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Tips for Clinics 宮津光伸先生は,愛知県内の病院で小児科医として予防接種に携わる中 で,ワクチンの定期接種洩れが非常に多いことを危惧し,自治体などに 働きかけ,ワクチン接種の普及に取り組み始めました。名古屋市内の名鉄 病院に赴任後は,愛知県における予防接種の広域化を目指して,1996年, 同院に国内初の専門医が対応する予防接種センターを創設されました。 今年で20年目を迎える同センターの特徴やワクチン接種スケジュール, ワクチン接種をより普及させるための取り組みについてお話を伺いました。 〒451- 8511 愛知県名古屋市西区栄生 2 - 26 -11 http://www.meitetsu-hospital.jp/kakuka/yobou.html 26 ワクチンジャーナル Vol.3 No.1 26 名鉄病院 予防接種センター 宮津光伸 名鉄病院予防接種センター センター顧問 SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.

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Tips for Clinics

  名鉄病院予防接種センターの開設経緯

 予防接種法に定められた定期予防接種は市町村が実施主体で,市町村と契約した医療機関などにおいて実施されます。そのため,定期予防接種を実施するには,各自治体との契約締結が必要となります。定期予防接種の洩れ者対策として,名鉄病院小児科で名古屋市および愛知県西部の予防接種ができるようにしたいと考えましたが,一般病院の小児科ではなかなか契約が難しい状況でした。そこで,当時の山田和生院長(名誉院長)に相談して,1996年10月に,予防接種センターを創設し,予防接種に専門的に取り組む姿勢をアピールしたことで,次年度から市町村と契約を締結することができ,県内の約70%(人口比)の自治体と契約しています。 契約を得るには常に自治体と話し合うことが大切です。私たちは当初から契約した市町村を対象にした勉強会を年に1回開催していました。そのうち愛知県に興味を持ってもらうことができ,3回目から愛知県全体の研修会として当院主催(名鉄病院予防接種懇話会)で行うことになりました。以来,勉強会を継続しており,約20年にわたる地道な努力や医師会をはじめ関係者の方々のおかげで,2014年,ようやく愛知県全体での予防接種の広域化が実現しました。 

  センターの特徴

 私たちはいかに安心・安全に予防接種をするかということが大事だと考えています。もともと痙攣やアレルギーなどの基礎疾患児が定期予防接種を見送られてきているのを危惧し,それらの洩れ者対策として始めましたが,現在では海外渡航のための予防接種の相談や実践,および情報発信も重要な位置を占めています。東海地区のみならず全国から相談がきています。 事前の接種相談は無料で,電話,FAX,メールで受けています。相談された8割くらいの方が実際に来院されています。愛知県内には海外渡航ワクチンに対応している施設があまり多くありません。現在では当センター受診者の8割が海外渡航目的の方となっており,特殊な相談も次々来るようになりました。 相談に乗った内容の予防接種は責任を持って実施するようにしています。ですから,当センターで管理するワク

チン数はどんどん増えており,現在輸入ワクチンを15~16種類使用し,特殊な条件でもできる限り対応しています。 三種混合や日本脳炎などの複数回接種する不活化ワクチンはほぼ100%免疫を獲得できますが,生ワクチンは理論的には接種は1回でよいものの,弱毒されているので,充分な免疫が獲得できないことがあります。最近は2回接種となっており,2回接種すれば90%は免疫が獲得できますが,残りの10%弱は不十分な免疫のまま,成人になります。当センターでは生ワクチンは接種したままにせず,抗体検査で免疫を確認するようにしています。生ワクチンは,免疫を確認できて初めて有効であるという基本を守っています。 当初はセンターの常勤は私一人でしたが,2009年から現在センター長を務める菊池医師が加わり,二人体制になりました。さらに,2年ほど前からはワクチンに関心のある医師5人が週に1回,連日手伝ってくれています。外来は基本的に予約制ですが,予約の必要がない時間帯も設けています。火曜日と木曜日の午後で,午後3時までに受付をしていただいた方には接種をしています。これはセンター開設時から続けており,急ぎの接種に対応できるようにしています。 高齢者や小児のワクチンも含め,院内のワクチン接種はすべて当センターで行っています。職員の院内感染対策として抗体検査,追加接種,インフルエンザ接種にも中心的に参加しています。

 小児用13価肺炎球菌ワクチンも,65歳以上で認可されており,13価と23価の両方を接種するとさらに有効といわれています。実は小児用13価を接種し,その6~12ヵ月後に23価を接種したほうが効果的ですが,定期としての23価を接種しに来られた方に申し訳ないので,23価を先に接種し,その1年後に13価を接種するように話しています。また,23価は接種後,5年あけて追加接種も推奨しています。 まず,13価の接種を推奨していますが,定期接種の公費助成があるのは23価のみですから,現在,13価も公費助成となるように自治体や医師会などにいろいろな場で働きかけています。なお,これらは上腕三角筋に筋注するワクチンです。

  ワクチン接種をより普及させるための取り組み

 ワクチン接種をより普及させるためには,公費助成をしてもらうこととともに,医師会に関心を持ってもらうことが重要です。また,今なお接種ワクチンの間違いが多いという問題もあります。「間違い」と「勘違い」は異なります。「勘違い」は,十分に理解できていないために,間違いに気付いていない場合です。もっと,研修会に出席して,予防接種に関心をもってもらって,思い違いを訂正して下さい。「間違い」は,それなりの知識と理解はありますが,年齢や間隔などのうっかり間違いが多いです。期限切れ接種もときどきあります。医師は気付いていなくても自治体が把握しますので,今後の対応や副反応などについての相談が近年増えてきています。 一般市民や自治体だけでなく海外赴任させている会社の担当者など,そして一般の接種医などには,基本的にはホームページで情報を提供しています。市民向けの勉強会を開催したこともありますが,参加者は限られており,すでに予防接種について十分理解されている方ばかりでした。 最近はインターネットから情報を入手される方も多いようです。しかし,その情報の多くは誤解に基づく間違いがあり,ワクチンは危険,接種してはいけないなどという無責任な情報に振り回されているようです。ワクチン接種をより普及させるためには,市民にいかに正しい情報を伝えていくかも重要な課題の1つといえるでしょう。子どもの健康を守るための重要な方法が予防接種です。できるだけ早期から計画的に,安全で有効な接種を勧めています。

  今後のワクチンの展望

 日本でも種々のワクチンが使用できるようになり,種類においてはいわゆるワクチンギャップはほとんどありません。米国で接種しているワクチンは,ほとんどすべて日本で接種することができます。また,米国の大学に入学する際に必要となる髄膜炎菌性髄膜炎ワクチン(MCV4)は,2015年5月から任意接種できます。Tdap(青年用のDPT)は,まだ輸入しなければいけませんが,2年後には日本でも使えるように準備しています。その際にはDPTの2期としてDTに替わって定期接種されることを願っています。 問題は混合ワクチンです。日本では四種混合(三種混合+不活化ポリオ)が最多ですが,米国ではそれにHibが入った五種混合が,欧州ではさらにB型肝炎を加えた六種混合が主流です。つまり,海外でも接種すべきワクチンは多いですが,混合ワクチンがありますから,実際に接種する本数は少なく,2本で完了します。しかも接種部位は,海外ではすべて大腿外側に筋肉注射であるのに対して,筋注に抵抗感がある日本では上腕の皮下注射です。しかし,上腕に打つと,痛いですし,副反応が出やすく,効果も劣ります。乳児期のワクチンはできるだけ大腿外側に接種するようにしましょう。いずれは日本でも,より安全で,より有効な打ち方である筋肉注射に替えていかなければならないと考えています。 このようにワクチンの種類にギャップはないものの,打ち方や考え方のギャップはまだまだあるわけです。そのギャップをなくすためには,やはり医師や自治体に対する啓発活動は重要であり,今後も取り組んでいきたいと思っています。

  海外渡航者の予防接種スケジュール

 海外渡航するためのワクチンは年齢によって異なり,1968年(昭和43年)以前の生まれの人は,破傷風を接種していないので,1ヵ月間隔で2回接種し,約1年後に追加します。1969年(昭和44年)以降生まれの人は,三種混合(DPT)世代で,通常4~5回接種しているので破傷風の必要はなく,DPTで追加接種をします。現在はDPTが入手できないので,四種混合(DPT- IPV)で同様に対応しています。DPTの代用は,DTや破傷風ではありません。 A型肝炎は生水や生野菜などで感染します。日本でも最近は4年に1度のサッカー・ワールドカップの際に,若者が海外に応援に行き,帰国後に発病するというケースが増えています。仕事で渡航する人はきちんと予防接種をしていきますが,若者にはそういう意識はほとんどありませんから,非常に危険です。日本は衛生管理が優れているので,地域的な小流行で済んでいます。 日本脳炎は中国,インド,東南アジア,南西アジアでは現在も流行しています。B型肝炎は血液や体液を介して感染しますから,サッカーやラグビーなど体が触れ合うようなスポーツで感染する可能性もあります。狂犬病ワクチンは本来は哺乳類に咬まれてから接種するものです。ワクチンの入手可能な地域では事前予防は不要ですが,入手が困難な地域へ渡航する場合は積極的に,WHO方式(0日- 7日- 21日)での接種を考慮します。1- 2回では全く無効ですから必ず3回済ませてから渡航することが大切です。 その他にも小児麻痺,髄膜炎菌性髄膜炎,腸チフス,コレラ,ダニ媒介性脳炎,黄熱といった疾患の流行状況に応じて必要最小限のワクチンを計画的に接種して,英語表記の接種記録カードを渡しています。 基本的にはワクチンの有効期間は10年ほどですから,どの世代も母子手帳でワクチンをどこまで接種しているか確認することが大切です。そして,年齢,渡航先,渡航先での行動,および渡航までの準備期間などを考慮して,その人に応じた接種スケジュールを立てます。 電話やメールなどでの事前相談の際には,具体的なスケジュールを話して,必要なワクチン接種やその接種に必要な期間などについて伝えます。概ね1ヵ月以上あれば,基本的なものは完了できますが,渡航の目的,期間,そして年齢によっては,最短で2週間,さらに時間がなければ1週間

あけて2回の受診機会があれば,可能な限り計画的に接種を行い,渡航先で追加接種するように指導しています。 たとえば中国に赴任する場合,初回来院時にA型肝炎,B型肝炎,日本脳炎,三種混合(四種混合)を接種して,麻しん,風しん,おたふくかぜ,(水痘)の抗体検査をします。1ヵ月後にA型肝炎,B型肝炎,日本脳炎の2回目を接種し,もし麻しんなどの免疫がなければ,その際に同時接種します。さらに,半年から1年後に一時帰国した際にA型肝炎,B型肝炎の追加接種と肝炎の免疫の確認検査もしています。A型肝炎は,3回接種で約90%陽転していますが,B型肝炎は,せいぜい70 - 80%程度にしか陽転していません。リスクの高い海外生活ですから,陽転していないと危険です。

  子どもの予防接種のスケジュール

 子どもの予防接種はいかにうまく同時接種をするかに尽きると思います。予防接種は成長するためには必要なことであり,注射針を刺せば子どもは当然泣きます。押さえるだけでも泣きます。同時接種にすれば1ヵ月に1回泣かすだけでいいわけです。毎週接種すると,そのたびに泣かすことになりますし,毎週病院に行くことで風邪などの感染症がうつる可能性もあり,有害事象に遭遇するリスクが高くなります。当センターではお子さんの安全のためと,子どもと親の負担を減らすために同時接種を推奨しています。 接種されたお子さんを持つ保護者の方には,副反応についての説明を記したものを渡すだけでなく,必ずポイントを説明します。そして,生ワクチン接種時には6~8週間後に採血をして抗体検査で免疫を確認することを勧めています。

  高齢者に対する肺炎球菌ワクチンの接種

 2014年10月からその年度65歳になる方は,23価肺炎球菌ワクチンが定期接種となりました。また,2018年までは5歳刻みで70歳,75歳,80歳,85歳,90歳,95歳,そして100歳以上も定期接種となります。このワクチンは1回の接種で約5~7年間は有効ですから,インフルエンザワクチンのように毎年接種する必要はありません。

 宮津光伸先生は,愛知県内の病院で小児科医として予防接種に携わる中で,ワクチンの定期接種洩れが非常に多いことを危惧し,自治体などに働きかけ,ワクチン接種の普及に取り組み始めました。名古屋市内の名鉄病院に赴任後は,愛知県における予防接種の広域化を目指して,1996年,同院に国内初の専門医が対応する予防接種センターを創設されました。今年で20年目を迎える同センターの特徴やワクチン接種スケジュール,ワクチン接種をより普及させるための取り組みについてお話を伺いました。

〒451-8511 愛知県名古屋市西区栄生2-26 -11 http://www.meitetsu-hospital.jp/kakuka/yobou.html

26 ワクチンジャーナル Vol.3 No.126

名鉄病院 予防接種センター

宮津光伸 名鉄病院予防接種センター センター顧問

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