8
• MENU • PRINTABLE VERSION • HELP & FAQS JALT2002 AT SHIZUOKA 90 CONFERENCE PROCEEDINGS that can hinder the motivation. For example, if there are words to remember and grammar items, and if the content structure is too difficult for stepwise learning, the textbook cannot give the students the joy of learning a foreign language and a feeling of success, and it will probably also exert a bad influence on the teacher's attempts at conducting a successful class. In this paper, while taking these points into consideration, I try to search for and introduce a textbook that doesn't diminish the students' motivation and can contribute to a successful class management. はじめに 学習のモティベーション形成と教 科書の影響-ドイツ語を初めて学 ぶ学生の場合 Learning Motivation and Influence of Textbook: The Case of First Learners of German 山本洋一 (Yoichi Yamamoto) 九州共立大学 For continuously learning a new foreign language, learning motivation is indispensable. In this case, the textbook used in class can be one of various factors

学習のモティベーション形成と教 科書の影響-ドイツ語を ......JALT2002 AT SHIZUOKA 91 CONFERENCE PROCEEDINGS山本洋一: 学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 学習のモティベーション形成と教 科書の影響-ドイツ語を ......JALT2002 AT SHIZUOKA 91 CONFERENCE PROCEEDINGS山本洋一: 学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

• MENU

• PRINTABLE VERSION

• HELP & FAQS

山本洋一:�学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

JALT2002 AT SHIZUOKA 90 CONFERENCE PROCEEDINGS

that can hinder the motivation. For example, if there are words to remember and grammar items, and if the content structure is too difficult for stepwise learning, the textbook cannot give the students the joy of learning a foreign language and a feeling of success, and it will probably also exert a bad influence on the teacher's attempts at conducting a successful class.In this paper, while taking these points into consideration, I try to search for and introduce a textbook that doesn't diminish the students' motivation and can contribute to a successful class management.

新しい言語を継続的に学ぶには、学習のモティベーションが必要不可欠であるが時として、授業で使用する教科書が、このモティベーション形成を阻害するいくつかの要因のひとつになることがある。例えば、おぼえるべき単語や文法事項が多すぎたり、段階的学習がしにくい内容構成の教科書は、学生達に外国語を学ぶ喜びや達成感などを与えることはできないし、教師が効果的な授業を構築するためにも悪影響を及ぼすことになるだろう。本論では、これらの問題に言及しながら、学生のモティベーション形成を阻害せず、効果的な授業経営に寄与できるよう作成された教科書の一例を提示してみる。

はじめに

われわれ教師の多くは、限られた時間の中でできるかぎり効果的な授業を構築しようと日々努力している。しかし、ドイツ語を学ぶ学生の要求や理解度、加えて教師自身の目標設定も多種多様であるために、効果的授業ができたか否かを判断することは難しい。ただし、学生達がそれぞれ自分なりの達成感を味わい、さらに次の段階に進んで学んでみようという気持ちを抱くことができたとしたら、その授

学習のモティベーション形成と教科書の影響-ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

Learning Motivation and Influence of Textbook: The Case of First Learners of German

山本洋一 (Yoichi Yamamoto)九州共立大学

For continuously learning a new foreign language, learning motivation is indispensable. In this case, the textbook used in class can be one of various factors

Page 2: 学習のモティベーション形成と教 科書の影響-ドイツ語を ......JALT2002 AT SHIZUOKA 91 CONFERENCE PROCEEDINGS山本洋一: 学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

JALT2002 AT SHIZUOKA 91 CONFERENCE PROCEEDINGS

山本洋一:�学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

業は効果的でよい授業であったと評価することができるのではないだろうか。

ところが残念なことには、学習意欲を失い、既に最初の学期途中で授業に出席しなくなる学生も少なくない。それにはさまざまな理由があろうが、例えば学び続けるモティベーションが何らかの原因で失われてしまえば、そのような行動をとる学生がいたとしても不思議ではない。とりわけドイツ語のように、昨今必修の枠からはずされる傾向にあり、単なる選択科目として設定されることの多い外国語の授業では、学習の初期段階におけるモティベーション喪失は、そのまま授業欠席から学習放棄に繋がっていく危険性を大いにはらんでいる。

例えば、筆者が担当した1999年度から2002年度までの初級ドイツ語授業では、授業の途中放棄者は8クラスで合計25人だったが、彼らが授業を欠席し始めた時期を見てみると、そのほとんどが5、6月に集中していた。彼らを学習放棄に向かわせないためには、この授業開始から10回目くらいまでの時期に、より注意して彼らにモティベーション形成を促すような授業をすべきだったのであろう。

本論では、この学習のモティベーション形成に関する問題を、ドイツ語初習者が授業で使用する教科書との関連においてとらえ、効果的な授業経営に寄与することを目的として工夫されたひとつの教科書のかたちを考えてみたい。

言語学習のモティベーションと日本人

GardnerとLambert (1972) は、言語学習のモティベーションを、他の言語コミュニティーとの相互交流をはかったりそのコミュニティーに同化するための言語学習欲求である「統合的動機」と、報酬やそのコミュニティー内での仕事の確保などのいわゆる功利的目的のための言語学習欲求と考えられる「道具的動機」の二つに分類している。また、自ら

の意思によって自分のために努力し、その行動そのものに喜びや満足を得られるような行動欲求としての「内発的動機」と、何らかの報酬を得るためもしくは罰を回避するなどの外発的な行動欲求としての「外発的動機」があるという、教育学的立場からのモティベーション分類の方法もある(Deci,1977)。モティベーションの定義に関しては、Gardner自身もその後いくつかのバリエーションを提示しているが、基本的にはこれら二つの考え方を基礎に、さまざまな研究者が多種多様なコンテクストやシチュエーションに応用してきたと言える。

なかでも、カナダという英語、フランス語二つの言語コミュニティーが共存する地域での研究が基礎になっているGardnerとLambert (1972) の場合とは異なり、われわれ日本人と同様、英語を全くの外国語として学ぶハンガリー人の学習者を研究対象にした Dörnyei (1996) は、言語学習モティベーションの要素として、「内発的・外発的動機」の他に「ゴール設定」「認知要因」「自信」「達成の必要性」「コースへの興味」「教師への興味」「グループへの興味」を加え、実際の授業においていかにして学習者を動機づけるかという、教育学的アプローチの必要性を説いているが、これは本論の展開にはきわめて示唆的な内容を含んでいる。中田�(1999) もDörnyeiの説を、きわめて簡潔に「学習者に言語学習における自信と目標達成への期待を持たせ、学習者の不安を低め、学習意欲を高める原因となるものを明確にし、学習者に達成可能なゴールを持つことを勧め、授業を魅力あるものにすることを語学教師に提案している」(p.42)とまとめている。

さてそれでは、そもそもわれわれ日本人が日本国内で外国語を学び始める状況を考えてみると、これまでの社会的コンテクストにおいては、中学生になった途端に必修科目として英語を勉強し始める姿がまず想起されるであろう。この場合、彼らが小学生から中学生になるときに感じる新しい世界やより高いステップへの総体的な期待感が、この

Page 3: 学習のモティベーション形成と教 科書の影響-ドイツ語を ......JALT2002 AT SHIZUOKA 91 CONFERENCE PROCEEDINGS山本洋一: 学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

JALT2002 AT SHIZUOKA 92 CONFERENCE PROCEEDINGS

山本洋一:�学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

外国語という新しい科目にも向けられるならば、その後の好ましい学習環境を支えるひとつの要素は準備されると言えるかもしれないが、これは英語という言語の学習動機と言うにはあまりに希薄なものでしかない。まして、中学入学をひかえた日本人児童には前出のGardnerたちの言う意味での「統合的動機」も「道具的動機」も存在するとは考えにくい。モティベーションが言語学習の成功をもたらすのか、言語学習がモティベーションを生み出すのかわからないという指摘(Ellis,1986)もあるように、むしろ彼らは、確固たる動機も持たずに学び始めた英語という言語学習の途上で、この言語自体もしくは外国語を学ぶということのおもしろさや重要性を体験し、これをさらに学び続けるモティベーションを新たに形成していくのだと考える方が現状に即していると考えられるのではないだろうか。垣田他(1983)も、高校生で英語が好きだというグループでは、大学受験や将来の職業、さらには他国の人々との意思疎通などの具体的な目標設定が見られるのに対して、中学生の英語が好きなグループに比較的多く見られる特徴として、「英語が楽しくなったから、ただ楽しいからやっている」というように、「特に目的意識はないけれど、英語学習そのものへの興味が学習の動機づけとなっている場合がある」(p.21)と指摘している通りである。

ドイツ語学習者の現状

大学の教育現場ではあまり意識されていないことなのだが、たいていの場合大学に入学して初めて学び始めるドイツ語やフランス語などのいわゆる新修外国語(最近は第一、第二外国語という区別の仕方をしない傾向にある)についても、実は前述の中学生が英語を学び始めるときと似た状況にあると考えるべきである。すなわち、大学生の多くは入学直後の履修登録に際して、いくつかの選択肢の中から英語以外の外国語科目を、その言語を話す国や地域やそこに

住む人々などについての予備知識すらないままに、時に副次的な情報に左右されながら、また場合によっては半強制的に選択履修しているのが現状だからである。

ちなみに、筆者がかつてドイツ語初級クラスにおいて、その第一回目の授業時に、ドイツに関する簡単な知識やイメージをたずねるアンケート形式の調査(4クラス対象、被験者大学1年生200人、1992年)をしたところ、例えば知っているドイツ人名を三人まであげるという質問に対して、54人(27%)の学生が無回答であったし、ドイツの通貨単位を聞いたところ、110人(55%)しか正解しなかったばかりか、74人(37%)の学生が無回答であった。さらに驚くべきことには、ドイツに関して知っていること(イメージすること)を五つまであげてもらう質問に関しては、五個全て記入できたのは15人で、以下四個、三個、二個、一個の順に10人、20人、32人、45人と続き、無回答の学生は78人(39%)にも及んだ。質問内容が大雑把すぎてかえって答えにくかった学生がいたとしても、無回答者の多さからは彼らのモティベーションの高さは感じられない。これ以降にも少しずつ質問内容を変えながら、同様のアンケートを何度か実施したが、あまり大きな違いは見あたらなかった。

また、新入生が上級生からの情報によって履修外国語を決定したり、ベルリンの壁崩壊の翌年にドイツ語履修希望者が倍増した事実をわれわれは知っている。前者において、授業内容のおもしろさや担当教員の教え方の上手下手の情報を手がかりに履修外国語を決定する場合は積極的な情報利用と言えるだろうが、「ある教員は宿題が多くて厳しい」とか「この教員の授業は単位が取りにくい」などという情報によってその教員の授業が敬遠されるような場合は、前述の「外発的動機」のなかの「罰を避けるという外的報酬を期待した行動意欲(単位を落とすという罰を回避するために厳しい教員の授業をとらないようにする)」ことに関係すると考えてよいだろう。後者の場合も、実際にその年に履修を

Page 4: 学習のモティベーション形成と教 科書の影響-ドイツ語を ......JALT2002 AT SHIZUOKA 91 CONFERENCE PROCEEDINGS山本洋一: 学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

JALT2002 AT SHIZUOKA 93 CONFERENCE PROCEEDINGS

山本洋一:�学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

決めた学生たちの中に、ドイツ語学習に対する確固たるモティベーションが働いていたかどうかは疑問である。この現象は、外界からの断片的情報によって一時的に言語学習モティベーションが表面的に形成されたように見えただけかもしれない。というのも、この履修希望者増加の傾向は、既にこの事件の翌々年には終息に向かったからである。バルセロナオリンピックやソウルオリンピックに際して、スペイン語や韓国語の履修者が増えたのも、それまで予備知識がなかったところに連日メディアから流れるこうした地域の情報が、選択科目決定に大きく影響を及ぼした例と考えられるのではないだろうか。もちろん、ベルリンの壁崩壊もオリンピックも、言語学習の「契機」として重要な役割を果たしていることには異論はないが、このような世界的イベント等の影響を受けやすい層の学生の内部で、それが確固たるモティベーションにまで高められたとは言い難い。

このような状況下では、学生たちがその言語を学習するためのモティベーションをしっかり持って履修するのか否かということは、あまり問題になり得ない。希薄なモティベーションしかもたない、もしくはモティベーションそのものを持たずに学習し始めた学生たちに、いかにしてモティベーション形成を促すかということと同時に、いかにしてモティベーション喪失を阻止するかという課題のほうが重要だと考えるべきであろう。つまり、ドイツ語教育の現場において注目されるべきなのは、学習者が言語学習の過程で獲得していくモティベーションのほうだということである。

日本独文学会ドイツ語教育部会は、1997年と1998年に全国のドイツ語履修者(有効票本数2831名105大学分)とドイツ語教師(回答数1330)に対して、ドイツ語教育の現状に関する広範な調査を実施しているが、その調査報告「ドイツ語教育の現状と課題」(近藤他、1998)は、こうしたドイツ語履修者の状況を浮き彫りにする数多くの示唆的アンケート調査結果をわれわれに提供している。近藤他

の調査結果より、まず、学生のドイツ語履修の動機を見てみると、「ドイツ語圏に関心ある24%」「将来役に立つとおもう19%」「学習した経験がある2%」といったいわば既に積極的な動機を持ったグループと「他の外国語より楽しそう16%」「勧める人がいた13%」という積極的とも消極的ともとれないグループ、そして「履修が義務だから13%」「特に理由はない14%」という学習のモティベーションを感じられない学生のグループに大別される。このモティベーションが希薄なグループに「その他6%」を加えても合計で26%であり、45%を占めるモティベーションの高い学生のグループには及ばない(近藤他、1998、p.58)。これは一見すると、好ましい調査結果のように思われるかもしれないが、われわれはむしろ流動的な立場にいる二番目のグループ(合計29%)に注目しなければならない。

他の外国語より何となく楽しそうだと期待して、また他人から勧められてドイツ語を勉強し始めた彼らが実際の授業を受けて、もし「ドイツ語はつまらない」とか「授業が負担だ」などと感じてしまったとしたら、途端に彼らのモティベーションは消滅し、三番目のグループの仲間入りをしてしまうことになるだろう。そうなると事態は深刻で、学習のモティベーションが希薄な学生の方が積極的に学びたいと思っている学生よりもずっと多くなってしまうことになる。

このことは同時に、積極的にドイツ語を学びたいと思っていた学生達にもあてはまる。学習のモティベーションが当初は明確だった学生でも、それが持続できなければ当然学習意欲を喪失してしまい、三番目のグループと何ら変わらなくなってしまう恐れがあるからである。また、そもそも「将来役に立つとおもう」という理由でドイツ語を履修した学生が19%いると言っても、英語とドイツ語の学習意義を比較した質問では、英語に対する期待とドイツ語に対するそれとでは大きな違いを見せている。英語に関して言えば、実際に「将来、社会に出たときに必要」と感じてい

Page 5: 学習のモティベーション形成と教 科書の影響-ドイツ語を ......JALT2002 AT SHIZUOKA 91 CONFERENCE PROCEEDINGS山本洋一: 学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

JALT2002 AT SHIZUOKA 94 CONFERENCE PROCEEDINGS

山本洋一:�学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

る学生が最も多く被験者の70%に達している。以下「国際交流という社会的要請」(42%)、「実践的な語学力」(35%)、「異文化理解の能力」(30%)と続くのに対して、ドイツ語の場合は、「教養を高め、視野を広げる」(39%)が筆頭で、「異文化理解の能力」(37%)、「専門の基礎教育」(23%)と続いた後に、ようやく「将来、必要」(20%)が登場するという事実(近藤他、1998、p.65)から見ても、「将来役に立つとおもう」というドイツ語の履修動機も、はたして積極的な意味での「道具的動機」となり得るのかは疑問である。

また、前記のアンケートは、せっかくドイツ語を学習し始めたにもかかわらず途中で学習意欲を失ってしまった学生達に、何に問題があったのかについても尋ねている。その結果、「教材」をあげた学生が22%と最も多く、ついで「授業内容18%」と「授業方法18%」が同率で二番手につけている。また「自分の努力が足りなかった」と考える学生も16%いる一方で、「教師に問題あり15%」や「ドイツ語文法そのものが難しい10%」を理由にあげている学生も見逃せない。(近藤他、1998、p.62)

このように、学習意欲を喪失する原因はいくつもあるが、これらの要素は当然お互い密接に関係している。しかし、あえて個々の要素に特化して考えた場合、教材に問題があると考える学生が最も多かったことにとりわけ注目してみたい。垣田他(1983)も、「学習意欲、動機づけの問題は、教授過程においてのみならず、より本質的には、教材のレベルにおいても検討されなければならないであろう。どの教材を選択するかで、学習意欲を喚起するか否かが決定されるといっても過言ではないからである。」(p.58)と述べている。

ところで、日本でドイツ語教育に携わる教師達に利用教材に関して尋ねた複数回答による質問では、他を圧倒して高い割合を示したのは、「国内のドイツ語教科書93%」、「録音教材やCD57%」、「ビデオや映画52%」の三つであった(近藤他、1998、p.30)。この結果からは、国内の

ドイツ語教科書を使いながら音声や映像などのメディア教材を利用する、典型的とも言えるドイツ語授業の形態が想像できる。しかしながら、教師たちのほとんどがドイツ語教科書を使用しておきながら、その80%が何らかの意味でその教科書に不満を抱いている事実(近藤他、1998)は興味深い。加えて、先にあげた利用教材のトップ3に続く第四番目が、「自作教材や補助教材40%」利用であることから、多くの教師が教科書に何らかの不満を持ちつつもそれを補いながら利用し続けている現実が見え隠れする。

さて、教師達の教科書に対する不満は、かなり個人的な印象から発せられたと思われるものも含めて多種多様であるが、授業や教師に対する学生からの主な要望「授業はもっとゆっくりと」、「授業内容をもっと簡単に」、「要点を明確にした授業を」と考えあわせると、教科書そのものが抱える問題点もある程度浮き彫りになる。筆者はこれを、次の四点に集約してみた。

まず第一に、学ぶべき文法事項が多すぎる点である。例えば年間二十数回の授業時間の中では、教えられる文法事項は当然限られているはずである。しかし、全てを教える義務感に駆られて、学生の理解が追いつかないままに猛スピードで授業をこなしていく教師も出てきて、学生への負担は加速度的に増大することになる。近藤他(1999)の「たとえば文法などの場合、1年間で『教科書1冊は!』とか『一通り終わらせたい』という教員の気持ちによって、無意識のうちに学生の理解の程度に配慮が不足する状況を生み出してはいないか、検討が必要だろう」(p.67)という指摘にもあるように、不用意にやさしくすることは避けなければならないが、実際の授業時間数を考えて、初習者の教科書からは、より重要な文法事項以外は思い切って割愛する決断も選択肢のひとつに加えておくべきである。

次に問題なのが、使用単語数である。学生のモティベーション形成に重大な影響を及ぼすと考えられる最初の学期で、

Page 6: 学習のモティベーション形成と教 科書の影響-ドイツ語を ......JALT2002 AT SHIZUOKA 91 CONFERENCE PROCEEDINGS山本洋一: 学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

JALT2002 AT SHIZUOKA 95 CONFERENCE PROCEEDINGS

山本洋一:�学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

教科書の半分程までを学習すると仮定してみたとしても、教科書によってその使用単語数には大きなばらつきがあるのが現状である。最近の文法読本のなかから総ページ数がほぼ同じものを数冊比較しただけでも、教科書の半分までの使用単語数は、延べ数でおおよそ1500語程度のものから3000語をはるかに越えるものまで、実に大きな差が見られるのである。これでは単語を憶えさせたいのか文法を教えたいのか、著者の意図が全く量りかねる。単語の意味を調べることだけに時間を費やす学生は、それを負担に感じるだけで、学習の喜びや達成感を味わうことなどできるはずもない。

三番目の問題は、学ぶべき内容の配列が体系的でない点であるが、これは次にあげる学習事項の重点が明確でないという問題と密接に関係する。われわれは、ひとつの課の中に無計画に文法事項を詰め込んでいるとしか思えないような教科書や、既習事項と未習事項が整理されていない教科書が意外にたくさんあることに驚かされる。具体例をいくつかあげてみると、ある教科書の「定冠詞類、不定冠詞類、人称代名詞の格変化」というタイトルが付いた第4課では、この三項目の間に「“möchte”の人称変化」という項目が割って入ってきて、学生は突然助動詞möchte(ここでは普通の動詞として登場)の特殊な人称変化形を学ぶことになる。これではあまりに唐突で、テーマに沿った授業の流れが著しく阻害されることになる。また別な教科書の第2課は、動詞の基本的な人称変化を初めて学ぶ課であるにもかかわらず、例文や練習問題に“Ich gehe ins Kino. / Ich gehe ins Konzert. / Was macht er am Wochenende?” など、3課の名詞の格変化や7課で初めて登場する前置詞の知識がなければ理解できないような文が、突如として登場してくる例もある。教師はこの場合も、どうしてもその場のテーマから外れた部分の説明を加えなければならなくなる。それがたとえ、「これこれの部分は後日、3課と7課で説明します」という但し書き的説明だけであったとしても同様である。

以上のような状況では、その授業での重要ポイントに集中することなどできないし、そもそも何を学ぶべきなのかがわからず、達成感を得ることも新たな学習意欲を沸き立たせることなど到底不可能になってしまう。垣田他(1983)も、中高生が英語学習に対する興味を喪失してしまう理由のひとつとして、暗記事項の多さ、単調なドリル、テストによる強制などの問題点をあげ、「学習者の側に負担が大きくなれば、学習意欲を高めるどころか、フラストレーションや失敗につながってしまう危険性がある」(p.70)と指摘している通りである。このような問題をはらんだ教科書は、教師にとっても使い勝手が悪いのは当然で、効果的な授業を構築するのに大きな障害となると言わざるを得ない。

ところで、モティベーションと複雑に関連しあっている学習者要因のうち、学習者のパフォーマンスに悪影響を及ぼす「学習不安“Anxiety”」の問題は、本論においても特に重要であると考えられる。学習不安は、権威主義的な教員の態度によっても誘発されるであろうし、学習者がいだく自分の能力に対する不信感からも生じるであろうが、そもそも授業の目標設定が曖昧だったり、教師と学習者が共に授業のテーマを見失ったりすれば、いとも簡単に浮上してくるものであろう。中田(1999)は、「学習不安を解消するには、自信を取り戻すことが必要なことは明らかである」(p.27)と述べているが、何を学んでいるかわからないままに授業が進み、一度も理解できたという達成感を味わうことがなければ、自信回復などは望むべくもないばかりか、垣田他(1983)の指摘にもあるように、「わかるという報酬がなければ学習は停止してしまう」(p.19)可能性さえあるのである。その意味で、これまで例示してきた使い勝手の悪い教科書は、こうした危険を助長する恐れがあると考えられる。

Page 7: 学習のモティベーション形成と教 科書の影響-ドイツ語を ......JALT2002 AT SHIZUOKA 91 CONFERENCE PROCEEDINGS山本洋一: 学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

JALT2002 AT SHIZUOKA 96 CONFERENCE PROCEEDINGS

山本洋一:�学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

工夫の試み

こうした問題を解決すべく、筆者は実際に文法読本「ドイツ語はやさしい」(1998)を作って、いくつかの工夫を試してみた。そこでは、直接的、間接的に学生の学習不安を取り除くと同時に、教師による効果的な授業の営みを阻害しない内容構成が意図されている。無論、その成果に関しては、利用した教師や学生の判断にゆだねるしかないが、当該の試みを例示するとしたら、まず時間効率を考えて、各課のタイトルを従来型の文法用語だけの無味乾燥なものではなく、例えば「動詞は主語によってかたちを変える」といった、タイトルそのものがすでに文法説明であり、その課で学ぶ中心的テーマを語るように工夫した(図1参照)。これは、学習者の目標設定にも寄与するように考えられた方法だが、この教科書の出版当時では斬新な試みであった。

図1: ドイツ語はやさしい(白水社)目 次

Lektion 1 ドイツ語はこんな音� � � � 5� 発音

Lektion 2 動詞は主語によってかたちを変える� 8��� 動詞の現在人称変化(1)・語順・疑問文

Lektion 3 名詞には三種類の性がある� � 12� 名詞の性、数と冠詞・人称代名詞・接続詞(1)

Lektion 4 名詞には四つのかたちがある� � 16� 名詞(人称代名詞)の格変化とその用法

Lektion 5 語幹も変化する動詞がある� � 21� 動詞の現在人称変化(2)・命令法

Lektion 6 前置詞を使えばいろんなことが言える� 25�� 前置詞・定冠詞との融合形

Lektion 7 名詞の性・数・格を表すその他の方法� 30� 定冠詞類と不定冠詞類・形容詞の付加語的用法

Lektion 8 「前つづり」って何だろう?� � 34� 分離動詞・非分離動詞・zu不定詞

Lektion 9 動詞には三つのかたちがある� � 38�� 動詞の三基本形・過去人称変化・接続詞(2)

Lektion 10 助動詞を不定形といっしょに使う� � 43�� 話法の助動詞・未来形�

Lektion 11 過去の出来事はむしろ完了形で�� 47� 完了形(過去分詞を使う表現その1)

Lektion 12 werdenのもうひとつの使い道�� � 51� 受動態(過去分詞を使う表現その2)

また、全12課約50ページからなるこの教科書は、初めの半期分の使用単語をのべ1600実質400語に抑えた。さらに、新しい文法事項を学ぶ箇所では新出単語は極力使用せず、文法学習に集中できるように配慮した。

図2: 各課の前置詞、新出名詞、新出動詞の登場頻度の違い(Words Appearance)

図2は、各課の前置詞�(“preposition”)、新出名詞�(“noun” [“new”])、新出動詞��(“verb” [“new”]) の登場頻度の違いを表しているが、たとえば「名詞の性」などについて学ぶ3課にお

0

5

10

15

20

25

30

5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29

L.1 L.2 L.3 L.4 L.5 L.6

Lessons

preposition

noun(new)

verb(new)

Page 8: 学習のモティベーション形成と教 科書の影響-ドイツ語を ......JALT2002 AT SHIZUOKA 91 CONFERENCE PROCEEDINGS山本洋一: 学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

JALT2002 AT SHIZUOKA 97 CONFERENCE PROCEEDINGS

山本洋一:�学習のモティベーション形成と教科書の影響―ドイツ語を初めて学ぶ学生の場合

いては、新しく登場するのは名詞だけで、前置詞はもちろんのこと新出動詞も皆無であることが一目瞭然である。また、「名詞の格変化」を学ぶ4課と「動詞の人称変化」がテーマの5課では、それぞれの変化を集中的に学んでほしいので名詞も動詞も新しいものはあまり登場させず、それ以前に登場している単語を利用して例文や練習問題を作成しているのである。6課において三者の登場頻度がこのような関係になっているのは、この課のテーマが「前置詞」だからである。

いずれにしても、前述の例のように、未習の文法事項を例文や問題文に不用意に使用するのを避けたのは当然であるが、単語に関しても文法事項に関しても、段階的・体系的に学び進んでいけるように、一度学んだものはその後意識的に例文や読み物の中に織り込んで、学生が無意識のうちに繰り返し学習できるような工夫をしてみたのである。実はこうしたことは当然考えておかなければならないはずなのだが、残念ながらこれまでは、あまり意識されていなかった。教授法に関する意識の高い教員個人が、せいぜい経験的に行ってきたというのが現実なのではないだろうか。どのような形態の教科書であれ、その著者は以上の点には最低限留意すべきであろう。

おわりに

本論では、学生の言語学習モティベーションの授業過程における形成に関連して、使用教科書が与える影響を問題にしてきたが、垣田他(1983)の指摘にもあるように、「明確な目的意識を持たない学習者に対してこそ、教材や教授法を工夫して学習意欲を喚起するのが必要」(p.61)なのであり、われわれ外国語教育にたずさわるものは、これを教科書だけの問題とせずに総合的な効果的授業経営の問題ととらえ、よりよい授業を目指す責任があることをこれまで以上に認識しなければならないだろう。

[付記]:英文要旨作成に際しては、愛媛大学のRudolf Reinelt氏にご助力いただきました。

参考文献

Deci, E. L. (1977). The effects of contingent and noncontingent rewards and controls on intrinsic motivation. Organized Behavior and Human Performance, 8, pp.217-229

Dornyei, Z. (1996). Moving language learning motivation to a larger platform for theory and practice. In R.L. Oxford (Ed.), Language learning motivation: pathways to the new century (pp. 71-80). Honolulu: University of Hawaii Press.

Ellis, R. (1986). Understanding second language acquisition. Oxford: Oxford University Press.

Gardner, R. C. & Lambert, W. E. (1972). Attitudes and motivation in second language learning. Rowley, MA: Newbury House.

垣田直巳監修・三浦省五編・中村嘉宏・古賀恵子・縫部義憲・高塚成信(1983)『英語の学習意欲』大修館書店

近藤弘・朝倉巧・川島淳夫・合田憲・鈴木芳男・保阪靖人・山本泰生・金井満�(1999)�『ドイツ語教育の現状と課題 -アンケート結果から改善の道を探る-』日本独文学会ドイツ語教育部会

中田賀之�(1999)�『言語学習モティベーション』リーベル出版

山本洋一�(1998)�『ドイツ語はやさしい』白水社