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経営」第2講:分業のメカニズム 藤本隆宏・新宅純二郎 教科書:土屋守章『現代経営学入門』第1章「分業とその調整」 *授業資料は下記URLから各自ダウンロードのこと http://merc.e.u-tokyo.ac.jp/mmrc/lecture/komaba-keiei/2010.htm

経営」第2講:分業のメカニズムmerc.e.u-tokyo.ac.jp/mmrc/lecture/komaba-keiei/20101203.pdf ·  · 2010-12-10「経営」第2講:分業のメカニズム 藤本隆宏・新宅純二郎

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「経営」第2講:分業のメカニズム

藤本隆宏・新宅純二郎

教科書:土屋守章『現代経営学入門』第1章「分業とその調整」

*授業資料は下記URLから各自ダウンロードのこと

http://merc.e.u-tokyo.ac.jp/mmrc/lecture/komaba-keiei/2010.htm

社会的分業 (交換による調整)

企業と分業

分業に基づく協業(企業内分業)

土屋守章 『現代経営学門』

企業内分業の威力:

アダム・スミス『国富論』のピン製造(土屋、P7)

1人で全てやると:1日20本

10人で分業してやると:1日48000本(生産性200倍!)

分業による生産性向上の理由(アダム・スミスの分析)

(1)専門化による熟練度向上

(2)仕事の切り替えロスを低減

(3)専用工具や専用機械の発明を誘発

企業内分業と社会的分業 (土屋、P14~20)

企業内分業(分業に基づく協業)

分業:事業部・部門・工場・工程・作業者などのレベル

企業内の組織の分業(専門化)と協業(調整)

小集団の簡単な調整なら相互調整(室内楽)

調整が複雑化すると、仕事が階層化(オーケストラ)

リーダー職の専門化(指揮者)

社会的分業(企業別の専門化と交換)

企業による事業(例えばピン製造事業)の選択

出来上がった財・サービスの他の経済主体との交換

社会的分業の調整: 市場経済か、統制経済(計画経済)か

市場経済のメリット・・・「神の見えざる手」

しかし自己利益追求と責任(ルール遵守)の両立が必要

社会的分業は、市場の広がりによって制約される(土屋、P8)

需要の側面で分業を制約するもの・・・市場規模 (スミス)

分業によってもたらされる生産増を市場は吸収できるか?

19世紀の鉄道建設 → 巨大な「米国市場」の出現

20世紀:グローバル市場の登場(海運・航空機)

垂直的な社会的分業:部品産業の発達(土屋:P20~22)

市場規模の拡大→ 垂直統合から垂直分業へ(部品産業の自立)

自動車部品産業: デンソー分社化。階層化。カスタム部品が多い

電子部品産業: 汎用部品(コモディティ)が多い。

以上は、アーキテクチャの違い(インテグラル型vsモジュラー型)

汎用電子部品では、シェアを取って儲かっている企業もある

標準規格とスポット的な取引市場

生産メーカーと需要家の数が増加

→ 製品の形態や質について標準的な規格が設定される

コモディティー化 → は商品取引所のようなスポット的な取引市場

(しかし、実際にはそんなに多くない)

企業聞の分業は価格機構のみで調整されているわけではない。

設計、品質、納期など、相対の打ち合わせも

製品アーキテクチャと部品産業の構造

自動車部品と汎用電子部品の利益率の差

自動車はインテグラル(擦り合わせ型)アーキテクチャ

パソコンはモジュラー(組み合せ)オープン・アーキテクチャ

現代企業の分業パターン・・・自動車の例:

水平的・社会的分業(事業選択)および調整

垂直的・社会的分業(自動車と部品)および調整

企業内分業・協業(後述の製品開発のケース参照)

インテグラル・アーキテクチャの垂直調整(部品調達)

市場からの短期スポット買いは少ない(純粋市場取引ではない)

設計・開発込みの長期契約が多い (デザイン・イン)

日本型サプライヤーシステムがグローバル・スタンダード

例:自動車(豊田市)、北陸の新合繊(東レ)、他

産地型分業構造(産業集積)の形成 (土屋、P22~24)

ある地域への多数専門企業の集中立地(産業集積→産地)特に中核企業 (トヨタ、東レ)が無いネットワーク型。地域内での濃密な企業間コミュニケーション

タイプ1:インテグラル製品の産地:インテグリティ勝負鯖江の眼鏡枠、イタリア・コモ、スイス時計

タイプ2:インテグラル製品の産地:フレキシビリティ勝負大田区の産業機械

タイプ3:モジュラー製品:ハイテク急速展開力で勝負シリコンバレー (産業クラスター)

経営組織と企業内分業

企業内分業・調整と「組織化」

さらに複雑な調整 → 階層的な組織ユニットで対応

部門の分割(機能別、製品別、地域別、顧客別)

部門間の調整(ルール、垂直的指示、水平的相互調整)

組織成員の専門化(単能工、多能工、万能工)

組織成員間の調整(助け合い、コミュニケーション)

バーナードの経営組織論

公式組織 = 複数の人間の意図的に調整された活動のシステム

生身の人間の協働のシステムである

効率的な分業と調整のみならず、動機付け(貢献意欲の確保)も

企業内分業とルーチン化(意思決定の常軌化)(土屋、P12)

活動に先立つ「意思決定プロセス」(サイモン)

(目標 → 代替的活動案の探索 → 結果の推定)

分業 → 繰り返し化 → ルーチン化 → 意思決定時間の省略

非公式組織(インフォーマル・オーガニゼーション)

意識された共同目的なしで生じる人々の継続的・反復的な相互作用・接触(バーナード)

意識された共同目的は無いが、共同の成果は生じる

無意識的な社会過程→2つの結果

(1)一定の習慣、制度、社会規範(ルール)などの確立(2)公式組織の発生条件を形成する

逆に、公式組織が非公式組織を創造することもある。

例:非公式組織の分業の自然発生:

自然発生的な窃盗組織の形成と分業資料:開高健『日本三文オペラ』

経済資源の発見と個人的な発掘(個人活動)

個人の限界を超える複数者の協働体系(非公式組織の発生)

組織リーダーの発生(生産手段の所有、計画・管理能力)

ルール、コミュニケーション体系(言葉)の発達

分業関係(組織内分業、社会分業)の発達:貢献の体系

報酬体系の発達:誘因の体系

個人の組織参加の意思決定

要員のスカウト、訓練、脱退。

資源の枯渇と組織の崩壊(誘因・貢献バランスが崩れる)

例:非公式組織の分業の自然発生:

自然発生的な窃盗組織の形成と分業資料:開高健『日本三文オペラ』

経済資源の発見と個人的な発掘(個人活動)

個人の限界を超える複数者の協働体系(非公式組織の発生)

組織リーダーの発生(生産手段の所有、計画・管理能力)

ルール、コミュニケーション体系(言葉)の発達

分業関係(組織内分業、社会分業)の発達: 貢献の体系

報酬体系の発達: 誘因の体系

個人の組織参加の意思決定

要員のスカウト、訓練、脱退。

資源の枯渇と組織の崩壊(誘因・貢献バランスが崩れる)

現代企業における組織内の分業と協業:トヨタの製品開発の例

事業内容:あくまでも自動車中心

目的、方針の体系 …方針管理

方針管理(トップダウンの目標管理)各部門・各部署・各個人へとトップダウンで展開し(方針展開)各レベルの目標達成のために上司と部下の間で話し合い「計画→実行→成果確認→是正措置」のPDCAサイクルを回す

社是:「わが社は創造的な製品によって社会に貢献する」基本方針:「お客様第一、効率向上、組織活性化」長期経営計画: 長期目標への展開長期方針:「お客様満足度ナンバーワン確保」他年度方針:「工程能力向上による重要品質問題件数の低減」他各部の個別目標・方策:「アンダーボディ溶接精度の向上」他

全社組織構造(部門別分業):

機能別専門化が基本

製品開発組織の部門別分業(機能別、製品別、部品別):

技術部門は8分野、43部(1万人超)

開発段階別(機能別):研究、製品企画、製品設計、試作、実験

製品グループ別: 大型車、小型車、RVセンター

部品別: ボディ設計、シャシー設計、エンジン設計、電装設計

製品開発部門の調整:重量級PM組織:

各部門内での技術者個人の分業構造

(ボディシェル設計の例)

職務の幅はプロジェクトの進行とともに変動

初期計画段階では、チーフ格の1人が専念して構想を練る

その後、2人、5人、8人と徐々に増える

現図段階のピーク時には10~20人。

若手の一般設計者 ・・プロジェクトのピークからピークへと順次移動

新米はピーク時に入ってボデーシェルの20分の1のみを担当

次のプロジェクトでは8分割の段階から参加

次は5人の段階から、次は2人の段階から・・・

経験を積むにしたがって部品の受け持ち範囲を広げていく

分業の前提となる技術者の人事労務管理

採用、訓練、配置、昇進、動機付けなどの体系的な管理

採用: 技術者の新卒採用: 大学教官の紹介/「オープン公募」

技能者(試作、ドライバー、実験補助): 一般ブルーカラー同様

中途採用者の採用: 部門ごとにニーズに応じてその都度採用

配置: 技術系新卒:本人の配属希望部署(第3希望まで)を重視

配属面接、新人社員の全リストを各部に配布、「ドラフト会議」

ローテーション: 毎年1回、上司と本人が異動に関して意見を交換

昇進ルール:「係長昇格までに課を変わる経験をする」など

昇進

資格制度と専門職制度: 職能資格制度(全社共通)

一般→係長級→基幹職3級(対外呼称としては課長級)→基幹職2級(次長級)→基幹職1級(部長級)

職位:「マネジャー職」「スタッフ職」「専門職」

昇進の判断基準: 能力と成果係長への昇進 ・・ 多面評価

プロジェクトリーダー(CE,重量級PM)への道係長級から、視野の広い人間を選ぶ → CE付→主担当員→CE

教育

全社共通の教育: 入社3ヵ月の導入教育、

入社5年目の中堅社員研修、

係長昇進時(主に30歳代)の新任係長研修

技術部門の若手教育:OJTとOff-JT

(1)設計能力の向上をねらった製図教育・CAD教育

(2)ものに触れることを狙った現場実習(車両分解実習など)

(3)技術講習

動機付け(誘因の設計)

賃金: 総合給的な賃金体系(職務遂行能力・資格、実績、年齢)

労働条件: 裁量労働制

動機付け: 「改良ばかりでつまらない」?

まとめると: 幅広い知識・能力と深い専門知識を兼ね備えた人材の形成

「多能的社員によるチームワーク」を基礎とする、日本の優良ものづくり現場