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64 企業と人材 2016年12月号 ズを結ぶ方法をご紹介します。 そのために必要なのは、「ステップ1:育成コ ンテンツマップをつくる」、「ステップ2:growth pathを描く」、「ステップ3:育成コンテンツの意 義について意識合わせをする」の、3つのステッ プです。以下、それぞれについて述べていきたい と思います。 図表2は、「育成コンテンツマップ」のイメージ 図です。育成コンテンツマップとは、企業が従業 員にどのようなグローバル人材として成長を遂げ てほしいか、また、従業員がどういった成長を望 んでいるかをもとに、部署、プロジェクト、研修 などのそれぞれの手法を1つの育成コンテンツと ステップ1 育成コンテンツマップをつくる これまで、グローバル人材とは「絶えず変わり 続けられる人材」であるとし、そうあり続けるた めにも、彼らは成長の場を求める傾向があるとお 伝えしてきました。 ゆえに、このような人材を「プール」しておく ことを目的にするのではなく、彼らに成長の機会 をより多く与え続けることで、在籍期間を最大化 していく。そして、優秀な人材として社会に輩出 していくことで「雇用主としてのブランド」を確 立する。その結果として、彼らをロールモデルと する若い世代の流入が絶えない企業にしていくと いう、「人材の好循環」をめざすべきであるとも お伝えしました。 人材の好循環を生み出すためには、他社にはな い、自己成長をするための「独自の育成コンテン ツ」が必要です。それら育成コンテンツの存在を グローバル人材候補にしっかりと伝え、その企業 で見込める自己成長をイメージできるようにする ことが大事です。これによって、すべての業務や 異動、研修と、個々人の成長ニーズを結びつける ことができるのです(図表1) 今回は、グローバル人材やその候補者に企業が 課す業務と、それぞれ異なる彼ら個人の成長ニー 人材の好循環を生み出す 3つのステップ ベルリッツ・ジャパン カリキュラム部 コンテンツクリエイター 胡 喬太 グローバル 人材育成 ポイント 「業務」と「成長ニーズ」を結ぶ手法とは? 第4回 連載 変わり続けるDNAを強化する グローバル人材として育成し、活躍してもら うために必要なこと 図表 1 企業 業務 研修 従業員 成長ニーズ 適合

DNA グローバル 人材育成 ポイント · グローバル人材育成のポイント 「業務」と「成長ニーズ」を結ぶ手法とは? 第4回 連載 変わり続けるdnaを強化する

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64 企業と人材  2016年12月号

ズを結ぶ方法をご紹介します。 そのために必要なのは、「ステップ1:育成コンテンツマップをつくる」、「ステップ2:growth path を描く」、「ステップ3:育成コンテンツの意義について意識合わせをする」の、3つのステップです。以下、それぞれについて述べていきたいと思います。

 図表2は、「育成コンテンツマップ」のイメージ図です。育成コンテンツマップとは、企業が従業員にどのようなグローバル人材として成長を遂げてほしいか、また、従業員がどういった成長を望んでいるかをもとに、部署、プロジェクト、研修などのそれぞれの手法を1つの育成コンテンツと

ステップ1育成コンテンツマップをつくる

 これまで、グローバル人材とは「絶えず変わり続けられる人材」であるとし、そうあり続けるためにも、彼らは成長の場を求める傾向があるとお伝えしてきました。 ゆえに、このような人材を「プール」しておくことを目的にするのではなく、彼らに成長の機会をより多く与え続けることで、在籍期間を最大化していく。そして、優秀な人材として社会に輩出していくことで「雇用主としてのブランド」を確立する。その結果として、彼らをロールモデルとする若い世代の流入が絶えない企業にしていくという、「人材の好循環」をめざすべきであるともお伝えしました。

 人材の好循環を生み出すためには、他社にはない、自己成長をするための「独自の育成コンテンツ」が必要です。それら育成コンテンツの存在をグローバル人材候補にしっかりと伝え、その企業で見込める自己成長をイメージできるようにすることが大事です。これによって、すべての業務や異動、研修と、個々人の成長ニーズを結びつけることができるのです(図表1)。 今回は、グローバル人材やその候補者に企業が課す業務と、それぞれ異なる彼ら個人の成長ニー

人材の好循環を生み出す3つのステップ

ベルリッツ・ジャパン カリキュラム部 コンテンツクリエイター胡 喬太

グローバル人材育成のポイント「業務」と「成長ニーズ」を結ぶ手法とは?

第 4回

連載

変わり続けるDNAを強化する

グローバル人材として育成し、活躍してもらうために必要なこと

図表1

企業

業務

研修

従業員

成長ニーズ適合

65企業と人材  2016年12月号

して定義し、取りまとめたものです。 ここで重要なのは、育成コンテンツマップ上では、業務自体も育成コンテンツの1つとして定義することです。業務を顧客や自社のためだけではなく、従業員の成長の手段としてとらえるのです。なお、図中の点線はグローバル人材候補の

「growth path」です。この「growth path」の流れについては、のちほど詳しく説明します。 育成コンテンツは、大きく分けて3種類あると考えます。 1つ目のコンテンツは、英語、コミュニケーション、異文化理解、交渉、マネジメントといった、グローバル人材の能力向上のために一般的に必要とされるものです。その道のプロに外注するようなスキル習得型の研修が、これに該当します。 2つ目のコンテンツは、企業の理念、価値観を醸成するといった、その企業特有のグローバル人材としての素養の体得を目的としたものです。新

入社員研修におけるトップメッセージや職場体験、自社独自のスキル習得など、内製化するような研修の多くが、これにあたります。 3つ目のコンテンツは、上記2つ両方の側面をもつコンテンツで、各部署での業務やプロジェクト、赴任、出向など、いわゆる業務にあたるものです。業務は、育成の側面からみると、一般的に必要な能力とその企業の社員特有の素養の両方を磨き、定着させることに適しています。 これら3つを入れて、自社の育成コンテンツマップを作成します。コンテンツごとに取り組む内容、取り組む期間の目安、習得が見込めるスキルや学びを明記していきます。そうすることで、グローバル人材候補が各自、現在所属している企業において、今後どのような成長ができるのかを具体的にイメージすることができるようになるはずです。 これは結果的に、成長し続けられる環境を最大

変わり続けるDNAを強化するグローバル人材育成のポイント

研修l

赴任先F

出向先G

一般的なグローバル人材の能力向上が目的のコンテンツ自社特有のグローバル人材の素養体得が目的のコンテンツある社員のgrowth path

部署A

新入社員研修部署C

部署B

部署C

プロジェクト Dプロジェクト Dプロジェクト D

プロジェクト Eプロジェクト Eプロジェクト E

研修i

研修j

研修k

γ

研修d

研修a

研修b

研修c

α

研修h

研修e

研修f

研修g

β

研修p

研修m

研修n

研修o

δ

育成コンテンツマップのイメージ図図表2

66 企業と人材  2016年12月号

限提供することになるので、絶えず変わり続けられるグローバル人材が育つようになります。さらに、グローバル人材が成長し続けられる期間を最大化する、つまり、彼らが自社に在籍する期間を最大化することにもつながります。 冒頭で、グローバル人材候補にその企業独自の自己成長コンテンツがあることをしっかりみせることで、すべての業務や異動、研修と個々人の成長目標を動機で結びつけることができるとお伝えしました。その要となるのが、育成コンテンツマップなのです。

 現在従事している業務、異動先での業務、研修を、育成コンテンツマップ上の点とすれば、

「growth path」はそれらをつなぐ線です。 将来、どのような領域でグローバル人材として活躍したいのか、たとえば「マーケティングリーダーとして、未参入の海外市場でのシェア拡大を実現できる人材をめざす」ということが、ある時点でのその人のゴールだとすれば、以下のような

「growth path」が考えられるでしょう。

①�新人研修後、まずは国内の「営業部門」で営業担当者として実務を遂行→自社理解と現場経験の蓄積②�外部ビジネススクールの「マーケティング研修」を受講→マーケティングのフレームワークを理解③�アシスタントマーケターとして特定商材を担当→マーケティング実務を習得

④�次いで、マーケティングマネジャーとして新商品の立ち上げや導入と並行して、英語研修(一部会社負担)や海外マーケティング部門との調整業務を遂行→マネジメント経験を積むとともに、

ステップ2growth pathを描く

国内にいながらにして英語業務経験を蓄積⑤�その後は、社内選抜メンバーとして「グローバルリーダー研修」を体系的に受講→組織マネジメントの知見、異文化対応や英語プレゼンテーションなどのグローバルコミュニケーションスキルを習得⑥�アジアの一国での市場参入をマーケティング責任者として担当し、成果を創出→当初目標の達成と新たな目標のセッティングへ

 もちろん、途中段階で本人の成長速度に合わせた軌道修正や社内事情による見直し、ときに本人の挫折などによるゴールそのものの変更が必要になることもあるでしょう。しかし、成長のすべてを行きあたりばったりで行っていくのではなく、初期の段階でその人の「growth path」をきちんと描くことで、いまやっていることに対してのモチベーションは各段に高まり、業務としての成果にもつながりやすくなるはずです。 そうすることで、グローバル人材候補の次の部署異動がゴールに向けたネクストステップになり、明日参加する研修はネクストステップのために必要な観点や知見を得る場になります。そして、いま取り組んでいるプロジェクトは、ネクストステップに向けた経験の積み重ねの機会であり、いま行っている業務はプロジェクトを成功に近づけるための手段であるといった具合いに、勤務時間中に起こるすべてのことを「growth path」という線で結ぶことができるようになります。それを本人にも明示できれば、個人としての成長にも会社への貢献にもつながっていくのです。 その点からも、育成コンテンツマップをつくるとともに、個々人の希望を聞きながら、適切な

「growth path」を準備・提供できる環境を整えておく必要があります。

67企業と人材  2016年12月号

 自社内で統一された育成コンテンツマップと、個人ごとに存在する「growth path」、これら2つがあることで、グローバル人材候補をはじめとする成長を求める人材が、自身の成長につながるという内発的動機から仕事へのモチベーションを高く保つことができるようになります。彼ら、彼女らが力を最大限発揮することは、雇用主にとって願ってもないことだと思います。 しかし、育成コンテンツマップも「growth path」も、万能薬ではありません。育成コンテンツを用意して、「growth path」を描いたら、あとは本人に任せて放っておいても大丈夫、ということではないのです。最低でも、異動や選抜研修といった節目を迎える直前に、その次のステップの意義や得られる学びをきちんと理解しているか、不安や目標の変化はないかを、きちんと確認するべきです。つまり、コミュニケーションをとることが必要なのです。 アブラハム・マズローの欲求5段階説では、人間には下から順番に「生理的欲求」、「安全欲求」、

「社会的欲求」、「承認欲求」、「自己実現欲求」があり、1つを満たすと1つ上のものを欲しがるとされています(図表3)。しかし、現実的には、自己実現欲求と同時に承認欲求をもつのが一般的です。「自己実現欲求を満たす機会」を、「温かいコミュニケーション」とともに提供してくれる企業があるとすれば、そこに身を寄せたいと思うのは、ごく自然なことではないでしょうか。 グローバル人材は強い人間であると同時に、心をもった人間です。昇進や昇給、異動や複雑なプロジェクト、研修といった成長の機会を与えるだけではなく、状況をきちんと見守りながら、つど

ステップ3育成コンテンツの意義について意識合わせをする

寄り添って、何かあれば勇気をもって困難に挑めるように背中を押してあげられる環境を整えるべきなのではないでしょうか。 もちろん、コミュニケーションをしっかりとることによって、「growth path」の修正や目標そのものの変化にも臨機応変に対応でき、会社として用意すべき新たな育成コンテンツを発掘していけることは、いうまでもありません。

* いかがでしたでしょうか。これまでの4回を通じ、グローバル人材の定義や、その育成のために必要な概念・要素をお伝えしてきました。次回からは、グローバル人材を育むための具体的な研修コンテンツの設計・実行方法についてお伝えしていきます。対象となる研修コンテンツは、以下のようなものを予定しています。ご期待ください。

研修コンテンツ(テーマ)

1 ぶれない軸をもつための教養力

2 ビジネスで求められる基礎英語力研修

3 ビジネスで成果を出すコミュニケーションスキル研修

4 多様性を活かす異文化理解と対応力

5 ストレス耐性と持続力~修羅場研修~

6 グローバルリーダー研修

変わり続けるDNAを強化するグローバル人材育成のポイント

マズローの欲求5段階説図表3

自己実現欲求

承認欲求

社会的欲求

安全欲求

生理的欲求