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1 1 がん化学療法医療チーム養成にかかる研修 がん化学療法医療チーム養成にかかる研修 確実・安全・安楽な 確実・安全・安楽な 抗がん剤の投与管理 抗がん剤の投与管理 国立がんセンター がん対策情報センター/中央病院 がん看護専門看護師 文子 2007319日(月)

確実・安全・安楽な 抗がん剤の投与管理 · 確実に、安全に、安楽に、とは? 確実に. 化学療法はがんの治療. 患者の受療目的に沿うこと

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第第11回回 がん化学療法医療チーム養成にかかる研修がん化学療法医療チーム養成にかかる研修

確実・安全・安楽な確実・安全・安楽な 抗がん剤の投与管理抗がん剤の投与管理

国立がんセンター

がん対策情報センター/中央病院

がん看護専門看護師

文子

2007年3月19日(月)

確実に、安全に、安楽に、とは?

確実に確実に化学療法はがんの治療

患者の受療目的に沿うこと

安全に安全に抗がん剤は細胞毒性薬剤薬剤を安全に取り扱う責任

安楽に安楽に化学療法には有害反応がある

苦痛を軽減し、治療完遂を目指す

治療計画の確認と調整

使用する薬剤のアセスメント

患者の全身状態の確認

患者の治療に対する理解とその内容の確認

投与中の急性症状に対応するための準備

治療目的と目標効果判定の方法と時期

それぞれの毒性、安定性、器材の選択に影響する特徴をアセスメントし、投与上の注意点や副作用対策を考える

薬剤の減量や中止が考慮される既往歴や状態はないか?検査データの確認(治療方針決定前、当日)

初めての治療の場合、説明内容の配慮が必要治療目的・目標と治療計画の理解の確認投与スケジュール予測される副作用と対応策についての説明2クール目以降の患者さんの過去の治療中の副作用と対応

救急カート血管外漏出時の処置物品急性の悪心・嘔吐に対する対応物品と追加投与薬の指示確認

抗がん剤投与前の看護の流れとチェック項目抗がん剤投与前の看護の流れとチェック項目

医師の指示と搬送された薬、患者の確認

薬剤の準備

静脈投与ラインの確保(血管確保)

静脈投与ラインの開通性の確認

いよいよ投与!

血管外漏出のリスク因子を十分に考慮し、血管を選択する

必ず血液の逆流と自然滴下を確認する自然滴下確認時に、痛みや圧迫感を感じないか確認する

必要な前投薬は投与されたか、指示された投与速度の遵守ビシカント薬の場合の注意事項の確認調製から投与終了までの時間にも注意する

抗がん剤抗がん剤投与時の看護の流れとチェック項目投与時の看護の流れとチェック項目

輸液ラインを清潔に管理する

抗がん剤に特有の急性反応をモニタリング

急性反応への適切な対処について患者に説明する

過敏症/アナフィラキシー、血管外漏出インフュージョン・リアクション、急性の悪心・嘔吐

薬剤のアセスメントに基づく注意事項を確認する

生理食塩液でライン内の薬液をすべてフラッシュ

器具の抜去と止血、または長期留置静脈ラインのフラッシュ・保護(ケア)

抗がん剤投与に伴うすべての廃棄物を手順どおりに廃棄する

行った薬剤投与・教育・患者の反応の記録

治療後に注意すべきことについて患者・家族と話し合う

ヘパリンロックの場合は陽圧フラッシュする抜針後は用手圧迫し、しっかりと止血を確認する

有害反応の出現は?具体的な症状は?どのように対応したか?効果的な方法は?患者に行った教育内容と反応は?

遅発性の副作用対策について外来治療継続の場合の注意点について血管穿刺部位の観察(数日間は注意すること)

抗がん剤抗がん剤投与後の看護の流れとチェック項目投与後の看護の流れとチェック項目

確実・安全・安楽な抗がん剤の投与管理の実際

投与前

• 治療計画の確認と調整

• 使用する薬剤のアセスメント

薬剤の毒性に関する特徴

薬剤の安定性に関する特徴

器材の選択に影響する特徴

• 患者の全身状態の確認

• 患者の治療に対する理解と内容の確認

• 投与中の急性症状に対応するための準備

• 目的・目標の把握

• 治療法によって異なるスケジュールの理解複数の薬剤を併用、数ヶ月にわたり治療が行われることが多い。

通常数クール連続で行われる。

CT、X-P等で治療効果の評価を行う。

• レジメンの理解抗がん剤、輸液、併用薬などの投与に関する時系列的な治療計画の確認

投与日の確認:day1,day8,day15・・・

投薬量の確認:「/m2(体表面積)」「/body」

治療計画を理解する

化学療法の目的・目標はどこか

AA群:治癒を期待できる群:治癒を期待できる急性骨髄性白血病、急性リンパ急性骨髄性白血病、急性リンパ

性白血病、ホジキン病、性白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(中・高悪性非ホジキンリンパ腫(中・高悪性

度)、胚細胞腫瘍、絨毛がん度)、胚細胞腫瘍、絨毛がん

(奏効率(奏効率8080%以上)%以上)

BB群:延命が期待できる群:延命が期待できる乳がん、卵巣がん、小細胞肺乳がん、卵巣がん、小細胞肺

がん、多発性骨髄腫、非ホジがん、多発性骨髄腫、非ホジ キンリンパ腫(低悪性度)、慢キンリンパ腫(低悪性度)、慢 性骨髄性白血病、骨肉腫、前性骨髄性白血病、骨肉腫、前 立腺がん立腺がん

(奏効率(奏効率6060~~8080%)%)

CC群:症状緩和が期待できる群:症状緩和が期待できる軟部組織腫瘍、頭頚部がん、食軟部組織腫瘍、頭頚部がん、食

道がん、子宮がん、非小細胞肺道がん、子宮がん、非小細胞肺 がん、胃がん、大腸がん、膀胱ががん、胃がん、大腸がん、膀胱が

ん、膵がん?ん、膵がん?(奏効率(奏効率3030~~6060%)%)

DD群:効果の期待が少ない群:効果の期待が少ない悪性黒色腫、肝がん、脳腫瘍、悪性黒色腫、肝がん、脳腫瘍、

腎がん、甲状腺がん腎がん、甲状腺がん

(奏効率(奏効率3030%以下)%以下)

使用する薬剤のアセスメント

• 薬剤の毒性に関する特徴用量規制毒性(Dose Limiting Toxicity:DLT)

最大耐用量(Maximum Toleranted Dose:MTD)

出現しうる有害反応の頻度・対応

併用禁忌薬剤・注意を要する薬剤

体内動態、代謝・排泄経路

• 薬剤の安定性に関する特徴保管・保存方法

光、温度、pH、濃度、溶解後経過時間

配合変化

• 器材の選択に影響する特徴フィルター通過性

使用器材への薬剤の吸着・収着および有害物質の溶出

輸液ポンプやシリンジポンプの必要性

薬剤の情報源

• 添付文書薬事法で規定された文書:用法、用量、使用上の注意、取り扱い上の注意など20項目)

• インタビューフォーム日本病院薬剤師会の様式、添付文書の補完、定められた質問事項・様式に答えられている)

• 医薬品・医療機器等安全情報製薬会社共同で情報提供、厚生労働省HPで参照

• 緊急安全情報厚生労働省、製薬会社から緊急的に医師に知らせられる

• 日本医薬品集

薬剤情報の活用:どこをみるか?

• 一番表の薬剤名周囲の情報は、特性、用法、取り扱 い上の注意事項などの基本的事項がある

• 警告、併用禁忌、慎重投与に関する情報

• 取り扱いの注意、貯法

• 適応上の注意

• 副作用、禁忌:用量規制因子

• 用法・用量:何を基準に投与量を決めるか

• 使用器具について:特殊な器具が必要か

• 過敏症状・使用中の注意

• 薬物動態:排泄経路により、腎機能や肝機能を考慮

併用禁忌薬剤の例

併用禁忌薬剤併用禁忌薬剤

• フッ化ピリミジン系抗がん剤

• フッ化ピリミジン系抗真菌薬

他の抗がん剤から変更する時の注意他の抗がん剤から変更する時の注意

• 他のフッ化ピリミジン系抗がん剤からTS-1®に 変更する際、7日間の休薬期間をあける

テガフール、ギメラシル、オテラシルカリウム配合剤(ティーエスワン®、TS-1®)

投与順序に注意が必要な抗がん剤

抗がん剤 併用薬剤 注意点

パクリタキセル

(タキソール®)

シスプラチン

(ブリプラチ ン®、ランダ

®)

・パクリタキセル→シスプラチンの 順で投与

シスプラチンを先に投与すると、パ クリタキセルの排泄遅延が生じ有

害事象が増強される

ビンクリスチン

(オンコビン®)

L-アスパラ キナーゼ(ロ イナーゼ®)

・ビンクリスチン→L-アスパラキ ナーゼの順で投与

神経毒性の増強があるため、上記 の順序での投与が推奨

投与時間に注意が必要な抗がん剤

抗がん剤 投与時間 注意事項

ゲムシタビン

(ジェムザール®)

(GEM)

30分点滴 静注

60分を超えて投与することで、

骨髄抑制が増強されることがある

シタラビン

(キロサイド®)

(Ara-C)

(注:大量療法時)

3時間点滴 静注

・3時間を越えて投与すること

で骨髄抑制が増強される。

・3時間より短時間で投与され

ることで、中枢神経毒性が増

強されることがある。

調製後の薬剤の安定性

• 注射剤調整後の配合変化・安定性の問題から、溶解液や溶 解液量に注意すべきものも多く、また調整後できるだけ速や かに投与すべきものがある

シクロホスファミド

(エンドキサン®)溶解後室温で3時間安定、調製後できるだけ速や

かに投与する

アムルビシン

(カルセド®)

溶解後室温で3時間安定、調製後できるだけ速や

かに投与する

L-アスパラキナー

ゼ(ロイナーゼ®)生理食塩液で溶解すると塩析のため白濁する

溶解後速やかに使用すること

エトポシド

(ベプシド®)

100mgあたり250ml以上の輸液に溶解して投与

する(高濃度の希釈液は経時的に結晶が析出す

る)。100mg/250ml希釈液は24時間安定、時間

依存性に析出しやすいため注意が必要

フィルター透過性

器材選択に関する特徴

• パクリタキセルの希釈液は過飽和状態にある ため、パクリタキセルが結晶として析出する

可能性あり

• 指定された0.22ミクロン以下のメンブランフィ ルターを用いたインラインフィルターを使用し て投与する

①吸着 投与薬剤がチューブ表面に吸着することによって、有効成分の損失が起こる。

②収着 チューブ表面やチューブ材質内部(可塑剤)へ薬剤が吸収されること。

このために薬剤の有効成分の損失が起こる。

③溶出 がん化学療法で特に問題とされるもの。・パクリタキセルに含まれるポリオキシエチレンヒマシ油などの可溶

化剤が含まれる注射薬を点滴静脈注射した場合、チューブの成

分の一部であるDEHPが点滴液中に溶出し、体内に入る。・溶出量は可溶化剤の含有量と、輸液セットが可溶化剤にさらされて

いる時間によって異なる。可溶化剤の量が多く、投与時間が長

いほどDEHPの溶出量は多い。

使用器材に関連する問題

• ①、②によって体内に入る薬剤量が意図した投与量より少なくなる。

• ③はDEHPが輸液中に溶出し体内に入る。

薬の吸着・収着

薬の吸着・収着(物理学的配合変化)

輸液チューブ投与薬剤がチューブ

表面に付く→

有効成分の損失

吸着

薬剤有効成分

チューブ表面及びチューブ材質内部(可塑剤)へ

薬剤が吸収→

有効成分の損失

収着

体内に入る薬剤量が意図した薬剤投与量より減少

可塑剤の溶出

可塑剤とは

PVC の柔軟性を保持するためにDEHP を添加

( DEHP :フタル酸ジー2−エチルヘキシル)

ポリオキシエチレンヒマシ油ポリソルベート80などの可溶化剤

を用いた薬

環境ホルモンと言われている

DEHP が点滴中に溶解し、体内

に入る

DEHP:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル

• PVC (ポリ塩化ビニル)の可塑剤

• PVC製の医療用具使用により、注射薬剤の吸着や 収着、輸液セットからのDEHPの溶出の問題が注目さ

れている(DEHPフリーの器材もある)。

• DEHPは環境ホルモンとしての疑いがあり、動物実験 では肝機能障害、発がん性、催奇形性を示す報告

がある。人体への影響も考えられる。

• 点滴静脈注射用輸液セットのほとんどはPVC製品。 ポリオキシチレンヒマシ油やポリソルベート80などの 可溶化剤を含む薬剤には、PVCフリーもしくはDEHP

対策PVCの輸液セットを用いる。

ポリ塩化ビニル製輸液セットが

使用不可の抗がん剤

一般名 商品名 可溶化剤

パクリタキセル

(PTX)

タキソール ポリオキシエチ レンヒマシ油

エトポシド

(VP-16)

ベプシド

ラステット

ポリソルベート80

エノシタビン

(BHAC)

サンラビン ポリオキシエチ レンヒマシ油

患者の全身状態の確認

• 過去の治療歴

初回治療の場合と治療経験がある場合の違い

今回の治療において生じたことやそれに対する対応は今後の治療において重要な情報となる

点滴に関する知識や過去の経験がどの程度あるか

• 現在の全身状態のアセスメント

バイタルサイン

PS(パフォーマンス・ステータス)

検査データ

現在出現している症状

患者の治療に対する理解と内容の確認

• 治療に対する理解

病気や治療に対する思い

治療の目的・目標・方法の理解

説明されている内容と指示内容

治療に関する承諾書/同意書

• セルフケアについて

必要な知識・技術の習得を支援する

患者・家族のセルフケア能力と支援の必要度

急性症状として考えられるもの

• 過敏症/アナフィラキシー

• インフュージョン・リアクション

• 抗がん剤の血管外漏出

• 急性の悪心・嘔吐

• 腫瘍崩壊症候群

• 医師の指示と搬送された薬、患者の確認

• 薬剤の準備

• 静脈投与ラインの確保(血管確保)

• 静脈投与ラインの開通性の確認

• 安全な投与の実施投与速度・順序

薬剤の安定性・配合変化

輸液ラインの清潔な管理

• 急性症状のモニタリングと患者教育

確実・安全・安楽な抗がん剤の投与管理の実際

投与時

投与時 医師の指示と搬送された薬、患者の確認

• ダブルチェックが望ましい

• 5Rの確認

Right drug 正しい薬剤

Right dose 正しい投与量

Right route 正しい方法(経路)

Right time 正しい時間

Right patient 正しい患者

投与時:静脈ラインの管理

• CDCのガイドラインに基づいた対応

閉鎖式回路を用いて

三方活栓は最低限に

清潔操作で

血管確保部位の変更頻度

• 適切な防護用具を用いる

• 目の高さよりも低い位置で作業する

• 薬剤間のフラッシュ

安定性が確認されていないので、必ず行う

血管外漏出予防 :静脈投与ラインの確保

• 適切な血管確保部位のアセスメント

適切な部位

避けた方がよい部位

血管確保が困難な場合

• 血管外漏出のアセスメント

危険因子を考慮した血管確保部位選択

• ラインの確実な固定(体動を妨げない)

血管外漏出予防:血管確保部位の選択

• 避けた方がよい部位

30分以内に穿刺している血管

利き手側

肘関節窩

腋下リンパ節廓清や放射線照射を行っている患肢側

蛇行している血管

神経や動脈に隣接している部位

骨突出部位や関節付近

下肢静脈

出血斑や硬化組織のある部位

血管外漏出のリスク因子

• 高齢者(血管の弾力性や血流量の低下)

• 栄養不良患者

• 糖尿病や皮膚結合織疾患等に罹患している患者

• 肥満者(血管をみつけにくい)

• 血管が細くてもろい患者

• 化学療法を繰り返している患者

• 多剤併用化学療法中の患者

• 循環障害のある四肢の血管

• 輸液等ですでに使用中の血管ルートの再利用

血管外漏出のリスク因子

• 抗がん剤の反復投与に使われている血管

• 腫瘍浸潤部位の血管

• 放射線治療を受けた部位の血管

• ごく最近施行した皮内反応部位の下流の血管

• 同一血管に対する穿刺のやり直し例

• 24時間以内に注射した部位より遠位側

• 創傷瘢痕がある部位の血管

• 関節運動の影響を受けやすい部位や血流量の少な い血管への穿刺例

血管外漏出予防 :静脈投与ラインの開通性の確認と投与

• 投与開始前の開通性の確認

血液の逆流の有無

自然滴下の状態

• ビシカント薬投与中の注意

輸液ポンプは使用しない

血液の逆流を確認しながら投与

血管確保部位周辺の状態を確認する

患者にも自覚症状がないか確認する

血管外漏出予防 :投与後ラインの十分なフラッシュ

• 抜針時に残った抗がん剤が皮下漏出す ることを防ぐ

• 薬剤を最後まで確実に投与することにも なる

• 輸液ポンプ対応の輸液セットでは、15〜 20mlの薬液がルート内に残る

• 20〜50mlの生理食塩液などでライン内 を洗浄する

急性反応出現時:血管外漏出

点滴をすぐに止める

抗がん剤の種類は???

ビシカント薬イリタント薬漏れた量は?

ノンビシカント薬

経過観察対症療法:消炎、鎮痛注射部位の変更

少量大量

1.すぐに針を抜かずに

血液と薬液を吸引2.ステロイド剤(+鎮痛剤)

局注3.抜針4.ステロイド軟膏塗布5.生理食塩液もしくは

0.1%リバノール湿布 皮膚科・形成外科医へ相談

記録

針が抜けてる?抗がん剤が漏れてる?

急性反応出現時

:インフュージョン・リアクション

• 主な症状

頭痛咳

悪心発疹

悪寒(戦慄)掻痒感

血管浮腫(舌や咽頭の腫れ)

発熱疼痛虚脱感血圧低下呼吸困難

急性反応出現時

:インフュージョン・リアクション

•• 注入速度を下げる、または、投与を中止する注入速度を下げる、または、投与を中止する

症状が消失しない、悪化するときは、抗ヒスタミン薬やステロイド薬、解熱鎮痛薬を投与する

重度の場合、症状に応じた対症療法

ルートも新しいものに変更するか、最も患者に近いハブから薬液を吸引した後に使用していたラインを用いる

• 症状が消失したら、25ml/h以下の注入速度 で慎重に投与を再開する

急性症状対応の準備

:腫瘍崩壊症候群

• 腫瘍崩壊症候群とは抗がん剤の投与により腫瘍が大量に崩壊し、腫瘍細胞から放出されたカリウム、リン酸、尿酸などが血中に流入する。その結果、電解質異常を生じ、重症の場合、急性腎不全に至る。

• 血液中の腫瘍細胞の多い患者では、初回投与後 12〜24時間以内に高頻度

• 電解質、腎機能検査のチェック

• 高尿酸血症治療薬の投与

• 尿のアルカリ化、補液(尿量確保のため)

• 透析が必要になる場合もある

• ライン内の薬液のフラッシュ

• 器具の抜去と止血

• 長期留置ラインの管理

• 廃棄物の処理

• 治療後の注意事項について、患 者・家族と話し合う

• 記録

確実・安全・安楽な抗がん剤の投与管理の実際

投与後

欧米で推奨されている排泄物の取り扱い

• 抗がん剤投与後48時間以内は排泄物(尿、 便、吐物、汗、唾液など)に注意が必要

患者が使用したリネンや衣類は他のものと分けて2回洗濯する

男性の排尿時、便座に座って行う(周囲を汚染することを防止できる)

排泄後はトイレを2回流す

不必要な蓄尿はしない

確実・安全・安楽な 抗がん剤の投与管理の実際

― R-CHOP療法の場合 ―

事例

• 45歳、女性

• 診断:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (Diffuse large B-cell lymphoma

: DLBCL)

• 初発、CD20陽性。

• 特に既往歴なし。

• PS(Performance Status): 0

• 身長:156cm、体重:52kg

治療目的:治癒を期待する

AA群:治癒を期待できる群:治癒を期待できる急性骨髄性白血病、急性リンパ

性白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(中・高悪性非ホジキンリンパ腫(中・高悪性

度)度)、胚細胞腫瘍、絨毛がん

B群:延命が期待できる乳がん、卵巣がん、小細胞肺

がん、多発性骨髄腫、非ホジ キンリンパ腫(低悪性度)、慢 性骨髄性白血病、骨肉腫、前 立腺がん

C群:症状緩和が期待できる軟部組織腫瘍、頭頚部がん、食

道がん、子宮がん、非小細胞肺 がん、胃がん、大腸がん、膀胱

がん

D群:効果の期待が少ない悪性黒色腫、膵がん(?)、肝

がん、脳腫瘍、腎がん、甲状 腺がん

R-CHOP療法 (以下を21日毎に6〜8回繰り返す)

薬剤名:商品名(一般名)

1日投与量(/m2)

投与経路 投与日

Rリツキサン

(リツキシマブ)375mg 点滴静注 day1

Cエンドキサン

(シクロホスファミド)750mg 点滴静注 day3

Hアドリアシン

(ドキソルビシン)50mg 点滴静注 day3

Oオンコビン

(ビンクリスチン)1.4mg ボーラス day3

Pプレドニゾロン

(プレドニゾロン)100mg(/body)

内服 Day3-7

治療計画の例

• R-CHOP療法を6コース行う

• CHOP療法でも効果があるとされていたが、CD20 抗原陽性のB細胞型リンパ腫で、リツキシマブを 追加したレジメンの方が治療効果が高いことが

証明され、DLBCLの標準的治療となっている

• 1コース目は入院で行い、問題がなければ、2 コース目以降は外来通院で行う

• PET、CT、X-Pなどの画像で治療効果の評価を 行う

• 薬剤の毒性判定はCTCAE ver.3を用いる

1コース目

リツキサン投与

Day1

CHOP

投与

Day3 Day21

2コース目以降

Day1

R-C

HOP

投与

Day21

入院して治療退

院外来通院で治療

治療後7日目ごろから骨髄抑制、脱毛などが出現しびれ・便秘にも注意

インフュージョン・リアクション腫瘍崩壊症候群に注意

血管外漏出急性の悪心・嘔吐に注意 感染症によ

る発熱、出

血、貧血症

状の苦痛が

あれば受診

画像評価などで効果判定

効果判定内容に応じて治療を追加

1コース目と同様の副作用対策を行う

Day1Day2

Day3

リツキサン投与開始

リツキサン投与30分前

抗ヒスタミン薬

解熱鎮痛薬

内服

投与開始25ml/h

1時間後100ml/hへ

2時間後200ml/hへ

インフュージョン・リアクション

ハイリ

スク

の時

バイタルサイン、自覚症状観察

インフュージョン・リアクションと腫瘍崩壊症候群に注意

血管確保

抜針

or

ヘパロック

投与終了

血管確保

カイトリル投与

オンコビンのボーラス投与

血液の逆流を確認しながら

実施

アドリアシン投与

自然滴下で

エンドキサン投与

投与終了

抜針

急性の悪心・嘔吐血管外漏出の観察・対応

プレドニゾロンの内服(day7まで)

R-CHOP療法 day1

薬剤名 投与量 投与経路 投与時間

1 カロナール(200mg) 2錠 内服リツキサン投

与30分前2 ポララミン(5mg) 1錠 内服

3リツキサン 560mg

点滴静注注入速度指

示あり生理食塩液 504ml

4 生理食塩液 50ml 点滴静注 ルート流し

*体表面積:*体表面積:1.5m1.5m22(身長(身長156cm156cm、体重、体重52kg52kgの場合の場合))*静脈ラインは末梢からサーフローで確保*静脈ラインは末梢からサーフローで確保

R-CHOP療法 day3以降

薬剤名 投与量 投与経路 投与時間

1カイトリル 3mg/3ml

点滴静注30分

(2回/日)生理食塩液 50ml

2オンコビン 2mg

ボーラス生理食塩液 20ml

3アドリアシン 75mg

点滴静注 30分生理食塩液 100ml

4エンドキサン 1125mg

点滴静注 1.25時間生理食塩液 250ml

プレドニゾロン 100mg 内服(分2)day3-7の

朝昼

大まかな見通しを立ててみると、

• 治療目的は「治癒を目指すこと」

• 治療期間は概ね18週間(4.5か月)必要

• 画像評価を行って、治療が追加される可能性 もある

• 有害反応に十分注意して行うことで、日常生活 を維持し、外来で治療を続けることができる

(セルフケアは大切)

• 家族・職場・学校などの理解を得て、社会的役 割も果たしながら治療を完遂し、治癒を目指す

使用する薬剤のアセスメント

• 薬剤の毒性に関する特徴用量規制毒性(Dose Limiting Toxicity:DLT)

最大耐用量(Maximum Toleranted Dose:MTD)

出現しうる有害反応の頻度・対応

併用禁忌薬剤・注意を要する薬剤

体内動態、代謝・排泄経路

• 薬剤の安定性に関する特徴保管・保存方法

光、温度、pH、濃度、溶解後経過時間

配合変化

• 器材の選択に影響する特徴フィルター通過性

使用器材への薬剤の吸着・収着および有害物質の溶出

輸液ポンプやシリンジポンプの必要性

使用する薬剤のアセスメント

リツキサン®

• 警告インフュージョン・リアクション

腫瘍量が多い(血液中25,000/μL以上)

脾腫を伴う

心機能・肺機能障害を有する

腫瘍崩壊症候群

• 用法・用量に関連する注意事項調剤:10倍希釈とする(最終濃度1mg/ml)

前投薬:30分前に抗ヒスタミン薬と解熱鎮痛剤

投与速度:注入速度に関連して血圧低下、気管支痙攣、血管浮腫等の症状が出現する。注入速度を守る。

使用する薬剤のアセスメント

エンドキサン® アドリアシン®

• 注意を要する副作用

DLT:骨髄抑制

悪心・嘔吐

心筋障害、出血性膀胱炎

• 溶解後3時間以内に投与

• 遮光やPVCフリールート は不要

• 排泄経路にも注意!

唾液中にも含まれるので、嘔吐物の処理時は要注意

• 注意を要する副作用DLT:骨髄抑制

悪心・嘔吐

心筋障害(総投与量に注意:最大500mg/m2)

脱毛

• ビシカント薬!血管外漏出対策が重要

輸液ポンプは用いない

• 遮光、PVCフリールート は不要

使用する薬剤のアセスメント

オンコビン® プレドニゾロン®

• 注意を要する副作用

DLT:末梢神経障害

しびれ、便秘対策必要

• ビシカント薬!

血管外漏出対策が重要

ボーラス投与中のラインの開通性、挿入部の観察

• 遮光、PVCフリールートは 不要

• 1回最大投与量は2mg!

• 内服投与となる

• 患者教育と内服確認

• 悪心・嘔吐に対する 対応策にもなる

• 不眠対策が必要にな る場合がある

急性症状として考えられるもの

• インフュージョン・リアクション

• 腫瘍崩壊症候群

• 抗がん剤の血管外漏出

• 急性の悪心・嘔吐

抗がん剤投与後遅れて出現するもの

• 骨髄抑制

白血球減少

血小板減少

貧血

• 脱毛

• 末梢神経障害

便秘

しびれ

治療前の患者教育

• インフュージョン・リアクション

• 血管外漏出

• 急性の悪心・嘔吐

治療後の患者教育

• 有害反応対策骨髄抑制

脱毛

末梢神経障害便秘

しびれ

• 外来通院治療継続のための指導リツキサン®投与前の前投薬内服の注意

インフュージョン・リアクションへの対応

治療前の患者教育

インフュージョン・リアクション

• 初期症状(寒気、悪心・嘔吐、頭痛、咽頭不 快感、咳、発疹など)について伝え、起こった

ときは報告してもらう

• 症状に対して、対応する準備があること

• 前投薬を確実に実施すること

特に、外来治療に移行してからは、自分で内服管理する必要がある

• 初回治療の場合、不安の緩和も大切

治療前の患者教育

血管外漏出

使用薬剤の危険性、血管や注射部位の状態について

注意すべき症状(局所の発赤、腫脹、疼痛、灼熱感、圧迫感、しびれ)を伝え、起こったらすぐに報告してもらう

ルートの取り扱いと注射部位の安静

数日間局所を観察すること

治療前の患者教育

急性の悪心・嘔吐

• 悪心・嘔吐の出現の可能性・時期・対処方 法について

• 適切に制吐剤を用いて対応できること

• 食事内容の配慮(量を控えめにする、消化 のよいもの、消化管の停滞時間が長いも

のは控える)

• リラクセーション方法