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畜産臭気対策マニュアル 平成27年3月 群馬県畜産試験場 埼玉県農林総合研究センター 畜産研究所 新潟県農業総合研究所 畜産研究センター

畜産臭気対策マニュアル1 畜産環境問題の現状2 畜 …1 畜産環境問題の現状 (1)群馬県 平成22年度までの苦情発生 件数は100件を超えていました

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畜産臭気対策マニュアル

平成27年3月

群馬県畜産試験場

埼玉県農林総合研究センター 畜産研究所

新潟県農業総合研究所 畜産研究センター

Page 2: 畜産臭気対策マニュアル1 畜産環境問題の現状2 畜 …1 畜産環境問題の現状 (1)群馬県 平成22年度までの苦情発生 件数は100件を超えていました

はじめに

平成11年11月家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律が

施行され、家畜排せつ物の適正管理が畜産農家に義務づけられました。平成1

6年11月にこの法律が完全施行されて、家畜排せつ物は適正管理が行われるよ

うになりました。

一方、畜舎やふん尿処理施設から発生する畜産臭気の対策は、周辺住民の

方々と畜産経営を共存させるために解決しなければならない重要な課題とし

て位置付けられており、研究に取り組んでいるところです。

今回、群馬県、埼玉県、新潟県における「三県農業関係公設試験研究機関

の連携による調査・研究の効率的推進」で畜産における臭気対策を取り上げ

ることになり、その一環として畜産経営に起因する臭気に対する苦情の現状

や三県農業関係公設試験研究機関で今までに得られた調査結果や開発した対

策技術を取りまとめることになりました。

本マニュアルは、取り組んだ調査結果などから、畜産における臭気発生の

メカニズムや畜産臭気の性質をわかりやすく解説しました。また、三県で開

発してきた臭気対策技術を役立てていただけるように写真や図表を多く取り

入れ、畜産環境対策研究担当者ができるだけわかりやすく説明したものです。

今後も、畜産臭気対策研究については三県が連携して取り組んでいく予定

であり、研究成果は追加していきたいと考えております。

この「畜産臭気対策マニュアル」が民間団体、畜産農家、行政機関などの

皆様の参考となり、地域の畜産環境保全の推進に資することができれば幸い

です。

平成27年3月

群馬県畜産試験場長

埼玉県農林総合研究センター 畜産研究所長

新潟県農業総合研究所 畜産研究センター長

Page 3: 畜産臭気対策マニュアル1 畜産環境問題の現状2 畜 …1 畜産環境問題の現状 (1)群馬県 平成22年度までの苦情発生 件数は100件を超えていました

畜産臭気対策マニュアル目次

1 畜産環境問題の現状-------------------------------------1(1)群馬県---------------------------------------------------1

(2)埼玉県---------------------------------------------------1

(3)新潟県---------------------------------------------------1

2 畜産臭気の特徴------------------------------------------2(1)畜種による違い-------------------------------------------2

(2)臭気発生のしくみ-----------------------------------------2

ア 畜舎における発生---------------------------------------2

イ ふん置き場や堆肥化過程における発生---------------------3

ウ 悪臭の拡散---------------------------------------------4

(3)臭気発生場所による違い-----------------------------------5

3 臭気対策の概要------------------------------------------7(1)発生場所ごとの対策---------------------------------------7

ア 畜舎---------------------------------------------------7

イ 密閉型発酵施設-----------------------------------------8

ウ 開放型発酵施設-----------------------------------------9

エ ほ場---------------------------------------------------9

(2)植樹等による臭気緩和------------------------------------10

(3)脱臭資材の利用------------------------------------------13

4 臭気対策------------------------------------------------14(1)軽石脱臭装置(群馬県)----------------------------------14

(2)モミガラ脱臭装置(群馬県)------------------------------21

(3)剪定枝脱臭装置(埼玉県)--------------------------------23

(4)低曝気処理水による臭気対策(埼玉県)--------------------26

(5)畜舎内への水の噴霧及び床下への散水による臭気低減

(新潟県)----30

5 臭気対策関連研究文献目次-----------------------------34(1)群馬県畜産試験場----------------------------------------34

(2)埼玉県農林総合研究センター 畜産研究所-------------------34

(3)新潟県農業総合研究所 畜産研究センター-------------------35

Page 4: 畜産臭気対策マニュアル1 畜産環境問題の現状2 畜 …1 畜産環境問題の現状 (1)群馬県 平成22年度までの苦情発生 件数は100件を超えていました

1 畜産環境問題の現状

(1)群馬県平成22年度までの苦情発生

件数は100件を超えていました

が、23年度以降は100件を下ま

わりました。

そのうちの約7割が悪臭関

連の苦情です。

(2)埼玉県苦情発生件数は畜産農家戸

数との関係もあり、減少傾向

にあります。

原因別では悪臭関連が約6

割以上の高い割合を占め、24

年度は76%でした。

(3)新潟県市町村に報告のあった苦情の

件数は、ここ数年40件程度で推

移しています。

そのうち約8割が悪臭関係の

苦情です。

0

20

40

60

80

100

120

140

160

16 17 18 19 20 21 22 23 24

畜産環境に関する苦情件数の推移

その他

悪臭関連

年度

苦情件数

0

20

40

60

80

100

120

140

16 17 18 19 20 21 22 23 24

畜産環境に関する苦情件数の推移

その他

悪臭関連

年度

苦情件数

0

10

20

30

40

50

60

70

16 17 18 19 20 21 22 23 24

畜産環境に関する苦情件数の推移

その他

悪臭関連

年度

苦情件数

- 1 -

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2 畜産臭気の特徴(1)畜種による違い

畜種によって臭気の成分が異なります。

肉牛の臭気の主な成分はアンモニアです。

乳牛の臭気はノルマル酪酸とアンモニアです。

採卵鶏の臭気は硫化水素などの硫黄化合物とアンモニアとノルマル酪酸

です。

肉用鶏の臭気はノルマル酪酸などの低級脂肪酸とアンモニアです。

豚の臭気はノルマル酪酸などの低級脂肪酸とアンモニア等です。

アンモニアは 1ppm(空気中に百万分の 1 の濃度)程度で悪臭と感じます。低級脂肪酸(プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸、イソ吉草酸

等)は 1ppb(空気中に 10 億分の 1 の濃度)程度で悪臭と感じます。低級脂肪酸はより低濃度で悪臭と感じるため、対策は難しくなります。

(2)臭気発生のしくみ

ア 畜舎における発生

ふん中には低級脂肪酸や硫化水素など多種多様の悪臭物質が含まれ

ています。ふんが家畜の動きにより拡散することで表面積が増え悪臭

物質が揮散しやすくなります。また、ふんが家畜の体に付着すると、

表面積が増えることに加えて体温で温められることにより、更に悪臭

物質(特に低級脂肪酸)が揮散しやすくなります。そのため、畜舎や畜体

をふんで汚さないことが重要です。

0

5

10

15

20

25

肉牛 乳牛 採卵鶏 ブロイラー鶏 豚

臭気強度

硫化水素

イソ吉草酸

ノルマル吉草酸

ノルマル酪酸

プロピオン酸

アンモニア

- 2 -

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気温の違う条件で24時間ふんを放置した場合の発生量(単位:ppm)

プロピオン酸 ノルマル酪酸 イソ吉草酸 ノルマル吉草酸 アンモニア

10℃ 0.15 0.033 0.003 0.003 1.0

30℃ 5.9 1.6 0.22 0.31 0.6

発生量比(倍) 39 48 73 103

イ ふんの置き場や堆肥化過程における発生

ふんの置き場や堆肥化過程では酸素(空気)の有無で発生する臭気の種

類と量が大きく異なります。

酸素がない条件(嫌気条件)では悪臭物質以外の有機物も悪臭物質に

変化し、悪臭物質がより蓄積します。そのため、ふんの移動や切返し時

に強烈な悪臭が発生します。また、酸素が豊富な好気的条件では悪臭物

質の生成は少なく、ふん中の悪臭物質も速やかに無臭な物質に変化しま

す。

したがって、好気条件を保つことで発生する悪臭の量を減らすことが

物質名 臭いの質検知閾値 ※1(単位ppb ※2)

アンモニア 刺激臭 100硫化水素

腐った卵 0.5

(低級脂肪酸)酪酸、吉草酸

蒸れた靴下 0.07

※1 人間の鼻で検知できる濃度 ※2 空気中に10億分の1の濃度

畜産業から発生する主な悪臭物質

スカトール ふん臭 極微量

重さ

(硫黄系化合物)

空気より軽い→拡散しやすい

空気より重い→溜まりやすい

空気より重い→溜まりやすい

空気より重い→溜まりやすい

畜舎内で拡散

体表にふんが付着ふんの表面積の拡大体温による温度上昇

ふん中は悪臭物質多い

悪臭発生

特に低級脂肪酸が揮散しやすい

畜舎からの悪臭の発生

低級脂肪酸硫化水素、アンモニア

悪臭物質の揮散

- 3 -

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できます。

炭素化合物は、嫌気的条件では悪臭物質である低級脂肪酸となりますが、

好気的条件では無臭の炭酸ガスとなります。

窒素化合物は、嫌気的条件でも好気的条件でもアンモニアとなります。

硫黄化合物は、嫌気的条件では悪臭物質の硫化水素などになり、好気的条

件では無臭の硫酸塩となります。

ウ 悪臭の拡散

畜舎

低級脂肪酸

アンモニア

風が弱いと低級脂肪酸やスカトールは重いので地面に添って下っていく

アンモニアは軽いので上空に拡散していく

悪臭の拡散

スカトール

- 4 -

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臭気は物質の種類によって異なる拡散をします。

アンモニアは軽いので上空に拡散しやすい物質です。

低級脂肪酸やスカトールは重いので風が弱いと地面に沿って下りやすくな

ります。

臭気は風向きや窓の開閉などによって変化します。

風向きは時刻、季節により変化します。

(日中は海風、夜は山風、夏は南風、冬は北風)

また、畜舎の窓の開閉状況によっても変わります。

(日中は開放、夜は閉め切り、夏は開放、冬は閉め切り)

(3)臭気発生場所による違い

畜産の臭気は、アンモニアや低級脂肪酸、スカトール、硫化水素などの複

合臭です。

畜舎内はふん臭と 10ppm程度の低濃度のアンモニアが主な臭気です。開放型発酵装置は 100ppm程度のアンモニアと中程度のふん臭です。密閉型発酵装置では 1,000ppm 程度の高濃度のアンモニアが主な臭気となり

ます。

発生場所による臭気の違い

畜舎

開放型発酵装置密閉型発酵装置境界

- 5 -

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畜舎 発酵処理施設

ふん尿搬出

残餌、サイレージ、ふん尿

ほ場

堆肥運搬

畜舎内

・家畜の排せつしたふん尿から臭気が発生します。

・餌槽に残存した飼料や飛散した飼料が変敗して悪臭が発生します。

・汚れた畜舎や家畜から悪臭が発生します。

発酵処理施設

・密閉型発酵処理施設からは高濃度の悪臭が発生します。

・開放型発酵処理施設からは攪拌時に高い濃度の悪臭が発生します。

・堆肥舎では切り返し時に高い濃度の悪臭が発生します。

ふんや堆肥の移動

・堆肥化施設にふん尿を搬入するときに悪臭が発生します。

・また、未熟な堆肥を搬出すると悪臭が発生します。

ほ場

・ほ場へ未熟な堆肥を運搬すると悪臭が発生します。

・ほ場へ未熟な堆肥を散布すると悪臭が発生します。

- 6 -

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3 臭気対策の概要(1)発生場所ごとの対策

ア 畜舎

○家畜、畜舎を清潔に保ちます。

・こまめな清掃により、ふんの拡散や畜体への付着を防ぎ臭気の発生を抑

制する。

○ふんと尿を早期に分離します。

・尿に含まれる酵素により尿素がアンモニアに分解する。

・ふんに尿が混じると水分が多くなり嫌気状態となり悪臭が発生しやすい。

○ふんの水分を低下させます。

・畜舎内においてふんの水分を低下させる方法としては、敷料の利用、送

風機による送風等がある。

○ふん尿を畜舎から速やかに搬出し、早期に発酵処理をします。

・畜舎内でのふん尿からの臭気の発生を防ぐ。

- 7 -

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イ 密閉型発酵処理施設

○密閉型発酵処理施設では高濃度の臭気が発生するので、脱臭装置の設

置が必要です。

【脱臭装置の設置例】

軽石脱臭装置

剪定枝脱臭装置

- 8 -

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ウ 開放型発酵施設

○切り返しや攪拌時に悪臭が発生します。

・切り返しの時間帯に注意します。

・開放面にカーテン等を設置します。

エ ほ場

○天候・風向・風速に注意して堆肥を散布します。

○完熟した臭気の少ない堆肥を散布します。

○散布後はできるだけ速やかにすき込むか覆土します。

- 9 -

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(2)樹木等による臭気緩和○ 樹木のアンモニア除去能力

樹木の葉の茂っている部分の一定容積当たりのアンモニア除去能力はツ

ゲ、ヒバ類、サンゴジュなどが高く、キンモクセイ、カナメモチなどが低く、

サザンカ、キンマサキなどはその中間の値でした。

アンモニア濃度 5ppm では、どの樹種も葉に大きな被害は生じませんが、アンモニア濃度 15ppm ではアンモニア除去能力の優れた樹種で葉の褐変が認められました。

○ 生け垣による悪臭拡散防止効果

生け垣の設置により、生け垣の 1m 後ろの位置ではヒバを湿った状態にした場合、アンモニア濃度は 30%低下しましたが、サザンカでは 10%程度でした。生け垣の 3m 後ろの位置ではヒバを湿った状態にした場合半分程度まで低下

しました。

 樹木のアンモニア除去能力

0

100

200

300

400

500

ツゲ

ニオイヒバ

チャボヒバ

サンゴジュ

サザンカ

マサキ

キンモクセイ

カナメモチ

アンモニア除去能力

明15ppm

暗15ppm

明5ppm

暗5ppm

mg/m3/h

 生垣によるアンモニア濃度の低下

40

60

80

100

120

前1m 後1m 後3m

アンモニア濃度の低下%

なし

チャボヒバ乾

チャボヒバ湿

- 10 -

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○ 生け垣の様々な効果

生け垣には物理的効果や心理的効果があり、民家との緩衝帯の役割がありま

す。

<物理的効果>

・悪臭を除去する効果

・粉塵や羽毛等を除去する効果

・家畜の鳴き声を防止する騒音防止効果

・生垣により人の鼻の高さにきていた悪臭を煙突のように上昇させる効果

<心理的効果>

・樹木の緑による自然、やすらぎなどの良いイメージを与えます。

・生け垣により直接、畜舎や家畜が見えないことで臭気が緩和されるよう

に感じます。

・民家と畜舎が隣接している場合、生垣により畜舎の影響がおよぶ空間と

民家の空間を分割することができます。

悪臭除去 イメージの良さ

粉塵除去 遮蔽 緑 自然

騒音防止 やすらぎ

煙突効果 空間の分割

物理的 心理的

煙突効果 空間の分割

一般住宅

畜舎

- 11 -

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○ 生け垣の設置方法

<生け垣に用いる樹種>

・アンモニア除去能力があり、生育が早く、萌芽力が強く、管理が容易で

値段が安い樹種が望まれます。

・ツゲは生育が遅く値段が高く、ヒバはアンモニアによる葉の被害が出や

すいので、サザンカやサンゴジュがよいと思われます。

・地元で生け垣としてよく利用されている樹種の中から選択するのがよい

と思われます。

<生け垣の高さ>

・悪臭緩和効果がある生け垣の高さは 1.5m~ 2mです。<生け垣を植える場所>

・隣地や道路との境界線が効果的です。

・敷地に余裕がない場合は無理に樹木を植えると風通しが悪くなる場合が

あるため注意が必要です。

・新たな畜舎を建設する場合には生け垣を植えるスペースを確保する必要

があります。

畜舎の生垣

の設置例

○ ネット等の設置

生け垣の設置が難しい場所では、

防風ネット等の設置により、堆肥化

施設や、畜舎を遮蔽することにより、

臭気の緩和効果が期待できます。

ネットの設置例

- 12 -

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(3)脱臭資材の利用アンモニアはアルカリ性なので、酸性溶液の散布により悪臭を抑えること

ができます。

食品添加物であるクエン酸、リンゴ酸などの有機酸水溶液でもアンモニア

を抑えることができます。

しかし、効果は一時的であり、持続性はありません。

発酵処理の攪拌時やふん尿搬出時など多量の悪臭が発生した時に使用する

ことで一時的に悪臭を抑えられます。

脱臭資材のアンモニア除去率

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

脱臭剤A

脱臭剤B

脱臭剤C

クエン酸

リンゴ酸

L-アスコルビン酸 水

アンモニア除去率%

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

価格円/kg

アンモニア除去率

価格

- 13 -

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4 臭気対策

(1)軽石脱臭装置(群馬県)

<特徴>

軽石脱臭装置は、軽石槽内に住み着いた微生物によりアンモニアを分解し脱臭

する装置です。密閉縦型発酵装置から排出される高濃度臭気から攪拌型発酵施設

から発生する低濃度で大容量の臭気まで脱臭できます。安価な軽石を使用するこ

とで低コストで管理が簡易な脱臭装置です。

<脱臭のしくみ>

1 脱臭槽に充填する軽石の特徴

軽石は、水分を約 30%含み水分保持能力が高く、表面に小さい穴があいており

アンモニアを酸化する微生物(硝化菌)の住み処となりやすい資材です。また、

槽に軽石を充填しても隙間があるため、全容積の半分は空気の層となり、空気が

通りやすくなります。

2 脱臭のしくみ

ふん処理施設から発生する悪臭の主体であるアンモニアは水に溶けやすいため、

水分を含んだ軽石槽の下から悪臭空気を送り込むと、軽石に含まれる水分に悪臭

物質が溶けて空気中から除去されます。しかし、水中のアンモニア濃度が濃くな

るとpHが高くなり、それ以上アンモニアが溶けなくなり脱臭能力が低下します。

そこで、水中の

アンモニアを酸化

する微生物(硝化

菌)により亜硝酸

や硝酸に変化する

ことで水のpHが

低くなり、またア

ンモニアが溶ける

ことにより、継続

して脱臭できま

す。

軽石

アンモニア含む空気

循環水

軽石に含まれる水

アンモニア

溶ける

アンモニア酸化菌

アンモニア 硝酸

循環水タンク

軽石脱臭装置のしくみ

菌 菌

脱臭空気

軽石

- 14 -

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<脱臭装置の構造>

1 軽石を充塡した脱臭槽の下から、希釈用のブロアにより臭気のアンモニア濃度

を 400ppm以下(微生物がアンモニアを分解できる濃度)に希釈した臭気を導入

します。

2 30分に 1回程度軽石に散水し、アンモニアを溶解させるとともに、微生物の

活動を活性化させます。散水した水はタンクに戻して循環させます(循環水)。

3 水に溶けたアンモニアは硝化菌により亜硝酸や硝酸に酸化され循環水のpHが

低下するので、脱臭後のアンモニア濃度を 1/10以下まで低減できます。

4 温度が低いことにより微生物活動が低下する場合は、脱臭槽全体をビニールハ

ウス等で保温します。

5 安価な軽石を使用することで、設置経費を低減します。

6 軽石の交換は、10年程度不要です。

軽石槽と循環水散水管

軽石脱臭装置の構造

コンクリート枠 循環水タンクP水循環ポンプ

ビニルハウスで覆う、冬期はハウス内空気を希釈に再利用する。

散水塩ビ配管

臭気

循環水U字溝

6500

軽石

エキスパンドメタルとステンレス金網

(NH3 400以下)

冬季に温度が低下する場合は、脱臭槽全体をビニールハウス等で保温する。

- 15 -

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<脱臭成績>

1 高濃度臭気対応型脱臭装置

密閉縦型発酵装置(容量 18㎥)から発生する 1,000~ 2,000ppmのアンモニアを

含む臭気に対応した軽石脱臭装置の概要を示します。

軽石脱臭槽は面積 20㎥(幅 4m、長さ 5m)の槽に粒径 5~ 10mmの軽石を 1

mの高さに充填しています。

脱臭成績は、希釈ブロワでアンモニア濃度 400ppm以下に調整された臭気は、脱

臭装置通過後にはほとんどアンモニアは検出されませんでした。

しかし、冬期に気温が低下すると硝化

菌の活動が低下し、アンモニアを検出さ

れるようになりました。脱臭装置全体を

ビニールハウスで覆い保温した結果、脱

臭能力が回復しました。ただし、畜産農

家の密閉縦型発酵装置に設置した脱臭装

置の調査結果では、発酵装置から排気さ

れる原臭気温度が高く、冬季でも脱臭槽

の温度は低下しなかったので、保温の必

要性はありませんでした。

堆肥化装置から発生する臭気には多量の水蒸気が含まれているため、循環水は

1日約 50 ~ 100 ℓ増加しました。増加した循環水は尿汚水浄化処理施設などで適正

な処理が必要です。

アンモニア脱臭成績(高濃度対応型)

図2 軽石中心部の日平均温度とアンモニア濃度

0

10

20

30

40

50

60

70

4/18 5/18 6/17 7/17 8/16 9/15 10/15 11/14 12/14 1/13 2/12 3/14

温度、NH3(ppm)

温度

送風NH3÷10

処理後NH3

↑送風量調節 送風量調節↑ ↑ハウスかけ、排気を再送風

- 16 -

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2 低濃度臭気対応型脱臭装置

牛ふん堆肥化施設の、攪拌型(幅 6m、堆積高 1.5m、長さ 62m)は、扉で閉

め切ることが可能な建物(幅 10m、高さ 6m、長さ 62m)で覆われています。

内部のアンモニア濃度は平均 20ppm程度ですが、施設の容積が毎分送風量 400m3

と多くなります。

軽石脱臭槽の面積は 56.6m2で(幅 2.4m、長さ 23.6m)充塡の高さ 0.5m、軽

石粒径 5~ 20mm と粒径の大きな軽石を充塡しています。

堆肥化施設から発生する平均 20ppmのアンモニアは、脱臭装置通過後はほとん

ど検出されませんでした。冬期は温度低下により硝化菌の能力は低下し、2月の

一時期だけアンモニアが検出されました。

脱臭装置への送風量が多いため、循環水は蒸発してしまうので、1日 100 ℓ程度

供給しなければなりません。

低濃度臭気対応型脱臭装置 アンモニア脱臭成績(低濃度臭気対応型)

<運転管理>

1 送風温度の確認

軽石温度、軽石層表面温度、軽石層への送風温度を毎日点検し、送風ブロワの

調整やビニールハウスの開閉等により適正範囲(20~ 30℃)に保ちます。

2 循環水量の確認

高濃度対応型では循環水が増加するため、増加した循環水は、可能なら尿汚水

浄化処理施設などで処理します。不可能な場合は堆肥等に散布します。

低濃度対応型では循環水が減少するので、十分な循環水量があることを確認し

ます。

0

50

100

150

200

250

300

12/21

1/21

2/21

3/21

4/21

5/21

6/21

7/21

8/21

9/21

10/21

11/21

12/21

1/21

2/21

3/21

アンモニア濃度(ppm)

0

5

10

15

20

25

30

35

温度(℃)

脱臭前脱臭後内部日平均温

- 17 -

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<管理上の注意点>

1 軽石脱臭装置の脱臭の主役は硝化菌

硝化菌が活躍しなければ脱臭はうまくいきませんので、菌に最適な環境を与え

ることが必要です。硝化菌の適温は 20~ 30℃です。

35℃以上や 15℃以下では活動が低下するので、軽石脱臭槽の温度を 15~ 35℃

に保つことが重要です。

① 夏季の高温時には、希釈する空気の温度が最も影響しますので、希釈空気に

涼しい外気を使用します。また、循環水の散水時間や散水量を増やすことで、

気化熱により軽石温度を下げられます。装置全体は遮光・遮熱シートの利用が

できます。

② 低濃度臭気対応型脱臭装置における冬季の低温対策としては、ハウスを閉じ

て保温したり、ハウス内の暖かい空気を希釈空気として利用するなどの方法が

あります。

2 硝化菌の生息できるアンモニア濃度

硝化菌の生息には排気中のアンモニア濃度を最大 400ppm に抑える必要がありま

す。密閉縦型発酵装置では 1,000ppm 超える濃度になるので十分な希釈と混合が必

要です。計画設計を行う場合には、十分な事前調査(排気のアンモニア濃度測定

等)を行う必要があります。

また、希釈を行う場合には発酵装置の排気ブロワの能力が低下しないように配

慮する必要があります。

軽石脱臭装置は生物脱臭であることを念頭において、余裕を持った規模設計に

することを推奨します。

- 18 -

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※ 軽石を充填した畜舎向け脱臭装置(群馬県)

<要約>

軽石を充填した脱臭装置であり、畜舎に特有の低級脂肪酸等のふん臭を人が臭気を

感じないレベルまで除去できます。

<背景・ねらい>

「家畜排せつ物法」施行後の畜産環境の残された主な課題は悪臭対策です。ふん処

理施設から発生する高濃度のアンモニアを主体とした臭気は、軽石を充填した脱臭装

置を開発し普及を図っています。しかし、畜舎から発生する低級脂肪酸等のふん臭は、

低濃度でも悪臭と感じられてしまい、今まで有効な対策はありませんでした。そこで、

この低濃度で大容量の畜舎内ふん臭に対応した脱臭装置を群馬県地域結集型研究開発

プログラムにより群馬県産業支援機構との共同研究で開発しました。

<技術の内容・特徴>

1 畜舎内の低級脂肪酸等のふん臭は畜舎内下部に貯まりやすいため、ふん臭濃度は床

面より 1 m程度の位置でニオイセンサー(XP-329 Ⅲ R 新コスモス電機製)で測定

すると、豚舎内では、200~ 400の測定値です。2 充填資材は、大送風量に対応するため粒度の大きい 10 ~ 30 mmの軽石とします。3 資材の充填容量(㎥)は、臭気と軽石の接触時間を3秒確保できる量とし、充填す

る厚さは 0.5~ 1m、風量は 20㎥/分・軽石㎥までとします。4 充填した軽石に 30 分に 1 ~ 2 分程度散水します。散水した水は循環利用し、循環水中のリン濃度は微生物の活性を維持するため 1ppm 以上となるように堆肥やリン酸塩を添加します。

5 この脱臭装置による低級脂肪酸の除去率は 97 %であり(図1)、ニオイセンサーでも測定値 400 のふん臭を、人が臭気を感じない 30 まで低下させることができます(図2)。

6 日常のメンテナンスは、循環水が散水されていることを確認する簡易な作業だけで

す。循環水には、アンモニアや硝酸態窒素が貯まらず、電気伝導度も高くならない

ため引き抜く必要はなく、逆に脱臭処理する空気中に水分が蒸発するため、水を補

給する必要があります。

7 体重 25~ 115kgの豚 400頭を飼養できる豚舎(幅 9.55m、長さ 70m、高さ 3.3m)に設置する場合、脱臭装置の軽石充填量は 12 ㎥、槽の大きさは幅 3 m、長さ 4 m、充填厚は 1mとなり、約 950万円の設置費用がかかります。

<利用上の留意点>

1 装置の設計は豚舎の排気量とその実測ふん臭気濃度に基いて行う必要があります。

- 19 -

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<具体的データ>

図1 ふん臭の各成分の脱臭前後の除去効果(豚舎)

図2 脱臭装置のふん臭脱臭成績(豚舎)

軽石充填量 6 m3

(3m× 4m× 0.5m充填高)送風量 最大 120m3/分

畜産試験場育成豚舎(400 頭)の北側半分をふん尿ピットより臭気吸引

ビニールハウスで覆い防寒

写真 豚舎用軽石脱臭装置

0.0001

0.001

0.01

0.1

1

0.001 0.01 0.1 1 10

脱臭前

脱臭後

プロピオン酸ノルマル酪酸ノルマル吉草酸イソ吉草酸

ppm

ppm

0

100

200

300

400

500

5/29 7/28 9/26 11/25 1/24 3/25

日付

ふん臭ニオイセンサー測定値

0

10

20

30

脱臭槽内部温度

脱臭前脱臭後脱臭槽内部温度

- 20 -

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(2)モミガラ脱臭装置(群馬県)

<要約>

モミガラを担体とした簡易な微生物脱臭装置で堆肥処理施設から発生する平均 20ppmのアンモニアガスを 9割以上除去できます。牛舎のバーンクリーナー上の平均 6ppmのアンモニアガスにおいても脱臭効果が得られます。

<背景・ねらい>

群馬県内での畜産にかかわる苦情は毎年約 100件程度でうち約 7割が悪臭関連です。畜産にとって悪臭対策は経営の継続において避けられない課題となっているが、中小規

模な畜産農家の導入しやすい簡易な脱臭装置は実用化されていないため、安価で入手し

やすいモミガラを使用した脱臭装置を開発しました。

<技術の内容・特徴>

1 脱臭装置は、市販コンテナを利用し、手に入れやすいモミガラを容積 0.4m3(高さ 0.9m)充填し、このモミガラ槽には尿汚水浄化処理施設の活性汚泥を数回散布し硝化菌を添加します。また、モミガラ脱臭層を湿潤状態に保つため、水を 1分間散布し、29分間休止する方法とし、散布した水は循環利用できるようにします。循環水は、蒸発や飛散により減少するので適宜、水道水を補充します(図1)。

2 モミガラ脱臭装置に毎分 0.8m3で臭気を送り込むと、平均 20ppmのアンモニアガスは、脱臭装置通過後、平均で 9割以上減少します。しかし、循環水の温度が 10℃を下回ると脱臭能力が低下します(図2)。

3 冬期の脱臭能力低下を改善するためには、循環水を水道水に交換します。水交換

後、アンモニア除去能力は回復し、効果は一週間程度継続します(図3)。

4 牛舎で悪臭が発生しやすいバーンクリーナーの臭気除去するためには、バーンクリ

ーナー上の一部をビニール等で覆いモミガラ脱臭装置を設置します(写真)。アン

モニア濃度で最大 20ppm、平均 6ppmについて冬季でも除去できます(図4)。また、バーンクリーナーの運転時だけ脱臭装置を稼働すると、夏季は循環水から

の悪臭が発生し、冬季は凍結が心配されるため常時運転が必要です。

<利用上の留意点>

1 冬季の脱臭能力低下を改善するため、水道水で数回交換する必要が生じるが、交

換した水はアンモニア濃度が高いため排水処理施設等で適正に処理する必要があり

ます。

2 モミガラは、充填容量が減少した場合に補充する必要があります。

- 21 -

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<具体的データ>

表1 モミガラ脱臭槽によるアンモニア除去率

脱臭前 脱臭後1年目 19.5 0.5 97%2年目 21 6.4 70%

期 間アンモニア濃度(ppm)

除去率

H22.6~H23.5H23.5~H24.5

-5

0

5

10

15

0

10

20

30

40

50

60

70

01/10 01/15 01/20 01/25 01/30 02/04 02/09 02/14

アンモニア濃度

pp

脱臭前

脱臭後

循環水

入替え℃

図3 循環水交換によるアンモニア除去の推移

水温

月日

臭気

循環水

貯留タンク

P:くみ上げ

ポンプ

水温

0

10

20

30

0

5

10

15

20

25

9月 10月 11月

アンモニア濃度

ppm

水温

脱臭前

脱臭後

図4 バーンクリーナーのアンモニア除去の推移

図1 モミガラ脱臭装置概略写真 牛舎のモミガラ脱臭装置設置状況

0

10

20

30

40

50

60

70

6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月

ppm

アンモニア濃度

図2 モミガラ脱臭装置のアンモニア除去効果

脱臭前

脱臭後

水温

ブロワ

モミガラ

0.4. m3

- 22 -

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(3)剪定枝脱臭装置(埼玉県)

<特徴>

剪定枝脱臭装置は、脱臭槽に2軸せん断式破砕機で粉砕した広葉樹剪定枝を

充填し、密閉型堆肥舎の吸引排気を導入し脱臭する装置です。構造が単純で、

ほぼ無償で手に入る剪定枝を脱臭資材として使用する簡易型脱臭槽です。

<脱臭のしくみ>

1 剪定枝の特徴

広葉樹の剪定枝を2軸せん断式破砕機で2回破砕(歯幅 30mm と 6mm)したもので、ほぼ無償で入手できます。

2 脱臭のしくみ

密閉型堆肥舎内の空気を吸引し、破砕剪定枝を充填した発酵槽の床面から導

入します。破砕によってできた剪定枝の微細構造に吸着された悪臭物質を微生

物により分解する装置です。

<脱臭装置の設置例>

埼玉県農林総合研究センターに設置してある堆肥舎(豚ふん用)と剪定枝脱

臭槽は下記のとおりです。

堆肥舎は開口 2.5m、奥行き 2.5m の広さのものが2つで、それぞれの床面に200mm 幅の溝を2本切り、先端にソケットを付けた直径 100mm のネトロンパイプを通気管とし圧送用ブロアを設置してあります。堆肥舎前面にはビニール

製カーテンを取り付け、後ろ壁面の吸引口から脱臭槽へ配管し、配管途中に吸

引ファンを設置してあります。

簡易脱臭装置は間口 3.6m、奥行 1.8m、高さ 1.8mの屋根付きコンクリートブロック製で、中央に仕切りを設けてあります。床の土間コンクリートには各槽

2本溝を切り、通気配管として直径 5mm の穴を等間隔に 24 個開けた長さ1.45m直径 50mmの塩ビ製パイプを設置してあります。豚ふんを戻し堆肥とモミガラで水分調整したものを堆肥材料とし、脱臭槽に

は粉砕剪定枝を高さ 1.2m充填します。

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<運転管理>

1 堆肥材料の温度が 60℃に達するまでは、材料 1㎥あたり 80-90L/分通気し、60 ℃に達してからは 30L/分通気します。通気量を減らすことにより悪臭発生量が減少し、電気料を削減することができます。

2 脱臭槽へは 0.8㎥/分臭気を送ります(脱臭槽での見かけの風速:0.004秒、悪臭の脱臭槽への接触時間:230~ 250秒)。

3 脱臭槽の表層から 10 ~ 15cm の水分率が 40 ~ 50 %になるように適宜加水します。また、剪定枝の体積が減少した場合、減少分を追加します。

<脱臭成績>

8か月間調査した結果、アンモニアの除去率が一度低下しましたが、減量し

た分の剪定枝の追加と加水により除去能力が回復し、アンモニア、硫化水素を

除去することができました。

原臭(ppm) 除去率(%) 原臭(ppm) 除去率(%)

平 均 142.7 92.0 0.41 99.9

最 小 20.0 41.8 0.05 94.3

最 大 400.0 100.0 4.00 100.0

アンモニア 硫化水素

剪定枝脱臭装置による脱臭効果

ファン

圧送通気式堆肥舎 剪定枝脱臭槽

送風機

ビニール製カー

テン 堆肥 剪定枝

排気

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圧送通気式堆肥舎 剪定枝脱臭装置

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(4)低曝気処理水による臭気対策(埼玉県)

<特徴>

1 特徴

畜舎排水を少ない送風量で曝気処理すると無臭黄褐色透明の処理水が得られ

ます。この処理水は、硝酸イオン、硫酸イオン、バクテリアを含み、堆肥材料

に混合すると堆肥化過程の臭気発生を抑えることができます。

なお、低曝気処理は畜舎汚水を浄化して放流するのではなく、処理水を臭気

対策や液肥として利用する技術です。

2 脱臭のしくみ

通常の堆肥化ではバクテリアが酸素を使って有機物を分解しますが、酸素の

届かないところは有機物の分解が進まず、切り返しの時においが発生します。

低曝気処理水を堆肥材料に混合しておくと、酸素が少ない条件でもバクテリア

が硝酸イオンを使って有機物を分解するため、においが出ないと考えられます。

<低曝気処理装置>

装置は曝気槽(約6㎥)と貯留槽(約6㎥)からなる FRP 製回分式低曝気処理装置です。曝気槽にはブロア(100L /分)と塩化ビニールパイプ製の散気管を設置します。

- 26 -

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<運転管理>

1 最初は種汚泥と畜舎排水4㎥を投入し、1カ月間空気量 50 ~ 60L/分で低曝気運転をします。

2 その後、BOD 1,000mg/L以下の畜舎排水2㎥を曝気槽に投入し、空気量 50~ 60L/分で低曝気処理します。3 2~3週間で(汚水の BOD 濃度により異なる)処理が完了しますが、完了の指標としては曝気槽から処理水を取り出し、沈殿させた上澄みの透視度

や硝酸試験紙による硝酸イオン濃度を用います。完了の目安は硝酸イオン濃

度で、200mg/L以上です。4 処理が完了したら曝気を停止し 24 時間汚泥を沈殿させ、上澄み2㎥を貯留槽へ移送し処理水として使用します。新たに畜舎排水2㎥を曝気槽に投入し、

曝気処理を再開します。

5 余剰汚泥の生成はなく、汚泥引き抜きを行う必要はありません。処理水の

大腸菌は検出限界以下になります。

<脱臭成績>

豚ふんをモミガラで水分調整した堆肥化材料に、堆肥材料重量の1%の処理

水を混合し、小型堆肥化実験装置を用い4週間堆肥化し、臭気を調査しました。

材料1㎥当たり毎分 50L 通気し、1週間に1回切り返し、切り返しごとに重量の1%の処理水を混合しました。対照区には処理水の代わりに水を混合しまし

た。

排気中のアンモニア濃度は高く、対照区と差がありませんでした。

硫化水素は対照区が3日目に、試験区は5日目に同等のピークがありました。

しかし、対照区で2週目、3週目の切り返し直後に硫化水素が高濃度になっ

硝酸試験紙

処理前 処理完了

低曝気処理の過程

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たのに対し、試験区は8日目以降検出されませんでした。

メルカプタンは対照区が3日目に,試験区は5日目に最初のピークがありま

した。対照区では2週目、3週目の切り返し直後に 150ppm 以上の非常に高濃度のピークがありましたが、試験区は切り返し後のピークはなく、12ppm 以下の低濃度で推移しました。

実験堆肥舎(通気式)で行った試験でも、アンモニアには効果がありません

でしたが、切り返し直後の硫化水素、メルカプタンの発生を抑制することが確

認できました。

排気中のアンモニア濃度の推移 排気中の硫化水素濃度の推移

排気中のメルカプタン濃度の推移

堆肥材料への処理水の混合

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<留意点>

1 堆肥材料の重量当たり1%の処理水を材料に混合し、水分と容積重の調整

をします。切り返し時に同様に処理水を混合します。

2 曝気槽に投入する排水の濃度は、BOD 1,000mg/L程度に希釈する必要があります。また、畜舎排水の代わりに、ふんを水で溶かして材料とすることがで

きます。

3 鶏ふん堆肥化でも同様の臭気抑制効果がありますが、牛ふんの堆肥化試験

では効果を確認できませんでした。しかし、処理水を堆肥や畜舎の臭気抑制

に利用し、効果を実感している酪農家、肉牛農家もあります。

4 処理水は排水基準を満たしていないため、放流することはできません。

5 汚水処理の専門家の指導の下で、農業用タンクと家庭用浄化槽ブロアで代

用品を作ることができます。

- 29 -

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(5)畜舎内への水の噴霧及び床下への散水による臭気低減(新潟県)

<要約>

畜舎内への水の噴霧やスノコの下の散水により、臭気が低減できることを確

認しました。

<背景・ねらい>

「家畜排せつ物法」の施行により、家畜排せつ物は適正に管理されるように

なりましたが、悪臭に関する苦情発生件数の大幅な減少には至っていません。

そこで、畜産経営上の大きな課題となっている臭気対策について、情報の蓄

積と提供に向け、臭気原因の特定や改善策について検討しました。

<方法>

・温度管理が可能なモデル畜舎内で全面スノコ式とした飼育ゲージ(2.4×1.6m)を作成し、4頭の肥育後期豚を不断給餌、自由飲水で飼育しました。

・換気量は 10回/hとして 1か所から定量で排気しました。・水道圧で噴霧が可能な市販のニップルを排気口の室内側に 1 つ、飼育ケージの上部に 2 つ設置して水を噴霧し、ケージ下の床勾配の高い位置に 20cm間隔で穴をあけた塩ビ管を設置して散水しました。水量は、排気口、ケー

ジ上部、床下でそれぞれ 100、200、1,500ml/分としました。・2段階の室内温度を設定し、噴霧、および散水をそれぞれ組み合わせ実施

しました。

・アンモニアはガステック社のパッシブドジチューブ式検知管、臭気指数(相

当値)は畜環研式においセンサを用いて測定しました。

・臭気の測定は畜舎内、排気口出口、排気口から水平に 1m 離れた位置の 3か所としました。

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<結果>

・高温時は、低温時にくらべて、アンモニア濃度、臭気指数ともに高かった。

・畜舎内への噴霧と床下への散水により、畜舎内のアンモニア濃度と臭気指

数は低下した。

・排気口への噴霧は、臭気指数は低下したが、アンモニア濃度に差はなかっ

た。

・アンモニアや臭気指数が低下した原因として、臭気は水溶性であること、

また床下への散水では、尿を洗い流し、ふんと尿の反応によるアンモニア

の発生を抑えることができたことが考えられます。

・においセンサーで測定した臭気指数も噴霧や散水で差がありましたが、人

の感じ方に差が出る値とはいえませんでした。しかし、豚房への噴霧によ

り 1 m離れた位置での測定が悪臭防止法の規制値を下回る値が得られました。

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<留意点>

農場において頻繁な水洗を実施するには浄化槽の規模等に限度があるため、各

農場に合わせた臭気対策等の検討が必要です。

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5 臭気対策関連研究文献目次

(1)群馬県畜産試験場

1 鈴木睦美ら.1991.低級脂肪酸類を中心とした悪臭実態調査(第Ⅰ報).群馬農業研

究C畜産第8号.168-172

2 鈴木睦美ら.1992.低級脂肪酸類を中心とした悪臭実態調査(第Ⅱ報).群馬農業研

究C畜産第9号.150-154

3 高橋朋子ら.1993.飼料添加資材による鶏ふんの悪臭抑制.群馬農業研究C畜産第

10号.161-168

4 鈴木睦美ら.1993.脱臭剤(資材)の効果判定用装置の開発とその利用(第Ⅰ報).群

馬農業研究C畜産第10号.169-172

5 鈴木睦美ら.1994.閉鎖型家畜ふん尿処理施設に適する脱臭装置の開発.群馬畜試

研報第1号.126-130

6 鈴木睦美ら.1994.脱臭剤(資材)の効果判定用装置の開発とその利用(第Ⅱ報).群

馬畜試研報第1号.131-135

7 高橋朋子ら.1994.樹木による悪臭防止技術.群馬畜試研報第1号.136-142

8 亀田智子ら.1997.畜産臭気の発生実態調査.群馬畜試研報第4号.87-93

9 亀田智子ら.1997.オガクズおよび木材チップ脱臭槽の機能と能力.群馬畜試研報

第4号.94-98

10 山田正幸ら.2005.新たな微生物脱臭方法の開発.群馬畜試研報第12号.73-80

11 山田正幸ら.2007.軽石を利用した低コスト脱臭装置の実証.群馬畜試研報第14号.

91-97

12 鈴木睦美.2010.クエン酸水溶液を利用した木綿防虫網による悪臭除去技術の開発.

群馬畜試研報第17号.118-123

13 坂西啓悟ら.2014.モミガラを利用した脱臭装置の開発.群馬畜試研報第21号.51

-56

14 鈴木睦美.2014.クエン酸水溶液の散水による畜産臭気除去装置の考案.群馬畜試

研報第21号.57-65

(2)埼玉県農林総合研究センター 畜産研究所

1 崎尾さやから.2007.豚ふんの吸引通気式堆肥舎と簡易スクラバ及び剪定枝を活用

したバイオフィルタの組み合わせ脱臭技術の開発.埼玉農総研研報(7).25-30

2 塚本展子.2010.堆肥生産時の脱臭技術開発.埼玉農総研研報(10).64-68

3 崎尾さやから.2010.家畜排せつ物由来電子受容体水を利用した堆肥・液肥生産と

その活用.埼玉農総研研報(10).21-30

- 34 -

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(3)新潟県農業総合研究所 畜産研究センター

1 小柳渉ら.2001.乳牛ふんの堆肥化における還元層の形成条件と物質動態.新潟県農

業総合研究所畜産研究センター研究報告第13号.26-30

2 小柳渉ら.2003.副資材としての生キノコ廃床の特性と乳牛ふんとの混合堆肥化.新

潟県農業総合研究所畜産研究センター研究報告第14号.30-35

3 藤井崇ら.2008.敷き料資材の違いが臭気発生に与える影響についての検討.畜産環

境に関する試験研究成績書第8号.103-105

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Page 39: 畜産臭気対策マニュアル1 畜産環境問題の現状2 畜 …1 畜産環境問題の現状 (1)群馬県 平成22年度までの苦情発生 件数は100件を超えていました

三県農業公設試験研究機関の連携による調査・研究の効率的推進

「畜産臭気対策マニュアル」

発行 群馬県畜産試験場

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