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群馬大学社会情報学部研究論集 第 26 114 2019 1 【原著論文】 小中学生におけるインターネット依存をもたらす諸要因 群馬県前橋市における追跡調査に基づいて 伊藤 賢一 理論社会学研究室 Factors Leading to the Internet Addiction among Schoolchildren: On a Longitudinal Panel Survey in Maebashi City Kenichi ITO Sociological Theories Abstract The Internet addiction is supposed to be one of the serious social problems in Japan especially after a survey result of the Ministry of Health, Labor and Welfare survey team reported in 2013. This paper inquires how much schoolchildren are getting into the Internet addiction on surveys we executed in Maebashi City during these three years (2015 2017) including a longitudinal panel survey. The result tells us 4.5-7.9 % of elementary school children and 6.2-7.6% of junior-high school students belong to the high risk group. It also shows that once you fall into addiction, it is appropriately difficult to get out of such condition. We investigated also the influence of the parental control to the Internet addiction among pupils through asking the domestic rules and found that those rules could not prevent the overuse of the Internet of schoolchildren. キーワード:青少年,インターネット依存,K スケール,追跡調査,家庭のルール 1. はじめに 2018 6 18 日に世界保健機関(WHO)は国際疾病分類第 11 版(ICD-11)に「ゲーム障害」を 入れたと発表し,大きな話題になったが,すでに 2018 年の年頭からこの話題は繰り返し報道されてい る。オンラインゲームへの「依存症」を含むネット依存がこのように注目されるのは 2013 年に厚労省 公募研究班が「全国にネット依存が疑われる中高生 51 8 千人」と発表して以来のことと思われる。 さらに 2018 8 31 日には,やはり厚生労働省研究班が,ネット依存が疑われる中高生は 5 年前と 比べて約 40 万人増えて 93 万人に上る,と発表して人々を驚かせた。近年,この問題に関しては医学

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群馬大学社会情報学部研究論集 第 26巻 1-14頁 2019 1

【原著論文】

小中学生におけるインターネット依存をもたらす諸要因

― 群馬県前橋市における追跡調査に基づいて ―

伊藤 賢一

理論社会学研究室

Factors Leading to the Internet Addiction among Schoolchildren:

On a Longitudinal Panel Survey in Maebashi City

Kenichi ITO

Sociological Theories

Abstract

The Internet addiction is supposed to be one of the serious social problems in Japan especially after a survey

result of the Ministry of Health, Labor and Welfare survey team reported in 2013. This paper inquires how much

schoolchildren are getting into the Internet addiction on surveys we executed in Maebashi City during these three

years (2015 – 2017) including a longitudinal panel survey. The result tells us 4.5-7.9 % of elementary school

children and 6.2-7.6% of junior-high school students belong to the high risk group. It also shows that once you

fall into addiction, it is appropriately difficult to get out of such condition. We investigated also the influence of

the parental control to the Internet addiction among pupils through asking the domestic rules and found that those

rules could not prevent the overuse of the Internet of schoolchildren.

キーワード:青少年,インターネット依存,Kスケール,追跡調査,家庭のルール

1. はじめに

2018 年 6 月 18 日に世界保健機関(WHO)は国際疾病分類第 11版(ICD-11)に「ゲーム障害」を

入れたと発表し,大きな話題になったが,すでに 2018年の年頭からこの話題は繰り返し報道されてい

る。オンラインゲームへの「依存症」を含むネット依存がこのように注目されるのは 2013年に厚労省

公募研究班が「全国にネット依存が疑われる中高生 51万 8千人」と発表して以来のことと思われる。

さらに 2018年 8月 31日には,やはり厚生労働省研究班が,ネット依存が疑われる中高生は 5年前と

比べて約 40万人増えて 93万人に上る,と発表して人々を驚かせた。近年,この問題に関しては医学

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2 伊藤 賢一

的・疫学的な研究だけでなく,心理学・社会学・教育学等の隣接領域での研究や,教育関係者やNPO

等による啓発活動も盛んに行われている(阿部 2017; 大嶋・小田 2017; 遠藤 2013, 2016; 樋口 2013a,

2013b, 2014, 2017a, 2017b; 石川 2017; 伊藤 2016, 2017, 2018a, 2018b; 掛札 2016; 三原・樋口 2016; 岡

田 2014; 田澤 2015)。

われわれは 2015 年から 2017 年にかけて前橋市教育委員会ならびに NPO 法人青少年メディア研究

協会と協力して,前橋市内の小中学生のネット機器使用についてアンケート調査を行ってきた。子ど

ものネット利用に関しては,2000年代から誘い出し(いわゆる「出会い系」やコミュニティ・サイト

をきっかけにした性的・金銭的被害)やネットいじめのような生徒間のトラブルが問題とされてきた

が,われわれの調査ではとくにネット依存(ゲーム依存・SNS依存)に焦点をあて,調査票を設計し

ている。

本論文はこの調査に基づいて,とくに中学生におけるインターネット依存の状況と,家庭における

ネット利用のルールが生徒たちのネット利用に及ぼす影響について探究するものである。

2. 前橋市調査について

われわれの調査では,前橋市内のすべての小学校・中学校から,各学年(小学校は 5・6年生のみ)

1ないし 2クラスを抽出してもらい,毎年 9月にアンケートを実施している。有効回答数は,2015年

調査で小学生 2,682,中学生 2,448,2016 年調査で小学生 2,562,中学生 3,495,2017 年調査で小学生

2,453,中学生 3,358 である。前橋市内の児童を母集団とした場合,各学年について標本誤差 5%,信

頼度 99%を満たすサイズとなっている。

ネット依存のスクリーニングテストについては,一般的に用いられている IAT(Internet Addiction

Test)ではなく,韓国で開発された Kスケールを使用した。Kスケールは成人用と青少年用とが分か

れていて,回答結果からネット依存の「高リスク使用者」「潜在的リスク使用者」「一般使用者」の判

定ができる(1)。Kスケールを用いた理由は,15問という質問項目の数が学校の教室で生徒に答えても

らうという本調査にとって適切な量であることに加えて,青少年のインターネット依存が問題視され

ている韓国で開発されており,この問題に適合的であると考えられることがあげられる。

上記の調査と平行して,市内の中学 6校で,追跡調査を実施した。2015年度に中学 1年生だった学

年(2016年は 2年生,2017年は 3年生)については全数調査を依頼し,クラス替えがあっても,1人

の中学生が 1 年後・2 年後にどのような回答を行ったのが追跡できるようにした(2)。3 年間に渡って

調査できたのは 431名(男子 212名,女子 219名)である。横断的に行う大規模調査では,全体の趨

勢を把握することはできても時間的変化を追うことはできないため,追跡調査によって初めて見えて

くるさまざまな局面が期待できる。

3. 調査結果におけるネット依存

3 年間の調査を通じて,ネット機器,とくにスマートフォンが確実に生徒たちの生活に入り込んで

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小中学生におけるインターネット依存をもたらす諸要因 3

いることが見て取れる。スマートフォンと従来型の携帯電話を合わせた「ケータイ」の所持率(図 1)

は,小学生で 30.5%(2015 年) → 37.7%(2016 年) → 37.7%(2017 年),中学生で 42.3%(2015

年) → 42.9%(2016年) → 46.5%(2017年)と着実に上がっている。

尚,2014 年から 2015 年にかけて,中学生男子の所持率が 44.0%から 36.6%へと下がっているが,

この時期は従来型の携帯電話からスマートフォンへと切り替わる時期であったため,機器や通信費用

の高額化から購入や契約が見送られた可能性がある。

図 1 「ケータイ」の所持率

図 2に示すのは,2015 年調査と 2017 年調査で,生徒たちが「普段使っている自分専用のネット機

器」として回答したものである。

スマートフォンとタブレットが増えており,とくにタブレットはスマートフォン以上に所持率が高

い。スマートフォンやタブレットの浸透と歩調を合わせるように,携帯ゲーム機の所持率は低くなっ

ている。かつて小学生男子はほとんどが携帯ゲーム機をもっていた時代があったが,2017年の数字で

は小学生男子 62%,小学生女子 51%に過ぎない(中学生男子は 48%,中学生女子 31%)。上述したよ

うに「ゲーム障害」に注目が集まっているが,ゲームは専用機からスマートフォンやタブレットに場

所が移りつつある。

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4 伊藤 賢一

図 2 普段使っている自分専用のネット機器

3. 1. ネット依存の一般的状況

この 3年間のネット依存度を図 3に示す。年によって若干変動があるものの,小学生では 4.5~7.9%

が高リスク使用者,16.5~20.9%が潜在的リスク使用者,中学生では 6.2~7.6%が高リスク使用者,21.5

~25.5%が潜在的リスク使用者と判定された。判定に用いた方法が異なるため単純な比較はできない

が,2017年の厚労省研究班調査では中学男子の 10.6%(前回 2012年は 4.4%),女子の 14.3(同 7.7%)

が「病的な使用」と判定されていたので,前橋市の中学生のネット依存度はかなり少ない数字になっ

図 3. 前橋市調査におけるネット依存度(%)

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小中学生におけるインターネット依存をもたらす諸要因 5

ている(3)。ただ,16年と 17年では,小学生の方が高リスク使用者の割合が多いことは注意すべきで

あろう。ネット利用の低年齢化とともに,依存のリスクも高まっていると思われ,今後はより低年齢

の児童に対する調査も検討しなければならない(4)。

3. 2. ネット依存の年次変化

次の図 4は,追跡調査を行った 431名について,2015 年と 2016年のネット依存度の判定結果を示

したものである(5)。

図 4:2015年(中 1)と 2016年(中 2)の依存度

この図では 2015 年の結果を縦軸に,2016年の結果を横軸にとってある。中学 1年生の時点で一般

的使用者だった群では,約 7 割が 2年生の時点でも一般的使用者であるが,1 年生の時点ですでに高

リスク使用者だった群では,半数以上が 2年生の時点でも高リスク使用者である。いったん問題のあ

るネット利用が身についてしまうと,なかなか止められなくなることを示している。

依存度の診断では 3種類に分けられてしまうが,依存度スコア(Kスケールの総得点)の分布をも

っと細かくみるために散布図にしたものが図 5である。+印は男子,〇印は女子を示している。相関

係数は男子 0.570,女子 0.707,全体では 0.649で,いずれも 1%水準で有意である。中学生の場合,お

おむね 44 点以上が高リスク使用者,41 点以上が潜在的リスク使用と診断されるので,図では右上に

位置している生徒が,1年次も 2年次でも高リスク使用者,ということなる(6)。どちらでも高リスク

のグループは女子が多いように思われるが,全体の分布としては男女ともに正の相関がみられ,すな

わち,中学 2年の時点で得点が高い生徒は中学 1年の時点でも得点が高かった。

図 6 に示すのは,2016 年と 2017 年のネット依存度の状況である。図 4 と同様に,2 年生の時点で

一般使用者だった群では 7割以上が 1年後も一般使用者のままで,2年生のときに高リスク使用者と

判定された群では半数が 3年生になっても高リスク使用者にとどまっている。調査対象はすべて市立

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6 伊藤 賢一

図 5:2015年(中 1)と 2016年(中 2)の依存度スコア(男女別)

中学校の生徒なので,ほぼ全員が高校入試を控えているはずである。このデータは,調査を行った 9

月の時点でも一部の生徒,とくに中学 2 年の時点で高リスク使用者と診断された生徒 46 名の半数の

23 名は不健全なネット使用を止められないでいることを示している。この 23名の性別は男子 10名,

女子 13名で,中 3の段階では全員が何らかのネット機器を使っており(そのうち自分専用のスマート

フォンを使用しているのは11名・47.8%),「よく使う」と答えたネットサービスは,動画(22名・95.7%),

ゲーム(18名・78.3%),検索(18名・78.3%),LINE(13名・56.5%)である。

図 6:2016年(中 2)と 2017年(中 3)の依存度

男子 女子

無回答

性別

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小中学生におけるインターネット依存をもたらす諸要因 7

同じく,図7に2016年と2017年の依存度スコアの散布図を示す。相関係数は男子0.676,女子0.722,

全体では 0.705で,いずれも 1%水準で有意である。1年次から 2年次にかけての時期よりは,若干相

関係数が高くなっている。注(6)で示したように依存度スコアから直接的に診断が導かれるわけでは

ないが,上述の 23名は図の右上に出ているはずである。

いったんネット依存の状況に陥るとなかなか抜けだすのは難しいので,そうなる前に予防すること

が重要であるとよく指摘されるが,以上のデータからも同様のことが指摘できる(7)(8)。

図 7:2016年(中 2)と 2017年(中 3)の依存度スコア(男女別)

3. 2. 家庭でのルールとネット依存

多くの家庭で子どものインターネットの使用については何らかのルールを決めていると思われる。

追跡調査を行った 431人のうち,中 2の段階でケータイ(子ども用携帯電話,従来型の携帯電話(ガ

ラケー),スマートフォンのいずれか)を「自分専用として所持している」と答えた 180名について,

「携帯電話やスマートフォン利用について家で決めているルール」に関する回答を図 8に示す。

家庭でのルールは「特にない」という回答は 17.8%にすぎないので,他の 8割以上の家庭では何ら

かのルールがあるものと推測されるが,その内容は多様であり,一番回答数の多い「フィルタリング

について」でも 27.2%に過ぎない。家庭でルールをつくるペアレンタルコントロールは何らかの形で

行われているものの,家庭環境に応じてさまざまな形がありうると思われる。

家庭のルールの有無や種類が,その後の生徒たちのネット利用に影響を与えているかどうか確かめ

るために,2年生の時点で家庭でのルールと 3年生の時点でのネット依存度の関係をクロスさせた結

男子

女子 無回答

性別

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8 伊藤 賢一

図 8:家庭で決めているルール(2016年・複数回答)

図 9 家庭でのルール(中 2)とネット依存度(中 3)

果を図 9に示す(中 3の段階で依存度が「測定不能」である生徒を省いた 154名を対象とした)。これ

を見ると,「利用時間」や「使わない場面や条件」に関するルールがあると 3年次の依存の状態が若干

良好であるように見えるが,それぞれの項目について選択した生徒たちと選択しなかった生徒たちと

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小中学生におけるインターネット依存をもたらす諸要因 9

でネット依存度が異なるのかΧ2検定を行った結果,有意となった項目はなかった。また,特に「家庭

でのルールはない」と回答した 23名がその後依存度を高めているとも言えず,ネット依存問題に関す

る「有効な」ルールは,この分析からは(残念ながら)見出せなかった。

確認のために,16年度と 17年度の依存度スコアの散布図上に,家庭のルールの有無を示したもの

を作成してみると,図 10のようになった。+印で示されているのが,「ルールはない」と答えた生徒

で,それ以外は何らかのルールがあるものと推測される。相関係数は全体では 0.630,ルールがないと

答えた生徒では 0.643,ルールがあると答えた生徒では 0.633で,いずれも 1%水準で有意であった。

これをみる限り,家庭のルールがネットの過剰使用に対するなんらかの歯止めになっている様子は観

察できない。中学 2年の時点でのルールを示したものなので,中学 3年の時点でのネット利用に対し

てあまり効果がないのは時間が経過したせいかもしれないが,中学 2年時のネット利用との関係にお

いても,やはり効果らしいものは見出せない(9)。

図 10:2016年(中 2)と 2017年(中 3)の依存度スコア(家庭でのルール有無別)

4. おわりに

いったん不健全なネット利用,とりわけネット依存に陥るとなかなかそこから抜け出せないとよく

指摘されるが,われわれの追跡調査からもある程度それを示すデータが示された。

一般にネット依存については,男子の場合はオンラインゲーム,女子の場合は SNSのようなコミュ

ニケーションツールが危険だと言われているが,われわれの追跡調査でも,男女共にネット依存のリ

スクに晒されていることが示された。

ルールあり ルールなし

家庭でのルール

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10 伊藤 賢一

家庭でのルールに関しては,ネット依存のリスクを軽減する効果はこの調査では検出できず,家庭

でのルールは「特にない」と回答した生徒も他と同じような依存のパターンを示している。ルールが

なくても自律できる生徒なのか,そもそもネット利用にあまり興味を示していない生徒たちなのか,

さらなる分析が必要である。

謝辞

本論文は日本学術振興会・平成 27~30 年度科学研究費補助金基盤研究(C)「青少年の不健全なイ

ンターネット利用(PIU)に関する構造的要因と対策の探究」(研究課題/領域番号 15K00459)によ

る研究成果の一部です。また,本論文中で参照した調査については前橋市教育委員会ならびに NPO

法人青少年メディア研究協会(AMS)に協力していただきました。日本学術振興会による研究助成な

らびに,調査に応じてくださった生徒・保護者のみなさんと学校関係者,前橋市教育委員会,下田太

一AMS理事長に感謝申し上げます。

(1)Kスケール(青少年用)の項目と集計方法については久里浜医療センターのウェブページに紹介

されてあるものを利用した。http://www.kurihama-med.jp/tiar/tiar_07.html

「インターネットをする」を「スマホやゲーム機などを使う」と改めるなど,若干修正した箇所

がある。われわれが用いた具体的な質問文は以下の通り(*印のものは逆転項目)。

1. スマホやゲーム機などを長い時間使うことで,学校の成績が落ちた。

2. 家の人や友だちといっしょにいるより,スマホやゲーム機などで遊んでいたほうが楽しい。

3. スマホやゲーム機などが使えなくなるのはたえられない。

4. スマホやゲーム機などの使う時間を減らそうと思うが減らせない。

5. スマホやゲーム機などで疲れて,授業中に寝てしまう。

6. スマホやゲーム機などのために,計画したことができなかったことがある。

7. スマホやゲーム機などをつかっているとすぐに気分がよくなる。

8. スマホやゲーム機などを使っていて,思い通りにならないとイライラしてくる。

9.* スマホやゲーム機などを使う時間を自分で決めて,守ることができる。

10.* 疲れるくらいスマホやゲーム機などを使うことはない。

11. スマホやゲーム機などを使えないと,落ち着かなくなり焦ってくる。

12. スマホやゲーム機などを使うときに,やめようと思いながらも使ってしまう。

13.* スマホやゲーム機などを使っても,計画したことはきちんとおこなう。

14.* スマホやゲーム機が無くても大丈夫,不安にはならない。

15. スマホやゲーム機などに時間を使いすぎているといつも思っている。

上記それぞれについて,「そう思う」4点,「だいたいそう思う」3点,「あまり思わない」2点,「そ

うは思わない」1 点として合計得点を計算した(一部に答えていない等の理由で判定できない場合

は「測定不能」とした)。

判別は,合計得点だけでなく,要因別得点(A要因〔質問 1,5,6,10,13〕,B要因〔同 3,8,

11,14〕,C 要因〔4,9,12,15〕)も用いている。久里浜医療センターのサイトには解説が付され

ていないが,カウントされている質問項目をみると,A 要因は生活への影響,B 要因は遮断した際

の反応,C要因は時間管理を測定していると推定される。判定基準は以下の通りである。

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小中学生におけるインターネット依存をもたらす諸要因 11

①高リスク使用者:〔中学生〕合計得点が 44点以上,あるいはA要因 15点以上,B要因 13点以

上,C 要因 14点以上のすべてに該当する場合,〔小学生〕合計得点が 42点以上,あるいは A 要因

14点以上,B要因 13点以上,C要因 13点以上のすべてに該当する場合。

②潜在的リスク使用者:〔中学生〕合計得点が 41~43 点,あるいは,要因別得点が A 要因 14点

以上,B 要因 12 点以上,C 要因 12 点以上のいずれかに該当する場合,〔小学生〕合計得点が 39~

41点,あるいは,A 要因 13 点以上,B 要因 12点以上,C 要因 12点以上のいずれかに該当する場

合。

③一般的使用者:〔中学生〕総得点が 40点以下で,要因別得点がA要因 13点以下,B要因 11点

以下,C要因 11点以下である場合,〔小学生〕総得点が 38点以下で,要因別得点がA要因 12点以

下,B要因 11点以下,C要因 11点以下である場合。

高リスク使用者とは「インターネット依存傾向が非常に高」く,「専門医療機関などに」相談が

必要とされるユーザー,潜在的リスク使用者とは「インターネット依存に対する注意が必要」で,

「インターネット依存におちいらないよう節度を持って使用」することが求められるユーザー。こ

れに対して一般的使用群は,「インターネットが健全に使用できている」ユーザーとされる。

(2)実査は現場の教師に任せてあり,個々の票がどの生徒を表すのかはわれわれには判らないが,学

校の教師はわかっているので 3年分のデータの紐付けが可能となっている。

(3)われわれの調査で依存度が低く出ているのは,調査方法の違いによる可能性があるが,上記の調

査結果において指摘された中学生における高リスク使用者の上昇はわれわれの調査では検出され

なかった。割合の違いは診断に用いた方法が異なることで説明できるにしても,全国調査で観察さ

れた変化が見出されないことは説明できない。生徒や保護者に対する教育や啓発が効果を発揮して

いる可能性も否定できない。

(4)年齢が低くなると児童本人に対する調査は難しくなってくる面もあり,保護者に対する調査に切

り換えるなど工夫が必要になると考えられる。

(5)この図については,伊藤(2018b)でごく簡単に論じたことがある。

(6)注(1)で記述したように,総得点だけで診断が行われるわけではない。

(7)とはいえ,残りの半数は高リスクの状態から抜けだしているとも言えるので,この生徒たちがど

のようにしてそこから抜けだしたのか,より詳細な検討が必要であろう。

(8)同様の散布図は,さまざまな別の項目について作成することも可能である。次ページの図ⅰ・図

ⅱに示すのは,16年度と 17年度の依存度スコアの散布図を,ネットサービスの利用頻度(ゲーム,

LINE)毎に作成したものである。この散布図からは,中学 2年時・中学 3年時ともに高リスク使用

者であるグループは,LINEよりもゲームをよく使うと回答した生徒が多いと言えそうである。

16 年度・17 年度ともに依存度スコアが 44 以上の生徒のうち,「ゲームアプリ」を「よく使う」

と答えた生徒は 78.6%なのに対し,LINE を「よく使う」と答えた生徒は 42.9%であった。また,

依存度スコア 41以上の生徒では,ゲームを「よく使う」生徒は 74.1%であるのに対し,LINEを「よ

く使う」と答えた生徒は 48.1%であった。

(9)もちろん,子どもが使いすぎるのでルールを設けているとか,子どもに使い過ぎの心配がないの

で,とくにルールを設けていない,といったケースはありうるので,これをもって直ちに家庭のル

ールに「効果がない」と言うことはできない。

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12 伊藤 賢一

図ⅰ:2016年(中 2)と 2017年(中 3)の依存度スコア(ゲーム利用頻度別)

図ⅱ:2016年(中 2)と 2017年(中 3)の依存度スコア(LINE利用頻度別)

ゲームアプリ

よく使う

たまに使う

あまり使わない

使わない

無回答

よく使う

たまに使う

あまり使わない

使わない

無回答

LINE

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小中学生におけるインターネット依存をもたらす諸要因 13

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14 伊藤 賢一

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原稿提出日 2018年 9月7日

修正原稿提出日 2018年 11月2日