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飼料学(123) 誌名 誌名 畜産の研究 = Animal-husbandry ISSN ISSN 00093874 巻/号 巻/号 697 掲載ページ 掲載ページ p. 612-616 発行年月 発行年月 2015年7月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

飼料学(123)飼料学(123) 誌名 畜産の研究 = Animal-husbandry ISSN 00093874 巻/号 697 掲載ページ p. 612-616 発行年月 2015年7月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター

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飼料学(123)

誌名誌名 畜産の研究 = Animal-husbandry

ISSNISSN 00093874

巻/号巻/号 697

掲載ページ掲載ページ p. 612-616

発行年月発行年月 2015年7月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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612

飼料学(123)

近赤外分析法(NearInfrared Reflectance Spectroscopy NIRS)一

甘 利 雅 拡 1 ・石橋 晃 2

飼料の栄養価を評価するには,一般成分分析法,

デタージェント分析法および酵素分析法などによ

る成分が用いられている。これらの成分を通常の

化学分析で行うには,分析施設,分析装置,器具,

試薬を準備し,個々の成分について高度な分析技

術の習得が必要となる。また,化学分析では分析

に要する労力や時間を多く費やし,個別農家の粗

飼料など多種多数の飼料を対象としたフォレージ

テストには効率的な分析法とはいいがたい。そこ

で迅速で簡便な分析法として, NIRSが導入され

た。これは従来の試薬を使い分解や抽出などを行

う化学分析法とは異なり,近赤外線を照射するだ

けで成分含量を推定できる分析法である。一般に

近赤外領域とは 800~2500nmの範囲の光をいい,

赤外領域と可視光域の境界部分の光である。 NIRS

は近赤外光を試料に照射し,試料を反射または透

過してきた光の各波長の吸光度を測定し,この光

学的なデータと試料の化学成分との関係から含有

量を推定するもので,多成分を同時に測定するこ

とが可能な非破壊分析法である。その利点は①迅

速な分析が可能である,②非破壊分析法であるこ

とから,同一試料を反復して供試できる,③分析

技術を必要としない,④大量の試薬や消耗品を使

用しないため,分析費が安く,実験室の環境汚染

が少ないことが挙げられる。また, X線や紫外線

のように照射によって細胞や構造に損傷を与える

ことが全く無いことから,分析者が安心して用い

ることができる。しかし, NIRSを利用する上で,

①NIRSによる成分分析は光学的データを元にし

た推定値であること,②飼料成分は化学的に類似

した物質の集合体であるのに対し, NIRSでは単

一物質の吸光度を基本とするため,必ずしも双方

が一致するとは限らないこと,③検量線の作成に

は,各飼料成分について幅広いレンジの試料を収

集する必要があり,正確な化学分析が要求され,

l畜産草地研究所 (Masahiro Amari)

'(一社)日本科学飼料協会 (Teru Ishibashi)

④飼料種や飼料成分によって分析精度が異なるこ

となどの欠点もあり,その性質を十分理解して利

用する必要がある。

歴史

1960年代に Norrisらにより小麦,大豆などの穀

類の水分と CPの測定法として開発され,カナダ

や米国穀物検定協会の公定法として採用された。

1976年には粗飼料の成分分析に利用できること

が示され,飼料の CP,酸性デタージェント繊維

(ADF)が 1989年に,水分が 1991年に AOACの公

定法として採用された。日本には 1980年代初頭に

導入され, 1982年に国の補助事業の対象となり,

都道府県および農業団体の各機関に導入され,

フオレージテストの中心的手法として利用される

ようになり, NIRSで得られた飼料成分値は乳牛

の飼料給与設計などの重要な基礎データとして活

用されている。現在では,お茶の品質評価や米の

食味値,果実の糖度,乳や乳製品の成分,食肉の

成分測定など農業分野で,また水産物,医学,医

薬品,石油化学,高分子化学などの分野でも広く

使われている。

2 原 E里

近赤外線が測定対象物に照射されると,それぞ

れの成分に由来する C H, 0-H, N Hなどの化学

構造(官能基)が持つ特有の振動数と同じ振動を持

つ波長の光が特異的に吸収される。また,官能基

の量と吸収量は直線的な相関関係にあることから,

既知の成分含量と特定波長における吸収量を事前

に測定し,それらの関係式を作っておき,未知試

料についてその吸収量を関係式に当てはめること

により成分含量を推定するものである。この関係

式を検量線またはキャリプレーションという。し

たがって,分析を目的とする各種飼料の成分につ

いて,それぞれの物質に由来する官能基の吸光度

0369-5247 /15/¥500/1論文/JCOPY

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甘利・石橋:飼料学(123) 613

と化学分析値とから検量線を作成しておく必要が

ある。このように近赤外域の吸収は試料を構成す

る官能基に依存し,特定の波長の光を吸収する。

強い吸収を示す分子構造は水素原子が結合した

0-H, C-H, N-Hなどの有機物中に存在する水素

結合を持つ官能基(表 1)であり,これらの構造を

有する水,デンプンやセノレロースなどの構造性炭

水化物,脂質,アルコーノレ,アミノ酸などを高精

度で分析することができる。一方,ミネラルなど

はこれらの官能基を持たないことから基本的には

不向きであり,その分析精度は低くなる。また,

近赤外域における試料の官能基に由来する吸収は,

ほとんどすべてが赤外域に存在する基準振動の倍

音および結合音として存在し,最も強い吸収を持

つ水も赤外域の吸収と比べ著しく減少していくた

め,懸濁液や風乾物などの形態の試料でもそのま

まの状態で測定ができ,非破壊分析での分析が可

能になる。

3 分析方法

分析方法は使用する機器およびソフトウエアー

により異なるので,ここでは一例として述べる。

表 1 近赤外域における官能基が示す主な吸収波長

波長(nm) 化学結合 官能基 成分

1210 C-H str. 2nd overtone CH3 脂肪

1215 C-H str. 2nd overtone CH3 デンプン

1420 O-H str. 1st overtone ArOH リグニン

1430 N H str. 1st overtone CONH2 粗タンパク質

1440 O H str. 1st overtone デンプン,セルロース

1446 2×C-H str. + C-H def. aromatic リグニン

1450 0-H str. 1st overtone H20 水分,デンプン

1510 NH str. lst overtone NH, 粗タンパク質

1580 O H str. 1st overtone デンプン,セルロース

1685 C H str. 1st overtone aromatic リグニン

1725 C-H str. 1st overtone CH, 脂肪

1765 C H str. 1st overtone CH, 脂肪

1780 C-H str. 1st overtone デンプン,セルロース

1820 O H str. + 2×C O str. セルロース

1908 0-H str. 1st overtone OH リグニン

1940 O-H str. + 0-H def. H,0 水分

1960 N-H asym. str. +amide II CONH2 粗タンパク質

1980 N-H asym. str. +amide II CONH2 粗タンパク質

2050 N-H asym. str. +amide II 粗タンパク質

2050 N-H asym. str. +amidelll CONH, 粗タンパク質2100 2×O H def.+ 2×C-0 str. デンプン,セルロース

2140 =C H str. + C=C str. HC=CH 脂肪

2150 2×amide I +amidelll CONH2 粗タンパク質

2160 2×amide I +amidelll CONHR 粗タンパク質

2180 2×amide I +amidelll 粗タンパク質

2252 O H str. + O-H def. デンプン

2276 0-H str. + C-C def. セルロース、リグニン

2294 N-H str. + C=O str. NH, 粗タンパク質

2305 C-H str. + C-H def. CH, 脂肪2336 C H str. + C-H def. セルロース,デンプン

リグニン

2345 CH, sym. str. + =CH, def. HC=CHCH,脂肪

2352 C-H def. 2nd overtone セノレロース

2380 0-H def. 2nd overtone OH リグニン

(Osborne eta/. 1986)

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614 畜産の研究第69巻第7号(20 1 5年)

1)試料の準備

対象となる飼料のすべての飼料成分範囲を検量

線に盛り込むことが理想であるため, 100点以上

の試料が必要といわれており,また各成分とも広

いレンジに均等に分布していることが望ましい。

試料は約 500gを1.Ommのメツ、ンュを通過する

粒度で粉砕し,ポリ広口瓶などに収容する。これ

を化学分析と NIRSの測定に用いる。化学分析で

は各成分とも少なくとも 2反復で 2回以上の分析

を行い,誤差範囲を相対誤差で 2%以内になるま

で繰り返し,分析データの信頼性を高めておく。

2)誌料の充填

紛体用セルを用いる。セルに付着している挨は

掃除機やハケで取り除き,石英ガラスはティッ

シュで磨いておく。飼料の充填方法で近赤外線の

反射に差が生じるため,セノレそのものにも工夫が

され一定圧力で充填できるようになっているが,

充填方法を決めておく必要がある。また,複数名

で行う場合には,同一試料を同一方法で充填し,

スベクトルを測定し,同等性を確認しておくとよい。

3)スペクトルの測定と化学分析値の入力

試料の充填されたセルを装置にセットし,スベ

クトルの測定を行う。同一試料を充填し直し, 2

回目の測定を行う。 2回測定したスベクトノレが同

ーのスベクトルであることを確認する。スベクト

ノレの測定を行うのと並行し,化学分析を実施し,

測定して得られたスベクトノレに化学分析値を紐付

してセーブして行く。特に,水分はポリ広口瓶な

どに密封保存しでも変化が著しいため,近赤外ス

ベクトルの測定と水分測定を同時に実施する方が

よし、。

4)検量線の作成

検量線はスベクトノレの処理方法や解析方法の違

いにより,いくつかの手法がある。代表的な例と

して重回帰分析法(MLR),PLS回帰分析法(PLSR)

による方法を述べる。

MLRでは第一波長の選択は吸光度と化学分析値

が最も高い相関を示す波長を選択するが,選択し

た波長が測定しようとする成分由来であることが

重要である(表 1)。第一波長が正しく選択された

ら,相関係数および標準偏差を確認する。第二波

長は第一波長を補完してし、く波長となることから,

第ーを選択してし、く。以降,同様に波長を選択し

てし、く。波長を一本増やすごとに,これまでの相

関の上に加算されていくので,相関係数は高くな

り,標準誤差は小さくなる。しかし,波長数を増

やせば増やすほど検量線を作成した母集団のみに

適合した検量線となってしまい,未知試料を分析

したときの分析精度が低下してしまう可能性があ

る。このような検量線をオーバーフィッティング

した検量線という。取得した原スベクトノレを用い

る場合は 7波長,二次微分したスベクトルを用い

る場合には 4波長まで使用できる。二次微分を行

うことで,重なっていた光の吸収が表に現れるた

め,二次微分したスベクトルで作成した方が精度

の高い検量線が作成できるが,ノイズも大きくな

るため,使用可能な波長数に制限を受ける。 PLSR

は変数から抽出した小数の無相聞な主成分(総合

特性値)を説明変数として用いる点は主成分分析

(PCR)と同様であり, PLSRでは総合特性値の抽

出に際し目的変数も利用するため全変数の情報を

利用でき,情報量が多い。したがって, PLSRで

作成した検量線では,主成分同士が無相関なので

多重共線性の問題が生じない,主成分数は元の変

数に比べ少数なため,検量線作成用の試料数が少

なくて済む,情報とノイズを固定値の大きな主成

分と小さな主成分に分離できるのでオーバー

フィッティングが避けられるなどの特徴を持ち,

PCRより高い予測精度が得られる可能性が高い。

また,最近では,検量線を作成する上で弊害とな

る波長域を除外し,より精度の高い検量線を作成

することのできる Moving Window

PLSR (MWPLSR)などの解析手法が多用されるよ

うになってきた。

検量線の精度は,検量線作成時に示される化学

分析値と近赤外分析値との相関係数または寄与率,

標準誤差(SEC)で示されるが,必ずしも高い精度

を示した検量線が最良とは言えない。これは,先

に述べたようにオーバーフィッテイングなどの要

因を含むためである。したがって,検量線作成時

に許容される精度を示した検量線をいくつか候補

として保存しておき,これらについて検量線の

検定を行い,最も高い精度を示した検量線をノレー

チン用として採択する。

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甘利 ・石橋 .飼料学(123) 615

5)検量線の検定 表 2 近赤外分析による飼料成分の検量線とその分析精度

作成した検量線はノレーチン分析に実 乾草 牧草サイレージ トウモロコシサイレージ

際に適合するかどうかの検定を行う必SEC SEP SEC SEP SEC SEP

要がある。そのためには,検量線作成Moistぽ e 0.95 0.67 0.89 0.74 1.05 1.18 0.73 0.95 1.10

時に用いたものとは別の試料群で,同 CP 0.98 0.88 0.96 0 .90 0 .42 1.25 0.90 0.44 0.82

様の種類,成分レンジを持った 50点程 EE 0.50 0.85 1.10 0.76 0.62 0.87 0.65 0.47 1.58

度の試料群を用意する。この試料につ CF 0.95 1.37 2.24 0.92 1.64 2.25 0.91 1.26 2.54

いて,検量線作成時と同様にスペクト Ash 0.79 1.71 1.82 0.81 1.86 1.99 0.70 0.91 1.25

ノレの取得と化学分析を実施しておく。 NDF 0.92 3.96 5.30 0.93 2.96 3.80 0.92 2.82 3.06

この試料群を未知試料として作成した ADF 0.95 1.67 2.50 0.95 1.86 2.78 0.91 1.53 2.58

検量線に当てはめ成分値を推定する。occ 0.95 2.46 2.44 0.92 2.32 2.85 0.94 2.09 3.14

ocw 0.96 2.39 3.02 0.96 2.52 3.18 0.93 2.00 3.41 推定された値(NIRS分析値)と化学分

Oa 0.79 3.00 3.15 0.64 3.83 4.00 0.75 1.28 1.56 析値との相関係数,標準誤差,検量線

Ob 0.94 3.79 4.80 0.92 4.01 3.71 0.91 2.18 3.05

作成時に示した相関係数,標準誤差と Starch 0.91 2.89 3.20

同等であるかどうかを比較して検量線 SEC:検量線における標準誤差, SEP検 量線検定における標準誤差

の評価を行う。その評価法として,RPD

法, EI法などがある。また,未知試料の分析値で

大きなバイアスが生じる場合には,さらに別の未

知試料で確認し,必要と認めれば検量線のバイア

ス補正を行うことも考慮する。また,原スベクト

ノレを用いた検量線では,スベクトノレのベースライ

ンとなる気候や作物の生育条件などの年度間差の

影響を受け易いため,年度当初に既知の試料を

10~20点用いて,適合性のチェックを行い,必要

があればバイアスの補正を行う。

6)粗飼料における飼料成分の分析精度

NIRSによる粗飼料の成分分析における分析精

度の例を表 2に示した。各種飼料とも CPは,非

常に高い精度が得られ,化学分析と同等の値が得

られている。粗飼料では,水分,粗繊維(CF),中

性デタージェント繊維(NDF),酸性デタージェン

ト繊維(ADF),酵素分析法の細胞壁物質(OCW),

低消化性繊維(Ob)および酵素分析法の細胞内容

物(OCC)も高い分析精度が得られている。 トウモ

ロコシサイレージにおけるデンプンも良い結果を

示している。 ミネラノレ成分は,無機物であり水素

原子などに関わる振動を持たないため, NIRSで

直接,推定できないが,糖類などの他成分との相

聞から求めることができ,母集団を限定した場合

に高い精度が得られるといわれる。

この他,ソノレガムサイレージ,わら類(稲わらや

アンモニア処理稲わら),製造粕類(豆腐粕,ビー

ル粕,葡萄酒粕),飼料イネ,食品残澄,単味飼料,

配合飼料なども NIRSによる分析が行われている。

飼料成分の一般成分や繊維成分以外の成分にも利

用されている。

飼料の栄養価を知るうえで重要になる人工消化

試験および動物消化試験による可消化率および可

消化量についても直接, NBIRSで推定が可能で

あり(図 1),その報告もが多く見受けられる。

その他,サイレージの発酵品質を評価する pH,ア

ンモニア態窒素,乳酸,有機酸などの推定も可能

とされている。

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近赤外推定値(%)

図 l 乾草における invivo TDN値と近赤外推定値との関係

35 45

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616 畜産の研究第69巻 第7号(2 0 1 5年)

7)分析精度に及ぼす誤差要因

試料側の要因により分析精度に影響を及ぼすも

のとして,第一に粉砕粒度が挙げられる。飼料の

種類によって平均粒度および粒度分布に大きな差

を生ずることがあり,粒度の物理的な差異が影響

することが報告されている。温度もまた分析精度

に影響するといわれる。飼料の色調は近赤外領域

の光に影響を及ぼさないとされているが,色素自

身も近赤外領域で吸収を持つため検量線と異なる

色彩の試料に適用するのは問題がある。このよう

に近赤外分析法の分析精度は,種々の要因により

影響されるが,現時点では,試料を測定容器に詰

める方法を一律化し,粉砕器の調整維持,測定環

境の保持などにより,その影響を最小限にとどめ

ることが適切な方法とされている。

8)検量線の移設

検量線は個々の機器が持つ機械的誤差,光源の

光度差などにより作成した機器のみでしか使用で

きない。しかし,これらの誤差は機器間にある一

律の定数,いわゆるバイアス補正することにより,

元の検量線と同程度の精度を維持して使用可能と

なる(表 2)。移設には飼料種類を問わない 10~20

点程度の試料(基準化試料)のスベクトルを検量線

作成した機器(較正済機器)と移設する機器(未較

正機器)でそれぞれ測定するだけで済み,しかも

化学分析の必要もないため,短時間に検量線を得

ることができる。この場合,基準化試料の分析値

表 3 元の検量線と移設検量線との相関

乾草トウモロコシサイレージ

Se r Se

水分 0.985 0.38

粗蛋白質 0.999 0.30 0.964 0.33

粗脂肪 0.998 0.09 0.984 0.13

粗繊維 0.998 0.55 0.966 0.93

粗灰分 0.990 0.31

occ 0.996 1.07 0.997 0.82

ocw 0.999 0.77 0.997 0.72

Oa 0.952 1.22

Ob 0.998 1.28 0.994 0.76

ADF 0.987 1.56 0.997 0.45

デンプン 0.860 0.50

(甘利ら)

を目的変数 Y,移設した検量線による推定値を X

として検量線の傾きと切片を補正することにより

移設できるとされていることから, Y値には,較

正済機器で推定した NIRS値を入力する。

9)より簡易な分析

NIRSによる飼料の成分分析では,前処理とし

て試料を微粉砕する必要があり,微粉砕のための

労力および時間はる飼料分析のかなりの部分を占

める。そこでより簡易にかつ迅速に分析するため,

無粉砕試料による飼料成分の分析法が可能となっ

ている。

対象飼料は国内産および輸入乾草や飼料用玄米

であり,飼料成分は微粉砕試料と同様の成分で

ある。

乾草の例では近赤外分析計は FOSSNIRSystems

社 6500型を用い,高水分測定用セル(試料充填部

の大きさは lOmm×203mm×35m)を用い,反射ス

ベクトノレを測定した。セルへの試料の充填は, 5cm

程度に切断した牧乾草をセル中に試料の間隙が少

なくなるようにできるだけ多くの量を詰める。こ

のときの牧乾草の重量は飼料種類によって異なる

が原物重で 10~20g(ベレットは約 50g)である。ス

ベクトノレは 1試料について試料を詰め替えて,少

なくとも 3回反復以上の測定を行う。これらのス

ペクトノレを平均化処理したスベクトルから検量線

を作成する。

無粉砕乾草により作成した検量線について検定

用試料を用いた成分推定では, CP,OCW, OCC,

NDFは化学分析値と近赤外推定値との相関係数

Cr)および SEPは r=O.95~0. 98, SEP=l. 61~2.97

の範囲にあり高い推定精度を示した。これらの成

分では,フォレージテストを目的とした飼料分析

法として十分に利用可能であり,水分, ADFは,

上記成分と比較して精度は劣るものの実用的な場

面では利用できる可能性があると考えられる。

参考資料

岩本陸夫ら,近赤外分光法入門, 1994Official Methods of Analysis of AOAC International 2000 B. G. Osborneら,NearIn丘町edSpectroscopy in Food Analysis 1986 甘利雅拡ら,三丁版粗飼料の品質評価ノ、ンドブック 2009