10
1010 1021 1029 995 999 1005 1034 1037 1043 1053 1059 1065 1073 1079 1080 ~1083 ~1088 日本畜産環境学会第 14 回大会について 健全な環境を作り,人の健康を守る…………中井 裕 飼料を極め,環境を守る………………………古谷 修 「東アフリカと東南アジアにおける水の安全安心」 …………………………………………………板山朋聡 酪肉近と研究開発・技術普及 その 6 …………阿部 亮 変わりつつあるヨーロッパの鶏卵産業 ……………ハンス・ウイルヘルム・ヴィントホルスト杉山道雄・大島俊三・棚橋亜矢子・山内加代子共訳 反芻動物の生産に関する最近の研究動向(4) …芳賀 聡・鈴木 裕・加藤大地・加藤和雄・盧尚建 小型実験動物の飼育施設で発生する悪臭に関する考察 ……………………………………祐森誠司・池田周平 放牧酪農を軸に多彩な商品開発で販路を広げる …………………………………………………滝川康治 シカ肉の有効活用を目指して ………………………押田敏雄・青木和夫・坂田亮一 実践飼料学の失敗と成功(4)…………………本澤清治 飼料学(128)………………………岡野圭介・石橋 晃 子牛代用乳-WPC,SOWE, リジン , メチオニン- …………………………………………………大成 清 パラグアイにおける石こう(CaSO 4 ・2H 2 O)による 赤色酸性土壌の改良事例……………………冨田健太郎 Dr.Ossyの畜産・知ったかぶり(54)…………押田敏雄 ミス・アメリカが農業・畜産を支える…(バイソン) 畜産界ニュース………………………………………………1081 総目次…………………………………………………………1084 小特 産業 動物 畜産 研究 Sustainable Livestock Production and Human Welfare 2015年12月1日発行(毎月1回1日発行)ISSN00093874 CODEN:CKNKAJ 第69巻・第12 号 2015 株式会社 養賢堂 次号 70 巻 1号より

畜産の研究 第69巻 第12号 (立ち読み) - Book Stack · Sustainable Livestock Production and Human Welfare 2015年12月1日発行(毎月1回1日発行)ISSN0009-3874

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目  次

10101021

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999

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1034

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1065

107310791080

~1083~1088

日本畜産環境学会第14回大会について健全な環境を作り,人の健康を守る…………中井 裕飼料を極め,環境を守る………………………古谷 修「東アフリカと東南アジアにおける水の安全安心」 …………………………………………………板山朋聡酪肉近と研究開発・技術普及 その6…………阿部 亮変わりつつあるヨーロッパの鶏卵産業 ……………ハンス・ウイルヘルム・ヴィントホルスト著 杉山道雄・大島俊三・棚橋亜矢子・山内加代子共訳反芻動物の生産に関する最近の研究動向(4) …芳賀 聡・鈴木 裕・加藤大地・加藤和雄・盧尚建小型実験動物の飼育施設で発生する悪臭に関する考察 ……………………………………祐森誠司・池田周平放牧酪農を軸に多彩な商品開発で販路を広げる …………………………………………………滝川康治シカ肉の有効活用を目指して ………………………押田敏雄・青木和夫・坂田亮一実践飼料学の失敗と成功(4)…………………本澤清治飼料学(128)………………………岡野圭介・石橋 晃子牛代用乳-WPC,SOWE,リジン,メチオニン- …………………………………………………大成 清パラグアイにおける石こう(CaSO4・2H2O)による赤色酸性土壌の改良事例……………………冨田健太郎Dr.Ossyの畜産・知ったかぶり(54)…………押田敏雄ミス・アメリカが農業・畜産を支える…(バイソン)

畜産界ニュース………………………………………………1081総目次…………………………………………………………1084

小特集

産業動物

畜産の研究Sustainable Livestock Production and Human Welfare

2015年12月1日発行(毎月1回1日発行)ISSN0009-3874 CODEN:CKNKAJ

第69巻・第12号

2015

株式会社養 賢 堂

次号70巻1号より

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1000 畜産の研究 第69巻 第12号 (2015年)

●EU における鶏卵産業に対する新たな課題の短観

の提示

第 1 部:2000 年と 2013 年の間の世界の鶏卵

生産におけるヨーロッパと EU の役割の変化

本報告の第 1部では 2000年と 2013年の間におけ

る世界の鶏卵生産の動きを扱う。1990年と 2000年

の期間は前報において詳しく述べたので(Windhorst 2012 and 2014),今回の分析は 2000年から始める。

アジアの台頭が起きる前の 1988 年までは世界の

鶏卵生産はヨーロッパが主導していた。旧ソ連邦と

東ヨーロッパにおける政治経済システムが崩壊し

たので,1999年代当初においてヨーロッパの生産量

はかなり減少した。鶏卵生産が回復したとはいえ,

2000年における総生産量はまだ 1980年代の量と比

べると依然として 100 万トンも少なかった。2000

年と 2013年の間で世界の産卵鶏羽数は 50億羽から

70億羽へ,すなわち 39.8%増加した(表 1)。相対

成長率ではアジアが最大で,北米が最低であった。

ヨーロッパにおいては,産卵鶏群は 2億 2,600万羽,

すなわち 32.9%増加した。その主な理由は東ヨー

ロッパの鶏卵産業の回復にあった。アジアと中南米

を除けば,他のすべての大陸は,これらの大陸が

2000 年に維持していた世界の産卵鶏数に占める割合

を維持できなかった(表 2,図 1)。最も多くの産卵

鶏数を維持したヨーロッパの十大国は表3に示され

ている。しかしながら,FAO が報告したロシア連邦

とウクライナの産卵鶏数は現実とは違っている注 1)。

このことは,脚注1に表記したデータに従えば,順

位が変わる。2013年ではロシア連邦は 1位であり,

ウクライナは 2位である注 2)。

世界の鶏卵生産は 2000 年の 5,120 万トンから

2013 年の 6,830 万トンへ,すなわち 33.3%増加し

た。アジアは1,080万トン増で最大の絶対増を示し,

中南米とアフリカが最大の相対成長率を示した。

ヨーロッパにおいては,2013年の生産量は 2000年

よりもおよそ 150万トン増えた。

にもかかわらず,すべての大陸の中でヨーロッパ

は最低の相対成長率であった(表 4)。この同じ期間

に世界の鶏卵生産に占める割合は 2.5%減少した結

果,2013 年では僅か 16.0%になった。北米諸国も

世界の鶏卵生産のシェアを維持できず,1.4%減ら

した(図 2)。

表 1:世界の大陸別採卵鶏羽数の 2000 年から 2013 年

までの展開(単位:百万羽)(資料: FAO データベース)

増加率

(%)

アフリカ 378 505 515 36.2

アジア 3,091 4,146 4,494 45.4

ヨーロッパ 687 788 913 32.9

北米* 496 567 571 15.1

中南米 361 477 520 44.0

オセアニア 18 18 21 16.7

世界計 5 ,030 6 ,501 7 ,034 39 .8

大陸別 2000 2010 2013

* カナダ,USA 及びメキシコ 表 2:世界の大陸別採卵鶏羽数の割合の 2000 年から

2013年までの変化(単位・%)(出典: 筆者の計算による)

大陸別 2000 2010 2013 変化 (%)

アフリカ 7.5 7.8 7.3 -0.2

アジア 61.5 63.8 63.9 +2.4

ヨーロッパ 13.7 12.1 13.0 -0.7

北米* 9.9 8.7 8.1 -1.8

中南米 7.2 7.3 7.4 +0.2

オセアニア 0.4 0.3 0.3 -0.1

世界計 * * 100 .0 100 .0 100 .0 - * カナダ,USA,及びメキシコ ** 少数処理のため合計値は一致しない

計:50億羽 計:65億羽 計:70億羽

2000 2010 2013

アフリカ アジア 欧州 北米 中南米 オセアニア

図 1 世界の大陸別採卵鶏羽数の割合の 2000 年から

2013年までの変化(単位・%)(資料: FAO データベース)

注 1)IEC の 2014 年の年次報告はロシアの産卵鶏数を

1億 350万羽としている。Nobert Mischke (IEC 報

告者)は筆者への個人的情報でウクライナの産卵

鶏数を 9,800万羽であると知らせてきた。生産量

(表 8)と比較するとこの数値は現実的である。

FAO の報告数には,若雌雛とブロイラー生産用の

母鶏が含まれているのではないか。

注 2)脚注1のデータ問題にもかかわらず,表1,2および3

のデータは変更していない。なぜなら,FAOのデータ

を,ヨーロッパのみならず,全世界のものも再計算

せねばならなくなる。飼養方式を扱ったリスボン

でのBusiness Conference の特別報告でもロシア連邦

の産卵鶏の数では小さい数を使った。

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1005

反 芻 動 物 の 生 産 に 関 す る 最 近 の 研 究 動 向 ( 4 )

芳 賀 聡 * , * * ・ 鈴 木 裕 * ・ 加 藤 大 地 * ・

加 藤 和 雄 * , * * * ・ 盧 尚 建 * , * * *

第 4 章 泌 乳 生 理 機 能 と 乳 量 制 御

1 . は じ め に

家畜の生産能力は生理・飼養・育種・生殖・行

動学など様々な研究分野の努力のアウトプットと

して,確実に向上してきた。例えば,農林水産省

の改良動向データ 1,2)を参照し,日本国内の乳牛

の泌乳能力推移を確認してみよう(図 1)。1982 年

1乳期の平均乳量は 5,200kg だったが,国内の乳

牛の泌乳能力は上がり続け,2013 年には 8,198kgを記録している。これはつまり単純計算すると,

乳牛の泌乳量が 30年間毎年約 100kgずつ向上して

きたことを示している。乳量増加により酪農家の

経営は支えられてきたが,これには育種改良や飼

養学研究だけでなく,泌乳生理研究の発展による

乳腺機能の基礎的解明も大きく貢献している。

一方,30 年前と現在でこれだけ泌乳能力が違うと

いうことは,ウシの代謝機能システムもそれ相応に

変化していることが考えられる。本連載において

キーワードにもなっているが,近年のオミクスに

よる網羅的解析手法の発展と一般化が急速に進んで

いることを考慮すると,現在の「高泌乳」能力を

支える分子メカニズムおよび代謝ネットワークの

解明も急速に進展していくにちがいないだろう。

本章では,高泌乳能力を発揮する「ウシ乳腺」の

生理機能研究に関する,最近のトピックスを紹介し

アップデートすることで,今後の酪農生産の向上に

貢献できる泌乳生理研究の発展性について考えて

みたい。

2 . 乳 腺 組 織

まず乳腺組織(Mammary gland tissue)の基本に

触れておきたい。ヒトも反芻動物も Mammalia(哺

乳類)に分類されるが,そもそもの語源はラテン

語の「乳房の」に由来する 3)。長きに渡る進化の

過程で,現在の哺乳類の祖先は子宮や胎盤そして

乳腺という特徴的な組織を獲得することで,妊娠-

分娩-泌乳という生理機能を有し,仔を育てるという

繁殖戦略を講じてきた。乳腺はもともと汗腺が変化

した外胚葉に由来する外分泌腺であり(その進化

の過程をカモノハシにみることができる 3)),泌乳

(Lactation)とは仔のために,この乳腺組織において

母体の血液から栄養素を取り込んで,ミルクを合成

し分泌する一連の生理現象である。ところが,ホル

スタイン種を代表とする乳牛は,生産動物として

長年育種改良を加えられ,仔牛が必要とするより

もはるかに多い泌乳量を生産するようになった。

図 2 は,同一個体のホルスタイン乳牛において,

まだ妊娠中の乾乳期と分娩後泌乳を開始した時の

乳房を比較した写真である。サイズの違いが一目

瞭然である。泌乳期の乳腺組織は活発にミルク合成・

分泌を行い,またそれらを一時貯蔵するタンクに

0369-5247/15/\500/1 論文/ JCOPY

*東北大学 農学研究科 動物生理科学分野

(Yutaka Suzuki, Daichi Kato, Satoshi Haga,Kazuo Katoh,

Sanggun Roh)

**国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草

地研究所 那須研究拠点

***東北大学大学院農学研究科 家畜生産機能開発学寄付講座

4000

4500

5000

5500

6000

6500

7000

7500

8000

8500

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

牛乳

生産

量(kg)

年推移

図1 日本国内の乳牛(経産)1頭当たりの1乳期

平均牛乳生産量の推移 (グラフは引用 1,2 のデータを基に著者作成)

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1006 畜産の研究 第69巻 第12号 (2015年)

なっているため,ここまで大きくなるのである。

では,ウシの乳房の中,つまり乳腺組織の構造を

見てみよう(図 3A)。乳腺は乳腺胞と乳管から形成

される実質部位と,その周りに存在する支質部位

(結合組織や脂肪組織)により構成される。乳腺胞

を構成しているのが乳腺上皮細胞 (Mammary epithelial cell: 図 3AB)であり,この細胞が乳成分

基質の取込み,乳成分の合成,分泌を主に担当し

ている。乳腺上皮細胞の増殖,分化,乳管の発達,

実質/支質存在比は春季発動-妊娠-分娩-泌乳-乾

乳というステージの変化に伴ってダイナミックに

変化していくが,これらは内分泌支配,つまりプ

ロラクチン,成長ホルモン,糖質コルチコイド,

インスリン,エストロゲンおよびプロジェステロ

ンなどのホルモンにより絶妙に制御されているこ

とが分かっている。内分泌ホルモンによる乳腺機

能制御については古くから研究が進み,様々な知

見が得られてきたが,いまなお進展を続ける泌乳

生理学の最重点分野である。故に,これら内分泌

ホルモン一つ一つの基礎的な機能,役割について

は数多くの素晴らしい論文や専門書等に詳しく解

説されており,そちらを読んで頂くことにして,

本章では,生産という観点から「乳量(Milk yield)制御に関する泌乳生理機能」に焦点を当てる。

3 . 乳 腺 血 流 量

乳牛の泌乳能力が上がり続けていることを冒頭

で述べたが,乳量を決定する重要な要因として,

まず「乳腺血流量(Mammary blood flow)」が挙

げられる。ミルクは血液成分を原料として,乳腺

上皮細胞で合成されるため,供給源の血液が乳腺

に多く流れ込んでくる方がより原料を多く調達で

きる,というのはイメージしやすいであろう。

Linzell(1974)はサーモダイリューション法を用

いて,乳量と血流量に密接な関係を見出した 5)。

乳牛の場合,1kg 泌乳するためにおよそ 430L の

血流量が必要とされている 6)。では,血流量増加

には何が必要か。それは血液を乳腺に届ける道,

つまり血管を増やすことである。基礎となる血管

からどんどん枝分かれして,血管が網目のように

増えていくことを血管新生(Angiogenesis)という。

農研機構北海道農業研究センターの中島ら(2009)は乳

腺血流量を左右する血管新生メカニズムの一端を

解明した 7)。ウシ乳腺上皮細胞“自ら”が,血管の

新生や透過性を亢進する因子である血管内皮増殖

因子(Vascular endothelial growth factor: VEGF)を

図 2 ホルスタイン種乳牛の乳房の比較(左右同一個体)

左)乾乳期間中(妊娠後期)の乳房,右)分娩後泌乳を開始し

た乳房 (著者撮影:農研機構畜草研那須研究拠点)

A

B

図 3 ウシの乳腺構造と乳腺上皮細胞

A)乳腺構造の模式図(転載:上家, 1983)および

B)in vitro 培養条件下のウシ乳腺上皮細胞(著者撮影)

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1021

飼 料 を 極 め , 環 境 を 守 る

―飼料や栄養の基礎を理解して,豚からの窒素やリンの排せつ量を減らす―

古 谷 修 *

わが国の畜産業にとって,ふん尿の処理,利用が

依然として重要な課題であることには変わりないが,

最近の 20 年間で,ふん尿の処理,利用といった従来

型の技術だけではなく,飼料や栄養の面からふん尿

や窒素,リンの排せつ量そのものを減らすための技術

開発が著しく進展した。 筆者の手元に「家畜栄養学」(森本宏著,養賢堂,

1960)がある。学生時代の教科書として当時の最新

の知識をこれで学んだが,その後 50 余年が経ち,

家畜栄養学は大きく変わった。エネルギーの評価単

位では,かつての中心であった可消化養分総量

(TDN)は今や風前の灯,米国の飼養標準に相当する

NRC(豚,2012 年版)では正味エネルギー(NE)の時

代になった。また,タンパク質の評価単位であった

粗タンパク質(CP)や可消化粗タンパク質(DCP)も影が薄くなり,個々の必須アミノ酸レベル,しかも

回腸消化率にもとづく有効アミノ酸で飼料配合設計

がされるようになっている。家畜の飼養標準と聞いて,

TDN は何%,CP(DCP)は何%などと「表から飼

料中の各養分含量を読み取る」方式を思い浮かべる

としたら,残念ながら半世紀前の教科書からあまり

進歩していないことになる。現行の飼養標準では,

個々の養豚経営における豚の能力,給与飼料の種類

の違いなどに応じて適切な「自前の」養分要求量が

把握できるようになっている。ふん尿や環境汚染物質

の栄養的制御による排せつ量低減についても十分

な解説がなされている。

ここでは,豚の生産性は維持しつつ,ふん尿による

環境負荷を飼料給与面から減らす取り組みについて

紹介するが,これを理解するためには飼料や栄養の

基礎知識がどうしても必要である。

1. 飼 料 ・ 栄 養 の 基 礎 知 識

1)栄養素,養分とは何か

三大栄養素といえば,炭水化物,脂肪およびタン

パク質であるが,前二者は水素,炭素および酸素から

なり,消化吸収されたものは体内で使われると水と

二酸化炭素になってきれいさっぱりと無くなって

しまう。ところが,タンパク質にはそのほかに窒素と

硫黄が含まれているためそういうわけにはいかず,

体内で余った窒素は主に尿素として尿中に排せつ

され,環境負荷の原因になる。また,硫黄は硫化水素

などの臭気のもとになる。三大栄養素に,無機物

(ミネラル)とビタミンが加わって五大栄養素という。 養分は体内での役割によって分類したもので,エ

ネルギー,タンパク質(アミノ酸),無機物および

ビタミンに分けられる。エネルギー源には主に炭水

化物と脂肪が当てられ,タンパク質は筋肉や血液な

どの源になるが,場合によってはエネルギー源とし

ても使われる。なお,飼料のエネルギー含量はボン

ブカロリーメータ(熱量計)という装置で自動的に

測れるようになっている。炭水化物,脂肪およびタ

ンパク質のエネルギー価〈燃焼価,燃焼したときに

生じる熱量〉は,それぞれ,4,9 および 5.6kcal/gである。 2)タンパク質からアミノ酸へ

タンパク質はエネルギーとともに重要な養分で

あり,また,タンパク質飼料原料は一般に高価なこ

ともあって,これらを合理的に過不足なく給与する

ことが豚の飼養上きわめて大切なこととされてき

た。ところが,豚(ヒトや鶏でも)が要求するのは,

実際には,タンパク質そのものではなくそれを構成

している 20 種ほどのアミノ酸である。このうち,

豚の体内では合成されない,あるいは合成が十分で

ないアミノ酸を必須アミノ酸(リジンなど約 10 種

ある)と呼ぶが,飼料原料によって必須アミノ酸相互

の比率は著しく異なる。一般に養豚飼料ではリジン

やトレオニンが不足するが,欠乏するアミノ酸がある

と豚の発育や繁殖成績はそのレベルに低く合わされ

てしまい,他のアミノ酸がいくら多くてもそれらは

0369-5247/15/¥500/1 論文/JCOPY *農研機構フェロー,元畜産環境技術研究所 (Shu Furuya)

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1022 畜産の研究 第69巻 第12号 (2015年)

無駄になり,結局は尿素として尿から失われてしまう。

これをアミノ酸の「桶の理論」という。木桶で一つ

でも低い側板があると水が貯まる量はこれに合わ

されてしまうのと同じである。そこで,最近の飼料

配合設計では,粗タンパク質(CP)や可消化粗タン

パク質(DCP)はほとんど問題にされず,もっとも

欠乏しやすいアミノ酸を高めていかに不足がない

ようにするかに重点が置かれている。 3)消化・吸収-消化率の重要性

豚が飼料を摂取し,口腔,胃,小腸と内容物が送

られる過程で,主として消化酵素の作用で細かく分

解(消化)されて小腸から吸収される。その後,大

腸では主として繊維物質が腸内微生物の作用で分

解をうけ,低分子の揮発性脂肪酸や有機酸として吸

収,利用される。豚での胃および小腸における内容

物の通過(滞留)時間はいずれも 4時間程度である

が,大腸では 20~40 時間ときわめて長い時間をか

けて通過する。 摂取した栄養素あるいは養分の量からふんに排

せつされた量を差し引き,これを摂取量で割り,そ

れに100を乗じたものを消化率(%)という。例えば,

一定期間(3~5日間)に摂取したタンパク質が500g,その期間にふんに排せつされたタンパク質が 100gだったとすれば,タンパク質の消化率は 80%(=(500

-100)/500×100)となる。 飼料の消化率は,その飼料に含まれる栄養素ある

いは養分がどれだけ消化されて体内で役立つかを

示す指標であるので,栄養評価法としてきわめて重

要である。後述するが,可消化粗タンパク質(DCP),可消化養分総量(TDN),可消化エネルギー(DE)などでは,すべてこの消化率にもとづいて算出する。 4)飼料の 6成分と TDN,DE の算出

飼料の化学的分類として,飼料の 6 成分がある。

これは,三大栄養素のうち炭水化物を小腸で消化酵

素の作用を受けやすい可溶無窒素物(デンプンや糖

類等)と大腸で微生物によって分解を受ける粗繊維

の 2つに分け,これに粗タンパク質,粗脂肪,灰分

(無機物)および水分を加えたものである。タンパ

ク質,脂肪および繊維の前には「粗」という字がつ

いているが,これは純粋な成分だけではなく雑多な

ものが混じっているという意味である。例えば,粗

タンパク質では,アミノ酸が長く連なった純粋のタ

ンパク質でなくても,窒素を含む成分であればすべ

て粗タンパク質として分析されてしまう。可溶無窒

素物と灰分は元来が雑多な物質の混合物であるの

で,あえて「粗」は付けない。 飼料の TDN は,この 6 成分のうち灰分と水分を

除いた4成分の含量に各々の消化率を乗じたものの

合計である。この場合,消化率は前述の消化率(%)

を 100 で除した値を使うことに注意する。例えば,

飼料中に粗タンパク質が 16%含まれていて,粗タン

パク質の消化率が 80%だったとすれば,可消化粗タン

パク質(DCP)は 12.8(=16×80/100 )% になる。

可消化養分総量(TDN,%)=可消化粗タンパク質(%)

+可消化可溶無窒素物(%)+可消化粗繊維(%)

+可消化粗脂肪×2.25(%)

この TDN の算出式で,粗脂肪だけに 2.25を乗じ

ているのはなぜか。それは,既述のように炭水化物

と脂肪では,1g 当たりのエネルギー価が,それぞれ,

4 および 9kcal と異なり,脂肪の方が 2.25(=9/4)

倍多いことによる。それでは,タンパク質のエネル

ギー価は 5.6kcal/g と炭水化物の 4kcal/g に比べて

1.4倍多いが,なぜこの算出式では 1.4倍がしてな

いのかとの疑問がわく。これも既述の通り,タンパ

ク質(アミノ酸)は一度体内に吸収されても余った

部分は尿素として尿中に排せつされてしまい,それ

によるエネルギーロスがあるので,タンパク質と炭

水化物のエネルギー価は同等とみなしているため

である。この点で,TDN は後述する代謝エネルギー

(ME)に近いエネルギー単位といえる。

TDN は長い間エネルギー単位として親しまれ,

今でもかなり使われているが,飼料の 6成分の分析

には手間と時間がかかり,一方,直接的なエネル

ギーの測定が容易に行われるようになったため,可

消化エネルギー(DE)への移行が進んでいる。

可消化エネルギー(DE,kcal/g)=飼料中のエネルギー

含量(kcal/g)×エネルギーの消化率(%)/100

5)代謝エネルギーと正味エネルギー

豚におけるエネルギー単位として,TDN と DEのほかに,代謝エネルギー(ME)と正味エネルギー

(NE)がある。代謝エネルギーは,DE から尿に排せ

つされるエネルギー(タンパク質の分解産物である

尿素のエネルギーが主体をなす)を差し引いたもの

である。

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1029

「 東 ア フ リ カ と 東 南 ア ジ ア に お け る 水 の 安 全 安 心 」

―ケニアとタイにおける活動事例―

板 山 朋 聡 *

前世紀より 21 世紀は水の世紀と言われてきた。

実際,西暦 2000 年の 9 月に採択された国連ミレニ

アム宣言の中の開発目標の中では 1),「環境の持続

可能性の確保」の項目のターゲット 7−C において,

「2015 年までに安全な飲料水と衛生施設を継続的

に利用できない人々の割合を半減する」が目標と

なっている。2015年はまさしく今年のことである。

2014年の国連の報告では,ほぼ達成されたとなって

いるが,東アフリカを含むサハラ砂漠以南の,いわ

ゆるサブサハラ地域での達成率は低い。できれば実

際の状況を,この目で見て確認したいものである。

長崎大学は以前からケニアのナイロビに熱帯医

学研究所の現地拠点を持っており,感染症分野の研

究で長い実績がある。そこで,水環境の分野におい

てもこの施設を足がかりに 2011 年度からケニアで

の活動を開始しており,2013年度 1月 31日からは

本学の水産学部と共同で,「ビクトリア湖における

包括的な生態系及び水環境研究開発プロジェクト

英語名:The Lake Victoria Comprehensive Research for Development Project」(通称 LAVICORD)を開

始した(日本の外務省が現地政府経由で出資するカ

ウンターパートファンドを活用:研究期間は2年間)。

これは世界第三位の巨大な淡水湖であるビクトリア

湖の水環境と水産資源に関する研究である。実際の

研究対象となる水域はケニアに属する有明海ほど

のニャンザ湾という内湾である(図 1)。現在,この

ニャンザ湾の奥,キスム市にある国立マセノ大学,

そこから内陸に入った場所の高原地帯の都市エルド

レットの近くにある国立モイ大学,さらにケニア国立

海 洋 水 産 研 究 所 (KMFRI) と と も に , こ の

LAVICORD Project を 実 施 し て い る 。 こ の

LAVICORD は,ビクトリア湖のモニタリングとシ

ミュレーションを中心とした Component-1,現地適応

型の水処理手法の開発等の技術開発を中心とした

Component-2,水産を中心とした Component-3から

構成されている。さらにマセノ大学のキスム市内の

キャンパスにあるビル内にラボを設置し,現地で水質

分析やアオコ毒素の分析等が実施できるように整備

してある。また,現地には 3 名の日本人がマネー

ジャー,研究コーディネータとして常駐しており,

現場での研究活動の運営と実験指導を行っている。

研究の準備段階から含めれば,すでに 4 年間に

わたってケニアに足を踏み入れていることになる

が,ケニアの経済発展は目で見て確かにその成長が

実感できる。さすがに,東アフリカ諸国の中では,

一番の経済発展国であり,ナイロビだけでなく地方

でもショッピングセンターや道路がいたるところ

で建設されている。携帯電話,とりわけ中国製の

スマートフォンもよく売れており,地方都市のキス

ム市やエルドレット市の街中も携帯ショップだら

けである。湖岸の漁村でも皆が携帯を持っている。

日本よりは安いとはいえ,携帯の値段も通話料金も

それなりの金額である。その一方で,生活用水や

飲料水を湖から直接採水したり,また湖岸で洗い物

をしている場面を頻繁に見かける(図 2)。現地では,

0369-5247/15/¥500/1 論文/JCOPY *長崎大学 工学研究科 (Tomoaki Itayama)

ケニア共和国

ビクトリア湖

ビクトリア湖

ニャンザ湾

キスム市

図 1 ビクトリア湖とその中のニャンザ湾

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1030 畜産の研究 第69巻 第12号 (2015年)

水道水を売っているウォ-ターキオスクという場所

があり,20L あたり約 20KS(1KS ケニアシリング~

約 1.15 円)で買うことができる。携帯電話に払う

お金を考えれば,飲料水を買えると思えるのだが,

湖岸住民にとって水はそこにあるもので,それを自

由に使えばよく,買うものではないという発想のよ

うである。湖水が清浄であった昔であれば,もっと

もなことである。

しかし近年の経済発展は水質悪化を加速させて

いる。人口が増加するにつれて湾内の富栄養化も進

行している。キスム市からの都市排水のみならず,

流域の放牧地や茶畑からの栄養塩流出がかなり多い

と言われている。その結果,有毒藍藻のブルーム

(アオコ)が発生している。特に有毒藍藻 Microcystisはニャンザ湾のキスム近郊では縞状になって漂っ

ており,それが湖岸に集積することも多い(図 3)。

湖岸の住民はこのビクトリア湖の水を汲んで,その

ままお湯をわかしてお茶を入れているが,

Microcystis 属等の有毒藍藻が産生する藍藻毒

microcystin(MC)は強い肝臓毒(発ガン作用)で熱

にも強い 2)。そのため,お湯を沸かすだけでは分解

しない。WHO が定めた飲料水中の MC 暫定基準は

1µg/L 以下であるが 2),湖岸住民は 1µg/L 以上の

MC を含んだお茶を飲んでいるかもしれない。現在,

実際に湖岸から水を採取し,さらに,各家庭で使っ

ている水も採取して MC のリスクを疫学的観点か

ら調査しているところである。まだ,完全なデータ

ではないので,そのリスクを正確に示すことはでき

ないが,近年の研究においても 1µg/L をはるかに超

える MC がニャンザ湾で検出されていた 3)。そこで

湖岸だけではなく,ニャンザ湾の全体に対して調査

を実施している。年 4回実施するニャンザ湾の全域

調査の他に,2週間に一度,キスム近郊と河川での

水温等の測定や水質調査を実施している。さらに,

これらのデータは,ニャンザ湾のコンピュータシ

ミュレーションのための数値モデル(流動+生態

系)に統合し,今後の流域管理や施策提言に役立て

たいと考えている。

モニタリングを行い,リスクを明らかにするだけ

では水は奇麗にはならない。もちろん,現代の高度

処理技術を使えば,湖水からでも純水を得ることは

可能である。しかし,現地で持続的に使うことがで

きる十分に低コストで管理が容易な技術でなければ

意味がない。LAVICORD では有毒アオコ含有湖水を

浄化し生活用水を供給するためのシステムとして

バイオフェンスというものを導入し試験を開始し

ている。これは,後述するように,最初タイで試験

して一定の効果があることを確認したシステムで

ある。本システムの原理は簡単である(図 4)。木炭

(他の担体でも可)等でフェンスを構成し,そこに湖水

をゆっくりと通過(6~12時間程度)させることで,

担体に定着した原生動物や細菌類等の微生物が藍藻

細胞と MC を分解する。現在,漁民や湖岸住民の協力

が得られたニャンザ湾のオガルビーチという場所に,

図 2 ビクトリア湖の湖岸での食器洗い

図 3 湖面を漂うアオコと岸辺に集積したアオコ(右上)

Pump

木炭等の生物担体

図 4 バイオフェンスの原理

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シ カ 肉 の 有 効 活 用 を 目 指 し て

~衛生的なシカの解体処理方法の検討~

押 田 敏 雄 * ・ 青 木 和 夫 * * ・ 坂 田 亮 一 * * *

鳥獣による農業被害は深刻で,その対策はヒトと

鳥獣のイタチごっこと言っても過言ではない。山間地

では住民の老齢化の進行によって限界集落が至る所

に見られるようになり,ついには農耕や農業生産を

放棄するケースも散見されるようになってきた。

鳥獣被害を静観するのではなく,鳥獣を適正な数に

抑制する動きも見られ,各地で鳥獣対策が真剣に取り

組まれるようになってきた。それら捕獲された鳥獣

を有効活用する動きとして,「ジビエ」と言う言葉も

頻繁に耳にするようになってきた。

折も折,2015年 2月には鳥取県で日本ジビエ振興

協議会主催の「第 1 回ジビエサミット」(詳細は本誌

69巻 4号 1)参照)が開催された。また,2016年 2月

には福岡県で「第 2 回ジビエサミット」(日程は 2 月

11~13日:詳細は日本ジビエ振興協議会のHPを参照)

が開催される予定である。

捕獲されたシカやイノシシの処理について,いわ

ゆるジビエ先進県である長野や和歌山では,衛生管理

に関するガイドラインやマニュアルを策定し,関係者

の指導に努めている。また,厚生労働省も「野生鳥獣

肉の衛生管理に関する指針 2) (以下,厚労ガイド

ライン)」を策定・公表した。

しかしながら,標準化された解体方法は具体的に

は示されておらず,当然,「この方法がベスト」と

言ったものは未だ無いのが現状である。

長野県茅野市でジビエ関連の業を営んでいる青木

和夫氏の協力のもと,シカの解体処理の方法に関する

スライドを作成したので,それを公表し,標準化への

提言とすることを目的に本稿をまとめた。

野 生 動 物 に よ る 農 業 被 害

農水省のまとめ 3)によると,2013年度の鳥獣による

農作物被害は,総額が 199 億円で前年度に比べ 31

億円減少(対前年 13%減),被害面積が 7.9 万 ha で

1.8万 ha減少(対前年 23%減),被害量は 63万 tで,

7万 t 減少(対前年 11%減)している。

また主要な獣種別の被害金額については,シカが

76億円で,前年度に比べ6億万円減少(対前年7.8%減),

イノシシが 55億円で,7億円減少(対前年 12.7%減),

サルが 13 億円で,2 億円減少(対前年 15.4%減)して

いる。また,鳥類ではカラス,スズメが問題となって

いる。表 1に直近 6年間の農業被害を受けた面積と

被害額を示す。

鳥 獣 対 策 へ の 取 組

国や各地の地方公共団体で,最重要課題として取

組んでいるのはシカとイノシシなので,それらにつ

いて述べる。その対策方法は以下に示す3つである。

1)侵入防止柵の設置:シカは跳躍力に優れるので,

ネットでの柵の設置と電気柵が有効である。ネットを

設置する場合には,跳躍力を考慮して柵の高さは 2m程度が必要である。電気柵を設置する場合の柵の高さは,

最下線を地面から 25cm 以下,最上線を 120cm 程度

(シカの鼻先の高さ)とし,20~25cm 間隔で電線を

0369-5247/15/\500/1 論文/JCOPY

*東京農業大学客員教授・麻布大学名誉教授 (Toshio Oshida) **信州ナチュラルフーズ (Kazuo Aoki) ***麻布大学獣医学部 (Ryoichi Sakata)

表 1 主な鳥獣による農業被害の実態(農林水産省による)

面積 金額 面積 金額 面積 金額 面積 金額 面積 金額 面積 金額

カラス 17.1 2,539 10.3 2,303 10.2 2,287 9.3 2,209 6.4 2,060 5.9 1,811

スズメ 6.1 619 4.9 514 4.0 476 3.0 447 2.6 393 2.4 408

シカ 44.8 5,816 57.1 7,059 63.7 7,750 62.2 8,260 62.3 8,210 48.3 7,555

イノシシ 12.4 5,376 12.4 5,590 14.3 6,799 14.3 6,231 12.0 6,221 10.9 5,491

面積:千ha  金額:百万円

2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年

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4 段以上張ることが求められる。なお,当然のこと

として,感電対策を十分に施す必要がある 4,5)。

2)捕獲:捕獲の方法は狩猟とワナの 2つである。何れ

も狩猟期間が定められており,取扱いにあたっては

免許が必要となる。捕獲は個体数の調整に有効である。

3)誘引物の除去:収穫の取り残しの野菜残渣や果樹

はシカを引き寄せる格好のエサとなるので,早期の

引き抜きが必要となる。また,水田でのヒコバエや

法面の青草は冬場のエサとなることが多い。

北海道内のエゾシカの列車障害事故 6)は冬期間に

多発するが,その理由として,線路際の斜面は日当

たりや風の影響が少なく,エサを求めにくる個体が

集まることに起因している。

ニ ホ ン ジ カ の 生 態

ニホンジカ(図 1)とは,日本に生息する野生シカの

総称で,学名(Cervus nippon)にニッポンと入るが,

日本固有種ではなく,ベトナムから極東アジアにかけて

広く分布する。日本産亜種は,エゾシカ(北海道),

ホンシュウジカ(本州),キュウシュウジカ(四国・

九州),マゲジカ(馬毛島),ヤクシカ(屋久島),ツシマ

ジカ(対馬),ケラマジカ(慶良間列島)の 7 亜種で,

大きさは亜種や生息地によって大きく異なる。最大は

エゾシカ,最小はヤクシカ。国内の哺乳類としては

大型で,ヒグマ,ツキノワグマ,イノシシ,カモシカ

とともに 5大大型獣とされる。

ニホンジカは険しい山岳地以外の草地を含む森林

地帯を中心に生息する草食獣で,夏毛は茶色で特徴的

な白斑(鹿の子模様)があるが,冬毛は灰褐色である。

顕著な性的二型(雌雄で外形が異なる)を示す。生息

環境は常緑広葉樹,落葉広葉樹,寒帯草原など多様

であるが,森林から完全に離れて生活することはなく,

パッチ状に草地が入り込んだ森林地帯に多く生息

する。

出産期は 5月下旬~7月上旬で,通常一仔を出産

する。交尾期は 9月下旬~11月で,妊娠期間は 220日。

一夫多妻制の社会で,雄の一部は交尾期にナワバリ

をつくり,その中にハーレムを形成する。

近年,北海道や丹沢(神奈川),尾瀬ヶ原(群馬・

栃木・福島),大台ヶ原(奈良)など全国各地で個体数

が著しく増加している生息地が多くなり,農林業被害

や森林生態系への影響が深刻となっている。

野 生 鳥 獣 肉 の 解 体 ガ イ ド ラ イ ン

と場でと畜,解体処理される家畜はウシ,ブタ,

ウマ,ヒツジ,ヤギの 5 畜と,「と畜場法」と「食品

衛生法」で規定されている。これらについては,と

畜場以外でのと畜および解体が法により禁止され

ている。これらと畜・解体と並行して行われるのが

「食肉衛生検査」である。食肉衛生検査は「と畜場法」

の下に,食用に供するために行う獣畜の処理の適正

の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制そ

の他の措置を講じ,もつて国民の健康の保護を図る

ことを目的として行われている。

厚生労働省は 2014 年に野生鳥獣肉の衛生管理に

関する指針を公表した。シカやイノシシを食肉とする

ために,現行では,食品衛生法第 52 条第 1 項の規

定による営業許可のうち,食肉処理業の許可を受け

た施設で解体処理が行われているが,これは全国で

約 400箇所ある(厚生労働省調べ)。また,各地方公共

団体でもジビエ対応が求められ,それぞれでガイド

ラインやマニュアルが策定されるようになってきた。

何人も食用に供する目的で,と畜場法に規定する

獣畜以外の獣畜,若しくは食鳥処理の事業の規則及び

食鳥検査に関する法律に規定する食鳥(鶏,あひる,

七面鳥)以外の鳥をと殺し,もしくは解体するには

「食肉処理業」の営業許可が必要となる。つまり,「食肉

処理業」の許可を得ていない施設で解体処理された

シカやイノシシは販売できないこととなる。

ジビエ以外の肉については,検査の手順などは標準

化 7)されているが,その前段階としてのと畜・解体の

方法も同じように標準化された状態となっている。

しかしながら,ジビエについては食肉衛生検査が実施

されていないのが現状である。これによって,と畜,

あるいは解体方法についてのマニュアルは正式には

存在していない。

図 1 長野県内に生息するニホンジカ(蓼科にて)