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金 属 の 疲 勞(Ⅰ) - JIM · 2008. 12. 9. · (1) H. J. Gough, The Fatigue of Metals, (1926), 2. さて繰返應力に對する材料の壽命は繰返される應力の 範圍*の

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第10號  金属 の 疲勞  491

金 属 の 疲 勞(Ⅰ)

大 柴 文 雄*

1.疲 勞 破 損

機械及び構造等の部材の うち軍純な静荷重を受けるも

のは極めて稀で,大部 分は多少とも荷重の變動に曝 され

絶えず鷹力の繰返しを受けつつあるのである.素 より各

部材の設計に當つては應力の性質,材質の良否,工作の程

度,その他運 轉の状況等に則 した理論及び實験的根據 に

基づき更に實地に得た経験的智識 を綜合して,各部材に

對しでは十分安全なるべ き使用應力を取つてある筈であ

るが,な ほ且つ 不慮の破損に遭遇することが勘 くない.

部材が繰返應 力を受 けその爲に破斷することを疲勞破損

といひ,實際 の破損の中90%ま でが疲勞破損と算せら

れてゐる.こ のことは反面に於て疲勞 といふ問題が如何

に複雑なものであるかを物語るものである.

疲 勞破損であるか否かはその破面観 れば大抵の場合制別する事が出來る.破 面の外観は一般に組織の細かな

貝殻状を呈した部分と粗い組織 を示す部分とから成 り,

前者は一點に出來た龜裂が長時日に亙る運轉 中に次第に

擴大して出來た所謂た勞割れの部分で,部材はこれだけの

割れが出來る間實際の繰返荷重に耐へてゐたのである.

疲勞割れが次第に損大すると有効な断面積が漸次減ずる

ので,遂に部材としてその時の荷重に耐へ切れず破斷す

るようになる.組 織が比較的粗 く見える部分は最後の極

僅かな荷重の繰返しによつてちぎられた部分である.

斯様に疲勞による破面は精粗の區別が明らかな2つ の

部分から成 り,且つ疲勞割れの部分にはその發 展の原點

第1圖

を示す箇所があ

ることが特長で

ある.第1圖 は

クランク腕の疲

勞破面 を示すも

の で,a點 か ら

始 まつた疲勞割

れが半圓形に發

達し全體と して貝穀状を呈 する こ とが 明 らかに認めら

れ,殘 りの部分 と明瞭に區 別される.第2圖 は發條の疲

勞破面を示し細長い楕圓形の疲勞割れの部分 と殘 りの部

分とPO別が極めて明確に示 されてゐる.第3圖 は飛行機

のプロペラ軸の,疲勞破面 を示 し勞割れはaか ら始 まり

貝殼状に發達 してゐることが判 る.第4圖 が示すのはシ

ュボレー自動車の發條の疲勞破面であるが,aか ら始まつ

て半圓形に發達した疲

勞割れの部分は殘 りの

第2圖

第4圖

第3圖

部分に謝し

て甚だ小 さ

いことか ら,

自動車が走

行中凸所に

乗 り上げた

か或は凹所に陷没 したかによつて,可成激しい衝撃が一

時的に發條に加つたため破断したことが窺はれ る.

疲勢割れの原鮎は必ずしもただ一つに限らない.設 計

の條件換言すれば部分の成形様式,仕上げの程度,及 び使

第5圖

用條件換言

すれば部材

が曝され る

環境の如何

等によつて,

た勢割れの

原點が數個

の場合 も非

常に多数の

場合 もあ る.

第5圖 は自

動車用差動

歯車軸の疲

勞 破面を示

*米 澤高等工 業學校教授

すものであるが3點 からた勢割れが 始 まり,第6圖 は舶

用プロ ペラ軸の破面 の一部を示すが,この場合 は所謂腐

蝕疲勞で實に多數の點か ら疲勞割れが生じ,然 も相互に

傾斜した面に於て各獨立 して發達 したことを示してゐる.

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492  講 義  第4巻

疲勞割れは應力集中の最 も激 しい點に始まるから多 く

の場合部材の表面の點から起るが,時に は内部 の一點に

原點を有することもある.こ れは材質に缺陷があつて,

第6圖

そこに異常な應力集中が起つた場合である,第7圖 は鐵

道軌條の疲勞破面を示し,頭部 の内部の一點から始まつ

た疲勞割れが四方に發達して波紋状 を呈してゐるのが認

められる.斯 様な場合は疲勞割れが部材の内部に發達し

第7圖

てゐるに係 らず,外部

へは容易に現れないの

で甚だ危險である.

疲勞破面の形式及び

外観から應力の毬類及

び大さ,材質の良否,工

作の適否その他設計上

有益 な資料が得 られ

る.こ れが爲には疲勞

割れの生成及び發達の

機構を究めることが必

要である.

Ⅱ.疲 勞 限 界

1.疲 勞限界及び耐久限界

Gough(1)に よれば疲勞とは繰返應 力に曝された時に

材料が示す行動をいふ.材 料が繰返應力を受けたとき,

場合によつては彈性限界,抗張 力等が増大 することもあ

るが,一般に機械的性質及び物理化學的性質が害される.

たとへ彈性限度,抗張力等が増大する場合 とても粘性の

減少を伴ふか ら,これらの性質をその まま直 ちに應用す

るが如 きことは出來ない.そ れ故疲勞とは繰返應力だよ

つて材料の性質が損傷 され る現象をいふと定義 してよ

い.と れによれば疲勞の意味を明確に表はすことが出來

る.

(1) H. J. Gough, The Fatigue of Metals, (1926), 2.

さて繰返應力に對する材料の壽命は繰返され る應力の

範圍*の 大小によつて著しく異なる.即 ち應力範圍が六

なるときは材料の壽命は比較的短いが應力範圍が小なる

ほど壽命 は増大 し,應力範圍がある値に下れば108又 は

10°回といふ甚だ大 なる繰返に耐へる事が出來,事實上材

料は永久に破斷しないと考へて差支ない.材 料が永久に

耐へられる應力範圍の最大値を疲勞限界といふ 第8圖

第8圖

は正負等大の曲げ應

力を繰返した場合の

應力範圍と材料の壽

命即ち破斷した際の,

繰返數との關係を示

すもので,こ の曲線

を耐久曲線又はS-N

曲線 といふ,圖 に於

て明らかに認められることは應力範圍が小さくなると急

激に繰返數が増大することで,鐵鋼に於ては大低の場合

明瞭なた勞限界が見出される.こ の曲線の形は

S=KN-m

で表はされる.K及 びmは 實驗 的 恒數である.そ れ故

に兩軸にlogS及びlogNを それぞれ取つて曲線を霞け

ば直線 となる.Basquin(2)に よればNが1O7以 上なる

點は直線から外れるから疲勞限界を見出すにはこの方法

が便利であるといふ.第9圖 は第8圖 に示 した結 果を

この方法で示した例である.

第9圖

上 式 中の恒數K及

びmは 材料 に より,

また應力の種類によつ

て異なるか ら,直 線の

傾斜が場合によつて多

少異なる.或 る場合に

は1ogS及 びlogNの

代 りにS及 びlogNと

を以てする方が寧ろ疲勞限界の決定には便利なことがあ

る.事 實,ま た取 り扱ひ も簡便 であるか ら後の方法が實

際に屡々用ひられる.

鐵鋼の場合には應力の繰返數を107に 取れば疲勞限界

は明確に求められるが,非鐵金属の場合には繰返數を109

に取るも似ほ明確な疲勞限界 が得 られ ぬ場合が砂 くな

い,斯 様な場合又は事情により繰返數 を十分大きく取つ

て試験する餘裕の無い場合には,或 る繰返數,例へばN=

5×107と 限定 してこれだけの繰返 を行つても試片が破

斷しない應力範圍の最大値を求め,これをもつて耐久限

(2) O. H. Basquin, Proc. Amer. Soc. Test. Mat., 10 (1910).*應 力が繰返 され る上下雨極限値 の 代數 差を 應力範圍 と

いふ.

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第10號  金属 の 疲 勞  493

界(,5×107)と する.こ の様にして耐 久限 を定めるとき

は限定した繰返數に依つて耐久限界が異なることは當然

である.12

.應 力の作用様式と疲勞限界又は安全應力範圍

例へば曲げ應力が繰返され る場合 に就て考へるに,曲

げ應力が0と ある一定値 との間に繰返 される場合と正負

等大の兩極限値の間に繰返される場合は何れ も比較的單

純な場合であるが,實 際には應力の變動する雨極 限値が

様々で事情は複雑である.應 力の作用様式が變ればそれ

に從つて疲勞限界も異なる事は實験上確似事實である.

この種の組織的な最初 の研究はA.Wohler(3)に 依つて

行はれ,第1表 に示すのはその結果である。

第1表(A. Wohler)

繰返應力が0〓 +σ(又は一σ)の間に往復す る場合の

疲勞限界を片振疲勞限界といひ,-σ〓+σ 間に往復する

場合のそれを兩振疲勞限界といふ.上 表によれば引張強

さ:片振疲勞限界:兩 振疲勞限界の値は大略3;2:1で あ

る,C. Bach(4)は この結果に據つて種々の工業絹材料に

つき各種の應力に對する許容應力(又 は使 用内 力)を定

めた.こ の ものは長らく實際に應用されて來たが爾來發

表された多くの實験結果 を綜 合するに,この値は梢大に

通ぐることが判明し,最近に於ては大略2:1・5:1を 取る

やうになつた.素 よりこの値 も大略の平均の値 を示すも

ので,各材質に應 じて個 々の實験結果 より定めねば嚴密

でない 例へば鑄鐵の如く引張強さと壓縮強さとが異な

る場合は繰返引張の場合の値 と繰返壓縮の場合のそれ と

は當然異なる筈で,實 験(5)に依 れば繰返 引張 の場合の

3・10:1・45:1に 對し繰返壓 縮の場合は10・07:5・67:1

の如き例 もある.な ほ同一の鍋でも熱處理の如何に依つ

て同一の繰返引張 とやふ條件の下でも上記の疲勞限界の

比が異似る場合 が生ずるのである.こ れは疲勞限界 と降

伏點との關係から起 る事柄であるが,後章 に於て詳述し

やう.

次 に應 力の 繰返 しが 一般 的 似場 合 に就 て 考へ る.今 應

力の上 限値 を σmax,下 限値 を σminと し.σmax-σminを 應

力範 圍 と呼 ぶ.

と表はしてσaを應力の振幅,σmを平均應力と呼ぶ.然 ら

で あ る.

σmin=0な る と き σmax=2σaな る 片振 繰 返 應 力の 場

合 で,こ の 時 の疲 勞 限 界 とは應 力 を0と あ る有 限 値 の 間

に 無 限 に繰 返 して も安 全 で あ る と いふ應 力の範 圍 に外 な

らな い,,また σm=Oな る と き は σmax=-σmia=σaと な

り,兩振繰返應力の場合であ り,

このときの疲勞限界 とは正負等

大の兩極限値め間に繰返して安

全なる應力の範圍を指すことは

言を俟たない.更 に一般に上下

二つの極限値の間に應力が變化

する場合 には,上限値 又 は下限

値の何れか一方が指定されれば,これに對 し安全なる他

極限値,從 つて安全應力範 圍が定まる.そ れ故にの上

下2つ の極 限値 の 間 に應 力が變化す る一般の場合の

疲勞限界又は耐久限界は何れか一つの應力とこれに對す

る安全應力範圍とを以て示さるべ きである.Goodman

線圖(6)はσminが輿へられたとき,これに對し安全な6max

の曲線が直線となり,兩振耐久限界が材料の引張強さの

1/3に,片 振耐 久限界は1/2に 等しいといふ關係をもつ

たものである.

安全 應 力範 圍 を輿 へ る實驗 式(6)は 古 くか ら種 々示 され

て ゐ る,Goodmannの 式 は,σw=兩 振 耐 久 限 界,σB=

強張 強 さ とす る と,

即 ち σaとσwと の 關 係 を 直 線 で 表 は した もの で あ る こ

とは 上 述 の 通 りで あ る.直 線 の代 りに抛 物線 で表 は した

もの がGerber(7)の 式 で次 の如 き もの で あ る.

この 外Launhardt,Weyrauch(8)等 の 式 を 擧 げ る こ と

が 出來 るが,餘 り實 用 的 で な いか ら説 明 を省 略 す る.

第11圖 は平均應力と安全應力範圍との關係 を表はす

實験結果をSmith(9)の畫 法に從つて示 した例であるが,

(6) H. J. Gough, The Fatigue of metals, (1926), 66.

(7) W. Gerber, Z. Bayerischen Arch. lng. Vereins, (1874).

(3) A. Wohler, Z. Bauwesen, Jg. 20 (1870), 74~106.

(4) C, Back, Die Maschinenelemente, I, 89 (1922)

(5)西原 利夫,機 械 學 會 論文 集,5 (1939), 93.

(8) J. Weyrauch, Proc. Inst. civ. Eng., (1880-1881), 63.

(9) J. H. Smith, J. Iron & Steel Inst., (1910) Ⅱ, 246, (1915),

1, 365.

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494  講義  第4巻

安全應力範圍の上下兩極限値は還状曲線を形成すること

が判る.

西原博士(10)は平均應 力σmに對する安全繰返應力の振

幅 σaとの關係を次式で表した.

第11圖

第12圖

茲に σTま眞破斷 力即ち引

張試片の破斷時に於ける荷

重を切斷面積 で除 した値

である.こ の關係 は第12

圖の直線U'B'ABTで 示 さ

れ,鋼 に於ては平均應力が

引張の側 も壓縮の側も共に

實用上重要 な部 分に對 し

て實験値 と大略一致し,鑄

鐵,デュ ラル ミン等 に於て

は平均應力が引張の側の實

用部分に對しては大なる誤

差を生じない.

第12圖 の如きを

西原博士に從つ

て耐久限界線圖

と呼ぶ.

設計上最も基

本的な兩振耐久

で,σ-u/σuが 鋼 に 於 て は 平 均1・65と な り,以 前 は1・0と

され て ゐ た もの で あ る.

3.應 力の種類と疲勞限界

疲勞試験のうち最 も簡單に行ひ得るものは回轉曲げ試

験である.即 ち試片に一定の曲げモー メン トを加へつつ

試片を連續回轉すれば試片の外周上の一點に正負等大の

最大曲げ應力が繰返 され,試 片の中心に近 い點 ほど繰返

曲げ應力の極際値が減少し中心に於ては0である.斯 様

な繰返曲げ應力の状態に於ける疲 勞限 界は,試片が一定

面内に於て繰返曲げ應力を受ける場合の疲勞限界とは稍

値 を異にする筈である.實驗 に依れば後者の兩振耐久限界 σω"は前者の回轉曲げ耐久限界 σw'の0・8~1倍 であ

る.試 片の軸方向にかかる引張壓縮に對する耐久限界及

び繰返振 りに對する耐久限界等はそれぞれ材料特有の髄

を取るから實驗に依つて求むる外ない.上 述の如 く回轉

曲げ耐久限界は最も容易に求められるか ら,これに對し

他の種々の應力に於ける耐久限界の比を知って置けば設

計に便利である.第3表 にこれを禍げたが、σw'は回轉曲

げ耐久限界を示し,その他の記號は前節 に於けると同じ

である.表 中の各數値は平均値であるが將來實驗が追加

されるに從つて多少變更さるべ きものである.尚 實際の

事情 に依つては表掲の値 との相違が ± Ⅲ5,16%に も及

ぶ場合があることを記憶せねばならぬ.

第3表

限界と片振耐久限界 との比の實験値を示すと第2表 の通

りであるが,各種應力に對する耐久限界を次の記號*を 以

て表はしてお く

σw=兩 振引張壓縮耐久限界,σu=片 振引張耐久限界,

σ-u=片 振壓縮耐久限界,σw"=兩 振曲げ耐久限界,

σu"=片 振 曲 げ耐 久 限 界, τw=兩 振 振 り耐 久 限界,

τu=片 振振 り耐 久限 界.

第2表

4.引 張強さと疲勞限界

最 も簡單な回轉曲 け耐久試驗も實際に疲勞限界を求め

るには數 日を要する.か や うな時 日の餘裕 なき場合には

た勞限界 と機械的 質との關係を知つて量けば設計.には

頗る便利である.

Stribeck(11)は18種 の 炭 素 鋼 と4種 の ニッヶル 鋼 に就

て のMoore及 びKommers(12)の 實驗 結 果 か ら次 の 式 を

導き,他 の2,3の 實 驗 結 果 に 當 て 嵌 め て 實 用 し得 る もの

と決 め た.

(*實 驗數特 に少し)

表中の數値は多くの實験結果の平均値で,士10%程 度の

相違の生ずる場合 もある.鼓 に注意 すべ きはσuとσ-u

の値が鑄鐵に於けるのみならず鋼 に於て も異 な ること

茲に σw'は回轉曲げ耐久限,σSは降伏點而してσ3は引張

弧さを表はす こと前 と問じである.引 張曝 さと降伏點

を知つて大略の疲勞限 界を見積るには便 利 な式である

(10) 西原利 夫, 機 械 學 會 誌, 38 (1933), 677.*参 考 の便 宜上,日 本學 術振 興 會編,金 属材料應 力論中の

輯録に從 ふ.

(11) R. Stribeck, Z. V. d. I., 67 (1923), 631.(12) H. F. Modre, J. B. Kommers, Bulletin Ill., 124 (1921)

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第10號  金属 の疲 勞  495

が,次々に發表 された實驗結 果に照合するに係數0・57

(Stribeckの 係數 といふ)に はか な り誤 差 あ ることが

知られ,寧 ろた勞限 界を引張強さと直接結び着 ける方が

Stribeckの 式よ りも誤差少きことが判明した.即 ち

σw'=ασB (5)

な る 關 係 と す る の で あ るが,aと て も 勿 論 一 定 で は 似

い.第13,及 び14圖 にそ れ ぞれ 炭 素 鋼 及び 合 金鋼 に就

てのStribeck係 數 及びa並 び に β=σw'/σsを 示 した.

圖 に依 て 明 らか な や うに,係 數 βの 變 動 が 最 も著 し く

Stribeckの 係 數 これ に次 ぎ,aの 變 動 が最 も小 で あ る,而

してaは,實 用 に 多 く供 せ られ る鋼 に 對 し て は0・60~

0・40の 間 に變 り,然 も強 さの 大 似 る も のほ ど 小 な る値 を

第4表取る.各 種の材料に就き

aの 値を示せば第4表 の

通 りである 同表の數値

の うち初めのものは平均

値で,次の土 の數値は材

料の強さに應じてその範

圍内に於て加減すべ き値

である,即ち引張強さの

小なる材料に對しては十

の大似る値 を取 り,引張

強さの大なる材料に對 しては一 の大なる値を取るもの

とする.

第13圖

以上本節及び前節に於て述べ た事 柄を綜合すれば,機

械部材の設計に於て,後述する如き切缺効 果なくまた腐

蝕疲勞,温度等の環境上の懸念なき單純な状態に於ける

許容内力は容易に決めることが出來る.即 ち與へられた

材料に對 しその引張強が知れればこれよりσw'を上記の

係數に依つて定め,これを基礎 として任意 の種 類の繰返

應力に對する耐 久限界を想定して,これを適當に取つた

安全率にて除すれば許容應力が決 まるのである.こ の場

合特に注意すべきは材料の降伏 といふ問題である.次 節

にこれに就て述べることにする.

5.降 伏點と疲勞限界

第13及 び14圖 に見る様に係數 βはτsの 小なるに從

つて大で,炭素鋼に於て はσs=2000kg/cm2,合 金鋼に於

ては σs=40001cg/cm2附 近に於て βは殆んど1に 等し

く,場合に依つては1以 上 となる.換言 すれ ば降伏點の

低い鋼に於ては降伏點に近い繰返應力を無限に反覆加へ

ても破壊が起らぬ,また降伏點以上の繰返應 力にさへ材

料に依つては永久に耐へることが出來るのである.然 し

實際設計上必要な條件としては部材が破損 しない といふ

事柄だけではな く,何等の變形 も起 らないといふ事が要

求せ られる.

降伏點以上の應力を加へこれ を繰返した際,た とへ材

料が破壊することがないとしても,降伏が 起 り部材の變

形が伴ふ事は明らふであるが,降伏點以下 にしてこれに

近い應力を繰返すときは,變形が起 り繰 返數 と共に釜々

増大することも實驗(13)上確な事實 である.而 してこの

第14圖 (13)小 野 鑑 正,機 械 學 會論 文 集,昭11,457.

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496  講 義  第4巻

伸びは繰返數を十分大にすれば結局に於て静的 引張に於

けると同量(14)に達するや うである.斯 様 に降伏點に近

い應力の繰返 しに依つて變形 を生ずるから,たとへ此應

力が疲勞限界内の値であつてもこれ を設計上の使用應力

とすることは出來ない.降 伏點以下如何似る程度め應力

が使用應力として撰ばるべ きかは,應 力を繰返して變形

を起さざるζとを實驗に依つて確 めて後定むべきである

が,降伏點に對する安全係數に依つ て定めることは一つ

の便法として許 されることである.即 ち從來行はれた引

張強さを静的強さとする代 りに,鋼 の如 く降伏點を持つ

材料に對 しては降伏點を取つて静的強さの基準 とする方

が合理的であることは疑ひないところである.さ れば既

に第 Ⅱ章第2節 に擧げた2:1・5:1は 降伏點:片 振耐久

限界:兩 振耐 久限界の大略の比を示したものであつて,

この事は第2表 の示す如く片 振耐久限界:兩 振耐 久限

界の比が1・5:1な る一定値 に非ずして,應力の種類によ

つて(1・40~1・95):1に 變動することか ら も容易に首肯

し得るところであるが、なほこれに就て注意すべ き事柄

を述べよう.

今横軸に平均應 力σmを縦 軸に應力の振幅σaを取れば

第15圖

疲勞限界は第15圖 の曲線ABUC

で示され,OAは 兩振疲勞限界σw

である,ま た横軸上 に降伏鮎 σs

に等 しくS點 を取 り,これ よ り

45°の傾斜を似す直線SRを 引け

ば,この直線上のすべての應力の

上限はσsに等しい.そ れ故 に四

邊形OABS内 の繰返應力は疲勞限界.以下であ り且つそ

の上限値が常に降伏點以下にあつて安全に使用し得 る應

力である.然 るに邊ABSの 外側の應力は疲勞限界以上

か又は降伏點以上となり,實際に使用し得 ない應力であ

る.

次に座標の原點0か ら45°の傾斜 をなす直線OUを

引くと,この直線は σα=σmで 表はされ,片振繰返應 力を

示す直線である.依 てこれ と疲勞限界 曲線 との交點U

片は振疲勞限界を示しその高 さは σu/2である.

疲 勞 限 界 曲線ABUCの 代 りに直 線(15)σa=σu-Cσm

(14) L. Bairstow, Phil. Trans. Roy. Soc., (1910), A, 210.(15)西原 利 夫,前 掲, (10).

(但 しC=σw/σT)を 用 ふ る とす れ ば,こ れ と 直 線 σa=σm

との交點の座標は

從つてこの片振疲勞限界は

圖に示す如き降伏線SRがUま り下位にある場合に

は,疲勞破壊が起る前に降伏が起るから,片振繰返應力の

極限値として降伏點σsを 取るべ きである.こ れに反し

て降状 線がUよ り上位に來る場合には降伏 の起る前

に疲勞破壌が起るから,この場合は片振疲勞限界をその

ま 取ゝつてよい.そ れ故静的張 さとして降伏點を取れ

ば,これに對する片振耐久限界及び兩振耐久限界の比は

とすべきで,片振耐久限界としての値 は何れか小なるも

のを取らねば似らぬ.

一般 に σsの 大 な る材 料 に 於 てはσw及 びσuは 比 較 的

小,且 つσs> σuで あ るか ら,か か る材 料 に 對 して は σs2σs/1+C:

σwを 取 る.而 して鋼 に於 て はC=0・15~0・3,從

て2σw/1+C=1・72~1・54と な り,輕 合 金 に於 て はC=

0・2~0・4,從 つ て2σw/1+C=1・66~1・43と な る.即 ち

強 さの比 の平 均 と して2:1・5:1を 取 つ て よ い.こ れ に

第16圖

反 して σsの小

な る材 料 に於

て は σw及 び

σuが比 較 的 大

で σs<σuと

な り,この場 合

は σs:σs:σw

を取 らね ば な らぬ.即 ち1・3:1・3:1の 如 く比 較 的 小 さ似

値 と 似 るの で あ る.第16圖 はNi 3・41%, Cr O・18%,

Co 41%.を 含む 鋼 の疲 勞 限 界 曲 線 を示 し,熱處 理 の 相違

に 依 て(a),(b)2様 の 曲線 が 得 られ た.(a)の 場 合 の強 さ

の 比は1・82:1・57:1と な る に對 し,(b)の 場 合は1・52:

1・52:1と な る.斯 様 に強 さの 比 は命 種 の 材 料 に應 じ て

それ ぞれ の實 驗 結 果 に依 らね ば嚴 密 に絵決 め られ 似い も

の で あ る.