す.

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67

n

ns

クランク軸回転数

スワール回転数スワール比=

スワールの強さによって,噴霧火炎形状は下図のように変化する.あまり強すぎると,隣り合う

噴霧の火炎や燃焼ガスが互いに干渉して燃焼に悪影響を及ぼすとされ,スワール比は1~3 が適

当である.

(2) 副室式燃焼室

主燃焼室とは別に小さな副室を設け,そこに燃料噴射する方式.圧縮行程のピストンの動きで

副室内にはガス流動が発生するのでスワールを必要としない.

① 予燃焼室式

予燃焼室と主室を小さな孔(連絡孔)で隔てる.予燃焼室の容積はすきま容積の 30~40%.連

絡孔の面積はピストン面積の 0.4~0.6%.予燃焼室内に燃料を噴射すると,空気不足のため燃料

は燃え切らず,連絡孔から燃料蒸気と燃焼生成物が主室に噴出する.燃料弁にはスロットルノズ

ルが用いられる.

② 渦流室式

球形に近い形状の渦流室の容積はすきま容積の 50%以上.渦流室の接線方向に連絡孔を設ける.

連絡孔の面積はピストン面積の 0.9%程度.ピストンの動きで副室内には強い渦流が発生する.予

燃焼室式と同様に空気不足のため副室だけでは燃料は燃え切らず,連絡孔から燃料蒸気と燃焼生

成物が主室に噴出する.燃料弁にはスロットルノズルが用いられる.自動車用エンジンによく用

いられる.

渦流室式 予燃焼室式

グロープラグ 渦流室

予燃焼室

燃料弁

問題 18 ディーゼルノックとガソリンエンジンのノックとの相違点を述べよ.

問題 17 ディーゼルエンジンの燃焼とガソリンエンジンの燃焼との相違点を述べよ.

スワールなし スワール弱 スワール強

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68

第 8 章 冷却と潤滑

8.1 冷却(Cooling)

(1) 目的

燃焼ガスの最高温度は金属の融点を超える 2000℃以上となる.冷却を行わないと,燃焼ガスに

直接接触する金属部分が赤熱状態となり,やがて焼き付きを起こしてエンジンの重大な損傷につ

ながる.冷却の目的はシリンダやピストンを適正な温度に保つことであるが,具体的には以下の

目的がある.

① 金属部材(シリンダヘッド,ピストン,排気弁など)の溶損,焼き付き,変形,亀裂の発生

防止

② ノッキングの防止

③ 潤滑不良(油膜切れ,境界潤滑[金属同士が直接接触し合うこと])の防止

④ 潤滑油の燃焼防止

⑤ エンジンの信頼性,耐久性,寿命の向上

(2) 伝熱の基礎式

燃焼ガスから燃焼室壁を介して冷却液への熱が移動する.このような伝熱は熱通過と呼ばれる

が,詳細に見れば燃焼ガスから燃焼室壁面へは熱伝達,燃焼室壁内部は熱伝導,燃焼室壁面から

冷却液へは熱伝達により熱の移動が起きている.

冷却液熱伝達

Tg

Tw

T1

T2

Q

Q

燃焼室壁

δ

Q

αg

αw

燃焼ガス

熱伝達

熱伝導

熱通過率 k[W/m2/K]は,(平板の場合)

wgk

111

通過熱量 Q[W/m2]は

wgggwg TTTT

TTTTkQ

121

1

熱伝導率λは 40 W/m2/K(鋳鉄),冷却液側熱伝達率αwは 5000~6000 W/m2/K.ガス側熱伝達率

αgは以下の実験式が提案されている.

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 8 章 冷却と潤滑 69/85

69

① ヌッセルトの式(ボンベ実験)

wg

wgmgg TT

TTCTP

443/13/2 100100421.0

24.11054.0

P:作動ガス圧力[kPa], Tg:作動ガス温度[K], Tw:冷却液温度[K],

Cm:平均ピストン速度[m/s]

② アイヘルベルグ(Eicherberg)の式(2 ストロークディーゼル機関の実験)

3/12/1247.0 mgg CTP

最大値,約 800 W/m2/K

③ ボッシニ(Woschini)の式

525.0786.0214.03.12 TPCD mg

D:シリンダ直径[m]

値,約 300 W/m2/K 程度

(3) 冷却法

① 空冷(direct cooling, direct air cooling)

シリンダに設けた冷却フィンに空気を直接あてて冷却する方式.

② 水冷(indirect cooling, water cooling, liquid cooling)

シリンダ周りにジャケットを設け,ジャケット内の冷却液が奪った熱をラジエータで大気に放

熱する方式.

8.2 潤滑(lubrication)

(1) 目的

摺動面に油膜を形成することにより,以下の効果を得ることを目的とする.

① 金属磨耗の低減

② 摩擦損失の低減

③ 摩擦熱の除去,焼き付き防止

④ 燃焼生成物(カーボン,スラッジ),金属磨耗粉の摺動面からの除去

(2) 潤滑の種類

① 流体潤滑

摺動面の油膜が十分な厚さと粘度を持つとき,摺動により油圧が発生して金属面同士の直接接

触を防ぐことが出来る.このときの潤滑は流体潤滑と呼ばれる.

熱放射項

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70

摩擦係数,

f pn

境界潤滑 流体潤滑

μ:油の粘度,n:回転数,p:軸受荷重

② 境界潤滑

油膜の厚さが極端に薄い場合,金属面同士の直接接触が起こり,摩擦係数の増大,金属磨耗の

増加,局所的な温度上昇,焼き付きなどの原因となる.このときの潤滑は境界潤滑と呼ばれる.

(3) 潤滑方式の種類

① 湿式潤滑

クランク室底部に潤滑油を溜める方式.ポンプで強制的に潤滑油を摺動部に供給する「強制給

油方式」と,油かきで潤滑油を跳ねかける「はねかけ潤滑方式」がある.

② 乾式潤滑

クランク室底部に潤滑油を溜めない方式.

(4) 潤滑油の条件

潤滑油に要求される点は次の通りである.

① 低温で高粘度とならないこと

② 高温で低粘性とならないこと

③ アルカリ性であること

油は一般に低温では高粘度で,加熱するにつれて粘度が低下する.低温での粘性が高すぎると,

冷態時からの始動性が悪くなり,寒冷地で特に問題となる.高温で粘度が必要以上に低下すると,

潤滑性が悪化し,最悪の場合焼き付きの原因となる.

(5) 潤滑油の SAE 分類(SAE=The Society of Automotive Engineers,全米自動車技術者協会)

粘度範囲によって 0W から 60 まで 11 種類ある.W は Winter の略で,低温用である.液体共通

の性質として,温度が高くなると粘度が低下する性質を持つ.粘度の減少率は潤滑油によって異

なる.粘度特性を表すため,低温 0F(-17.8℃)と高温 210F(98.9℃)の2つの温度における粘度

から 10W-30 のように呼ばれるマルチグレードオイルと高温か低温のどちらかだけ規格値を満足

するシングルグレードオイルがある.

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 8 章 冷却と潤滑 71/85

71

0F(-17.8℃) 210F(98.9℃)

5W 4000(8609)以下

10W 6000(1303)~12000(2606)

20W 12000(2606)~48000(10423)

20 45(5.73)~58(9.62)

30 58(9.62)~70(12.93)

40 70(12.93)~85(16.77)

セイボルト粘度(秒),カッコ内はcStSAE No.

SAEによる粘度分類

(6) 潤滑油の API 分類(API=American Petroleum Institute,米国石油協会)

サービスステーションオイル(ガソリンエンジン用)とコマーシャルオイル(ディーゼルエン

ジン用)がある.前者は S で始まり,後者は C で始まる記号が用いられる.

用途 記号 説明SA 無添加純鉱物油SB 添加油SC 1964~1967年式エンジン用SD 1968年式以降のエンジン用SE 1971の一部と1972年式以降のエンジン用SF 1980年式以降のエンジン用SG 1989年式以降のエンジン用CA 軽度~中程度のディーゼルエンジン用CB 軽度~中程度のディーゼルエンジン用CC 軽度過給ディーゼルエンジン(中程度,過酷運転用)CD 過給ディーゼルエンジン(高速・高出力運転用)CE 1983年式以降の過給ディーゼルエンジン(低速高荷重・高速高荷重運転用)

ガソリン用

ディー

ゼル

APIの分類表

(7) 潤滑油の種類と添加剤

潤滑油は,ベース油である石油系鉱物油に表のような種々の添加剤を配合したものである.鉱

10000

5000 3000 2000

1000

30 20

10 5

0F 210F温度

粘度

,cS

t

20W

10W

5W

#20#30#40#5010W-30

マルチグレード

オイル

#30シングルグレード

オイル

-30 -20 -10 0 10 20 30 -30 -20 -10 0 10 20 30

5W-205W-30

10W-30

10W-40 10W-50

15W-40 15W-50

30 20W-40 20W-50

-30 -20 -10 0 10 20 30

外気温度,℃

外気温度と適正潤滑油

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 8 章 冷却と潤滑 72/85

72

物油には産地によりパラフィン系とオレフィン系がある.オレフィン系は燃焼性がよく,スラッ

ジの堆積を生じにくい.パラフィン系は潤滑油の消費が少なく,燃焼室の機密性保持に優れる.

添加剤の目的は潤滑油の変質防止と潤滑性能向上にある.

添加剤 機能

磨耗防止剤酸化防止剤

磨耗防止軸受け腐食防止酸化防止

金属系清浄剤過塩基性

高温ワニス生成防止酸中和

塩基性清浄性向上さび防止

無灰分散剤スラッジ分散性低温スラッジ生成抑制

無灰酸化防止剤 酸化防止粘度指数向上剤 粘度-温度特性流動点下降剤 流動点降下消泡剤 泡立て防止磨耗調整剤 磨耗低減

注) スラッジ: 潤滑油が高温ガスに接して変質したり,すすやごみを含んで高粘度の物質と

なったもの.

(8) 潤滑油の寿命

潤滑油はエンジンの運転時間に比例して劣化し,放置すれば要求される性能を発揮できなくな

る.劣化の原因と影響は以下のものである.

劣化原因 影響

① 燃焼残渣物の混入 スラッジ生成.粘度の増加.潤滑性悪化

② 金属粉の混入 潤滑性悪化

③ 潤滑油自体の変質・酸化 スラッジ生成.粘度の増加.塩基度の低下

④ 添加剤の消耗 寿命の減少

⑤ ガソリンの混入(ガソリンエンジンの場合) 粘度の低下

問題 19 自動車のエンジンで冷却が必要な理由を述べよ.

問題 20 自動車用エンジンオイルに要求される性能について述べよ.

問題 21 自動車用エンジンオイルに添加剤を加える理由を述べよ.

問題 22 自動車のエンジンオイルの交換時期はいつ? また,その根拠は何?

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 9 章 排ガス浄化 73/85

73

第 9 章 排ガス浄化

9.1 排気ガス成分と有害性

エンジンから排出されるガスには下表のような種類がある.このうち,ガソリンエンジンで特

に問題となるのは,CO,HC,NOxの 3 種類である.ディーゼルエンジンで特に問題となるのは,

NOx,SOx,PM の 3 種類である.

エンジンの燃焼室内部で生じる窒素酸化物はほとんど(約 95%)が一酸化窒素 NO である.NO

は新気に含まれる N2 が高温状態で酸素と反応することによって生じる(サーマル NO と呼ぶ).

このほかにも燃料に含まれる N2が発生原因となることもある(フューエル NO と呼ぶ).ただし,

NO がエンジンから排出されると,空気中の低温雰囲気において容易に酸化して二酸化窒素 NO2

となる.NO は高温かつ酸素過多の条件で発生しやすく,一方,HC と CO は酸素不足の条件で発

生しやすいことから,発生原因は相反しており,対策が厄介なものとなっている.

硫黄酸化物 SOxは燃料に含まれる S が酸素と反応することによって生じる.生成される SOxは

高温雰囲気中でさらに水蒸気と反応して硫酸 H2SO4 を生成する.すすは粒子状物質 PM(および

浮遊粒子状物質 SPM)の代表例である.

◎:影響の大きな成分

成分名

化学

記号

ガソ

リン

ディー

ゼル 発生原因 有害性

二 酸 化

炭素 CO2 ◎ ◎ 炭化水素の燃焼 地球温暖化の原因物質

水蒸気 H2O ○ ○ 炭化水素の燃焼

水素 H2 △ △ 燃料の熱分解

窒素 N2 ○ ○ 新気中の N2

水素 H2 △ △ 燃料の熱分解

一 酸 化

炭素 CO ◎ △

混合気の酸素不足

(燃料過濃)

血液中のヘモグロビン(血色素)と

結合して酸素の運搬を阻害する.臓

器に酸素が供給されなくなり,死に

至らしめる.

酸素 O2 △ ○ 混合気の酸素過多

(燃料希薄)

炭 化 水

素 HC ◎ ○

不完全燃焼,ミスフ

ァイア,壁面での消

光化学スモッグの原因物質.

窒 素 酸

化物 NOx ◎ ◎

新気中の N2 が高温

状態で反応

光化学スモッグ,酸性雨(硝酸)の

原因物質.呼吸器系への障害.目の

粘膜を刺激.

硫 黄 酸

化物 SOx ◎ 重油中の S が燃焼 シリンダライナの腐食,以上磨耗

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 9 章 排ガス浄化 74/85

74

粒 子 状

物質 PM ◎ 燃料の不完全燃焼 発がん性.呼吸器系への障害.

未燃分 SOF ○ 燃料,潤滑油の未燃

PM:粒子状物質 Particulate Matter,(PM が凝集して「すす」となる.組成は C:H=5:2)

SPM:浮遊粒子状物質 Suspended Particulate Matter

SOF:燃料,潤滑油の未燃分 Soluble Organic Fraction

9.2 ガソリンエンジンの排気浄化対策

(1) 排気ガス再循環,EGR(Exhaust Gas Recirculation)

一酸化窒素 NO を低減する方法として,燃焼温度を低下させ,N の反応を抑制することが効果

的である.EGR を行うと燃焼が抑制されて場の温度を下げる効果があり,NO の低減方法として

有効である.しかし,EGR のみでは規制値をクリアできないため,次項の触媒と組み合わせて用

いられる.

(2) 三元触媒

NO を低減するため,燃焼温度を下げたり酸素濃度を減らしたりすると,逆に HC や CO が増加

するという逆効果を生じる.NO と HC もしくは CO はトレードオフの関係にある.発生側の燃焼

系の改善だけでは限界があり,現在では排気ガスを触媒で還元する方法が採用されている.触媒

は白金 Pt,ロジウム Rh,パラジウム Pd などの貴金属が,酸素が存在する場合には CO,HC を酸

化させ,酸素不足では NO を還元する性質を利用している.触媒には色々な種類があるが,現在

用いられるのはほとんどが三元触媒と呼ばれるもので,NO,HC,CO を同時に浄化する働きがあ

る.ただし,浄化率(転換率)にはウィンドウがあり,排気中の酸素濃度は 0.2%付近に制御する

ことが必要.このため,触媒入口には O2センサを取り付け,電子噴射制御システムにフィードバ

ックして空燃比の制御することが不可欠となる.

(参考:村山,常本,自動車エンジン工学,山海堂)

転換率,%

0

100

50

1.00 1.060.94

空気過剰率

理論混合比 希薄側過濃側

NO

HC

CO

3 元触媒の特性

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75

反応式

2222

NOHCOO

NO

HC

CO

ただし,NO は還元反応,CO と HC は酸化反応が行われる.

OHCO2O42HC

CO2O2CO

ON2NO

222

22

22

9.3 ディーゼルエンジンの排気浄化対策

ディーゼルエンジンでは排気ガスに酸素が多く含まれるため,三元触媒では NO の浄化が出来

ない.また,触媒そのものが高温となって溶融や急激な劣化が起こること.PM が触媒を目詰ま

りさせるなどの弊害が起きる.対策は以下のとおり.

(1) NO の低減

① 燃料の対策

水エマルジョン化を行う.

② 燃焼系の対策

・ 燃焼温度を低下させるため吸気冷却,噴射時期遅延,水噴射などを行う.

・ 酸素濃度を低下させるため,排気再循環(EGR)を行う.

③ 排気系の改善

還元触媒を用いる.

(2) HC の低減

① 燃焼系の対策として,

・ 燃焼温度を上昇させるため圧縮比増大,吸気過熱,噴射時期遅延,水噴射などを行う.

・ 噴射系を改善するため高圧噴射を行う.

②排気系の改善として,

酸化触媒を用いる.

(3) SOxの低減

燃料の低サルファ化を行う.

(4) PM の低減

① 燃焼系の対策

① 充填効率を向上するため,過給を行う.

② 混合を促進するため,スワール比の増大,高圧噴射,噴射期間の短縮などを行う.

② 潤滑系の対策

潤滑油消費量を低減する.

③ 排気系の対策

フィルタを使用する.

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 9 章 排ガス浄化 76/85

76

9.4 排出ガス規制

9.4.1 ガソリンエンジンの排気ガス規制

1940(昭和 15 年)年代:ロサンゼルスで光化学スモッグ多発(その原因が自動車排ガスと判明)

1950(昭和 25 年)年代:アメリカで排ガス浄化触媒の研究

1960(昭和 35 年)年代:モータリゼーションが本格化

1966(昭和 41 年):カリフォルニア州で自動車排ガス規制施行,東京都“環 7 ぜんそく”問題化

1968(昭和 43 年):大気汚染防止法(CO のみ)施行

1970(昭和 45 年):5 月,東京都新宿区牛込柳町の鉛中毒事件

7 月 18 日,東京都杉並区の私立立正高校で,日本初の光化学スモッグの被害発生

12 月,米議会でマスキー法成立

1972(昭和 47 年):環境庁,マスキー法実施決定

1975(昭和 50 年):日本,昭和 50 年規制実施(CO,HC90%低減,NO 半減)ガソリン無鉛化

1976(昭和 51 年):日本,昭和 51 年規制実施(酸化触媒を搭載した自動車が走り出す)

1978(昭和 53 年)以降:日本,昭和 53 年規制実施(CO,HC,NO90%低減),54,56,57,63 年規制実施

1989(平成元年):ヨーロッパでも排ガス規制,日本,平成元年,2 年,4 年規制実施

1992(平成 4 年):日本,排出ガス試験法を 10 モードから 10・15 モードに変更(表 9 参照)

1994(平成 6 年)以降:日本,平成 6 年,7 年,10 年,11 年,12 年,13 年,14 年規制実施

2005(平成 17 年):日本,排出ガス試験法をコンバインモード(10・15+11 モード)に変更.

表 9.1 ガソリン車排ガス規制の変遷(型式あたりの平均値)

西暦 1961 1963 1965 1966 1967 2000 2005 2009年号 S48 S50 S52 S53 S54 H12 H17 H21CO, g/km 18.4 2.1 ← ← ← 0.67 1.15 1.15HC, g/km 2.94 0.25 ← ← ← 0.08 0.05 0.05NOx, g/km 2.18 1.2 0.6 0.25 ← 0.08 0.05 0.05PM, g/km - - - - - - - 0.005運転パターン 10 mode 10・15 mode Combine

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 9 章 排ガス浄化 77/85

77

ガソリン乗用車排ガス規制値の変遷(環境省の資料より)

9.4.2 自動車用ディーゼルエンジンの排気ガス規制

1965(昭和 40 年)頃~:スモーク濃度を 50%以下に制限

1979(昭和 54 年):日本,昭和 54,57,58 年規制

1986(昭和 61 年)以降:日本,乗用車は排出ガス試験法を 6 モードから 10 モードに変更,61,63 年,平

成元年,2 年規制実施

1992(平成 4 年):日本,自動車 NOx 法施行.4 年,5 年規制実施

1994(平成 6 年):日本,トラックは排出ガス試験法を 6 モードから 13 モードに変更

濃度規制から重量規制 g/(kW・h)へ,スモークは 40%以下(マンセルマン法)

1997(平成 9 年)以降:日本,平成 9 年,10 年,11 年規制実施

2001(平成 13 年):日本,自動車 NOx・PM 法施行.14, 15, 16 年規制実施

2005(平成 17 年):日本,排出ガス試験法をコンバインモード(10・15+11 モード)に変更.

2009(平成 21 年):日本,ディーゼル車は排ガス中の粒子状物質(PM)をほぼゼロに(予定)

2015(平成 27 年):日本,3.5 トン超 20 トン超まで 11 段階の燃費規制,2002 年度比でトラック 12.2%,バ

ス 12.1%の燃費改善(予定)

表 9.2 ディーゼル小型乗用車(新車)の排ガス規制 表 9.3 NOx・PM 法

西暦 1986 1997 2002 2005 2009年号 S61 H9 H14 H17 H21CO, g/km 2.1 ← 0.63 0.63 0.63HC, g/km 0.4 ← 0.12 0.024 0.024NOx, g/km 0.4 0.28 0.14 0.08PM, g/km 0.08 0.052 0.013 0.005運転パターン Combine10・15 mode

西暦 2000年号 H12CO, g/kmHC, g/kmNOx, g/km 0.48PM, g/km 0.055運転パターン

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 9 章 排ガス浄化 78/85

78

ディーゼル乗用車排ガス規制値の変遷(環境省の資料より)

大型ディーゼルトラック用排ガス規制値の変遷(環境省の資料より)

9.4.3 舶用ディーゼルエンジンの排気ガス規制

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 9 章 排ガス浄化 79/85

79

(1) 経緯

参考: 国土交通省 Web ページ:http://www.mlit.go.jp/kaiji/imo/imo_.html

1912 年(明治 45 年):4 月 14 日深夜,タイタニック号(総トン数 46,328 トン)沈没(乗船客 2200

人中約 1500 名が犠牲)

1914 年(大正 3 年):1 月,タイタニック号事件を受け,ロンドンで国際会議開催.「海上におけ

る人名の安全のための国際条約」採択

1958 年(昭和 32 年):IMCO 設立(政府間海事協議機関)→1975 年 IMO(国際海事機関),2000

年 3 月現在加盟 158 カ国,準加盟 2 カ国(香港,マカオ)

1973 年(昭和 48 年):「1973 年の船舶による汚染の防止のための国際条約」採択

1978 年(昭和 53 年):2 月,海洋汚染防止条約「1973 年の船舶による汚染の防止のための国際条

約に関する 1978 年の議定書(MARPOL73/78)」採択.

1988 年:IMO(国際海事機関)において,ノルウェーが提案.

MEPC(海洋環境保護委員会),BCH(バルク・ケミカル小委員会)で検討

1997 年(平成 9 年):9 月,「附属書 VI:船舶からの大気汚染防止のための規則」追加.すべての

船舶に適用.

2005 年(平成 17 年)5 月 19 日 効力発生

表 9.4 MARPOL73/78 条約発行状況(2005 年 12 月 31 日現在)

採択日 発効日世界の船腹量

に占める(年月日) (年月日) 割合(%)

附属書I/II;油/化学物質 1978/2/17 1983/10/2 138 98附属書III;容器輸送される有害物質 1978/2/17 1992/7/1 123 94附属書IV;糞尿,汚水 1978/2/17 2003/9/27 113 75附属書V;船舶からの廃物 1978/2/17 1988/12/31 128 96附属書VI;船舶による大気汚染 1997/9/26 2005/5/19 37 72

条約名 締約国数

(2) 附属書 VI:船舶からの大気汚染防止のための規則(1997 年議定書として追加)の内容

窒素酸化物 NOx:

2000 年 1 月 1 日以降に建造される船舶に搭載される出力 130kW を超える舶用ディーゼル機関

に適用

① 定格回転数 n=130rpm 未満: 17g/kWh

② 定格回転数 n=130rpm 以上 2000rpm 未満: 45*n-0.2g/kWh

③ 定格回転数 n= 2000rpm 以上: 9.8g/kWh

硫黄酸化物 SOx:

燃料中の硫黄分を上限 4.5%とする.

船上焼却

2000 年 1 月 1 日以降に建造される船舶に搭載される焼却炉について,所定の構造・運転要件を

満足すること.重金属・PCB 等の焼却禁止ほか

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 第 9 章 排ガス浄化 80/85

80

オゾン層破壊物質

故意による排出およびオゾン層破壊物質を含む設備の船舶への新規搭載禁止

発効要件

新議定書は 15 カ国以上が締結し,商船船腹量合計が総トン数で世界の商船船腹量の 50%とな

った日の 12 ヵ月後に発行.現在(2003 年)12 カ国 54%,手続き中 3~4 カ国,日本も手続き中

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 問題解答例 81/85

81

問題解答例

問題 1 系の体積を V,質量を n とする.

dTnCdHVdPdHdQ

dTnCdH

p

p

より,pnC

dQdT

dQdQ

dQdUdQdW

dQ

C

dQCdTnCdU

p

vv

1

問題 2

①は閉じた系において,気体が膨張する際に外部にする膨張仕事であり,絶対仕事と呼ばれる.

往復動エンジンの仕事がこれに属する.

②は開いた系において,気体から取り出すことのできる仕事であり,工業仕事と呼ばれる.ガス

タービンの仕事がこれに属する.

問題 3

等温膨張させると, 2211 VPVP より2

112 V

VPP

気体を断熱圧縮させると,

133322 VPVPVP

よって

1

1

21

1

2

2

11

1

223

V

VP

V

V

V

VP

V

VPP

ここで,圧縮比 11

2 V

V であるから 11

1

2

V

V

よって, 1

1

1

213 P

V

VPP

問題 4

オットーサ

イクル

ディーゼル

サイクル

サバテ

サイクル

4.01

1

th

4.0

171.11

th

4.0

126.11

th

問題 5

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 問題解答例 82/85

82

0

20

40

60

80

100

0 5 10 15 20

オットーサイクル

サバテサイクル

ディーゼルサイクル

理論熱効率

圧縮比

問題 6

x = log V

y =

log

P

log P-log V 線図

断熱圧縮

1

V2

P2

P1

V1

②等圧冷却

①等温圧縮

③等容加熱

P2’

問題 7

66

1013.1102000

18044

zV

TP

sm [Pa]

問題 8

9425060

18050002

60

2

nTL W

280.065.744000

94250

HB

Le (28.0%)

51012.894250

65.7 L

Bb g/W/s

問題 9 n-オクタン H

H|C|

H

H|C|

H

H|C|

H

H|C|

H

H|C|

H

H|C|

H

H|C|

H

H|C|

H

H

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 問題解答例 83/85

83

イソオクタン H

H|C|

H

H|C|CH

H|C|

H

CH|C|CH

H|C|

H

H

3

3

3

問題 10

2N421

79O2H

22CO2N100

792O

100

21

421

100HC

421

100HC

nm

nm

nmnmAir

nmnm

問題 11

燃料 1mol に対して空気

421

100 nm [mol]が必要.

空気の分子量は 84.2828100

7932

100

21 .

m=8,n=18 であるから理論空気量は 7.171684.284

188

21

100

g

オクタンの分子量は 114181812

よって理論空燃比は 06.15114

7.1716

問題 12 ピストン変位は

cos1cos1coscos rrrZ

sinsinsinsin

r

r より ,またr

2

22 sin

1sin1cos

2sin2cos12

2sin11cos1 rrZ

シリンダ容積は

c22

c sincos1 VArVAZV

V をθで微分すると

2sin2

cos1sincossin2

2sin2

1

2

1sin ArAr

d

dV

問 13 バルブの開閉がステップ状に行われるためには,バルブの開閉の瞬間にバルブの運動速度

が無限大にならねばならない.速度が無限大になることは物理的に不可能であるから,ステップ

状のバルブ開閉は不可能である.

問 14 上死点を過ぎると,ピストンは降下を始める.この時期に排気弁が開いていると,一旦排

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 問題解答例 84/85

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出された燃焼ガスがピストンによってシリンダに吸い込まれことになる.結果的に,シリンダに

残留する燃焼ガスが増加して体積効率が下がり,エンジン出力の低下を来たす.

問題 15 エンジンの圧縮比は一定であるから,走行燃費が向上するには単位体積当りの発熱量が

増加しなければならない.ハイオクガソリンはノックが起こりにくくするためにオクタン価を高

めた燃料であり,発熱量を増加させているわけではない.したがって出力が増大することもなく,

走行燃費には基本的に変化がない.

問題 16 通常の点火装置が発生する点火エネルギは最小点火エネルギの数十~数百倍あるため,

点火率は 100%であり,混合気に確実に点火が可能である.ミスファイアが起こるとすれば,そ

の原因は点火プラグの汚損や絶縁不良などである.プラグを交換すれば元の状態に戻る.放電に

より電極の金属が溶融して飛散するまでエネルギを高めるのでなければ(この場合,電極はすぐ

に使用不能となる),単に点火エネルギを増やしても燃焼が改善される余地はなく,むしろ損失エ

ネルギを増大させ,点火プラグの電極の消耗を早めるなど弊害が多い.

問題 17 ディーゼルエンジンでは,高温高圧の空気中に噴射された燃料が直接燃焼する.燃焼形

態は拡散燃焼の一種である噴霧燃焼に分類される.始動時にはグロープラグを用いるが,基本的

には圧縮された高温雰囲気中で燃料が自発点火する.

ガソリンエンジンでは,圧縮されたガソリンと空気の可燃性予混合気中を火炎が伝播する.燃焼

形態は予混合燃焼に分類される.ディーゼルエンジンの場合と異なり,燃料自体が自発点火する

ことはなく,強制的に点火するため点火源が必要である.

問題 18 ディーゼルノックは点火遅れ期間中に噴射された燃料から蒸発した燃料蒸気と空気によ

って形成される可燃性混合気が自発点火することによって引き起こされる.セタン価の低い燃料

ほど点火遅れ期間が長く,ノックの強度が大きくなる.ガソリンエンジンのノックは火炎伝播が

進行してシリンダ内部が高温状態となった時にエンドガスが自発点火することによって引き起こ

される.オクタン価の低い燃料ほどノックを生じやすく,ノック強度も大きくなる.

問題 19 冷却を行わないと金属部材の溶損,焼き付き,変形,亀裂の発生,ノッキング,潤滑不

良,潤滑油の燃焼,エンジンの信頼性,耐久性,寿命の低下など,重大な損傷を引き起こす.

問題 20 基本的には低温および高温でそのエンジンにとって適正な粘度を保ち,常にアルカリ性

であることなどが要求される.この他,エンジンを清浄に保ち,スラッジの生成を防ぐなどの性

能が要求される,

問題 21 潤滑油は,石油系鉱物油をベースとするが,添加剤を加えないと低温および高温におけ

る粘度保障しか得られない.潤滑油に要求される性能を満足するには各機能ごとに効果のある薬

品(添加剤)を加えなければならない.

問題 22 省略(自分で考えよう)

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埼玉工業大学(小西克享) 内燃機関講義ノート(第 2 版) 問題解答例 85/85

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内燃機関講義ノート(第 2 版)

内燃機関講義ノート 平成 16 年 4 月 1 日 初版

内燃機関講義ノート(第 2 版) 平成 21 年 12 月 1 日 第 2 版

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著者 小西克享

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