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31 日立国際電気技報 2019 年度版 No.20 陸上設置用ソフトウェア無線機の開発 技術論文 1 まえがき これまで当社では、多種多様な陸上設置用無線機を開発し 納入してきた。電波法上のスプリアス規格改正に伴い、これ らの無線機換装機材として HF(High Frequency:短波)帯 から UHF(Ultra High Frequency:極長短波)帯のソフ トウェア無線機の多機種同時開発を行い、IPネットワークや 新たな通信方式への対応などの将来拡張性に対する強化も 行った。 2 ソフトウェア無線の原理と定義 2.1 SDR の原理 ソフトウェア無線(Software Defined Radio 以下、 SDR)とは、A/D 変換デバイスや信号処理技術の進歩によ り、従来、アナログ回路で実現されていた機能をデジタル回 路により実現し、無線機の諸機能(周波数、帯域幅、変復調) をソフトウェアのダウンロードでできる無線機または無線シ ステムである。 図1 に示すように、受信機(Rx)の場合、高周波信号を高 速な A/D コンバータ(以下、ADC)でデジタル化し、ソフ トウェアによりデジタル信号処理にて無線方式を実現する。 プログラマブル信号処理 デバイスによるソフトウェア 信号処理 送信機 Tx 受信機 Rx A/D コンバータ 図1 SDR の原理 SDRの研究が盛んになる以前のプロセッサは、無線機能ソ フトウェアのほか、プラットフォームを実行するだけの処理 能力を持たせるものは大変高価であり、産業として成立でき ず、現実的な技術として認識されていなかった。ところが、 1990 年代半ばごろからのパソコンの普及に伴い、プロセッ サの処理能力は飛躍的に向上し、処理能力当たりの価格が下 落していった。近年は、誰もが手軽に使えるようになり、多 くの分野で注目されている。 2.2 SDR の定義 SDRの定義は、ユーザがフィールドにてソフトウェアを交 陸上設置用ソフトウェア無線機 の開発 Development of Software Defined Radio for land equipment 大窪 博 Hiroshi Okubo 桑原 正道 Masamichi Kuwabara 金橋 祐輔 Yusuke Kanahashi 要    旨 電波法上のスプリアス規格改正(2005 年 12 月)に 伴い、旧スプリアス規格の無線機は 2022 年 12 月以降 の使用ができなくなる。そこで当社は、これを契機に長 年にわたり培ってきたソフトウェア無線技術を駆使し、 多様なニーズにこたえるべく、多機種同時開発を行った。 本稿では、ソフトウェア無線機として、デジタルIF (Intermediate Frequency:中間周波数)方式の採用 や、低スプリアス化への取り組み、および無線機構成な どについて報告する。 Due to the update of Japanese radio regulations in December 2005, radio equipments which do not complied with new regulations will be out of service from December of 2022. We developed a variety of radios simultaneously using our Software Defined Radio ( “SDR” ) technology. In this paper, we reported the structure of our SDR functioning on digital Intermediate Frequency ( “IF” )and decreasing spurious emissions.

Development of Software Defined Radio for land …...Software Defined Radio “(SDR”) technology. In this paper, we reported the structure of our SDR functioning on digital Intermediate

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31日立国際電気技報 2019 年度版 No.20

陸上設置用ソフトウェア無線機の開発技術論文

1 まえがきこれまで当社では、多種多様な陸上設置用無線機を開発し

納入してきた。電波法上のスプリアス規格改正に伴い、これらの無線機換装機材として HF(High Frequency:短波)帯から UHF(Ultra High Frequency:極長短波)帯のソフトウェア無線機の多機種同時開発を行い、IP ネットワークや新たな通信方式への対応などの将来拡張性に対する強化も行った。

2 ソフトウェア無線の原理と定義2.1 SDRの原理

ソフトウェア無線(Software Defined Radio 以下、SDR)とは、A/D 変換デバイスや信号処理技術の進歩により、従来、アナログ回路で実現されていた機能をデジタル回路により実現し、無線機の諸機能(周波数、帯域幅、変復調)をソフトウェアのダウンロードでできる無線機または無線システムである。

図1 に示すように、受信機(Rx)の場合、高周波信号を高速な A/D コンバータ(以下、ADC)でデジタル化し、ソフトウェアによりデジタル信号処理にて無線方式を実現する。

プログラマブル信号処理デバイスによるソフトウェア信号処理

DA

DA

送信機Tx

受信機Rx

A/Dコンバータ

図1 SDR の原理

SDR の研究が盛んになる以前のプロセッサは、無線機能ソフトウェアのほか、プラットフォームを実行するだけの処理能力を持たせるものは大変高価であり、産業として成立できず、現実的な技術として認識されていなかった。ところが、1990 年代半ばごろからのパソコンの普及に伴い、プロセッサの処理能力は飛躍的に向上し、処理能力当たりの価格が下落していった。近年は、誰もが手軽に使えるようになり、多くの分野で注目されている。

2.2 SDRの定義SDR の定義は、ユーザがフィールドにてソフトウェアを交

陸上設置用ソフトウェア無線機の開発Development of Software Defined Radio for land equipment

大窪 博 HiroshiOkubo

桑原 正道 MasamichiKuwabara金橋 祐輔 YusukeKanahashi

要    旨

電波法上のスプリアス規格改正(2005 年 12 月)に伴い、旧スプリアス規格の無線機は 2022 年 12 月以降の使用ができなくなる。そこで当社は、これを契機に長年にわたり培ってきたソフトウェア無線技術を駆使し、多様なニーズにこたえるべく、多機種同時開発を行った。本稿では、ソフトウェア無線機として、デジタル IF

(Intermediate Frequency:中間周波数)方式の採用や、低スプリアス化への取り組み、および無線機構成などについて報告する。

Due to the update of Japanese radio regulations in December 2005, radio equipments which do not complied with new regulations will be out of service from December of 2022. We developed a variety of radios simultaneously using our Software Defined Radio (“SDR”) technology. In this paper, we reported the structure of our SDR functioning on digital Intermediate Frequency (“IF”)and decreasing spurious emissions.

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技術論文 陸上設置用ソフトウェア無線機の開発

換することで、機能(無線通信方式)を変更できる無線のことである。この定義のうち“ユーザがフィールドにて……”の部分が重要であり、プログラムを専用ツールを使い、メーカ技術者などが入れ替えることにより機能を変更するDigital Signal Processor(以下、DSP)無線とは大きく異なっている。そして、SDR に求められるソフトウェアの交 換機能は、パソコンへのソフトウェアインストールに似て いる。

3 製品の主要諸元今回開発した無線機の主要諸元を表1 に、装置外観を図2

に示す。開発した無線機は、周波数や送信出力などが違う 7 種類で

ある。無線機の操作パネルは、同一のパネルを採用し、使い勝手の統一化を図った。

UHF車載型無線機UHF据置型無線機 VHF据置型無線機 HF据置型無線機

HF中電力型送信機HF車載型無線機 HF大電力型送信機

図2 装置外観

表1 装置の主要諸元項 目 仕    様無線機

(送信機)タイプ

UHF据置型無線機

UHF車載型無線機

VHF※1

据置型無線機

HF据置型無線機

HF車載型無線機

HF中電力型送信機

HF大電力型送信機

周波数帯(MHz) 225~400 225~400 28~35 1.6~30 1.6~18 1.6~30 2~30/

4~24送信出力(W)

25/30/50/100 20 12/20/25 50 40 100/250/

500/1000 10k/15k

電波型式 A3E/A2A A3E F3E J3E J3E J3E/J2D J3E/J2D占有周波数帯幅 6kHz 6kHz 25kHz 3kHz 3kHz 3kHz 3kHz

外形寸法(幅×高さ×奥行)

(mm)

520×420×560 430×200×460 430×260×

450

100W/250W520×840×490

500W520×1,060×550

1,000W520×1,360×550

10kW1,200×1,840×800

15kW1,700×1,840×900

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33日立国際電気技報 2019 年度版 No.20

陸上設置用ソフトウェア無線機の開発

4 ハードウェア構成4.1 ハードウェアの基本構成

開発した 7 種類の装置におけるハードウェアの基本系統を図3 に示す。

無線機(送信機)の同時開発にあたり、設計の共通化を図ったが、電力増幅部は周波数や送信出力により、使用デバイスやその寸法などが異なるため個別開発を行い、装置寸法により UHF 車載型、VHF 据置型などは、送受信部に内蔵する構造とした。送受信部の構成は、受信セレクタ/励振増幅部については HF 帯用と VHF/UHF 帯用の 2 種類とし、周波数変換部および変復調部を共通モジュールとした。外部インタフェース部に関しては器材ごとにインタフェースが異なるため個別開発とした。

電力増幅部

フィルタ部

音声信号

周波数変換部

変復調部

外部インタフェース部

低雑音増幅部

電力増幅部 送受信部

受信セレクタ/

励振増幅部

図3 基本系統図

SDR として主要な機能・性能を実現する送受信部の主要諸元を表2 に示す。このように SDR は、送受信周波数幅を広帯域にすることが必須であるため、1.6~500MHz としている。4.2 節にて、広帯域で低スプリアス化を実現した受信系について報告する。

4.2 受信系の構成開発した無線機の受信系系統図を図4 に示す。周波数変換方式はスーパーヘテロダイン方式※3 であり、

第 1 中間周波数を受信周波数よりも高い周波数に設定するアップコンバージョンとした。アップコンバージョンは、ほかの変換方式と比較して、周波数変換の回数が多く、回路の面積が増えることから小型化には不利であるが、スプリアス

表2 送受信部の主要諸元項 目 設計仕様

送受信周波数 1.6~500MHz周波数間隔 1Hz送信出力 +20dBm(100mW)受信 NF※2 10dB 以下受信スプリアスレベル −137dBm 以下

処理帯域幅 狭帯域:2MHz広帯域:40MHz

管理が容易であり、高い SFDR(Spurious Free Dynamic Range)を確保できる利点がある。

中間周波数では、1.6~500MHz の帯域を一つの変換系で対応することが現実的ではないため、HF 系(1.6~30MHz)と VHF/UHF 系(30~500MHz)の 2 系統に分割して中間周波数を選定した。スプリアス感度が高い第 1 中間周波数の1/2 の周波数を高周波の帯域に入れないようにするため、高周波の上限周波数の 2.6 倍程度とした。

中間周波数の選定条件を表3 に示す。この条件に基づき、各系統の中間周波数および局部発振周波数を図4 のように決定した。最終中間周波数は 70MHz とし、この信号を復調部で処理する方式とした。また、ローカル信号(Lo)は、PLL※4 周波数シンセサイザ方式とし、スプリアス管理ができるフラクショナル N 型 PLL を採用し、周波数間隔 1Hz の実現とスプリアスの低減を図った。

RF※530~ 500MHz

RF1.6~30MHz

1st IF1,220MHz

1st IF70MHz

1st LO1,250~ 1,720MHz

1st LO71.6~100MHz

2nd LO860MHz ÷2

÷16

3rd LO430MHz

2nd IF360MHz

3rd IF70MHz

復調部へ

復調部へ

VHF/UHF 系

HF系

図4 受信系系統図

5 デジタル IFの開発5.1 デジタル IF

SDR の機能系統図(受信)を図5に示す。本開発においては、デジタル IF 方式を採用した。当社の

開発した従来の SDR では、変復調機能のデジタル信号処理化を実現している(図5(a))。しかし、帯域制限(IF フィルタ)と AGC(Auto Gain Control)はアナログ回路に依存しているため、占有帯域幅や変調方式など、通信ソフトウェア(アプリケーション)で実現できる機能に制約があった。

今回、あらたに開発した SDR では、帯域制限、AGC、変

表3 中間周波数選定条件項 目 条  件

第 1 中間周波数 HF 系:30×2.6=78MHz 程度VHF/UHF 系:500×2.6=1,300MHz 程度

局部発振周波数 整数比となること

最終中間周波数 ・HF 系と VHF/UHF 系で共通・IF フィルタの入手性がよい

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34 日立国際電気技報 2019 年度版 No.20

技術論文 陸上設置用ソフトウェア無線機の開発

復調機能をすべてデジタル信号処理により行うことで(デジタル IF 化)、通信ソフトウェアで実現できる機能や性能の幅を広げ、音声通信、データ通信、広帯域受信といったさまざまな通信方式への対応を容易にした(図5(b))。これまでデジタル IF が実現されなかった主な理由として、中間周波数を デジタル信号に変換(A/D 変換)するための ADC のダイナミックレンジが確保できなかったことがあげられるが、近年ADC の性能が向上し、デジタル IF の実現が可能となった。

AGC帯域制限

復調処理

音声処理

復調処理

音声処理

周波数変換

周波数変換

デジタル処理

A/Dコンバータ

アナログ回路

デジタル処理アナログ回路

AD

AD

AD 検波

検波

A/Dコンバータ

D/Aコンバータ

AGC帯域制限

A/Dコンバータ

(a)従来のSDR

(b)開発したSDR

図5 SDR の機能系統図(受信)

5.2 問題点の解決デジタル IF の開発にあたり、問題点としてあげられるの

が A/D 変換時に発生する内部スプリアスである。本 SDR はさまざまな通信方式に対応するため、内部スプリアスを装置入力レベルで換算する場合に−137dBm 以下を設計目標値とした(表2 参照)。

(1)ADC の性能表2 の主要諸元から ADC に求められる要求性能を表4 に

示す。

受信ダイナミックレンジを現行の製品と同等以上確保するためには、ADC のフルスケール時における装置への入力

表4 ADC の要求性能項 目 要求性能

ダイナミックレンジ −20dBm 以上(上限)スプリアスレベル −117dBFS(復調部の NF:20dB)

SFDR 処理帯域幅 2MHz 時:100dB 以上処理帯域幅 40MHz 時:80dB 以上

レベルを−20dBm 以上とする必要がある。また、装置の受信系全体の NF を 10dB 以下とするため、復調部の NF を20dB 以下とした。

なお、ADC のサンプリング周波数により、A/D 変換時に発生するスプリアスが変わるが、一般的に実用化されているサンプリング周波数として 245.76MSPS とした。

(2)スプリアス特性(処理帯域幅 2MHz)採用した ADC に処理帯域幅 2MHz にて 70MHz のトー

ン信号を入力した際の FET(Fast Fourier Transform)周波数応答を図6に示す。入力信号レベル−20dBFS 以下におけるスプリアスレベルが最大−118.6dBFS、SFDR が106.8dB であることを示している。

SFDR:106.8dB

0-20-40-60-80-100-120-140

65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75

信号強度[dBFS]

周波数[MHz]

サンプリング周波数: 245.76MSPS入力信号: 70MHz,-2.5dBFSサンプル数: 65,536窓関数: Blackman-Harris

図6 A/D コンバータのFFT 周波数応答

(3)スプリアス特性(処理帯域幅 40MHz)処理帯域幅 40MHz にて、70MHz のトーン信号を入力し

た際の全帯域の FFT 周波数応答を図7 に示す。入力信号レベル−2.5dBFS 時の SFDR が 84.8dB である。

帯域の中心周波数を 70MHz とした場合の処理帯域幅とSFDR の関係を図8 に示す。処理帯域幅が広い場合に、ADCの SFDR を決定する支配的なスプリアスは 2 次、3 次、5 次のスプリアスである。すなわち、処理帯域幅が 11.4MHz までの範囲ならば、帯域幅 2MHz と同等の SFDR が得られる。また、処理帯域幅を 40MHz とした場合に SFDR を 80dB以上確保できることを示している。

サンプリング周波数: 245.76MSPS入力信号: 70MHz,-2.5dBFSサンプル数: 65,536窓関数: Blackman-Harris

SFDR84.8dB

0

-20

-40

-60

-80

-100

-120

-1400 10 20 30 40 50

3次 2次

60 70 80 90 100110120 130

信号強度[dBFS]

周波数[MHz]

図7 A/D コンバータのFFT 周波数応答

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35日立国際電気技報 2019 年度版 No.20

陸上設置用ソフトウェア無線機の開発

0

-20

-40

-60

-80

-100

-1200 10 20 30 40

SFDR[dB]

処理帯域幅[MHz]

5次のスプリアスが支配的となる領域

3次のスプリアスが支配的となる領域

2次のスプリアスが支配的となる領域

11.4MHz

17.1MHz 34.2MHz

図8 処理帯域幅と帯域内におけるSFDR

6 ソフトウェア構成6.1 プラットフォームソフトウェアの構造

プラットフォームは、通信や機能の一部を変更でき、かつ、すべての周波数帯に対応し、常に必要とされる機能を備えていることが要求される。

本 SDR のプラットフォームソフトウェア構造は図9 に示すように、SCA(Software Communications Architecture) v2.2 の構造[1][2]に基づいて開発した。

CORBA ORB &サービス

CF※8 サービス &アプリケーション

ソフトウェアバス

オペレーティングシステム

ネットワークスタック & シリアルインタフェースサービス

ボードサポートパッケージ(バス層)

I/O※7アダプタ

モデムアダプタ

リンクネットワーク

Non-CORBA※6モデム

RF

ハードウェアバス

アプリケーション Non-CORBAI/O

図9 プラットフォームソフトウェア構造

SDR では、装置制御を行うために汎はんよう

用のプロセッサが搭載されるが、SCA ではこれらの機能を実現するためのプラットフォームとしての OS は、POSIX※9 準拠と COTS※10 であることを条件として規定されている。また、ミドルウェアとして CORBA※11 を使用することも規定されていることから、本 SDR では、POSIX 規格に従った Linux®※12OS を基盤とし、ミドルウェア CORBA に ORBexpress を使用し

た。また、ネットワークスタックでは、IP および TCP※13/UDP※14 プロトコルスタックに Linux® 標準を利用し、ハードウェアバスは、Ethernet®※15 と C-PCI※16 の双方を利用した。

また、アプリケーションとはソフトウェアバス※17 にて接続される。

6.2 アプリケーションの構造アプリケーション構造は図10 に示すように、5 種類(図中

の①~⑤)のコンポーネントがソフトウェアバスで接続される構造である。それぞれのコンポーネントは、パラメータによって発揮する機能が変更される。

Non-CORBA モデムは信号処理ソフトウェアであり、送受信時に変復調を行う。モデムアダプタは、受信時には復調したデータをソフトウェアバスを介して、次のコンポーネントへ引き渡す手順を踏み、送信時にはこの逆の手順を踏む。モデムアダプタが、信号処理ソフトウェアとの間でデータの引き渡しを行うには、信号処理ソフトへアクセスするデバイスドライバを使用する。同様に I/O アダプタは、Non-CORBA I/O とソフトウェアバス間におけるデータのやり取りを仲介する。ただし、I/O アダプタは VoIP(Voice over Internet Protocol)では Ethernet® であり、アナログ音声ではアナログ入出力デバイスであるため、I/O アダプタがパラメータに従って選択できるようになっている。

ソフトウェアバス

④I/Oアダプタ

②モデムアダプタ

③リンクネットワーク

①Non-CORBAモデム

RF

⑤Non-CORBAI/O

パラメータ起動パラメータを設定=

発揮する機能の変更

図10 アプリケーション構造

コ ン ポ ー ネ ン ト の API(Application Programming Interface)は、SCA に記述されている CF Base Application Interface と SCA に付属の API Supplement[3]に記述されている API と独自 API がある。

製品アプリケーションは、音声 /VoIP アプリケーション

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36 日立国際電気技報 2019 年度版 No.20

技術論文 陸上設置用ソフトウェア無線機の開発

とデータ伝送アプリケーションとがある。これらは同一のコンポーネントによるアプリケーションであるが、起動時のパラメータによって、それぞれのアプリケーションに必要な機能にコンポーネントが設定される。このパラメータプロファイルを選択して設定し、アプリケーションの切り替えを行う。このようなパラメータシートは、SCA では Domain Profileと名付けられ、上記 2 種類のアプリケーションは、Domain Profile によって、切り替えられている。

7 むすび本開発では、設計の共通化により多機種の同時開発を短期

間で行った。また、デジタル IF 方式を採用することで低ノイズの受信特性を備えた無線機開発の実現と今後進化するIoT(Internet of Things)に対応すべく IP インタフェースの実装に成功した。今後は、SDR の開発を見据え、低消費電力化に貢献できる SCA4.2 の研究を進めることで、小型、低消費電力型の無線機開発に取り組んでいく予定である。

8 参考文献[1] J. Mitora Ⅲ , SOFTWARE RADIO ARCHITECTURE,

John Wiley & Sons, Inc. 2000.[2] Joint Tactical Radio System(JTRS) Joint Program

Office, JTRS-5000SC Av2.2, Nov 17, 2001.[3] Joint Tactical Radio System(JTRS) Joint Program

Office, MSRC-5000API v1.1, Nov 17, 2001.

※1  VHF:Very High Frequency(超短波)※2  NF:Noise Figure(雑音指数)※3   受信電波の周波数を一旦中間周波数に変換し、増幅・検波する

受信方式※4  PLL:Phase Locked Loop(位相同期回路)※5  RF:Radio Frequency(高周波)※6   Non-CORBA:CORBA を利用できない DSP などのソフト

ウェア※7  I/O:Input/Output※8  CF:Core Framework※9  POSIX:Portable Operating System Interface※10  COTS:Commercial Off-The-Shelf(既製品で販売やリース

が可能となっているソフトウェア製品やハードウェア製品)※11  CORBA:Common Object Request Broker Architecture

(プロセス間通信のミドルウェア)※12  Linux は Linus Torvalds の米国およびそのほかの国における

登録商標または商標です。※13 TCP:Transmission Control Protocol※14 UDP:User Datagram Protocol※15  Ethernet は富士ゼロックス株式会社の登録商標または商標で

す。※16 C-PCI:Compact PCI※17 ソフトウェアバス:CORBA による論理的なバス

執筆者紹介

大窪 博 (おおくぼ ひろし)2001 年 (株)日立国際電気 入社現 在 (株)日立国際電気

特機事業部 設計本部 第一設計部 主任技師 主に無線通信システムの開発に従事

桑原 正道 (くわばら まさみち)2003 年 (株)日立国際電気 入社現 在 (株)日立国際電気

特機事業部 設計本部 第一設計部  技師 主に無線通信システムの開発に従事

金橋 祐輔 (かなはし ゆうすけ)1997 年 国際電気(株) 入社現 在 (株)日立国際電気

特機事業部 設計本部 第一設計部 技師 主にソフトウェア無線システムの 開発に従事

※執筆者の所属部署名は、2020 年 3 月現在のものです。