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世界分散エネルギー資源ビジネス総覧 エグゼクティブサマリー 2 Copyright © 2016 Nikkei BP, Inc. All rights reserved DER 活用と分散モデルに向かう電力システム 大手電力会社が大規模発電所を建設・運用するこれまでの大規模集中型の電力システムが、需要家 サイドに導入されたさまざまな DERDistributed Energy Resources:分散エネルギー資源)を活用 した分散モデルに移行しようとしている。分散モデルに向かう要因をキーワードで示すと、「再エネ大 量導入」、「グリッドパリティ・蓄電池パリティ」、「スマートグリッド」の 3 つが挙げられる(1)。 各国政府が地球温暖化対策と化石燃料に頼った火力発電の代替技術普及のために、 FIT (固定価格買 取制度)や RPSRenewable Portfolio Standard:再生可能エネルギーポートフォリオ基準)などの 再エネ支援策を推進した結果、電力消費量に占める再エネの割合がドイツや米国の一部で 2030%に 増加した。このため、朝と晩に急峻な需要ピークが立つダックカーブ現象が顕著になって、系統網が 不安定化する事態を招いた。再エネ賦課金の高騰に対する不満も高まり、ドイツ、オーストラリア、 米国で FIT の縮小、廃止が始まった。 一方で太陽光発電や蓄電池のコストが下がってきたため、太陽光発電システムを使って電力を自家 消費する方が経済的メリットが出る「グリッドパリティ」や、蓄電池を購入してもトータルコストが 電力会社からの買電を下回る「蓄電池パリティ」が一部の国・地域で現実のものとなってきた。 加えて、米国を皮切りに 1980 年代からスタートしたスマートグリッドプロジェクトが全世界に広が た。その多くは終了し、成果をいかに実ビジネスに移行するかという段階を迎えている。実証の過程 で、「需要家サイドの DER を活用して自家消費する複数のマイクログリッドが配電系統内に存在し、送 配電網も含めた大きな系統網と連携しながら、全体のエネルギーコストを最小化する」という理想形 が示されたことがその後の実ビジネスに大きな影響を与えた。 電力業界の各プレーヤーはこの理想形に向かってビジネスモデルを構築し始めている。電力会社は、 DER をアグリゲートする新ビジネスに挑戦し、システムベンダーはそうした DER を統合管理するため IoT プラットフォームでデファクトスタンダードを取ろうと動き始めた。 DER 導入の最小単位である需要家も分散モデルの中では重要な位置を占める。自家発電設備を持つ 需要家は「プロシューマー」(生産需要家)と呼ばれてきたが、電力会社を介さない P2P (ピア・ツー・ ピア)型の取引システムを開発する動きもあり、真の意味でプロシューマーとなる可能性が出てきた。 1 DER 活用・分散モデル化の要因 (作成:日経 BP クリーンテック研究所) キーワード 内容・現象 影響・対策 再エネ大量導 ・各国政府が FIT(固定価格買取制度)、RPS(再生可能 エネルギーポートフォリオ基準)などの再エネを支援策を推進 ・ドイツや米国の一部で再エネの占める割合が 2030%に ・朝と晩に急峻な需要ピークが立つダックカーブ現 象が顕著になり系統網が不安定化 ・再エネが大量普及した国・地域でFIT が縮小へ グリッドパリティ・ 蓄電池パリティ ・住宅向け太陽光発電システムのシステム・導入コストが下がり、 発電コストの平均値である LCOE(均等化発電原価)も低下 ・家庭向けリチウムイオン蓄電池システムの価格は 1kWh 当たり PCS 込みの価格で平均 10 万円程度に ・太陽光発電システムを使って自家発電をした方 が経済的メリットが出る「グリッドパリティ」、蓄電池 を購入してもメリットが出る「蓄電池パリティ」がオ ーストラリア、ニュージーランド、米国などで実現 スマートグリッド ICT を活用して米国の脆弱な送配電網を低コストかつ安全に 運用しようとする実証がスタート ・需要家にスマートメーターを導入して、TOU(時間帯別料 金)や DR(デマンドレスポンス)の実施で需要家サイドのメリッ トと共に、系統網の安定化にも役立てる実証がスタート ・電力システムの分散モデルの理想形が提示さ れ、その後のビジネスの基盤を作った ・需要家が「プロシューマー」として電力取引に積 極的に参加する考え方が普及

DER 活用と分散モデルに向かう電力システム - …cleantech.nikkeibp.co.jp/report/der201611/pdf/executive...TPOモデルは、需要家に対して初期投資のハードルをなくす手法であり、米国市場で住宅向け太陽

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DER活用と分散モデルに向かう電力システム

大手電力会社が大規模発電所を建設・運用するこれまでの大規模集中型の電力システムが、需要家

サイドに導入されたさまざまな DER(Distributed Energy Resources:分散エネルギー資源)を活用

した分散モデルに移行しようとしている。分散モデルに向かう要因をキーワードで示すと、「再エネ大

量導入」、「グリッドパリティ・蓄電池パリティ」、「スマートグリッド」の 3つが挙げられる(表 1)。

各国政府が地球温暖化対策と化石燃料に頼った火力発電の代替技術普及のために、FIT(固定価格買

取制度)や RPS(Renewable Portfolio Standard:再生可能エネルギーポートフォリオ基準)などの

再エネ支援策を推進した結果、電力消費量に占める再エネの割合がドイツや米国の一部で 20~30%に

増加した。このため、朝と晩に急峻な需要ピークが立つダックカーブ現象が顕著になって、系統網が

不安定化する事態を招いた。再エネ賦課金の高騰に対する不満も高まり、ドイツ、オーストラリア、

米国で FITの縮小、廃止が始まった。

一方で太陽光発電や蓄電池のコストが下がってきたため、太陽光発電システムを使って電力を自家

消費する方が経済的メリットが出る「グリッドパリティ」や、蓄電池を購入してもトータルコストが

電力会社からの買電を下回る「蓄電池パリティ」が一部の国・地域で現実のものとなってきた。

加えて、米国を皮切りに 1980年代からスタートしたスマートグリッドプロジェクトが全世界に広が

た。その多くは終了し、成果をいかに実ビジネスに移行するかという段階を迎えている。実証の過程

で、「需要家サイドの DERを活用して自家消費する複数のマイクログリッドが配電系統内に存在し、送

配電網も含めた大きな系統網と連携しながら、全体のエネルギーコストを最小化する」という理想形

が示されたことがその後の実ビジネスに大きな影響を与えた。

電力業界の各プレーヤーはこの理想形に向かってビジネスモデルを構築し始めている。電力会社は、

DER をアグリゲートする新ビジネスに挑戦し、システムベンダーはそうした DER を統合管理するため

の IoTプラットフォームでデファクトスタンダードを取ろうと動き始めた。

DER 導入の最小単位である需要家も分散モデルの中では重要な位置を占める。自家発電設備を持つ

需要家は「プロシューマー」(生産需要家)と呼ばれてきたが、電力会社を介さない P2P(ピア・ツー・

ピア)型の取引システムを開発する動きもあり、真の意味でプロシューマーとなる可能性が出てきた。

表 1 DER活用・分散モデル化の要因 (作成:日経 BPクリーンテック研究所)

キーワード 内容・現象 影響・対策

再エネ大量導

・各国政府が FIT(固定価格買取制度)、RPS(再生可能

エネルギーポートフォリオ基準)などの再エネを支援策を推進

・ドイツや米国の一部で再エネの占める割合が 20~30%に

・朝と晩に急峻な需要ピークが立つダックカーブ現

象が顕著になり系統網が不安定化

・再エネが大量普及した国・地域でFITが縮小へ

グリッドパリティ・

蓄電池パリティ

・住宅向け太陽光発電システムのシステム・導入コストが下がり、

発電コストの平均値である LCOE(均等化発電原価)も低下

・家庭向けリチウムイオン蓄電池システムの価格は 1kWh当たり

PCS込みの価格で平均10万円程度に

・太陽光発電システムを使って自家発電をした方

が経済的メリットが出る「グリッドパリティ」、蓄電池

を購入してもメリットが出る「蓄電池パリティ」がオ

ーストラリア、ニュージーランド、米国などで実現

スマートグリッド ・ICT を活用して米国の脆弱な送配電網を低コストかつ安全に

運用しようとする実証がスタート

・需要家にスマートメーターを導入して、TOU(時間帯別料

金)やDR(デマンドレスポンス)の実施で需要家サイドのメリッ

トと共に、系統網の安定化にも役立てる実証がスタート

・電力システムの分散モデルの理想形が提示さ

れ、その後のビジネスの基盤を作った

・需要家が「プロシューマー」として電力取引に積

極的に参加する考え方が普及

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ビジネスモデル分析

DERを活用する分散モデル時代におけるビジネスモデルは、「TPO(第 3者保有)モデル」、「太陽光・

蓄電池ハイブリッドシステム」、「VPP(仮想発電所)」「DR(デマンドレスポンス)」、「EV(電気自動車)」、

「シェアリングモデル」、「再エネ調達・販売」、「コネクテッドホーム・スマートハウス」、「マイクロ

グリッド」、「スマートグリッド」の 10種に分類できる(表 2)。

これらはいずれも関連し合い、包含関係にあるが、新しい分散モデル時代で主導権を握ろうとする

電力会社やシステムベンダー、サービスプロバイダーにとって重要なテーマである。

TPOモデルは、需要家に対して初期投資のハードルをなくす手法であり、米国市場で住宅向け太陽

光発電システムが普及する大きな原動力となった。太陽光・蓄電池ハイブリッドシステムは、FITの

縮小や電力小売価格の高騰、蓄電池コストの低下のトレンドの中で登場した自家消費モデルであり、

充放電の最適管理によって、需要家の経済メリットを最大化できるようになった。

VPPや DRは、需要家に設置された自家発電設備の余剰や負荷抑制分をアグリゲートするビジネスモ

デルであり、ICTの進歩によって普及してきた。EVは需要家に導入されつつある大型 DERであり、搭

載されている蓄電池を利用するビジネスモデルが検討されている。

メガソーラーや大型蓄電池を需要家がシェアリングして使うビジネスモデルは、設備の有効利用の

面から期待されている。再エネ比率の高い電力や非常時の電力供給を保証するマイクログリッド、コ

ネクテッドホーム・スマートハウスへのニーズも高い。

表 2 「分散エネルギー資源ビジネス」のビジネスモデル一覧 (作成:日経 BPクリーンテック研究所)

ビジネスモデル サービスの特徴

TPO(第3者保有)モデル 電力の需要家自身ではなく第3者が需要家の施設内にエネルギー関連システムを設置して保

有。米国の住宅の屋根上向け太陽光発電システムを中心に普及

太陽光・蓄電池ハイブリッドシステ

住宅や事業所など低圧部門の需要家の屋根に設置した太陽光発電システムと共に、蓄電池を

設置して充放電を最適管理することによって、需要家の経済メリットを最大化

VPP(仮想発電所) 電力の需要家が所有し送配電網に接続されている分散電源をネットワークで結んでアグリゲートし

て、仮想的な発電所に見立てて、系統運用者や卸電力市場、電力会社に販売

DR(デマンドレスポンス) 需要家の電力削減量(ネガワット)を電力会社がピークシフトに活用したり、卸電力市場で取引

して、対価を得る

EV(電気自動車) EV所有の需要家向けにスマート充電器を提供、充電時間の遅延によるDRや搭載蓄電池の余

剰分を電力網に逆潮流する V2G(Vehicle to Grid)などのサービスを提供

シェアリングモデル 住宅や事業所などの需要家が、自らの施設とは離れたところにある太陽光発電システムや大型蓄

電池をシェアして使う

再エネ調達・販売 電力小売事業者が販売する電力の電源構成として、再生可能エネルギーを使っていることをアピ

ールすることにより、需要家に対して環境価値を提供

コネクテッドホーム・スマートハウス 家庭内の各設備をインターネットで結んで、エネルギー管理だけでなく住環境改善、セキュリティ、ホ

ームオートメーションなどさまざまな生活支援サービスを提供

マイクログリッド 電力会社が保有する送配電網から切り離された離島やオフグリッド地域で常時電力供給、または

系統内で非常時のみに送電網から遮断(アイランディング)して自家消費

スマートグリッド 系統網のコストを最小化するために、ICTや IoTを使ってスマート化し、需要家サイドのDER(分

散エネルギー資源)を有効活用

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重要企業戦略分析

DER活用のビジネスには、電力会社に加えて、太陽光発電システムベンダー、PCS(パワーコンディ

ショナー)メーカー、需要家サイドの DER を集約するアグリゲーター、ICT システムや IoT プラット

フォームを提供するシステムベンダーなどさまざまな分野から参入が相次いでいる(表 3)。

このうち特に活発な動きを示しているのが太陽光発電システムベンダーである。各ベンダーは TPO

モデル、太陽光・蓄電池ハイブリッドシステム、VPP、シェアリングモデルなどのビジネスモデルを展

開している。典型が TPOモデルで成長した米 SolarCityである。EVや蓄電池を製造し住宅向けに安価

なリチウムイオン蓄電池を発売して話題となった Tesla Motorsが買収すると発表した。両社は共同で

「太陽光・蓄電池・EV」のライフスタイルを提案するなど今後とも旋風を巻き起こしそうだ。

欧米・オーストラリア・ニュージーランドの電力会社の動きも注目される。豪 AGLや米 GMPは蓄電

池システムをいち早く発売したほか、米 Con Edisonは蓄電池の VPPの実証、米 PG&Eは EVを DRとし

て扱う実証プロジェクトをスタートさせている。米 Duke Energyは、マイクログリッドをサービスと

して提供するモデル「MaaS(Microgrid as a Service)」を検討している。

電力小売りが自由化した国・地域では再エネ比率の高い電力を販売する企業が相次いでいる。英国

では、新規参入企業が再エネメニューを武器に成長している。小売り自由化が進んでいない米カリフ

ォルニア州などでも、CCA(コミュニティ・チョイス・アグリーメント)によって、需要家が再エネメ

ニューを選べる施策をとっている。

表 3 「分散エネルギー資源ビジネス」の主要事業者動向一覧 (作成:日経 BPクリーンテック研究所)

ビジネスモデル 事業者動向

TPO(第3者保有)モデル 米SolarCityなど米国の住宅向け太陽光発電システムベンダーが自ら所有して顧客の導入ハード

ルを下げる試みからスタート。大手電力も蓄電池やマイクログリッドで実証

太陽光・蓄電池ハイブリッド

システム

豪AGLなど電力会社が発売したほか、太陽光発電システムメーカーと PCSメーカーが自らの強み

を生かして蓄電池システムを組み合わせて製品化

VPP(仮想発電所) 米Stemや独NEXT KRAFTWERKEなど蓄電池や自家発電設備を VPP運用するアグリゲー

ターが登場。米Con Edisonなど大手電力も実証を開始

DR(デマンドレスポンス) 米 PG&Eなど大手電力が老朽火力の稼働抑制などのために展開。米EnerNocや米

ComvergeなどのDRアグリゲーターも容量市場など向けにビジネス拡大

EV(電気自動車) 米PG&E(Pacific Gas and Electric Company)と独BMWがEVをDRに適用する実証

を開始。米 LADWPやスペイン Endesaは V2Gの検討を本格化

シェアリングモデル 米CMEECなど東部の電力会社がバーチャルネットメータリングで太陽光のシェアリングモデル展

開。独MVV Energieや豪Synergyが蓄電池のシェアリングモデルを実証

再エネ調達・販売 英国でGood Energyや Ecotricityが「再エネ 100%」メニューで成長。米国では、CCA(コミュ

ニティ・チョイス・アグリーメント)により米MCEなどが再エネ比率の高い電力を販売

コネクテッドホーム・スマートハウス 米SCEは米 iControl Networksの IoTプラットフォームを使って、エネルギーとセキュリティサービ

スをセット販売。英British Gasも英AlertMeを買収してスマートハウス事業に参入

マイクログリッド 米SDG&Eは停電リスクの高い地域にマイクログリッドを構築する実証を実施。米Duke Energy

は、マイクログリッドをサービスとして提供するモデルを検討

スマートグリッド 欧米、オーストラリア、ニュージーランドの電力会社を中心に実証プロジェクトが終了し、ビジネスモデ

ルを模索中。ドイツの「E-Energy」の実証成果を独MVV Energieが新ビジネスに活用

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分散エネルギービジネスの将来動向

TPO モデルは、前述のように米国市場で住宅向け太陽光発電システムが普及する大きな原動力にな

った。コストが十分下がった住宅向け太陽光発電システムにおいて TPOモデルは今後縮小に向かうが、

蓄電池やマイククログリッドなど新しいシステムを普及させるために適用されて、今後とも有効な手

段であり続けるだろう。

TPOモデルの適用に加えて、FITの縮小や電力小売価格の高騰、蓄電池コストの低下のトレンドの中

で、蓄電池パリティを実現する国や地域は増えていく。米国ではハワイ州やアリゾナ州だけでなく他

州に広がり、ドイツでも 2017年にも蓄電池への補助金なしでも蓄電池パリティが達成される。そうな

ると、太陽光・蓄電池ハイブリッドシステムによる自家消費モデルは今後確実に普及していく。ポイ

ントは高価な蓄電池の価値を最大化することであり、その意味で蓄電池を VPPとして運用するビジネ

スモデルが活発に検討されており、今後普及していく。

多くの DERは VPPの中で管理されていく。ネガワットをアグリゲートする DRや大容量蓄電池を搭載

した EV などを統合管理する手法が登場する。その際、住宅向けに HEMS(家庭用エネルギー管理シス

テム)や IoTが導入され、家庭内のエネルギーを最適管理すると共に、住環境を改善し、セキュリテ

ィやホームオートメーションなどのサービスを総合的に提供するビジネスモデルが登場してくる。さ

らに、スマートグリッドの理想形に向けた動きが活発化し、地球環境保護や QoL(Quality of Life:

生活の質)の改善をもたらす「スマートシティ」の一要素として位置づけられていくだろう。

表 4 「分散エネルギー資源ビジネス」の将来動向一覧 (作成:日経 BPクリーンテック研究所)

ビジネスモデル 事業者動向

TPO(第3者保有)モデル TPOモデルを支えてきたネットメータリング制度の見直しで太陽光発電システムへの TPOモデルの

適用は縮小へ。新規案件として、蓄電池システムやマイクログリッドが浮上

太陽光・蓄電池ハイブリッド

システム

アーリーアダプター(初期採用者)向けから本格普及期に突入。エネルギーコストの最小化、住

環境の最適化をトータルに供給するソリューションを提供へ

VPP(仮想発電所) VPPの対象が家庭のヒートポンプや燃料電池、定置用蓄電池、EV(電気自動車)搭載の蓄電池

などに拡大。アンシラリーサービスなどの適用できる市場も拡大

DR(デマンドレスポンス) 電力自由化や発送電分離の国・地域が広がるにつれてビジネスも拡大。「ファストDR」や「自動

DR」の技術が進歩してアンシラリーサービスなどの広がると共に、DR対象の需要家も拡大

EV(電気自動車) 各国の環境規制の強化から EVは着実に普及し、定置用蓄電池、太陽光発電と共に「3種の神

器」に。DRや V2Gも実ビジネス段階へ

シェアリングモデル 太陽光発電や蓄電池のシェアリングが実ビジネスフェーズで拡大。P2Pの登場などでシェアリング手

法が多様化。家庭のDERも多様化し外部蓄電池を活用した最適化がトレンドに

再エネ調達・販売 再エネ 100%メニューへのニーズを受け、太陽光、風力、バイオマスの 3本柱に加え、中小水力や

地熱などに多様化。FIT(固体価格買取制度)以降のビジネスモデルを模索へ

コネクテッドホーム・スマートハウス 家庭に導入されるDERが多様化し、それらを IoTプラットフォームで結んで監視、制御して最適管

理するビジネスが本格化。エネルギー以外の各種サービスの提供も実ビジネスとして拡大

マイクログリッド オフグリッド地域におけるディーゼル燃料費の削減と災害対応に強いレジリエンス性という 2つの要

素を原動力に世界的に導入進む。アジア・アフリカでも低コストな電力供給手段として普及へ

スマートグリッド 需要家サイドのDERを活用して自家消費する複数のマイクログリッドが配電系統内に存在し、送

配電網も含めた大きな系統網と連携しながら、全体のエネルギーコストを最小化