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卒業論文 ジフルオロカルベンによるアゾール類の N -ジフルオロメチル化反応 理工学群化学類 指導教員 市川 淳士 渡邊 圭祐 学籍番号 201110943

卒業論文 ジフルオロカルベンよるアゾール類 - 筑波大学...2 ノール1 _対水酸化カリウム存在下、フルオロホルムを作用 I Oる、ジフルオロメ

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卒業論文

ジフルオロカルベンによるアゾール類の

N -ジフルオロメチル化反応

理工学群化学類

指導教員 市川 淳士

氏 名 渡邊 圭祐

学籍番号 201110943

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目次

第一章 序 1

第二章 ジフルオロメチル化の条件検討

第一節 触媒検討 6

第二節 条件検討 7

第三章 N-ジフルオロメチルアゾール類の合成

第一節 ベンゾトリアゾールの合成 9

第二節 N-ジフルオロメチルアゾール類の合成 11

総括 13

実験項 14

参考文献 16

謝辞 17

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第一章 序

トリフルオロメチル基に代表される含フッ素置換基の中でも、ジフルオロメチル基は特

に大きな特徴をもつ。まず、ジフルオロメチル基は疎水性置換基でありながら、ヒドロキ

シ基やアミノ基のように水素結合供与体となる(Figure 1)。さらにジフルオロメチル基は、

その炭素原子を酸素原子に、そのフッ素原子を非共有電子対に見立てることができ、生体

内においてヒドロキシ基と同様の挙動を示す(生物学的等価体)(Figure 2)。

こうした背景から、医農薬の分野でジフルオロメチル基の導入は特に重要な位置を占め

ている。実際、窒素上にジフルオロメチル基を有するラクタム 1は抗炎症作用を示す(Figure

3)1)。また、硫黄上にジフルオロメチル基を有する Flomoxef は抗菌薬として 2)、酸素上に

ジフルオロメチル基を有する Pantoprazoleは消化性潰瘍治療薬として 3)すでに利用されてい

る。

ヘテロ原子上のジフルオロメチル化反応には、ジフルオロカルベンがよく用いられてき

た。例えば、フェノール 1に対して水酸化ナトリウム存在下、クロロジフルオロメタンを

作用させると、ジフルオロメチルエーテル 2が収率 65%で得られる(式 1)4)。また、フェ

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ノール 1に対して水酸化カリウム存在下、フルオロホルムを作用させると、ジフルオロメ

チルエーテル 2が収率 76%で得られる(式 2)5)。ここでは、トリハロメタンからの脱プロ

トンにより、対応するカルバニオンが生じている。ここから、塩化物イオンまたはフッ化

物イオンが脱離することで、ジフルオロカルベンが発生している。

酸素原子上でのジフルオロメチル化反応がよく研究されてきたのに対して、窒素原子上

での反応が研究されるようになったのはごく最近であり、しかも基質は限られる。例えば

水素化ナトリウム存在下、ジフルオロメチルスルホキシミン 3 をベンゾイミダゾール(Z =

CH)またはベンゾトリアゾール 4(Z = N)に作用させると、対応する N -ジフルオロメチ

ル化体 5がそれぞれ収率 53%、40%で得られる(式 3)6)。また、大過剰の水酸化カリウム

存在下、フルオロホルムをベンゾイミダゾール(Z = CH)またはベンゾトリアゾール 4(Z

= N)に作用させると、N-ジフルオロメチル化体 5がそれぞれ収率 71%、72%で得られる(式

4)7)。例外的に強塩基性条件を避けた例として、Prakashらの反応がある。すなわちヨウ化

リチウム存在下、トリメチル(トリフルオロメチル)シランをベンゾイミダゾール 4 に加え、

マイクロ波を用いて 170 ℃で加熱すると、N-ジフルオロメチルイミダゾール 5 が収率 90%

で得られる(式 5)8)。この場合、ヨウ化物イオンによるケイ素への求核攻撃により、ジフ

ルオロカルベンが発生するとされている。

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このように、ここ数年でジフルオロメチル化に成功した含窒素化合物は、イミダゾール

やトリアゾールなど、電子不足なものに限られる。これらの反応が成功したのは、アゾー

ル類の芳香族性のため窒素原子の電子対の押し出しが抑制されたためと考えられる。窒素

は、酸素に比べて隣接位への電子対の供与能が高い。このため、イミダゾールやトリアゾ

ール以外の電子豊富な窒素化合物を基質として用いると、フッ化物イオンの脱離(生成物

の分解)が進行しやすいものと筆者は考えている(式 6)。

一方当研究室では既に、ほぼ中性条件下でジフルオロカルベンを発生させる手法を開発

している。すなわち、イミダゾリウム塩 6 および炭酸ナトリウム存在下、ケトン 7 に対し

て 2,2-ジフルオロ-2-(フルオロスルホニル)酢酸トリメチルシリル(TFDA, ジフルオロカル

ベン源)を作用させると、ジフルオロメチル=エノール=エーテル 8 が収率 74%で得られる

(式 7)9)。 この反応ではまず、反応系中で生じた NHC が TFDA のトリメチルシリル基

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を求核攻撃する。これを起点に脱炭酸、脱二酸化硫黄が起こり、ジフルオロカルベン(:CF2)

が発生する(Scheme 1)。ジフルオロカルベンと共に生じたフッ化物イオンは、トリメチル

シリル化された NHC と反応することで、NHC 触媒を再生する。

さらに当研究室では、有機触媒の構造を変化させることで触媒の活性を調節することに

も成功している。これにより、用いる基質に最も適した速度でジフルオロカルベンを発生

させることができるため、本法の適用範囲が格段に広がった。たとえば、触媒としてトリ

アゾリウム塩 9を用いると、系内で発生した NHCによりジフルオロカルベンが生じ、

アミド 10 の O-ジフルオロメチル化により、イミド酸ジフルオロメチル 11 が得られる(式

8)10)。また、触媒として 1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(プロトンスポンジ)を用い

ると、チオカーバメート 12の S-ジフルオロメチル化により、チオイミノ炭酸 S-ジフルオロ

メチル 13が収率 83%で得られる(式 9)11)。

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特筆すべきことに、全く同一のチオカルバメート 12に、クロロジフルオロ酢酸ナトリウ

ムの熱分解で発生させたジフルオロカルベンを作用させると、N 上がジフルオロメチル化さ

れた 14が収率 46%で得られる(式 10)12)。12のジフルオロカルベンによるジフルオロメチ

ル化は可逆であり、各々のジフルオロカルベンの発生法を選ぶことによって速度論的な生

成物(S-ジフルオロメチル化体、式 9)と熱力学的な生成物(N-ジフルオロメチル化体、式

10)の作り分けが可能となった。このように、有機触媒による本ジフルオロカルベン発生

法では、これまでよりも格段に穏やかな条件でジフルオロカルベンを発生することが可能

となる。

筆者は、当研究室で開発した手法を用いれば、温和な条件下で含窒素化合物の N-ジフル

オロメチル化が行えると考えた。アゾール類を基質として選択し種々検討した結果、プロト

ンスポンジを有機触媒として用いると、N-ジフルオロメチルアゾールが収率良く得られるこ

とを明らかにした。以下、その詳細について述べる。

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第二章 ジフルオロメチル化の条件検討

第一節 触媒検討

あらかじめ 80 ℃に加熱したベンゾトリアゾール 4a のトルエン溶液に対して、種々の触

媒 10 mol%存在下、2倍モル量の TFDAを加えた(Table 1)。80 ℃において 30分間撹拌し

た。

まず、触媒としてプロトンスポンジを用いたところ、目的の N-ジフルオロメチル化体 5a

が収率 60%で得られた。この他、NHC 触媒である 1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)イミ

ダゾリウムクロリドや、テトラメチルエチレンジアミン、フェナントロリンを触媒として

試した。しかし、いずれの場合も TFDAの分解は起こったものの、得られた 5aの収率は 54%

(Entry 2)、51%(Entry 3)、48%(Entry 4)であり、プロトンスポンジが最も良い結果を与

えた。

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第二節 条件検討

次に、溶媒について検討を行った(Table 2)。テトラヒドロフラン(Entry 1)、アセトニト

リル(Entry 2)、ジメチルスルホキシド(Entry 3)、 1 ,2-ジクロロエタン(Entry 4)の

各溶媒中ベンゾトリアゾール 4aに対して 10 mol%のプロトンスポンジ存在下、2 倍モル量

の TFDA を作用させた。5a の収率はそれぞれ 41%、42%、0%、54%となり、トルエン中

での結果(Entry 5)と比べて収率は低下した。特にジメチルスルホキシドの場合は、ジフル

オロカルベンがジメチルスルホキシドの酸素による配位を受け、ジフルオロカルベンの活

性が落ちてしまったと考えている。

また、溶媒としてトルエンを用い反応温度を 60 ℃から 110 ℃にかけて 10 ℃刻みに温

度を変えて、同様に反応を行った。その結果、80 ℃で反応を行った時に最も収率が良かっ

た (Entry 5)。これらのことから、トルエン中 80 ℃を最適条件とした。

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次に、触媒量と TFDA の量について検討した。4a のトルエン溶液に対して、520 mol%

のプロトンスポンジ 存在下、80 ℃において2倍モル量のTFDAを作用させた。まず20 mol%

のプロトンスポンジを用いたところ、収率は 54%に低下した。一方、5 mol%に減らしても

10 mol%の場合と同等の収率が得られた。1 mol%まで触媒量を減らしたところ、TFDA が分

解し切らず低収率となった。これらのことから、触媒量が 20 mol%の場合はジフルオロカル

ベンの発生速度が速すぎて二量化が起き、1 mol%の場合は触媒が少なすぎて失活してしま

ったと考えている。

また、4aのトルエン溶液に対して、10 mol%のプロトンスポンジ存在下、80 ℃において

種々の量の TFDAを作用させた。TFDA の量は 1.5倍モル量で収率 64%と最も高い収率とな

り(Entry 5)、1.2 倍モル量以下だと収率 57%に下がった(Entries6,7)。このように本反応で

はジフルオロカルベンの二量化による損失の分を補うため、小過剰量の TFDA を用いる必

要がある。

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第三章 N-ジフルオロメチルアゾール類の合成

第一節 ベンゾトリアゾールの合成

文献に従い、置換基を有するベンゾトリアゾールを調製した。

まず、市販のアセトアニリドの誘導体 15b,c に対し、室温において 4 倍モル量の硫酸存

在下、6 倍モル量の硝酸を作用させた(Table 4)13)。室温において 6時間撹拌したところ、

アセチルアミノ基のオルト位がニトロ化されたニトロアミド 16b,c がそれぞれ収率 48%、

85%で得られた(Entries 1 and 2)。続いて、アミド 16b,cを 2 M水酸化ナトリウム水溶液で

加水分解し、対応するニトロアニリン 17b,cをそれぞれ定量的に得た(Entries 1 and 2)。

ニトロアニリン 17b,c および市販の 2-ニトロ-4-トリフルオロメチルアニリン 17d を、エ

タノール中において 10% パラジウム/炭素(5 wt%)存在下 1気圧の水素雰囲気に晒し、室

温において撹拌した(Table 5)14)。これによりニトロ基を接触還元し、対応する 1,2-ジアミ

ノベンゼン 17b–dをそれぞれ収率 93%、96%、97%で合成した(Entries 1–3)。17b–dに対し、

3倍モル量の酢酸存在下 1.6倍モル量の亜硝酸ナトリウムを作用させることで、所望のベン

ゾトリアゾール誘導体 4b–d をそれぞれ収率 88%、57%、98%で得た(Entries 1–3)15)。

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第二節 N-ジフルオロメチルアゾール類の合成

第一章で最適化した条件を用いて、トリアゾールおよびイミダゾールの N-ジフルオロメ

チル化を行った(Table 6)。

すなわち、ベンゾトリアゾール 4a に対し、トルエン中 5 mol%のプロトンスポンジ存在

下、1.5 倍モル量の TFDA を作用させた(Entry 1)。80 °C において 30分間撹拌したところ、

N-ジフルオロメチルベンゾトリアゾール 5aが収率 78%で得られた。次に、前節で調製した

メチル基、クロロ基、トリフルオロメチル基を有するベンゾトリアゾール 4b–dを用いて同

様に Nジフルオロメチル化を行い、それぞれ対応する N-ジフルオロメチル化体 5b–d を収

率 41–62%で得ることができた(Entries 2–4)。このほか、市販の 5,6-ジメチルベンゾトリア

ゾール 4eからは、対応する生成物 5eが収率 42%で得られた(Entry 5)。

さらに、この反応はトリアゾールだけでなくイミダゾールの N ジフルオロメチル化にも

適用することができる。ベンゾイミダゾール 4f に同様の操作を行ったところ、N-ジフルオ

ロメチル化体 5fを収率 48%で合成することができた(Entry 6)。

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なお生成物 5のうち、5b–d はそれぞれ 57:43、52:48、55:45の位置異性体混合物として得

られた(Table 6, Entries 2–4)。筆者は、アゾール類の N-ジフルオロメチル化反応が平衡反応

であり、生成物の異性体比が各異性体の熱力学的安定性によって決まると考えた。実際、

チオカーバメート 12のジフルオロカルベンによるジフルオロメチル化では平衡が存在する

とされている 12)。そこで 5b–dの各異性体の全電子エネルギーを密度汎関数法によって求め、

それをもとに実際に生成した異性体を推定することとした(Figure 4)。その結果、メチル基

が置換した N-ジフルオロメチルベンゾトリアゾールでは 6-メチル置換体が(a)、クロロ基

が置換した N-ジフルオロメチルベンゾトリアゾールでは 6-クロロ置換体が(b)、トリフル

オロメチル基が置換した N-ジフルオロメチルベンゾトリアゾールでは 5-トリフルオロメチ

ル置換体が(c)、それぞれ 0.37 kcal/mol、0.22 kcal/mol、0.23 kcal/mol安定であるとの結果を

得た。現在のところ筆者は、これらの安定異性体が実際に得られた主生成物であると考え

ている。

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総括

本論文では、プロトンスポンジを用いたジフルオロカルベン発生法によるアゾール類の

N-ジフルオロメチル化について検討を行った。その結果、種々のアゾール類に対して 5 mol%

のプロトンスポンジ存在下、1.5 倍モル量の TFDAを作用させると、N-ジフルオロメチルア

ゾール類が高い収率で得られることを明らかにした。反応系中では、TFDAとプロトンスポ

ンジからジフルオロカルベンが発生しており、これがアゾール類の窒素をジフルオロメチ

ル化している。従来の窒素上のジフルオロメチル化には、強塩基性条件下で発生させたジ

フルオロカルベンが用いられてきた。本論文でプロトンスポンジ触媒によるジフルオロカ

ルベン発生法を開発したことにより、弱塩基性条件下でのジフルオロメチル化が可能にな

った。これにより基質適用範囲が広がったため、医農薬を始めとする様々な分野への本法

の応用が期待できる。

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実験項

1.分析機器

核磁気共鳴スペクトル(NMR)は、Bruker製 AVANCE500を用いて測定した(1H 核: 500

MHz, 13

C 核: 126 MHz, 19

F 核: 470 MHz)。1H NMRはテトラメチルシラン(0.00 ppm)を、

13C NMRは溶媒として用いた重クロロホルム(77.0 ppm)を、19

F NMR はヘキサフルオロベ

ンゼン(0.00 ppm)を、それぞれ内部標準とした。赤外吸収(IR)スペクトルは、Horiba製

FT300S を用い ATR法で測定した。質量分析スペクトルは日本電子製 GCv JMS-T100GCVを

用い、EI法、イオン化電圧 2100 Vで測定した。

2.溶媒と試薬

溶媒は、特に断らない限り Glass Contour 社溶媒精製装置を用いて脱水、脱酸素したもの

を使用した。アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、1,2-ジクロロエタンは水素化カルシ

ウムで乾燥した後、蒸留したものに MS4A を加えて乾燥、保存したものを用いた。TFDA

は文献に従い合成した 16)。反応試薬は特に断らない限り市販品を再結晶、または蒸留で精

製して用いた。生成物の精製は、関東化学(株)のシリカゲル 60N (球状、中性、63-210 µm)

を用いて行った。置換ベンゾトリアゾール合成の際のニトロ化、加水分解、1,2-ジアミノベ

ンゼンの環化の反応操作は空気中で行った。特に断らない限り反応操作は、アルゴン雰囲

気下で行った。

3.ジフルオロメチルアゾール類の合成

1-(Difluoromethyl)-1H-benzo[1,2,3]triazole(5a)

典型的な反応例として 5aの合成法を示す。アルゴン雰囲気下、プロトンスポンジ(4.6 mg,

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0.021mmol)のトルエン(10 mL)溶液にベンゾトリアゾール 4a(47.6 mg, 0.400 mmol)を加えて

撹拌した。80 ℃に加熱した後、TFDA(120 µL, 0.609 mmol)を 2分かけて滴下し、30分間撹

拌した。室温に戻した後、アルゴン置換した NMRサンプル管にキャニュレーションで反応

溶液を移し、系中の 19F NMR を測定した(内部標準:2,2-ビス(4-メチルフェニル)ヘキサフル

オロプロパン、19F NMR 収率 78%)。蒸留水でクエンチし、ジエチルエーテルで抽出、硫酸

ナトリウムで乾燥を行った。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル

=3:1)により標題化合物 5aを収率 32%で得た。

(5a):1H NMR (500 MHz, CDCl3): = 8.14 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.87 (t, J = 58.6 Hz, 1H), 7.84 (d, J =

8.4 Hz, 1H), 7.64 (dd, J = 7.4, 8.0 Hz, 1H), 7.51 (dd, J = 7.5, 8.0 Hz, 1H). 13

C NMR (126 MHz,

CDCl3): = 146.5, 129.9, 129.4, 125.6, 120.5, 111.3 (t, J =251.4 Hz ), 110.8. 19

F NMR: = 65.8 (d ,

J = 58.6 Hz, 2F).

この NMRスペクトルデータは文献値と一致した。8)

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参考文献

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Chem. 2009, 52, 1525.

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Figala, V.; Klemm, K. J. Med. Chem. 1992, 35, 1049.

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16) Dolbier, W. R., Jr.; Tian, F.; Duan, J. X. J. Fluorine Chem. 2004, 125, 459.

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謝辞

本研究を行うにあたり、有益かつ熱心な御指導、御鞭撻を賜り、また快適な研究環境を

与えて下さいました、本学教授 市川 淳士 先生に心より感謝致します。

実験を進める上で数々の有益なご助言を頂きました、本学准教授 渕辺 耕平 博士および

本学助教 藤田 健志 博士に心から御礼申し上けます。

本研究を進める上で、直接御指導くださいました、高山 亮 氏に深く感謝致します。

研究生活の楽しさや厳しさを共に分かち合い、支え合った市川研究室の皆様に感謝致し

ます。

最後に、筆者の研究生活を温かく見守り励ましてくれた、両親、祖母に心から感謝致し

ます。

2015 年 3 月