12
前面は虹彩の後で後房水に,後面は硝子体に接し ています。水晶体を包むこのカプセルを水晶体と呼び,前面を前,後面を後と呼びます。水 晶体は,虹彩の裏側で毛様体小帯(Zinn 小帯)に よって硝子体前面に固定されています。 機 能 水晶体の最も重要な役割は屈折と調節です。つ まり,角膜→房水と進入してきた光を,硝子体→ 網膜に正しく導いて結像させることです。したが って,水晶体が無血管組織であることは当然です が,一定の屈折率も保持していなければなりませ ん。そこで,房水から栄養を摂取し,嫌気的糖代 謝によってエネルギーを獲得しています。 水晶体上皮細胞と線維細胞 水晶体の前面直下~赤道部にかけてのみ,水 晶体上皮細胞が存在します。これ以外の部位は, に接する部分も含め,すべて線維細胞です。 20 歳を過ぎるころから,水晶体中心部の線維細胞 は圧縮・脱水されて水晶体核を形成するようにな り,さらに老化によって硬化していきます。この ようにして水晶体が混濁した状態が白内障(p.150です。 STEP 5 光を透過する角膜,硝子体,水晶体は無 血管組織 眼房と隅角 aqueous chamber, chamber angle 眼房は前房と後房から構成されています。前房 は角膜後面,虹彩前面,水晶体前面に囲まれた部 分です。また,後房は虹彩後面,水晶体前面,毛 様体に囲まれた部分です。 隅角は,角膜と虹彩に挟まれた部位で,房水の 流出路である経 Schlemm シュレム 管流出路と経ぶどう膜 強膜流出路とがあります(図 1-9)。 付属器の構造 眼 瞼 eyelid 構 造(図 1-10眼瞼は皮膚面より,皮膚,筋層,瞼板,結膜で 構成され,前縁には睫 しょう もう が生えています。 眼瞼には,睫毛孔に開口する脂腺の Zeis ツァイス と, この近傍に開口する汗腺の Moll モル があります。こ Zeis 腺と Moll 腺に発生した急性化膿性炎症が 外麦粒腫(p.102)です。 眼瞼の筋 閉瞼と開瞼に働く筋があります。 1)眼輪筋 orbicularis oculi muscle 顔面神経支配で,眼瞼を囲むように存在し,に作用します。したがって,顔面神経麻痺を来 すと,兎眼(薄目を開いた状態)を呈して角膜が 傷つきます。 10 総 論 図1-9 隅角の位置 Schlemm前(眼)房 (前房)隅角 後(眼)房

海馬書房 - 1 眼 瞼 72)上眼瞼挙筋 levator palpebrae superioris muscle 動眼神経支配で,開瞼に作用します。この上眼 瞼挙筋は眼輪筋と瞼板の間を通り,上眼瞼皮膚近

  • Upload
    others

  • View
    5

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

前面は虹彩の後で後房水に,後面は硝子体に接し

ています。水晶体を包むこのカプセルを水晶体餒

と呼び,前面を前餒,後面を後餒と呼びます。水

晶体は,虹彩の裏側で毛様体小帯(Zinn小帯)に

よって硝子体前面に固定されています。

b 機 能

水晶体の最も重要な役割は屈折と調節です。つ

まり,角膜→房水と進入してきた光を,硝子体→

網膜に正しく導いて結像させることです。したが

って,水晶体が無血管組織であることは当然です

が,一定の屈折率も保持していなければなりませ

ん。そこで,房水から栄養を摂取し,嫌気的糖代

謝によってエネルギーを獲得しています。

c 水晶体上皮細胞と線維細胞

水晶体餒の前面直下~赤道部にかけてのみ,水

晶体上皮細胞が存在します。これ以外の部位は,

後餒に接する部分も含め,すべて線維細胞です。

20歳を過ぎるころから,水晶体中心部の線維細胞

は圧縮・脱水されて水晶体核を形成するようにな

り,さらに老化によって硬化していきます。この

ようにして水晶体が混濁した状態が白内障(p.150)

です。

STEP 5

光を透過する角膜,硝子体,水晶体は無

血管組織

7 眼房と隅角aqueous chamber, chamber angle

眼房は前房と後房から構成されています。前房

は角膜後面,虹彩前面,水晶体前面に囲まれた部

分です。また,後房は虹彩後面,水晶体前面,毛

様体に囲まれた部分です。

隅角は,角膜と虹彩に挟まれた部位で,房水の

流出路である経Schlemmシュレム

管流出路と経ぶどう膜

強膜流出路とがあります(図1-9)。

B 付属器の構造

1 眼 瞼 eyelid

a 構 造(図1-10)

眼瞼は皮膚面より,皮膚,筋層,瞼板,結膜で

構成され,前縁には睫しょう

毛もう

が生えています。

眼瞼には,睫毛孔に開口する脂腺のZeisツァイス

腺と,

この近傍に開口する汗腺のMollモル

腺があります。こ

のZeis腺とMoll腺に発生した急性化膿性炎症が

外麦粒腫(p.102)です。

b 眼瞼の筋

閉瞼と開瞼に働く筋があります。

1)眼輪筋 orbicularis oculi muscle

顔面神経支配で,眼瞼を囲むように存在し,閉

瞼に作用します。したがって,顔面神経麻痺を来

すと,兎眼(薄目を開いた状態)を呈して角膜が

傷つきます。

10 総 論

図1-9 隅角の位置

Schlemm管

前(眼)房

(前房)隅角

後(眼)房

2)上眼瞼挙筋

levator palpebrae superioris muscle

動眼神経支配で,開瞼に作用します。この上眼

瞼挙筋は眼輪筋と瞼板の間を通り,上眼瞼皮膚近

傍の複数の腱に分かれて終わります。この上眼瞼

皮膚の腱の分布によって,瞼(まぶた)が一重に

なったり二重になったりします。眼瞼下垂の主因

は,上眼瞼挙筋の機能低下です。

3)瞼板筋 tarsal muscle

Müller筋とも呼ばれ,交感神経支配で開瞼に作

用します。人が驚いたときに瞼を大きく開くのは,

この瞼板筋の働きによります。Horner症候群でみ

られる瞼裂狭小も,瞼板筋の働きによるものです。

STEP 6

眼輪筋は閉瞼作用

上眼瞼挙筋と瞼板筋は開瞼作用

c 瞼 板 tarsal plate

比較的硬い組織で,この瞼板の働きによって眼

瞼の形態が保たれています。瞼板には,脂腺であ

る瞼板腺(Meibomマイボーム

腺)があります。ここに発生

するのが内麦粒腫(p.102)や霰粒腫(p.102)です。

2 涙 器 lacrimal apparatus

a 涙 腺 lacrimal gland(図1-11)

主涙腺は眼窩の外上方に位置し,上結膜円蓋部

耳側に開口しています。また,副涙腺(Krauseクラウゼ

とWolfringウォルフリング

腺)は眼瞼内にあり,上下結膜円蓋部

に開口しています。主涙腺は涙液の大部分を分泌

し,副涙腺は涙液の水層を構成する水分を分泌し

ています。

涙液 tearsは,角膜表面に潤いを与えることに

よって,角膜と結膜の接触を潤滑にする作用を有

11第1章 眼の構造

第1章

睫毛

Moll腺,Zeis腺のあるところ

Wolfring腺(副涙腺)

瞼板(中にあるのが 瞼板腺=Meibom腺)

眼輪筋

Krause腺(副涙腺)

涙腺

眼輪筋

図1-10 眼瞼の構造

上眼瞼挙筋

瞼板

瞼板腺 (Meibom腺)

Moll腺 (睫毛汗腺)

上瞼板筋 (Müller筋)

睫毛

Zeis腺 (睫毛脂腺)

拡大

上下涙小管

下鼻道

涙丘 上下涙点

外眼角

涙腺

半月襞

内眼角

涙餒

鼻涙管

鼻涙管開口部 (Hasner弁)

排出管

下鼻甲介

Krause腺Wolfring腺

副涙腺

図1-11 涙器の構造

されています(図 1-16参照)。これ以上の中枢側

は,視交叉部は前大脳動脈と前交通動脈で,視索

は後交通動脈と脈絡膜動脈で構成されています。

2)静脈系

網膜中心静脈は,網膜中心動脈と並行するよう

に網膜に広く分布しています(図1-16参照)。

参考 Zinn-Haller動脈輪

短後毛様動脈が強膜篩状板レベルで形成した血

管輪のことです。

D 眼 窩 orbit

1 構 造

a 構 成(図1-18)

眼窩の上壁は前頭骨と前頭洞で,下壁は上顎骨

(内側方)と騁骨(外測方),そして上顎洞で構成

されています。また,外壁は騁骨(前方)と蝶形

骨(後方)で,内壁は涙骨(前方),篩骨(中央),

口蓋骨(中央),蝶形骨(後方),篩骨洞,蝶形骨

洞,鼻腔で構成されています。

このように,眼窩,副鼻腔,頭蓋内は隣接して

います。したがって,炎症や外傷を来したときに

は,それが波及しやすくなります〔上眼窩裂症候

群(p.175)など〕。

b 形 状

極言すれば,眼窩は図1-19に示すような四角錐

状と言えます。上述したように,眼窩は 7つの顔

面骨で構成されています。もちろん,四角錐の上

が前頭骨,外が騁骨,下が上顎骨です。

STEP 9

眼窩の内側を構成するのは,涙骨,篩骨,

口蓋骨,蝶形骨の4つ

2 視神経管と眼窩裂

a 視神経管(視神経孔)

optic canal(optic foramen)

視神経管を通るのは,視神経,眼動脈,交感神

経です。

16 総 論

前頭骨

蝶形骨

トルコ鞍

口蓋骨

上顎洞

上顎骨

視神経管

下眼窩裂

図1-18 眼窩の構造(左:右眼前面,右:右眼耳側)

蝶形骨

前頭骨 前頭洞 視神経管

鼻涙管

上顎骨

上顎洞

騁骨

上眼窩裂

下眼窩裂

涙骨

篩骨

上眼窩裂

後 前

b 上眼窩裂 superior orbital fissure

蝶形骨の中にあり,頭蓋底と交通しています。

眼球の周囲を取り囲む,動眼神経,滑車神経,三

叉神経第 1枝,外転神経,交感神経,上眼静脈,

眼窩上動脈が通っています(図1-20,図1-21)。

1)動眼神経など

動眼神経,滑車神経,外転神経は外眼筋を支配

しています。

2)三叉神経第1枝

涙腺神経,前頭神経,鼻毛様体神経が含まれて

います。

17第1章 眼の構造

第1章

鼻 前

視神経管

上・下眼窩裂

図1-19 眼窩の構造模式図(左:前面,右:上面)

このあたりは眼窩先端部と呼ばれる

耳側

視神経管(錐の頂点) 上眼窩裂

内側面が体の 正中面に平行 (右図参照)

下眼窩裂

四角錐を上から見るとこういう形

眼動脈

動眼神経下枝

鼻毛様体神経

涙腺神経 前頭神経

滑車神経

上眼静脈

外転神経

動眼神経上枝

眼窩上動脈

視神経

図1-20 上眼窩裂,視神経管を通る神経(右眼正面)

動眼神経

外転神経

毛様体神経節

三叉神経節(Gasser神経節)

動眼神経

内頸動脈周囲神経叢 (交感神経)

視神経

短毛様体神経

内頸動脈

眼神経

涙腺神経 前頭神経

図1-21 海綿静脈洞(左:右側正面の前額断)と毛様体神経節(右)

眼神経

滑車神経

上顎神経

蝶形骨洞

下垂体

鼻毛様体神経 長毛様体神経

長根

短根

2)軟性白斑 soft exudate

網膜神経線維が虚血に陥り,軸索が膨化したも

のです。糖尿病網膜症や高血圧網膜症のほか,

SLE,皮膚筋炎,結節性動脈周囲炎などの膠原病

でしばしば見られます。

3)滲出斑 exudate

網膜または脈絡膜から滲出した炎症性細胞の浸

潤で,サルコイドーシス,トキソプラズマ症,滲

出性網膜炎などで見られます。

4)ドルーゼン drusen

脈絡膜とBruch膜の後極部に,黄白色の小白点

として点在する疣状肥厚をいいます(写真 4-8)。

老人性変化や白点状網膜炎などで見られます。

STEP 36

網膜上の白斑

硬性白斑:糖尿病網膜症,高血圧網膜

軟性白斑:糖尿病網膜症,高血圧網膜

症,膠原病

滲出斑:サルコイドーシス

ドルーゼン:白点状網膜炎

64 総 論

写真4-7 正常眼底所見

静脈期のFAG所見 静脈期の ICGA所見写真4-6 FAG所見とICG所見の比較(初期の黄斑変性)

早期のFAG所見 早期の ICGA所見

参考 白点状網膜炎

retinitis punctata albescens

常染色体劣性遺伝を示す疾患で,眼底に白点を

認めます。進行性夜盲,視野狭窄,視力障害など

を呈します。この眼底の白点は,加齢に伴って目

立たなくなります。

b 網膜上の赤斑

眼底出血,網膜裂孔,小血管瘤,血管腫で見ら

れます。出血ではその形態から網膜のどのレベル

で出血しているか推定できます。

c 眼底出血の分類(図4-4, 図4-5)

眼球の内側から順に説明します。1)~5)は図

4-4および図4-5の①~⑤に対応しています。

なお,2)~5)は網膜出血です。

1)硝子体出血 vitreous hemorrhage

硝子体そのものは無血管組織ですが,網膜出血

が硝子体中へ流入することがあります。糖尿病網

膜症,高血圧網膜症,網膜静脈閉塞症,Eales病

に見られやすく,クモ膜下出血に続発することも

あります(Terson症候群)。

2)網膜前出血 preretinal hemorrhage

後部硝子体と内境界膜の間,または内境界膜と

網膜神経線維層の間(網膜表層に相当)に貯留し

た出血です。出血後少し時間が経過すると,重力

によって杯状となります(ニボー形成)。硝子体

出血と同様に糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,

Eales病のとき,また,白血病性網膜症の際にし

ばしば見られます。

3)網膜浅層出血 superficial retinal hemorrhage

神経線維の走行に従うため,線状,火焔状,ほ

うき状を示します。最も代表的な原因疾患は網膜

静脈閉塞症で,高血圧網膜症や乳頭浮腫でも見ら

れます。

4)網膜深層出血 deep retinal hemorrhage

内顆粒層から深い層での出血です。グリア組織

のMüller細胞の配列で出血の広がり方が決まり,

暗赤色の点状,斑状,しみ状を呈します。糖尿病

65第4章 診察・検査

第4章

写真4-8 ドルーゼン

硝子体側

脈絡膜側

内境界膜 神経線維層

神経節細胞層

内網状層

内顆粒層

外網状層

外顆粒層

外境界膜

視細胞層

色素上皮

図4-4 網膜の構造と出血部位

図4-5 網膜出血の分類

③ ④

もはや薬剤による治療は無効です。混濁は瞳孔

領にかかり,視力障害が高度な場合は,角膜移植

の適応となります。

L角膜変性,角膜ジストロフィcorneal degeneration, corneal dystrophy

何らかの原因で,角膜の上皮や実質に混濁を生

じた状態を角膜変性といいます。その中で,遺伝

性を示し,両眼性で進行性の角膜混濁を角膜ジス

トロフィといいます。

1 角膜変性 corneal degeneration

a 老人環 gerontoxon

一種の老化現象で,角膜周辺部の実質浅層に生

じる輪状の混濁です(脂質沈着)(写真 8-5,図 8-

6左)。高齢者ではほぼ 100%にみられます。細隙

灯で見ると,混濁は強膜から連続しておらず,狭

い透明部分で隔てられているのがわかります。自

覚症状もなく,視力障害もありません。また,治

療の必要もありません。

b 水疱性角膜症 bullous keratopathy

外傷,白内障あるいは緑内障の手術などで,角

膜内皮細胞が極端に減少すると,角膜実質に浮腫

が生じます。これが進行して角膜混濁を来したの

が本症です(写真8-6)。

視力低下と眼痛を主症状とします。治療は角膜

移植です。

c 帯状角膜変性 band-shaped keratopathy

瞼裂間の角膜にカルシウムが沈着し,帯状混濁

が生じたものです(図 8-6右,写真 8-7)。腎不全

や痛風などの全身性疾患のほか,ぶどう膜炎,緑

内障,眼球癆などでみられます。

120 各 論

写真8-5 老人環 写真8-6 水疱性角膜症

老人環 (白く濁っている)

帯状角膜混濁

図8-6 老人環と帯状角膜混濁

d Salzmannザルツマン

結節変性

Salzmann nodular degeneration

上皮層に隆起する灰白色結節を生じる変性症で

す。ウイルス感染症に続発します。

e Terrienテリエン

角膜辺縁変性

Terriens marginal degeneration

老人環に類似した充血を伴った角膜周辺部の白

濁と菲薄化です。穿孔しやすく,どの年齢層にも

生じます。

2 角膜ジストロフィ corneal dystrophy

基本的には,病名がそのまま角膜の変性所見を

表します。多くは10歳前後に発症します。

角膜混濁が進行し,視力低下が著しいものには

角膜移植を行いますが,しばしば移植片にも変性

が発生します。

角膜ジストロフィは,表 8-2のように分類され

ます。

STEP 16

水疱性角膜症

誘因は白内障や緑内障の手術

主訴は視力低下と眼痛

M 強膜炎,上強膜炎scleritis, episcleritis

●概 念

文字通り,強膜および上強膜の炎症で,関節リ

121第8章 角膜疾患,強膜疾患

第8章

表8-2 角膜ジストロフィの分類

疾患名 遺伝 特徴

渦巻き状角膜ジストロフィ顆粒状角膜ジストロフィ(写真8-8)斑状角膜ジストロフィ

格子状角膜ジストロフィ膠様滴状角膜ジストロフィFuchs角膜ジストロフィ

伴劣常優常劣

常優常劣常優

Fabry病の90%に合併思春期に発症。ムコ多糖が蓄積生直後から発症。ムコ多糖が蓄積し,白色斑点が上皮化~実質中層に多発する生直後から発症。全身性アミロイドーシスに合併することがある学童期に発症。上皮層を粟粒大の隆起した白色透明の混濁が覆う初期には滴状角膜で,進行して内皮機能不全に陥り,水疱性角膜症のような上皮の浮腫変性を来す

写真8-7 帯状角膜変性 写真8-8 顆粒状角膜ジストロフィ

浮腫を除くために抗プラスミン薬を投与する,な

どが行われますが,約半数に再発が認められます。

漏出点が中心窩の無血管野以外なら,レーザー

光凝固を行うこともあります。

STEP 27

中心性漿液性脈絡網膜症

片眼性で,中年の男性に多い

中心暗点,変視症,小視症を来す

眼底検査で,黄斑部が浮腫状に餝離

蛍光眼底造影で,黄斑部に色素漏出

G 黄斑変性 macular degeneration

1 加齢黄斑変性age-related macular degeneration(AMD)

●概 念

文字通り,加齢に起因した黄斑部の障害で,60

歳以上に好発します。大半が片眼発症ですが,最

終的には高率に両眼性となります。放置すると失

明に至ることもあります。

網膜色素上皮が徐々に萎縮して網膜が障害され

る萎縮型と,異常な脈絡膜新生血管が,脈絡膜~

網膜色素上皮の下(図 10-5a),あるいは網膜と網

膜色素上皮の間(図 10-5b)に侵入して網膜を障

害する滲出型があります。近年,わが国では滲出

型が増加しています。

●症 状

黄斑部の障害に起因するので,前述した中心性

漿液性脈絡網膜症と同様に,視力低下,変視症,

中心暗点,色覚異常を呈します。

●検 査

①眼底検査

萎縮型は,黄斑部に不整形(円板状あるいは地

図状ともいう)の網膜色素上皮の萎縮が確認でき

ます。滲出型では,黄斑部の萎縮に,網膜浮腫,

出血,白斑も加わっています(写真 10-8左)。た

だし,新生血管は判別できません。

②蛍光眼底造影

脈絡膜からの新生血管は,フルオレセイン造影

でははっきりしないため,インドシアニングリー

ンによる造影を行います。

③その他の検査

脈絡膜の血管異常による疾患なので,光干渉断

層計も非常に有用です(写真10-8右)。

140 各 論

出血や脂質

感覚網膜網膜色素上皮Bruch膜脈絡膜

視神経乳頭

黄斑

網膜血管 強膜

水分

新生血管

水分

図10-5 加齢黄斑変性(滲出型)

a b

感覚網膜網膜色素上皮

Bruch膜脈絡膜

脈絡膜血管

●治 療

萎縮型の有効な治療法はありません。視力低下

の進行が緩徐なことが多いので,滲出型へ移行す

ることがないか,経過観察する必要があります。

滲出型の治療は,光に反応するベルテポルフィ

ンという色素を注入後に低出力のレーザー照射を

行って脈絡膜新生血管を閉塞させる光線力学的療

法photodynamic therapy(PDT)と,脈絡膜新生

血管を退縮させるための血管内皮細胞増殖因子

(VEGF)阻害薬の硝子体内注入です。脈絡膜新生

血管が黄斑部から離れている場合には,高出力レ

ーザーで病変を凝固させることもあります。

また,日光曝露によって生じた活性酸素による

黄斑変性を防ぐため,亜鉛やビタミンEなどの抗

酸化作用をもつサプリメントを用いたり,黄斑色

素密度を高めるルテイン含有サプリメントを用い

ることもあります。

STEP 28

加齢黄斑変性

新生血管による滲出型と,新生血管の

発生がない萎縮型

主訴は,視力低下,変視症,中心暗点,

色覚異常

インドシアニングリーンによる蛍光眼

底造影が有効

2 遺伝性黄斑変性heredomacular degeneration

a 卵黄状黄斑ジストロフィ(Bestベスト

病)

foveomacular vitelliform dystrophy

常染色体優性遺伝を示す黄斑変性で,5~ 15歳

で発症します。

黄斑部に,目玉焼の卵黄様の変性を生じます。

一般的に,網膜電図は正常で,眼球電図はJ平で

す。

有効な治療法はありません。

b 黄色斑眼底(Stargardtシュタルガルト

病)

fundus flavimaculatus

常染色体劣性遺伝を示す黄斑変性で,卵黄状黄

斑ジストロフィ同様に5~15歳で発症します。

錐体に発症し,黄斑部は特異な褐色ブロンズ様

と呼ばれる反射を示します。やはり,網膜電図は

正常で,眼球電図はJ平が一般的です。

本症にも有効な治療法はありません。

141第10章 網膜・硝子体疾患

第10章

色素上皮餝離

広汎な網膜下の出血と滲出が見られる。写真10-8 加齢黄斑変性(滲出型)の眼底所見(左)とOCT所見(右)

A 白内障 cataract

1 疾患概念

白内障とは,水晶体が混濁した状態です。水晶

体蛋白質の変性,水晶体線維の膨化・破壊など,

さまざまな要因で生じます。白内障の水晶体では,

水分貯留↑,Na+↑,K+↓,グルタチオン↓,ビ

タミンC↓という変化が生じています。

原因からは先天白内障,加齢白内障(老人性白

内障),併発白内障,全身疾患に伴う白内障,そ

の他(薬物によるもの,外傷性,物理化学的障害)

に分類されます。

また,混濁の部位からは,核白内障,皮質白内

障,前・後餒下白内障,層間白内障などに分類さ

れます。

a 先天白内障 congenital cataract

●概 念

生直後にすでに認められたり,乳幼児期に発症

する白内障です。

表11-1に示すような遺伝性疾患や胎内感染など

によって,水晶体混濁を来すものが重要です。そ

のほか,細隙灯顕微鏡検査でようやく認められる

程度の,白い砂粒大の混濁を呈している症例がし

ばしばみられます。しかし,この程度のものは視

力に影響することもなく,進行もしません。そし

て,このような場合は治療の必要もありません。

●症 状

年齢から,自覚症状は認められません。

瞳孔領中央に比較的大きな混濁を有するもの

は,他覚的に白色瞳孔を認めたり,眼振や斜視が

出現することで気づかれます(写真11-1)。

b 加齢白内障 age-related cataract

●概 念

混濁を生じる主たる原因が,加齢に伴って起こ

る水晶体の変性によるものと考えられている白内

障です。ただし,紫外線など,他の因子の関与も

考えられています。出現時期や程度に差はあって

150 各 論

第 11 章

水晶体疾患

写真11-1 先天白内障

表11-1 先天白内障の原因疾患

分類 疾患名

代謝異常 ホモシスチン尿症,ガラクトース血症,アミノサン尿症,Hurker病

胎内感染 風疹,単純ヘルペス感染症,水痘,トキソプラズマ症,梅毒

その他 Down症候群,Alport症候群,Lowe症候群,Marfan症候群

も,誰にでも認めるようになります。

●症 状

徐々に悪化する視力低下です。ただし,必ずし

も混濁が強いときに視力障害が強いわけではあり

ません。水晶体に存在する混濁が眼球内に入る光

を散乱させるため,羞明も出現します。混濁によ

る霧視を訴えることもあります。

●検 査

細隙灯顕微鏡で水晶体に混濁が見られます。典

型例では,最初は水晶体の周辺部における車軸状

の混濁(写真 11-2)ですが,徐々に進行して水晶

体全体が混濁します。いわゆる皮質白内障です。

散瞳するとより明らかです。

混濁の程度からは初発白内障,未熟白内障,成

熟白内障,過熟白内障と分類していますが,全体

が混濁した状態を成熟白内障と呼びます(図 11-

1)。

過熟白内障は,成熟白内障が放置され,水晶体

が膨化したものです(膨化白内障)。前房が浅く

なり,続発緑内障を起こすこともあります。

光覚弁であるような高度の視力障害を認める場

合は,網膜機能を調べるためには網膜電図(ERG)

検査が必要になります。

c 併発白内障 complicated cataract

眼疾患に伴って生じる白内障です。例えば,長

期にわたるぶどう膜炎や網膜餝離などでは,水晶

体に栄養障害が起こるため発症します。

加齢白内障とは異なり,網膜機能が障害されて

いれば,単に混濁した水晶体を除去をしても視力

回復は期待できないので,網膜電図や超音波検査

などを行い,手術適応を検討することになります。

d 全身疾患に伴う白内障

1)アトピー白内障 atopic cataract

アトピー性皮膚炎の人にみられる白内障で,若

年者の白内障ではかなりの頻度に上ります(写真

11-3)。

2)糖尿病白内障 diabetic cataract

糖代謝障害によって惹起される眼病変の 1つで

す。糖尿病では,糖尿病網膜症や虹彩の血管新生

をみることもあります。

e その他の白内障

1)ステロイド白内障 steroid cataract

長期間の副腎皮質ホルモンの全身投与で白内障

が生じることがあります。後餒下にできやすくな

っています。

2)放射線白内障 radiation cataract

放射線曝露によって,数か月~数年後に白内障

が生じることがあります。放射性物質の取り扱い

従事者,頭部の放射線治療を受ける患者などが問

151第11章 水晶体疾患

第11章

写真11-2 加齢白内障

初期のものは普通の 状態ではわからない

散瞳すると

車軸状

初期 (初発白内障)

やや進行 (未熟白内障)

成熟白内障

図11-1 白内障の進行