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金属材料学
Structural Metallic Materials
2010(H22)年度講義資料
3回生後期 木曜・2時限 物 216教室
担当教員:辻 伸泰(材料工学専攻 教授)
連絡先:工学部総合校舎6F・607号室(内線 5462) [email protected]
講義資料 URL:http://www.tsujilab.mtl.kyoto-u.ac.jp/01TsujiLab/Education/StructMetalMater/
または下記の研究室 HPから【教育】→【金属材料学】へ http://www.tsujilab.mtl.kyoto-u.ac.jp/
第2回講義以降は、上記 HP から講義資料(PDF)をダウンロードし、各自プリント
アウトして持参してください。また、講義中の演習問題、宿題、およびそれらの回答
例も、上記 HP に順次掲載します。
3回生「金属材料学」 緒言
2010 年度 担当:辻
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第1章 緒言 金属・合金は、我々の身の回りをはじめ、社会の様々な場面で多用されている。金属材料
の特徴の一つに、その多様性がある。そもそも周期表中の元素の 5分の 4が、金属元素である(図1.1)。これらはそれぞれ特徴的な物性・特性を有している。一方、同一の金属元素、あるいは同一化学組成を有する合金であっても、種々の多様な特性が発現する。それは、金
属・合金には内部組織(microstructure)があり、それが材料の特性を大きく左右するためである。
図 1.1 周期表中の金属元素(黄色と緑色)
金属は自由電子を介した金属結合により特徴づけられ、固体金属は、自由電子の海の中に、
金属陽イオンが3次元的に規則正しく配列している。しかし、実在の金属結晶は完全結晶
(perfect crystal)ではなく、種々の格子欠陥(lattice defect)を内包している。格子欠陥には0次元の点欠陥から、1次元の線欠陥、2次元の面欠陥、3次元の体積欠陥まで種々の種
類がある(表1.1)。これらの格子欠陥が集合・配列して、金属材料の内部組織を形成している(図1.2)。同一組成の金属・合金であっても様々な特性を示すのは、この内部組織(材料組織(microstructure))が異なるためである。従って、材料組織と物性・特性の間の関係性を理解するとともに、材料組織の形成機構・過程を知ることは、金属材料学における一大
重要課題である。
3回生「金属材料学」 緒言
2010 年度 担当:辻
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表 1.1 種々の格子欠陥
点欠陥(0次元) 原子空孔、格子間原子、不純物原子(侵入型固溶原子、置換型固溶原子)
線欠陥(1次元) 転位、点欠陥の一次元配列
面欠陥(2次元) 結晶粒界、双晶境界、積層欠陥、逆位相境界、異相界面、表面
体積欠陥(3次元) 析出物、第二相、ボイド、クラック
図 1.2 種々の格子欠陥と材料組織
3回生「金属材料学」 緒言
2010 年度 担当:辻
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金属は一般に、種々の化学反応(主に還元反応)を利用して鉱物から精錬され、化学組成
(chemical composition)を調整される。実際に用いることのできる形状・形態の金属材料を製造する手法には様々なものがあるが、大型バルク金属を得るためには、ほとんどの場合、
液体金属を鋳造(casting)し、それを塑性加工(metal working)する手法が用いられる。典型的な例として、鉄鋼材料の製造工程を図1.3に示す。 これらの工程の目的は、第一義的には製品としての形を作ることにある。しかし各工程で、
凝固(solidification)、塑性変形(plastic deformation)、回復・再結晶・粒成長(recovery, recrystallization and grain growth)、相変態(phase transformation)、析出(precipitation)などの冶金学的現象が生じ、それに伴って各段階で特徴的な材料組織が形成される。逆に言
えば、これらの熱加工プロセス(thermomechanical process)を積極的に用いることにより、材料組織、ひいては材料の特性を制御することができる。これが、組織制御の意義であり、
考え方である。
図 1.3 種々の鉄鋼材料の製造工程 熱加工プロセスにより材料組織を制御するためには、それぞれの過程でどのような組織変
化が生じるかということを理解し、予測しなければならない。その際重要となるのが、対象
とする金属・合金の平衡状態図(equilibrium phase diagram)である。図1.4、図1.5に示すように、例えば鋼(Fe-C合金)とアルミニウム合金(Al-Cu合金)では、状態図の様相が大きく異なる。合金系ごとに、与えられた組成、温度、圧力の元での安定状態(安定相)
を示してくれるのが平衡状態図であり、状態図は材料組織を読み解く地図である。ただし、
現実の材料は、必ずしも平衡状態図が示す通りの相構成(組織)を持たない。これは、状態
図が無限の反応時間後の平衡状態を表すものであるのに対し、現実のプロセス(特に温度の
上げ下げ)が有限の時間内で行なわれるためであり、材料はしばしば、非平衡組織を示す。
これらも含めて理解するためには、平衡状態図(熱力学論(thermodynamics))だけではなく、材料組織形成の速度論(kinetics)も理解する必要がある。
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図 1.4 Fe-C系平衡状態図(実線:Fe-Fe3C系、破線:Fe-黒鉛系)[1]
図 1.5 Al-Cu系平衡状態図[2]
本講を受講する学生諸子は、すでに合金の熱力学、平衡状態図、格子欠陥、固体中の拡散、
相変態・析出・再結晶などの固相反応に関する講義を受講してきているはずである。本講義
は、それらのともすれば断片的になりがちな知識を材料組織制御という観点から有機的に連
携させ、速度論的考え方も導入した上で、現実のプロセスや材料と対比させながら、金属材
料組織学をより深く理解できるようになることを目的としている。
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図 1.6 様々な金属組織:Al-Si合金の共晶組織
図 1.7 様々な金属組織:圧延された Fe-Cr合金の加工組織
図 1.8 様々な金属組織:加工された純 Cuの転位組織(TEM)
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図1.9 様々な金属組織:加工された純Cuにおける小角粒界と転位の格子像(高分解能TEM)
図 1.10 様々な金属組織:Fe-Cr合金の再結晶途中組織
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図 1.11 様々な金属組織:0.4%C鋼のフェライト・パーライト組織
図 1.12 様々な金属組織:0.2%C鋼のラスマルテンサイト組織(左)と 1.8%C鋼のレンズ
マルテンサイト組織(右)
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図 1.13 様々な金属組織:0.2%C鋼のラスマルテンサイト組織の EBSD方位解析結果
引用文献 [1] 鉄鋼材料 講座・現代の金属学 材料編4、日本金属学会 (1985) [2] アルミニウムの組織と性質、軽金属学会 (1991)