1
2013.9.27 4 筆者 小原康裕 ホテルジャーナリスト。 慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年 Munich Re入社。85年築地原健㈱代表 取締役。2001年投資顧問会社原健設立、 代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテル レストランコンサルタント協会理事。 ※現在、著者のホームページで「世界のリ ーディングホテル」を連載中。多くの美し い写真と興味深いコメントで、世界中の ホテルとそれら関連都市を紹介。 www.jhrca.com/worldhotel ザ・マジェスティックホテル クアラルンプール The Majestic Hotel Kuala Lumpur 世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナー ではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。 これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地 のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そ のほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも 多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分 の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮っ てきた写真を掲載する。 ※本連載は毎月2・4週号掲載 世界のリーディングホテル VOL56 マジェスティック・ウィングから俯瞰する「The Majestic Hotel Kuala Lumpur」の全景。1932年に建設された コロニアル風の伝統あるホテルは、歴史に残る政治的会議や各国要人を迎える迎賓館として使われてきた 80年前の創業当時の名称「Hotel Majestic」をエントランスに掲げるマ ジェスティック・ウィングの正面ファサード 新設された15階建てのタワー・ウィングの正面ファサード。新旧双方の エントランスにはコロニアル調の制服を着たベルキャプテンが常駐する メインエントランスにはドアマンが常に立ちゲストを迎え入れてくれる The Colonial Café」の フレンドリーなスタッフたち ライブのバンド演奏が入るメインダイニング「The Colonial Café大きな吹き抜けの天井に据えられた 豪壮なシャンデリアは見応えがある 2013.9.27 5 1932年に建てられたクアラルンプールの名門ホ テル、ホテル マジェスティックが80年の時を経て ザ・マジェスティック ホテル クアラルンプールと して復活し再オープンした。コロニアル風の伝統 あるホテルはクアラルンプールのランドマークと して君臨し、歴史に残る政治的会議や各国要人を 迎える迎賓館として使われてきた。第2次大戦中は 日本軍の司令部として接収され、戦後は建て替え のため取り壊しの危機などに直面したが、83年に マレーシア政府がホテルを強制収容し、遺跡保存 法のもと国家遺産として登録し保存の道を開いた。 同年末にホテルはその華麗な歴史を閉じたが、翌 84年から98年の間、建物は国立美術館として第2 の道を歩んで来た。 2012年、伝説のホテルはマレーシアのYTLホテ ルズによって蘇り、同年12月に再びホテルのドア が開かれた。YTLホテルズを傘下に持つYTLコー ポレーションはマレーシア最大級のコングロマリ ットで、創業者のDr. Yeoh Tiong Lay(楊忠禮)の 頭文字を取って名付けられた。東南アジア企業と して初の東証上場を果たした大財閥で、マレーシ アではいたる所でYTLの広告看板が目に付く。ま た、グループ傘下のYTLホテルズはクアラルンプ ールのリッツ・カールトンやJWマリオットを保有す るほか、多くの高級ホテルを運営している。 ザ・マジェスティックは創業当時の5階建てのマ ジェスティック・ウィングが完全に修復され、さらに 隣接して15階建てのタワー・ウィングも新設され た。マジェスティック・ウィングは国の文化遺産と して登録された世界でも珍しいヘリテージホテル で、47室のすべてがスイートタイプとなっている。 ホテルはタワー棟を含めて全300室のゲストルー ムを擁しているが、このホテルの神髄は修復され たコロニアル棟にあり、是非バトラーサービス付 きのマジェスティック・ウィングの部屋を堪能して 頂きたい。このクラシカルなウィングには優雅な メインダイニング「The Colonial Café」、生演奏が 入る「The Bar」、そしてアフタヌーンティーが人気 の「The Tea Lounge」が有機的に結合し機能して いる。タワー・ウィングにはオールデイダイニング の「Contango」があり、和食はもちろんエスニック 料理を含めて世界各地の料理が楽しめる。そのほ か「The Majestic Spa」にはフィットネスや屋外ス イミングプールを併設し、「The Smoke House」と 呼ばれる建物にはシガールームやカードルームな ど紳士の憩いの場も用意するなど多彩な施設を提 供している。 ザ・マジェスティックはムーア様式の華麗な外観 を持つ旧クアラルンプール駅の向かいに立地し、 隣のマレー鉄道事務局の荘厳な建物や国立モスク などの歴史的建造物と見事な調和を保っている。 市中心部のショッピングセンターやKLセントラル 駅には無料のシャトルバスが運行して利便性が高 い。静かな歴史地区にある伝統のコロニアルホテ ルに滞在し、卓越したホスピタリティーに癒やし と安寧を得るのも大いに価値があると思う。 マジェスティック・ウィングにある「The Governor Suite」のゴージャスなベッドルーム。約55㎡の広さを誇 り、窓からは壮麗な外観を持つ旧クアラルンプール駅を望むコロニアル棟を代表するスイートルームである エレガントな雰囲気が漂うスイートのリビングルーム アールデコ調のバスルーム。猫足の付い たクラシカルなバスタブが印象的だ アフタヌーンティーが人気の「The Tea Lounge」。 バー、ダイニングと有機的に結合した広い空間にある 「The Smoke House」と呼ばれる別棟に向かう回廊。 シガールームやカードルーム等を備えた大人の憩いの場だ スパ棟の前に設けられた屋外プール。正面に見える のがムーア様式の旧クアラルンプール駅だ 新設されたタワー・ウィング側にあるオールデイレス トラン「Contango」

世界のリーディングホテル VOL56 ザ・マジェスティックホテ …ohtapub.co.jp/wlh200/WLH056.pdfThe Majestic Hotel Kuala Lumpur 世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナー

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 世界のリーディングホテル VOL56 ザ・マジェスティックホテ …ohtapub.co.jp/wlh200/WLH056.pdfThe Majestic Hotel Kuala Lumpur 世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナー

― 2013.9.27 ―4

筆者 小原康裕ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健㈱代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。www.jhrca.com/worldhotel

ザ・マジェスティックホテルクアラルンプールThe Majestic HotelKuala Lumpur世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。 ※本連載は毎月2・4週号掲載

世界のリーディングホテル VOL56

マジェスティック・ウィングから俯瞰する「The Majestic Hotel Kuala Lumpur」の全景。1932年に建設されたコロニアル風の伝統あるホテルは、歴史に残る政治的会議や各国要人を迎える迎賓館として使われてきた

80年前の創業当時の名称「Hotel Majestic」をエントランスに掲げるマジェスティック・ウィングの正面ファサード

新設された15階建てのタワー・ウィングの正面ファサード。新旧双方のエントランスにはコロニアル調の制服を着たベルキャプテンが常駐する

メインエントランスにはドアマンが常に立ちゲストを迎え入れてくれる

「The Colonial Café」のフレンドリーなスタッフたち

ライブのバンド演奏が入るメインダイニング「The Colonial Café」

大きな吹き抜けの天井に据えられた豪壮なシャンデリアは見応えがある

― 2013.9.27 ― 5

1932年に建てられたクアラルンプールの名門ホテル、ホテル マジェスティックが80年の時を経てザ・マジェスティック ホテル クアラルンプールとして復活し再オープンした。コロニアル風の伝統あるホテルはクアラルンプールのランドマークとして君臨し、歴史に残る政治的会議や各国要人を迎える迎賓館として使われてきた。第2次大戦中は日本軍の司令部として接収され、戦後は建て替えのため取り壊しの危機などに直面したが、83年にマレーシア政府がホテルを強制収容し、遺跡保存法のもと国家遺産として登録し保存の道を開いた。同年末にホテルはその華麗な歴史を閉じたが、翌84年から98年の間、建物は国立美術館として第2の道を歩んで来た。2012年、伝説のホテルはマレーシアのYTLホテ

ルズによって蘇り、同年12月に再びホテルのドアが開かれた。YTLホテルズを傘下に持つYTLコーポレーションはマレーシア最大級のコングロマリットで、創業者のDr. Yeoh Tiong Lay(楊忠禮)の頭文字を取って名付けられた。東南アジア企業として初の東証上場を果たした大財閥で、マレーシアではいたる所でYTLの広告看板が目に付く。また、グループ傘下のYTLホテルズはクアラルンプールのリッツ・カールトンやJWマリオットを保有するほか、多くの高級ホテルを運営している。ザ・マジェスティックは創業当時の5階建てのマ

ジェスティック・ウィングが完全に修復され、さらに隣接して15階建てのタワー・ウィングも新設された。マジェスティック・ウィングは国の文化遺産として登録された世界でも珍しいヘリテージホテルで、47室のすべてがスイートタイプとなっている。ホテルはタワー棟を含めて全300室のゲストルームを擁しているが、このホテルの神髄は修復されたコロニアル棟にあり、是非バトラーサービス付きのマジェスティック・ウィングの部屋を堪能して頂きたい。このクラシカルなウィングには優雅なメインダイニング「The Colonial Café」、生演奏が入る「The Bar」、そしてアフタヌーンティーが人気の「The Tea Lounge」が有機的に結合し機能している。タワー・ウィングにはオールデイダイニングの「Contango」があり、和食はもちろんエスニック料理を含めて世界各地の料理が楽しめる。そのほか「The Majestic Spa」にはフィットネスや屋外スイミングプールを併設し、「The Smoke House」と呼ばれる建物にはシガールームやカードルームなど紳士の憩いの場も用意するなど多彩な施設を提供している。ザ・マジェスティックはムーア様式の華麗な外観

を持つ旧クアラルンプール駅の向かいに立地し、隣のマレー鉄道事務局の荘厳な建物や国立モスクなどの歴史的建造物と見事な調和を保っている。市中心部のショッピングセンターやKLセントラル駅には無料のシャトルバスが運行して利便性が高い。静かな歴史地区にある伝統のコロニアルホテルに滞在し、卓越したホスピタリティーに癒やしと安寧を得るのも大いに価値があると思う。

マジェスティック・ウィングにある「The Governor Suite」のゴージャスなベッドルーム。約55㎡の広さを誇り、窓からは壮麗な外観を持つ旧クアラルンプール駅を望むコロニアル棟を代表するスイートルームである

エレガントな雰囲気が漂うスイートのリビングルーム

アールデコ調のバスルーム。猫足の付いたクラシカルなバスタブが印象的だ

アフタヌーンティーが人気の「The Tea Lounge」。バー、ダイニングと有機的に結合した広い空間にある

「The Smoke House」と呼ばれる別棟に向かう回廊。シガールームやカードルーム等を備えた大人の憩いの場だ

スパ棟の前に設けられた屋外プール。正面に見えるのがムーア様式の旧クアラルンプール駅だ

新設されたタワー・ウィング側にあるオールデイレストラン「Contango」