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くらもち花伝...p13 14 傍観者の立ち位置 中高生 の 頃 の 女子 って、 カッコいい 先輩 や 恋愛 の 話題 でキャーキャーしたり、 ... 046 』

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  • くらもち花伝 メガネさんのひとりごと

    p1

  • 3

    はじめに 

    │言葉にならない「思い」がまんがの源

     

    もともと私は「言葉」を覚えるのが少し遅かったようです。取っ散らからない

    ように話すのも苦手ですし、文字を追いかけるのにも時間がかかるので、最後ま

    で読みきった本は数えるほど。

     

    記憶もすべて「映像」です。フルカラームービーと、音。うれしいことも、悲

    しいことも、人の声や周囲の音、置いてあった物の形など「言葉にならないもの」

    の集合体としてモヤモヤと映像として残っていて、うまくアウトプットできない

    のです。そして、このモヤモヤを解消する方法が、私にとってまんがを描くこと

    だったんじゃないかと思います。日常で感じる感覚を、ある時期から私はまんが

    に描くようになりました。まんがを描くと気持ちをうまく吐き出せると気づいた

    のです。

     

    まんが家は、映画監督に近くもあるし、役者みたいな部分もあるし、もちろん

    はじめに

    p3

  • 4

    絵も描くのでいくつもの仕事をいっぺんに体験でき

    ます。こんなに欲張りな仕事はないと思います。大

    変さはあるけれど、ペンとインクがあれば、やれな

    いこともない。その中で自分が一番楽しんでいるの

    は、ほとんどのまんが家がそうであるように「演技」

    です。中学時代にちょっとだけ演劇部に入っていた

    こともあるんですが、日常生活でも無意識に演技し

    ているようなことがあります。ちょっと「とぼけた

    感じ」を出してみたりね(笑)。もちろん、まんが

    を描いている時は、自分自身が登場キャラクターに

    乗っかって、まんがの中を思いっきり動き回ってい

    ます。これは本当に楽しい! 

    自分が好きな世界を

    創り出して、その中で演技ができるなんて、楽しく

    て楽しくてしかたがありません。

     

    生きている限り、少し相性の悪い人とも出会いま

    すし、子どもながらにもモヤモヤもします。そうい

    う「モヤモヤ」をまんがに描いたところで現実の問

    題が解決するわけではないけれど、苦労して描きあ

    ●『+α』

    p4

  • 5

    はじめに

    げた頃には、非常にスッキリします。若い頃はそのスイッチを持っていませんで

    したが、まんが家としてのキャリアを積んでいくと、変わった人と会ったり、ムッ

    とするようなことがあっても「これで10ページは描けるわ!」「いいネタいただ

    いたわ♪」と思えるようになるんです。半分、職業病みたいなものですね。

     

    さらに、いろいろな人を見て、描いて、自分で演じていくと、自分の中の「キャ

    ラクターホルダー」が増えていきます。若い頃は自意識過剰だったがゆえに人間

    関係でモーレツに苦労しましたが、「不思議とイジワルしてくるあの子は、この

    ジャンルの人だった」「私、あの人に嫌われていると思い込んでいたけれど、た

    だの思い違いだった」……というふうに、さまざまな「人」を理解できるように

    なっていきました。

     

    人だけでなく、ファッションも、絵の技術的なことも、みんなそう。あれこれ

    と新しいことに挑戦し、すったもんだ苦労しながらも描き続けていると、わかる

    ことがたくさんあります。不器用で、いつもいつもつまずいて遠回りするタイプ

    ですが、少女まんがを描き続けているうちに「自意識過剰」がまんがを描くこと

    に不可欠なことだと気づいてふっきれました。歳をとった今は、良い感じで力を

    抜くことを覚えたのですごく楽(笑)。

     

    こうして機会をいただいたのもなにかのご縁。つたないながらも大好きな「少

    女まんが」について、少しおしゃべりしてみようかと思います。

    p5

  • 6

    ●『おしゃべり階段』

    p6

  • p7

  • 目次

    はじめに

    │言葉にならない「思い」がまんがの源

    │ 3

    1章

    ときめきの泉 

    11

    このときめきを忘れるものか」/傍観者の立ち位置/「だって

    メガネかけているのよ」/

    好きになると一歩引く心理/むしろ男の子になりたかった?/なりきり(アバター)で開

    眼?/コンプレックスからミーハーへ/「新しい萌え」との出会い/田辺聖子先生が開い

    た次の扉/ひとめ惚れは一瞬のしぐさから/ギャップがあると、なお萌える/ちょっと

    ひねったもので息を吐き出す/読者とシンクロした感じがあると、より深まる

    1

    はみだしコラム

    多田かおる先生が導いたオタク道 21

    2

    はみだしコラム

    『駅から5分』の陽大と入谷 24

    3

    はみだしコラム

    そよの父親=くらもちふさこ 44

    2章

    まわり道のまんが道 

    47

    一期一会を大切に/「まんが」との出会い/ひらめいた「日常にひとひねり」/『メガネ

    p8

  • ちゃんのひとりごと』で目覚める自我/描きたいものは変えず、自分をノセる舞台を探す

    /勝負は、安心できるフィールドで/全力疾走!『いつもポケットにショパン』/ストー

    リーにキャラが飲み込まれていく/役作りから戻れない/アルファ波をコントロールす

    る/『天然コケッコー』でつかんだ自分のペース/キャラいじりの新しい地平へ/語られ

    なかった「ものたち」からの言葉

    4

    はみだしコラム

    小津桃子の生みの親 53

    5

    はみだしコラム

    プロを目指していた友だち 57

    6

    はみだしコラム

    初の専属アシスタント 65

    7

    はみだしコラム

    病気の体験も、作品で活用する 82

    3章

    言葉で語らず、心を残すまんが術 

    87

    一度にひとつだけ/まずは見た目から/ゆっくり立ちあげ、未来は決めない/カラー扉

    でテンションを上げる/ネームは、頭から順に進める/納得いくまであきらめない/作

    画は集中力/みなまで言わない/しぐさでキャラクターを表現する/友だちでセンスを

    見せる/背景は引き算で/まんがで奏でるメロディ/気持ちは「ほわほわ」柔らかく/水

    の表現は重要/「繋がっている」何かを描く

    p9

  • 本文中に登場する作品名の横に添えた番号は、4章

    の作品番号に対応しています。くらもち作品の解説

    および、その作品を収録している書籍も併せて記し

    ています。

    集英社のコミック総合サイトS-M

    ANGA

    (http://ww

    w.s-m

    anga.net/

    )では、現在発売中の作品の試し読

    みができます。

    4章

    くらもちふさこ作品解説 133

    1972│1978「別冊マーガレット」Early D

    ays

    /1978│1990「別冊マーガ

    レット」連載時代/1992│now

    「コーラス」「ココハナ」中心の時代

    作品よみがな索引(あいうえお順) 181

    あとがきとお礼 186

    p10

  • 1章

    ときめきの泉

    高校2年生、17歳でデビューして以降、少女まんが界の第一線で活躍し続けているくらもちふさこ。その創作の源泉は、「言葉にならない感動」だ。くらもちが「描きたい!」と思うのは、具体的にどんなものなのだろう? 常に脇役の視線から見つめ続けたときめきとモヤモヤの正体を追ってみよう。

    p11

  • 12

    「このときめきを忘れるものか」

     

    私は小さい頃から感動屋で、とても惚れっぽかったんです。おそらく初恋は小

    学1年生の時。もしかすると、アニメの主人公だったかもしれません。あとから

    思い返してみると、「あれが初恋かな?」っていうのがいっぱいあります。

     

    ふとしたことで「わぁステキ!」と思っても、表面上は黙っている子でしたか

    ら、周囲からは私がそんなに惚れっぽいタイプには見えなかったと思います。そ

    ういう意味での「ガード」は固かったし(笑)。

     

    あと、自分自身が本当に好きだったかどうかも正直怪しいものです。友だちが

    好きな人のことを、自分が好きだと勘違いしているケースも多々あったように思

    います。『お

    028

    しゃべり階段』の加か南なも、線せんに惚れる前にはクラスメイトの粟あわちゃ

    んが憧れている先輩にときめいています。

     

    ちなみに私のまんがで「バスケ」をしているシーンに萌えるパターンが多いの

    は、当時うちの中学のバスケ部が強かったからです。

    p12

  • 1章 ときめきの泉

    13

    ●『おしゃべり階段』

    p13

  • 14

    傍観者の立ち位置

     

    中高生の頃の女子って、カッコいい先輩や恋愛の話題でキャーキャーしたり、

    休み時間ごとに鏡の前で髪型を整えたりと、頭の中が恋愛モード一色になること

    が多いと思いますが、私は当時から完全に傍観者の立ち位置でした。ちゃんと心

    では惚れているけれど、恋愛を成就させたい、独り占めしたいとは思わないんで

    す。『タイムテーブル

    046

    』の田た中なか汐うし

    お(モー)や『セルロイドのドア

    041

    』の由ゆ美みが中学

    時代の自分に近いと思います。

     

    惚れっぽいくせに、誰かが告白するとか、バレンタインのチョコレートを買い

    にいく時には「ついていく」係専門です。「ステキな人とどうにかなりたいな」と、

    まったく思わなかったわけではないし、そういうグループの子たちと仲が悪かっ

    たわけでもないけれど、自分は脇役だとわきまえていたんですよ。

    「だって

    メガネかけているのよ」

     

    明確に脇役を意識したきっかけは、メガネでした。中学の卓球部の試合で、集

    合写真を撮ってもらったんです。仕上がった写真を見たら、メガネがフラッシュ

    p14

  • 1章 ときめきの泉

    15

    ●『タイムテーブル』

    ●『セルロイドのドア』

    p15

  • 16

    を反射して真っ白……。当時、集合写真は貴重で「一生残るもの」だ

    と思っていたから、本当にショックでした。それ以降学校で「写真を

    撮るぞ〜」と声が掛かると、周りの人に気づかれないように「スッ」

    と顔を斜めにしてみたり、いろいろ工夫したんですが、それでもメガ

    ネが白飛びした写真が撮れていると、人知れずガッカリしてね。「こ

    の角度じゃなかった!! 

    失敗したぁ〜」とめちゃくちゃ落ち込むんで

    す。あと、集会の時にメガネを落として、うっかり蹴飛ばしてしまっ

    たこともありました。全校生徒が見ているなか、四つん這ばいになりな

    がらメガネを探す羽目になって、モーレツに恥ずかしかった……。今

    にしてみれば些細なことですが、当時の私にとっては大事件です。こ

    うしてメガネを強烈に意識するようになりました。同時に、自分が身

    近な「メガネくん」をどう見ていたかにも気づくのです。まんがを描

    く時、メガネ男子の目を描いてない。リアルなメガネ男子の友だちの

    顔を思い出そうとしても、メガネしか思い出せないのです。今の世の中では「メ

    ガネ男子」が珍重されるようになりましたが、当時のメガネのレンズは本当に牛

    乳ビンの底みたいにぶ厚かったんです。メガネの印象が強すぎて、顔が思い出せ

    ない。裏を返せば、男子から見た私も「メガネのくらもち」ってことなんです

    よ! 

    ●『メガネちゃんのひとりごと』

    p16

  • 1章 ときめきの泉

    17

     

    その事実に気づいて、ひどく愕然としました。そして「メガネの印象しか残ら

    ないような私が誰かを好きだの嫌いだの言えない、自分に対して変にうぬぼれ

    ちゃいけないんだ」と考えるようになったと思います。落ち込むというより、自

    然と「そういうもんだ」と。

     

    その後は女子高に進んだので、男子と接触する機会が激減します。自分の周り

    に男子がいなくなると、見栄えを気にしなくなるというか、シャレっ気がなくな

    るんです。さらに私は高校1年生から投稿を始めていましたから、どちらかとい

    うと描くことに夢中になっていました。

    好きになると一歩引く心理

     

    わきまえていたとはいえ、そういう気持ちがゼロだったわけではないんです。

    大人になると「いろいろ条件が合わない」などと理由を考えるようになりますが、

    中高生なら少しは夢見たりもする。なのになぜそこまで引いていたのかを思い返

    してみると、好きな人ができると、それを相手に伝えるより「描きたくなる気持

    ち」の方が強かったんじゃないかと。

     

    聖ひじり(千ち秋あき)さんをはじめ、仲の良いまんが家仲間と昔からよく話していたこと

    ですが、恋愛ものを描くには、ヒーローのモデルが必要です。そのままの意味の

    p17

  • 47

    2章

    まわり道のまんが道

    言葉足らずな幼少期をすごしたのち、くらもちはまんが家を目指す。高校2年でデビューは果たすものの、その先には険しい道程が待ち受けていた。大好きな少女まんがが生涯の友になるまでのプロセスを追ってみよう。

    p47

  • 48

    一期一会を大切に

    「一期一会」という言葉が好きです。

     

    国語の教科書を読んだ時に初めてこの言葉と出会い、ストンと腑に落ちた感覚

    がありました。それ以来とても気に入って、ずっと抱え込んでいます。

     

    ごくありふれた日常に、たくさんの刺激が隠れています。それぞれは些細なこ

    とでも、初めての経験はとても楽しく、うれしい気持ちになります。例えば、最

    近グッズ販売イベントのお手伝いをさせてもらいました。「いらっしゃいませ」「あ

    りがとうございます」とお声がけしたり、お釣りの計算をするのが楽しくて楽し

    くて。学生時代にアルバイト経験のない私にとって、ひとつひとつの動作が新鮮

    でした。

    『花に染0

    70む

    』を描く前には、少しだけ弓道を習いに行きました。この時は道場の

    モップがけにときめきました。モップの持ち方ひとつ知らなかったので、汗だく

    になりながら試行錯誤。あまりに楽しかったので、『花に染0

    70む

    』の扉絵で、モッ

    プ掛けのシーンを描きました。

    p48

  • 49

    ●『花に染む』

    2 章 まわり道のまんが道

    p49

  • 50

    「赤い糸」や「出会い」の物語は日常の世界にありますし、体験を活かして描い

    たシーンには「力」があると思っています。いつのことか忘れましたが、体験で

    きることはなんでもして、それらをすべてまんがに描きたいと思うようになりま

    した。もちろん、体験をそのまま描くのではなく、創作の世界の中にリアルな感

    覚を持ち込むんですが。楽しかったことだけでなく、マイナスの体験も全部描い

    てしまいたい。苦労したことや辛かったことも、ある程度時間を置くと、こなれ

    て描けるようになります。

     

    描くことも一期一会です。飽きっぽい私は、同じことを繰り返していると退屈

    になってしまうので、常に新鮮さを感じられるように工夫しています。ストーリー

    ラインが以前描いたものと似そうであれば、キャラクターを今までまったく描い

    たことがないタイプにしてみるとか。なにかしら新しい体験を自分で作ってきま

    した。このワガママな欲求は、まんがだから満たされてきたのかもしれません。

    「まんが」との出会い

     

    小学校の低学年くらいまで、みんなの前で踊ったり歌ったりするのが好きな、

    比較的にぎやかな子でした。『いろはにこんぺ

    037

    いと』に登場する「大たい洋ようアパート」

    そのままの小さな社宅には、同じ年頃の子どもたちがたくさんいて、ぎゃーぎゃー

    p50

  • 2 章 まわり道のまんが道

    51

    わーわー騒いでいました。どちらかというと妹は静かな子でしたが、私はアパー

    トの子と一緒に体を動かして遊ぶのが大好き。野球や自転車に乗ったりして、毎

    日泥だらけになって遊んでいました。

     

    もちろん、お絵描きも大好きです。地面に木の棒でお絵描きして、それを通り

    すがりのお母さんたちに褒められては内心得意になっていました。家にやってき

    たばかりのテレビでモノクロ版のアニメ『鉄腕アトム』を観て夢中になり、手て塚づか

    治おさ虫む先生の「まんが」というものがあると知ったのもこの頃。最初は失礼なこと

    に「アニメがまんがになっている!」と思ったのですが、いとこの家にあった雑

    誌「少年」を借りて読んで、あっという間にまんがに夢中になりました。その後、

    自分が定期的に買ってもらうようになった雑誌は「りぼん」です。当時連載され

    ていた、赤あか塚つか不ふ二じ夫お先生の『ひみつのアッコちゃん』に夢中になりました。その

    後、名高い『石いしノの森もり章しょう太た郎ろうのマンガ家入門』(秋田書店)も自分で買って、ずい

    ぶん愛読しました。

     

    私が子どもの頃は、大衆文化がちょうど花開いていく時期と重なるので、まん

    がを描くのはスタンダードな「遊び」のひとつでした。小学生の高学年で、年上

    の女の子たちと一緒に、鉛筆で描いたまんがを束ね、アパートの中で回覧しはじ

    めました。ストーリーはまだまだ組み立てられませんでしたが、扉だけちゃっか

    り仕上げて「お便りはこちら」なんて募集の真似事までしていました。

    p51

  • 87

    3章

    言葉で語らず、

     

    心を残すまんが術

    アーティスティックでテクニカルなくらもちの画面構成。その根底には身体感覚を研ぎ澄ませ、言葉に頼らずに「心の動き」を描ききろうとする愚直な姿勢があった。制作プロセスを順に追いながら、その神髄に近づいていこう。

    p87

  • 88

    一度にひとつだけ

     

    まずお仕事は、メインの1本に絞らせてもらいます。病気をしたこともありま

    すが、もともと同時にあれこれできない性た質ちなのです。描いている(描こうとし

    ている)作品のキャラクターに惚れこまないと、ペンも進まなければ、お話も浮

    かびません。1本連載している間にもう1本別の仕事を請けると、どちらかが「2

    番」になってしまいます。私は不器用なので、どちらかが手抜きになる。それだ

    けはしたくないのです。

     

    一度やってしまったことをもう一度繰り返すのも、気が進みませんね。「完全

    燃焼できなかったから同じテーマで描く」というのはギリギリありですが、気が

    すむまで描いて、スパッと卒業した方がいいようです。同様の理由で、キャラク

    ターの本来の顔は「連載中」にしか描けません。続編や番外編を描くには、自分

    の気持ちを連載中のレベルに戻すことになるため、かなり苦労します。「描き足

    りていなかったので、番外編が描けてうれしかった」というケースもありますが、

    基本は連載中に描きたいものやシーンを描ききり、まっさらな状態で次の作品に

    進みたいのです。

    p88

  • 3 章 言葉で語らず、心を残すまんが術

    89

    まずは見た目から

    「これ描きたい!」と思う種火は、日々ストックしてあり

    ます。あるにはあるのですが、ネーム(構成案)を描きは

    じめるまでの間は、まんがとしては「無」です。ゼロ。ま

    ずは描きたいイメージに合う顔を探すため、スケッチブッ

    クに人物を描いては消してを繰り返します。

    『駅から50

    68分』に登場する赤あか松まつは、いくら描いてもイメー

    ジしていた像に近づかず、かなり苦労しました。つり目に

    したり、普通の目にしたり、髪型をいろいろ変えても、しっ

    くりこなかったのです。この段階では、「モヤモヤしたイ

    メージ」だけなので、担当編集さんに相談しようもなく、

    資料集めもお願いできません。顔のラクガキだけで紙はす

    でに真っ黒。「どうしようもないな……」と思っていまし

    たが、おかっぱに三つ編みを描き足した瞬間にピタッとは

    まり、一気に進みました。

    「髪型?」と思うかもしれませんが、髪型が決まると、「こ

    ●『駅から5分』から赤松ラフスケッチ

    p89

  • 90

    の髪型だったら、たれ目が合うかな?」と自分の好みが広がり、顔が

    決められます。また、「おかっぱに三つ編みをつけちゃうってことは、

    ちょっと個性的なファッションが好みなのかな?」と連想することで、

    服装や体型が見えてきます。そこからさらに「室内でも帽子をかぶっ

    ているということは? 

    もしかするとハゲ?」という具合に、キャラ

    クター像がどんどん固まってくるのです。

     

    初期の読み切り『クローバーの国の

    005

    王子様』のマリも、髪型が決まっ

    たらキャラクターが動きはじめた例です。レトロ好きが高じて昭和初

    期風味のパーマヘアからイメージを広げました。

     

    実在の人物からインスピレーションをいただくこともあります。『い

    つもポケットにシ

    033

    ョパン』の麻あさ子こは、たまたまファッション雑誌の切

    り抜きに載っていた、外国人の女の子の顔写真から、お嬢様だけど、

    少し不器用な麻子のキャラクターが深まりました。『花に染0

    70む』の花か

    乃のは、マクドナルドのテレビCMに出てきた女性の顔が、モヤモヤし

    たイメージを具体化してくれました。「目つきが鋭くてもカワイイ顔」

    を探していたのですが、そのCMの女性がバッチリだったのです。ハ

    ンバーガーをパクッと食べる瞬間、少し伏し目がちになるんです。そ

    れでもキレイな顔立ちで、食べるしぐさも美しく印象に残りました。

    ●『いつもポケットにショパン』

    ●『クローバーの国の王子様』

    p90

  • 3 章 言葉で語らず、心を残すまんが術

    91

    『おしゃべり

    028

    階段』のとんがらしことマーシは、デビット・ボウイで

    すね、おそらく。ボウイの眉毛がない写真がカッコよかったので、と

    んがらしも眉をなくしたと記憶しています。

     

    見た目が固まってくると、貯めておいた「好きなしぐさ」フォルダ

    が火を噴いてくれることもあります。こうして、ネーム前にキャラク

    ターのビジュアルを掘り下げておくのです。この作業は、「読者にわ

    かりやすく伝えるために必要」ということもありますが、むしろ自分

    のため。見た目のイメージをしっかり固めておかないと、ネーム段階

    でうまく動いてくれないのです。

     

    作品ごとに絵のタッチが異なるのは、作品ごとに描きたいことが変

    わるせいです。せっかく好きになってくれた読者のみなさんをガッカ

    リさせてしまうのもわかっていますが、「変えざるをえない」という

    のが正直なところですね。絵柄を変えた方が描きやすいと気づかせて

    もらったのは、山やま岸ぎし凉りょう子こ先生の『アラベスク』がきっかけでした。

    私自身が読者として絵柄の変化に驚きました。「バレエ」を描くため

    には、肉体、特に筋肉をしっかり描く必要があります。手足は長くな

    り、頭身も変化するため、絵柄を変えるのは必然だと学ばせてもらい

    ました。しかしあの当時の「りぼん」でそれを実行するのは、とても

    ●『花に染む』

    ●『まゆをつけたピカデリー』

    p91

  • 133

    4章

    くらもちふさこ

     

    作品解説 

    くらもち作品(ストーリー)を、雑誌での発表順に並べて解説。くらもちふさこ自身が語った、その作品にまつわるこぼれ話も収録した。本筋には関係のない小ネタから、核心に迫る裏話まで、気まぐれに記した思い出から当時の様子をうかがい知ることができる。

    〈凡例〉 MC=マーガレットコミックス、QC=クイーンズコミックス、文庫=集英社文庫(コミック版) MC Digital=マーガレットコミックス(電子版)、QC Digital=クイーンズコミックス(電子版)「収録巻」には2019年現在入手可能な書籍を記しています。(変更になる場合があります)

    p133

  • 134

    001

    『メガネちゃんの

    ひとりごと』

    読切16P(別冊マーガレット1972年

    10月号)

    収録巻=M

    CD

    igital

    『赤いガ

    ラス窓』

    あらすじ

    メガネっ子のアコはクラスメイトでサッカー

    部の東あず

    まくんに片思い。しかしメガネコンプレックスで

    告白できない……。そんなあ

    る日、思いがけず東くんに自

    分の気持ちを知られてしまい

    ……。#中学校

    #メガネっ子

    #

    片思い

    #デビュー作

    こぼれ話

    恋愛をテーマに初め

    て描いた作品です。気になる

    男の子から、通学途中にカバ

    ンでお尻バーンってされた時

    「内心とっても幸せ」ってい

    うのは……本音ですね!(笑)。今はごくありふれた表

    現ですが、当時にしてみれば少し珍しかったのかも。

    002

    『忘れんぼう』

    読切16P(デラックスマーガレット

    1973年冬の号) 収録巻=M

    CD

    igital

    『スターライト』

    あらすじ

    小学生の修しゅ

    うこ子

    は忘れ物がとても多く、毎日先

    生に叱られっぱなし。クラスメイトからも注意される

    が、意に介さず忘れ物が減らない。そんなある日、み

    んなの態度が変わり……。

    #小学校

    #ドジっ子

    こぼれ話

    投稿時代

    は、こういう地味

    目なお話が多かっ

    たんです。

    19721978

    「別冊マーガレット」Early D

    ays

    p134

  • 4 章 くらもちふさこ作品解説

    135

    003

    『金ゴール

    ド・リング

    指輪』

    読切28P(別冊マーガレット1973年

    5月号。雑誌掲載時タイトルは『幸せ

    をよぶ金指輪』)

    収録巻=M

    CD

    igital

    『赤いガラス窓』

    あらすじ

    大富豪の孫・サミュエルの婚約者探しは「母

    の形見の指輪がぴったりなこと」が条件。サミュエル

    の屋敷で働く、孤児院育ちのミアも立候補することに

    なるが……。#西洋もの

    #初カラー扉

    こぼれ話

    ネームの段階と完成した作品の内容が、大幅

    に変わった作品です。修正する前のエピソードは、細

    かいところは忘れてしまったんですが……指輪をはめ

    るために「指と指の間にタマゴを挟んでいる」という

    シーンがあって、そこを編集長に褒めていただいたこ

    とだけ覚えています(笑)。

    004

    『ほんの少し

    好きになること』

    読切16P(デラックスマーガレット1973

    年秋の号)

    収録巻=M

    CD

    igital『

    冬・春・

    あなた』

    あらすじ

    ちょっぴりドジな八や重えは、バスケ部の純じゅ

    んくん

    に片思い。純が関東大会でスタメンから外されて落ち

    込んでいるのを見て、どうにか励まそうとするのだが

    ……。#中学校

    #ドジっ子

    #片思い

    #バスケ部

    #背が低い

    #メガネちゃんシリーズ

    こぼれ話

    スポーツものの作品なので、登場人物がいろ

    んなアングルで動くたびに、思ったように描けず苦し

    んだ覚えがあります。0

    05

    『クローバーの国の

    王子様』

    読切30P(別冊マーガレット1974年

    7月号)

    収録巻=M

    CD

    igital

    『白いア

    イドル』

    あらすじ

    『メガネちゃんのひとりごと』の続編。つき

    合いはじめた大おお山やまくんと小林さんがちょっとうらやま

    しいマリは、幼なじみでサッカー部のケイから告白さ

    れるも、「もっと王子様みたいな人がいい」とつれない

    態度。そんなマリがケイからもらった四つ葉のクロー

    p135

  • くらもち花伝 メガネさんのひとりごとくらもちふさこ・著

    発 行:集英社インターナショナル(発売 集英社)定 価:1,400 円(本体)+税発売日:2019 年 2 月 26 日I S B N:978-4-7976-7361-6 C0095

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    http://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-7976-7361-6

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