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コンサルティング基礎講座 1.はじめに 不動産ビジネスを大きく変える可能性をもつ不動産 テックについて解説する本連載。今回は暗号通貨(仮 想通貨)ビットコインで使われているブロックチェー ン技術について取り上げます。 すでに不動産管理などにブロックチェーン技術を活 用した取り組みも生まれていますが、もっと大きな可 能性を秘めている技術です。 ブロックチェーン技術について詳しい慶應義塾大学 SFC研究所・上席所員の斉藤賢爾氏をお招きして、 ブロックチェーン技術の可能性と不動産ビジネスへの 影響を考えました。斉藤氏は早くからブロックチェー ン技術を研究されていて、大学での研究の他に一般社 団法人ビヨンドブロックチェーンの代表理事として、 様々な組織で横断的な取り組みを続けています。 2.ブロックチェーン技術は遺言書が 作れたら本物 木村:不動産業界は長い間、紙の書類のやりとりを中 心にした仕事をしていました。これには「非効率だろ う」という声は昔からありますが、なかなかデジタル 技術が定着していません。ただ、ブロックチェーン技 術については、今度こそ何かが大きく変わるのではな いかという期待を持っているように思います。でも世 の中の一部が大騒ぎしているだけで、実際に何なのか 知らない人も多いのかもしれませんね。 斉藤:もったいぶらずにいうと、ブロックチェーン技 術とはつまり過去に位置づけられたデジタル署名付き データがあり、そのデジタル署名が正しいか、もしく は正しくないかを証明する技術です。デジタル署名と は、デジタルデータが本人のものかを証明するための 技術です。言ってみれば簡単そうなのですが、これは 今までの技術ではできなかったんですね。実はデジタ ルデータでは時刻は勝手に書き換えができてしまうん です。これでは契約には使えませんよね。不動産業界 に限らず、契約や公文書などが紙のままである最大の 理由がこれですね。紙に印鑑をつけばそれは1年後も、 100年後でも無限に有効ですからね。 木村:そこを証明できるようにしたのがブロックチェ ーン技術ということですね。ブロックチェーン技術と 不動産テックで進化する不動産取引の世界(6) ─ブロックチェーン技術の可能性と不動産ビジネスへの影響─ 木村 幹夫 株式会社トーラス 代表取締役 [きむら・みきお]2003年、株式会社トーラスを設立。不動産登記簿を 集約したビッグデータを構築し、不動産ビッグデータ、AIを活用したマ ーケティング支援を行う。MIT(米国マサチューセッツ工科大学)コン テストでファイナリスト。2018年、NY国連本部で不動産テックと社会 の持続的発展について解説。 https://www.torus.co.jp/ 対談:斉藤 賢爾 慶應義塾大学SFC研究所上席所員 [さいとう・けんじ]慶應義塾大学環境情報学部非常勤講師等を経て、 現在、慶應義塾大学において、環境情報学部村井研究室、及びSFC研 究所インターネットと社会・ラボ、SFC研究所パブリックテクノロジ ーデザインコンソーシアム所属。 対談する木村幹夫氏(右)と斉藤賢爾氏 Consulting Basic Lecture 18 2019. 2 不動産フォーラム21

不動産テックで進化する不動産取引の世界(6) · ブロックチェーン技術の可能性と不動産ビジネスへの 影響を考えました。斉藤氏は早くからブロックチェー

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Page 1: 不動産テックで進化する不動産取引の世界(6) · ブロックチェーン技術の可能性と不動産ビジネスへの 影響を考えました。斉藤氏は早くからブロックチェー

コンサルティング基礎講座

1.はじめに

不動産ビジネスを大きく変える可能性をもつ不動産テックについて解説する本連載。今回は暗号通貨(仮想通貨)ビットコインで使われているブロックチェーン技術について取り上げます。

すでに不動産管理などにブロックチェーン技術を活用した取り組みも生まれていますが、もっと大きな可能性を秘めている技術です。

ブロックチェーン技術について詳しい慶應義塾大学SFC研究所・上席所員の斉藤賢爾氏をお招きして、ブロックチェーン技術の可能性と不動産ビジネスへの影響を考えました。斉藤氏は早くからブロックチェーン技術を研究されていて、大学での研究の他に一般社団法人ビヨンドブロックチェーンの代表理事として、様々な組織で横断的な取り組みを続けています。

2.ブロックチェーン技術は遺言書が�作れたら本物

木村:不動産業界は長い間、紙の書類のやりとりを中心にした仕事をしていました。これには「非効率だろう」という声は昔からありますが、なかなかデジタル技術が定着していません。ただ、ブロックチェーン技術については、今度こそ何かが大きく変わるのではないかという期待を持っているように思います。でも世の中の一部が大騒ぎしているだけで、実際に何なのか

知らない人も多いのかもしれませんね。斉藤:もったいぶらずにいうと、ブロックチェーン技術とはつまり過去に位置づけられたデジタル署名付きデータがあり、そのデジタル署名が正しいか、もしくは正しくないかを証明する技術です。デジタル署名とは、デジタルデータが本人のものかを証明するための技術です。言ってみれば簡単そうなのですが、これは今までの技術ではできなかったんですね。実はデジタルデータでは時刻は勝手に書き換えができてしまうんです。これでは契約には使えませんよね。不動産業界に限らず、契約や公文書などが紙のままである最大の理由がこれですね。紙に印鑑をつけばそれは1年後も、100年後でも無限に有効ですからね。木村:そこを証明できるようにしたのがブロックチェーン技術ということですね。ブロックチェーン技術と

不動産テックで進化する不動産取引の世界(6)─ブロックチェーン技術の可能性と不動産ビジネスへの影響─

木村 幹夫株式会社トーラス 代表取締役

[きむら・みきお]2003年、株式会社トーラスを設立。不動産登記簿を集約したビッグデータを構築し、不動産ビッグデータ、AIを活用したマーケティング支援を行う。MIT(米国マサチューセッツ工科大学)コンテストでファイナリスト。2018年、NY国連本部で不動産テックと社会の持続的発展について解説。https://www.torus.co.jp/

対談:斉藤 賢爾慶應義塾大学SFC研究所上席所員

[さいとう・けんじ]慶應義塾大学環境情報学部非常勤講師等を経て、現在、慶應義塾大学において、環境情報学部村井研究室、及びSFC研究所インターネットと社会・ラボ、SFC研究所パブリックテクノロジーデザインコンソーシアム所属。

対談する木村幹夫氏(右)と斉藤賢爾氏

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onsulting Basic Lecture ●

18 2019. 2 ▶ 不動産フォーラム21