12
266 CHEMO「rHERA]PY JULY1962 しか に,昭 和36年 調 査 株 に つ い て も71%が 重 複 耐 性 を 示 して い る。そ れ ゆ え,一 般 感 染 症,こ とに院 内感 染 症 例の化学療法実施に当つては,原 因菌の化学療法剤感 性 ないし耐性検査なしには,決 定的化学療法を行ないえ な い とい わ ね ば な らな い。 4.耐 性 ブドウ球菌感染症治療への考え方 耐 性 ブ ドウ球 菌 に よ る感 染症 とい え ど も,も と も と一 定 の病 原 菌 に よつ て お こつ て い るこ とで は,他 の 場 合 と 同 様 で あ る。し た が つ て,感 染 症 治療 の 一 般 原 則,す な わ ち 原 因 菌 が感 性 を 示 す 化 学 療 法 剤 を選 択 して,こ れ を 用 い る か,あ るい は なん らか の免 疫学 的 手 段 を 応 用 して いわゆる原因療法を施すべきである。前 者の治療方針に したが うときには,ま ず新 らしい化学療 法剤 を求めて現 今 の 薬 剤 に 対 して 耐 性 を 示 す ブ ドウ球 菌 の壁 を 破 るべ き である。わ たくしどもでは,最 近新抗生物質 ミカマイシ ン,ス ピ ラ マ イ シ ンお よび ス タ フ シ リン につ い て検 討 を こ こ ろみ た の で,そ の結 果 を 予 報 的 に概 述 す る。 5.ミ カマイシン MMは,Streptemycesmitakaensisの 産 生す る抗生 物 質 で あ つ て,こ れ に はA,B2分 画 が あ る。し か し, A一土B合剤 を もち いれば,強 い相剰的抗菌効果が あ らわ れ る。わ た く しは 昭 和36年6月 京都市で開催された第 9回目本化学療法学会総会にお け るシンポジウムで も MMの 外 科 的 応 用 に つ い て 報 告 した。昭 和35年4月 離 ブ ドウ球 菌31株 お よ び昭 和36年4月 分離 ブ ドウ球 菌40株 は,す べ て が2.5mcglmlま たはそれ以下の MM合 剤(MM-A70%以 上,MM-B30%以 下)で, そ の発 育 を 阻 止 され た。し か も,こ れ らの ブ ドウ球 菌 は SF,PC,SM,TC,CMおよびEMの いずれかに対し て,耐 性 を 示 す もの が ほ と ん どす べ て で あつ た。ま た, 重複耐性菌 もすべてがMM感 性であつた。今 日までの 検 索結果 に よれ ば,MMと 他の化学療法剤 との間には交 叉耐性が成立 しないまうである。 た だ,MMに ついては,血中濃度と用量との間の関係 が あ き らか に され て お らず,ま た 避 腸 的 投 与 用 製 剤 が ま だ で きて い な い こ とが,今 後 に残 され た 問 題 で あ る。 6.ス タ フ シ リン 2,6-Dimethoxyphenylpenicillin(以 下,ST・PC)は, 耐 性 ブ ドウ球 菌 が つ くる ペ ニシ リナ ーゼ に 対 して 安 定 で あ る。本 年度 分 離41株 中31株(76%)はPC耐 性で あ つ た が,そ の うちST.PC2.5mcg/mlま たはそれ以 下 の 感 性 を示 した も の は21株(67・8%)であ つ た。そ. の ほ か,SF,SM,TC,CM,EM耐 性 ブ ドウ球 菌 株 で も, 60%以 上 がST-PC高 度 感 性 を 示 して い た。し たが つ て,耐 性 ブ ドウ球 菌,こ と にPC耐 性 菌 株 に よつ てお こ る感 染症 もPC製 剤 で あ るST・PCに よつ て治 療 で き る わ け であ る。 7.ス ピラマイシン StreptomPtcesambefaeiensカ ミ産生するSPMは,す に1954年発 表 され た も の で あ るが,近 時 わ れ わ れ もそ の臨 床 試 験 を行 なえ るよ うに なつ た。SPM29ま たは 391回 内 服 に よつ て,10mcg小m1前 後の血中濃度がえ られ る。ブ ドウ球 菌35株 中74%以 上 は,SPM感 性 を 示 して い た。な お,EM耐 性 ブ ドウ球菌13株 中 には, SPM耐 性4株 が見 出 され て い る。 8.Anticoagulase 教室の源河朝明博士はさきに,ブ ドウ球 菌coagulase の意 義,こ とにcσagulase陽 性 ブ ドウ球 菌 の病 原 性 につ い て 吟 味 した のち,さ らにcoagulaseを 精製 し,こ れを もちいて家兎免疫をこころみた。そ の結果,免 疫家兎血 漿 中 に は,i)anticoagulaseの 産 生 され て い る こ と,ii) 沈 降 素 もつ くられ,ま たiii)補体結 合反応 も微弱 なが ら陽 性 に み とあ られ る こ と を報 告 した。そ れ で,ひ きつ づ き,iv)感染 実 験 を こ こ ろ み た と こ ろ,免 疫 家 兎 は 対 照 に 較 べ て あ き らか に,ブ ドウ球 菌 の 経 皮 感 染 に 抵 抗 を 示 す こ とが わ か つ た。さ らに,v)免 疫 家 兎 血 清 を もち いて,マ ウスに受動免疫を施し,感 染実験をこころみた と こ ろ,あ き らか に 免 疫 マ ウ ス の死 亡 は,対 照 群 よ りも す くなかつた。 免疫療法は,化学療法の開花期以前に行なわれた原因 療 法 で あ るが,現 今 の ご と く,耐 性(ブ ドウ球)菌 感 染 症 に対 す る化 学 療 法 が難 渋 し て い る時 期 に 再 び 評 価 さる べ き も の で あ る と考 え られ る。 (6)小 域a) 昭和医科大学小 児科教室 各 種 化 学療 法 剤,特 にPenicillin(PC),Streptomy (SM),Tetracycline(TC),Sulfa剤 耐性獲得病原性葡 萄 球 菌(葡 菌)の 増 加 しつ つ あ る現 象 は 世界 一 般 的 な 傾 向 で あ り,私 等 が1957~196l年 間に行なつた小児から 分 離 した 病 原 性 葡菌747株に 就 い て の感 性 態 度 に 於 て も 全 く同様 の傾 向がみ られ る。特 にPC,TC耐性 株の増加 が 特 に 目立 ち,多 重 耐 性 株 も25.8~47.7%と 増加 して い る。Chloramphenicol(CM),Macrolide系,Ka mycin(KM)耐 性 株 は 殆 ん どみ られ な い。と ころで病 原性葡菌は新生児の鼻前庭,咽 頭粘液から強陽性に培養 上 証 明 され る こ とが,今 年4~5月 間に行なつた昭大収 容 未 熟 児 か らの 培 養 成 績 か ら 明瞭 に うか が わ れ る。又 保 温器内に収容 される期間が長 くなるにつれて保温器内落 下細菌中に病原性葡菌が多 くなり,又未熟児内の落下細

CHEMO「rHERA]PY JULY1962fa.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/10/4/10_266.pdfStreptomPtcesambefaeiensカ ミ産生するSPMは,す で に1954年 発表されたものであるが,近

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266 CHEMO「rHERA]PY JULY1962

しかに,昭 和36年 調査 株について も71%が 重複耐性

を示 してい る。そ れ ゆえ,一 般感染症,こ とに院 内感 染

症 例の化学 療法実施 に当つては,原 因菌 の化学療 法剤感

性 ない し耐性検査 なしには,決 定的化学療法 を行 ないえ

な い といわねばな らない。

4.耐 性 ブ ドウ球菌感染症治療 への考え方

耐性 ブ ドウ球菌に よる感 染症 といえ ども,も とも と一

定 の病原菌 に よつてお こつ てい るこ とでは,他 の場合 と

同様 であ る。し たがつ て,感 染症 治療 の一般原則,す な

わ ち原因菌 が感性 を示す化学療 法剤を選 択 して,こ れ を

用い るか,あ るいは なん らかの免 疫学 的手段を応用 して

いわゆ る原 因療法を施すべ きである。前 者の治療方針に

したが うときには,ま ず新 らしい化学療 法剤 を求めて現

今 の薬剤に対 して耐性を示す ブ ドウ球菌 の壁 を破 るべ き

であ る。わ た くしどもでは,最 近新抗生物質 ミカマ イシ

ン,ス ピラマイシ ンお よび スタフシ リンにつ いて検 討を

こ ころみた ので,そ の結 果を予報的 に概述す る。

5.ミ カマイ シン

MMは,Streptemycesmitakaensisの 産 生す る抗生

物 質であつ て,こ れ にはA,B2分 画が ある。し か し,

A一土B合剤 を もち いれば,強 い相剰的抗菌効果が あ らわ

れ る。わ た くしは昭和36年6月 京都市 で開催 された第

9回 目本化学療法学会総 会に お け る シ ンポジ ウムで も

MMの 外科的応用 について報告 した。昭 和35年4月 分

離 ブ ドウ球菌31株 および昭和36年4月 分離 ブ ドウ球

菌40株 は,す べてが2.5mcglmlま た は そ れ 以 下 の

MM合 剤(MM-A70%以 上,MM-B30%以 下)で,

そ の発 育を阻止 された。し か も,こ れ らの ブ ドウ球菌は

SF,PC,SM,TC,CMお よびEMの いずれかに対 し

て,耐 性 を示す ものがほ とんどすべ てであつ た。ま た,

重複耐性菌 もすべてがMM感 性であつた。今 日までの

検 索結果 に よれ ば,MMと 他の化学療法剤 との間には交

叉 耐性が成立 しない まうであ る。

ただ,MMに ついては,血 中濃度 と用量 との間の関係

が あ きらかに され てお らず,ま た避腸的投与用製剤が ま

だ で きていな いことが,今 後に残 された問題であ る。

6.ス タフシ リン

2,6-Dimethoxyphenylpenicillin(以 下,ST・PC)は,

耐性 ブ ドウ球菌がつ くるペ ニシ リナ ーゼに対 して安定 で

あ る。本 年度 分離41株 中31株(76%)はPC耐 性で

あつたが,そ の うちST.PC2.5mcg/mlま たはそれ以

下 の感性 を示 したものは21株(67・8%)で あつた。そ.

の ほか,SF,SM,TC,CM,EM耐 性 ブ ドウ球菌株 でも,

60%以 上がST-PC高 度感性 を 示 していた。し たがつ

て,耐 性 ブ ドウ球菌,こ とにPC耐 性菌株 によつ てお こ

る感 染症 もPC製 剤で あるST・PCに よつ て治療 できる

わけ であ る。

7.ス ピラマイ シン

StreptomPtcesambefaeiensカ ミ産生す るSPMは,す で

に1954年 発表 された ものであ るが,近 時われわれ もそ

の臨 床 試 験 を行 なえ るよ うに なつ た。SPM29ま たは

391回 内服 に よつて,10mcg小m1前 後の血 中濃度がえ

られ る。ブ ドウ球菌35株 中74%以 上 は,SPM感 性を

示 して いた。な お,EM耐 性 ブ ドウ球菌13株 中 には,

SPM耐 性4株 が見 出 され ている。

8.Anticoagulase

教室 の源河朝明博士 は さきに,ブ ドウ球 菌coagulase

の意 義,こ とにcσagulase陽 性 ブ ドウ球菌 の病原性 につ

いて吟味 した のち,さ らにcoagulaseを 精製 し,こ れを

もちいて家兎免疫 をこころみた。そ の結果,免 疫家兎血

漿 中には,i)anticoagulaseの 産 生 されてい ること,ii)

沈降 素 もつ くられ,ま たiii)補 体結 合反応 も微弱 なが

ら陽性 にみ とあ られ ることを報 告 した。そ れ で,ひ きつ

づ き,iv)感 染実験 をこころみた ところ,免 疫家兎は対

照に較 べてあ きらかに,ブ ドウ球菌 の経皮感染に抵抗を

示す こ とがわかつた。さ らに,v)免 疫家兎血清を もち

いて,マ ウスに受 動免疫を施 し,感 染実験を こころみた

ところ,あ きらかに免疫 マウスの死亡 は,対 照群 よ りも

す くなかつた。

免疫療法 は,化 学 療法 の開花期 以前に行なわれた原因

療 法であ るが,現 今 のご とく,耐 性(ブ ドウ球)菌 感染

症 に対 する化学療 法が難 渋 している時期 に再び評価 さる

べ きものであ ると考 え られ る。

(6)小 児 科 領 域a)

中 沢 進

昭和医科大学小児科教室

各種化 学療 法剤,特 にPenicillin(PC),Streptomycin

(SM),Tetracycline(TC),Sulfa剤 耐性 獲得病原性葡

萄球菌(葡 菌)の 増加 しつつあ る現象 は世界 一般的な傾

向で あ り,私 等が1957~196l年 間に行 なつた小児か ら

分離 した病原性 葡菌747株 に就 いての感性態 度に於て も

全 く同様 の傾 向がみ られ る。特 にPC,TC耐 性 株の増加

が特に 目立 ち,多 重耐性 株 も25.8~47.7%と 増加 して

い る。Chloramphenicol(CM),Macrolide系,Kana.

mycin(KM)耐 性株は殆 ん どみ られ ない。と ころで 病

原性 葡菌 は新生児の鼻前庭,咽 頭 粘液か ら強陽性に培養

上証明 され ることが,今 年4~5月 間に行なつた昭大収

容未熟児 か らの培養成績か ら明瞭 に うかがわれ る。又 保

温器 内に収容 され る期間が長 くなるにつれて保温器内落

下細菌 中に病原性 葡菌が多 くな り,又 未熟 児内 の落下細

VOL.1◎NO.4 CHEMO『rHERAPY 267

菌 中にも病原性葡菌 が可成 りの陽性率 に証明 される。且

殺菌燈 の下 に於 てもその陽性率 には変化 がみ られない。

以上 の成績か らみて新生児 は常 に病原性 葡菌 の感 染に暴

露 されてい ることになる。

事実,葡 菌感染症 は新生児期 に多発 し,致 死率 も著 し

く高 くなつて いるので,そ の対策,即 感染 の予防 と治療,

特に治療 に対 しては感性撹生剤 の選択応用が緊要 とされ

てい るo

最 近多発の傾向にあ る幼若児耐性 葡菌症

1)痛,膿 瘍,淋 巴腺 炎,蜂 窩織炎,筋 炎,骨 髄炎

2)肺 炎一→ 膿胸

(生後3カ 月未満乳 児の肺 炎起因菌の大 半に葡 菌 が関

係 し,病 変が広 く。速 かに膿胸 を併発 し,予 後不良の病

型が多 いとされ ている)

3)膿 炎 → 鵬周 囲炎

(膀脱落後 の小潰瘍面は マーキ ロク獄一ム,デ ルマ 卜一

ル等で消毒 されて いることが多 いが,こ の様 な処置 によ

つては病原性 葡菌は消滅す ることな く,時 に膀周囲炎,

蜂窩織炎,敗 血症 と進展す るものがあ る)

4)尿 道炎,膀 胱 炎,膣 炎,化 膿性結 膜炎

(最近耐性 葡菌 に よる流行が発生 してい る。あたか も戦

時中の疎開 した少女 間に流行 した淋菌性 膣炎の ように)

5)葡 菌性発疹症,葡 菌性 下痢症

(広域抗生 剤投与 中に誘 発 される菌 交 代 現象 か ら移 行

した菌交代症 として2次 的発生 をみる こともあ るが,1

次的に発生す ることも少 くない。高 熱,全 身性不規則 辺

縁 の発疹,咽 頭炎,の りのつ くだ煮様 の頻 回性 の下痢便

か らは純培養状 に病原性葡菌が証明 され る)

未熟児 から最近分離 した病原葡菌 の感性態度

40株 を使用 して の検査成績で あるが,PCGに 対 して

は大半耐性,1)imethoxyphenilPCは 全株,最 近入手 し

た新合成PC-P-12(Methy1-pheny1-isexazo!ylPC)で

は1・Omcg小m1以 下で 発 育 阻 止 し,SM26株 ,50.O

Mcg小ml<KMで は全株5.Omcg/ml以 下TC36株10.O

mcg/m1<CM39株 ・10・Omcg(ml以 下,Macrolide系

のEM・Mikamycin,Novobiocin ,Spiramycin耐 性 株

は皆無であつ たo

従つて以上 の感性抗生剤,即 ちDimeth0xyphenilPC,

P・-12・KM・CM,EM ,Spiramycin,N・V等 が耐性葡菌

症 の治療薬 とな るわ けであ るが,幼 若児 では服用 が困難

なことが多 いために,私 等は注射 の可能 な製剤,Dime-

thoxyphenilPC ,P-12,KM,CM等 を重点的に使用 し

ているo

個 々の耐性 葡菌病 型治療 例の紹介

葡菌性肺炎,膿 胸,下 痢症,葡 菌性 発疹 症 も生後100

日未満 の新生児 に多 く経験 され,1日 で肺炎 か ら膿 胸に

移行 した新生児症例 もみ られ る。新 生児肺炎では無熱,

高熱 の場合が あ り早期診断 は必 ず しも容 易ではないが,

2~3日 前感冒様症状 のみられ る ことが 多 く,こ の時 期

か ら早 目に治療を開始す るこ とが,予 後を良好に導 くた

めに緊要な ことであ るか と思われ る。

一 所謂葡菌性狸紅熱一

弛張性 の持続す る高熱,胸,腹 部 に主 として発生す る

麻疹様 の発疹,咽 頭諸粘膜 の著明 な発赤,腫 張,外 に化

膿性 中耳炎,膿 痂 疹,淋 巴腺炎等 を併 い,咽 頭粘液培 養

上溶 連菌 陰性,殆 ん ど溶 血 性 葡 菌 によつ て占め られ,

ASLO値 の上 昇 のみ られ る点か ら診 断 され る病 型であ

り,最 近 の溶 連菌性 狸紅熱 に比較 して快復期 の落屑 が著

明の ようであ る。最 近経験 した2例 の経過 をみ るといず

れ もPC,TC,SM耐 性 葡菌が原因菌 と考 えられ,1例 は

110soneの 内服,他 はCMsuccinateの 筋注に よつ て治

癒せ しめる ことが出来たがPCに は 無 反 応 の病型 であ

り,最 近散見 され る ようであるか ら,溶 連菌性狸紅熱 と

鑑別す る必要が あるもの と思わ れ る。

Dimethoxypheni1-PCに よる小児耐性 葡菌

症の治療 成績

PCG耐 性葡菌を起因菌 とした と思わ れ る小児急性 感

染症36例 を本剤を主体 として治療 し(主 として筋 注),

葡菌性敗血 症に穎粒細胞減少症 を 併 う1例 は 死 亡 した

が,全 例に明 らかな治療効 果を認 めるこ とが 出来た。こ

の際 の1回 の使用用量は250~500mg(乳 児250mg)

1日 の投 与量 大半500~1,000mg,投 与 日数2~11日,

起 因菌 の全 株の本剤に対す る 感性は6・25mcg/ml以 下

で あつた。

PCG耐 性 葡菌 用新 合成PCP-12と 小児 耐性 葡菌症

Dimeth0xypheni1-PCに 続いて製作 された新合成PC

P-12(5・-Methy1-3-pheny1-4--iSoxazolylpenicillin)の

特徴 は前者 よ りPCG耐 性葡菌 に対 して更 に感性 であ り

(D三methoxyphenilPCに 比較 して平均約8倍,感 性 が

高 く,PCG耐 性 葡菌は0。39~3.12mcg/m1間 で阻止.

され る),且,注 射 は勿論,内 服に よつて も治療可能な血

中濃度 の得 られ る点が特徴 とされてい る。

私達が小児か ら分離 した病原 葡菌140株 中,137株 は

P-121.2mcg/m1以 下に よつ て発 育 が 阻 止 され,250

mg,500mg内 服後及 び250mg筋 注後 の血 中濃度 か ら

み ると,PC耐 性,小 児 葡菌症 の多 くがP.12の 内服 及

び筋 注に よつて治癒せ しめ ることを確認す ることが出来

た。こ の際 の1回 の使用用量は0.25,1日 量0.5~0.75

gと い う少量であつた。

以上 の治療成績,感 性態度か らみ てP-12は 今後合成

剤耐性葡菌症 の治療薬 として使用 され ることにな るであ

ろ う。

268 CHEMOTHERAPY JULYjg62

Spiramycinに よる治療成績

小児 か ら分離 した病原性 葡菌140株 に対す る本剤の感

性態 度は136株 が2・5mcglml以 下で あ り,各 種抗 生

剤 耐性葡菌 に対 して も感性 であつた。内 服後 の血 中濃 度

のpeakは3時 間 日にあ り,8時 間 目まで測定 可能 な血

中濃度 の持続 を証 明す ることが出来た。本 剤 の粉 末(小

児 用)坐 剤 の投与 に よつて も錠剤以上 に血 中濃 度が上 昇

し,人 体諸臓器,母 乳中に血中濃度 以上 に上 昇す ること

が証明 出来 た。小 児期の病原性葡菌症 の各種 を本剤の内

服を主 体に して治療 した成績 に よる と1回0.125~0.25

9,1日3~4回,1日 の使用総量0.5~1.09の 連続投

与 によつて満 足な治療成績 を収 める ことが出来た。本 剤

もまた抗生 剤耐性 葡菌症 の治療薬 として高 く評価 され る

ものであろ う。

Ilosoneの 内服CMsuccinate及 びMorpholineacetate

の筋 注,静 注等 もCM耐 性 獲得株が少 く,血 中濃度 の上

昇す る点で小児期 の耐 性 葡 菌 症 として好適 な製剤 であ

り,各 種の病型に使用 して優秀 な治 療効果を上げ ること

が出来たがそ の詳細 につ いては今回は割愛す る。

抗生剤合剤 によ る耐性葡菌症 の治療

私達は2種 類 の抗 生剤併用の葡菌に対す る抗菌性 に及

ぼす 影響 につ いて検討 し,TC十KM,KM十Nov,TC十

Nov,CM十 〇M(Oleandomycin)は,そ れ ぞれ 単独時

よ り発育阻止性 の増強す ることをみた。又TC耐 性 葡菌

が生体 内に存在 してい る場合,TC製 剤 の投 与に よつて

交代的 にTC耐 性葡 菌が増殖 し,時 に重症 な葡菌性 胃腸

炎や各種葡菌症 を誘発す るこ とが観察 され てい るが,こ

の予防 にTC十KM,TC十N0v,TC十 〇M,TC十EM等

の 合剤 を使 用す ることが有意義 である ことをた しかめ る

ことが出来 た。又 耐 性葡菌の混合感染 の多 い幼弱 児,呼

吸 器疾 患の治療にPCGとKMと の合 剤(PCG10万

単 位,KMO.25~0.59混 合,1日1~2回 筋注)が か

な り有効 であ り,今 後Mycillinに 代つ て広 く応 用 され

ることになるか と思われ る。

以上,幼 若期小児 の耐性 葡菌保有率が高 い関係上,各

種 の葡菌症 に罹患 する ことが多 く,年 少小児程重症且予

後不良 のこ とが少 くないか ら発病の早期発見 と感性抗生

剤の充分 な使 用が必 要であ り,こ の際私等 の感性検査成

績か らも,注射用 としては新合成PCで あ るDimethexy・

phenil-PC,Methyl.phenyl--isoxazolyl.PC及 びKM,

・CMsuccinate,内 服用 としてはMethy1-pheny1・is0xa・

zolylPC,Ilos0ne,Spiramycin等 の応用が望 まし く,

又葡菌性交代菌症 の予防並び に治療用 としてKM十TC,

KM十CM,KM十EM,KM十N0v等 の合剤 の内服,耐 性

葡菌 の混合感 染が大 半を占め る年少小児肺炎 の治療 には

KM十PCの 注射 が有効 であるこ と及 び重症 葡菌 症 に は

感性 抗生剤 の充分 な探 与 とSteroidの 併用 が望 ま しい こ

とを紹介 した次第であ る。、

(6)小 児 科 領 域b)

藤 井 良 知

東大分院小児科

小児葡菌感染症 の問題は抗生物質時代 に入つて反つて

大 き くなつた と考 え られ る。こ れは在来 の抗 生物質 にょ

つて容易 に抑制 される溶連菌,肺 炎球菌 な ど小児病 の主

要病原菌 と違 い耐性 葡菌 は臨床的 に多 くの未 解決 の問題

をかか えているか らであ る。

我 々が葡菌感 染症 を扱 う場 合 に,1.ま ず 何を以て葡

菌感染症 である とす るか,II.如 何 なる治 療法を選択す

るのが至当 であるか,III.如 何 に して発病を予防 し得る

であ ろ うか,等 が まつ当面 の問題 となる。

先ず この数年 間に当小児科病室 に収 容 したい くつかの

葡菌感染症 について観察 を試 みたいが,何 れ も葡菌感染

症 としては重症 に相当す るものであ り,そ の葡菌感染症

であるこ とは現在 の常識か ら異論 のない ものであ る。

X線 学的及 び臨 床的に明 らか な化膿性 肋膜炎又は肺膿

瘍 を伴つ た葡菌肺 炎は7例 あつ たが,何 れ も乳児である

点 が特 異であ るo

既往歴 を調べ ると何れ の例 にも先行 す る急性気道感染

症 が認め られ,ウ イルス感 冒に加 わつた2次 感染 の形で

来 ている ものであ り,先 行感 冒中には ウイルス病学的に

イ ンフルェ ンザA2と 確定 され た1例 も含 まれて いる。

この前駆疾 患に不完全 な抗生物質療 法が行なわれ,或 い

は検 出葡菌 に対 し感受性 の低 い抗生 物質投 与,な いし対

症療 法のみが行なわれて いる間に肺炎 若 し くは膿胸の症

状 を発 してい るわけであ る。こ の間の適 正な る抗生物質

治療 が本症 への進展を阻止 し得 る可 能性 が高い。本 症の

診断 根拠は膿性浸 出液 よりの葡菌証明が 行 な わ れ て い

る。乳 児以外では通常 の気管支 肺炎 の形で経過す ること

が多いのであ ろ うが,こ の葡菌肺 炎は単に咽頭 よ りの菌

の誕明に よるのみ であ るか ら,こ ρ 点で膿胸 とは別に扱

うこととした。以 上 の症 例に対 して入院後は選択 した抗

生物質 と感 受性 試験 の結果 の示 す抗 生物質 とが幸 い一致

して,全 例治癒ない し軽快 と言 う良い経過を示 したが経

過 はかな り永び くのが通 例である。

次 に葡 菌髄膜 炎は4例 あつ たが何れ も髄液中 よ り葡菌

を証 明 して診断 を確定 している。

以上4例 は比 較的早 い病 日に感受性 あ る抗生物質が充

分 に使用 されたためか全例,軽 快 を示 してい る。

葡菌敗血 症は6例 あ るが前駆疾患 として膿皮症が半数

に認 め られた。診 断根拠は抗血 中 よ りの菌証明に よつて

VOL,・10NO.4 CHEMOTHERAPY 269

い るが,4例 の乳児例はすべて死亡 して予後が悪い。こ

の 内には適正 と考え られ る抗生物質選択が行 なわれた も

の も,行 なわれなかつた ものも含 まれて いた。

一方年長児の葡菌敗血症 の2例 は何れ も適当 な抗生物

質 療法が行なわれた と考 えられ るのに何れ も慢性骨髄炎

に 移行 してい る。

以上 よ り小児科領域の重症葡菌感染症 に対 して感受性

に 優れた抗生物質を当初 よ り選択 して充分に使用す ると

言 う,周 知の ことが結論 され るのであるが,小 児 の膿胸,

化膿性 髄膜炎,敗 血症の病原中葡菌の占め る比重が甚だ

窩 くなつた今 日,菌 決定,感 受性測定を またず使用す る

抗 生物質は現在 の一 種葡菌に対 し感受性 の高い ものが望

ま しい。

.また一面,以 上の重症葡菌感染症の頻度は決 して多い

ものではない。小 児 科領域で最 も頻 度の高い葡菌感染症

舷,ウ イルス感冒への葡菌2次 感 染,並 びに膿皮症であ

ろ うと考え る。

私の教室は従来小児感冒 のウイル ス病学的分類を行 な

つ七来たのであるが,此 の長年間の分析の結果 よ りみ る

と実に多 種 類の ウイル ス感冒が毎 年 見 られてい ると共

に,未 だ 分 類 出 来ない部分 も少 くない ことを示 して い

る。そ の感冒小児の咽頭か らはcoagulase陽 性 葡菌,肺

炎球菌,イ ンフルエ ンザ菌,β 溶連菌等種 々の病原菌が

分離 されてい る。

これ等の菌の検出率は1957年 以降1960年 まで著明

な変化が認め られていない。

次 で急性鼻炎,咽 頭 炎 よ り,気 管支炎,肺 炎 まで1,810

例 につ いて の咽頭細菌の検出を示すが,葡 菌は約40%

程 度に検 出されてい る。

我 々は肺炎球菌,イ ンフルエ ンザ菌を咽頭 よ り検出 し

允場合,そ の例が急性 気道感 染症 の場合は恢復期の血清

中 に,各type-specificの 凝集素 の有意上昇 が認め られ

る例 が多い ことを報告 した。そ の際健康保菌者では此 の

様 な上昇は認められない。β 溶連菌 の場合 はASLO値

を指標 として同様 の事実を認め ることか ら急性気道感染

の際,咽 頭細菌を検索す ることに意義を認めた。

葡菌 の場合は よく指標 となる抗体 に乏 しいのであ るが

anticoagtilaSe価 を観察,追 跡す ることとした。

費用の関係 でpair・一血清 の検索数 は充分 ではないが 急

性 期葡菌を咽頭 よ ウ検 出 した もので,恢 復 しantic0a-

gu1ase価 の上昇を 認めた症例は,咽 頭炎 で6.7%,扁

桃炎で25・0%,気 管支炎 で35.3%と かな り高い比率で

あ り,下 部気道の感 染であ るほ ど率は高 くなつたのであ

るo

病 日経過に対 するAnticoagulase価 の上昇の模 様を示

す と,An、ticoagulaseの みが葡菌の病原性を示す指標で

は な く,ま た,葡 菌coagulaseに も種類があ ると発表 さ

れ てお り,我 々は1種 類(高 城株)に ついて検討 しただ

け であるから,こ の比 率は更 に高 くな る可能性 があ る。

葡菌健康保菌者 についてはこの上 昇は認め られなかつ

た。葡 菌 の如 く分布率 の高 い細菌 では他の病原菌ほ ど高

い相関性 はないか も知れないが,急 性 気道感染で葡菌を

咽頭 に証 明す るこ とは意義 があ り,抗 生 物質投 与の対象

となるのであろ うと考 える。

なお患者 の恢復期Anticoagulase価 の上昇率 と,そ の

患者 より分離 した葡菌 のcoagulase生 産能 の関係を見 る

と,coagulase産 生能 の高 い ものの方が抗 体上 昇 も高い

傾向が認 められ る。

一方coagulase産 生能が低 い菌 は抗体上 昇が見 られな

い点か ら病原性 が低 いとも考 え られ るが更に検討を加 え

た い。

我 々の教室 の成績 では,葡菌 ファージ型 別 とcoagulase

産生能 との間に関係 はな く,ま た ファージ分類 と抗生物

質耐性獲 得との間に も関係 はない と考え られた。

咽頭 葡菌 のcoagulase産 生能 と鼻炎,咽 頭 炎,扁 桃

炎,気 管支炎,肺 炎 の臨床 診断 との間に も関係を認 め得

なかつ たがこれ は例数 をま して検 討を行ないた い。

さて感 冒患児 の咽頭 か ら葡菌を検出 した場合。そ れが

2次 感染 菌 として働 く可能性 が高 く,治 療の対象 とな り

得 るこ とを述 べた。此 の場 合選択 すべ さ抗生物質は分離

された 葡菌感受性 に よるのが常識 的であ るとすれば此 の

数年 間,感 冒患児の咽頭か ら分離 されたcoagulase陽 性

葡菌 の各種抗生 物質 に対す る感受性 を検討す る必要が生

ず る。

言5ま でもな く此 の様 な検 討 は,検 査 を行なつた 場

所,時,対 象 に よつ て当然 異つて来 る。

東京地方感 冒小児 よりとつた葡菌 についての最近3年

間 の変化 を見 る と,Leucomyein,Erythromycinに 対 し

て感受性分布 は殆ん ど変 りない。

Kanamycinに 対 して も同様 であ る。一 方Tetracyc。

lineとChloramphenico1に つ いては最近耐性菌 の増加

が 明 らかに認 め られ るが,Tetracyclineの 臨 床使 用 量

がChlorarnphenicolの 半量 であるだけにTetracycline

無効症例 が臨床 的に多い ことと考 え られ る。

PCGに 対 しては言5ま でもな くほ とんどが 耐性 と考

えて良い。PhenoxyethylPCで は耐性菌 もある 一一方感

受性 を示 す菌 もかな りあ り,又Dimethoxy-phenylPC

は小児 では1日10emg/kg,P-12は1日50mg/kgで

充分臨床効果 を期待 出来る程 度の感受性 が試験菌の100

%に 示 され ている。

Spiramycinは 血中濃度が低いのに1治療効果が認め ら

れ る特 異な面 があ るが,あ ま り感受性が良い とは考 え ら

270 CH巨MOTHERAPY JUL、Y1962

れ ない成績 であつた。

1,700例 の急性気道感染 に抗生 剤を使用 した成績 は私

達 が此の数年来行 なつて来 たあ る一定 のスタ ンダー ドに

よつて有効,無 効 の判 定を行ない,同 時 に コン トロール

群 をお いて比較 した厳 密な ものであ るが,β 溶連菌,肺

炎球菌,イ ンフルエ ンザ菌 検出の場合 と全 く同 じ傾 向で

coagulase陽 性 葡菌2次 感染 の場合 も抗生 物質群471例

につ き73.1%の 有効 率に対 して,対 照群140例 の有効

率30%で,抗 生物質使用に有意義を認 める。

各種抗生物質 別に見 ると,使 用 した その年代 に於 け る

葡菌感受性分布 に平行 した成績が得 られ ている。即 ちサ

ルフ ァ剤 は対 照群 と有意差 な く,フ ラル タ ドン77%,

フェ ノキシ メチル及び同 エチルベ ニシ リン50~58%耐

性葡菌 に有効 な スタフシ リン及 びP-12は80%程 度,

カナマイシ ン70%,ス ピラマイシ ン80%,テ 卜ラサ イ

ク リン75.3%,クnラ ンフェニ コル76.6%,エ リスPt

マイシ ン76.6%,ナ レアン ドマイシ ン88.9%の 成績が

示 され ている。

時間 の都合 で急性 気道感染症 で抗生物質療法 を行 な う

べ きものの適応,抗 生剤選択 の問題 には本 日は触れ ない"

しか し急性気 道感染症に対 して濫用 と批難 され るまで

の化学療 法の普 及が,溶 連菌,肺 炎球菌,イ ンフルエ ン

ザ菌感 染症 を押えてそれ等 による肺炎 ・膿胸,敗 血症,

髄膜炎 等への進展を減少せ しめるのに力 があつ たのは明

らかである。こ れは一方にはベ ニシ リン,ス 卜レプ トマ

イシ ソ,サ ル ファ剤 など一般に選択 を余儀 な くされ常 用

され る化学療 法剤がなお これ等 の菌 に対 し感受性 をの こ

してい るか らであ る。

この ことは一方耐性葡菌症を結果的 にの こして,こ の

問題 を クローズ ァップした とも考 えられ るのである。

以上 の事実 よ り小児科領域 で抗生物質選択 の問題を と

りあげる時 は葡菌感受性に優れ るもの と言 う条件 を常 に

忘れ てな らない と考 えるものであ る。

(7)内 科 領 域a)

青 山 進 午 ・後 藤 幸 夫

名古屋大学青山内科

ブ ドー球菌(以 下,ブ 菌)の 耐性 獲得 の問題は,結 核

菌,赤 痢菌 とともに最 も重要視 され ている。

私は 内科領域 におけ る酎性 ブ菌感染症 の治療 に関連 す

る諸問題 につ いて,私 共が行なつ て来 た基礎的,臨 床 的

研究 の結果 を中心 に して述ぺ る。

1.ブ 菌 の耐性獲 得状 況

最近4力 年 間に名大附属病院にお いて患者 か ら分離 し

た病原性 ブ菌 の各薬剤 に対する耐性獲得状況 を,デ イス

ク法 に よる感性 テス トを用いて観察 した結果 は,PC,S

に最 も強 い耐性 獲得がみ られ,次 いでSM,TCに 耐性'

株 が多い。EM,OM,CPは 感受性株 が多 く,耐 性獲得

はあ ま りみ られ ない。

年 次別に比 較す ると,PC,SM,Sは 概 ね各年次を通・

じて高 い耐性 度を示 し,TC,CPは 年次毎に漸次耐性菌

の増加 を示 し,EM,OMは 昭 和34年 か ら35年 へかけ

てか な りの耐性菌 増加を示す。・ ・

多剤耐性 について年次 別にみ ると,昭 和34年 から35

年へ かけて感受性 菌は著明 に減少 し,一 方,単 独及 び2・

剤耐性菌 は減 少す るが,3剤 以上 の耐性 菌増加が認めら

れ る。内 容 的にごは各年次を通 じて,単 独耐性 はPC耐 性

菌が最 も多 く,2剤 耐性はPC.TCの 耐性 菌が最 も多い。

3剤 耐性 でPC・EM・OM,4剤 耐性 でPC・EM・OM・TC

の耐性菌 が昭 和35年 か ら増加 している。

2.従 来 の抗生 剤の改 良剤

従来 の抗生剤 よ り高い血 中 濃 度 の維持,抗 菌力 の増

強,投 与法 の改善 な どの 自的で近年つ くられ た製剤 のう

ち,教 室 で臨床成績 を観 察 した ものをあげ ると,TC,

CP,EM,OMな どにつ いて種 々の製剤があ り,こ れ ら

は感受性菌 に対 してそれぞれ臨床的 に有効 であつたが,

耐性 ブ菌感染症 の治療 に も一歩前進 の効 果を期待 しうる

もので ある。

3.抗 生剤 の併 用,及 び抗生剤 と他剤 との併用

抗生剤併用 の主 眼は効果 の増強,耐 性 獲得の防止,毒

性 の軽減,混 合感染の治療 などにある。併 用療法検討の

一端 と してブ菌 に対す るEM ,OM,TC,CPの 併用に

おけ る研究結果 を報 告す る。

試験管 内併 用実験 の結果は,ブ 菌感受性株 寺島株 に対

し,TC.CP,EM・OMの 併用では併用効 果は全 くみられ

な いに反 し,EM・TC,OM・TC,EM・CP,OM.CPの 併

用 では相加 ない し相乗効果が観察 され る。

PCG100mcg以 上の耐性株 に対す る併 用実験め結果

も寺 島株 の場合 とほぼ同様 の傾 向を示 す。

0M・CP併 用の場合,血 中濃度 を重 層法で測定 し,単

独投与 の場合 と比 較す ると,試 験管 内におけ る効果 とほ

ぼ同様 の効果 が観察 され る。

ブ菌寺 島株 を用い,CP,EM単 独 とCP・EM(1:1)

併 用 におけ る耐性 獲得状 況を増量継代培 養法に よつて観

察す る と,そ れ ぞれ の単 独 の場 合 の耐 性 上 昇 に比 して

CP.EM併 用 の方 の耐性 獲得は低 く,即 ちCP・EMの 併

用に よつて耐性 の獲得が防止 され る。

OM,CP単 独 の場合 とOM・CP(1:1)併 用 の場合 を

比較 して も併用 に よる耐性 獲得防止 が観察 される。

一方臨床成績 につ いて検討す ると,ブ 菌感 染症 に対 し

てEM・CP,OM・TC,OM・CPの 併用は いずれ もかな り

VOL.霊ONO.4 CHEMOTHERAPY 271

優 れ た効 果 を示 す。

次 に,抗 生 物 質 と副 腎 皮 質 ホ ル モ ン,或 は γ一Globulin

との併 用 も重 要 な 問題 で あ る が,感 性 抗 生 剤 の使 用 が ブ

菌 感 染 症 た対 す る第1手 段 で あ る とい う観 点 か ら こ こで

は省 略 す る。

4.新 しい ブ菌 感 染 症 治 療 剤 の試 験 管 内抗 菌 力

息 者 か ら分 離 した病 原 性 ブ菌100株 を 用 い,比 較 的 新

し い数 種 の抗 生 剤 の抗 菌 力 を稀 釈 培 養 法 に よつ て比 較 観

察 し た結 果,Leucomycinは1.25~2.5mcg/cc,Kana-

mycinは0.6~2.5mcg/cc,Novobi0cinは0.6~2,5

mcg/cc,Spiramycinは2.5~10mcglccに 主 と して 最

低 発 育 阻 止 濃 度 を示 し,い ず れ もブ菌 感 染 症 に対 す る有

効 性 を示 す が,耐 駐 菌 もあ り,Leucomycin・Spiramycin

には 高 度 の耐 性 株 が 認 め られ た。Mikamycin,Dimetho-

xyphenylPC(Staphcillin)は いず れ もす べ て の 株 が そ

れ ぞれ0.6~1.25mcg/cc,1.6~3.1mcg/ccの 間 に 最 低

発 育 阻 止 濃 度 を 示 し,両 剤 の ブ菌 に 対 す る優 れ た 抗 菌 力

が窺 わ れ る。Mikamycinは 経 ロ 投 与 後 の 血 中濃 度 な ど

の点 で 今 後 の 問 題 が 残 され て い る。

5.合 成 ベaシ リン,特 にStaphcillinに つ い て

新 合 成PC剤 のPhenoxyethylPC(Syncillin),注 射

用 のDimethoxyphenylPC(Staphcillin)に つ い て私 共

の行 な つ た 研究 結 果 を報 告 す る。

(1)Syncillin

患 者 か ら分 離 した ブ菌49株 に対 す る抗 菌 力 をPCG,

PCV,Synci11inに つ い て比 較 す る と,Syncillinは 他 の

PCに 比 し耐 性 株 がや や 少 く,感 受 性 株 がや や 多 い。

ブ菌 寺 島株 を用 い,PCG,PCV,Syncillinに 対 す る

耐性 獲 得状 況 を観 察 す る と,殆 ん ど耐 性 上 昇 に差 は 認 め

られ な い。

血 中濃 度 は1時 間 後PCVの 約3倍 の高 値 を 示 し,6時

間 後 殆 ん ど消失 す る。

13例 の感染 症 にSyncillinを 使 用 し た 成 績 か ら,

SyncillinはPCG耐 性 の ブ菌 感 染 症 に も あ る程 度 の 臨

床 効 果 が観 察 され る。

(2)StaphciUin

患 者 か ら分離 した ブ菌104株 につ い てPCG,Staph-

¢illinに 対す る感 受性 を比 較 す る と,PCGに 対 して は

高 度 耐 性 の もの か ら感性 の もの まで 種 々の 段 階 が 観 察 さ

れ るが ・Staphcillinvc対 して は 株 に よ る差 異 な く高 い 感

受 性 を 示 す 点 が注 目され る。

Staphcillinの 抗 菌 力 に 対 す る接 種 菌 量 の 影 響 はPCG

耐 性 株 にお い て殆 ん ど観 察 され な い。

Staphcillinの 抗 菌 力 に対 して血 清 添 加 の悪 影 響 は み

られ な い。

ブ菌PCG耐 性 株 産 生 のPC-aseに よつ てPCGは

かな り破壊 され るが,Staphcillinは 殆ん ど破壊 され ず,

StaphcillinはPC--aseに 対す る抵抗性 が強 い。

ブ菌 寺島株を用 い,PCG,Staphcillinの 耐性獲得状

況を比較観察す ると,StaphcillinはPCGに 比 し耐性

獲得 が非常 に低い成績を示す。

Staphcillinを 筋注 した場合の血 中濃度は30分 ~1時

間後 に最高 とな り,以後急激 に減少 し6時 間後消失す る。

動 物実験 として ブ菌 のPCG強 耐性株を マウスの腹腔

内に接 種 し,PCG或 はStaphciilinを それぞれ1mg/

0.1cc5日 間筋注 し,マ ウスの死亡率を比較観察す ると,

PCGに 比 し明 らかなStaphcillinの 感染防禦効果が認

め られ る。

4例 の耐性 ブ菌感染症 に対す るStaphcillinの 臨床成

績 の うち,1例 は観血的療法を要 し,2例 は それ ぞれ糖

尿 病或は胆石症 の重篤な合併が あ りいずれ も有効 の判定

は困難 であ るが,1例 において各抗生剤がすべて無効 で

あつたに も拘わ らずStaphcillinが 著効を治めた症例を

経験 したので,次 の項で詳 し く述べ る。

現 状において,Staphcillinの ブ菌に 対 す る優れた抗

菌力 は耐性 ブ菌感染治療 の最 も有力な手段 として の意義

が大 きいが,Staphci1linの 有す る種 々の特 性 か ら今 後

におけ る研究 の発展が望 まれ る。

6.耐 性 ブ菌感 染症 の症 例

各病 院 よ り御報 告頂いた症例な らびに教室で経験 した

症例 の主 なものにつ いて,病 名,ブ 菌 の感性 テ ス トの結

果,使 用抗生 剤の効 果,転 帰な どを見た。各 種抗生剤の

有効性 が認 め られ るが,4例 において併用療 法の効 果が

示 され る。症 例1,2,3に ついて以下述べ る。

症例2は 耐性 ブ菌 に よる敗血症 の患者 で,ブ 菌の感性

テス トの結果 は,PC,KM,CP,EM,SM更 に副腎皮質

ホルモ ンを投 与す るも一時的 の解熱 をみ るのみで奏効せ

ず,死 亡 した。

症例3も 耐性 ブ菌に よる敗血症 で,ブ 菌 の感性 テス ト

の結 果は,CP,TC,SM,PC,EM,KM,OM更 に副腎

皮質 ホルモ ンな どを使用す るもKM及 びOM十CPで 或

程度 の寛解 をみたのみで治癒 す るに至 らず,4カ 月半の

経過 で死亡 の転帰 を とつてい る。

症例1は 気管支肺炎 の患者で,喀 疾 中に多 数のブ菌 を

認 め,ブ 菌 は感性 テス トの結果,PC,EM,OM,TC,CP,

S,LMに いずれ も耐性 を示 した。入 院lヵ 月前 から弛張

性高熱,咳 蹴,膿 性 喀疾 あ り,PC,SM,TC,CPな どを

使用す るも効 な く,入 院後更にEM,KMも 使用 したが

全 く無効。そ こで感性 テス トの結 果か らStaphcillin1

臼49(6時 間毎19筋 注)を 使用 した処,3日 目に劇

的 に解 熱 して微熱程度 とな り,喀 疾は漿 液性 とな り,胸

部X線 上の陰 影 も概 ね消失 し,自血球数 も正常 となつたQ

272 CHEMO『rHERAPY JULY1962

Staphcillin10日 間 の投与に より中止,そ の後全 治 した。

本 症例は起炎菌 のプ菌 が各 種 抗 生 剤 すべてに耐性 を示

し,各 種抗生剤が いずれ も無効 であつたに も拘 わ らず,

Staphcillinが 著効を奏 した1例 として注 目すべ き症 例

であ る。

総 括

以上,私 共 の研究 を中心 に して内科的耐性 ブ菌感染症

の治療 法を考 える と,

1.臨 床家 としては難治 感染症の1つ として耐性 ブ菌

感 染症を念頭 にお くと共 に ブ菌 の耐性 獲得状況 に関す る

十 分の認識 を備 えてい ることが必要であ り,出 来 うる限

り原困菌 の抗生剤感性 テ ス トを実施 し,感 性抗生剤 を選

択 す ること。

2。抗 生剤 の投 与方法或は投 与量を工夫 し,適 宜 に各

種 抗生剤 の改 良剤 を使用す る。

3.ブ 菌感 染症 の新抗 生剤を適宜選択使用す るこ と。

現 在 の処,Staphcillinは 耐性 ブ菌 による難症 感 染 症 に

対 して卓越 した効 果を期待 し うるものが ある。

4.適 切 な抗生 剤併用療法を行 な うことを考 える。

5.有 効抗 生剤の充分な使用 と共に,場 合 によつ ては

1副腎皮 質ホルモ ン,γ一Gl0bulinの 併 用を考 える。

(本報告 を終 るに当 り,報 告 の機会 を与 え られ た 会 長

柴 田教授 に厚 く御礼申上げ る。御 指導 を賜 つ た 青 山 教

授,松 原助 教授な らびに細菌学 阿多助教授 に深 甚 の謝

意 を表 し,御 協力頂 いた名大 中央臨床検査室,各 病院 の

諸先生,協 同研究者各位に厚 く御礼申上 げる。)

(7)内 科 領 域b)

大 久 保 滉

関西医大内科

耐性菌感 染症の治療には,病 原細菌 の感受性検査 がそ

の基準 とな る。特 に病原菌 の感受性 と化学療法 との効果

を明 らかに くらべ得 る敗血症につ いて,こ の両者 の関係

をみ る と,試 験管内感受 性のない化学療法剤は臨床的 に

撫 とん ど無効であ る。

そ こで,私 はまず感受性検査法 につ いて若干 の検討 を

加 えた。

I。感 受性 検査法 の比較

a)稀 釈 法 と1濃 度デ ィスク法 とに よるMICの 比

較:関 西 医大 中検で分離 した ブ菌 につ き,ブ イ ヨン稀釈

法 と,MtiLLER-HINTON変 法H培 地を用い る1濃 度デ

ィス ク法で得たMICを 比較す ると,抗 生物質 の種類 に

よ り,両 者 が よく一致す るもの(SM,KM),ぱ らつ き

の多 いもの(OTC),稀 釈法 の方が高 くで るもの(PC,

LM),比 較的ff者 一一致 す るもの(EM,CM,0M)が あ

る。種 々の条件に よ り,両 者は かな り喰違いが あるもの

と考 え られ る。し か し,1濃 度法 はMICの 値 が連続的

に得 られ,稀 釈 を作 る手 数が省け,再 現性 もかな りよい

ので,MICを 知 る為 に よい方 法であ る。

b)3濃 度 デ ィスク法に よる感受性 と,1濃 度法にょ

るMICの 比較:同 じブ菌 につ いて これを比較 してみる

と,PCで は(一)の ものは15u以 上 が大多 数で(帯)

のものは0.4u以 下 であ る。SMの(帯)の ものはO.1

mcgか ら40に 迄広 い範 囲に分布す る。PCで もSMで

も(一)と(十)と の間にはMICの 差があ ま りみ られ

ない。TC,OTCで は 十,耗 が少な く,大 多数 が(一)

と く帯)に 分れ る。KMで はすべて(艦)で0・15~5の

間にあ り,LMで もすべ て(帯)で 大 多 数がO・1~0.5

にあ り,EMも 大多数(辮)で0.4以 下,CMも 大多数

(帯)で0・3~3.0,0Mも 同様 で0・1~1・0の 間にある。

以上 の成績 か ら,3濃 度デ ィス ク法 に よる感受性 の表現

と,1濃 度法 によるMICと は概ね一致 す るが,3濃 度

法に よる1段 階 の差 は意 味を もたせ難 い と思わ れる。3

濃度法は読 み とりの簡便 さにあ る。

II.内 科疾 患患者か ら分離 した ブ菌 の感受性 検査 成績

関西 医大病 暁中検 お よび京大病院中検 で,内 科疾 患か

ら分離 したブ菌 の3濃 度デ ィスク法に よる感受性検査成

績 を集計す ると,関 西医大の株(昭35.9~36.10)40株

中PC耐 性32.5%,TC耐 性17.5%,そ の他SM,CM,

EM耐 性の ものが少数 ある。京 大 の株(昭 和35年32

株,36年57株)で は,36年 の株 と35年 の株に くら

べてPC耐 性株は減 じ,代 つてTC,SM,CM,特 にEM

の耐性株 が増加 し,KM耐 性株 も2株 分離 されている。

次 に,同 じ材料 につ いて,重 耐性 をみ ると,京 大 の株

で,昭35年 に くらべ,今 年は3剤 以上 の耐性 株がふえ

て いる。

III.耐 性 ブ菌 を証明 した内科疾患 の症 例・

a)敗 血症=4例 経験 した。岩 田例はPC,TC,SM

耐性,OM比 較的耐性 のブ菌 に よる敗血症 で,菌 検出前

に投与 したPC,SM(併 用)は 無効,菌 検出後,TC,OM

無効・CM-一 一時やや有効 であつた が・結局 出血素勲 為

脳 出血 と思 われ る症状で死亡 した。長 尾 例は人工流産 に

続発 した敗血症 でTC耐 性,PC,SM比 較 的耐性 のブ菌

を註 明 し,TC無 効(入 院前)で あつたが,EM,CM併

用 が著効 を奏 し治癒 した。西 村例 は,は じめ菌 を証明で

きず,EM投 与が一時有効 であつ たが,再 び発熱 し,血

中 よ りPC耐 性 ブ菌 を証明 し,Spiramycin投 与で治癒

させ 得た。村 田例 はCTC1耐 性,PC,OTC比 較的耐性

のブ菌 に よる敗血症 で,入 院前,TC,SM,PC投 与 無効

であつたが,入 院後,SM,PCとPrednisolon、eを 併用

してかな り有効 であつたが,最 後 にOMを 投 与 して完

VOL10NO.4 CHEMOTHERAPY 273

全 に治癒 させ得 た。敗 血症では特に血 中菌 検出に努め,

菌が最 も感受性 であ る抗生物質を十分な量だけ投与す る

必要があ る。

b)肺 炎:福 井例一 は じめ喀疾中に α 溶連菌 を証

朋 し,PC,SM併 用で軽快後,PC耐 性 ブ菌 を証 明 した。

北 見例一 は じあ α 溶連菌 を証 明し,SM投 与 で軽快

後,PC,SM,TC耐 性 の ブ菌 を証明 した。芝 例一一一は じ

めMicrocoecusを 証 明し,EM,SM併 用で軽快後,ブ

菌(PC,SM,EMに 比較的耐性)を 証 明した。以 上3例

拡 いずれ も軽快後に,そ れ迄投与 された薬剤に耐性 ない

し比較的耐性 の ブ菌を証明 した ものであ る。利 川例一

liまじめStaPh.aur.,次 にStaPh.epid.,後 にStaψh.

aur.を 証明 したが,aur、 の方 はEM,OM耐 性 で,臨

床 的には2回 にわ たつて投与 したOMが 最 も有 効 であ

り,途 中で分離 され たStaPh.epid.はOM感 受性であ

つたことか ら,あ るいは後者 の方が病原的意義があつた

ものか とも考 え られ る。加 山例 ブ菌,α 溶 連 菌,

NeissePtiaが混在 してお り,直 接法 でPC耐 性,SM,CM

感 受性,CM,SM併 用投与 で治癒 した。小 島例PC

此 較的耐性の ブ菌に よると思われ る例 で,TC,Predni-

solone併 用はあ る程度有効であつたが,決 定 的な効 果は

な く,EMとPred.と の併用が著効を示 し,中 止後再

発 したがEM再 投与 で治癒 した。感 受性 の高 い抗生物質

と副腎 コルチ コイ ドとの併用が著効 を示 した例 であ る。

c)肺 化膿症,気 管支拡張症:4例 共,喀 疾中菌検索

に よ りブ菌が主要 なものと考 え られ る例 であ る。清 水例

一一一PC耐 性菌で,TC,CM,OM投 与 にか な り良 く反

1応して治癒 したが,OM投 与後,菌 のOM感 受性 の減

退 がみ られた。佐 野例一TC,EM,PCV,Syncillin

投 与にいずれ も反応 して軽 快 したが,喀 疾 中の ブ菌感受

性 の状況は必ずしも化学療 法 と一致 しない。勝 田例

SM,Syncillinで 軽快 し,北 野例一Spiramycin及 び

CMが 有効であつたが,後2例 はいずれ も,は じめPC

に比較的耐性,後 には耐性 のプ菌 を出している。こ れ ら

肺・気管支 の感染症 では喀疾中の菌 の病原的意義 の決定

献往 々困難 でも り,種 々の感受性 の菌が混在 してお り,

感 受性 と化学療法 との関連ずけは必ず しも容易 ではない

が,一 般的には化学療法を行な う程,耐 性菌を検 出す る

ことが多 く・ したがつて,漫 然 と同一薬 剤を持長せず,

菌検索 とその感受性 検査 とを反復 し,臨 床経過 と併せ考

えて機敏に切 りかえて行 く必要があ る。

d)そ の他=最 後に内科的感 染症 とは言えないが,1

例(矢 野例)を 追加す る。PC,TC耐 性 ブ菌 に よる化膿

性 関節炎な らびに褥 創の患者 で,EM,TC併 用無効,KM

が著効 を示 したが,糖 尿病 に伴 う腎障害 の為後 に死亡 し

たo

以上,臨 床例を総括 して,耐 性 ブ菌は化学 療法をつづ

け る問に出現 し易 くな り,出 現 して も必ず しも病原的意

義 がある とは限 らないが,病 原的 意義 があ ると思わ れ る

場合 には,感 受性 の高 い薬剤 を投与す るべきである。

現在迄 の私 の経験 では,比 較的 新 しい抗生 物質 である

合成 べ昌シ リン,オ レア ンドマイシ ン,カ ナマイシ ン,

スピヲマイシン等が しば しば有効 であ り,治 療上特 に困

難を感 じた と 言 う程の症 例には遭 遇 して いない。し か

し,は じめに述べた様に,近 時PC,TC考 以下多数の抗生

剤に函性 の ブ菌 が増加 してお り,更 に多 数の新 しい化学

療 法剤 が次々に発見 され利用 され うる様 になるこ とを待

望す る。

(本報告 に当つ ては京大三宅 内科,京 大中央検査部,関

西医大前 田内科,関 西医大中央検査部 の材料 をも利用 さ

せて いただ いた。記 して謝意を表す る。)

(7)内 科 領 域c)

堂野前維摩郷 ・螺 良 英 郎

大阪大学堂野前内科

(協同研究者:正 木繁,岸 本進,平 尾文男,高 橋章,

山上徹,重 藤俊夫(十 三市民病院),出 口久男(吹 田市民

病院),高 橋久雄,稲 井真 弥(大 阪府立 成人病 セ ンター)

最近阪大堂野前内科及び表記協同研究者 によつ て経験

せ られた3例 の比較的重症 な耐性 ブ ドウ球菌(ブ 菌)症

例につ いて各症例別に述べ,つ いで 肺化膿症 を初 め27

例の内科的耐性 ブ菌感染を伴 う症例 につ いて報告,最 後

に耐性 ブ菌に対す る数種化学療法剤の感受性につ いて報

告す る。

症 例132才,主 婦,耐 性 ブ菌に よる敗血症

特 記すべき既 往,家 族歴 な し。第1子 出産後,悪 感 戦

慷 を伴 う39。Cに 及ぶ発熱に よつて発病,40。Cに 及ぶ弛

張高熱 が持続 したため一旦十三市民病院 に入院,Leuco-

mycin,Erythromycin(EM),Tetracycline(TC),

Kanamycin(KM),Chloramphenico正(CP),サ ルフ7

剤或 いは2,6-Dimeth0xypheny1Penicillin(DMP-PC,

ろ タフシ リン)な どに よる化学療法 を2週 間にわ たつ て

受けたが,下 熱 の傾 向な く,当 科 に入院 した。入 院時所

見 としてはやや貧血状 で,肝,脾 を触知す る外,理 学的

所見 で異常はな く,婦 人科的内診所見で も特に異常を認

めず,検 査所見 として尿 中,蛋 白反応陽性 で,血 球,並

びに沈渣 を認 めた。胸 部 レン トゲン所 見で両肺下野 に軟

戸・い・辺縁不 明瞭 な円形 陰影数 コを認 めた。そ の他 の主

要検査所見 と しては,貧 血 と左方移動 を示す,多 核 白血

球の増多,血 沈 値 の上昇,ガ ンマグロブ リンの増加,

274 CHEMOTHERAPY JULY1962

CRPの 陽性 な どであ る。入 院後,敗 血症 を疑 い,熱 の

上昇時 に,動 脈血培 養に よつて,StaPhPtloceccusaureus

(St.aUTeus)を 多数 に証 明,PCに は125u/m1で 耐性,

そ の他CP,EMを 除 く他の抗生剤 には すべて耐性 を証明

した。即 ち本症 は耐 性 ブ菌に よる敗血症 と診 断 を 確 定

し,こ れに対 しDMP-PC49/日 の筋注を 開始 し,CM

succinate29の 筋注 と併用 したが,か かる量 では効果

が少 な く,DMP.PCを,59/日 筋注,291日 点滴静注,

さ らにCM,morpholineacetate,49ノ 日筋注 を 併 用 す

るとい う大量併 用療 法を行 なつた ところ数 日で,約1カ

月半 もつづいた頑固な弛張高熱 も消 失,そ の後2ヵ 月

間,DMP-PC49とCP29の 筋注を併用 して全 治せ

しめ えた。本 例 においてはDMP--PCに よる副作 用は認

めて いないo

症例211才,男 子,骨 髄炎兼大葉性肺炎,家 族 ・

既往歴 に特 記すべき ものな く,扁 桃腺腫大,38.5。C~40

。C'に 及 ぶ弛 張高熱を以て発病,ア クロマ イシ ン,サ ル

フ ァ剤 で効 な く,吹 田市民病院に入院,レ 線所見 で,左

脛骨骨髄 炎 と,右 肺中葉に肺炎様陰影 を認 めた。こ の当

時 の主訴 は,高 熱,胸 痛,呼 吸困難,咳 漱,喀 疾時 に血

疾 を交えを呼吸器症状,左 膝関節疹痛 であつ た。骨 病巣

部 並びに喀疾 よ りいずれ もCPを のぞ く他 の主要化学療

法剤 に耐性 ブ菌を検出証明 し,肺 炎様陰影 の悪化 を来 た

したので,DMP.PC49の 筋注 を開始 したところ,熱

は38℃ 以下に徐 々に下降,肺 炎様陰影は急速 に消失 し

一般状態 も良好 となつた。し か し,DMP-PC注 射 を開

始 して1ヵ 月 目に,本 剤筋注直後か ら悪感 と共 に40。C

に及ぶ発熱発作 が2日 もあ り,本 剤使用中止に よつて消

失 した。又 同時 に発疹 もあ り,こ れ も中止5日 後には完

全 消失 した。こ れは 明らかにDMP-PCに よるア レルギ

ー反応であ ると解せ られ るが,こ れに関す る皮内反応そ

の他の検査は実施 して いな い。DMP-PCア レルギー反

応 をみた後は,EM-Propionateの 投与を つづけて,良

好 な経過 をた ど り,骨 病巣部 からの排膿 も停止 し,6カ

月後には登校を開始 している。

症例352才,男 子,Impetigoherpetiformis

約5年 前か ら徐 々に発病,腋 窩 を中心 に,療 痒 を伴 う

赤色紅斑,膿 疸の拡 大があ り,本 年6月 阪 大皮膚科 入院

時には,全 身 に及ぶ,綴 痒感 の甚 しい発赤,浮 腫 が著 明

な重篤 な状態 を示 した。病 理 組 織 学 的 所 見 の上 か ら

Impetigoherpetifermisと 診断せ られ,当 科 と共 同観察

となつた。原 疾患に対 しては各種副 腎皮質 ホルモ ン剤に

よる治療 を強 力 に 行 なつ たが,一 方,膿 萢か らはSt.

epidermidisを 証 明,本 菌はEM,CPに 耐性 を示 したが,

EM投 与 をつづ ける ことに よつて一 時快方に向つた。し

か し,8月 頃 か ら頸部 に握 りコブ シ大 の擁 を形 成,こ れ

より,KM,TCを 除 く他剤に耐性 のS彦.aureusを 証明

した。KM,シ グママイ シン。EM-Prop.1aurylsulfate

は効 な く,DMP-PCの 筋注 を開始 した ところ,排 膿量

は徐 々に減 じ,擁 も縮小,全 身 的に も膿 庖 は 徐 々 に消

失,痂 皮形成 をみ るにいた るまでになつた。

本例 におい て 分 離 し たS彦.aPtre"sは 最初PCに は

1oOu/m1以 上で耐性を示 し,DMP-PCに は2.5mcg力

価/mlで 感性 であつたが,治 療開始10日 後の検出ブ菌

につ いては,.DMP-PCに10mcg力 価ノmlで 耐性 を示す・

にいたつ た点興味 あ ることと考 える。

次 に最近1年 間当科,外 来入院 患者 中 よ り耐性 ブ菌が;

証明せ られ た計27例 の臨床例 につ いて簡単 に報告す る。,

肺化膿症例18例 の内訳は,肺 膿瘍3例,気 管支肺炎

な い し重症気管支炎3例,膿 胸2例,気 管支拡張症10塾

例 であつて,主 症状 としては,い ずれ も咳漱,血 性 又に

膿性喀疾量 の増加,発 熱,呼 吸困難,血 性,膿 性の胸水

液貯溜 であつた。膿 胸例2例 と数例 をのぞき各種化学療

法剤 に単独 ない し重 耐 性 を 示 すSt.aureus及 びS鉱

epidermidisを,他 の各種 細菌 と混合感染 の形 で認め,

いずれ を主 な起炎菌 とす るかに疑問は あるが,こ れ らに

対 してはEM(又 はEM-Propienatelaurylsu1fate),CP

(又はCPmorpholineacetate),KMの 局所使用(膿 胸

例)シ ノママイシ ン(気 管支拡張 症),Terraven6sな ど

に効果が認め られて いる。

一般 に ブ菌の耐性 の程度 は,検 出時迄 の,化 学療法の

種 類,期 間,使 用法 など と関連 す る外,原 疾患に よる生

体の状 況な ど所謂predispesingfactorが 大いに関連 しtd

且 つ,重 耐性 の度合 に応 じて,そ の後の化学療法 も複雑

化 して きてい る傾向 にある。又,混 合感染例 では菌交代

症 の状 況 もみ られ,抗 生物質 の交互使 用,併 用などの必

要 が認 め られ る。

各種 内科 的疾患中,或 いは副 腎皮質 ホルモ ンの長期投

与 な どに よつて生 じた と思われ る耐性 プ菌に よる6例 の

尿 路感 染症,3例 の膿皮症 につ いて もみたが,こ れ らは、

鮒性 の割合 も少な く,CM,EMな どの単独使用によつて

比較的短期 間に署効をみて いる。

以上27例 の耐性 ブ菌につい て耐性 をま とめてみ ると,

90%がPC耐 性 で,つ いでSMに55%,EM,TC,CP

には20%で あつた。又3剤 以上 の重耐性 を示 した もの

は3分 の1に み られてい る。

最後 に耐性 ブ菌の感受性 につ いての試験管 内実験 とし

て,阪 大病院 入院患者73名 よ り32株 のCoagulase陽

性 ブ菌 を分離,寒 天平板稀釈法 に よ りPClu/ml以 上に

耐性 を示す17株 について,同 様方法 で感受性 をみた結

果,EMに46%,OTCに63%の 耐性 をみた外,KM,

CP,Leuomycin,合 成PC(Phenethicillin,DMP-PC)・'

VOL.10NO.4 CHEMO7HERAPY 275

な どには耐性 を殆 ん どみていないa

これ らの内,PhenethiciliinとDMP-PCに つ いては

69株 のSt.aureusに ついて感受性 をみた ところ,PC-G

には90%以 上が1u/m1以 上 で耐 性 を示す のに比 し,

Phenethicillinで は80%が2u/ml以 下,DMP-PCで

拡85%が2.25mcg/m1で 感性を示 し,現 在 の ところ合

成PCは,PC耐 性 ブ菌 に有 効な選択 剤 と考 え られ る。

結.論

以上 内科領域 で経験 した重症耐性 ブ菌症3例 を含 め,

肺 化膿症 を主 と した27例 の耐性 ブ菌感染 例につ いても

治療 を主 に報告 した。

重症例においてはDMP-PCが 有効 であ るが,ア レル

ギー反応,耐 性の点について も考慮すべきであろ う。又

'混合感染の形での肺 化膿 症例においては,抗 生物質 の併

用 ない し交互使用 に よらね ばな らぬ ことを知 りえたが,

か かる症例におけるブ菌 の耐性 の度合 は,そ れ までの化

学療法剤の使用結果 に反映 し,か つその治療 に当つ て困

難 を生 じ易 い傾向にあ り,今 後かか る感染症 の内科的療

法 にさらに臨床研究 の必要性を痛感す る次第であ る。

(8)基 礎 的 領 域a)

鈴 木 成 美

京都府立医科大学微生物学教室

近 年 抗生 物 質 が 盛 ん に 治 療 面 に 用 い られ る よ うに な つ

て か ら耐性 ブ ドウ球 菌(以 下,ブ ドウ球 菌 は ブ菌 と略 称)

に よる感 染 症 の報 告 が 急激 に 増加 した。わ れ わ れ は病 原

性 ブ菌,な か ん ず く耐 性 ブ菌 の生 物 学 的 な ら び に形 態 学

鮒 研 究 を行 なつ て い る の で,今 迄 え た結 果 につ い て報 告

す る。先 ず 結 果 の概 要 を述 べ る。

1)ブ 菌 の病原 性 と関 連 性 の深 い も のは=ア グ ラ ー ゼ

産 生 能,溶 血 能 で,マ ン ニ ッ 卜分 解 能 や 色 素 産 生 能 は 関

連 性 が少 い。病 原 性 ブ菌 の特 徴 と してCeagulase,Phe・

sphataseやPenicillinase産 生 能,水 銀 イオ ン耐 性 が 注

目 され ・AmmoniumMolybdateChemicaltest(AMC

test)な どい ろ い ろな 検査 法 や 迅 速 且 つ 簡 便 な分 離 用,

選 択 並 びに 鑑 別 用培 地 が 種 々報 告 され,最 近 はBARBER,

etal・(l951)のphosphatase検i査i用 のPheno1phthalein

diphosphateagarを 更 に 改 良 したPolymyxinS≠ ⑫h艶

JococcusmediaやFluoresceinaminemediaが 好 結 果

を示 す こ とが述 べ られ てい る。即 ち病 原 性 ブ菌 は0.2%

昇 張寒 天 培地 やPelymyxinB(75mcg/m1)含 有 寒 天 培

地 に よ く発育 し,ま た 後 者 のFluoresceinaminemedia

で は病原 性 ブ菌 の み が 紫 外 線 の下 でbutteryellowの 蛍

光 を放 つ こ とが 認 め られ て い る。且 この 蛍 光 発 光 能 と マ

ン 晶 ッ ト分 解 能 とは 関 連 性 のあ る こ とが 報 告 され て い

る。今 後 これ らのいろいろなStaPhツlococcusmediaeこ

つ いても検討 したいと思 う。

2)わ れわれ の大学 におけ る病院 ブ ドウ球 菌の薬 剤耐

性はSM,TC,PC,CPの 順で,CPま たはTC高 度耐

性菌や2剤,3剤 耐性菌が増加 している。幸 いEMま た

はOLM耐 性菌は発見で きなかつた。ま たPC耐 性菌 に

はphagegroupIIIに 属す るものが多 かつた。

3)P.Dineen法 を応用すれば,簡 単 にPC耐 性 ブ菌

のPC-aSe産 生能が測定 できる。

4)病 原性 ブ菌 の耐性試験 には初代惑受性試験が簡便

で よい。ま た本法 の応用 に よりしば しば併 用効 果の判定

もできる。

5)耐 性 ブ菌は種 々の形態変異 を示 し,集 落 変異,菌

の形態変化のほか種 々の菌体構造変化 を示す。な か んず

くPC耐 性菌ではCellwal1,lCrosswal1の 肥 厚,菌

形 の増大が顕著 であ る。し か しなが らPC耐 性 ブ菌 の

Cellwa11の 変化を さらに究明す るためには 形態学的研

究 のみ ならず生化学的研究 が必要 と思われ るので,今 後

この方面か らも追究 した い と思5。次 に個 々の成績の概

略につ いて述べ る。

病巣由来 ブ菌の色素産生能や糖分解能は非病巣 由来 ブ

菌 に比 し旺肇 である。な お 色 素 産 生 能を見 るには 乱α一

PhyleeOCCtiSN0.110培 地が よいが,病 原性 ブ菌 の 中 に

は食塩耐性 を失 つた ものがあるので,分 離には普通寒天

もし くは血液寒天培地 の併用 が望 まれ る。

病巣由来 ブ菌 の溶血能は非病巣 由来 ブ菌 に比 し強力 で

あ る。な お溶 血 能 検 査には ウサ ギ及び とッジ血球を用

い,方 法はEijkman平 板法 によつ た。コ ァグ ラーゼ産

生能 も病巣由来菌中黄色 ブ菌株が強 いQ病 巣 由来 ブ菌 に

は コァ グラーゼ陽性,マ ンニッ 卜陽性の ものが多 いo

BERGEYの 分類 では=ア グラーゼ陽性,マ ンsッ ト陽

性 のブ菌はS。auγeusで 病原菌,2つ 共 陰 性の ものは

S.epideγmidisと して区別 してい る。コ ァグラーゼは菌

の培養初期 において最 も強 く産生 され る もので,CHAP-

MAN(1936),FA1RBROTHER(1940)の 言 う如 くブ菌 の

病原性 と最 も関係が深 いもの と思われ る。

病巣由来 ブ菌 の コァグラーゼ産生能 と溶血素産生能 と

は概ね平行関係 を示す。

病巣由来 ブ菌 の壊死毒,致 死毒産生能は非病巣 由来 ブ

菌に比 し頗 る旺盛であ る。

病巣由来 ブ菌 の白血球毒(leukocidin),壊 死毒,致 死

毒 産生能は溶血能につ ぎコァグラーゼ産生能 と密接な関

連 性を示す。な お病 巣 由 来 ブ菌中 コアグラーゼ,壊 死

毒,白 血球毒産 生能のすべてを欠如せ る5株 がPCに 対

しO・78~1.56u/m1の 耐 性を示 した こ と拡注 目に価 す

るo

276 CHEMOTHERAPY JULYig62

人工PC耐 性 プ菌では耐性が進む につれ諸種生物学的

性状は減弱す る。SM耐 性 ブ菌は高度耐性になつて も比

較的変化 が少 い。BARBER(1954)は ブ菌 の結 合性 コア

グラーゼ量 と色素産生能 とは関連性 を有す ると言 うが,

また両者の相関を否定す る人 もある。SMに250mCg小m1

耐性 となつた ブ菌はなお黄色で,病 原性 の諸性状 を保有

す るのを認 めた。

つ ぎにわれわれ の大学 附属病院勤務の看護婦400名 の

鼻咽腔 らか分離 したブ菌の感 受 性 試 験を行なつた とこ

ろ,標 準品209P株 の100倍 以上の耐性を示す 高度耐

性株が多 く,特 にCPま たはTC高 度耐性 株の増加 が

注 自され るが,OLM,EM耐 性株 は全 然発 見できなかつ

た。こ れは本大学病院で常用す る薬剤 の種類 を反映 する

もの と思われ る。ま た鼻咽腔内耐性 ブ菌 の増加は院 内感

染の感染源 として も意義が深 いeつ ぎに2剤 耐 性 では

PC十SMが 多 く,3剤 耐性 ではPC十SM十TCが 多かつ

た。ま た4剤 耐性株の出現 も注 目に価す る。

MikamycinはPC耐 性菌 に概ね 有効であるが,PC耐

性 白色 株で5mcglm1耐 性 を 示 す も の が み られた。

SyncillinはPCと の間に交叉耐性を示す。こ れに反 し

PC耐 性菌はStaphcillinに 対 し100%感 受性であつた。

つ ぎに耐性 ブ菌 中 コァ グラ ーゼ陽 性 株 のphage型 別

を行 なつてみ ると,phagegroupIIIが 大 半を占めてい

た。BARBER,etal.(1949),KNIGHT,etal.(1954)

の成 績で もPC耐 性菌は 皿群 に属 する ものが多 く,感 受

性菌 は1,∬ 群 の菌 が多い と言 う。G0ULD(1955)は 寒

天培地上 で1群 あ るいは 皿群 の ブ菌がPC耐 性に変異す

るときPC・-aseを 産生 し,同 時にphage型 が 皿群に変

異す ると述べ ている。

GOULD(1960)はLAMMANA&S土HAPIRO法 に準 じ

ディス ク法に よる併用効果判定を行 ない,併 用効果 が認

められ ない場合,ま たは相乗作用,相 加作用が認 められ

る場合 な どの判 定基 準について述べた。彼 は又初代感受

性試験が 簡便 で迅速 に生体内におけ るもの と同一結果を

示 し,且 混合感 染のさいに も応 用できるので,常 用の検

査 法 としてこれ を推奨 している。わ れ われ もこれを追試

し,例 えば患者膿汁 を塗抹せ る寒天 上に数種の昭和デ ィ

ス クを一定の間隔をお き密着 させ て培養後相乗作 用また

は相加 作用を示す薬剤 を選択 できるこ とを知つた。

われわ れは また'P・Dineen法 に よ り病 原 性 ブ菌の

Penicillinase産 生試 験を試みた。即 ちブ菌 の48時 間ブ

イ ヨン培 養の クロPホ ル ム抽出後 の残渣 をSarcinalutea

を混釈 したPC寒 天 内の穴に入れ再び培 養 して検査 す

る。そ してSarcinaの 発育帯 の直径 を測定 する ことに よ

りPenicillinase産 生量を知 るこ とができる。引 続 き病

璃性 ブ菌 のPenicillinaseをAK・SAZetal.(1961)

の 方 法 に 準 じ精 製 を 試 み,NIERENBERG変 法 に よ り

Penicillinase活 性 の 時 間 的 消 長 を よ く追 求 す る こ と が

で き た。

つ ぎ に わ れ わ れ は 人 工 な らび に 自然 分 離 耐 性 菌 の集落

の落 射 照 明 に よる 光 顕 的 観 察 を行 な い,透 明集 落,R型

集 落 を認 め た ほ か,扁 平 なR型 菓 落 上 に生 じた 耐 性菌 の

乳 頭 増 殖 あ る い は 自 家融 解 した 集 落 中 の 耐 性 菌 の 二次的

増 殖 を認 め る こ と が で き た。

塩 化 リチ ウ ム継 代 ブ菌 の カ ーポ ン レプ リカ像 で は,著

明 なsepta形 成,半 月 状 の欠 損 部 の 出 現 を み,さ らに

PCを 作 用 させ た も の では 穎 粒 形 の集 団 を 認 め 自然分離

多 剤 耐 性 ブ菌 の さい は 扁 平 なlargebodyの 出 現 を 認 め.

る こ とが で き た。

またPC(1u/m1)作 用 菌 の 切 片 像 で は,溶 菌 像 のほ

か 菌 の腫 大 化,細 胞 壁 の 菲 薄 化 を認 め,隔 壁 構 造 が髪 粗

とな り中 央 のdenselayerが 消 失 し,著 明 に拡 大 され て

い る のを み た。こ れ はPCが ブ菌 のwallsubstance即

ちmucopeptide(PARKのuridinenucleotide)の 合 成

を 阻 害 す る こ と と関 連 して興 味 が あ る。

PARKら はuridinenucleotideが 恐 ら くブ菌 の細 胞壁

のprecurs。rと して役 立 つ もの と考 え て お り,LEDER-

BERG(1956,1957)はPCの 作 用 は 菌 の細 胞 壁 の形成

をblockす る もの と推 定 し て い る。即 ちLEDERBER(}

は 大 腸 菌 を用 い,PCがWallSubstanceの 形 成 を阻害

し,protoplastを つ く り,つ い に そ の溶 菌 を お こす こ と

を み た。ま た β一galactosidaseが ブ 菌 のmembrane

enzymeと 考 え られ て お り,PCが 存 在 す る と,membrane

を 通 つ て の ア ミノ酸 のtransportも β一galactosidaseの

合 成 も阻 害 され る こ とがHANCOCK(1958)に よ り認め

られ て い る。さ らにHANCOCK&PARK(1958)はPC

は ア ミ ノ 酸 がWallsubstanceのpeptideportionに

incorporateさ れ るの を阻 害 す るの を 認 め,PARK(1958)

はbacitracin(oxamycinも)が ア ミノ酸 のWallpep-

tideにincorporateさ れ る の を 阻 害 し,ま た 高 濃 度 の

AMも ア ミ 小酸 がWallpeptideとCellproteinに

mcrorp◎rateさ れ る の を 阻 害 す る と述 べ た。

わ れ わ れ は 入 院 患 者 よ り分 離 したPC耐 性 ブ菌 の切 片

像 に お い て,比 較 的 厚 い 細 胞 壁 と幅 の 広 い 隔 壁 を認 めた。

PCの 侵 襲 点 が ブ菌 のWallpeptideの 合 成 阻害 にあ り

とす れ ば,反 対 にPC耐 性 ブ菌 の細 胞 壁 の肥 厚 せ る箏 実

も"首肯 で き よ うo

カ ー ポ ン レプ リカ像 に お け る塩 化 リチ ウム耐 性 ブ菌 と

塩 化 リチ ウム培 地 継 代 後 さ らにPC耐 性 と した ブ菌 各

120個 の直 径 の分 布 を 見 るに,後 者 即 ちPC耐 性 菌 では

正 常 菌 の直 径(平 均0.7μ)に 比 し増 大 し,0.9μ の も

の が 高 率 に 出 現 す るの を 認 めた。ま たSM,TC,CPに

VOL.10NO.4 CHEMOTH巨RAPY 277

対す る高度耐性 ブ菌 の切片像にお いて も概ね1μ 以上 の

直径を示 し,菌 の大 いさが著明に増大 してい るのが認め

られた。

(8)基 礎 的 領 域b)

ブ ドウ球菌の マウス実験 感染

とその抗生物質治療の問題点

桑 原 章 吾 ・多 田 庄 三

東邦大学医学部微生物学教室

病原性 ブ ドウ球 菌のマ ウス実験感染について代謝 物質

の果す役割 を しらべ る目的で,寺 島株の半合成培地 あ る

いは7種 ア ミノ酸培地培養か ら=ア グラーゼ,α一毒素 を

できるだけ精 製 し,こ れか らつ くつた α一トキ ソイ ド,

及び伝 研ブ菌 トキ ソイ ド,布 販 ビアル 律ニダーゼを感 染

と同時にまたは一 定の間隔をおいて投 与 し,致 死性,腎

内含菌量,腎 膿瘍 の形成,体 重変 化な どを 目標 に調査 し

たo

ブ菌寺 島株0.04mg(乾 燥量)を マウス静脈 内に接種

し,18日 後各臓器 の含菌量 を しらべ てみる と,腎 内含菌

量が他 の臓器 に較べ てか な り多 く,逆 に肝,脾 では少 な

い自 とアル ロユダーゼ,α一毒素を同時に注射す ると腎 内

菌量に増加 の傾向がみ られ,ま た コア グラーゼ,α 一毒素

及びその トキ ソイ ドを注射 した場合は致死性 の増強 が認

あ られた。す べて代謝物質を同時投与 した群 では,感 染

初期に明 らか な体重減少(5日 目頃を 中心に)が 認 め ら

れた。し か し,代 謝物質の感染相 に及ぼす作用は代謝物

質の生産原株 と接種菌が異 なる場合 と同一であ る場合 で

かな り差 が認 められた。菌 を腹腔 内接種 した場合は,感

染過程 も代謝物質 の影響 も静 脈内接種 の場 合に比 しはる

かに緩和であ る。

菌 株に よる感 染相 の差 を しらべ るため,患 者か ら分離

した新鮮 分離 株12株 をマ ウス静 脈内に接種 してみる と,

菌 の溶血性 とマ ウスの致死性 及び腎内菌量 との間にはあ

ま り相関がな く,ま た致死性 と腎内菌量(及 び膿瘍形 成)

の間に もあま り関連性は認め られなかつた。抗 生物質耐

性株 と菌 性株の間に感染相の差は認め られなかつた。

以上の実験成績か ら,マ ウス感 染方法を,'ビ アル ロ三

ダーゼ と共 に菌 を静 脈内接種 する とい う形 式に固定 し,

目標 とする感 染相を腎内菌量 に限 局 して,抗 生 物質の腎

内菌清掃効果 を しらべてみた。

寺島株0.1mg(乾 燥量)接 種 後PC6.6u小9(1回

量皮 下注)を2~4回 投与す ると3~4回 投与群では腎

内菌量 は対照の1/100程 度 に低下す るが,接 種量を0.15

mgに す ると,PC量 が毎 回66u/9に なつて も効 果がな

い。CTCの 場合,菌 量0.1mg接 種 では66mcg/91回

量 では2~4回 投与 でかな り菌量低 下が認 め られ たが,

33mcg/9で は効果が ない。CMの 場合 も菌量0.15mg

の場合 は,薬 剤量が1回 量133mcg/9ま で上 昇 して も

清掃効果 は認 め られ ない。こ の場合,実 験後腎か ら分離

され た菌 の感 受 性 は原 株 と全 く同 じで耐性化 の徴 はな

いo

ブ ドウ球菌 の感染過程は他 の化膿菌 に比 しきわ めて複

雑 であ り,臨 床的 な抗生物質 の治効 は必 ず しも 菌の 勿

vitro感 受性 に平行 しないかも しれ ない可能性 があるが,

本実験は その可能性 を模型的 に具体化 した もの として興

味 あるものと思われ る。