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現在の金融政策
2020年2月高知県金融広報委員会日本銀行高知支店
奥野 聡雄
1
国債に対する需要が高まり、国債価格が上昇すれば、国債金利は低下する。
世の中の金利は、国債金利をベースに「債務者の信用度」や「満期までの期間」などによって決まる。
借入金利が低下すれば、設備投資や耐久財消費が増加し、景気が良くなる。
景気が良くなれば、モノやサービスの値段(物価)が上がって企業の売上が増加し、給料も上昇する。
(ポイント)
2
1.誰が金融政策を決めているのか?
金融政策決定会合
(Monetary Policy Meeting、通称MPM)
政策委員<総裁、副総裁(2名)、審議委員(6名)>の多数決で議決
日本銀行
日本銀行は、年8回、東京の本店で「金融政策決定会合」を定期的に開催(1、
3、4、6、7、9、10、12月)
会合では、日本銀行内の各部局が内外経済や市場の動向を説明。これをもとに9
名の政策委員が議論し、金融政策を決定。
決定内容は即日公表され、議長(総裁)による記者会見が行われる。
事後的に「主な意見」「議事要旨」「議事録」を公表し、議論の透明性を確保。
3
2.現在の金融政策:「長短金利操作」
2020年1月21日日本銀行
当面の金融政策運営について
1.日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
(1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用する。
長期金利:10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。
(2)以下略
現在、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持
続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続す
ることとしている。
その際の中心的な手法は「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」。こ
れを通じて金利を目標の水準まで引き下げ、経済活動を刺激する。
▽イールドカーブ(期間別金利)の形状
債券の価格と利回りはトレードオフ
4*表面利率(固定利付債)は発行時に決定される。債券価格はその時々の市場において決定される。
毎年の利息収入 1年あたりの売買収益
債券の利回り(%)=
表面利率+額面 100ー債券価格
残存期間
債券価格× 100
債券価格(円)= 表面利率 ×残存期間+額面 100 × 100
債券の利回り ×残存期間+100
3.国債の価格と長期金利の関係
債券価格の上昇
債券価格の下落
債券利回りの低下
債券利回りの上昇
5
4.長期金利の操作
ある期間の金利が高すぎる場合、対応する残存期間の国債をたくさん買入れ、価格を引き上げれば、その期間の金利は低下する。逆に金利が低すぎれば、国債の買入れ額を減らして国債価格を引き下げ、金利を上昇させる。
日本銀行は、こうした国債買入オペレーションを繰り返し、 10 年物国債金利が「ゼロ%程度」で推移するよう、イールドカーブ全体の形状をコントロールしている。
短中期 長期 超長期
残存期間
金利
買入額の減額国債価格の下落
↓金利上昇
買入額の増額国債価格の上昇
↓金利低下
短中期 長期 超長期
残存期間
金利
6
5.金利の動向と日本銀行の国債買入額
-0.6
-0.4
-0.2
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 15 20 30 40
直近の国債イールドカーブ
平均値
ボトム
ピーク
(%)
年(残存期間)
短期政策金利
「▲0.1%」
長期金利操作目標
「ゼロ%程度」
(注)左図の平均、ボトム、ピークは長短金利操作導入(2016年9月21日)から2019年10月までのもの。(出所)日本銀行、Bloomberg
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
0
200
400
600
800
1000
1200
06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
その他主体の保有額(左目盛)
日本銀行保有額(左目盛)
日本銀行保有割合(右目盛)
(兆円) (%)
年
内外の金融経済情勢に応じて、わが国の金利も上下に変動するが、長短金利操作のもとで、10年物国債金利は、概ね目標どおりコントロールされている。
大規模な国債買入れを継続してきた結果として、日本銀行が保有する国債の額は国債発行残高全体の半分近くまで増加している。
▽国債残高に占める日銀の保有割合▽イールドカーブの推移
7
6.短期金利の操作
民間金融機関は、自らが必要とする短期の資金を、日々、日銀当座預金として保有する。
日銀当座預金が足りない金融機関は、余っている金融機関から、無担保コール市場などを
通じて資金を調達する。1日分の取引にはオーバーナイト<翌日物>金利を適用。
日銀当座預金は、通常、無利息(0%)であるが、日本銀行は、2016年から、金融機関ご
とに定める上限値以上の当座預金にマイナス金利(▲0.1%)を適用することとした。こ
れにより、短期金利は、▲0.1%~0%の間で決定されるようになった。
資金
上限値
▲0.1%~0%の範囲内(例えば▲0.05%)で翌日物金利が決定される。
上限値
A銀行は、自らの上限値を上回る当座預金を持ち続けると、▲0.1%の損失を被る。⇒▲0.1%を上回る金利で資金を放出(運用)すれば、マイナス金利であっても、その分損失を減らせる。
B銀行は、自らの上限値に達するまでは、0%の預金金利が適用されるので、損失を被らない。⇒0%を下回る金利で資金を調達し、当座預金に預け入れれば、その分利鞘を稼げる。
0%適用部分
▲0.1%適用部分
0%適用部分
A銀行 B銀行
本稿では省略しているが、現在、日本銀行は、金融機関ごとに定める金額まで、日銀当座預金にプラスの金利(+0.1%)を付している。
8
7.金利体系(リスクに応じた上乗せ金利)
金利
期間
預金金利 国債金利(ベースレート)
社債金利貸出金利
1年 5年 10年 20年
信用スプレッド
タームプレミアム
信用力の高い相手に、短期間、貸し出す金利が最も低い。
債務者の信用度が低くなるにつれて、返済不能リスクが高まるため、その分、金利が上乗せされる(信用スプレッド)。
⇒ リスクがない(とされる)国債金利が世の中のベースレート。金融機関の信用リスクは小さいため、預金金利は低い。貸出金利や社債金利は、企業の信用力に応じて信用スプレッドが上乗せされる。
(相手が同じでも)貸出期間が長くなるにつれて、状況の変化により返済不能リスクが高まるため、金利が上乗せされる(タームプレミアム)。
9
8.各種金利の推移
▲ 0.4
▲ 0.2
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
05/1
06/1
07/1
08/1
09/1
10/1
11/1
12/1
13/1
14/1
15/1
16/1
17/1
18/1
19/1
(%)国債金利(2年物)
定期預金金利(2年以上3年未満)
(注)1. 定期預金金利は、日本銀行と取引のある国内銀行の銀行勘定の計数。ただし、整理回収機構、第二日本承継銀行(2011年12月26日付で事業譲渡)、ゆうちょ銀行を除く。月中新規受入高を0.1%刻みで集計のうえ、下限金利を加重平均したもの。規制金利定期預金を除く。1993年10月18日以降受入の変動金利分を含む。
2. 国債金利は、月末日の値。(出所)日本銀行、財務省
▽市場金利と預金金利 ▽貸出金利とCP・社債発行利回り
(注)1.CP発行利回りの2009/9月以前はa-1格以上、2009/10月以降はa-1格。2.社債発行利回りは、単純平均値、起債日ベース。対象は国内公募社債で、銀行や証券会社などの発行分は除く。
3.銀行貸出金利、社債発行利回りは、後方6か月移動平均。
(出所)日本銀行「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」(2020年1月22日公表分)より抜粋
10
モノに対する需要が増え、値段が緩やかに上がる
企業の売上げが増える
企業の設備投資や人々の耐久財消費が増える
金利が下がる(お金を借りやすくなる)
企業の収益や人々の給料が上がる
9.金利の低下が経済に与える影響
持続的な経済成長物価の安定
11
10.金融緩和の効果①
▽設備投資 ▽個人消費 ▽需給ギャップと消費者物価
(注)1. 資本財総供給の2019/4Qは、10~11月の値。建設工事出来高の2019/4Qは、10月の値。
2. 建設工事出来高の実質値は、建設工事費デフレーターを用いて日本銀行スタッフが算出。
(注)1. 消費活動指数(旅行収支調整済)は、除く インバウンド消費・含むアウトバウンド消費(日本銀行スタッフ算出)。2019/4Qは、10~11月の値。
2. 家計最終消費支出の2019/4Qは、消費総合指数(11月までの値)を用いて日本銀行スタッフが試算。
3. 可処分所得等は、可処分所得に年金受給権の変動調整を加えたもの(年次推計値および速報値を用いて算出)。家計最終消費支出デフレーターを用いて実質化。
(注)1. CPIは、消費税率引き上げ・教育無償化政策の影響を除く。2019/4Qは、10~11月の値。
2. 需給ギャップは、日本銀行スタッフによる推計値。
(出所)日本銀行「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」(2020年1月22日公表分)より抜粋
12
11.金融緩和の効果②
▽企業収益 ▽雇用者所得(名目賃金×雇用者数)
(注)1. 法人季報ベース。金融業、保険業を除く。2. 2009/2Q以降は、純粋持株会社を除く。3. シャドー部分は、景気後退局面。
(出所)日本銀行「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」(2020年1月22日公表分)より抜粋
(注)1. 各四半期は、1Q:3~5月、2Q:6~8月、3Q:9~11月、4Q:12~2月。2. 雇用者所得=名目賃金(毎月勤労統計)×雇用者数(労働力調査)3. 毎月勤労統計の2013/1Q~2019/1Qは、東京都の「500人以上規模の事業所」を復元した抽出調査系列、2019/2Q以降は、全数調査した本系列。
4. 毎月勤労統計の2016/1Q以降は、共通事業所ベース。5. 雇用者所得の実質値は、CPI(除く持家の帰属家賃)を用いて日本銀行スタッフが算出。
12.日本銀行の経済・物価見通し
13(注)見通しは、1月時点の日本銀行政策委員の見通しの中央値。消費者物価指数は、2014/4月の消費税率引き上げの直接的影響を除いたベース。(出所)内閣府、総務省、日本銀行
490
500
510
520
530
540
550
560
12 13 14 15 16 17 18 19 20 21年度
(季節調整済年率換算、兆円)
2019年度
+0.8%
2020年度
+0.9%
2021年度
+1.1%
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
12 13 14 15 16 17 18 19 20 21年度
(前年比、%)
2019年度
+0.6%
2020年度
+1.0%
2021年度
+1.4%
物価安定の目標
(2%)
わが国経済は、当面、海外経済減速の影響が残るものの、2021年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続くとみられる。
物価は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる。
経済・物価ともに、引き続き、下振れリスクの方が大きい。「新型コロナウイルス」がわが国経済に与える影響にも十分な注意が必要。
▽消費者物価指数(除く生鮮食品)▽実質GDP
14
13.金融緩和の影響・留意点
国債市場では、日銀の大規模な国債買入れのもとで、市場機能の低下(金利形成の硬直化等)が指摘されていたが、オペレーション上の工夫もあり、機能度は徐々に改善してきている。
金融緩和の継続が、貸出利鞘(貸出金利-預金金利)の縮小などを通じて、金融機関の経営体力に影響を及ぼす可能性には留意を要する。
(注)1. 2012 年度以降、投資信託解約益をコア業務純益、資金利益から除く。2.信用コストは、定義の明確化に伴い2018 年度と2017 年度で若干の差異がある。
(出所)日本銀行「金融システムレポート(2019年10月号)」(2019年10月24日公表分)より抜粋
▽債券市場の機能度
(注)調査対象先は、2017/11月調査までは国債売買オペ対象先のうち協力を得られた先。2018/2月調査以降は、上記に加え大手機関投資家(生命保険会社、損害保険会社、投資信託委託会社等)を含む。なお、2018/2月調査は、旧ベースの計数を併記。
(出所)日本銀行「債券市場サーベイ(2019年11月調査)」(2019年12月2日公表分)より抜粋
▽地域銀行の当期純利益
15
14.通貨に対する信用
2007年3月末
総資産113兆円
2019年12月末
総資産573兆円
?兆円
国債の価値は?
↓
銀行券に対する
信用は?
銀行券
国 債
当座預金
銀行券
当座預金
国 債
日本銀行のバランスシート
政府が「日本銀行が国債を大量に買ってくれるので、好きなだけ発行できる」と考えたらどうなるか?
人々が「将来の税金で国債の償還ができなくなる」と考えたら、国債の価格はどうなるのか? 世の中の金利はどうなるのか?
通貨(銀行券)に対する信用はどうなるのか?
景気や物価はどうなるのか? 人々はどう行動するか?
16
15.通貨の信用を守るための枠組み
政府・日本銀行の「共同声明」(2013年1月22日)【抜粋】
政府は、我が国経済の再生のため、機動的なマクロ経済政策運営に努めるとともに、日本経済再生本部の下、革新的研究開発への集中投入、イノベーション基盤の強化、大胆な規制・制度改革、税制の活用など思い切った政策を総動員し、経済構造の変革を図るなど、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組を具体化し、これを強力に推進する。また、政府は、日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観
点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する。
中央銀行の独立性
→ 自ら責任をもって金融政策を決定する。将来、適切な「出口戦略」を策定することもその一環
政府・国会による財政規律
→ 景気後退局面では、積極的・機動的な財政政策を実施。そのうえで、中長期的には、健全な財政を目指していくことが必要。
(参考)過去20年の金融緩和政策
(注)1. シャドー部分は景気後退局面。2. 消費者物価指数の前年比は、消費税調整済み。
(出所)総務省、内閣府
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【Ⅳ】量的・質的金融緩和
(2013/4~)
・2%の物価安定目標(2013/1~)・長期国債等の大規模な買入れ
マイナス金利付き量的・質的金融緩和(2016/1~)
長短金利操作付き量的・質的金融緩和(2016/9~)
【Ⅰ】ゼロ金利政策
(1999/2~2000/8)
・時間軸政策の採用
【Ⅱ】量的緩和
(2001/3~2006/3)
・操作目標:金利⇒当預残高
・時間軸の明確化
【Ⅲ】包括緩和
(2010/10~2013/4)
・資産買入等の基金
・買入対象の拡大
-3
-2
-1
0
1
2
3
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)
年
(前年比、%)