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日本語による 文章作成法 2012 東北学院大学教養学部情報科学科

文章作成法 - mmt1.cs.tohoku-gakuin.ac.jpmmt1.cs.tohoku-gakuin.ac.jp/introduction/chapter1.pdf · 2. 良い文章とは何か (2)-会話と聞き取りの訓練- 3. 科学・技術的文章

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日本語による

文章作成法

2012

東北学院大学教養学部情報科学科

2012 情報科学科 文章作成法 配付資料

- ii -

日本語による文章作成法

目的:科学・技術の分野で用いられる日本語文章の性質を理解し,

科学・技術的文章を作成する技法を習得し能力を育成する。

方法:講義と作文・添削の実習

*専用ノートと筆記用具必携 国語辞書を持参することを推奨

*参考書: 「科学表現 基本と演習」 井上勝也(培風館)[1] 「理科系の作文技術」 木下是雄 (中公新書)

目次

1. 良い文章とは何か (1)-わかりやすく正確に-

2. 良い文章とは何か (2)-会話と聞き取りの訓練-

3. 科学・技術的文章

4. 科学・技術文を書く (1)-レポートの種類-

5. 科学・技術文を書く (2)-事実と意見との区別-

6. 科学・技術文を書く (3)-図・表の利用-

7. 科学・技術文を書く-悪い事例紹介-

8. 科学・技術文を書く-まとめ-

9.レポート作成の実際

10.文章を分析する

11. 論文を読む

12. 着想・表題・メモ・整理

付録

A 授業中のメモの取り方

B SWP-文章校正支援ツール-

C レポート・論文作成のためのアウトライン法-理系用-

D 図書館の利用法

E 情報検索法 F 試験答案の書き方

(この資料は再配付しない。http://mmt1.cs.tohoku-gakuin.ac.jp/introduction/で閲覧・ダウン

ロードできる。)

1

はじめに

大学では,高校までとは違い,レポート形式での宿題が課せられることが多くな

る。それは,「…について述べよ」「…について調べ問題点を整理せよ」といった,

漠然とした課題として課せられるのが普通であって,単に最終的な答を書けばそれ

で済むというものではない。「方程式…の解を求めよ」「脳の中の神経細胞の数はお

よそいくらか」という類の,いわゆる「正解」を求める課題とは,大きく異なるの

である。

このテキストの目的は,まず,大学におけるレポートを日本語でどのように書く

べきか,を実践を通して学生諸君に知ってもらうことにある。「大学におけるレポ

ート」では,課題に対する結論を,必要にして十分な理由付けをしながら,わかり

やすく述べなければならない。そのための知識と技術を身につけようというのであ

る。

本テキストでは,とくに「科学的文章」の作成法を学ぶ。ここでいう「科学的文

章」とは,科学的な事柄についての文章を意味するのではない。(具体例は第1章

を参照されたい。)一口に言うと,伝えるべき事柄を正しくわかりやすく読み手に

伝える文章のことである。そのために満たすべき条件にはいろいろあるが,重要な

のは二つだけである。一つは,日本語としての標準型に従っていること,二つめは,

事実と意見を区別しつつそれらを正確に述べていること,である。言われれば当然

のことであっても,学生諸君が実際に文章作成に取りかかるとさまざまな問題が浮

かび上がってくる。その具体例を見ながら,望ましい科学的文章の作成法を学習し

ていく。

科学的文章は,いわば文章の骨格である。骨格がしっかりしていれば,書き手の

力量や感性に応じた肉付けによって,さらに豊かで個性的な文章表現が可能になる。

そのためには時間と経験が必要であるが,心掛け次第では立派な卒業論文をものに

することができるであろうし,卒業後に社会で一般に通用する文章をごく自然に書

き下すことができるようにもなるだろう。人生の長きにわたって,さまざまな局面

で学習の成果が現れる,そのような授業になると思ってもらいたい。諸君の健闘を

期待する。

2

1.良い文章とは何か (1)-わかりやすく正確に-

さまざまな文章

文章には,自分が読むためのものと,他者に読んで貰も ら

うためのものがある。文章の種類や作成

の意図がどうであっても,何を伝えたいかがなんらかのかたちで読み手に伝わらなければ,良い

文章と言わないのが普通である。このことは,自明のようであって実はしばしば忘れられる。メ

モやノート・備忘録び ぼ う ろ く

のような個人的な文章の場合は,「読み手」は自分であるから,自分が理解

できればそれでよい。(もっとも,学生が,講義ノートを友人が読むことを前提として作成するこ

ともある。試験が近づくと,そのようなノートは価値がインフレ的に増大する。)しかし,手紙・

新聞記事・報告書・論文・試験答案のように,他者を「読み手」として想定する文章の場合は,

他者が理解できる,あるいは共感できるものでなければ,その目的は達せられない。目的を達せ

られない文章は,悪文と呼ばれる。

さまざまな表現型

良い文章として,修辞法を駆使し美辞麗句を巧みに列ねたものを思い浮べることがある。美的

感覚や,人に対する愛情・憎しみまたは個人的な悲しみ・喜びなどの感情をそのまま,あるいは

技巧を用いて表現しようとすると,形容句・修辞語・比喩の多い文章になる。次の文は,夏目漱

石「虞美人草」の一節である:

花の香さえ重きに過ぐる深き巷ちまた

に,呼び交か

わしたる男と女の姿が,死の底に滅(め)

り込む春の影の上に,明らかに躍お ど

りあがる。宇宙は二人の宇宙である。脈々みゃくみゃく

三千条の

血管を越す,若き血潮の,寄せ来き た

る心臓の扉とびら

は,恋と開き恋と閉じて,動かざる男女な ん に ょ

を,躍然と大空た い く う

裏り

に描き出している。

文学的表現が,比喩ひ ゆ

や隠喩い ん ゆ

を用いることで際だった色彩を放つことの好例である。しかし,個

人的な感覚や感情は,その人には解っていても,必ずしも他人には理解できない。伝えたいこと

があっても,読む人にそれが伝わらなくては文章を作成する目的が達せられない。個人的感覚・

感情に重みを置いて文章をつくると,客観的に理解できる文章にならないばかりか,誤解を生む

という逆の効果も生みかねない。

分かりにくい文章の例に法律文がある。

民法第九百八条 被相続人は,遺言ゆ い ご ん

で,遺産い さ ん

の分割の方法を定め,若も

しくはこれを定

めることを第三者に委託し,又ま た

は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて,遺産

の分割を禁ずることができる。

一般人にとっては,一読しただけではわかりにくい。落ち着いて読めばその意味を理解できるの

であるが,なぜか取っつきにくい印象を読むものに与える。しかし,法律に関わる人々にとっ

ては,これは見慣れた定型文である。 *参考のために,同じ内容を分かりやすく表した文を例示しておく。

3

被相続人は,遺言により,次のことができる:

一,遺産の分割の方法を定めること

二,遺産の分割の方法を定めることを第三者に委託すること

三,相続開始の時から五年を超えない期間を定めて,遺産の分割を禁ずること

次は,夏目漱石の「硝子戸の中」の一節である:

私が高等学校にいた頃,比較的親しく交際つ き あ

った友達の中にOという人がいた。その

時分からあまり多くの朋友を持たなかった私には,自然Oと往来ゆ き き

を繁し げ

くするような傾

向があった。私はたいてい一週に一度くらいの割で彼を訪ねた。ある年の暑中休暇な

どには,毎日欠かさず真砂ま さ ご

町ちょう

に下宿している彼を誘って,大川の水泳場まで行った。

淡々と事実を述べているが,次に起きる何事かを読者に期待させる文章になっている。

良い文章を書けるようになるための方法として,良い文章を多く読むということがまずあげら

れる。そのようにして,知らず知らずのうちに,文章の型というものを身につけることができる。

この目的のために,次の課題を課す。

課題 授業で紹介される図書の中から一つを選び,読みなさい。指定された要領で要約文

を作成し,提出しなさい。

話題 紀行文は面白い

次の文で始まる『奥の細道』は文学的紀行文としても有名である。

月日は百代の過客にして,行きかふ年もまた旅人なり。…

The days and months are travellers of eternity,just like the years that come

and go. … (www.tclt.org.uk)

古来日本には,このような優れた紀行文を書く人が多くいた。事実を(感情

や思想で修飾しつつ)どのように的確にかつ面白く読者に伝えることができる

かを学ぼうとするとき,優れた紀行文を読むのは良い方法である。現代のもの

であれば,歴史や地理に関する綿密な考証を伴いながら書かれた司馬遼太郎の

『街道を行く』を推薦書の筆頭にあげたい。たとえば,『街道を行く 仙台・

石巻』を読んでみよう。筆者は,そこで仙台の第一印象をどのように

述べているだろうか。

4

論述問題について

前節で述べたことを念頭に置いたうえで,目的が明確な作文の例として,入学試験や入社試験

で論述問題を出された場合のそれへの取り組みかたを考えてみよう。いずれも,競争的環境の中

で自分を他者にアピールするのが目的の作文である。藤原和博『よのなか教科書 国語』(新潮社)

の一節(一部改変)を紹介する。

「あなたにとって友情とはなにか?」について書きなさいというお題が出たとする。

…きわめて抽象的な問いかけである。

結論から言えば,「抽象的な問いかけに抽象的に答えてはいけない」。

具体的な,たった一つのエピソードから語り起こすのがよい。「お互い助け合い,励

まし合うのが友情だと思います」と答えるより,「‘友情’で思い出すのは,次のよう

なことである。私が中学生の時,親友だと思っていた子に裏切られたことがある。…」

(「そういえば,こんなことがありました。私,中学の時,一度親友だと思っていた子

に裏切られたことがあるんです…」)と切り出すほうが,読むほうも(聴くほうも),

身を乗り出してくる。

形容の多い文章は,実際こんなふうに読みにくい。

「友達のかけがえのなさは,私には,まったく疑うべくもない。とくにゼミでの友人

達との積極的かつ活発なディスカッションは,アイデアを豊かにするし,得るものも

大きいからだ。だから今後とも,一生懸命,友人との議論を深めて,より一層,お互

いの強みと弱みを,いい感じで交流させていきたい。」(ある大学生の文章より)

読んだあなたには,何も記憶に残らないに違いない。それは,‘かけがえのない’‘ま

ったく’‘積極的’‘活発な’‘豊かに’‘大きい’‘一生懸命’‘深めて’‘より一層’‘い

い感じで’と,たった 4 行の文章に 10 個も修辞し ゅ う じ

語(形容する表現)が並んでいるから

だ。この場合,修辞語を一つだけ取り上げて,どのように‘活発なのか’をエピソー

ドで語ったり,‘深まる’とどういう結果になるのかを,実際にあったゼミの議論など

エピソードで語ることが必要だ。

同様なことは,読後感想文にも言える。「最新のコンピュータ技術がわかりやすく説明されてい

て,興味深く読むことができた」のような文には具体性がなく,上に述べた観点からは,これだ

けではほぼ無内容と評価されることになる。「最新のコンピュータ技術にはどのようなものがある

のか」「どのようにしてそれらの技術が可能になったか」「それらはどのように‘私’と関係して

くるか」などについて,読者にわかりやすく説明する努力が必要である。

表現規則

他人に読んでもらうために日本語で書く限りは,科学・技術文の文章は言語や日本語の規則に

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則っていなければならない。「主語は動詞の前に現れる」「接続詞による正しい接続関係を用いる」

「文として完結している」といった,公認された文法に従うことは最低限必要である。この節の

最後の例を見てもらいたい。

話題 主語と述語

最も一般的には,主語(主部)とは,形式論理学での「A は B である」におけ

る A に相当するものをいう。残りの部分 B が述語(述部)である。

*主語(主部):述語の表す状態や動作の主体を表す名詞(に相当する語句)

ヨーロッパ系言語では,この主語-subject-は通常,文の中に明確に現れ,かつ

その後に続く述語の動詞の形を支配する。たとえば

I get the book ←→ He gets the book

英文法の‘subject’を‘主語’と日本語訳し,同様な文法概念を日本語にも適用

しようとした結果,日本語文で主語はあるかないか,あるとすればどれか,と

いったことが問題になった。そして「<…は(が)>に相当するものが主語で

あるとは,単純には言えない」といったことが認識されるようになった。たと

えば

ケーキが食べたい

君は才能がある

の主語はどれか,というような問題意識である。こうして,日本語では「主語」

という概念は有効ではないという主張も出現することとなった。

この授業では,無用の混乱を避けるために,科学・技術分野での共通語は英語-または独仏語

-である,という認識に立って文章作成を考えていくことにする。科学がヨーロッパで発展した

国際的文化思想であることを考えると,これは不自然ではない。この立場では,科学的文での主

語とは,それを英語訳したときの主語・主部に相当する部分ということになる。したがって,訳

し方によっては主語や主部が変わることも起こりうる。例えば「ケーキが食べたい」は,明示さ

れていない「私」を主体とした正しい日本語文である。これを

I want to eat a cake.

A cake is what I want to eat.

などと英語に訳すことができ,それぞれ何が主語であるかは明確である。重要なのは,文中ある

いは文章中で主語・主部が明瞭に,または暗黙のうちに示されていることによって,行為や状態

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の主体と文意が明らかになるということである。

話題 「が」と「は」に注意

日本語では,「が」や「は」の前後の語(句)が必ずしも欧文文法での主語・述

語の関係にあるわけではないことに注意しよう。次のいずれも正しい文を見れば,

このことは明らかであろう。

[A1] 彼が,あの有名なヴァイオリン奏者だ。

[A2] そのとき私は,このパンが欲しいと切に思った。

(レストランでメニューを見ながら)

[B1] 私は天丼がいい。

[B2] 俺はカレーライスだ。

「が」「は」の前の語句が主語・主部に相当するかどうかを意識することも,伝え

るべき事を明確にした科学的文章を作成する上では大切なことである。

以下で説明するように,科学的文章の目的は,事実と意見を読者に明確に伝えることにある。

そこで,作文の際は主語・主部を常に意識し,前後の状況から誤解が生じることがあり得ない場

合,主語・主部の繰り返しで読者に煩わしい感じを与える場合以外は,主語・主部を明示する習

慣をつけてもらいたい。(この文の後半には主語が明示されていない。理由を考えてみよう。)

そのほかに日本語独特の言い回し・情感といったものにもある程度は注意を払うべきである。

例えば,「は」と「が」の機能の違いから生じる,次の文のニュアンスの違いがわかるだろうか。

□ 彼は市長になった と 彼が市長になった

He became a mayor He became the mayor

□ 私は腹が空いている と 私の腹は空いている

I am hungry My stomach is empty

どのような表現が正しいか-または適切か-を判断するためには,多くの正しい日本語に触れ

て,ことばの意味と機能を正しく理解していなければならない。

*どんな日本語であれ,それが日本人によって用いられ,まがりなりにもコミュニケーションに用

いられている限りは,それは正しい日本語である,という主張も可能かもしれない。しかし,この授

業ではそのような考え方は採らない。

現在の日本で,科学技術分野で標準的に用いられる文章型をもつもの-それは意味を変えることな

7

く欧文訳できる-を正しい科学・技術文章とし,その書き方を伝えるのがこの授業の目標となる。そ

の標準的文章型は,実は科学技術分野に特有のものではないことも,学生諸君は追い追い知ることに

なるであろう。

次に挙げるのは誤った例およびその訂正例(・は類例)である。

○アルファ崩壊とは,原子核がアルファ線を放射して他の原子核に変えること。(自動

詞と他動詞の混同)→ アルファ崩壊とは,原子核がアルファ線を放射して他の原子

核に変わること。

・伝染とは,個体から個体へ病気を伝えること。

○波は干渉がある。(助詞の不適切使用,主語と述語の不適合)→ 波には干渉する(と

いう)性質がある。

・金属は電気伝導がある。

・人間は倍数性で性決定をおこなわれている。

○その研究結果では,単体の活動ではリズムは発生しないが,集団ではリズムが発生すると

いう結果であった。(無意味な重複)→その研究では,リズムは単体の活動では発生しないが,

集団では発生するという結果が得られた。

文の型:構文に注意を払おう 名詞・動詞・助詞・接続詞のような単語には,それらが組み合わされる仕方に規則があって,

かってな順に並べることはできない。一般的な規則に従った単語の並びの型を構文という。上記

の1番目の例はその構文からはずれた例にもなっている。

さらに例を挙げよう。

問い「ノートの取り方について(授業で取り上げた)最も重要な考え方はなんですか」

に対して答えるときは,次のような構文にしたがって記述することが原則となる:

記述の仕方:

①最も重要なのは ~ という考え方である。

② ~ という考え方が最も重要である。

③最も重要な考え方として ~ がある。

ある授業で学生に解答を求めたところ,いくつかの不適切な文が見つかった。訂正例と共に紹介する。

(A)最も重要な考え方とは,ノートは後から見るためであり,小・中・高のようにただ板書するだけではだ

めだ,という考え方である。

→ 最も重要な考え方とは,ノートは後から見るために取るのであり,小・中・高のときのようにただ板

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書を写すだけではだめだ,というものである。

(B)ノートの取り方について,最も重要な考え方として,授業中はよく聞き,授業の要点をメモし,授業の後

でまとめることである。

→ ノートの取り方についての最も重要な考え方は,授業中はよく聞き,授業の要点をメモし,授業の後で

まとめるというものである。

練習問題1

1 以下の文は学生の作文事例である。1~2の文の本来の意味や趣旨を推測し,誤りを正せ。

説明を聞いた後,さらに3~9の誤りを正せ。

1.彼は,犯人の犯罪動機の存在を,借金の取り立てが過酷であり,さらに執拗であったことを

証明した。

2.そのような現象が常識では起こりえない理由としては,瞬間的に多量の物質を集めなければ

いけないためです。

3.エネルギーの総量は変化がない。

4. ほうれんそうとトマトを交配してもニンジンにはならないことを実験によって証明したのは,

ヤングによってなされた。

5.電子が実在することの証明は,トムソンが真空放電の実験によってなされた。

6.CD の表面が虹色に見えるのは,光が干渉するので虹色に見える。

7. 二重スリットの実験とは,二つのスリットを通過した電子がスクリーンにあたると跡を残す。

8.構造的プログラミングについて,最初に私が考えていたイメージは,非常に抽象的なものと

して捉えていた。

9.ここでの「接触」の定義は,抽出された二つの座標の距離が一個体長より短かった場合,「接

触」しているとする。

10.私は,研究の楽しさや,もっと知りたい,勉強したいという意欲は,先生のおかげだと思って

います。

2 本章最後に挙げた「ノートの取り方」についての問いに対する以下の解答文について,本文

に述べた例を参考にしながら,不適切な表現を正せ。

(C)最も重要なのは,高校までの板書を写すだけのノートの取り方はなく,見るだけでなく聞い

たこともノートに取るということ。

(D)ノートは後から見てわかるようにとらなければ意味がない。また,授業中に先生の話を聞く事

が大切である。

9

話題 頭の体操-カタカナ語と言葉の意味

わかりやすい文章を書くためには,書いている本人が文章をわかっていなけれ

ばならないのが普通である。そして,文章をわかっているためには,使っている

言葉を理解していなければならない。

書き手(学生)が言葉を理解しているかどうかを教師が判断するのには,二つ

の方法がある。一つは,その言葉を文章の適切な場所に適切な仕方で使っている

かを見る方法で,もう一つは,言葉の意味を他の言葉で表してもらうという方法

である。

わかっているようでわかっていないのがカタカナ語である。これは,理解の

程度にほぼ無関係に,外来語を日本語化するというカタカナの機能による。特に,

第二の方法で理解度を見ようとすると,しばしば大変な結果になる。例えば

コンピュータ == 計算機,電子計算機

は良いとしよう。マウスは「手動移動式打鍵代替的入力装置」とでもなろうか。

さて,あなたは,次の用語をあなたの言葉で説明できますか。

デスクトップ アイコン インターネット ハッカー バーコード

ときにはこんなこともやってみて,あなたの頭の柔軟さを増すことを

試みてみよう。

2.よい文章とは何か (2)-簡潔・明快であること-

一つの文に多くの情報を盛り込むと,読者はそれらの関連について理解しようと考え込んでし

まうことがある。情報を効率的に伝達するという科学的文章の目標を達成することができないば

かりか,筆者の頭の中で情報が整理されていないという負のイメージさえ与えかねない。原則と

して,一文一情報とするのがよい。簡単な例を挙げよう。

学校のクラブ活動の問題として,勉強との両立がむずかしく,予算が十分ではな

いのである。

この文は,短い一文中に直接関係がない二つのことを言おうとしているので,簡潔であるとは

言えない。簡潔な表現に直した例をあげよう。

10

学校のクラブ活動については,次の点が問題となっている。第一に,生徒が勉強と部活動を

両立させることが難しい。第二に,予算が十分ではない。

このように,簡潔な文では文字の数が増えるという一見不思議なことが起きる。これは,独立した事

実を一つ一つ押さえて記述していくためである。

3.良い文章とは何か (3)-会話と聞き取りの訓練-

良い文章が成立するためには,書く人の考えがある程度まとまっていなければならない。考え

が既にまとまっていて,良い文章が書けることもあるし,文章をいろいろと書いているうちに考

えがまとまってくることもある。いずれにせよ,考えがはっきりしていないのに,良い文章がで

きあがっているということはありえない。

考えをまとめる訓練は可能である。それには,文章を書くことを通じて行なうのが最もよい。

しかし,それ以外の方法もある。「会話」である。

会話で最も大切なのは,相手の話をきちんと聞くという態度である。これもやはり訓練により

習慣づける。日常会話や講義授業のみならず,自分が興味を持つテーマに関する講演を聴くとい

うのも,この訓練のための良い方法である。普通,講演者はことばを正しく用いて話すもので,

かつ,話の組み立て方も巧みに構想されているから,そのような話を真剣に聴く

ことで得るものは多い。

内容については,常にすべてを受け入れるのではなく,批判的に聞くという習

慣も大切である。

第二に,自分が話すときは,一般的に正しいとされている日本語の形式を意識して話すように

努める。日常会話のスタイルに対する意識のあるなしは,その人の書き言葉のスタイルにも強く

影響してくる。

第三に,常に現在の話題に注意を払うことが重要である。「いま,何が問題になっているのか」

「相手は,何に関心を持って話しているのか」を正しく把握して,次の話題の展開を考える習慣

を身に付ける。主題に関心を向けない会話の態度は,論理を適切に展開し課題を処理する力を身

につける上でマイナス要因になる。

このような言語生活を通しても,正しく説得力がありかつ個性的な文章を書く力が付いてくる

ことが期待できる。

話し言葉と正しい科学・技術的日本語表現

会話で用いられる口語表現に注意を払うことは必要であるが,それらをそのまま文章として用

いてはいけないのが普通である。

例題1 次の文章(東京営団地下鉄「メトロニュース」に掲載の高校生の投書)を読

んで,より簡潔な文章に書き直せ。(参考文献[1]より。)

11

毎日有楽町線で通学していますが,駅は綺麗だし,駅員さんは挨拶してくれるから,

気分が良いです。欲を言えばトイレがもっと綺麗だといいんだけど,部活でいろいろ

な地下鉄に乗る機会があって,どの駅も綺麗だしサービスもいいと思うけど,有楽町

線の車両は夏場クーラーが効いていて気に入っています。でも,朝のラッシュ,あれ

はいやだな-,とにかくきついです。

他者に読んでもらう科学・技術的文章においては,話し言葉をそのまま文章化してはいけない。

「科学的文章として,自分ならどういう表現にするか」という課題のもとで,書き直した例を紹

介する。

答の例 1

私は毎日有楽町線で通学しています。部活でいろいろな地下鉄に乗る機会がありま

すが,どの路線の駅も綺麗で駅員のサービスも良いです。とくに有楽町線は,夏場ク

ーラーが効いているのと,駅員が挨拶してくれるので気に入っています。ただ,トイ

レをもっと綺麗にしてほしいし,朝のラッシュもなんとか改善してほしいです。

答の例 2

僕は部活でいろいろな地下鉄に乗る機会があります。どの駅も綺麗でサービスも良

いけれども,毎日通学に利用している有楽町線の車両は,夏場にクーラーが効いてい

るので気に入っています。欲を言えば,トイレをもっと綺麗にして,朝のラッシュを

何とかしてほしいです。

上記 2 例とも文末は「ほしいです」だが,「ほしいと思います」のほうがより大人びた印象を与

える。敬体(文が‘です’‘ます’などで終わる)ではなく常体(文が‘だ’‘である’などで終

わる)を用いれば,この点の気苦労はしないで済むが,相手に対する丁寧な気持ちは伝わりにく

いかもしれない。

4.科学的文章

科学的な文章の目標

文は,読み手に理解されなくては目的を達しない。目的を達するためには,いくつかの必要条

件を備えていなければならない。

学生が提出するレポートも,相手を意識しなければならない。試験の答案も,それを評価する相手

をまったく考えないで書くのは感心しない。例えば,「ノイマン型コンピュータについて説明せよ」という問

題でレポートか答案を書くとき,出題した教師がコンピュータ技術の専門家か科学史の専門家かによって,

求められているものの範囲がおのずから違っている筈である。(その違いは授業に出ていればわかる。)作文

をするなら,相手に理解され努力が評価されるような記述のしかたをするほうが良い。

このように,一言で科学的文章と言っても目的と相手がいろいろであるから,それらを意識して書くのは

12

大事なことである。むかし,機器類の説明書に難解なものが少なくなかったのは,自分以外の読み手のこと

を考える親切さが欠乏していたためである。最近は,家電製品についてはこの点でかなりの改善が見られる

ようになった。取り扱い説明書まで含めた商品の評価がなされるようになったからであろう。

このテキストの目的の一つは,学生諸君が論旨の明確な文章を書く技法と感性を修得すること

にある。いわゆる科学・技術的文章(これも以下,‘科学的文章’ということにする)を書く能力

は,それを身につければ,在学中のみならず実社会においても大いに役に立つはずである。

これまでいくつかの事例をもとに,良い文章と悪い文章にははっきりと分かる違いがあること

を学んだ。ここでは,良い科学的文章が備える形式的な面と内容的な面について整理しながら考

えてみよう。

科学的文章の特徴

理系世界で書かれる文章が持つべき特徴として,何よりも事実(および論理)と意見(および推測)とを

はっきり区別することがあげられる。つまり,科学や技術に関する文章は,事実と意見とを正確にかつ分わ

りやすく伝達することが目的であって,その他の「主観的要素」は極力含んではならないのである。これに

ついては,別のところで詳しく説明する。

「事実と意見をはっきり区別してわかりやすく伝える」という目標を持つ科学・技術的な文章-明晰な文

章-の特徴を考えてみると,次のようになる。

(1)簡潔かんけつ

であること(複雑・冗長じょうちょう

でない)

(2)一義い ち ぎ

的であること(曖昧あいまい

でなく,複数の意味に解釈する余地がない)

(3)平易へ い い

であること(難解な表現を使わない)

(4)論理ろ ん り

的であること(前後の辻褄つじつま

が合っている。論理の流れに乗っている)

次に,これらについてもう少し詳しく説明する。

(1)簡潔性

□特に,長い修飾語があったり主語と述語が遠く離れていたりする文は読みにくい。

例1

直流電気抵抗の消失をはじめとする特異な性質を示す超伝導状態は,いろいろな運動

量をもって勝手な運動をしている伝導電子が,ある臨界温度 T で,そのほとんどがペア

をつくり,ある特定の運動量 P をもった一つの量子状態に落ち込むことによって実現す

る。

*この文の主語は「超伝導状態は」,述語は「実現する」である。「直流電気抵抗の消失をはじめ

とする特異な性質を示す」という長い修飾句が主語にかかり,主語を重くしている。このような

文は「逆茂木型」と言われ,よく悪文の典型として挙げられる。また,主語と述語の間に「伝導

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電子が…落ち込む」という文が入り込み,主語と述語の間の距離を長くして文を複雑にしている。

既に述べたように,簡潔にするには,文章を短い文の集まりにするというのがしばしば有効で

ある。上記の例文であれば,例えば次のように始める。

超伝導状態では,直流電気抵抗の消失をはじめとし,いくつかの特異な性質が現れる。

この現象が発現する機構は以下のようなものである。…

□いつも,文を短くすれば簡潔になるというものでもない。短い文の集まりはかえって読みにく

い文章になることもある。少々長くなるが,次の例を見てみよう。

例2

高度経済成長政策による合理化が強行される中で,労働組合の労働災害に対する取組と り く み

はかな

りの進展をみ,政府は 1962 年に産業災害対策審議会を総理府(いまの内閣府)に設置,その答

申にもとづいて新産業災害防止五カ年計画を決定,1964 年に「労働災害防止団体等に関する法

律」を成立させたが,これは,経営者団体による自主活動によって安全・衛生対策を行わせる

もので,実は労働基準法による安全・衛生行政を後退させるものであった。

(坂寄俊雄『社会保障』岩波新書より一部改変)

これを短文の集まりに書き換えた例が次の文章である。

例3

高度経済成長政策による合理化が強行された。その中で,労働組合の労働災害に対する取組

はかなりの進展をみた。政府は 1962 年に産業災害対策審議会を総理府(いまの内閣府)に設置

した。その答申にもとづいて,政府は新産業災害防止五カ年計画を決定した。さらに,政府は

1964 年に「労働災害防止団体等に関する法律」を成立させた。しかし,これは,経営者団体に

よる自主活動によって安全・衛生対策を行わせるものであった。その中身は,労働基準法によ

る安全・衛生行政を後退させるものであった。

例3は例2より読みやすくなっているとは言えない。より良い文章は,例2と例3の中間にあ

るだろう。

□同じ語句・表現を近接した場所で用いると,読者に冗長な印象を与える。

例4

地球は,その表面の 70 パーセントが水で覆われており,地球は水の惑星と呼ばれる。

上の例では,文法的な誤りはないものの,下線部が冗長な感じを生み出す原因となっている。

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話題 ことばの冗長性

言語は,本来冗長性を持っている。すなわち,一部分が欠けても,その欠けた部分

を他の部分から推測できるようになっている。次のような虫食い文を見てみれば,こ

のことはよくわかるであろう。

電子(① )ールソフトウェアには,メッセージを保管(② )る機能があります。

この(③ )によって,メッセージを完全に(④ )除することなく,もとのフォル

ダからアーカイ(⑤ )フォルダへ移動すること(⑥ )できます。

したがって,ことばの重複によってさらに冗長性を増すことはできるだけ避けるほ

うがよい。

(2)一義性

科学的文章には,言葉の意味や言葉の間の関係,筆者の意図するものに曖昧あ い ま い

さがあってはいけ

ない。すなわち,複数の意味に解釈する余地がないことが重要である。例えば

●金色の雨が五月の明るい太陽の下で輝く若葉に降りそそいだ。 (「金色の雨」が「五月の

明るい太陽の下で」降りそそいだのか,「五月の明るい太陽の下で」「若葉」が輝いているのか。)

この例における曖昧さは,語句の間の関係が明確でないことによるものである。

●その時の彼の行動は適切であったとは言い難いが,必ずしも責められるべきであるという

わけでもない。 (筆者は何を言いたいのか。)

●授業にはもっとまじめに出席していた方がよかったかな..

,と考えている。

これらの文では,著者の主張・考えがあまりにも不明確である。

文章の曖昧さは,不十分な表現からも生じる。例えば,日常会話でよく使われる言い回し

A「私たちの企業の魅力はどこにあると考えますか」

B「えー,今後の発展性とか..

は、曖昧な表現を用いているものの典型例である。

(3)平易性

簡潔であっても,省略が過ぎれば平易であるとは限らない。禅語(たとえば「兀ご つ

」)はその典

型例である。次の例はどうだろうか。

眼は,網膜という脳の一部を含んでいる。

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この極めて簡潔な文を読んでその意味を理解できるためには,脳や神経系についてのある程度の

知識を持っていることが必要である。その知識のない人を読者として想定するなら,説明文が必

要である。

科学文では,専門用語はしばしば難解であり,適当な補足説明を加えることが必要となること

がある。(1)の例1で取り上げた文は,一般的な学生にとっては難解であろう。

難解な用語や術語・語句を多用することは避ける。学生がレポートをすべて独力で書き上げる

ときは,この危険は少ない。しかし,文献からの引用文を用いるときに,しばしば起きることで

ある。難解な用語に出会ったら,その意味を確認することを習慣づけよう。学生レポートに,そ

の学生が理解できないような難しい語句が説明なしに使われていると,レポートの評価は低くな

るということも知っておくとよい。

(4)論理性

文章は,読者が論述の展開についていけるものでなければならない。また,論理は,論理的に

正しく用いなければならない。これは,次のことを意味する:

(a)述べていることは,つじつまが合っていなければならない。例えば,議論の出発点と相あ い

いれ

ない結論を述べてはいけない。

(b)論理の流れに乗っていなければならない。例えば,「A ならば必ず B で,B ならば必ず C であ

れば,A なら必ず B である」といった三段論法は,確かでありかつ誰でも理解できるものであ

る。用いる論理はこのようなわかりやすい形式のものがよい。

(c)論理の飛躍をしない。たとえ筆者にとって自然な論理展開であっても,途中の説明が不十分

だと,読者は結論を理解できないことがある。

(d)議論の前提からは導かれないことを,あたかも導かれるかのように述べてはいけない。

例 1

①より高度の知識を身につけたいと思い,私は大学に進学した。②入学後,サークル活動

を通し多くの友人を得ることができた。③大学では,必ずしも勉学を優先させなくともよ

いのである。

この例文では,論理的飛躍のため,①と③との整合性に違和感が生じている。②と③の間にな

んらかの説明の文を入れる必要がある。

*あなたならどのような説明を入れるか。

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話題 パラドックス

形式的には論理の規則に従っていても,ことばや文の意味に注意を払わないととん

でもないことが起きることがある。次の文章はその典型的な例である。

Nothing is better than perfect happiness.

A boiled egg is better than nothing.

Therefore, a boiled egg is better than perfect happiness.

このような文章は,パラドックスと呼ばれる。

文章中で用いることばを正しく理解していないと,論理的に誤った記述をしてしまうことがあ

る。

例 2 次の文は,放射線に関する説明である。

①「半致死線量」とは,ある条件で照射されたとき,複数の個体の半数がある時間内に死

に至る線量のことである。②すなわち,この線量を照射されたとき,半数の個体は障害を

克服して生き残り,障害からの回復を果たすことを意味する。

この例では,「半致死線量」の定義を①で述べた後に,その定義では意味していないことを,筆者

の勝手な拡大解釈によって②の部分で述べている。その結果,誤った内容の文章になっている。

接続詞

語句や文をつないで文章にするときに,接続詞を用いる。接続詞にはいくつかの役割とそれに

応じた種類・用い方の規則がある。例えば

・腹が減っている。なぜなら,私は朝ご飯を食べなかった。

・ふと顔を上げた。だから,彼がそこにいた。

は間違った表現である。正しい文章を作るためには,接続詞は正しく用いられなければならない。

あるいは,接続詞に応じて文の型を決めなければならない。適切な接続詞を用いることで,文章

全体に滑らかさが生まれ,筆者の意図を平易に伝えることができるようになる。

ここでは,文と文をつなぐ接続詞を整理しておく。

順接 だから したがって それで すると

逆接 しかし けれども だが 実のところ

累加(並列) および また ならびに さらに

選択 または あるいは もしくは

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転換 さて ところで それでは 他方では

補足 なぜなら というのは ただし

例題 以下の文章で適切な接続詞は何か。

1.列車到着のアナウンスが聞こえた。( ),急いでホームへ駆け上がった。

2.佐藤君は熱心に練習する。( ),レギュラー入りしていない。

3.まず,里帰りをします。( ),卒業旅行をします。

4.コンピュータで計算した。( ),筆算でも確かめた。

5.ことばは五十音順にならんでいる。( ),「あいうえお」順である。

6.試験では 60 点未満は不合格です。( ),レポートを 4 回以上提出した場合は別です。

7.以上がこれまでの経緯である。( ),今後の対策を検討しよう。

あらゆる意味で,人は環境に強く影響される。文章表現も,実は書く人の環境から影響を受けている。他

方,あなたの身近の日本語がいつも正しい-あるいは適切な-ものとは限らない。あなたが今置かれている

環境の制限を超えて,普段から広く良い文章に接する心がけが大事である。

練習問題2

1.‘簡潔である’ためには,‘短い文を書く’ということがしばしば効果的である。次の文を,‘短い文を

書く’という観点から書き換えよ。

・コンピュータの価格性能比が格段に向上し,このことが大衆普及の一つの要因となっている。

・約 60 兆個の細胞のすべてに存在している,糖と塩基が連なった構造を持つ DNA は,遺伝情報を

保持する役割を担っている。

2. 次の文は,ある施設の「利用の手引き」の中にあるものである。

出入り口付近などで床に座ったりしないでください。

(1)これは,この授業でいう「科学的文章」ではない。その理由を述べよ。

(2)この文を,「科学的文章」に書き換えよ。

3.(1)本文の「超伝導」に関する文を改善しなさい。

(2)本文の「高度経済成長政策」に関する文を改善しなさい。

4.次の文章の( )にあてはまる適当な接続詞を考えなさい。

人類を含むすべての生命が住む生物圏は,地球全体の大きさに比べたら,取るに足らない存在

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かもしれない。( ),地上 4500 メートルの大気中で糸に乗って漂っていたところを捕獲ほ か く

れた蜘蛛く も

や,大海原お お う な ば ら

や緑の大陸を経へ

て,6000 メートル上空の熱帯ストームを横切って渡るコ

ンドルのような鳥,( ),バクテリアが住むという地下数千メートルの地殻を考えたとき,

われわれは生物圏の幅の大きさに気づく。

( ),われわれには,地球上の全生物に関してどれだけの知識があるだろうか。( ),現

存の生物の種の数は正確には把握されていない。(S.C.モリス『カンブリア紀の怪物たち』講

談社現代新書より)

5.LaTeXら て ふ

という組版システムには,①非常に便利なコマンドがたくさん用意されている,②「視

覚デザイン」と「論理デザイン」を切り離して設計されている,という特徴がある。このうち

特に②を強調してLaTeXの説明をする,二つの文からなる文章を書きたい。どのような接続詞を

用いてどのように書けばよいか。

6.次の文章は論理的ではない。どのようにすれば、論理的な文章にすることができるか。

この道路には信号機がない。だから信号機を設置すべきである。

7.次の文章は,ある人が行った実験の内容とその結論を述べたレポートの概要である。誤りが

ある部分を指摘し,誤りである理由を説明せよ。

○実験の内容

①マウスに低線量の放射線を照射した。

②その結果,マウス体内のチミジンキナーゼ(TK)という酵素の活性が低下することを観察し

た。

③次に,一定時間後に高線量の放射線を照射した。

④すると,マウス体内の TK の活性が回復することを観察した。

○現象を説明する仮説と推論

①TK 活性が,最初の照射で低下する原因は,放射線で生じたラジカルが細胞膜に結合する性質

がある TK に作用して,その活性を抑えることにあるのだろう。

②したがって,人為的に細胞内のラジカルの量を増減させれば,それに応じて TK 活性は減増す

るだろう。

③したがって,マウスを,ビタミン E(生体膜のラジカルを除去する性質を持つ)欠乏の状態

やラジカルの作用を助ける高磁場下に置けば,その TK 活性は低下するだろう。

○この仮説と推論を検証するための実験結果

①ビタミン E の量や環境磁場の強さにより,ラジカルの量は変化することを確認した。

②TK 活性は,細胞膜内に①の方法で生成するラジカルによって変動することを観察した。

○結論

①放射線を低線量照射した後,細胞内には,次の照射から受ける影響を抑制する機構がつくら

れる。

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②この抑制機構は,ラジカルを除く機構である。したがって,放射線はラジカルを増やしてTK

活性を低下させる作用の他ほ か

に,ラジカルを除く機構を細胞内に構築させる働きを持つ。

*ラジカル:不対電子をもつ原子や原子団あるいは分子のことで、化学反応性が大きい。

8.次の文章は,有名な「抜き打ちテスト」のパラドックスである。学生の‘論理’のどこに誤

りがあるか,考えてみよ。

月曜日の朝,先生は教室で「今日から土曜日までの間にテストをする。しかし,そ

の日にテストがあるということは事前にはわからないように実施する」と言った。そ

れを聞いた学生の一人が「それは不可能です」と言い,その理由を次のように説明し

た。

- 土曜日に抜き打ちテストをすることは不可能である。なぜなら,そのためには

金曜日までにテストがなかったということが必要であり,その時点で土曜日にテスト

があることがわかってしまうからである。だから,抜き打ちテストが可能な最終日は

金曜日である。しかし,金曜日に抜き打ちテストをすることはやはり不可能である。

そのためには木曜日までにテストがなかったということが必要であり(先にあげた理

由により土曜日には抜き打ちテストはできないので)その時点で金曜日にテストがあ

ることがわかってしまうからである。以下,同様な理由で,月曜から水曜までの間に

実施することもできない。結局,抜き打ちテストを実施することは不可能である。-

これを聞いた先生は「それではこれからテストを実施する!」

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9. 次の漫画を,論理性,一義性,簡潔性,平易性について描いたものとして分類したい。ど

れがどれに対応するか。

① ② ③