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『産業振興ビジョン』とは なぜ、『産業振興ビジョン』の策定が必要なのでしょうか? 『産業』とは、「生活に必要な物的財貨および用役を生産する活動。 生活して いくための仕事。職業。生業。なりわい。(小学館 大辞泉より抜粋)」を指しま す。いうまでもなく、市民が生活していくための基本的な生産活動であり、一人 ひとりが豊かに暮らしていくために産業の振興が求められます。単に金銭的な豊 かさのみでなく、越谷市に住み続けるための手段として、いきがい、ライフスタ イルの反映、コミュニティの持続などのためにも、産業振興は重要なものです。 さらに、産業振興は、個々人の生活の豊かさのみではなく、雇用を促進し、市 政の財源となる税収を増大させ、ひいては都市の経済的自立を促し、都市的サー ビスを供給し、都市環境・生活利便性の向上につながっていきます。 しかしながら、昨今の経済情勢は「100年に一度の経済危機」とまで言われ、 現状の経済不況からの脱却はもとより、将来への成長戦略に向けた計画づくりが 必要となっています。また、地方分権の進む中で、越谷市の魅力を高めるため に、都市の個性・特色を活かした産業振興、近隣諸都市と機能分担できる産業振 興が望まれています。 さらに、これまでの産業振興は、地域の地場産業や中小企業の育成など、事業者 主体の施策を中心に据えてきましたが、これからは「自立都市越谷」を実現してい くためにも、市民も参画した計画づくりが重要となっていると考えられます。例え ば、商業の活性化のためには、単に商店への補助・融資等の施策ばかりではなく、 市民が親しみやすさや誇りを感じられるような商店街の計画づくりが考えられま す。あるいは農業においては、単に生産性を高めるだけの施策ばかりではなく、地 産地消といった市民への食料供給といった観点や、環境面や防災面にも配慮した農 地展開や観光農園など親しみを感じられる農業振興があげられます。 これらの問題を背景とし、本産業振興ビジョンは、今後の社会情勢下で市内産 業のあるべき姿を明確に示し、事業者、産業関連団体、市民そして行政が一体と なって、越谷市の産業を発展させていくための環境づくりを目的に策定するもの です。 注:本産業振興ビジョンは、本市の望ましい産業の将来像を示したものであり、記載されている具体的な施策 例などについては、今後、事業の実現に向けてより詳細な検討が必要と考えられ、現時点での事業実現性 を担保するものではありません。

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Page 1: 『産業振興ビジョン』とは - Koshigaya『産業振興ビジョン』とは なぜ、『産業振興ビジョン』の策定が必要なのでしょうか? 『産業』とは、「生活に必要な物的財貨および用役を生産する活動。

『産業振興ビジョン』とは  なぜ、『産業振興ビジョン』の策定が必要なのでしょうか? 『産業』とは、「生活に必要な物的財貨および用役を生産する活動。 生活していくための仕事。職業。生業。なりわい。(小学館 大辞泉より抜粋)」を指します。いうまでもなく、市民が生活していくための基本的な生産活動であり、一人ひとりが豊かに暮らしていくために産業の振興が求められます。単に金銭的な豊かさのみでなく、越谷市に住み続けるための手段として、いきがい、ライフスタイルの反映、コミュニティの持続などのためにも、産業振興は重要なものです。 さらに、産業振興は、個々人の生活の豊かさのみではなく、雇用を促進し、市政の財源となる税収を増大させ、ひいては都市の経済的自立を促し、都市的サービスを供給し、都市環境・生活利便性の向上につながっていきます。 しかしながら、昨今の経済情勢は「100年に一度の経済危機」とまで言われ、現状の経済不況からの脱却はもとより、将来への成長戦略に向けた計画づくりが必要となっています。また、地方分権の進む中で、越谷市の魅力を高めるために、都市の個性・特色を活かした産業振興、近隣諸都市と機能分担できる産業振興が望まれています。 さらに、これまでの産業振興は、地域の地場産業や中小企業の育成など、事業者主体の施策を中心に据えてきましたが、これからは「自立都市越谷」を実現していくためにも、市民も参画した計画づくりが重要となっていると考えられます。例えば、商業の活性化のためには、単に商店への補助・融資等の施策ばかりではなく、市民が親しみやすさや誇りを感じられるような商店街の計画づくりが考えられます。あるいは農業においては、単に生産性を高めるだけの施策ばかりではなく、地産地消といった市民への食料供給といった観点や、環境面や防災面にも配慮した農地展開や観光農園など親しみを感じられる農業振興があげられます。

 これらの問題を背景とし、本産業振興ビジョンは、今後の社会情勢下で市内産業のあるべき姿を明確に示し、事業者、産業関連団体、市民そして行政が一体となって、越谷市の産業を発展させていくための環境づくりを目的に策定するものです。

注:本産業振興ビジョンは、本市の望ましい産業の将来像を示したものであり、記載されている具体的な施策例などについては、今後、事業の実現に向けてより詳細な検討が必要と考えられ、現時点での事業実現性を担保するものではありません。

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本書の構成

第一部 産業の現状と課題第1章 これまでの産業の変遷と課題(1) 農村・宿場町の発展(2) 人口の増加にともなう商工業の発展(3) インフラの整備とそれに対する産業の変化(4) 産業の共通課題

第2章 産業を取り巻く環境の変化(1) 経済のグローバル化と産業への期待 (2) 環境に対する意識の高まりと産業への期待(3) 広域的まちづくりと産業への期待

第3章 産業振興の意義(1) 生業としての産業振興(2) 都市機能としての産業振興(3) 都市の個性としての産業振興(4) 市民参画型の産業振興(5) 自立都市形成のための産業振興

第二部 産業振興の基本方針(1) 基本方針(2) 各産業の目標

第三部 各産業の課題と振興施策の方向性第1章 商業1.現状2.課題3.ビジョンの実現に向けて

1.魅力ある個店・商店街の展開・創出の支援

2.生活利便性を支える地域商業の育成

4.将来像実現に向けた施策例

目 次

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本書の構成

第一部 産業の現状と課題第1章 これまでの産業の変遷と課題(1) 農村・宿場町の発展(2) 人口の増加にともなう商工業の発展(3) インフラの整備とそれに対する産業の変化(4) 産業の共通課題

第2章 産業を取り巻く環境の変化(1) 経済のグローバル化と産業への期待 (2) 環境に対する意識の高まりと産業への期待(3) 広域的まちづくりと産業への期待

第3章 産業振興の意義(1) 生業としての産業振興(2) 都市機能としての産業振興(3) 都市の個性としての産業振興(4) 市民参画型の産業振興(5) 自立都市形成のための産業振興

第二部 産業振興の基本方針(1) 基本方針(2) 各産業の目標

第三部 各産業の課題と振興施策の方向性第1章 商業1.現状2.課題3.ビジョンの実現に向けて

1.魅力ある個店・商店街の展開・創出の支援

2.生活利便性を支える地域商業の育成

4.将来像実現に向けた施策例

目 次

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第2章 工業1.現状2.課題3.ビジョンの実現に向けて

1.新たな工業用地の形成

2.越谷発新ものづくり産業の育成

4.将来像実現に向けた施策例

第3章 農業1.現状2.課題3.ビジョンの実現に向けて

1.新たな都市農業の展開

2.緑豊かな田園地帯の保全

3.農業を担う経営者の育成

4.市民とともに歩む農業の実現

4.将来像実現に向けた施策例

第4章 観光1.現状2.課題3.ビジョンの実現に向けて

1.時間消費型観光の創出

2.産業を活用した新たな観光の確立

4.将来像実現に向けた施策例

第5章 新産業育成の方向性1.ソフト産業2.コミュニティビジネス3.農商工連携

第四部 ビジョンの推進で期待される雇用効果第1章 雇用の現状第2章 産業振興による雇用の創出

第五部 ビジョンの実現に向けて第1章 各主体の役割第2章 推進体制

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第2章 工業1.現状2.課題3.ビジョンの実現に向けて

1.新たな工業用地の形成

2.越谷発新ものづくり産業の育成

4.将来像実現に向けた施策例

第3章 農業1.現状2.課題3.ビジョンの実現に向けて

1.新たな都市農業の展開

2.緑豊かな田園地帯の保全

3.農業を担う経営者の育成

4.市民とともに歩む農業の実現

4.将来像実現に向けた施策例

第4章 観光1.現状2.課題3.ビジョンの実現に向けて

1.時間消費型観光の創出

2.産業を活用した新たな観光の確立

4.将来像実現に向けた施策例

第5章 新産業育成の方向性1.ソフト産業2.コミュニティビジネス3.農商工連携

第四部 ビジョンの推進で期待される雇用効果第1章 雇用の現状第2章 産業振興による雇用の創出

第五部 ビジョンの実現に向けて第1章 各主体の役割第2章 推進体制

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本書の構成<第一部:産業の現状と課題> 都市レベルでの産業の変遷、産業を取り巻く環境の変化について取りまとめました。

<第二部:産業振興の基本方針> 今後の産業振興の基本方針と産業別の目標について取りまとめました。

<第三部:各産業の課題と振興施策の方向性> 第一部及び第二部をふまえて、産業ごとに現状、課題、今後の振興の方向について取りまとめました。第1章から第4章は次のような項目立てとなっています。(第5章は新しい産業について、背景と振興の方向性を取りまとめました。)

<第四部:ビジョン推進で期待される雇用効果> 第三部で示した施策の推進によって期待される雇用効果についてまとめました。

<第五部:ビジョンの実現に向けて> 第五部では、ビジョンの推進に向けた各主体の役割、推進体制をまとめました。

第○章 ○○○1.現状  ◇各産業の主要指標の経年変化や立地状況などをまとめました。2.課題  ◇各産業の主な課題をまとめました。3.ビジョンの実現に向けて  ◇概要と施策の柱  ◇個別施策(施策の内容について1~2頁でまとめました)

(1)対応方針・課題を解決するための方針について簡潔にまとめました。・国や県での対応策をふまえ、本ビジョンでの対応方針を取りまとめました。

(2)めざすべき将来像・施策がめざしている将来像です。将来像は、市内の若手事業者とのワークショップにより取りまとめたものです。

(3)施策の方向性・将来像実現に向けた施策の個別内容を取りまとめました。・施策は、その事業実施のために必要な主体間の合意形成、各種調整や準備などを鑑み、比較的着手しやすい事業より短期的取組(~3年)、中期的取組(3~7年)、長期的取組(7年~)の3段階にランク分けしました。また、施策間の位置づけには、各施策が並列的に展開する場合や、短期的取組の成果をふまえて中期・長期的取組への段階的に展開していく場合の2種類があります。

4.将来像実現に向けた施策例  ◇ビジョンの実現に向けて展開が期待される施策例を示しました。

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越谷市産業振興ビジョン(素案)

第一部 産業の現状と課題

 これまでの産業振興施策は、人口の増加や経済の成長といった日本の社会情勢に基づき、そ

の時々において地域が抱えている産業の課題解決を中心に行われてきました。しかし、高度成

長期を経て、人口減少・少子高齢化や経済の低成長化など、これまでのように市場が拡大し続

ける時代は終焉を迎え、地域産業の拡大を前提とした効率性や経済性重視の産業施策から大き

く転換していくことが求められはじめています。

 本市では、かつては、農業を基軸に、加工業、運送業や伝統工芸、さらには街道沿いの宿、

河川交通の結節点として様々な地場産業が営まれてきました。その後、高度成長期を契機に東

京への企業の一極集中が進んだ結果、本市は住宅地として発展し、昭和33年に市制が施行さ

れた時点では約5万人だった人口は、施行50周年を迎えた平成20年には32万人を数えるほど

にまで増加しました。

 今後も、東京方面への通勤者の住宅供給地としての都市特性は強まるものとも考えられます

が、人口減少・少子高齢化、団塊世代の定年退職や職住近接志向などによる都市内での雇用確

保などの社会的要請や、都市経営を考えていく上での自立都市の形成の観点からも、時代に対

応した産業構造の構築は重要な課題と考えられます。

 第一部では、産業の変遷や近年の産業を取り巻く課題を取りまとめながら、産業振興の意義

について考えていきます。

第1章 これまでの産業の変遷と課題(1) 農村・宿場町の発展 本市の地形は、ほとんどが平坦な土地であり、低湿地のはん濫原を活用した稲作が古く

から営まれてきました。さらに江戸時代になると、幕府によって利根川、荒川の瀬替えと

流域一帯の積極的な治水、開墾が行われ、耕地の拡大と生産力の増大が進みました。そし

て農業の豊かな恵みは、米穀類の集散地*として陸路や河川を活用した運送業の発展を促し

ました。一方で日光街道の宿場町として多くの旅客を受け入れることにより、市街地が形

成され、そこで各種産業が栄えました。

 【明治期の市街地】 越谷市観光協会のホームページには、明治35年当時の越ヶ谷・大沢の商店を図示した資料をみることができます。この図によると、旅人宿、食料品、お菓子、酒、呉服、古着、陶器、眼鏡などの日用品を販売する小売店、和洋の飲食店や焼き芋屋、味噌や豆腐などの製造販売店、医療、理髪店や湯屋などのサービス店などの店舗が軒を連ね、バラエティーに富む業種構成で商店街が形成されており、当時のにぎわいを偲ぶことができます。

*集散地‥‥生産地から産物を集めて、これを消費地へ送り出す場所。

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にぎわいと活力の創出をめざして 越谷市産業振興ビジョン(素案)

第一部 産業の現状と課題

(2) 人口の増加にともなう商工業の発展 市内の産業は、鉄道の開通などの近代化に合わせて発展してきました。かつては日光街

道沿いに発展していた商業は、市内各駅周辺を中心として新たな商店街が形成されまし

た。

 特に昭和40年以降は、多くの人口が流入し、東京近郊のベッドタウンとして大きく発展

しました。この頃になると住宅地の造成にともない、東京をはじめとする他地域から新た

な市場を求めて越谷に出店してくる商業者が増えた結果、住宅地にも商店街が形成される

ようになりました。また、それ以前からあった商店街も、人口の増加による需要の拡大に

よりにぎわいました。

 一方で工業は、昭和30年代前半までは桐箱やひな人形などの伝統工芸を中心としてきま

したが、昭和30年代後半から40年代にかけて、首都圏との近接性や地価の安さなどから、

主に都内から移転する工場が相次ぎ、事業所数は大きく伸びました。国道4号バイパスが

開通してからはその傾向はさらに顕著となり、特に金属や機械関連の業種が増加しまし

た。ところが、工業が発展する一方で住宅地も増え続け、やがて農地や工場周辺も宅地化

が進み、環境問題や住工混在という新たな課題も生じはじめました。

 【主な指標でみた人口と産業】 人口は、昭和30年代後半から40年代にかけて急速に増加しましたが、昭和50年代以降はその速さをやや緩め、平成に入ってからは横這いに近い微増状況が続いています。平成21年(4月1日現在)の総人口は323,886人、世帯数は133,212世帯です。 昭和50年からの就業人口の推移では、第3次産業が一貫して増加傾向にあるのに対し、第1次産業は減少の一途を辿っており、第2次産業も平成7年をピークに徐々に減少しています。また、市外への通勤者約9万人のうち、約6割は東京都への通勤者です。

資料:市情報統計課(注)昭和60年までは住民基本台帳人口。

61年からは総人口(住民基本台帳人口+外国人登録数)

図1-1-1 人口・就業者数の推移

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にぎわいと活力の創出をめざして 越谷市産業振興ビジョン(素案)

第一部 産業の現状と課題

   

資料:平成17年国勢調査

図1-1-2 流出就業人口

 今後も、住宅供給地としての都市特性は引き継がれると思われますが、人口減少・少子高齢化、団塊世代の定年退職や職住近接志向などの時代変化の中で、市内での雇用を確保し、自立都市形成に向けた産業構造を構築し、市民にとって魅力ある居住地としてのまちづくりが求められているとも考えられます。

(3) インフラの整備とそれに対する産業の変化 近年では、鉄道の高架化・複々線化、都市計画道路の整備など、インフラの整備も進

み、交通利便性はさらに高まりました。その一方で、交通利便性の高まりは、首都圏への

買い物客の流出や、自動車中心の生活が浸透した社会の到来を加速させ、市民の消費行動

なども大きく変化しました。その結果、ロードサイド店*や大型店などの大手企業が、市内

市場に参入し、駅前や住宅地の商店街でのにぎわいの減少や顧客の流出などが生じてきま

した。

*ロードサイド店‥‥幹線道路沿いに立地した車での集客を主とした店舗。

(4) 産業の共通課題 以上、都市の変遷を概観しましたが、歴史的な経緯のなかで、今後の産業を振興してい

く上で、2つの大きな課題がみられます。

「事業者の高齢化と後継者問題」

「産業構造と土地利用の不整合」

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にぎわいと活力の創出をめざして 越谷市産業振興ビジョン(素案)

第一部 産業の現状と課題

 ここでは今後の産業に大きく影響を与えると考えられる事業者の高齢化・後継者不足と

土地利用の2つの課題について取りまとめます。

1) 事業者の高齢化と後継者問題 本市の産業は、昭和30年代から40年代にかけて、急速な人口増加と相まって形成さ

れてきましたが、当時の現役世代が高齢化し、また、その後継者が不足していることか

ら、各事業所において事業の継続が難しくなってきています。

平成21年6月に行った市内事業者アンケートによると、事業者の年齢は60歳以上が各産

業において7割前後を占めています。また、後継者や後継者候補がいない事業者が少な

くないため、今後10年から15年の間に大幅な事業所の減少が予想されます。

 【アンケート調査結果より】・事業者の年齢では、60歳以上が商業や農業では70%を超え、工業でも65%となっています。

図1-1-3 事業者の年齢

・後継者や後継者候補がいない事業者は、商業37%、工業47%、農業53%となっています。

図1-1-4 後継者の有無

・後継者や後継者候補がいない事業所では、今後15年の間に廃業を予定する事業者が、商業51%、工業43%、農業32%となっています。

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にぎわいと活力の創出をめざして 越谷市産業振興ビジョン(素案)

第一部 産業の現状と課題

図1-1-5 事業の継続期間

(後継者や後継者候補がいない事業所のみ)

2) 産業構造と土地利用の不整合 住工混在や農地の宅地化・遊休農地(耕作放棄地)の増加など、土地利用に関する課

題が未解決のまま残されており、このことも各種事業の継続を困難にしている要因とな

っています。

 急激な人口の増加にともない、多くの農地が宅地化されました。また残された農地も

駐車場や資材置き場などの農地以外の用途にも利用されており、残された農地の有効利

用と、食料生産のほか多面的機能を有する農地をいかに保全していくかが大きな課題と

なっています。

 また、工場周辺地域における住宅地開発により、住工混在が問題化しています。工業

においては、市内での工業用地の確保が難しいことから、住工混在の解決を契機に市外

へ工場が流出するケースもみられはじめています。

 このようなことから、人口減少時代を迎えつつある現在、昭和40年代から続いた住宅

地開発も今後は次第に減少していくことが推測されることから、住宅地としての生活環

境の保全を図りつつ、都市の自立を支える産業のための土地活用を総合的に考え、産業

用地として開発すべき土地と農用地として保全すべき土地の仕分けを進め、適正な土地

利用を進めていくことが大きな課題となっています。

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にぎわいと活力の創出をめざして 越谷市産業振興ビジョン(素案)

第一部 産業の現状と課題

第2章 産業を取り巻く環境の変化 第1章では都市の変遷と共通課題を整理しましたが、本章では、近年の産業を取り巻く環境

変化から、産業振興の方向性を考えていきます。

(1) 経済のグローバル化と産業への期待 近年、我が国の社会経済の趨勢は、高度成長から低成長・人口減少へと転換し、政治面

でも新政権が誕生するなど、大きな転換期に差しかかっています。

 特に、我が国の経済は、都市レベルに至るまで世界経済と連動しており、地域経済は世

界的な景気変動に大きく左右されています。世界経済との結びつきは今後さらに強まって

行くことが予想される一方で、不況の影響が事業経営や雇用者の生活に強い影響を与えて

いくことが見込まれます。このような状況下においては、地域経済の基盤を一層強化して

いくのと同時にグローバル化に対応していくことが、自立都市として市民生活や地域雇用

を支える産業づくりには不可欠な要素となっていくものと考えられます。

(2) 環境に対する意識の高まりと産業への期待 地球温暖化などの国際的な環境問題意識の高まりを受け、今後の産業界は、経済的な発

展とともに、生活環境さらには地球環境の保全に向けて、温室効果ガスの排出抑制の推

進、新エネルギー利用の促進、循環型社会*の形成に向けた廃棄物・リサイクル対策などを

意識的に推進していくことが社会的にも求められています。

 また、市内には多くの水田が残されており、これらの農地の多面的機能**は、良好な住

環境をもたらしてきました。今後とも、このような良好な住環境を持続し、市民に安全・

安心な農産物を提供していくために、農業や農地の多面的機能の保全が求められています。

* 循環型社会‥‥天然資源の消費が抑制され、環境への負荷ができる限り低減された社会。大量生産・大

量消費・大量廃棄型の社会に代わるものとして提示された概念。

**農地の多面的機能‥‥国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全、良好な景観の形成など農業生産活動

が行われることにより生ずる、農産物の供給の機能以外の多面にわたる機能。

(3) 広域的まちづくりと産業への期待 本市は、県東部地域の中心となる業務核都市として位置づけられており、広域的な役割

として、商業・業務・教育・文化等の多様な機能を集積していくことが求められていま

す。特に、生活創造拠点、健康福祉拠点、親水文化拠点などとしての機能の拡充をめざ

し、これらの実現にあたっては、越谷駅・南越谷駅、レイクタウン、県立大学の各ゾーン

における拠点機能の整備推進が求められています。

 このように、今後も良好な住環境の維持・向上を重視しつつ、多様な機能の集積を図っ

ていく中で、産業振興という観点からは、生活の質を高めていくような産業、健康や福祉

をキーワードとした産業、都市の個性とマッチした産業の育成が重要であり、域外への情

報発信ならびに市民の誇りとなる地域産業のブランド化を促進していくことも重要となっ

ています。

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にぎわいと活力の創出をめざして 越谷市産業振興ビジョン(素案)

第一部 産業の現状と課題

第3章 産業振興の意義 農村から住宅都市へと変遷してきた過程を経て、さらに今後、事業者の高齢化や市外流出意

向により、市内の多くの事業者が減少することが予想されます。商業においても、大手の市外

資本の参入が相次ぎ、商業機能の企業化傾向が強まるなど、市民生活とともに歩み地域の活気

づくりに貢献してきた商店街の役割が縮小しています。

 そのような状況の中で、今後の産業振興においては、市民生活、環境、まちづくりなどの新

たな視点での役割が期待されています。

 ここでは、産業を振興していく意義について取りまとめます。

(1) 生業としての産業振興 高度成長とともに、その地域に生まれ育った人が地域で生業をもつといったライフスタ

イルを実現することが難しい時代となってきましたが、近年、ライフスタイルや価値観の

大きな変化により、若者の働き方に対する考え方は変わりつつあり、仕事と生活の両立、

職住近接、手に職志向や知的産業の振興など、次第に地域志向が強まりつつあります。こ

れまでの本市を支えてきた商業・工業・農業に加え、在宅就業など、大規模な空間を必要

としないソフト産業などが、都市部を中心に展開しはじめています。

 このような新しいライフスタイルに対応した産業の育成を図り、市民が住むだけではな

く、生涯を通じて地域に就業の場をもつことができるような都市としての産業の育成が求

められています。

(2) 都市機能としての産業振興 商業は都市生活の利便性を確保し、工業は市内に就業の場を提供し生産活動を行い、域

外の富を市内に移入する役割を担っています。また、農業は市民に安全・安心な食材や緑

地空間を提供するとともに、特に水田は水害から市民を守るなど市民生活に欠かせない機

能を担っています。

 このようなそれぞれの機能は、各産業が連携し合い、継続していくことにより発揮され

ることから、快適な生活空間を確保していくためにも、地域産業の振興が欠かせません。

 一方、都市機能を充実させるためのインフラ等の都市基盤整備には、多くの費用がかか

ります。しかし、これにより産業が活性化することで、各事業者の経営拡大や市民の所得

の増加をもたらします。また、産業の活性化は税収の拡大を促し、ひいては福祉の充実な

ど市民生活における利便性を向上させ、「住みやすい」、「誇りをもてる」など居住地と

しての魅力を増大させ、またその意識が、さらに都市の活力に結びつくという相乗効果を

もたらします。

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にぎわいと活力の創出をめざして 越谷市産業振興ビジョン(素案)

第一部 産業の現状と課題

10

 【税収構造の比較分析】 平成19年度の財政構造(歳入面)をみると、市税(全体の62%)をはじめとする自主財源が全体の74%を占め、地方交付税などの依存財源は26%という構成比となっています。

図1-3-1 平成19年度の財政構造(歳入)

 歳入の6割以上を占める市税をさらに詳しくみると、平成15年度から平成19年度までの推移では、市の人口が緩やかに増加していることや平成19年度には税源委譲もあり、市税は増減しつつも平成15年度の1割増しとなっています。また、歳入に占める構成比も高くなり10ポイント近く大きくなっています。今後、財政面では、さらに自主財源への依存が大きくなる一方で、市への人口流入は、やがて減少へと転じていくため、若い世代の住民が住み続けたり、新たな住民が居住地として越谷を選ぶような魅力あるまちづくりや就業の場づくりが必要とされます。

表1-3-1 市税収入の推移

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にぎわいと活力の創出をめざして 越谷市産業振興ビジョン(素案)

第一部 産業の現状と課題

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(3) 都市の個性としての産業振興 農業や工業、伝統工芸などの特産品は、地域の名を「ブランド」として情報発信し、地

域の個性やアイデンティティ*形成となり得ます。

 また、広域的な圏域のなかで、都市としてどのような産業を核として受け持つかによっ

て、まちの顔は大きく変わっていきます。このようなことから、都市の個性を形成し、他

地域との差異化を図っていくためにも、産業は大きな役割を果たしています。

*アイデンティティ‥‥本書では、その地域らしさ、その地域が地域たる所以の意。

(4) 市民参画型の産業振興 これまでの経済成長型の社会から、社会構造の変化にともない、高齢者の雇用、あるい

は福祉などに社会的な重点が移行し、また地域コミュニティが重視されるなど、今後は、

市民中心型の社会になっていきます。産業振興においても、これまでの地域の地場産業や

中小企業の育成など、事業者主体の施策が中心の産業振興施策ばかりでなく、例えば商業

の活性化に向けて、市民の消費行動を視野に入れたり、市民に親しまれるような商業振興

や、あるいは農業においては、生産性を高める施策だけでなく、地産地消の推進や、環境

面や防災面にも配慮した農地活用、観光農園や体験農園など親しみを感じられるような農

業振興など、市民参画型の産業振興が求められています。

 このような市民参画型の産業振興は、計画づくりの段階から市民が参加することで、同

じ意識を共有し、意思疎通を図りやすくし、地域活力を強固にする役割を担います。

(5) 自立都市形成のための産業振興 このように、産業振興は、市民一人ひとりの生活の充実、都市機能の強化、都市の個性

の創出、市民参画による意識の高まりなど、都市の活力を活性化させ、本市がめざす自立

都市形成を果たします。

 さらに、商業・工業・農業がそれぞれ連携し合い、多面的な産業育成を果たしていく中

で、より強固な都市としての産業基盤を形成していくものと考えられます。

 以上5つの観点から、産業振興の意義を示しましたが、これらを総括すると、今後の産業振

興は、市民の将来の生活やまちづくりの方向性のなかで、産業のあり方をとらえ、生活像や都

市像の達成に向けたものとして産業振興を考えていくことが必要となっています。

 産業振興は、都市活力を活性化し、市民一人ひとりが「越谷に住んでいて良かった」と実感

できるまちづくりの基本だと考えます。

 本ビジョンの策定に際して、市内の若手事業者を対象としたワークショップを実施しなが

ら、産業振興を方向づける生活やまちの将来像の検討を行いました。

 以下に続く第二部・第三部では、これらの議論を通じて得られた将来像をもとに、現状での

課題をふまえつつ、理想とする像の実現に向けた振興策について提示していきます。

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第二部 産業振興の基本方針

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にぎわいと活力の創出をめざして 越谷市産業振興ビジョン(素案)

第二部 産業振興の基本方針

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(1) 基本方針 本市は、首都圏の一翼を担う、人口減少・少子高齢化に対応した住宅都市として、今後も

自然にあふれる豊かな住環境の提供が期待されています。また、人口減少による都市間競争

の激化が予想されるなか、生活利便性や住環境を維持・向上させていく必要があります。

 しかしながら、都市の自立性を支える市内の産業は、サービス産業など一部の業種を除

き、経営者の高齢化が進む一方で後継者も不足していることなどから、今後急速に多くの

事業者が廃業、あるいは規模を縮小していくことが懸念されます。そのため、都市の自立

性を支える産業を持続し展開していくことが危急の課題となっています。さらに、経済の

グローバル化が進み、世界同時不況などが地域経済を大きく揺るがしていることから、地

域として事業者や雇用者のセーフティネット*を形成していくことも新たな課題として生じ

てきました。

 このように、今後においては、まちのにぎわいを創出しながら、市民の活力、都市の活

力を向上させる産業振興を展開する必要があります。地域資源や市場を見直し、それらを

活かした産業の振興や育成に取り組むことにより、自立した都市の経済的な基盤として足

腰の強い産業を確立していくことが重要となっています。

(2) 各産業の目標 上記の基本方針を受けて、各産業では、次のような目標に向けて方策を推進していきま

す。

* セーフティネット‥‥もともと、サーカスなどで落下防止のために張る網を指す語。社会的・個人的な

危機に対応するための社会的な制度や対策。

基本方針

にぎわいと活力の創出をめざして

◇にぎわいあるまちづくりと生活利便性を支える商業の確立◇環境と調和した活力みなぎる工業の確立◇豊かな環境と食を支える農業の確立◇新たなにぎわいを生み出す観光の確立