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24 Design Wave Magazine 2009 January ここでは差動伝送の長所,短所について整理し,数百 Mbps ~数 Gbps の信号を伝送するための基礎知識を解説する. (編集部) パソコンの処理能力が高まるにつれて,利用するイン ターフェースも高速化が要求されてきました.現在,パソ コンの内部ではボード間を PCI Express が,ハード・ディ スクとメイン・ボードの間は SATA がインターフェースし ています.さらには,パソコンとビデオ・カメラは IEEE 1394,ディスプレイは HDMI や DVI-D,そのほかの周辺 機器は USB 2.0 がインターフェースしています.これらは, すべて物理層で差動伝送を利用しています. 1.差動シリアル伝送の規格 差動伝送には,いくつかの規格があります(図1). 主にプリント基板内で使われる規格 プリント基板間や基板と特定の機材を接続する規格 機器同士を接続する規格 などのように分類できます.例えば, としては, ¡LVDS(Low Voltage Differential Signaling) ¡MIPI (Mobile Industry Processor Interface) としては, ¡PCI Express ¡SATA(Serial Advanced Technology Attachment) ¡MVI (Mobile Video Interface) ¡MDDI (Mobile Display Digital Interface) としては, ¡HDMI (High-Deffinition Multimedia Interface) ¡USB(Univarsal Serial Bus) ¡IEEE 1394(FireWire, iLink) などが挙げられます.そのほかにも RS-485 などがありま 1差動伝送線路の基礎知識� 差動伝送線路の基礎知識� 数百MHz~数GHzの信号伝送に必須のアナログ知識を凝縮� 西城知幸� 図1 差動伝送は身近なところで利用されている アプリケーション・� プロセッサ� ベースバンドASIC a)MIPIなど� b)PCI Express c)USBやHDMI USB HDMI/DVI-D サウス・� ブリッジ� PCI Expressなど� CPU シリアライザ,デシリアライザ,特性インピーダンス,集中定数回路,分布定数回路,ストリップ線路, マイクロストリップ線路,整合,反射,分岐,差動インピーダンス Keyword

数百MHz~数GHzの信号伝送に必須のアナログ知識を凝縮 ...¡IEEE 1394(FireWire, iLink) などが挙げられます.そのほかにもRS-485などがありま

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  • 24 Design Wave Magazine 2009 January

    ここでは差動伝送の長所,短所について整理し,数百Mbps

    ~数Gbpsの信号を伝送するための基礎知識を解説する.

    (編集部)

    パソコンの処理能力が高まるにつれて,利用するイン

    ターフェースも高速化が要求されてきました.現在,パソ

    コンの内部ではボード間をPCI Expressが,ハード・ディ

    スクとメイン・ボードの間はSATAがインターフェースし

    ています.さらには,パソコンとビデオ・カメラはIEEE

    1394,ディスプレイはHDMIやDVI-D,そのほかの周辺

    機器はUSB 2.0がインターフェースしています.これらは,

    すべて物理層で差動伝送を利用しています.

    1.差動シリアル伝送の規格

    差動伝送には,いくつかの規格があります(図1).

    ①主にプリント基板内で使われる規格

    ②プリント基板間や基板と特定の機材を接続する規格

    ③機器同士を接続する規格

    などのように分類できます.例えば,

    ①としては,

    ¡LVDS(Low Voltage Differential Signaling)

    ¡MIPI(Mobile Industry Processor Interface)

    ②としては,

    ¡PCI Express

    ¡SATA(Serial Advanced Technology Attachment)

    ¡MVI(Mobile Video Interface)

    ¡MDDI(Mobile Display Digital Interface)

    ③としては,

    ¡HDMI(High-Deffinition Multimedia Interface)

    ¡USB(Univarsal Serial Bus)

    ¡IEEE 1394(FireWire, iLink)

    などが挙げられます.そのほかにもRS-485などがありま

    第1章

    差動伝送線路の基礎知識�差動伝送線路の基礎知識�数百MHz~数GHzの信号伝送に必須のアナログ知識を凝縮�

    西城知幸�

    図1 差動伝送は身近なところで利用されている

    アプリケーション・�プロセッサ�

    ベースバンドASIC

    (a)MIPIなど�

    (b)PCI Express

    (c)USBやHDMI

    USB

    HDMI/DVI-D

    サウス・�ブリッジ�

    PCI Expressなど�

    CPU

    シリアライザ,デシリアライザ,特性インピーダンス,集中定数回路,分布定数回路,ストリップ線路,マイクロストリップ線路,整合,反射,分岐,差動インピーダンスKeyword

  • Design Wave Magazine 2009 January 25

    す.最近は低電圧,低電力の特徴を生かして,MIPI,MVI

    などモバイル関連のインターフェースがいろいろ出てきて

    います.

    それぞれ仕様は異なりますが,共通していることは電圧

    振幅が0.3Vp-p程度であるなど,差動伝送の利点を生かして

    振幅が小さく,高速なシリアル伝送です.

    規格にもよりますが,消費電力は1本の伝送線路当たり

    1.8mW程度です.

    最近の傾向としては,LSIの微細化などによる動作電圧

    の低下に合わせて,振幅の中心電圧(バイアス)はグラウン

    ドに近づく傾向にあります.

    例えばLVDSとPCI Expressを比較すると,LVDSは振

    幅が0.3Vと小さいのですが,振幅の中心電圧は1.5Vでし

    た.PCI Expressは,振幅こそ0.3~0.4Vと,LVDSと変

    わりませんが,その中心電圧は0.8V程度と低くなっていま

    す.

    2.いまなぜ差動シリアル伝送か?

    ● 差動伝送の長所と短所

    差動伝送とは,1組のペアになった線路に信号を通すこ

    とです.このときに位相が同じ信号を扱うのがEVEN(同

    相)モード,位相が180°異なる信号を扱うのがODD(差動)

    モードです.通常,差動伝送はODDモードです(図2).

    忘れたくないのは電気信号の伝わる方向と電流の向きは

    同じではないことです.電気信号は最初,プラス側もマイ

    ナス側も信号源から遠ざかる方に伝わっていきます.

    差動伝送の特徴は,

    ①電圧の振幅を小さくできる

    ②ノイズに強い

    ③外部に影響を与えにくい

    ④高速化が可能なためパラレル配線を集約できる

    ⑤駆動回路が複雑

    ⑥長さをそろえる必要があり基板上の処理が面倒

    などが挙げられます.

    ①電圧の振幅を小さくできる

    ①について考えてみます.差動伝送線路の片側で見た場

    合,電圧振幅は小さくても2本の差動信号として伝送する

    ため,受信端のアンプで合成すると2倍の振幅と等価にな

    ります(図3).この特徴は昨今のLSIの微細化に伴う動作

    電圧の低下によって,扱う信号電圧が下がる傾向に対して

    も有利になります.

    ②ノイズに強い

    差動伝送がコモン・モード・ノイズに対して強い理由は,

    受信端のアンプで合成したときに,図4のようにコモン・

    モード成分だけが打ち消されるためです.

    シングルエンド伝送の場合,図5のように信号成分Aと

    ノイズ成分Cが独立で,IC内部のスレッショルド電圧Vth

    も独立となるため,ノイズに対して弱くなります. さら

    に,いままでのシングルエンド伝送の場合,LSIの最大の

    振幅で動作するため,内部および外部バスを駆動するため

    に電流を多く流していました.

    例えばLVDSでは,負荷の100Ωに対して0.35Vの振幅

    を与えるような設計であるため,3.5mAの電流を負荷に流

    せればよく,1.225mWの電力ですみます.このため消費電

    力も小さくなります.

    特集�

    2

    1

    3

    App1

    App2

    4

    5

    6

    ペアの伝送線路�

    A0

    (b)EVENモード(偶モード,同相モード)�

    V

    AとBに同位相の�信号を加える�

    T

    B

    V

    T

    ペアの伝送線路�

    A

    V

    AとBに逆位相の�信号を加える�

    差動伝送はこちらのこと�

    T

    B

    V

    T

    (a)ODDモード(奇モード,差動モード)�

    +�A B-� +�A B+�

    1本の信号線路の振幅の2倍に見える�

    x1

    -� =�

    2倍�

    図2差動伝送はペアの伝送線路AとBに逆位相の信号を加える

    図3 受信端のアンプで合成すると2倍の振幅が得られる