15
臨床 (Y. I.) 2013/3/16 1 (Clinical Psychology) 1 本章の目標 臨床心理学の関連領域を理解する。 精神障害の種類を理解する。 主たる心理療法を理解し、その基本 的な立場を学ぶ。 Key Words 2 (1) 臨床心理学とは 人々の心理・行動面のより健全な向上を図 ることを目指す心理学の一専門分野である。 (心理学辞典、有斐閣) 関連領域 異常心理学、精神医学、精神病理学、 健康心理学、コミュニティ心理学 3 ① 異常心理学 (Abnormal Psychology) 行動やパーソナリティに認められる異常な 現象を研究対象とする分野の総称。 病的障害としての異常(精神病理学) 正常者における例外的状態としての 異常(催眠状態,薬物における幻覚など) 4 「異常」(abnormal)とは 正常に対する相対的な位置づけであり、時 代、文化によって変化しうるもの。 総じて以下のようなものを異常と捉えている。 a. b. c. 5 「正常」(normality)とは a. b. 自分自身(情動、動機)の把握 c. d. 適度な自己評価と他者から受容されてい るという感覚の保持 e. f. 生産的な行動への従事 (Atkinson et al., 1993) 6

臨床 (Clinical Psychology) - AsahiNet臨床(Y. I.) 2013/3/16 1 臨床 (Clinical Psychology) 1 本章の目標 ①臨床心理学の関連領域を理解する。②精神障害の種類を理解する。③主たる心理療法を理解し、その基本

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臨床 (Y. I.) 2013/3/16

1

臨 床(Clinical Psychology)

1

☆ 本章の目標

① 臨床心理学の関連領域を理解する。

② 精神障害の種類を理解する。

③ 主たる心理療法を理解し、その基本的な立場を学ぶ。

☆ Key Words

2

(1) 臨床心理学とは

人々の心理・行動面のより健全な向上を図ることを目指す心理学の一専門分野である。

(心理学辞典、有斐閣)

• 関連領域

異常心理学、精神医学、精神病理学、

健康心理学、コミュニティ心理学3

① 異常心理学(Abnormal Psychology)

行動やパーソナリティに認められる異常な現象を研究対象とする分野の総称。

・ 病的障害としての異常(精神病理学)

・ 正常者における例外的状態としての異常(催眠状態,薬物における幻覚など)

4

「異常」(abnormal)とは• 正常に対する相対的な位置づけであり、時

代、文化によって変化しうるもの。

総じて以下のようなものを異常と捉えている。

a.

b.

c.

5

「正常」(normality)とは

a. 

b. 自分自身(情動、動機)の把握

c. 

d. 適度な自己評価と他者から受容されているという感覚の保持

e. 

f. 生産的な行動への従事

(Atkinson et al., 1993)6

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臨床 (Y. I.) 2013/3/16

2

② 精神医学 (Psychiatry)

下記の疾患や障害の原因や病態を明らかにし,治療方法を開発し、そのメカニズムを明らかにする学問

a. 脳の働きの異常が主として精神の働きの異常という形で現れた疾患

b.   脳と社会環境との相互作用の結果として,情動や性格といった社会に適応していくための調節的機能が障害された状態

c. 脳が機械的・物質的影響を受けた結果,脳の機能が障害された状態

7

③ 精神病理学(Psychopathology)

• 異常な精神現象を体系的に分類・整理し,異常な精神現象の生ずる心理学的なメカニズムを明らかにする学問

• 異常な精神現象の組合せによって定義される精神疾患を診断する上で基礎となる学問

8

④ 健康心理学(Health Psychology)

およびヘルスケア・システム(健

康管理組織)・健康政策策定の分析と改善等に対する心理学領域の教育的・科学的・専門的貢献のすべてをいう。 (APA, 1980)

9

健康心理学

• 研究内容

ストレス、食行動の異常、反社会的行動や非社会的行動(情緒障害)の背景としての文化的・経済的要因、生命倫理、健康や医療に対する態度、健康の指標と健康概念の再吟味、メディカルな組織における人間関係、患者や心身障害者に対する態度や対応の方法、職業教育とその体制作りなど

10

⑤ コミュニティ心理学(Community Psychology)

• 地域社会における住民の精神衛生の諸問題を扱う領域(1950年代アメリカから)

• 地域精神衛生の目標は,精神病院に収容されている人々をできるだけ地域のなかで治療しようとする一方で,従来は精神衛生に関するサービスを受けてこなかった地域住民にもそのサービスを拡大することである。

11

コミュニティ心理学• 精神病院に入院していた患者が地域に復

帰するまでの間生活するハーフウェイ・ハウス(halfway house)

• 問題を抱えるティーンエイジャーが互いに議論しあったり、カウンセリングを受けたりするラップ・センター(rap center)

• 自殺予防を目的とした、いのちの電話

(telephone crisis center)

12

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臨床 (Y. I.) 2013/3/16

3

(2) 精神障害(Mental Disorder)

① 精神疾患の分類

「精神疾患の診断・統計マニュアル第4版」

Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder

(DSM‐IV‐TR)

・ 「国際疾病分類」

International Classification of Diseases (ICD‐10)

13

精神障害•

複数の症状を列挙し、その内のいくつかを満たした場合に、ある疾患に罹っていると診断する。

← 病因が明確でないため

• 精神障害の場合は、病気を意味するdiseaseではなく、機能の失調を意味する

という言葉が用いられている。

14

精神障害

② 精神障害の種類

1. 認知障害

2. 物質関連障害

3. 精神病性障害

4. 気分障害

5. 不安障害

6. 適応障害

7. 小児期・思春期の精神障害 15

2007年6月15日付読売新聞

• 政府は15日午前の閣議で、2007年版「障害者白書」を決定した。精神障害を持つ人の数は05年に約303万人となり、02年から約45万人増え、初めて300万人を超えたことがわかった。

• 疾患別では、そううつ病などの「気分(感情)障害」が で最も多かった。高齢化に伴うアルツハイマー病の増加も精神障害の急増の原因になっている。

16

• 精神障害を持つ人のうち、在宅(通院)は02年から44万人も増えて約268万人に、施設入所は1万人増えて約35万人になった。

• 白書をまとめた内閣府は、「現代社会のストレスの増加や、心療内科の増加などで医療機関を受診しやすくなったからではないか」と見ている。

17

1. 認知障害

• : 意識水準の軽度低下、幻覚や興奮などの状態

→時間、場所がわからない

• : 記憶障害を中心とした認知機能の持続的障害。失語、失行、失認。

• : 記憶障害が優勢な場合。18

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臨床 (Y. I.) 2013/3/16

4

2. 物質関連障害•

• アルコール、カフェイン、大麻、コカイン、幻覚剤、ニコチン、鎮静剤など。

• 物質使用障害: 物質依存、物質乱用

• 物質誘発性障害: 物質誘発性(せん妄、健忘障害、精神病性障害、気分障害など)

19

3. 精神病性障害

• (精神分裂病)

• : 体験を誤って解釈し、信念にまで強固になった状態。被害妄想、宗教妄想など

• : 患者の思考とは全く異なる声が聞こえてくる(幻聴)

• まとまりのない会話・行動(陽性症状)

思考やまとまりを欠く解体症状、精神機能の減退(陰性症状)

• 治療法:抗精神病薬、社会技能訓練20

4. 気分障害•

• 躁状態: 気分の高揚、精神運動性興奮、観念奔逸(新しい考えが次々に浮かぶ)、行為心迫(何かにせき立てられている)

• うつ状態: 気力や関心の低下、自責感、不眠、食欲不振、倦怠感、自殺念慮

• 抗うつ薬、心理療法

21

5. 不安障害• : 過呼吸、呼吸困難、動

悸、発汗、しびれ感と共に非常に強い不安、恐怖を感じる。

→ 認知行動療法

• 社会不安障害(社会恐怖): 人前で不適切な振る舞いや態度を取ってしまうのではないかと心配している状態。

高所恐怖、閉所恐怖など

22

5. 不安障害

• 強迫性障害: 強迫観念、強迫行為

•極度に強いストレスに直面して、恐怖

後にその場面を繰り返し思い出したり、疑似場面を避けたり、過度に覚醒したりする状態。

例) 戦争、大規模自然災害

23

6. 適応障害

• 睡眠障害、摂食障害、人格障害

• 治療法: 認知行動療法、薬物療法

24

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7. パーソナリティー障害

• 行動、思考、感情のパタンが平均的パタンから大きく、ある程度長期に渡って逸脱し、社会生活において問題を引き起こしているような状態

a. 激しさ、劇的な行動を示す

b. 奇妙な、風変わりな行動を示す

c. 恐怖や不安を強く感じている

25

a. 激しい、劇的な行動パタン

①反社会的: 文化的規範に合わすことができず、他者の権利の侵害に無頓着

②演技性: 自分が周囲の注目の的になるように行動

③境界性: 感情の起伏が大きく、対人関係が不安定

④自己愛性: 自分の業績や才能を常に誇張

26

b. 奇妙で風変わりな行動パタン

①妄想性: 過剰な疑い深さを示す

②スキゾイド: 対人的な孤立、感情の乏しさを示す

③統合失調型: 統合失調症と似たような症状を示す(思考や感情が文脈に合っていない、強い妄想など)

27

c. 強度の恐怖や不安

①回避性: 自己評価が低く絶えず心配と緊張に悩まされる

②依存性: ものごとを決断する自信に乏しく、絶えず誰かに依存

* 通常、パーソナリティー障害は、上記のタイプの複合型である場合が多い。

28

8. 小児期、思春期の精神障害• 精神遅滞(知的障害)

• 学習障害

• 運動能力障害

• 注意欠陥障害

• 破壊的行動障害

29

(3) 臨床心理アセスメント• クライエント(来談者)の抱えている問題、

クライエントの生き方や性格的要因の形成過程、

クライエントの内的世界、問題の性質や程度を明らかにし、治療方針を立てる。

• アセスメント面接と心理検査

30

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臨床 (Y. I.) 2013/3/16

6

① アセスメント面接• クライエントが自分の抱えている問題を話し

やすい雰囲気を作る。

• クライエントの話から聞き取ること

問題の質と程度、クライエント自身の問題意識、今までの経緯、生活史と生活状況

• クライエントの話しぶり: 表情、情動状態、冗漫など、自己表現の仕方。服装。

• 関係者からも情報を得る。

31

② 心理検査

• クライエントのパーソナリティーの把握

• 心理検査を行うことの了解をクライエントから取る。

• 検査の目的、クライエントの年齢、知的能力、検査状況に基づいてを組む。

• : MMPI、五因子性格検査

• : SCT、TAT、ロールシャッハ、

バウムテスト、内田クレペリンテスト32

(4) 心理療法1.             : 治療者との治療契約に基づき、患

者の認知、行動、感情、身体感覚に変化を起こさせ,症状や問題行動を消去、軽減すること

2.  : クライエントがカウンセラー(相談員)に話をして気持ちが楽になったり、問題への見方が変わったり、解決策を見出したりするように、カウンセラーがクライエントを援助すること。

33

心理療法3.  : クライエントの周辺にいる

人々に対して、クライエントの関わり方や環境の調整に関する相談に応じ、助言すること。

4.  : クライエントの問題を解

決するのに適切な専門家、機関、施設を紹介すること。

34

① 心理療法家の基本的心得•

• どのような応答や助言がクライエントにとってどのような意味をもつことになるかの基本的知識をもつ。

• クライエントが心理療法家に依存的になり過ぎず、主体的判断や自己主張をもって自己選択できるような関わり方をする。

35

② 心理療法の共通原理

• クライエントの考え方や感じ方、行動様式を変容させることを目的とする。

• 理論に基づいて心理療法を進める。•

• クライエントを主体として心理療法を進める。

36

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③ 心理的問題とカウンセリング

• われわれは日常生活において自分独特のパターンで他者と関係をもっており、それが有効に機能しなくなったとき、問題を感じ悩む。 (佐藤, 1992)

• 「どう解決すればよいのかわからない。」

「頭ではわかっているが身体が動かない。」

↓ どうするか?37

• カウンセリングを受ける

38

④ 心理療法家の種類

(佐藤, 

1992)

39

⑤ 心理療法の種類

1. 精神分析(フロイト)

2. 分析心理学(ユング)

3. クライエント中心療法(ロジャーズ)

4. 行動療法(アイゼンク)

5. 認知療法(ベック)

6. 認知行動療法(ベック、エリス、マイケンバウム、ラザルス)

40

1. 精神分析(Psychoanalysis)

• S. Freud (1856‐1939) オーストリア

• 意識-無意識の3領域

: 外界、内界を知覚している領域

: 潜在しているが、注意を向けたり、条件が整うと意識される心の領域

: 特別なやり方でしか意識化できない領域

41

精神分析

• 人格構造論

:衝動のエネルギー源であり、非論理性、非時間性、快楽原則という性質をもつ。

:私を見ている私であり、自己観察、良心(禁止、後悔、道徳)、理想像の希求という働きをもつ。親への同一化により形成される。

:外界とエスとの間に存在し、超自我から要請を受け、心の作用をまとめている部分。統合機能、不安に対する防衛機能、現実原則、論理性という性質をもつ。

42

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8

43 44

精神分析

• 主として不安障害を対象とする。

• 超自我、エスに対する自我が弱く、自我が観念や感情を過剰に抑圧している。抑圧されたものは絶えず意識に上ろうとし、神経症の症状は、エスと自我の葛藤の妥協として形成されたと捉える。

• 目標:

45

精神分析

• : 寝椅子に横たわったクライエントに、頭に浮かぶことを何でもそのまま話させ、無意識にある観念、感情を意識化させる。

• 錯誤行為: 意識されている行為の意図と無意識の意図の相互作用により生じる。

• 夢: 無意識的なものの歪曲された代理物。

46

2. 分析心理学(Analytical Psychology)

• C. G. Jung (1875‐1961) スイス

• Freudの関心が不安障害にあったのに対し、Jungは統合失調症に関心があった。

• 無意識の捉え方にも違いがあった。

a.  : かつて意識化されていた

内容が抑圧・忘却されたものや強度不十分で痕跡となったもの。

コンプレックスはこの領域に存在する。47

分析心理学b.  :人間だけでなく動物にも共通す

る個人の心の基盤。心的イメージとして表象される。

神話,夢,未開人の心性など

この共通性を産み出す元の型の存在を仮定し, と呼んだ。

影,アニマ、アニムス,自己(意識と無意識の両面を含む心の中心)など

48

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9

分析心理学

• 無意識が生み出すイメージには、個人の正常な精神的活動を破壊させる力がある一方で、個人の存在の本来的な意味を見出す建設的な働きももっている。

• イメージの活用

夢分析:夢は意識と無意識の相互作用の産物

クライエントは夢の記録を持参し、それを中心に治療が進められる。

49

分析心理学57 X 72 X 7cmの箱

外的制約がある中で、夢よりも意識的関与の高い状態で、クライエントの無意識的世界、イメージが表現される。

「ここにあるものを使って、砂箱の中に何か作ってみない?」

動物的・植物的段階→闘争的段階→

集団への適応の段階

50

51

空間がもつ意味

3. クライエント中心療法(Client‐Centered Therapy)

• (1902‐1987) アメリカ

• クライエントは自分の体験の重要な側面を認識していないか拒否しており、そのために緊張や不安が強く、自分を信頼できない。

• そうなったのは周囲から押しつけられた価値観に縛られ、自分をそれに合わせようとしているからである。

• こうした自分のあり方を変えることが必要

53

クライエント中心療法

• CCTの基本条件

a. クライエントとセラピストが心理的な接触をもっている。

b. クライエントは不一致の状態にあり、傷つきやすく、不安な状態にある。

c. セラピストは一致しており統合されている。

(自分の経験と他者からの評価、他者の価値観を取り入れながら形成した自己概念との間にズレが少ない状態)

54

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10

クライエント中心療法

d. セラピストはクライエントに対して

e. セラピストはクライエントの内的世界をを 、それをクライエントに伝達する努力をする。

f. セラピストの共感的理解と無条件の肯定的理解をクライエントに伝える。

→ このような形で一定期間継続すれば、建設的なパーソナリティー変容が生じる。

55

4. 行動療法(Behavior Therapy)

• H. J. Eysenck イギリス

• J. Wolpe 系統的脱感作法 アメリカ

• 行動療法の基礎理論

56

行動療法• 不登校児に対する行動療法

学校場面への不安 ←

社会的技能の欠損 ←

57

<望ましくない条件づけを消去するには?>

• Wolpe (1958)

恐怖症、不安神経症の治療

・ 身体の筋肉を緊張させた後、弛緩させ、リラックス状態を覚えさせる( )。

・ リラックス状態で恐怖、不安を覚える状況をイメージさせる。緊張したらリラックスするように努める。

・ を作り、あまり恐怖、不安を覚えない状況から始める。

・ ターゲット状況まで順に進んでいく。

58

• 例) 抗ガン剤投与 吐き気

病室

(般化:病院、最寄り駅、電車、・・・)

<不安階層表>

病室 不安高

病院

病院最寄り駅

電車

自宅最寄り駅

59

行動療法• 強迫性障害に対する行動療法

: 不安を引き起こす刺激に繰り返し直面させることにより不安を減少させる。

: 強迫行為を行わせないようにすることによって強迫衝動を弱め、強迫行為を減少させる。

• その他、抑うつ、不良行為、神経性食欲不振などを対象とする。

60

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5. 認知療法(Cognitive Therapy)

• A. T. Beck アメリカ

• 目標:

• 自動思考: ある状況で自然に自動的に湧き起こってくる思考、イメージ

• 深層スキーマ: 遺伝、環境の影響を受けながら、体験に基づいて形成された、心の深層に存在している個人的確信。自動思考を生じさせる基礎となっている。

「自分は強い」、「世の中は危険だ」 61

認知療法

<認知的歪みの種類>

a.  (証拠がないのに信じ込む)

「大学の保健センターのカウンセリングを勧められたのは、深刻な心の病にかかっているからだ。」

b.  (白黒はっきりさせたがる)

「私の考えにすべて賛成してくれなければ友人とは言えない。」

62

認知療法

c.  (悪い面だけに目を向ける)

子どもが10m泳げても「プールの端から端まで泳げない」とできない部分に目を向ける。

d. 

「この科目が履修できなかったら、将来、絶望的だ」

e.  (極端な一般化)

母親が病気のために休んだ人を「マザコン」と決めつける

63

認知療法

f.  (自罰的)

「リレーに負けたのは、自分の走るのが遅かったからだ」

g. 

「クライエントは10分前には来所しているべきだ」

64

認知療法

h. 

減量プログラムで1週間経って変化がないので、「こんなことしても無駄だ」

i. 

「自分には子どもがいないから、子どものことはわからないと、人から思われている」

65

認知療法の治療プロセス

a. 初期: 問題点の洗い出し、薬物療法を含む治療法の選択

b. 認知的歪みの修正: そう考える根拠は何

か、どのような結果が生じるのか、別の考え方はないか

c. スキーマ(根源的信念)の修正: スキーマ

通りに行動しないとどうなるか、既にスキーマに反する行動を取っていないか。

d. 治療の経過を振り返る66

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6. 認知行動療法 (Cognitive Behavior Therapy)

• 認知療法と行動療法を統合

• 1990年代からアメリカで発展

• 基本モデル

環境(状況、他者)と

個人(気分・感情、行動、身体的反応、認知(試行、イメージ))との

相互作用に注目

67

認知行動療法

68

認知行動療法

• クライアントの抱える問題をできる限り具体的に捉える努力をした後、共感を示す。

• クライアントが自己治療できるように教育し、再発予防を促す。

69

認知行動療法

70

* マインドフルネス認知療法(Mindfulness‐Based 

Cognitive Therapy)

• 認知行動療法の発展形

• アメリカで開発

• 「マインドフルネス&アクセプタンスー認知行動療法の新次元ー」

S.C.ヘイズ、V.M.フォレット、M.M.リネハン 春木豊(監修) 武藤崇、伊藤義徳、杉浦義典(監訳) (2005) ブレーン出版

71

* マインドフルネス認知療法

• : 感情、思考、症状、身体感覚など自分に与えられているもの、「今、ここ」で自分が経験していることを判断を介さずに受け取ること

• : 「今、ここ」での経験に対して、評価や判断を加えずに、能動的に注意を向けること

(cf.  仏教的瞑想)

72

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13

* マインドフルネス認知療法

• 直接的にクライエントの「認知」に訴えなくても、「マインドフルネス」を実行することによって、リラクセーション効果も生じるので、つらい感情や気分からしばし解放される。

• その体験によって、不都合な認知や行動を修正していくことができる

73

⑥ 心理療法家になるには

• 4年制大学の心理学科を卒業しましょう。

• 大学院で臨床心理学を専攻し、博士前期(修士)課程(2年)を修了しましょう。

• その際、臨床心理士の資格を取得できる大学院に進学しましょう。

• その他、民間の心理療法家関連の資格を出している機関があります。

74

心理療法家に求められる資質• 人間が好き ・ 表現能力がある

• 愛情豊か ・ 責任感がある

• 奉仕の精神がある ・ 心身が健康である

• 寛大である

• 気長である

• 感受性が高い

• 理解力がある

75

⑦ 精神的健康の向上(emotional well‐being)

a.  怒り、悲しみ、恐怖、不安などのネガティブな感情を否定せずに、その存在を認めましょう。

直接的に表出するのが難しい場合は、歩いたり、友だちと話をしたりしてみましょう。

b. 自分の傷つけられやすさを認識しましょう。

自分を緊張させ、不安にさせるものを知り、見方を変えたり、別のアプローチ法を工夫したりしてみましょう。

76

精神的健康の向上c. 自分の才能を向上させ、いろいろなものに

興味をもちましょう。

あることを知り、興味をもち、自己効力感が高まると、自尊心も高くなります。

d.  他者と接触しましょう。

われわれは社会的存在であり、他者からの支援、慰め、励ましが必要です。

77

精神的健康の向上e. 援助の必要なときを知りましょう。

問題の自己理解、自助には限界があります。自分ではどうしようもないと感じたときは、気軽に専門家(カウンセラー、カウンセラー)に相談しましょう。

(Atkinson et al., 1993)

78

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⑧ 職場のメンタル・ヘルス• 13年間連続で自殺者が3万人超

• 労働政策研究・研修機構 (2010)

• 「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」

• 全国の民間企業14,000事業所

• 回答事業所5,250 (37.5%)

79

⑧職場のメンタル・ヘルス

80

⑧職場のメンタル・ヘルス

81

⑧職場のメンタル・ヘルス

82

⑧職場のメンタル・ヘルス

高尾(2011)

83

⑧職場のメンタル・ヘルス

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Page 15: 臨床 (Clinical Psychology) - AsahiNet臨床(Y. I.) 2013/3/16 1 臨床 (Clinical Psychology) 1 本章の目標 ①臨床心理学の関連領域を理解する。②精神障害の種類を理解する。③主たる心理療法を理解し、その基本

臨床 (Y. I.) 2013/3/16

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次のテーマは「知覚」です。☆ 時間が15分以上残っていれば、もう少し授

業を続けることにします。

☆ 授業の後、 「質問・意見カード」を 提出したい人は 教壇へどうぞ…。

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