59日看管会誌　Vol. 14, No. 1, 2010

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 14, No. 1, PP 59-67, 2010

報告

看護業務遂行過程におけるタイムマネジメントの思考要素探索―病棟勤務看護師の実践からの分析―

The Exploration of Thought Factors for Time Management in Performing Nursing Duties: An Analysis of Actual Nursing Practice among Ward Nurses

足立はるゑ 1) 古川優子 2)

Harue Adachi1) Yuuko Furukawa2)

Key words : nurse, nursing duties, time management

キーワード : 看護師，看護業務，タイムマネジメント

AbstractThe objectives of this study are to examine how ward nurses working at medical institutions organize

time during their daily duties, and to exploration thought factors involved in actual time management. A semi-structured interview was conducted with five ward nurses working at the neurosurgery departments of university hospitals. Data collected from the interview were supplemented with direct observations of the nurses while performing their duties. The results showed that thought factors involved in time management in nursing fall into four categories, namely, “Preference on the basis of the patient’s course”, “Facilitation of team activities”, “Implementation of effective care” and “Improvement of work efficiency”. Furthermore, 13 sub-categories were extracted. It was suggested that inexperienced nurses require sufficient supervision to implement time management.

要　　旨

本研究の目的は，医療施設で働く病棟勤務看護師の日々の業務におけるタイムマネジメントの実態を調査し，その際の思考要素を探索することである．対象は大学病院の脳神経外科病棟に勤務する看護師 5 名，データ収集は半構成的面接法を用い，補完的に看護師と共に行動し，状況を観察した．その結果，タイムマネジメントの思考要素として，【患者の経過にとっての優先性】【チーム活動の円滑化】【効果的なケアの提供】【業務の効率化】の４カテゴリーと 13のサブカテゴリーが抽出された．経験の浅い看護師へのタイムマネジメントの十分な指導が必要であることが示唆された．

受付日：2008 年 11 月 27 日　　受理日：2010 年 3 月 13 日1) 中部大学生命健康科学部保健看護学科　Department of Nursing, College of life and Health Sciences, Chubu University2) 藤田保健衛生大学病院看護部　Fujita University Hospital, Nursing Post

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Ⅰ．はじめに

医療機関の病棟で勤務する看護師は，交替勤務をする中で患者に必要なケアや治療処置等のサービスを 24 時間継続して提供している．24 時間良質で効果的なケアを円滑に実施するためには，個々の看護師に時間管理（以下タイムマネジメントという）というスキルが必要である．タイムマネジメントとはMarrelli （1997） は「仕事に優先順位をつけ，その割り当てられた時間を管理すること」，行本（2002）は「タイムマネジメント（時間管理）とは単に時間の管理ではなく，仕事の管理をすること」と述べている．つまりタイムマネジメントとは，自分の役割を効果的且つ効率的に実施するための時間を意識した仕事の管理方法であるといえる．看護師が業務に熟達するにはタイムマネジメント能力が不可欠であり、それが円滑にできなければ組織全体の看護サービスの質や経済性にも影響を及ぼすことになる．つまり，患者・家族をはじめ看護チームメンバーや他職種にも弊害を及ぼすことになりかねない．

看護領域におけるタイムマネジメントに関する先行研究では，外来待ち時間の短縮（石本ら，2002；松嶋ら，2004），時間外勤務の分析（森，2002），コスト意識とタイムマネジメントの関連（森木，2004），及び看護業務に知的生産者の生産性向上手法（Increasing Productivity of Intellectual People : Double IP System : DIPS）を導入した実践（桐月，2004）が報告されている．そのうち本研究との関連が深い研究では，森，桐月は看護実践における時間管理の必要性を述べており，森は看護職員一人ひとりの時間管理の意識が薄いことから予定通り仕事が片付かない現状を，桐月は看護の管理業務に DIPSを導入して管理業務の生産性全体を向上させたことを報告している．

しかしながら，看護師の仕事は複雑な要素をもっているにもかかわらず，仕事の進め方としての優先順位の決定，時間配分といった，タイムマネジメントに関する研究は記述されておらず，実証的な報告は見あたらない．おそらく，このような能力は経験を経ることにより身につくものであるといった見解から，各職場の OJT にまかされ，基準のないまま看護師の個人的な見解で実施されていると思われる．ところが一人前といわれる卒後３年を経ても，

タイムマネジメントがうまくいかず，必要なケアが後回しになったり，他職種との連携が円滑にできない等，チーム活動に支障をきたしている場面が散見される．また，仕事におけるタイムマネジメントが新人看護師のストレス要因になっているという事実も報告されている（水田，2004）．これらのことから，仕事におけるタイムマネジメント能力を高めるための検討が必要であると考える . それには，まず臨床における看護業務遂行に必要な，タイムマネジメントとはどのようなことを考えて行うのか，標準的な方法や枠組みを実証的に明らかにする必要がある．

病院で働く看護師は，仕事におけるタイムマネジメントをどのようにして身につけてきたのだろうか．おそらく，日々の看護実践の経験を通して自らの内面に実践的知識として発達させていることが推察される．つまり，看護師は自分の具体的な看護実践の体験から，有効だと考えられる方法を内面化し，その人個人の仕事の仕方として発達させていくものと考えられる．それらを可視化することで，看護師に求められるスキルとしてのタイムマネジメントに関する思考要素が明らかにできれば，経験の浅い看護師のスキルアップの支援として活用できる資料が得られると考える．そこで本研究では，病棟に勤務する看護師が日々の業務遂行過程においてタイムマネジメントをどのようにしているのか，何を考えて行っているのか，臨床現場での実態を調査し，その要素を抽出することを目的に取り組んだ．用語の定義１）タイムマネジメントとは，看護師が昼間勤務

（8:30 ～ 17:00）において，自分の業務の優先順位と時間配分を決めて業務を計画・実施・調整することをいう．

２）タイムマネジメントの思考要素とは，看護師が自分の業務遂行においてタイムマネジメントをするために考え，判断材料とする事柄の要素をいう．

３）看護業務遂行過程について，看護業務とは，日勤帯に勤務する看護師が，その日の役割として実施すべき患者のケアや処置等すべてをさす．業務遂行過程とは，実施すべき業務の開始から終了までをいう．

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Ⅱ．研究方法

１．対象・調査期間・研究の場１）対象A 大学病院，脳神経外科病棟に勤務する看護師 5

名．対象の条件は，当該病棟勤務経験 5 年以上で，リーダー業務，新人看護師指導（プリセプター）経験者とした．当該病棟勤務 5 年以上としたのは，当該病棟で自律して仕事ができ，自分なりの仕事の仕方を築き上げていると考えたためである．２）調査期間平成 18 年 5 月～ 7 月．看護師一人の調査期間は

一日で，日勤勤務時間帯とした．調査日はタイムマネジメントが重要な手術日を選んだ．研究の場は A大学病院脳神経外科病棟で，規模は 42 床，看護体制は固定チームナーシングをとっている．３）データ収集方法・調査内容データ収集は，半構成的面接法と観察法を併用し

た．（１）半構成的面接法看護師の日勤勤務終了後に一人 60 分の面接をし，

以下の内容を聴取した．面接内容を，許可を得て録音した．

①属性：年齢，性別，臨床経験年数，専門職学歴②日勤勤務における自分の役割を時間内に効果的

に行うためのタイムマネジメントをどのように実施したか（タイムマネジメントの定義を提示した），併せて状況の描写と行動時の行為の理由を確認した．（２）観察法 研究者が調査対象者と行動を共にし，業務遂行状

況を観察した．以下の内容を観察し，半構成的面接法で語られた

内容との整合性を確認した．① 業務開始前：情報収集，業務計画立案，アセ

スメント状況，② 業務中：業務計画の実施，調整状況，③ 勤務終了時の残務状況である．

Ⅲ．分析方法

面接内容と観察結果を以下の手順で整理分析した．

１．データ化面接内容は録音された内容を逐語録におこし，観

察内容は時間ごとに記録した業務内容，所要時間，及びその時の行動を整理し，データ化した．

２．コード化・カテゴリー化逐語録は観察結果と合わせながら，得られたデー

タの類似性・関連性を解釈し，コードをまとめた．さらに Ellis & Hartley（2000）の「時間の効果的な管理」を参考に，サブカテゴリーを構成し，抽象度を高めてカテゴリー化した．その際，以下のような問いを立てて，要素の探索をした．①この場面で看護師は何を考えているのか，②何を大事だと捉えているのか，それは何か．③看護師が出来事の何を捉えているかを明確な言葉で表し，特性次元として整理する．

分析の信頼性確保のために，スーパーバイザー 2名とともに意見が一致するまで解釈の妥当性等を吟味した．分析結果を調査対象者に提示し合意を得た．

３．倫理的配慮研究対象者には研究の目的・方法を説明し，研究

参加は自由意思であること，職場評価とは関係ないこと，得られたデータの管理，匿名性の確保を厳重に行うことを文書と口頭で説明し，同意書に自署してもらった．また，研究対象者と同行する際はあらかじめ患者に了解を求め，調査日のリーダー及びスタッフメンバーに研究の目的・方法を説明し，了解を得た．なお，研究計画書を研究者が所属する大学疫学・臨床研究倫理審査委員会において審査を受け，承認を得た．

Ⅳ．結果

１．対象者の背景と受け持ち患者の概要１）研究対象者は 5 名とも卒後 5 年以上の看護師

で，教育背景は看護系大学卒 2 名，看護短大卒１名，看護専門学校卒 2 名であった．5 名とも女性であった．　　　

２）看護師 5 名が受け持った患者の数はそれぞれ3 ～ 6 人で，概要としては，診断名は脳腫瘍，くも膜下出血，遷延性意識障害，慢性硬膜下出血等．看

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護度は B-1 レベル（常に寝たままで，1 ～ 2 時間程度観察を必要とする）が最も多かった．受け持ち患者のケア・治療処置の内容は，全身清拭，経管栄養，吸引等さまざまであり，調査日の看護チームメンバー数は 6 人～ 9 人であった．チームリーダーは5 日間ともに 2 名の体制であった．

２．看護師の業務遂行過程におけるタイムマネジメントの思考要素

得られたデータを分析した結果，看護師の業務遂行過程におけるタイムマネンジメントの思考要素は4 カテゴリー，13 サブカテゴリーが抽出された（表1）．カテゴリーの内訳は【患者の経過にとっての優先性】【チーム活動の円滑化】【効果的なケアの提供】【業務の効率化】の 4 カテゴリーであった．以下，本文中ではカテゴリーを【　】，サブカテゴリーを《　》，主なコードを＜　＞で示し，具体的なデータを示しながらカテゴリーを説明する．【患者の経過にとっての優先性】は《生命維持に

必要なこと》《必須の症状管理》《健康回復に必要なこと》《セルフケアへの移行にとって必須なこと》の 4 つのサブカテゴリーで表された．内容は、《生命維持に必要なこと》では＜重症患者を中心に他の人のケアを計画した＞＜血圧の高い人や術後の患者を受け持っているのでバイタルサイン測定を優先した＞等があげられた．《必須の症状管理》では＜症状出現（嘔吐、不穏状態）患者の状態を直接確認してから計画した＞＜嘔吐が続いている患者を受け持ったので観察時間を他の患者のケアの間にとりいれるようにした＞＜脱水を起こしている患者の水分出納を定期的に報告する必要があるのでその人を中心に計画した＞等があげられた．《健康回復に必要なこと》では，治療処置内容に関することとして，＜術後早期の人のケアやケアの多い人を優先した＞＜患者に必ず必要な看護ケアや処置を先に計画した＞等が，治療処置の予定時間に関することとして＜手術やリハビリの時間を中心に決めた＞＜ 9 時のリハビリが終わったら補水を胃ろうから注入し，その後，体拭きと口腔ケアを計画した＞等であった．《セルフケアへの移行にとって必須なこと》では＜本日の重要な業務の退院患者の説明を優先した＞＜車椅子移乗開始のための計画を午前中に計画した＞であった．

【チーム活動の円滑化】は《看護チーム全体の業務量と看護力》《看護チームメンバー間の協力・指導》

《休憩時間の確保》《予備時間の確保》の４つのサブカテゴリーで表された．内容は《看護チーム全体の業務量と看護力》では＜手術，検査等を把握し術前準備のフォローを考えて計画した＞＜手術件数等の業務量を確認し、計画を立てた＞等で《看護チームメンバー間の協力・指導》では＜自分の受け持ちのみでなく，新人の手術前準備のフォロ―を考えて計画した＞＜優先して皆で行う業務を協力した＞＜入浴の準備等，事前にメンバ―と相談して決めた＞等であった．《休憩時間の確保》では＜昼の休憩時間を考慮し

て業務計画を立てた＞＜休憩時間が 11 時 30 分からなので，午前中にケアを終わらせて記録は後で行うよう計画した＞等であった．《予備時間の確保》では＜緊急入院が来た時の為

にケアは午前中に行った＞＜重症患者がいるので急変に備えて時間を確保した＞等であった．【効果的なケアの提供】は《適確なケア》《安楽の

促進》《ケアの調整》の３つのサブカテゴリーで表された．内容は《適確なケア》では＜痰が多いので吸引を頻回に行うことにした＞＜重症患者の血圧が高かったので，報告し対処した＞等であった．《安楽の促進》では＜ハーバード浴は気持ちがよ

いからゆっくり時間を延長した＞＜時間があったから口腔ケアと足浴をした＞等であった．《ケアの調整》では＜緊急入院の指示が出たのでケア時間を調整した＞＜リハビリの時間が変更されたのでケアを調整した＞＜経管栄養が終わらないのでリハビリの時間を遅くした＞等であった．【業務の効率化】は《業務の見積り》《効果的な時

間活用》の 2 つのサブカテゴリーで表された．内容は《業務の見積り》では＜自分にとって困難なケアをどのように行うか考えた＞＜検温だったら 4 人だから 15 分くらいで終わるので，午前中にケアが行える＞＜業務開始から一つひとつのケアにかかる時間を想定し，業務終了までの時間配分を考えた＞等であった．《効果的な時間活用》では事前の準備に関することとして＜業務開始前にケアに必要な物品を完全に準備した＞＜検温中に次の業務を考えて事前に準備した＞等があげられ，目標時間の設定や業務の組み合わせに関することとして＜時間内に終わ

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表1　病棟勤務看護師の業務遂行過程におけるタイムマネジメントの思考要素

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表1　病棟勤務看護師の業務遂行過程におけるタイムマネジメントの思考要素（つづき）

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ることを業務計画立案時に心がけている＞＜先にハーバード浴に入れる，バイタルを測りながら体を拭く人，体を拭く時に摘便をする人というようにケアの組み合わせを考えて計画した＞等であった．ケアを円滑に行うための看護師の動線に関することとして，＜何回もステーションを行き来しないですむように一連の行動を考えて行った＞＜一人の患者に行うケアは 1 回で行った＞＜その部屋で使う物品をあらかじめ持っていき，処置室と患者を行き来しない＞等があげられた．更に時間の浪費を避けることや細切れ時間の活用に関することとして，＜カンファレンス時に余計な話をしたり，集まっていることがないようにした＞＜患者と決めたケア時間がくる迄に PC の入力をした＞等があげられた．

Ⅴ．考察

１．病棟勤務看護師の業務遂行に必要なタイムマネジメントの思考要素

研究対象者 5 名の日勤帯におけるタイムマネジメントの実態を分析することで，4 カテゴリー， 13 サブカテゴリーの要素が抽出された（表１）．抽出された内容は，病棟勤務看護師が仕事の開始と共に，自分の受け持ち患者に関する業務とその日のチーム全体の看護業務とそれを遂行する看護師の看護力を把握し，業務の優先度や順序構成を考えて一日の業務計画を立案・実施・調整していることを示している．これらは看護師によって実際になされている活動であることから，これを臨床看護活動の「タイムマネジメントのニーズ」と捉えた．抽出された 4 つのカテゴリーは，一日の看護業務を実施する際のタイムマネジメントをするための思考の枠組みであり，看護師がこれまでの臨床看護を通して必要だと感じたことである．言い換えれば，これらを認識しておくことで日々の業務を効果的に実施できるとしているものである．したがって，これを臨床看護に携わる病棟勤務看護師に必要な「タイムマネジメントの思考要素 」とした．以下得られた 4 カテゴリーの内容と構造について考察する．１）患者の経過にとっての優先性カテゴリーの内容は，《生命維持に必要なこと》

《必須の症状管理》等，必要なケアや治療処置の実

施において患者の状態をアセスメントし，更に，指定時間を守るといった条件を考慮した順序構成を看護師が行っていることを示している．この要素は，患者の経過にとって何が必要であるかをはっきり理解し，判断しなければならないことである．十分な専門的知識と判断力が必要であり，どのような患者を何人担当するかにより難易度が異なってくる．この判断が患者の経過に大きな影響を及ぼすことは明らかであり，新人看護師や勤務交代直後の看護師には負担を考慮する配慮や指導が必要であると思われる．２）チーム活動の円滑化このカテゴリーの内容は，《看護チーム全体の業

務量と看護力》《看護チーム間の協力・指導》《予備時間の確保》等，看護師がチーム活動を意識してタイムマネジメントをしていることを示している．病棟に勤務する看護師は通常，チームを組んで仕事をしている．看護チームメンバーは経験，看護実践能力等が異なる看護師，准看護師，看護補助者（看護助手）で構成されているのが一般的であり，相互に支援しあうことによりチームとしての看護の質を高めるよう努力している．つまり，チームで協力しながら日々の業務を遂行し，組織の目標を達成しているのである．このようなことを考え行動するには，知識・技術に加え，一定の経験やチームメンバーとの交渉・調整等の対人スキルが必要となる．しかし，一方では，チームメンバーからの依頼でも，自分が依頼する場合であってもそのことが時間管理上，どのような影響があるかを考慮した対応が必要となる．時にはアサーティブを発揮し，誠実に断ることも必要な場合があることを念頭に置く必要がある要素といえる．

また《予備時間の確保》といった先を見通した計画があがっていたことは，医療現場の変化や流動性を鑑み，看護師が先見力を以って役割を遂行していることが伺える．この先にこういう事態が起こるであろうと予見することは，医療従事者にとって重要な能力であり，看護師は患者の急変や，緊急事態に備えるために先々を想定した判断をし，計画を立てていることを示している．タイムマネジメントにおける「先々を想定する能力」は，「時間」という非可逆的な資源を有効に活用する上で、重要な能力である（行本，2002）．このような能力を発揮するには，

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当然のことながら専門的知識と経験のみでなく，異常を見逃さない鋭敏な感性（注意力）が要求される．

経験の浅い看護師や新人看護師に対し，アドバイスを要することである．３）効果的なケアの提供この内容は《適確なケア》《安楽の促進》《ケアの

調整》といった看護師の活動上，中心となる内容である．看護師は個々の患者に必要なケアや治療処置を実施するために，自分の持てる知識・技術を駆使して他のケア時間や予定変更等に伴う業務調整をしながら対処していることを示している．菊池，原田

（1997）のいう臨床現場での「具体的判断能力」「実践能力」にあたると思われる．看護師はさまざまな状況変化・制約の中で経験を積み，成果を出していく中で問題解決的な思考と実践力を身につけているといえる．４）業務の効率化カテゴリーの内容は《業務の見積もり》《効果的

な時間活用》であった．これは，行うべきさまざまな業務全体を見通した上で，時間設定と自分自身の行動の仕方を工夫していることを示している．これらの内容は，看護師のこれまでの経験の積み重ねから得られた知恵であり，ケアの所要時間と順序に関するもの，事前準備や業務の組み合わせ，ケア所要時間の推測，行動時の動線の工夫等，まさに体験知と言えるものが伺える．すなわち，これまでの経験を生かして目標時間を設定し，手順や方法をイメージし，自分の力量も考慮にいれた計画をし，実施しているのである．

業務の効率化とは，限りある時間をいかに上手に使い，目標を達成するかを個々の看護師が考え，効率的なケアを行うことを意味する．今日，「より少ない時間で，より多くの仕事を」といった費用対効果の問題が問われる時代になり，自分の時間を上手に管理する能力が必須となっている．しかしながら，医療現場での特に看護師の業務において過度な効率化を求めることは，看護の質に対して負の影響が伴う可能性を考えておく必要がある．患者によりよい看護を提供する上で，行き過ぎたタイムマネジメントの要求が患者とのコミュニケーションを希薄にし，観察不足やニーズの不充足を招くことがないように，注意が必要である．太田ら（2007）は「よい看護マネジメントは「業務効率」と「看護の質」と

いう，対立する概念を乗り越えて（妥協することなく）効率的に質の高い看護実践を行う状態をもたらす」と述べている．看護師としての専門的知識・技術，判断力，実践における経験の積み重ねが必要な要素であると考える．このことは，新人看護師が就職間まもない時期において，到底一人ではできない仕事の複雑さを示していることがわかる．

２．タイムマネジメントのスキル教育の可能性以上，看護師は日々の看護活動において，これま

でに修得した知識や技術，態度とともに，自らの内面に築き上げた具体的なタイムマネジメント方法を用いて業務を遂行している実態が明らかになった．看護師が行っているタイムマネジメントは，仕事の量と質，チーム活動を考えて，所要時間を予測しながら業務計画を立案・実施し，状況変化に応じて業務の調整や，時間を有効に活用する工夫をしていることが示された．

抽出された４カテゴリー 13 サブカテゴリーの内容をスキル（技術）といった観点からみると，経営学における「時間管理の原則」「業務の組織化」といった手法に通ずるものがある．時間管理の原則とは「自分自身を知る」「自分の時間をコントロールする」等で，業務の組織化とは「複数の業務を目的達成に向けて順序化，グループ化すること」｢ 難易度，専門性の観点からレベル区分をする」等（Ellis & Hartley, 2000；行本，2002）のことである．

特に，「組織立てて行動する」といった，時間と資源と労力が最大限に活かせる組織的なやり方でケアを提供することが，効率的なケアの実践につながる（Ellis & Hartley, 2000）．「組織立てて行動する」とは，例えば包帯交換をする際には何を準備し，いつ頃，どのケアと一緒に行うかを事前に考えて行動するといったことである．これらの手法を応用し、状況特性に合わせたタイムマネジメントの仕方等の言語化した教育が可能であり，そのうえで経験を積むことで，タイムマネジメント能力を高めることが期待できる．

Ⅵ．研究の限界・今後の課題

本研究の対象者は 5 名と少なく，領域も脳神経外

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科病棟に勤務する看護師であり偏りがある．したがって，この結果を臨床現場における看護師のタイムマネジメントの思考要素として一般化，標準化することはできない．しかしながら，本研究が質的研究であり，その主たる目的が一般化にある量的研究とは違い，概念・現象の理解にあることを考えると，一定の貢献ができるものと考える．つまり，タイムマネジメントの内容や方法は状況依存性が高いが，今回の結果を拠りどころとした，より状況特性にあった柔軟なタイムマネジメントの実施に貢献可能であると考える．本調査対象者は当該病棟に 5 年以上の経験を持つ看護師であるという好条件に恵まれ，これまで看護師個人の暗黙知であったことを，ある程度可視化でき，看護領域は異なっても活用可能となる共通要素は存在すると考える．

今後の課題は対象者を増し，内容の精緻化を図ること，新人看護師との相違を明らかにすることである．

Ⅶ．結論

本研究を通して，以下のことが明らかにされた．１．病棟で働く看護師の業務遂行過程におけるタ

イムマネジメントの思考要素は４カテゴリー，13 サブカテゴリーが抽出された．カテゴリーは【患者の経過にとっての優先性】【チーム活動の円滑化】【効果的なケア提供】【業務の効率化】で，この 4 要素がタイムマネジメントにおける思考の枠組みであることが示唆された．

２．サブカテゴリーは《生命維持に必要なこと》《必須の症状管理》《健康回復に必要なこと》《セルフケアへの移行にとって必須なこと》《看護チーム全体

の業務量と看護力》《看護チームメンバー間の協力・指導》《休憩時間の確保》《予備時間の確保》《適確なケア》《安楽の促進》《ケアの調整》《業務の見積もり》《効果的な時間活用》で表された．

３．これらの結果は新人看護師や経験の浅い看護師の指導に貢献できる資料となることが示唆された．

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